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「よい地域」であるための7つの条件

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 2009年8月、劇的な政権交代がおきた。新政権がどんな地域政策を展開していくのか引き続き見守っていきたいが、しかし、どんな政権になろうと地域の明日をつくるのはそこに生き暮らす人びとであることに変わりはない。人びとは政治や行政まかせにならず、地域を再生するひとりの当事者になれるだろうか。そのためにも再生すべき「地域」とは何か、をあらためて問うておきたい。

 これまでも「地域活性化」など、地域という概念は、エリア、マーケット、コミュニティなど恣意的概念でとらえられてきた。ゆるがぬ「地域」とは何か。私はそれを「家族が集まって暮らす具体の場」だととらえたい。当然ながら家族はそれぞれに希望や願い、悩みや課題を抱えて日々を生きている。そしてその願いや悩みを実現、解決したいと努力を続けている。だが個人や家族の力だけでは実現、解決できないことも多く、ときに孤立感を深めるかもしれない。そのテーマを、ともに暮らすほかの家族と力を合わせ、実践の道を歩むことが地域づくりではないのか。私はその原点を日本の「村」に求めたい。

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 今から140年前の明治元年、3000万人余の日本人の9割は村に住んでいた。村の平均規模は戸数60〜70戸、人口370人前後。そんな村が明治21年にはなんと7万1314もあった。いわば近代日本は小さな村の集まりから始まった。それが明治・昭和・平成の合併で1700余の市町村に統合されたが、それはうわべのことで、原型として村は戸数・人口ともに減少したとはいえ、その95%以上が生き残っている。140年を経て、なお持続可能な村とは何か。村を村たらしめた力とは何か。それを問わずにお手軽な統計数値で、人が生きる暮らしの器としての地域や集落を判断してはならない。私はこの15年、東北を中心に600か所の小さな村を訪ね、その土地を懸命に生きてきた人びとに、村を生きるための大切なもの、「よい地域」であるための要件を教えてもらってきた。人びとが示す「よい地域」であるための7つの条件とは何か。

1、よい仕事の場をつくること。
2、よい居住環境を整えること。
3、よい文化をつくり共有すること。
4、よい学びの場をつくること。
5、よい仲間がいること。
6、よい自然と風土を大切にすること。
7、よい行政があること。

 以上の7つのテーマを懸命に積み上げ、自分の村をよくしようと努力をしてきた。補足すれば以下のようなことである。

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1、は、生きる土台である食をまかなう農林漁業を安定したものにすること。しかし経済の工業化と猫の目農政にゆさぶられ、小さな営みの農業には逆風が吹き荒れた。しかし十数年前から農産物直売所という希望の拠点ができた。不況の時代に全国1万3000か所に開設され、売上げ1兆円になった。人びとはこの経験を生かし、月々3万〜5万円になるよい仕事の場を地域にたくさんつくりたいと張り切っている。

2、は文字どおり生涯を生きるための快適な居住環境整備。道路、下水道、学校などのインフラ整備。これは行政が巨大な公共事業で頑張ってくれたから、もうこれ以上必要はないと口々に言っていた。

3、の「よい文化をつくる」とは何か。人びとはそれを「ともに楽しむ場をつくること」だという。働くだけが人生ではない。村人みんなで楽しむ場。そこから祭りや芸能などの伝統文化が生まれた。これからの労働と楽しみとは何か。それが問われている。

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4、は地域で生きていくための知恵。身近な資源を生かすための技。企業社会にもぐり込むための学びではなく、地域社会をともに支えるための学びである。

5、は人びとがもっとも大切だと強調するもの。隣人、友人なくしてなんの地域ぞ。人はひとりでは生きられない。互いに支え合って、よい生活と人生を全うするものだ。

6、は人は自然とともに生きるもの、ということ。海、山、川、田、畑に生かされて、それを支える水と風と光と土を歪めずに、これからも生きていく土台を大切に。自然風土を軽んじてきて、なんの「グリーン・ニューディール」か。

7、の「よい行政」とは何か。それは脱官僚、天下り禁止にとどまるものではない。行政とはなんのために、誰のために存在するのか。それが問われている。行政がよくなれば地域や村はよくなるか----思い上がってはいけない。行政などなくても(それどころか収奪されながらも)、村は何百年も村であった。その力をこそ大切にしたい。「地元学」とは村人の力、地域の力を地域再生の最大の礎にするためになされるものだと信じたい。

 かつて地域再生に思いをめぐらす柳田國男は、よい地域を美しい村に置きかえてこう記した。

----美しい村などはじめからあったわけではない。美しく生きようとする村人がいて、村は美しくなったのである(『都市と農村』)。

 主体なき地域再生などありえない。相変わらずの画一的行政施策の押しつけではなく、地域の願いや悩み、それぞれの生き方を見すえ、地域の人びとに寄り添う行政でありたい。地元学的地域再生への思いである。

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ご理解・ご協力のほどよろしくお願いいたします。

その結果が若者が村を出て行く・・・エンドレスな課題ですね。

私の集落は、10年前までは56戸(世帯)でしたが、今は8戸増えました。農業振興指定があるために農地転用が難しく、空き地ができたときに分譲され、市街地からの転入者があったからです。
最小の共同組織が、家族であり、次が集落の単位といえます。
集落には、「まんぞう」(自治会費)があり、云わば税金です。
又、「えざらい」(用排水清掃)などの共同労役もあります。
寄り合いで、集落をよりよくするために協議しています。又税金を集落のために必要な費用に割り当て、どのように使ったか決算報告もしています。
仮に、日本経済が破綻し、ハイパーインフレが起こり、貨幣価値がなくなっても、集落内で力を結集すれば自活できるくらいの富(生産物)もあります。
ある意味恵まれている、その意識が集落を大切にしたい意識につながります。
愛することのできる地域が、よい地域でもあると思うのです。

「7つの条件」厳選された的確なものであると賛意を表します。

7,8年前でしょうか。
今も私の愛読書である「山に暮らす、海に生きる」との出会い。
はじめて読んだときの感動は、私の中で今も鮮やかです。
便利さ、安直さとは対極の、充実した生活。
地に足をつけて暮らす。なんと素敵なことだろう。
幸運にも地域で暮らせる人には、是非発信を続けていただきたい。
それはいまや地域住人の使命だと思います。

ただでさえ、地域は削られ、失われる方向性に向かっています。
しかしこの場が減れば減るほど、動物としての人間が不健康になり、不幸になることが予測できます。
個人レベルでも、社会・国家レベルでもです。
行き着く先は個人と社会の破綻です。

だから、地域に暮らすことの大切さ、すばらしさ、必要性を訴え続けていただきたい。
日々の生活に困難はあっても、トータルでプラスだし、またプラスだと思える人を減らさないように行政も協力しなければいけない。
地域からの発信こそが、人の考えの、そして日本社会のバランスの改善に不可欠だと考えます。

地元学が学問として根付いているこのごろですが 実際の地元学を体験したく 活動状況をお知らせ願えませんか。
参加できる 地元学がありましたら宜しくお願いします。

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Profile

結城登美雄(ゆうき・とみお)

-----<経歴>-----

1945年中国東北部(旧満州)生まれ。
民俗研究家。
仙台で広告会社経営に携わった後、東北各地を10年以上歩きながら、住民を主体にした地域づくりの手法「地元学」提唱する。
「食の文化祭」などの地域づくり活動で、1998年「NHK東北ふるさと賞」、2005年「芸術選奨芸術振興部門文部科学大臣賞」受賞。
「増刊現代農業」「グラフィケーション」など、雑誌や新聞を中心に農と地域づくりについて多数執筆中。
現在、宮城教育大学・東北大学大学院非常勤講師。

BookMarks

-----<著書>-----


『地元学からの出発―この土地を生きた人びとの声に耳を傾ける』
2009年11月、農山漁村文化協会


『東北を歩く―小さな村の希望を旅する』
2008年8月、新宿書房


『山に暮らす海に生きる―東北むら紀行』
1998年11月、無明舎出版

→ブック・こもんず←



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