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地域が「ぐずぐずと変わる」ための「地元学」

 自分が暮らす地域をよくしたいと思うのは、誰もが抱く願いのひとつだが、この国ではそれがなかなかうまくいかなかった。
 都市であれ地方であれ、そこに住む人びとがいつのまにかバラバラになっていて、地域づくりの役割を行政に丸投げしてしまっていて、そのクセから抜け出せないでいる。
 一方、住民から託された地域づくりの専従者である行政も、そこに暮らす人びとの声に耳を傾けることは少なく、有識者や霞が関などの暮らしの現場からもっとも遠い人びとの考えや思惑に支配され、画一的なものを押しつける結果になっているような気がする。

 私は近頃つくづく思うのだが、自分でそれをやろうとしない人間が考えた計画や事業は、たとえそれがどれほどまことしやかで立派に見えても、暮らしの現場を説得することはできないのではないか。そんな気がしている。そして反対に、たとえ考え方は未熟で計画は手落ちが多くても、そうしようと決めた人びとの行動には人を納得させるものがある。為そうとする人びとが為すのであって、そうしようと思わない人びとが何人徒党を組んでも、現実と現場は変わらないのではなかろうか。
 地域とはさまざまな思いや考え方、そして多様な生き方と喜怒哀楽を抱える人びとの集まりである。しかし誰もが心のどこかでわが暮らし、わが地域をよくしたいと思っている。だが、その思いや考えを出し合う場がほとんど失われてしまっているのも地域の現実である。
「地元学」とは、そうした異なる人びとの、それぞれの思いや考えを持ち寄る場をつくることを第一のテーマとする。理念の正当性を主張し、押しつけるのではなく、たとえわずらわしくとも、ぐずぐずとさまざまな人びとと考え方につき合うのである。暮らしの現場はいっきに変わることはない。ぐずぐずと変わっていくのである。

 地元学は理念や抽象の学ではない。地元の暮らしに寄り添う具体の学である。たとえば1999年に宮城県旧宮崎町で始まった「食の文化祭」。これは私なりに言えば「食の地元学」である。
 わが町にはほかに誇れるものは何もないと嘆き、「ないものねだり」の愚痴をこぼすより、暮らしの現場の足元の「あるもの探し」をしてみよう。たとえばふだん食べているわが家の食事。現代の食生活はその多くが「買う食事」ばかりだが、わが町にはスーパーもコンビニも食堂もない。多くの家庭は庭先で野菜を育て、季節になれば山野に出かけて山菜、きのこ、木の実を採集する。それを女性たちが家族を思って日々料理をつくり、食卓を飾る。むろん手づくりの保存加工品も充実している。そのせいか、わが町には食の安全安心を叫ぶ声も少ない。
 もしかしたら、この食生活、都会よりもぜいたくなのではあるまいか。いわば金だけに頼らぬ自前の食生活、自給の食。その値打ちをみんなで確かめることはできまいか。そんな呼びかけに応えて集まった家庭料理が1年目に800品、2年目は1300品、体育館いっぱいに並んだ。
 名づけて「食の文化祭」。足元のふだんのあたりまえの食事が、食と家族と地域の物語を豊かに語りかけてくる。名も知らぬ見知らぬ山間の町に1万人の人びとが押し寄せ、それぞれに食物を間において、楽しいおしゃべりの場が広がる。そしてあらためて思う、わが町の自然の豊かさ、自給の力。人と人の距離を近づける食の不思議な力。たとえ小さくても、みんなの力を持ち寄れば、食以外にも何かができるのではないか。地域が変わるのではないか。「食の文化祭」は、忘れかけていた地域力、住民力を取り戻す「食の地元学」である。

 そしてその輪は、地元の食の力を食育に広げた宮城県旧北上町の「食育の里づくり」や、食と器を総合化して、地元の多彩な仕事場づくりに歩を進めた山形県真室川町など、全国50地区で、それぞれの流儀で多彩に展開されている。

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ご理解・ご協力のほどよろしくお願いいたします。

結城登美雄氏へ
興味深く拝読いたしました。「地元学」、確かに行政にはできない、痒いところに手の届くことというのは地域住民が知恵を出し合って実行するしかないと思います。
 実は私4月から町内会の班長の順番が十数年ぶりに回ってきました。先日新旧班長会議に出席したのですが、会長・副会長などの執行部の皆さんがやる気満々で4年間色々と新しい試みをされていたことを知りました。
 そういえば、年末でもないのに夜回りが来るなと思っていたのですが、「親父連」という有志の会を立ち上げて、夜回りや小中学校の通学路の監視などを行っているそうです。警察にも交渉してパトカー巡回を増やしてもらっているとも言っていました。その他いろいろな新企画を4年間実行されたそうです。
 ところが、町内会の規定で執行部は2期4年までで、現執行部は今季限りで交代です。しかるに、後任が全く決まらないようです。現執行部のように活発にはようせんというのが理由のようです。
 班長に限っても、私のように働いているものにとっては、回覧板回しと町内会費の集金くらいで勘弁してもらわないと、しんどいです。他の町内会では班長が回ってきたら町内会を脱会する方もいるとか聞きました。
 地域主権ということが盛んに言われますが、現役世代にできることは限られています。これこそ引退した方々の力が必要なのではと痛感した班長会議でした。

「地産地消」は、お上に頼らない、地元のことは地元での運動のひとつでないかと思います。
その中、地元の力をいかに引き出すのか、足元にあるが故見えない力を探す、そのコーディネータの力が地元には、少ない。

大きな変化を嫌い、「ぐずぐず」としていたことが、逆に失わないでいたことでもある気がします。

これから、益々地元がこれからどう生きていくのか。
それが問われている。
それを決めるのは、其処に住む住民です。
けれど、地元だけでは生きてゆけない、中央とどの様に関わっていくのかも問われています。


<都会から見た地域力>
結城登美雄様、大変楽しく読ませて頂きました。豊かな地元食材による食の文化祭、うらやましい限りです。
さて、私は都内在住ですが、知人のコピーライターが、彼の地元である東北地方の有名漁港を有する市から、商品開発の依頼を受け、苦戦した話を思い出しました。
都会には、お洒落な商品やパッケージが氾濫しています。彼は地元で水揚げされる魚介類を使ったお土産や通販商品を、できるだけ無骨に、手作り感いっぱいの商品が都会においては、需要があると踏みました。例えば、雲丹の瓶詰めなら、牛乳瓶にラベルは、手書き文字で・・・etc。
ところが、地元は納得しない、もっとセンス良く、洋風になどと言われ、まったく噛み合わなかったそうです。
都会の贅沢とは、こ洒落たものではなく、自然の恵みをそのままダイレクトに身体に取り込んだり、地元のお婆ちゃんの手作り商品を食べる事が何より贅沢なのです。
その点、食の文化祭はとても贅沢なのです。
できれば次回は、お写真などでご紹介頂けるとうれしい。お待ちしています。

結城登美男様

地元学からの出発を拝読してから3年の歳月が過ぎました。
厳しい農業経営の最中、これからどうしたらよいかと戸惑う日々を送っていた時期でもありました。そんな私たちに希望を与えてくれた大切な本に出会えて今の私たちが楽しい農業人生を送れえるようになりました。

福島は昨年の東日本大震災、原発による放射能汚染と農業を取り巻く厳しい状況は今も続いていますが、そんな中でも夢を持っていると前を向いて歩めている事ができます。
周りの人から何でそんなに元気でいられるのと不思議がられていますが・・・
すべての出発点は{地域再生 地元学からの出発}をよんでからです。

本当にこの本に出会えてよかった。
この本を紹介してくれた、<2009年度緑のふるさと協力隊員、細川美那子さんに感謝の気持ちでいっぱいです。

結城様へはいつもお便りしたいと思いつついまになってしまいましたが、お体も順調に回復されたと知り安堵しております。益々のご健勝とご活躍をお祈りしております。


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Profile

結城登美雄(ゆうき・とみお)

-----<経歴>-----

1945年中国東北部(旧満州)生まれ。
民俗研究家。
仙台で広告会社経営に携わった後、東北各地を10年以上歩きながら、住民を主体にした地域づくりの手法「地元学」提唱する。
「食の文化祭」などの地域づくり活動で、1998年「NHK東北ふるさと賞」、2005年「芸術選奨芸術振興部門文部科学大臣賞」受賞。
「増刊現代農業」「グラフィケーション」など、雑誌や新聞を中心に農と地域づくりについて多数執筆中。
現在、宮城教育大学・東北大学大学院非常勤講師。

BookMarks

-----<著書>-----


『地元学からの出発―この土地を生きた人びとの声に耳を傾ける』
2009年11月、農山漁村文化協会


『東北を歩く―小さな村の希望を旅する』
2008年8月、新宿書房


『山に暮らす海に生きる―東北むら紀行』
1998年11月、無明舎出版

→ブック・こもんず←



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