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2009年8月29日

民主300議席の恐怖

 待ちに待った総選挙の投開票が明日に迫った。どの政党が勝っても今回は、政治家が有権者の「怖さ」を嫌というほど思い知る選挙になるだろう。これは自民も民主もどちらも同じだ。先週、朝日新聞が「民主、300議席うかがう勢い」と報じたのを皮切りに新聞各紙がいっせいに「民主300超え」の情勢調査を伝えた。政治記者や評論家の多くは、この時期の調査発表はアナウンスメント効果を呼び、より戻しが起きる可能性もあると指摘したが、中盤から終盤に至っても民主党優位に衰えは見られなかった。各社の生データや漏れてくる期日前出口の数字を聞くと怖いほどだ。もちろん、世論調査の数字と実際の投票行動には当然開きがあって現実の議席数は明日の投開票を待たねばならない。

 それにしても、なぜここまで世論の差が開いてしまったのか。端的に言えば、自民に対する「不満」が民主に対する「不安」をまったく問題にしないほど、とてつもなく大きくなっていたということだ。なぜなら、有権者のほとんどが、民主党政権に期待をしていないことが、やはり世論調査によって明らかになっているからだ。朝日新聞の調査によれば、政権交代で日本の政治が「よい方向へ向かう」と思う人は24%に過ぎず、「変わらない」と思う人が56%もいた。民主党の政策の目玉である高速道路の無料化は67%が「評価しない」、財源については83%が「不安を感じる」と答えている。

 つまり、「民主300超え」の民意の正体は、民主党に対する「期待」ではなく自民党に対する「怒り」であり、結局、選挙でテキトーなことを言って、政権を取った途端に気ままな政治をすればどうなるか、という話なのだ。

 4年前、自民党は小泉純一郎首相の郵政選挙で「郵政民営化すれば日本はよくなる」と言って圧倒的な議席を得た。郵政は民営化されたが、地方経済は疲弊し「格差」が生まれた。低所得の非正規雇用労働者が増え、企業や株主は儲かっていながら国民生活は一向によくならないという社会が出現した。治安は悪化し、「相手は誰でもよかった」殺人が注目された。秋葉原無差別殺傷事件も土浦の通り魔事件も、岡山の突き落とし殺人も、この種の事件の背景には必ずといっていいほど雇用問題が控えていた。そしてこの間、首相が3回も変わって、肝心の郵政民営化も「かんぽの宿」問題に象徴されるような〝黒い思惑〟が露呈した。小泉元首相から数えて〝4代目〟の麻生太郎現首相に至っては、国会で「私は郵政民営化には反対だった」とまで言い出す始末だ。

 選挙を控え、新聞は各党のマニフェスト比較に力を入れていたが、こうした過去に対する査定・評価にはあまり熱心でなかったような気がする。週刊朝日では自公連立10年で日本経済がどうなったかを数字で示した。以下、その一部を紹介すると――。

 10年前、自自公連立政権がスタートした日に1万7784円だった日経平均株価は麻生太郎首相が「解散宣言」をした7月14日の前日の終値9050円と約半分にまで値下がりした。これによって東京証券取引所の時価総額も99年10月末の411兆5000億円が、今年7月末時点ではマザーズ市場を加えても317兆524億円に減少し、10年で約94兆円の時価総額が吹っ飛んだ計算になる。
 国の借金である公債金は10年前の小渕政権下で当時過去最高の38兆6160億円を記録し放漫財政の批判を浴びたが、その後も膨らみ続け、麻生政権の現在までに44兆1130億円と5兆4970億円も増えた。さらに、国と地方の長期債務残高は、99年度末で600兆円だったものが09年度末には816兆円と、この10年で216兆円、対国民総生産(GDP)比で168%にも膨らんでいる。
 これだけの借金を抱えて経済がよくなったのかといえば、00年度の名目GDP504兆円から08年度名目GDP497兆円と約7兆円減り、完全失業率は4.6%から5.7%(過去最悪)へと上昇した。世帯年間平均所得は69.8万円少なくなり、家計貯蓄率は6.7ポイント減少、生活保護受給世帯数は約45万世帯も増えている。

 こうした数字を把握していなくても、国民は生活がまるで良くなっていないことを実感している。もちろん、すべてが政治のせいばかりではないだろうが、新聞の調査で世論にあそこまで差がついてしまったのは、結局、こうしたことへの対応が評価されていないということだ。要は自民か民主かの選択ではなく「自民党以外なら何でもいい」ということなのだ。これではいくら選挙中に頑張っても挽回は無理だ。しかし、これまで自分たちがやってきたことの結果だから、受け入れるしかないのである。

 逆にいえば、今回の選挙で自民と民主の差が開けば開くほど、それは民主にとっても恐怖となる。なぜなら4年後、こんどは民主党が今回の自民党のように、有権者から「査定・評価」を受ける立場になるからだ。高速道路の無料化や子育て手当など、民主党が掲げる政策はどれも生活者にとってはありがたいものばかりだ。しかし、自民党が批判するように財源や実現可能性が疑わしい。もし、選挙であれだけ大々的に宣伝しておきながら、実現できなかったらどうなるか?財源がなく赤字国債を発行したり、消費税値上げを言いだしたらどうなるか?

 簡単だ。こんどは民主党が有権者の1票によって政権から引きずり降ろされることになるだけだ。もちろん、国民から評価される政治ができればその限りではない。選ばれる政治家も有権者も、こんどの選挙で初めて「1票のすごさ」を知ることになるだろう。もし民主党が世論調査の結果のように勝っても、そのことを忘れないほうがいい。
 そして私たち有権者も、そのことに対する覚悟と責任を持って、投票に臨みたい。棄権などもってのほかだ。

2009年8月 3日

マーケットは一足早く政権交代

 株式市場は世の中の動きを先取りするといわれている。
 日経平均株価は麻生太郎首相の「衆議院解散宣言」のあった7月13日から連日、上昇に次ぐ上昇を続けている。グラフにするとビックリするほど、まさに「V字回復」といった感じだ。

 これは自民党の経済対策が効いてきた結果というのは間違いで、政権交代に対する期待と見るほうが正しい。経済専門家の多くは、民主党政権誕生で景気が劇的によくなることはないが、中長期的にはGDPも成長に転じるだろうと指摘している。政権交代によって日本経済が上向く可能性が高いということのようだ。

 証券各社は早くも「推奨民主党銘柄」を書いた投資家向けリポートを出し始めた。先週発売の週刊朝日ではメリルリンチ社のリポートの中身を紹介したが、今週号でも専門家5人に注目銘柄を聞いている。民主党が打ち出す政策によって、恩恵を受ける会社とそうでない会社がかなりハッキリしてきたことが株価に影響を与えているというのだ。

 民主党の政策をやや乱暴だが、わかりやすく一言で表現すると、「困っている人には『福祉』で手をさしのべて、一方で『財源』として富裕層や大企業からたくさん税金を取る」(堀紘一@週刊朝日8月14日号)ということのようだ。

 目玉のひとつが出産・子育てに対する支援だ。これは明確な方針を打ち出している。出産時に支給される一時金の大幅増額に始まり、中学卒業まで子どもひとりあたり月額2万6000円、さらに、公立・私立を問わず、高校生には年額12万円を一律支給し、教育格差をなくそうという。まさに「子は国の宝」という政策だ。

 これによって、子育て家庭の可処分所得が一気に増える。中学生以下の子どもが2人いれば年間62万円になる。ある外国人投資家が欧州系証券会社幹部に向かって、「この金額なら、本当に出生率が上がりそうじゃないか。これを評価しないなんて、日本人はなんて夢がないんだ」とあきれたほどだという(@週刊朝日8月14日号)。

 これを狙って、すでに教育・子ども関連企業の株価が値上がりしている。育児関連の西松屋チェーンやピジョン、玩具のタカラトミーなどがその典型だ。「しまじろう」のベネッセコーポレーションはいまのところ出遅れだが、今後に期待が持てるという。

 農家への個別所得補償はすべての農家が補助金の対象となるため、農業機械大手のクボタ、井関農機などもいい。温室効果ガスの排出削減では政府の2倍に相当する民主党の高い目標が買い材料になり、ハイブリット車に使うモーターやリチウムイオン電池の関連メーカーが注目を集める。

 さらにわかりやすいのが、高速道路の無料化だ。民主党の政策では、自民党がやっている「休日のみ」「ETC使用の乗用車」といった区別なく、すべての車がタダになる。ガソリン税の暫定税率廃止(実質的な燃料の値下げ)と相まって運輸・流通業界は相当な恩恵を受けることになるだろう。日本通運、ヤマト運輸といった銘柄だ。車関連企業としてカー用品のイエローハットなど、今月に入ってから株価が5割以上も上がった。

 逆に、高速道路と競合関係にあるJR各社や全日空、JALなどは値下げ基調だ。
手厚い補償の裏には、当然、財源確保のために削られる事業がある。民主党は「行政の無駄をなくす」と公言しており、中央官庁のシステムを多く手掛けるNTTデータやNECには懸念材料となる。さらに「ハコモノ」公共事業はもっともやり玉にあげられる可能性が高く、建設会社、ゼネコン、橋梁関連会社などは冬の時代を迎えそうだ。

「民主党政権でマネーはこう動く」の詳細は今週の週刊朝日を見ていただきたが、いずれにしても、マーケットでは一足早く政権交代が進んでいるようなのだ。

Profile

山口一臣(やまぐち・かずおみ)

-----<経歴>-----

1961年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒。ゴルフダイジェスト社勤務を経て、89年朝日新聞社入社。高校時代から愛読していた『朝日ジャーナル』編集部に配属され、あこがれの「ファディッシュ考現学」(田中康夫)を担当するも3年で休刊の憂き目に。『週刊朝日』へ異動し、事件&事件の日々を送る。その後、何を血迷ったのか広島の公教育問題で日教組を徹底批判し、「朝日なのに産経と論調が同じ」と物議をかもす。9.11テロ直後のニューヨーク、パキスタンを取材。米軍によるアフガニスタン市民への誤爆を伝えまくる。デスク時代に北朝鮮拉致被害者関連の記事で下手を打ち、『週刊文春』に叩かれ、副編集長を解任、更迭される(停職10日の処分付き)。その後、広報部へ配属されるが約半年でお払い箱。百科編集部で子ども向け週刊科学誌『かがくる』の創刊などに携わり、05年5月から再び副編集長、同年11月から、『週刊朝日』第41代編集長に。85年にわたる『週刊朝日』の歴史で中途採用者が編集長になるのは、これが初めて。

-----<出演>-----

『スーパーモーニング』
(テレビ朝日系、8:00~)

『愛川欽也 パックインジャーナル』
(朝日ニュースター、毎月第1土曜)

『大竹まこと ゴールデンラジオ』
(文化放送、毎週火曜・5月8日から)

『週刊朝日編集長登場』
(asahi.ポッドキャスト)

BookMarks

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