週刊新潮「朝日『阪神支局襲撃犯』手記」への疑問
週刊新潮jの超特大スクープが話題になっている。
先週1月29日発売の週刊新潮2月5日号で、「【実名告白手記】島村征憲 私は朝日新聞『阪神支局』を襲撃した」とぶち上げた記事だ。
この見出しは社内吊広告の半分を占めるほどの気合の入れようだ。
いうまでもなく、1987年5月に起きたこの事件は、言論・報道に携わる者にとっては決して忘れてはいけない出来事だ。
とくに事件の当事者であり被害者でもある朝日新聞に勤める人間にとって、真相究明への願いは絶対に消えない。
それだけに、もし、週刊新潮の記事が真実なら、世紀の大スクープだ。
しかし、連載の第1回目が掲載された後の業界内の関心事は、もっぱら記事の信ぴょう性、
つまり、この人物が本当に犯人か、という点に集まっている。
はたして、犯人は本物なのか?
たとえば、先週土曜日掲載の産経新聞「花田紀凱の週刊誌ウォッチング」では、「今号のみで島村が犯人か否か、軽々に判断できない」と書かれている。
私と親しい新潮社関係者の話では、「週刊新潮編集部は1年以上かけて裏取りをした。記事には自信がある」と言い、1回目は隔靴掻痒だが、2回目以降は核心に迫る予定だという。
手記は3回にわたって掲載される予定で、週刊新潮は、このスクープのために数万部の増刷をしたという。
先週掲載された1回目は、告白の動機などが書かれているが、手記の信ぴょう性がどう立証されたのかがあまり触れられていない。
2回目以降の展開については、脅迫文を大物右翼が書いたという以外は、前出の親しい関係者もさすがに教えてくれなかった。
業界関係者の間では、「犯人は『外国の諜報機関から依頼された』というトンデモ話になるらしい」とか、「『朝日新聞社ではなく記者個人が狙われた』と、これまでの捜査とは違った展開になるようだ」といった未確認情報が飛び交っている。
事件当事者の朝日新聞は、週刊新潮発売当日の夕刊に、「実行犯を名乗る男が週刊新潮に手記、事実と食い違い朝日新聞阪神支局事件」というタイトルの記事を掲載し、やんわりと週刊新潮の記事の信ぴょう性に疑問を投げかけた。
実は私のところにも、業界仲間から多数の問い合わせが殺到している。
だが、事件は私の入社2年前の出来事であり、正直にいえば、判断する材料を持ち合わせていない。
ただ、記事を読んで素朴に疑問に思ったことはある。
犯人と称する男は、刑務所の中から手紙で記者とやりとりを始めたという点だ。
手紙は当然、検閲を受けるから、この情報は捜査当局へも伝わっているはずである。
事件はすでに時効になっているが、捜査機関はたとえ時効になっても、容疑者が特定できれば事件処理しなければならない。
現段階で私の知る限り、当局がこの件で動いた形跡はない。
また、かつて週刊朝日にも時効になった殺人犯が告白を寄せたことがあった。
時効になっても事件が忘れられず、眠れない夜が続いたという。
告白を受けた記者は、犯人に自首を促し警察に出頭させた。
手記は、そうした手続きを経て掲載された。
捜査の結果、告白者が真犯人と断定され、新聞にも大きく取り上げられた。
週刊新潮の手記の人物がもし真犯人なら、こうした手続きを踏んでおけば、「真贋論争」など起きなかったのに、と思う。
みなさんは、どう思われるか。