毎日新聞が「幻のレンブラントが大阪で見つかる」と報じた「世界的スクープ」が実はでたらめだったという記事を週刊朝日に載せました。
すると、毎日新聞から激烈抗議文が届いた、という話の続きです。
そんなわけで、私たちの取材によれば、まず、毎日新聞が「所蔵者」としていた大阪の「会社社長」は、実は本当の絵の持ち主ではなく、実際の所有者である九州の会社経営者から、一時的に預かっただけのものだということがわかりました。
つまり、毎日新聞の記事にあった、
<父親のコレクションを整理していて偶然見つけ……>
という部分はまったくのウソだったわけです。
しかも「会社社長」は、あの悪名高き豊田商事の残党で、毎日新聞のデータベースを引くと、手形詐欺事件にかかわり逮捕・起訴された過去も出てくるしまつ。
そんな人の言い分をそのまま記事にしてしまったわけです。
しかも、この「会社社長」は問題の記事が掲載された毎日新聞を大量に購入し、「幻のレンブラント」販売の販促ツールに使っていました。
果たして、これはいかがなものか?
というのが週刊朝日7月20日号の記事の趣旨でした。
これに対して、毎日新聞大阪本社の社会部長さんから、「貴誌7月20日号における広告で、『毎日新聞 幻のレンブラントのでたらめ報道』との見出しにつき、強く抗議するとともに、訂正を求めます」との抗議文を受け取りました。
毎日新聞の主張は、「本件記事は、油彩画修復の第一人者である黒江光彦氏が鑑定した絵がレンブラントの『黄金の兜の男』の可能性が高い、ということが根幹で、主要部分であります」として、その「記事の根幹は何ら揺らいでいません」というもので、にもかかわらず、「でたらめ報道」としたのは、「毎日新聞の名誉を著しく傷つけ、決して容認できるものではありません」ということで、直ちに謝罪訂正しないと、法的措置を取ることを通告するというものでした。
抗議文は慣れっこ(爆)ですが、通常、この種の文書では、「法的措置も検討する」と書くのふつうです。
「法的措置を執ることを通告する」というのは、もはや話し合いの余地なし、謝らなければ訴えるぞ、という厳しいものです。
天下の毎日新聞がここまで言うのだから、こちらにも落ち度がなかったか検証したのですが、週刊朝日の取材には間違いがありませんでした。
そこで、
<記事には自信をもっています。広告の見出しも問題ないと考えています。週刊朝日編集長 山口一臣>
というコメントを出しました。
週刊朝日の見解は以下のとおりです。
抗議文では、毎日新聞の記事の根幹は「レンブラントの真作の可能性が極めて高いという事実が記事の根幹・主要部分」であり、本誌記事でも黒江光彦氏が「95%、その可能性があります」とコメントしたことをもって、「記事の根幹は何ら揺らいでいません」と主張されていますが、本誌はそう考えていません。
本誌は今回の取材に関して、誌面で掲載しただけでなく、研究者など何人もの美術専門家に話を聞きました。ある人は次のように言いました。「レンブラントクラスの絵になると、常識的には、鑑定などせず、意見を言うだけ。レンブラント調査委員会か、その委員に送り、検討してもらい、さらに実物を持っていって真作である根拠を確認しあうのが普通です。また、その際には、入手経路が重要な意味を持つと思います」。レンブラントのような著名な画家の真作の発見の可能性というのは、来歴を含めてきわめて慎重に判断すべき事柄であるということであり、事実、毎日新聞が「幻のレンブラント」を所蔵しているとした「会社社長」の記者会見を受けても、いくつかのメディアは「黄金の兜の男」についての発表を報じておりません。ある研究者は、次のように語ります。「レンブラントクラスの絵となると、まともな人は鑑定などせず、意見を言うだけ。常識的には、レンブラント調査委員会か、その委員に送り、検討してもらい、さらに実物を持っていって真作である根拠を確認しあうのが普通です。また、その際には、入手経路が重要な意味を持つと思います」。同様の趣旨の意見はほかにも複数の研究者から聞きました。実際に、毎日新聞が「幻のレンブラント」を所蔵しているとした「会社社長」の会見を受けても、いくつかのメディアは「黄金の兜の男」についての発表を報じませんでした。
全国紙である毎日新聞が1面で扱うのですから、その影響力は大きく、絵の価値を飛躍的に上昇させかねないことを考えると、報道には十分な取材、調査などが必須であり、客観的な裏付けも必要だったと考えます。しかし、絵の真贋に重要な意味をもつ絵の入手経路などを考えると、十分な取材、調査などが必須であったと考えます。しかし、絵の真贋に重要な意味をもつ絵の入手経路について、毎日新聞の記事は十分に裏付け取材したものとは思えませんでした。
記事には、この「会社社長」が<亡くなった父親のコレクションを整理していて偶然見つけ>と、ありますが、本誌の取材には「父の遺品とは言っていない」と話すなど証言の内容が首尾一貫しておらず、いい加減であることが明らかでした。また、記事には、<所蔵者の了解を得て、オランダ「レンブラント調査委員会」で評価を受けたいとしている><「レンブラント調査委員会」に評価を依頼できるレベルの作品が見つかること自体珍しい>とありますが、「会社社長」は本誌の取材には「調査を依頼するつもりはない。そんなコストをかけて、もし真作でないことがわかったら大変だ」と話すなど証言の内容が首尾一貫しておらず、いい加減であることが明らかでした。本誌記事に書いたように、毎日新聞の記事検索で「会社社長」が過去に詐欺罪で起訴された記事も見られます。
毎日新聞の記事は、「会社社長」と鑑定人の黒江氏の証言を支えにしています。
しかし「会社社長」は、毎日新聞の記事には〈亡くなった父親のコレクションを整理していて偶然見つけ〉とあるのに、本誌の取材には「父の遺品とは言っていない」と話すなど、証言の内容が首尾一貫しておらず、いい加減さがあることが明らかでした。毎日新聞の記事で「会社社長」を「所有者」とせずあえて「所蔵者」と表現していることから、記者も「会社社長」の証言について疑義を抱いていた可能性が推察できます。また、「幻のレンブラント」を報じた毎日新聞の記事が、「会社社長」が絵を売るための宣伝材料のように使われていたのは、本誌が指摘したとおりです。
鑑定人の黒江氏については、絵の本当の所有者と「会社社長」をつなぐ動きをするなど、客観的な鑑定人としての中立性を疑わせる行動がありました。真作の可能性が高いという根拠となっている「ペンティメント」も、黒江氏ではなく、「会社社長」が見つけたと「会社社長」自身が話していました。います。また、黒江氏は「会社社長」から住宅の面倒をみてもらうなどの関係にもありました。
毎日新聞には、〈所蔵者の了解を得て、オランダ「レンブラント調査委員会」で評価を受けたいとしている〉〈「レンブラント調査委員会」に評価を依頼できるレベルの作品が見つかること自体珍しい〉とありますが、黒江氏は本誌の取材には「調査を依頼するつもりはない。コストをかけて、ペンティメントではないと言われたらどうしようということになった」と話しました。さらには、絵の所有者について「毎日新聞は嘘をつかれたといいますか、取材が徹底していないといいますか……」とさえ話しています。
また、「幻のレンブラント」を報じた毎日新聞の記事が、「会社社長」が絵を売るための宣伝ように使われていたのは、本誌が指摘したとおりです。さらに、この絵の取引に関して、「会社社長」は鑑定人のスポンサーであるという関係にあった事実もあります。レンブラントの真作の発見となれば、毎日新聞が1面で報じるほどの影響力があり、絵の価値が飛躍的に上昇する大きなできごとであることを考えれば、鑑定人と「所蔵者」という人物の言い分だけではなく、客観的な第三者の意見を聞くなど、十分な裏付けがあってしかるべきだと考えました。毎日新聞紙面では、所蔵者が間違っていると本誌が指摘した後も記事の訂正などをしていません。
また、毎日新聞紙面では、所蔵者が間違っていると本誌が指摘した後も記事の訂正などをしていません。
これらのことを総合的に判断し、本誌は「でたらめ報道」という見出しをつけました。
※しかしまぁ、今回の毎日新聞のような思い込みというか、先走りは実は注意しないとありがちなこと。今後、毎日新聞が法的措置を取ってくるかどうかわかりませんが、もって他山の石にしたいと思います。