機密情報漏らした「親しい女性」
けさのニュースでいちばん興味を引いたのが、「読売記者に機密漏洩/防衛省、1等空佐を聴取」でした。
読売新聞が2005年5月に報じた、中国海軍の潜水艦が南シナ海で事故のために航行不能になったという記事に関して、自衛隊内の警察組織「警務隊」が、読売のネタ元と見られる防衛省情報本部の1等空佐を自衛隊法違反(機密漏洩)の容疑で事情聴取し、自宅のガサ入れをしていたという話です。
さてこのニュース、週刊誌的にはどう扱うか、いろいろ思案しながら会社に向いました。
単純に思いついたのが、「言論の自由の危機」という観点でした。
なぜなら、新聞記者が公務員から情報を聞き出そうというのは、ごくごく当然の行為で、それがいちいち取り締まられたら、たまったものではありません。
そもそも中国の潜水艦が事故を起こしたという情報の、いったいどこが機密なのか?
そんなもの、いずれ近くの船舶に発見され、秘密でも何でもなくなるというのが、専門家の見解です。
今回は、記者側は捜査対象になっていないようですが、こんなことが日常になったら「ネタ元側」が萎縮するのは目に見えています。
こうやって「知る権利」がどんどん侵されていくんだろうなぁ~。
なんて思いながら、各紙に目を通していると、さすが産経新聞。他紙には出ていない、こんな詳しい情報が。
〈警務隊では今年1月に1佐から事情を聴くとともに携帯電話などの提出を受けた。供述などにより、親しい女性を介して知り合い、読売新聞記者に情報を漏洩していたことが分かった。〉
むむむ、出たよ。「親しい女性」。
新聞が「親しい女性」と書くときは、愛人関係、つまり、セックス関係にある男女を指しています。
ついでに指摘しておくと、
「精液」→は→「体液」と、
「強姦」→は→「乱暴」と、
意味のない言い換えがよく行われます。
それはさておき、つまりこれは何かい?
読売の記者がオンナを使って、寝て(寝かせてか?)ネタを取ったんかい。
スワ美人局かハニートラップ、いまどきそんな強者記者が残っていたのか!!!
事態はたちまち週刊誌マターになり、さっそく取材班を編成して取材に当たらせました。
締め切りまで約36時間、十分だ。
取材開始当初、情報が錯綜するのはよくあることです。
「実は、記者というのは女性のようです……」
「ああ、そいつなら知ってる。俺が○○支局のとき読売にいた記者だ」
「そうすると、産経の記事は間違いなのか?」
「いや、やっぱり男の記者だ。間違いない」
記者が走り回っている間、ぼくは電車の中吊り広告に入れる見出しを考えます。
〈読売記者に機密情報漏らした「親しい女性」〉
う~ん、これはなかなか読みたくなるな。320円払っても。
「とにかくオンナの正体を徹底的に洗え!!」
ぼくは記者の尻を叩きました。
しかし、取材が進むにつれ、だんだん「?」マーク点灯し始めます。
デスク「編集長、ちょっとこれ、スジが違うようですぜ」
編集長「ええ、何言ってんだよ。もう見出しつけちゃったよ。これで行こうよ」
デ「ダメですよ、それ。恥かきますよぉ」
編「だって、だって、産経に書いてあるじゃん」
デ「だ・か・ら、それ、違うんですよ……」
まあ、これもよくある話。最初の目論みが外れるのは、編集部の日常です。
デ「その1等空佐とオンナがデキてるってのは事実みたいですが」
編「だろ、だろ」
デ「それと記事は関係ないんですよ」
編「なんでだよ。オンナと自衛官はデキてるんだろ」
デ「でも、記者は通常の取材でネタをつかんだだけで、オンナとは関係ないんです」
編「そ、そんなぁ。じゃあ、なんでこんなにデッカイ記事になってんだよ」
デ「そこですよ、そこ。ホントに面白いのは」
編「なに、なに。なに、もったいつけてんだよぉ」
デ「実はね、背景にあるのは、『庁』から『省』に昇格した防衛省と外務省の暗闘なんですよ」
編「えええええ、何それ。面白そうジャン」
てなわけで、いまそのデスクがつかんできた情報を元に、裏取り取材をしているところです。
取材の成果は、来週発売の週刊朝日をご覧ください。
(また、目論みがハズレるかもしれませんが……)
お楽しみに!