Calendar

2010年3月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

Recent Comments

« 「核密約」調査は大きな一歩前進だが
メイン
与野党を超え、タブーなき新たな外交・安保政策の確立を »

大統領生命を掛けた医療保険改革に一応の決着

米下院は21日夜、上院で可決し若干の修正を加えた「医療保険改革法案」を賛成219、反対212の賛成多数で可決、今週開催される上院での投票(Reconciliationを呼ばれる調停プロセス)を経て成立する見込みとなった。この医療制度改革は、米国政治100年の課題であり、1965年のメディケア(高齢者向け公的保険)及びメディケイド(低所得者向け公的保険)以来の大きな保険制度改革となる。しかし社会保障の根幹である医療制度の重要な政策決定に野党議員のみならず、民主党議員34名が反対に回った。念願の国民皆保険に近い制度改革という評価はできるものの、多くの人に祝福された新制度の誕生とはならず、国民の間にも亀裂を残すことになった。

若干、これまでの経過を振り返ってみよう。医療保険制度改革は、オバマ氏にとって大統領就任当初からの最重要内政課題であり、支持率が下がり続け中間選挙を控えたオバマ政権にとって、1年間も議論が続いているこの課題に対して何としてでも決着を付ける必要があった。しかし支持率が下がったのも、この医療保険制度改革が原因の一つなのである。そしてこの制度改革の行方に決定的な打撃を与えたのは、1月19日、民主党の牙城だったマサチューセッツ州の上院議員選挙で、この医療保険制度改革に反対した共和党候補者が当初の予想を覆して勝利したことであった。この時は、誰もが中間選挙前に医療保険制度改革の成立は難しいと考えた。そして直前の世論調査でも、この制度改革に対して「賛成」の36%よりも「反対」が48%と明らかに高く、国民からも嫌われていた法案だったのである。

普通であれば、ここはリスクを避け、一旦退いてこの法案の決着を先延ばしにすることも十分考えられた。しかしオバマ氏は、この問題に決着をつけられないような政権であれば、逆にこの中間選挙でボロ負けすると考えたのであった。ここが政治家としての勘所である。そして見過ごせないのが、この逆風を全く気にせず、下院では不人気の「上院案」を下院議員に飲み込ませたペローシ下院議長の手腕であった。もちろん中間選挙を控えた民主党議員も危機感を募らせ、マサチューセッツ州での敗北がむしろ議員間の結束をもたらしたことが背景にあったことは事実であるが。

これが日本であれば、どうだったであろう。米の「医療制度改革」のように、世論調査上は「子供手当て」が明らかに不人気であったとしたら、支持率が下がった鳩山政権が起死回生をかけて法案を強引に通したであろうか。ポイントは、世論調査という天の声をどう捉えるかである。確かに「法案反対」という世論調査結果は謙虚に受け止める必要はあるのだが、世論とは常に変動するものであり、選挙までの時間軸の中でそれに振り回されてはならないという考え方がある。まさにオバマ大統領はこの医療制度改革が米国民のためになるという信念を貫き通し、国民はその先頭に立って戦うオバマ氏のリーダーシップを高く評価するのがアメリカの政治文化なのかもしれない。むしろ今後の米世論は、一旦は不人気であった法案の成立を歓迎し、オバマ大統領への支持率は上がるかもしれない(事実、アフガニスタンへの米軍増派がそうであった)。オバマ氏は日頃から、本心かどうかは別として、「人気取りの政策はしない、国民のためになる政策を実施する。それが原因で一期だけの大統領になっても構わない」という趣旨の発言をしている。

また日本人にとって一番理解できないのは、先進国では常識である国民皆保険を経済大国のアメリカでは何故導入できなかったのかということである。米では国民の2割近く、4600万人とも言われる保険未加入者が放置されている。皮肉にもこれまでの医療保険制度の結果として、逆に保険未加入者は中間層の2割しかなく、8割の人にとって負担増となりかねない国民皆保険への政治的圧力は弱くなったという側面は否めない。しかし最大の理由は、アメリカでは伝統的に政府の関与を嫌う価値観が強く、医療保険は、他の先進国のように、すべての国民に適用されるべき社会保障制度、セーフティネットとして見なされていないことである(少なくともその度合いが低い)。つまり自らの健康維持は自らの責任において行うべきものであり、市場経済の一部である医療では、高額所得者が高度な治療を受ける権利があるのは当然であるという考え方である。しかしそのことで高度医療が進み、米国の医療費を押し上げている要因になっており、さらには高額医療が保険料の高騰を招いて保険未加入者の比率を高めている悪循環にもなっているのである。

いずれにせよ、今回の医療保険改革は大きな前進ではあるが、中身は妥協の産物であり、現行制度の拡充という見方もある。これで本当に国民の95%が医療保険でカバーされ、財政の負担も減るのか、全くの未知数である。ましてや、これでオバマ政権の政治的危機が遠ざかったというのは、もっと不確かなことかもしれない。オバマにとって、今後の最大の課題は経済回復と失業率の改善であり、茨の道は続く。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.the-journal.jp/mt/mt-tb.cgi/6761

コメント (10)

■コメント投稿について編集部からのお願い

《THE JOURNAL》では、今後もこのコミュニティーを維持・発展させていくため、コメント投稿にルールを設けています。はじめて投稿される方は、投稿の前に下記のリンクの内容を必ずご確認ください。

http://www.the-journal.jp/contents/info/2009/07/post_31.html

ご理解・ご協力のほどよろしくお願いいたします。

さあ、大変だ。
ここから、人気取りの始まりかな。人気取りに一番効くのは、「誰かをたたく事」。
中国かな。ロシアかな。
いやいや、日本が一番やりやすいでしょう。
シーシェパードもがんばってるし、普天間も5月までも少しだし、トヨタもあったっけ。

若林さん、どうしたらいいんでしょうね。
オバマの事を褒めているみたいですね。私は、あの方は詐欺師みたいな人だと思っているのだが。

そんなことよりワタシャ、アメリカとは少し距離をとっていくに越したことはないと思うけど。

元株やさんへ

コメントありがとうございます。
やはりわかりますか。少しオバマをほめていることが。

オバマは詐欺師?
もう少し彼の言動を見極めたいと思います。

「誰かをたたく事」は出てきそうですね。しかし日本は、もはや叩き甲斐も無いのでは。やはりイラン、アルカイーダ、タリバン、北朝鮮、そして軽く中国といったところでしょうか。

若林秀樹

オバマ、やってくれました!医療費は高いです。例えば、胸部のレントゲンをとるだけで、6万円-10万円の費用がかかります。勿論保険無しの場合。ところが、日本では保険が無くてもずっと安いのです。私が日本で手のレントゲンを撮ったとき、医者に診断してもらう費用も含めて、4千円ほどでした。保険無しでです。2万円くらいは、と考えていましたから、驚きました。若林さんが仰るとおり、アメリカの医療費はどんどん上がっています。私の周りに保険が無くなった、保険が買えない人が何人かいます。健康に気をつけて医者にかからないようにする他ありません。例えば、良い質の食品、環境を整えるとか。それができる人はいいですが、低所得者はそれもできない人がたくさんいるのです。オバマは今後どのようになろうと保険制度の改革で歴史に残るでしょう。

下記の金平氏のコラムの指摘の「日本とかぶる」が両者の投稿で強く感じています。
オバマ氏が「チェンジ」で登場した。当初、私は何をチェンジするのか曖昧なイメージしかなかった。
それが、ここにきて両者が目指すものは、これまでの既得権益の破壊でないかと思えるのです。
破壊と破激な表現ですが、小泉氏が唱えた「ぶっ壊す」にも繋がるとも思えます。
多くの糸がもつれにもつれて、身動きが取れない、その不満が政治の世界にも求められている。
その国民の声が、それぞれを支持しているのだと・・・。
歴史に「IF」は禁句ですが、リーマンショックがなければ、両者の今現在のあり様は変わっていたでしょう。
ようやく、その泥沼から抜け出しかかってきているのでないかと推察しています。
そういう意味で、今年こそが「チェンジ」の年になるのでないでしょうか?
私は、せっかちな性格でない故か、その変貌をのんびりと見守りたい。

若林さん
思いもかけないお返事、ありがとうございます。
もし、オバマが本物ならば、日本という国の重みを理解できる人ならいいなと思います。
ペリー以来の太平洋を挟んだ関係と、この65年の関係、これを冷静に読み解く事が出来る人ならば良いなと。
そんな人ならば、「たたく相手」を決めることより、余力が出来た今この時を「日米関係の修正」に向けるべきだと考えています。
新しい日本を理解しようとする事は、おそらく安保問題に踏み込むことになるでしょうし、日本各地にある米軍基地の問題へ行きつく事でしょう。
(基地の返還への道筋をたどるモノと私は考えます。第一弾は、普天間でしょう)

たたくことよりも、日米同盟の小沢流再構築こそが、中国に対する米国の利益そのものにつながるでしょうし、出口の見えない中東問題への燭光にもなりえると思います。

何よりもアメリカは、ファイナンスで苦心惨憺する時代に入ったことを踏まえれば、戦う事より融和する事を考えるべき場所にいると理解するのですが、過激な方々に囲まれ名誉欲の強そうな(これは私のイメージ)大統領が、新しい歩みを始められるものか・・・懐疑的です。

tattoshiさんへ

日本においても、アメリカ同様の根源的な問題が突きつけられています。医療においては、国民皆保険で自由診療を制限し、誰もが同じサービスが受けれるようにするのか、それとも、所得に応じてもっと自由に診療を受けられるようにするのか。

国民皆保険でも自由診療をもっと認めればいいという意見がありますが、それを安易に認めれば、国民皆保険のシステム自体が壊れかねないとも危惧します。

本田さん

この医療保険制度改革では、しばらく反対する勢力が大きな声をあげ続けることでしょう。つまり、既得権益を壊し、本当の改革だからこそ、激しい反対の声があがるのだと思います。短期的にすべての人に対してプラスになる改革など、改革とは呼べません。

本田さんのおっしゃる通り、今年はチャンジの年になるかもしれませんね。

若林様、
コメントありがとうございます。
日本の今後の保険システムを維持するには、もっと医療保険の範囲を広げるべきと思います。
日本にいる母の診療に付いて行った際、医者が「心不全です。こういうことで、病院に来てほしいんだよ。風邪だ、くしゃみだと言って来てほしくないんだよな。待合室にそんなのが一杯いるよ。薬だすから、うつらないように早く帰りなさいよ。」と言われました。保険は必要です、が日本の保険制度を今より向上させ、かつ高額にならないようにする為には教育です。
全面的に医者に頼る事を止めること。つまり、自分の事を知る教育する必要があります。風邪薬に保険をかける必要があるでしょうか。良い食事、環境の整備を教えてゆく事で、医療費は節約され、必要な人に十分な医療が施されるはずです。日本人は全体的にはアメリカよりずっとこの点については進んでいますから、これからアメリカが学ばねばならない事ですが。
不必要な手術、薬も無駄の元凶になっていると思います。例えば心不全の母の薬は数種類です。調べてみれば、素人からみても必要ないものも入っています。いわゆる薬でなくても、普通の「サプリメント」と呼ばれるもので十分目的が達成できるものも含まれています。又は、問題の解決とは相反する薬も入っています。それでも、薬を選ぶ事は出来ません。不必要な手術の話しはあり余る程あります。
もう一つは医者の教育です。医者は病理のみ学んでいるので、健康の事は知りません。そこが問題なのです。健康についてもっと学んでいれば、薬に頼らず、こういう食生活、こういう日常を目指しなさい、と言えるはずですが、全くありませんね。医者と生活指導者がチームになって患者を診るのはどうでしょうか。金持ちだけが特別医療をしてもらうより、こうして国民全体が健康になる方法を知る事で必要な人が必要な医療を得られると思います。
冒頭に言いました、保険の範囲を広げると言うのは、つまり代替医療をもっと認める事によって逆に全体的な費用節減が可能になると信じます。
以上の事はどちらの国にとっても考えるべき事と思っています。アメリカでは今回の保険制度で過激な反対デモ、破壊行為があります。少なくとも私からすれば、明らかに通すべき法律だと信じていますが。
医者から「あなたの保険はこれこれしかじかの検査が出来るので、やりましょう。」私「だったら、保険が無ければ出来ないってこと?その為に治療方法は違ってくるの?この検査で保険会社はまた全体の保険料を上げるのでしょうね。本当に必要あるの?」
高い保険料(内訳を調べてみれば絆創膏の価格が数千円だった)を払っても希望する医者に診てもらえない保険システム。病院の入口の張り紙『保険が有る無しに関わらず当病院はいらした方々皆さんの治療に当たります。』そして、保険会社につけを回すシステム。絆創膏一つが数千円なのは、このせいです。勿論病院を責めるつもりはありません。
怪我で出血が止まらず救急に行けば、そこはいつでも満員です。診てもらえる医者のいない、保険の無い病人が救急で待っているのです。救急に行くと言う事は3—5時間位平気で待つと言う事です。
かつてのイギリスは国内の誰でも、外国人であろうと余力があったので無料で診療、手術までしましたよね。日本もアメリカもそれは無理です。どの方法が完璧かでは無く、一番多くの国民にとって良い道への選択でしょう。それが、アメリカンドリームを得た人たちにのみ得られる事のないように望みます。
日本がアメリカを真似ることの無いように心より祈っています。

日本の医者が薬をたくさん出すのは儲けるためです。診療報酬が国定であり、自助努力で収入を増やせないから、薬代で稼ぐんです。

アメリカのように保険を民営化すれば解決する問題ですよ。

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

※[投稿]ボタンをクリックしてから投稿が完了するまで数十秒かかる場合がございますので、2度押しせずに画面が切り替わるまでお待ちください。

Profile

若林秀樹(わかばやし・ひでき)

-----<経歴>-----

1954年東京生れ。
1976年早稲田大学商学部卒業。
1979年ミシガン州立大学院農学部修士課程終了。
現在、08年3月からワシントンにある政策シンクタンク、CSIS(戦略国際問題研究所)の客員研究員。
80年からヤマハ(株)勤務、労組役員を経て93年からワシントンの日本大使館1等書記官として政府開発援助(ODA)と日米協力を担当し米国際開発庁(USAID)から表彰を受ける。帰国後は電機総研副所長を務め、01年に民主党比例区で参議院議員に初当選。在職中は「次の内閣」経済産業大臣・財務副大臣、国際局副局長を歴任。さらにイラク、シリア、イラン等を訪問し安全保障、復興支援、核問題等幅広く国際問題に取り組む。08年はCSIS(戦略国際問題研究所)客員研究員として活動し、09年1月より非常勤客員研究員。現在、(財)日本国際フォーラム常勤参与・主任研究員。

BookMarks

-----<著書>-----


『希望立国、ニッポン15の突破口』
2006年9月、日本評論社



当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.