« 2009年11月 | メイン | 2010年1月 »

2009年12月24日

COP15で見えた鳩山外交の課題

第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)が開催された。当初の懸念どおり、ポスト京都議定書の枠組みとなる、途上国を含めた新たな削減目標(法的合意)を決められず、あいまいな表現が多い政治合意を採択し、多くの課題は来年に持ち越された。

今回のCOP15は、日本が久方ぶりに国際社会をリードできる立場にあったが、残念ながらそうはならず、逆に鳩山外交の課題がいくつか浮かび上がった。当初、日本は2020年までに90年比25%削減という意欲的な目標を掲げ、途上国の削減を促す支援策「鳩山イニシアティブ(3年間で150億ドルの支援)」により、環境外交を目指す日本の存在感を示したかった。しかしながら、鳩山首相や岡田外相等は頑張ったものの、大きな方向を決めるようなリーダーシップを発揮することはできず、交渉においても、プレーヤーは米国、中国、欧州が中心であり、残念ながら日本は蚊帳の外だったと言えよう。

今回の交渉で改めて明確になったことは、先進国と途上国との激しい対立、途上国の中でも中国やインドのような新興国と、海面上昇で沈みかねないツバルや貧しいアフリカ諸国とは立場が大きく違うことだった。京都議定書の枠組みに入っていない世界の二大排出国である米中は、日本のような高い目標は掲げず、国益重視の姿勢を最後まで貫いた。米国は中国、インド等の新興国が入らない枠組みに参加することはありえない。中国は削減義務を負う目標設定や国際的な検証制度の導入は断固拒否をした。日本はこの外交交渉の現実に直面して右往左往し、またもや存在感を示すことができなかった。これは鳩山政権の問題だけではなく、残念ながらこれが今の「日本外交の力量」であり、自らを冷静に見つめなおす貴重な機会として捉えるべきである。

今回の交渉で敢えて問題点を指摘するとするならば、二つある。一つは、日本の25%削減目標の取り組みに対して、世界に向けて範を示すには現実的な説得力を欠いていたことである。この目標を発表して3ヶ月が経過したが、鳩山政権は未だに国民に対してこの25%削減の意味するところと、目標達成に向けた具体策を提示していない。日本にとっては極めて重い目標だが、それでも日本は率先して目標を達成するんだという日本政府の強い決意と、実現可能な具体策を国民に対して示せず、世界の誰を説得できようか。言葉だけの目標では相手を動かすことはできない。

第二に日米関係を交渉に生かしきれなかったことである。日本にとっての役割は、世界最大の排出国であるアメリカを新たな国際的枠組に引き入れつつ、それをテコに中国やインドに対して臨むべきであったはずである。地球温暖化問題についてはこれまで共同歩調を取ってきた日米であったが、鳩山政権は日本の意欲的な目標を独自に発表し、アメリカから見れば、置き去りにされ、そうであれば「日本はどうぞご自由に」をいう立場に追いやった。もともとアメリカは90年比削減目標を嫌っていたし、拘束力のある削減目標の設定に対しては慎重だった。その内向なアメリカをCOPの場に引き入れるには、日本は絶好のポジションであったはずである。しかしこの問題で独走する鳩山政権の姿勢に加え、普天間基地問題で日米の間にはわだかまりが生れ、COP15では日米首脳会談も実現できなかった。結果としてアメリカと密接に協議し、協力を引き出すことは出来なかったのである。日本は、関係が悪化するアメリカに対して、地球温暖化ではもっと共同歩調をとって二国間関係を好転させるきっかけにすべきであった。アメリカは、以前より対EUとの関係からも、この問題では技術力があり、エネルギー効率の高い日本との協力を望んでいたのである。

ポスト京都議定書の新たな枠組みづくりは、来年11月末からメキシコで開かれるCOP16に引き継がれる。アメリカでは来年11月に中間選挙があり、2010年中に「気候変動対策法案」が成立する可能性は微妙になってきた。日本も産業界の抵抗が強い環境税(地球温暖化対策税)の導入の先送りを決めた。しかし京都議定書の有効期限は2012年までであり、日本は90年比6%削減目標(これ自体が25%削減以上に高い目標)の義務を負っていることを忘れてはならない。鳩山政権は、地球温暖化対策の必要性について改めて国民に対して説明し、できるところから様々な手段を講じるべきである。現時点で日本の温暖化ガスの排出レベルは、90年比では逆に8%増加し、併せて14%程度を削減しなくてならない。この目標達成の目処もつかなければ、その先の25%削減は夢物語である。喉元過ぎれば熱さを忘れることになってはならない。

2009年12月16日

外国人参政権で考えるべき視点と日本

民主党小沢幹事長は、訪れていた韓国での講演において、永住外国人の地方参政権を認める法案を次期国会に提出すべきと発言し、早速一部のメディア等で反対の声があがった。改めてこの政策が日本人のアイデンティティに絡む根深い問題であることを感じざるを得ない。しかしそもそも、民主党の幹事長が法案を提出すべきであると発言することは、政策決定の一元化を目指す党の方針に反することであり、韓国に対しても約束するかのような印象を与えたことは、二国間の外交関係にも影響を与えかねない懸念すべき点である。

この課題は政権与党内でも、国民の間でも意見が分かれており、地方だけではなく、国政にも影響を与えかねない重要な問題として捉えられている。まずは国民的な議論を経て、十分なコンセンサスを得ることが重要であろう。小沢幹事長の立場で言えば、外国人参政権の付与は党の基本政策(マニフェストには含まれず)に列挙されており、その実現を目指すことは理解できない訳ではない。また民主党の国会議員は、この党の基本政策に賛同して(実際に署名する)議員になった事実もあり、そのことも十分踏まえるべきである。しかし小沢幹事長の発言で懸念することだが、法案に党議拘束をかけ、力尽くで成立させるような行動は絶対に避けるべきである。国民と共に、与党内で慎重に議論を尽くすことが、民主党が目指す国民の視点に立った政治に適うことである。

賛成派の代表的な意見を挙げると、「永住している外国人は、長年にわたってその地域に居住し、納税等の社会的義務を果たしている。民主主義における地方自治において、その住民の日常生活に密接な関連を持つ公共的事務は、その住民の意思に基づくべきものであり、外国人といえども参政権の付与によって彼等の意思が反映される政治形態を取ることは当然である。すでに一部自治体で実施されている外国人を含めた住民投票や外国人住民会議への参加など、政治参加の可能性を探る動きが見られ、地方参政権の付与は民主国家として自然な流れである」等がある。

また反対派の意見は、「政治とは国民が参加して決定すべきものであり、外国人に地方参政権を認めれば、出身国の影響を受ける等、結果として国や地方が乗っ取られ、日本の国益に反することがおきかねない。参政権の付与を希望するのであれば、日本国民に帰化すべきであり、外国人で生きることを選択した住民に参政権は付与されるべきではない」等々。

世界的にみれば、外国人の地方参政権を認めている国は少数である。欧州連合は、社会統合政策の一環として、永住者に限定せず、5年以上合法的に住んでいた外国人に参政権を付与する方向が出されている。しかし、これはEUという地域統合の強力な協力体制の下で、国家間の政策と協力により一致結束して行動するという目的が背景にあるからであり、EUでの事例を直接日本に当てはめることは無理があろう。現にドイツやベルギーなどで参政権を認めている対象はEU市民だけであり、英国ではEU市民に加え、英連邦国民に付与するなど、参政権は認めても限定している例が多い。

既に日本の一般永住者は、特別永住者の数を上回るまでに増加しており、この政策を在日の朝鮮・韓国人の問題と見なすことは実情に合わなくなりつつある。さらに参政権の課題は、我が国の今後の移民政策や外国人の受入れ政策とも関連する。今後は地域の経済統合という大きな流れの中で人の移動もより活発化するであろう。我が国の将来を考え、グローバル化における日本の持続的な発展という観点からも議論されるべきである。

反対派が一番懸念するのは、永住外国人が出身国の意向を受け、領土問題などで日本の国益と相反しかねない影響を受けるという点である。しかし、仮に帰化したとしても、それが出身国との決別になる訳ではない。アメリカ人を見ても、出身国との精神的、文化的関係は断ち切れず、出身国の政策が国内政治に反映することは多々あることである。もちろん外国人が米国籍を取得すれば、米国民として社会に同化するよう努力する。そして世代の移りかわりと共に、出身国との精神的な関係は変わり、米国民としての利益を第一に考えるようになるのである。まさに国と国との魅力の争いである。日本がいつまでも乗っ取られるという排他的な発想のみで周辺国と接するかぎり、日本人は心理的に国際社会から孤立し続けるであろう。改めて日本人とは何か、この問題と共にじっくり考えてみたい。

2009年12月 8日

人口動態で見る日米関係の将来像

先日会ったワシントンの専門家は「今日の日米は、全くのミラーイメージ(鏡像:鏡に映し出された相似形)である」と言っていたのが非常に印象的で妙に納得してしまった。つまり日米は、国としては共に世界トップの経済大国でありながら、お互いにかつてのような経済の力強さは失われつつある。未だに金融危機の影響を受けて完全には立ち直れず、財政赤字は単年度では過去最悪の状況(日:国債発行額が税収を上回る、米:1兆ドル超の赤字)、失業率は記録的な高さで先行きも不透明(10月の速報値、日:5.1%、米:10.2%)。同じ民主党(政党の理念は必ずしも一緒ではないが)の鳩山政権とオバマ政権は、国民の極めて高い期待の中で誕生し、共に社会保障政策の改革(日:年金、米:医療保険)や地球温暖化対策などの環境問題を政策の最大の目玉にしている。政権発足後の民主党政権に対する支持率は徐々に下がりつつあるが、野党(日:自民党、米:共和党)は弱体化したままで立ち直れず、脅かす存在にはなっていないので両政権は助かっている。また来年は国政選挙(日:参院選、米:中間選挙)を控え、それを意識した政権運営を行っている。その意味において両政権は、経済回復等の内政問題で試練に立たされており、それがアフガニスタンや普天間基地問題などの外交課題にも影響を与えているので要注意である等々。

このように一時期ではあるが、日米の似通った姿は興味深く、だからこそ相手が抱える問題に対してお互いに補い合い、また許容する余裕がないのかもしれない。しかしながら将来的に日米の決定的な違いがあることを忘れてはならない。それは人口の将来予測として、日本は人口が減って「老いる国」となり、アメリカは逆に人口が増えて「若い人口大国」であり続けるとうことである。

人口動態は、押し寄せてくる「津波」のように、一度動き出したら避けることのできない予測であり、これが今後の日米関係に大きく影響することは必至である。日本は人類史上経験のない程の少子高齢化・人口減少時代に入り、21世紀半ばまでに人口は1億人(マイナス約25百万人、20%減)を切る。逆に米国は、先進国の中で唯一、人口が大幅に増加する国として、今の3億人から4億人になり(30%増)、インド、中国に続き世界で3番目に位置する若い人口大国として君臨し続ける。生産年齢人口は、2050年に日本はマイナス39%、米がプラス28%。人口中央値の年齢は、日本が56.2歳、米国は39.6歳と親子程の年齢差になるという、恐ろしい予測になっている(2007年国連調査)。(米国が温暖化ガスの抑制に慎重なのは、この人口増が背景にある)

人口増と経済的・政治的影響力は一定の相関関係があることを考えると、国際社会において、日本の存在感は益々薄くなり、米は引き続き影響力のある国に留まることになる。日米関係でいえば、親子程の平均年齢の差は価値観の違いを生み、「保守的で頑固」になりがちな日本と、一見無謀とも思えることに対しても「挑戦意欲」、「改革志向」の強いアメリカとの関係になるかもしれない。もしそうだとすれば、体が大きく力の強い子供(米)に対して体の小さい老いた親(日本)の言うことを聞かせるには、親は子供から尊敬され、知恵を持った頼りがいのある存在にならないといけない。

つまり、日本は米国や世界から一目も二目も置かれる「知恵と徳のある国」を目指すことで存在感を発揮することが可能となり、そのような視点からも国の進むべき方向性や外交戦略を組み立てる必要がありはしないだろうか。来年にも日本の経済規模は中国に追い抜かれ第3位に転落、さらに相対的な位置づけは下がり続ける。また日本は、核を持ったアメリカ、中国、ロシアの大国に囲まれるという、変えることのできない地政学的な運命を抱えている。そろそろ日本は、自らの将来像を冷静に見つめ、どんな国を目指すのか、新たな国力の源泉はどうするのか、国際社会の中でどうやって生きてゆくのか、地に足がついた中長期的な国家像を模索することが重要だ。

Profile

若林秀樹(わかばやし・ひでき)

-----<経歴>-----

1954年東京生れ。
1976年早稲田大学商学部卒業。
1979年ミシガン州立大学院農学部修士課程終了。
現在、08年3月からワシントンにある政策シンクタンク、CSIS(戦略国際問題研究所)の客員研究員。
80年からヤマハ(株)勤務、労組役員を経て93年からワシントンの日本大使館1等書記官として政府開発援助(ODA)と日米協力を担当し米国際開発庁(USAID)から表彰を受ける。帰国後は電機総研副所長を務め、01年に民主党比例区で参議院議員に初当選。在職中は「次の内閣」経済産業大臣・財務副大臣、国際局副局長を歴任。さらにイラク、シリア、イラン等を訪問し安全保障、復興支援、核問題等幅広く国際問題に取り組む。08年はCSIS(戦略国際問題研究所)客員研究員として活動し、09年1月より非常勤客員研究員。現在、(財)日本国際フォーラム常勤参与・主任研究員。

BookMarks

-----<著書>-----


『希望立国、ニッポン15の突破口』
2006年9月、日本評論社



当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.