吉と出るか、オバマ大統領のヘルスケア改革(1)
経済や軍事などの国力と、国民の生活レベルや満足度は必ずしもマッチしない。それは国が生み出した所得の再分配や国家支出に偏りがあり、また国民の声を反映した政策が実行されていないことに起因する場合が多い。日本でいえば、戦後、「世界に追いつき、追い越せ」をスローガンに経済成長最優先の政策を取り、その結果、国民の健康を優先しなかった「公害問題」や、「ウサギ小屋」と言われた貧弱な住宅環境等の問題が生じ、これらは国力と望ましい国民生活との間に生じたギャップの例として挙げられることであろう。
あの世界一の経済規模と軍事力を持つスーパーパワーであるアメリカでも、国民生活全体に目をやると、その国のイメージとは違う脆弱な社会構造が垣間見える。様々な社会問題は貧富の格差に起因する場合が多いのだが、国全体としては「小さな政府」、「自助努力」という社会的コンセンサスがある中で、国民生活に関わる様々な問題が顕在化しつつある。その最大の課題は、世界最先端の医療技術、医療体制がありながら、未だに約4700万人の医療保険の無保険者がおり、保険に入っていても、保険の種類やレベルによって満足な医療サービスが受けられず、高い医療費で自己破産する人が多いという世界最先端の「医療不平等国」であることだ。
マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画、「シッコ」は、アメリカの医療制度を批判した映画だが、アメリカと対比して取材対象国となったのは、未だに国交の断絶状態が続いているカリブの貧しい社会主義国「キューバ」であった。一人あたりのGDPはアメリカの比較にならないほど低い。しかしキューバは、プライマリー・ケアを重視した医療制度を採用し、その医療体制は「キューバ・モデル」として世界的に有名である。医師の数は人口当たり世界一多い。高度な医療水準と体制を保持し、もちろん国民の医療費は無料であり、訪れたアメリカ人観光客にも同様だ。
いつでも安心して医療サービスが受けられるということは、生きていく上で極めて重要なセーフティネットである。どんなに貧しくとも、しっかりとした医療が受けられることの安心感は計り知れず、社会不安にならないためにも政府が行うべき重要な社会保障政策の基本中の基本ではなかろうか。世界一の経済大国であるアメリカが国民全般にいきわたる医療サービスを提供できず、何故カリブ海に浮かぶ貧しい小国のキューバが無料で満足のいく医療サービスを提供できるのか。社会主義国である国とは単純比較はできないが、国の在り方として色々考えさせられる点である。
医療体制は、まさに政治的決断であり、政策としての優先順位の問題である。財源だけ考えれば、アメリカの軍事費の何分の一でも削るか、あるいはガソリン税の1ガロン当たり何セントでも上げれば、国民皆保険制度を作れるはずなのだが、なかなか実現できない。これが政治の難しさである。(つづく)

コメント (4)
マイケル・ムアー監督の映画「シッコ」はアメリカという国の裏側見たような感じがした。アメリカで定住している日本人がこういうことまったく伝えなかったのは、彼らがアメリカの庶民との付き合いまつたくないことの証左ではないかと思う。外交官、商社の社員、大学の学者・博士も 同類項だけとの付き合いしていると思われ,それでアメリカを知ったかのように喋りまくるという なんともおぞましい状況である。
投稿者: 八代 勝美 | 2009年5月25日 18:56
アメリカという国の裏側 見たような気がしている。マイケル・ムアー 監督の映画「シッコ」を見てのことである。日本とアメリカ 頻繁に行き来しているにもかかわらず こういうこと まったく報道されなかつたのは、庶民の生活実態 伝わっていないからだ゜と思う。外交官、商社の社員、大学の学者・博士などは閉鎖的で アメリカの庶民と接触していないと思われる。市民外交などいう言葉が乱舞しているが 本当のところ 何も知っていないのかも知れない。
投稿者: 八代 勝美 | 2009年5月25日 19:07
ん~確かに。アメリカ在住のお偉いさん達は、国内より閉鎖的なコミュニティに住んでいるし、怖いからとバスに乗らない人もいるんです。ただ、特別な暮らしをしていなくても、知り得ないことも事実です。
外国人が日本の病院に来て気絶しそうに驚くことが、医師と患者の会話が他の人に聞こえるということです。看護婦さんも周りにたくさんいるし。今は日本もだいぶ変わりましたけれど。私もアメリカの町医者から総合病院とお世話になっていましたが、部屋に入ってまず、ゆっくり担当の人、次に医師と話ができます。医師に会う前に、「そこに横になってお腹出しておいてください」なんてことはありません。そんな小さなことでも、何か先進国だな~なんて単純に思っていました。
1990年代、ウィリアム・ハートの「ドクター」という映画だったと思います。先進国なのにお金がなくて検査を受けられない人がいるんだと気づいたのは。その後いろいろ話を聞いて、アメリカの医療現場のひどさ、日本の方がずっといいと勉強することができました。最近のアメリカは中流階級が失業すると同時に医療保険も失っているので、更にひどくなっていますね。
日本も他人事ではありません。あれほど誇りに思えていた日本の国民医療保険を、持てない人が増えていること。生活保護者はね、「明日から治療代ただですよ」と言われたら、新薬の実験台なのよ、いうのは昔から聞く話しでしたけれど、今後は誰にでも起こりうることです。「シッコ」が将来の日本にならないよう、「これだけは守る」政策を。
投稿者: Longo | 2009年5月26日 00:52
若林さま
マイケル.ムーア監督の「シッコ」は私も見ました。内容は、非常に衝撃的でしたが、反面、アメリカという国は、ムーア監督のような方を支援し映画を製作できるだけの人的、財的環境もあるのだなと、逞しさも感じました。ジャーナルで様々な情報を頂き、また書籍などを読んでアメリカという国も理想郷ではなく、人間がひしめき合って生きている国だとつくづく思うこのごろですが、オバマ大統領が当選し、この国はまた、新たな歴史的局面を迎えているのだなと感じます。
「アメリカが皆国民保険にならないのは、根本に根強い人種差別があるからだ」と聞いた事があります。もしそうだとしたら私たちが戦後アメリカから教わった民主主義とは何だったのかと、かなり不服に思いました。言葉で主義主張を語る事は簡単ですが、理想を実現する事は、なかなか難しい事です。しかし、オバマ大統領の、”チェンジ”という言葉を掲げ、意欲的に行動する姿を見て、アメリカ人でない私も、少し元気をもらったような気がします。アメリカは歴史が浅い国だという人もいますが、ゼロから国を築き上げていったという点では自らで産みの苦しみを背負った特異な国であるとも思います。ある意味、日本とは切っても切れない関係になっているアメリカです。しかし、現実はそれほど理想的な国ではないと言う情報を、知る事の出来る昨今は幸せです。何故なら、アメリカという国は、自分たちの成長を通して、私たちに”国家は、国民自らの手で構築してゆくものなのだ”という、最大のお手本を示してくれているような気がするからです。
投稿者: 白雪 | 2009年5月26日 10:36