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2009年5月29日

北朝鮮はオバマの対話路線を見誤ったか

 何故、北朝鮮はこのタイミングで核実験に踏み切ったのか。北朝鮮にしてみれば、米国を挑発してオバマ大統領の出方を探り、あわよくば二国間協議に持ち込みたい狙いがあるようだが、それはオバマ大統領の「対話路線」を見誤っているのではないか。昨年、出会ったワシントンの北朝鮮専門家は、「私が金正日であれば、非核化に向けて米国に協力する素振りを見せながら時間を稼ぎ、『対話路線』で柔軟な対応を示すオバマ政権から経済協力など、『実』を取れるだけ取るであろう。いたずらに強硬路線に出ても、むしろ議会などの反発を招くだけであり、そうなればオバマ政権も二国間協議には応じにくくなる」と述べたことを思い出した。私はこの意見に当時は全く同調したのだか、北朝鮮は今、全く逆の路線で動いている。

 猫(国際社会)も鼠(北朝鮮)に本気で噛まれれば、最後は襲いかかるしかない。ここにきて、鼠に睨みつけられたロシア猫が傍観姿勢を改めるかもしれず、それを見た中国猫も、やおら起き上がって襲いかかる姿勢を取った時に、鼠はどのような態度を取るのか。果たして鼠は本気で死を覚悟してでも最後の抵抗に出るのか、それとも戦意を喪失して白旗を揚げるのか。猫の集団は、その辺の見定めができていないし、まだ本気で噛まれた時に、鼠に襲いかかる覚悟もできていない。

2009年5月26日

吉と出るか、オバマ大統領のヘルスケア改革(2)

 米国が使っている医療費は全体で約150兆円と言われ、絶対額では圧倒的に他国を上回り、GDPに占める医療費の割合でも先進国の中で相対的に高い方だ。医療費としては膨大な額を使いながら、国民全体にそのサービスが行きわたらないということを考えれば、政策的に欠陥があることは明らかだ。では何故、医療改革が進まないのか。その改革にブレーキをかけている最大の要因は、政府の高齢者や低所得者向けの公的医療保険に対する財政負担である。アメリカは、現在でも過去最大の財政赤字の状態にあるが、金融・経済危機への一時的な対応を除けば、「永続的な財政への最大の脅威は、伸び続ける医療コストである」と、オルスザグ行政管理予算局長も、ウォール・ストリート・ジャーナルに最近、論説を発表したところである。

 かつてクリントン政権の1期目に大統領夫人であった現国務長官が国民皆保険制度を導入しようとして議会の反対で頓挫した。今回はオバマ大統領が「ヘルスケア改革」を大統領選の公約として前面に打ち出し、5月11日、その「改革案」を具体的な関連予算として盛り込んだ2010年度予算教書を発表してヘルスケア改革の本格的な論戦が始まった。しかし党派を超えて支持が得られる公的医療保険にも、一部の議員には未だに根強い抵抗があり、高い支持率を保持しているオバマ大統領といえども、改革が順調に進むとは全く断定できないのである。

 反対の背景には、国家が運営する皆保険制度を設置すれば、国の財政負担に加え、民間保険会社の事業を圧迫するという理由がある。オバマ大統領は、この2点の問題に現実的に対応すべく、新たな公的保険プランをつくって、国民の保険加入者を増大させる包括的な医療保険改革法の制定を発表した。すなわち医療改革のための大増税を避けるために、「改革案」を医療費の大幅な削減等によって財政中立的なものに仕上げ、皆保険制度といえども、減税などによって個人が民間保険を選択する余地を残している。

 財政的裏付けとしては、(1)ヘスケア・コストの削減(3160億ドル、5月11日発表の予算教書では2,670億)、(2)年収25万ドル超の高所得者の寄付金控除に対する適用税率の引き下げを通じて、2019年度までに6,340億ドルの改革準備金を設置する内容になっている。オバマ大統領は、選挙公約の中で、もっとも実現が難しいとされるヘルスケア改革を最初に着手するという大きな賭けに出た。年末までにこの包括的な医療保険改革法の制定を目指しているが、ヘルスケアは社会的には待ったなしの領域であり、国民の高い支持を背景に、果たして成果がどこまで挙げられるのか、オバマ大統領の手腕が問われるところだ。(おわり)

2009年5月25日

吉と出るか、オバマ大統領のヘルスケア改革(1)

 経済や軍事などの国力と、国民の生活レベルや満足度は必ずしもマッチしない。それは国が生み出した所得の再分配や国家支出に偏りがあり、また国民の声を反映した政策が実行されていないことに起因する場合が多い。日本でいえば、戦後、「世界に追いつき、追い越せ」をスローガンに経済成長最優先の政策を取り、その結果、国民の健康を優先しなかった「公害問題」や、「ウサギ小屋」と言われた貧弱な住宅環境等の問題が生じ、これらは国力と望ましい国民生活との間に生じたギャップの例として挙げられることであろう。

 あの世界一の経済規模と軍事力を持つスーパーパワーであるアメリカでも、国民生活全体に目をやると、その国のイメージとは違う脆弱な社会構造が垣間見える。様々な社会問題は貧富の格差に起因する場合が多いのだが、国全体としては「小さな政府」、「自助努力」という社会的コンセンサスがある中で、国民生活に関わる様々な問題が顕在化しつつある。その最大の課題は、世界最先端の医療技術、医療体制がありながら、未だに約4700万人の医療保険の無保険者がおり、保険に入っていても、保険の種類やレベルによって満足な医療サービスが受けられず、高い医療費で自己破産する人が多いという世界最先端の「医療不平等国」であることだ。

 マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画、「シッコ」は、アメリカの医療制度を批判した映画だが、アメリカと対比して取材対象国となったのは、未だに国交の断絶状態が続いているカリブの貧しい社会主義国「キューバ」であった。一人あたりのGDPはアメリカの比較にならないほど低い。しかしキューバは、プライマリー・ケアを重視した医療制度を採用し、その医療体制は「キューバ・モデル」として世界的に有名である。医師の数は人口当たり世界一多い。高度な医療水準と体制を保持し、もちろん国民の医療費は無料であり、訪れたアメリカ人観光客にも同様だ。

 いつでも安心して医療サービスが受けられるということは、生きていく上で極めて重要なセーフティネットである。どんなに貧しくとも、しっかりとした医療が受けられることの安心感は計り知れず、社会不安にならないためにも政府が行うべき重要な社会保障政策の基本中の基本ではなかろうか。世界一の経済大国であるアメリカが国民全般にいきわたる医療サービスを提供できず、何故カリブ海に浮かぶ貧しい小国のキューバが無料で満足のいく医療サービスを提供できるのか。社会主義国である国とは単純比較はできないが、国の在り方として色々考えさせられる点である。

 医療体制は、まさに政治的決断であり、政策としての優先順位の問題である。財源だけ考えれば、アメリカの軍事費の何分の一でも削るか、あるいはガソリン税の1ガロン当たり何セントでも上げれば、国民皆保険制度を作れるはずなのだが、なかなか実現できない。これが政治の難しさである。(つづく)

2009年5月10日

世襲制は改革阻害の最大要因

 民主国家は、国民が直接政治に参加する直接民主制でなければ、選挙などによって自らの意思を代弁してくれそうな代表者を選出し、その代表者をつうじて政治に参加する間接民主制である。いずれにせよ、大切なことは、代表者を選ぶ権利と同時に、自らが代表者になれる権利が確保されていることである。しかし残念ながら、政党中心の議院内閣制を採用している日本においては、そもそも政党公認の候補者になれる権利が実質的に世襲制で、極めて制限されているのである。世襲議員の言い分として「法の下の平等を定めた憲法14条、職業選択の自由を定めた22条に抵触する」「議員だった親や祖父母から直接学ぶ点が多かった」「最終的に有権者に選ばれない世襲議員は淘汰されるから問題ない」などということが言われる。

 確かに、一理はある。しかし問題は、世襲議員の権利をどう守るかにあるのではなく、政党公認候補者の選出方法が極めて不透明であるなかで、実際にどのような民主的な手続きによって候補者を選ぶかにあるのである。小泉純一郎元総理は、長年応援してきた後援者を前に、自ら議員を引退すると同時に、二男を後継者に指名することを表明し、マスコミにも大きく取り上げられた。小泉純一郎氏は、祖父の代から続いた世襲議員である。祖父が初当選した1908年以降約1世紀の間、小泉家は議員の座を守り続け、首相まで出したわけである。その小泉氏が息子を後継者に指名したことは、事実上の政党公認候補者を決定したのに等しい。実際、自民党神奈川県連は、二男以外の候補者を選ぶことができるはずがないし、それを求めること自体が無理な日本社会の実態なのである。

 しかし神奈川11区40万人の有権者の中で、息子より優秀な候補者は数多くいるかもしれないし、最大の問題点は、政治家を志す若者たちの夢をぶち壊したことである。世襲制が続けば、結果として優秀な人材は政治家を志さなくなる。現象的に起こっていることは、選挙区の「空き」がないので、自分の主義・主張と違う政党から立候補する政治家が多くなり、これでは二大政党制の定着にもつながらないし、日本のためにもならない。アメリカでも世襲議員がいない訳ではないが、数は圧倒的に少ない。候補者決定に際しては、極めて透明性の高いオープンな候補者選出システムがある。政党の候補者になるために、まず自ら名乗りを上げること自体は、基本的に自由であり、予備選挙等によって党員、有権者の厳しい目に晒され、最終的に政党の候補者として選出されるのである。

 アメリカでは、オバマ大統領やクリントン元大統領のように、ほとんど知名度のない無名の政治家が、それぞれ上院議員、州知事を経て、大統領になれる道が開かれているのである。法律で世襲制を禁止することが難しいのであれば、政党がその選挙公約で世襲制に対する考え方を明確にすべきである。世襲制の良し悪しを別にして、ジバン(地盤:後援会)、カンバン(看板:知名度)、カバン(鞄:資金力)の3バンを活かすという観点に立てば、世襲制が最も効率的な制度であることは理解できる。その上で、民主的な方法によって候補者を選ぶことが現実には難しい実態を考えれば、政党は一定の範囲内の親族が同じ選挙区から立候補することを認めず、また政党内で恣意的に候補者に選出されることを防ぐ公正なシステムを導入すべきである。日本の改革が遅れている理由の一つが政治家の世襲制にあることは明らかである。ここは、思い切って実態としての世襲制を制限すべきであろう。

2009年5月 6日

オバマ政権の100日と日米関係の課題

 先日、開催された「日米対話」という知的交流会での感想です。時期的にオバマ大統領が就任100日を迎えることもあり、オバマ政権の外交政策に対する評価についての言及が相次ぎましたが、支持する政党やイデオロギーに関係なく、パネリストのオバマに対する評価が極めて高かったのが印象的でした。アメリカ人の元駐中国大使は、「ルーズベルト大統領がそうであったように、今日の金融・経済危機など取り組むべき課題が大きければ大きいほど、偉大な大統領が生まれる。オバマは『単なる大統領』ではなく、『偉大な大統領』を目指している」との、クールさの中にも熱く語るベテラン専門家の発言は、米国大統領の新たな歴史が今この瞬間にも作られている「ライブ感」を感じさせるものでした。

 オバマ政権の外交政策100日に関して言えば、国際協調や対話を重視する姿勢は、とりあえず各国から好意的に受けとめられており、核廃絶、イラクからの撤退、アフガン・パキスタン包括戦略など新たな政策を矢継ぎ早に発表し、いいスタートを切ったのではないかと思われます。その上でオバマ政権の外交政策と日米関係の課題について、論点をいくつか挙げてみたいと思います。

 まず第一に米国のアジア重視と言っても、伝統的な同盟国である日本、韓国との関係を別にすれば、重視の中心となる国は中国とインドであり、またオバマ政権の最重要外交政策課題は、隣接するアフガニスタンとパキスタンの政治的・経済的安定とテロ勢力の縮小・封じ込めです。このコンテクストにおいて、同盟国である日本が米国と普天間基地移転等の問題でギクシャクし、何も決められない政治的漂流状態が長く続くと、米国の同盟国、パートナーとしての日本の存在感は益々薄くなり、アジアの秩序づくりは米国と中国、インドとの間で進んでいく可能性が高くなるということです。既にアジアに関して中国抜きで日米が決められることは少なくなり、北朝鮮問題についても、益々中国の意向が反映されることになるでしょう。

 第二に米露で「STARTⅠ(第一次戦略兵器削減条約)」の後継条約締結の交渉等で核軍縮が進むと、中国の核攻撃能力が相対的に高くなって東アジアの軍事バランスが壊れ、米国の核抑止力がどこまで保たれるのかという不安です。日本は米国と共に核軍縮の先頭に立つべきですが、一方で日本の防衛を米国の核の抑止力に依存している現実を考えれば、米の核軍縮政策を単純には喜べない状況にあると言えます。日本の非核三原則、「核兵器を持たず、作らず、持ちこませず」の内、第三の「持ちこませず」は変えるべきとの声も良識派から出始めています。

 第三に北朝鮮問題ですが、米国にとって北朝鮮問題の外交上の優先順位は低く、軍事力の行使を背景に金正日総書記と構える余裕はないことです。先日開かれた下院外交委員会公聴会での10分程の冒頭発言において、クリントン国務長官は、北朝鮮問題には一切触れませんでした。北朝鮮のミサイル発射問題で、ほんの1週間前、米国は日本と共に安保理の決議を主張したとは思えない、「本音の関心の低さ」です。今後、米国は日本とこの問題で連携する姿勢はみせるでしょうが、北朝鮮問題は中国頼みであり、この問題を前に進めたくない中国の姿勢を変えるには、日本と韓国が連携して米国や中国に圧力をかける必要があります。今のままでは、ブッシュ政権と同じく、時間稼ぎだけされて核開発が進んでしまう懸念が消えません。

 政権誕生後最初の100日間は、「ハネムーン期間」とも呼ばれ、世論の期待が高く、議会やメディアも大統領のお手並み拝見で、厳しい批判を避ける傾向にありますが、それでもオバマ政権は高い支持率を背景に良いスタートを切ったことは間違いありません。いずれにせよ、この勢いをどれだけ継続させ、目に見える成果を出していけるのか、今後とも注視する必要があり、また外交政策は、国内政策、経済政策の成否と大きな関連があり、今後の国内動向、特に経済の回復、失業率の改善等に目に見える成果が出ないと、外交政策にも大きな影響が出るものと思われます。

Profile

若林秀樹(わかばやし・ひでき)

-----<経歴>-----

1954年東京生れ。
1976年早稲田大学商学部卒業。
1979年ミシガン州立大学院農学部修士課程終了。
現在、08年3月からワシントンにある政策シンクタンク、CSIS(戦略国際問題研究所)の客員研究員。
80年からヤマハ(株)勤務、労組役員を経て93年からワシントンの日本大使館1等書記官として政府開発援助(ODA)と日米協力を担当し米国際開発庁(USAID)から表彰を受ける。帰国後は電機総研副所長を務め、01年に民主党比例区で参議院議員に初当選。在職中は「次の内閣」経済産業大臣・財務副大臣、国際局副局長を歴任。さらにイラク、シリア、イラン等を訪問し安全保障、復興支援、核問題等幅広く国際問題に取り組む。08年はCSIS(戦略国際問題研究所)客員研究員として活動し、09年1月より非常勤客員研究員。現在、(財)日本国際フォーラム常勤参与・主任研究員。

BookMarks

-----<著書>-----


『希望立国、ニッポン15の突破口』
2006年9月、日本評論社



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