物・サービスの売買は、言ってみれば常に「時価」に基づいて行われる。どんなにメーカーが希望する小売価格があっても、その時の需給関係など様々な要素が影響してマーケット・プライスが決まる。しかし、ゴーイング・コンサーン(継続的に発展し続ける)を前提とする企業において、その価値をその時々の経済情勢等で大幅に変動する「時価」で評価することがいいのかどうか、この金融危機の時代において改めてそのことが問われ始めたようだ。
グローバル資本主義の象徴である「時価会計」は、日本でもアメリカの圧力によって「国際標準」の大号令の下に2001年3月期から導入されたが、その本家本元のアメリカにおいてバーナンキFRB(米連邦準備制度理事会)議長等が見直すべきだと言い始め、どこまで米国はご都合主義なのかと、首を傾げたくなる。
財政・金融問題の専門家である民主党の峰崎参議院議員は、3月23日付け『フジサンケイ・ビジネスアイ』のコラムで、「時価会計」は資産バブルを生み出した遠因であり、「バブルが崩壊するや、それが逆回転し始めて投げ売り状態になり、資産価格の暴落から金融危機、実体経済の崩落へと今、世界経済が抱えている問題が生み出された」と、その問題点を鋭く指摘した。
私自身は会計の専門家ではないが、情報公開、資産の透明化は必要ではあると認識しつつも、「未実現の利益(損失)」を年度ごとの「損益計算書」や「貸借対照表」にまで反映することはいかがなものかと、かねてから疑問を呈していた。峰崎氏は、「取得原価会計で表示し、資産の含み利益は注記事項としておけば、投資家に対する情報開示は可能となるわけで、何の問題もないどころか、『未実現の利益』の取り込みによる『信用創造の急増=過剰流動性』の暴走を阻止することも可能になるだろう」と述べている。
初めて時価会計を導入したのは、今から150年前のドイツであり、やはり今日に見られる同じ問題で23年後に廃止されたそうだ。1930年代の銀行の破産も、その多くは時価会計が原因だと言われている。そして今、「時価会計」を支持し、その恩恵を受けてきた国際的な投資銀行やファンドが、同じ会計基準により絶体絶命の大ピンチに立たされている。まさに「歴史は繰り返される」であるが、これまでルールを決めてきた人間が、都合が悪くなるとルールを変えるようでは、国際的な信用は得られまい。
2003年の3月19日、アメリカのイラク攻撃が始まった。あれから6年、オバマ大統領は公約だった「就任後16カ月以内の撤退」よりは3カ月遅いものの、来年8月末までに戦闘部隊を撤退させ、残る兵力も11年末までに引き上げると発表した。早期撤退を公約に掲げていたオバマ大統領が誕生した以上、その発表は当然であったが、ブッシュの後にマケインが大統領になっていれば、撤退時期を示さず、駐留がもっと長引くことは必至だっただけに、これも政権選択により、国家の重要政策が変わる「チェンジ」の象徴である。
イラク戦争の大義は、「イラクの大量破壊兵器保有」だったが、その開戦理由は幻だった。ブッシュ大統領も大量破壊兵器がなかったことを認めたが、一方で「フセイン政権の排除」、「イラクでの民主国家の樹立」にイラク攻撃の理由をすり替え、開き直ったブッシュ大統領にはビックリした。しかし、当初の大義が喪失し、これだけの犠牲を払いながらも、米軍の駐留を全体として容認している米国民には一層驚いた(世論調査では「イラク戦争は間違っていた」と見る米国民は約8割いたが)。
またミリバン英外相は、「対テロ戦争の名で様々な勢力を同一視して排除したことがイスラム勢力の反発を強め、逆にテロリストを増やす結果となった」と指摘した。つまり開戦の大義の喪失、多くの死傷者の発生、1兆ドルとも言われる戦費の負担、世界的なテロ活動の拡大、アフガニスタン復興の遅れなど、これらの事象を総合的に考えると、米国のイラク攻撃は単に間違っていたとは簡単には済ませられない、大変な罪を犯したことになる。イラクだけでも、市民の死者は少なくとも10万人(最大では131万人と発表する団体あり)を超え、米国兵も4255名(3月6日現在)が命を落としているのである。
しかし今となってはイラク戦争の時計の針を戻すことはできず、将来への教訓として生かすとするならば、(1)国連(安保理)は国際紛争などの対応に必ずしも万能ではないが、出来る限り国際的なコンセンサス作りに努力して行動する(単独行動主義の反省)、(2)軍事力を軽視すべきではないが、常に対話の道を閉ざすことなく、多面的な関与政策を追求し、途上国に対しては統治能力の向上、貧困削減・教育の整備・インフラ整備など社会開発を促す支援を行う(ソフトパワーの重視→スマーパワーへ)。まさにこればブッシュ政権のアンチテーゼであり、オバマ政権が行おうとしている外交政策ではなかろうか。