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2009年2月22日

国務長官のアジア歴訪で鮮明になった米国の中国重視

「米国は日本と中国のどちらを重視するのか」という二者択一の議論は、ほとんど意味がないということを以前のブログでも申し上げました。しかし物事を分かりやすく言えば、日本との比較ではなく、今回のクリントン長官のアジア歴訪により、米国は中国重視の姿勢を益々鮮明にしたと言えます。

何故、クリトン長官は最初の外遊先に日本を含むアジアを選んだのか。まず最初に日本を訪問した意味を考えてみます。これは過去に夫のクリントン大統領が中国を訪問して日本に立ち寄らず「ジャパン・パッシング」のイメージを作り出した悪夢があるからであり、今回も無意味な軋轢を生むことは得策ではないと判断し、まずアジアで最初に日本を訪問して日本を重視しているという姿勢を打ち出すことが重要であると考えたからです。そしていつ倒れるか分からない麻生総理との関係を強化するより、良好な日米関係をアピールするために、明治神宮を訪問し、拉致被害者家族と面会するなど、麻生政権よりも直接日本国民に働き掛ける方策を取りました。このような訪日スタイルはパウエル長官やライス長官がやらなかった(出来なかった)ことであり、マスコミもそれに乗っかり、自らの知名度を生かした最善の方法で、効果抜群でした。

そして最後の訪問地に中国を選び、中国側との協議において、中国の人権問題には踏み込まず、「戦略経済対話(SED)」を安全保障なども取り扱う包括的な高官協議に拡大し、またブッシュ政権以来途絶えていた「軍事交流」も再開するという具体的な合意に達したことは、まずます米中の協調、関係が深まることを印象付けました。特に金融危機、気候変動、安全保障という両国にとって極めて重要な問題を含む包括的な協議は、本来は日米が結ぶべき協力の枠組みであり、先を越されたのです。もちろん日本とは、もともと決まっていた海兵隊のグアムへの移転に関する協定に調印しただけであり、新たな合意に至るような状況では全くありませんでした。

そして麻生総理を逸早くアメリカに招待した理由は、今後の日本の政治状況を考え、他国のリーダーより今、先に会っておかないと、次の両国の訪問による直接対話は大分先になり、そうなればまた無意味な両国間のテンションを生みだす可能性があるとの判断が働いたからです。日本のマスコミは、今回のクリントンの訪日でオバマ政権が日本重視であることを歓迎している能天気振りですが、現実に動いているオバマ政権の外交実態はむしろ逆です。また日本がそのようなことに「嫉妬」するよりも、日本がやるべきことをやるという、当たり前の政治状況を一日も早く作り出すことが重要であることは言うまでもありません。

2009年2月 3日

「日本重視」報道の情けなさ

相変わらず日本のメディアは、米国は日本を重視しているのか、それとも焼き餅を焼くがごとき、日本をパッシングして中国を重視しているのではないかという、不毛な議論が好きなようである。2月2日の朝日新聞は、一面でヒラリー・クリントン国務長官は、就任後初めての外遊先に日本を選んで今月中旬に来日する可能性があり、オバマ政権が「中国重視」であるとの見方は覆りそうだと報じた。

確かに米国は中国より先に重要な同盟国である日本を訪問すべきであることは当然であるが、だからと言ってそのことが日本をより「重視」している証拠にはならない。米国の一挙手一投足に一喜一憂しているメディアは、日本国民に一体全体何を訴えたいのか、ほとんど意味不明である。

そもそも日米は、自由と民主主義という価値観を共有し、それを社会に深く定着させている世界経済第1、2位の重要な同盟国同士なのである。一方で中国は民主国家には程遠い共産党による独裁国家であり、アメリカ建国の重要な理念である民主主義の価値観を共有している同盟国ではないのである。まずこの違いを基本的に理解していれば、メディアが報道するような論調はないはずである。

米国にとって中国は、政治的、軍事的、経済的に存在感があり、無視できない国になったということである。米国は誰が大統領になろうとも、米国の国益を確保するために、中国との付き合い方は多少違っても重視せざるを得ないのである。それがニクソン大統領以来の米国の中国に対する接し方であり、ブッシュ政権がいかに目立たないよう中国を重視し、良好な関係を築いてきたかを分析すれば、理解できるはずである。もし中国を重視していけなれば、チベット問題等で米国はもっと厳しく中国を批判したであろうし、昨年の北京オリンピックでも、ほぼ無条件での大統領の開会式への出席はなかったはずである。

しかしメディアがこのような報道をせざるをえない理由も分からない訳ではない。日本は、米国と対等な関係でもっと深い絆で結ばれていれば、常に相手の顔色をうかがうような必要性はなくなり、もっと腰を落ち着けてアメリカの行動を見守ることができるであろう。また日本は世界の平和と繁栄に向けて主体的な外交を構想し実践することが重要であるが、世界から尊敬され一目を置かれる国になれば、アメリカも日本に対する見方が変わり、日本も今のように米国の姿勢を心配をする必要はなくなるであろう。一日も早く自らの外交に自信が持ち、このようなメディアの論調が無くなる日が来ることを期待したい。

Profile

若林秀樹(わかばやし・ひでき)

-----<経歴>-----

1954年東京生れ。
1976年早稲田大学商学部卒業。
1979年ミシガン州立大学院農学部修士課程終了。
現在、08年3月からワシントンにある政策シンクタンク、CSIS(戦略国際問題研究所)の客員研究員。
80年からヤマハ(株)勤務、労組役員を経て93年からワシントンの日本大使館1等書記官として政府開発援助(ODA)と日米協力を担当し米国際開発庁(USAID)から表彰を受ける。帰国後は電機総研副所長を務め、01年に民主党比例区で参議院議員に初当選。在職中は「次の内閣」経済産業大臣・財務副大臣、国際局副局長を歴任。さらにイラク、シリア、イラン等を訪問し安全保障、復興支援、核問題等幅広く国際問題に取り組む。08年はCSIS(戦略国際問題研究所)客員研究員として活動し、09年1月より非常勤客員研究員。現在、(財)日本国際フォーラム常勤参与・主任研究員。

BookMarks

-----<著書>-----


『希望立国、ニッポン15の突破口』
2006年9月、日本評論社



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