3回目で最後になる大統領候補者討論会の中継を観るに相応しい場所はどこか。友人と議論した結果、それはホワイトハウスの斜め向かいにある、由緒あるヘイアダムス・ホテル、その地下にあるバーという結論に達し、我々は早めに行ってテレビが観やすいカウンターに陣取ったのです。討論会開始時間が近づくにつれ、やはりそこは何らかの形で政治に関わっていると思われる人で一杯になり、さぞかし関心を持って一言も聞き洩らさず中継を見るに違いないと確信していたのです。しかし討論会が始まり、5分、10分経っても、紳士淑女は時々テレビを横目で見るだけでお喋りに夢中であり、関心のある言葉が飛び込んでくると、時々少し静かになり耳を傾ける程度でした。
期待を裏切るこの雰囲気は何を意味するのでしょうか。もちろん政治に関心がない訳はなく、私の結論は、すでに投票先は決めている人たちなので、この討論会を聴いて態度を変える人は少なく、また既に大勢は決まっているとみているのか、期待はしていないが、何か変化(Game Changer)を引き起こすようなことがないかぎり、あまり関心はない、というどちらかなのでしょう。
マケインにとっては、不利な形勢を逆転する、あるいはきっかけを作る本当に最後のチャンスでしたが、終了後の世論調査では「どちらが良かったか」という質問に対して、CNN、CBSではオバマがそれぞれ58%、53%、マケインが31%、22%と、3回連続でオバマに軍配が上がりました。
全体の印象では、マケインは最初の経済、金融問題でオバマを圧倒し、終始積極的な姿勢が目立ちましたが、逆にオバマは常に冷静な対応で、教育、ヘルスケア等の問題で的確に打ち返していたように思われます。CNN、リアル・クリア・ポリティックスなど有力な世論調査では、現時点でオバマが当選に必要な選挙人の過半数270名に達している予想を発表しており、オバマ優位は動きそうもない状況です。
11日、米国務省は、北朝鮮に対するテロ支援国家指定の解除を行いました。この件については、すでに6月26日、米議会に対して通告しており、何故このタイミングなのかという驚きはありましたが、あくまで既定路線の範囲内だと言えます。もちろん日本側の不満は残りますし、核兵器廃棄に関する検証計画が満足な状態で実行される保証は全くありません。しかし駄々をこねる北朝鮮をなだめ、これ以上核兵器開発を進展させないという現実的な対応にならざると得ないのが今のアメリカの政治状況なのです。
この決定に対して、オバマ、マケインは対照的な声明を出しました。外交努力や対話路線を重視するオバマは、この決定を「核兵器破棄に向けた適度な前進」、「適切な対応」と評価し、一方で強硬路線のマケインは、「核計画の完全な検証が可能になるまで制裁を解除すべきではない」と、これまでの主張を変えず、日本の拉致問題への言及、(日本を含む)アジアの同盟国との協調を重視すべきとし、共和党候補でありながら、ブッシュ政権に対して批判的な立場の声明を発表したのです。
もともとブッシュ大統領は、北朝鮮を「悪の枢軸」と呼ぶほどの強硬論者でした。しかし今では、イラクや中東の問題等を抱え、時間の経過と共に現実的な対応に方向転換せざるを得ず、今回の決定により北朝鮮核問題への対応は次期政権に委ねられることになります。日本側の苛立ち、不満は理解できますが、北朝鮮の核廃棄で最大の恩恵を被るのは日本であるという現実を踏まえ、むしろ日本は今後の厳しい検証プロセスでリーダーシップを発揮し、米、中、ロシアに緊張感を与えるぐらいの迫力で交渉に臨むべきです。相変わらず「拉致問題が重要だ」と言ってるばかりでは、核問題の進展は望めませんし、アジアのリーダーにはなれません。
討論会で、政策より、候補者のちょっとした態度、発言が取り上げられ批判される時は、メディアからかなり追い込まれている証拠ではないかと思われます。7日、テネシー州ナッシュビルで行われた第2回目の大統領候補討論会で、「マケインがオバマに対して、名前を呼ばずにモノのように「That one」と言ったのは失礼だった」、「討論会終了後にオバマがマケインに握手しようとしたが遮った」、「まだ市民の出席者が会場に残っているのに、マケインは早々会場を後にした」等、メディアはマケインの形勢不利を承知で政策とは関係のない点について言い始めたのです。勿論マケインの発言等は問題かもしれませんが、政策の中身と同じレベル、もしくはそれ以上に態度を問題にするのはどうかと思いますが、それが米大統領候補者討論会の特徴なのです。かつては92年のブッシュ大統領が討論会中に腕時計を見ただけで批判され、結果として支持率は下がり、クリントンが勝利したのです。
今回の討論会はタウンホール形式で、投票する候補者を決めていない有権者を対象に行われました。マケインにとっては、このような方式での討論会を得意にしていただけに、不利な形勢を逆転する、あるいはきっかけを作る大きなチャンスでしたが、残念ながら世論調査の結果を見る限り、その目論見は外れたようです。「どちらが良かったか」という質問に対して、CNN、CBSでは、それぞれオバマが54%、40%、マケインは30%、26%とオバマに軍配が上がりました。
残る第3回は「内政問題」がテーマであり、この金融危機の中で失地を回復することは難しいと思われます。今回の討論会でもマケインが突如発表した3000億ドルの住宅ローン買い取り政策も中身がわからず、逆に批判の対象になっています。またネガティブ・キャンペーンでオバマへの個人攻撃がいき過ぎているという批判の声も高まり始めました。
各社の世論調査では、全体の支持率は最低でも4、5%開いてオバマがリードし、選挙人の予測でも、過半数の270人に対して260人に迫り、マケインは160人程度に留まっています。未決定が110人程度いますが、そのほとんどの州は前回ブッシュ大統領が勝ったところであり、それらの州でもかなりの割合でオバマがリードしている状況です。仮にマケインがこれらの激戦州で一つでも落とせば命取りです。客観的にどう見ても、マケインが勝てる要素が見つからないというのが正直なところです。
2日、副大統領候補であるバイデンとペイリンの最初で最後の討論会が行われました。ペイリンはこれまでの記者のインタビューで知識不足をさらけ出し、副大統領候補としての資質を疑問視され始めていた矢先での討論会でした。したがってペイリンはベテラン上院議員の前で立ち往生するのではないかとマケイン陣営はやきもきして討論会を観ていたに違いありません。討論会直後のCNNとCBSの世論調査では、バイデンがそれぞれ51%、46%、ペイリンが36%、21%と軍配はバイデンに上がっています。しかしメディアの論調を総合すると、両候補とも決定打は無く、特に期待値が低かったペイリンはよくやったという評価もあり、お互いに引き分けに近く、ペイリンはマケイン勝利への期待をつなげることができたものと思われます。
しかし私の見方は、これでオバマへの流れはさらに加速するのではないかということです。何故ならば、現時点で既に全体の支持率は、各世論調査の平均値(Real Clear Politics)でオバマはマケインを5.8%リードして差を広げており、ペイリンはその流れを多少なりとも変える必要があったからです。また同じ日に丁度タイミング悪く、激戦州の一つであるミシガン州でマケイン陣営が撤退することが判明しました。バトルの最中にマケインが力を入れていた州で一つでも撤退が明らかになると、他の激戦州でも雪崩を打って不利になる可能性があります。さらに重要な激戦州を見ると、前回、前々回にブッシュ大統領が勝ったオハイオ、フロリダ、ネバダ、バージニア、ノースキャロライナ、ミズーリ、インディアナ、コロラドでオバマがリードするか、ほぼ接戦の状況だということです。
そしてこの2,3週間の流れを変えた金融、経済の状況は今もって全く不透明であり、金融化安定化法案は成立しましたが、この金融危機、景気の悪化はこれまでのブッシュ政権の政策によるものであり、同じ共和党のマケインにはこれからも不利に働くからです。したがって、何一つとってもマケインが有利になる要素は見当たらないのですが、メディアは依然として「方向付け」に慎重であり、最後まで接戦に持ち込んで国民の関心を引き付け、視聴率、発行部数を上げたいのかと勘ぐりたくなるほどです。
もちろん明日の天気予報が外れるように、明日の政治も何が起こるかわからないというのも事実ですが、今日段階での見方を勇気を持ってお示ししました。