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2008年10月22日

映画「W.」とパウエル元国務長官

先週末に、ベトナム戦争帰還兵としての経験を基に「プラトーン」、「7月4日に生まれて」などの名作を手掛けたオリバー・ストーンの映画、「W.」が封切られました。これはブッシュ大統領の自伝であり、特にイラク戦争にいたる過程とその後に焦点を当て、ブッシュ大統領を暗にというより、明確に批判した映画です。それが大統領選のほぼ2週間前に封切られたわけですから、その狙いは明らかです。

その映画の中では、コリン・パウエル当時国務長官がイラク戦争に至る過程で、終始慎重、時に反対していたと演じられており、それが映画の味付けになっています。パウエル国務長官は、対外的には国連安保理でイラクが大量兵器を製造しているとの証拠を衛星写真を使って主張し、イラク戦争への道を主導したように見られていますが、内実はそうではなかったのです。結局、パウエルは、イラク戦争のみならず他の外交・安全保障に関する政策でも大統領やチェイニー副大統領と対立し、ブッシュ政権2期目の初頭に長官の座を辞任しました。

パウエルは、統合参謀本部議長まで登りつめた生粋の軍人出身ですが、一方で外交努力を重視する、バランス感のとれた思慮深い人です。一時は大統領候補として期待されたこともあり、共和党のみならず民主党の支持者からも好かれ、私も尊敬している賢人の一人です。そのパウエルがオバマへの支持をこの時期になって表明し、メディアで大きく取り上げられています。マケインに対しては、経済政策の妥当性、副大統領候補には相応しくないぺイリンの選択、そして最近のオバマへの個人攻撃が行き過ぎている点を挙げ批判し、非常に説得力あるオバマ支持発言となりました。マケインもパウエルのオバマ支持をある程度想定していたものの、その動揺は隠せず、すかさず過去4人の国務長官経験者が自分を支持していることを持ち出すのが精一杯でした。

恐らくこの発言は、特にまだ投票の態度を決めていない有権者、軍や退役軍人関係者に大きな影響を与えるのではないかと思われます。ここ1、2週間でオバマとマケインの差が縮まってきましたが、この発言の影響かどうかは別として、ここにきてまたオバマが差を広げつつあるようです。選挙まであと12日間、どうやらオバマにとってはゴールが見えつつあるところまできたのではないでしょうか。

2008年10月17日

最後の討論会、オバマ優位動かず

 3回目で最後になる大統領候補者討論会の中継を観るに相応しい場所はどこか。友人と議論した結果、それはホワイトハウスの斜め向かいにある、由緒あるヘイアダムス・ホテル、その地下にあるバーという結論に達し、我々は早めに行ってテレビが観やすいカウンターに陣取ったのです。討論会開始時間が近づくにつれ、やはりそこは何らかの形で政治に関わっていると思われる人で一杯になり、さぞかし関心を持って一言も聞き洩らさず中継を見るに違いないと確信していたのです。しかし討論会が始まり、5分、10分経っても、紳士淑女は時々テレビを横目で見るだけでお喋りに夢中であり、関心のある言葉が飛び込んでくると、時々少し静かになり耳を傾ける程度でした。

 期待を裏切るこの雰囲気は何を意味するのでしょうか。もちろん政治に関心がない訳はなく、私の結論は、すでに投票先は決めている人たちなので、この討論会を聴いて態度を変える人は少なく、また既に大勢は決まっているとみているのか、期待はしていないが、何か変化(Game Changer)を引き起こすようなことがないかぎり、あまり関心はない、というどちらかなのでしょう。
 マケインにとっては、不利な形勢を逆転する、あるいはきっかけを作る本当に最後のチャンスでしたが、終了後の世論調査では「どちらが良かったか」という質問に対して、CNN、CBSではオバマがそれぞれ58%、53%、マケインが31%、22%と、3回連続でオバマに軍配が上がりました。
 全体の印象では、マケインは最初の経済、金融問題でオバマを圧倒し、終始積極的な姿勢が目立ちましたが、逆にオバマは常に冷静な対応で、教育、ヘルスケア等の問題で的確に打ち返していたように思われます。CNN、リアル・クリア・ポリティックスなど有力な世論調査では、現時点でオバマが当選に必要な選挙人の過半数270名に達している予想を発表しており、オバマ優位は動きそうもない状況です。

2008年10月13日

テロ支援国家指定解除,オバマ賛成、マケイン反対

 11日、米国務省は、北朝鮮に対するテロ支援国家指定の解除を行いました。この件については、すでに6月26日、米議会に対して通告しており、何故このタイミングなのかという驚きはありましたが、あくまで既定路線の範囲内だと言えます。もちろん日本側の不満は残りますし、核兵器廃棄に関する検証計画が満足な状態で実行される保証は全くありません。しかし駄々をこねる北朝鮮をなだめ、これ以上核兵器開発を進展させないという現実的な対応にならざると得ないのが今のアメリカの政治状況なのです。

この決定に対して、オバマ、マケインは対照的な声明を出しました。外交努力や対話路線を重視するオバマは、この決定を「核兵器破棄に向けた適度な前進」、「適切な対応」と評価し、一方で強硬路線のマケインは、「核計画の完全な検証が可能になるまで制裁を解除すべきではない」と、これまでの主張を変えず、日本の拉致問題への言及、(日本を含む)アジアの同盟国との協調を重視すべきとし、共和党候補でありながら、ブッシュ政権に対して批判的な立場の声明を発表したのです。

もともとブッシュ大統領は、北朝鮮を「悪の枢軸」と呼ぶほどの強硬論者でした。しかし今では、イラクや中東の問題等を抱え、時間の経過と共に現実的な対応に方向転換せざるを得ず、今回の決定により北朝鮮核問題への対応は次期政権に委ねられることになります。日本側の苛立ち、不満は理解できますが、北朝鮮の核廃棄で最大の恩恵を被るのは日本であるという現実を踏まえ、むしろ日本は今後の厳しい検証プロセスでリーダーシップを発揮し、米、中、ロシアに緊張感を与えるぐらいの迫力で交渉に臨むべきです。相変わらず「拉致問題が重要だ」と言ってるばかりでは、核問題の進展は望めませんし、アジアのリーダーにはなれません。

2008年10月 9日

大統領候補者討論会、「ザット・ワン」が致命傷に?

 討論会で、政策より、候補者のちょっとした態度、発言が取り上げられ批判される時は、メディアからかなり追い込まれている証拠ではないかと思われます。7日、テネシー州ナッシュビルで行われた第2回目の大統領候補討論会で、「マケインがオバマに対して、名前を呼ばずにモノのように「That one」と言ったのは失礼だった」、「討論会終了後にオバマがマケインに握手しようとしたが遮った」、「まだ市民の出席者が会場に残っているのに、マケインは早々会場を後にした」等、メディアはマケインの形勢不利を承知で政策とは関係のない点について言い始めたのです。勿論マケインの発言等は問題かもしれませんが、政策の中身と同じレベル、もしくはそれ以上に態度を問題にするのはどうかと思いますが、それが米大統領候補者討論会の特徴なのです。かつては92年のブッシュ大統領が討論会中に腕時計を見ただけで批判され、結果として支持率は下がり、クリントンが勝利したのです。
 

 今回の討論会はタウンホール形式で、投票する候補者を決めていない有権者を対象に行われました。マケインにとっては、このような方式での討論会を得意にしていただけに、不利な形勢を逆転する、あるいはきっかけを作る大きなチャンスでしたが、残念ながら世論調査の結果を見る限り、その目論見は外れたようです。「どちらが良かったか」という質問に対して、CNN、CBSでは、それぞれオバマが54%、40%、マケインは30%、26%とオバマに軍配が上がりました。
 残る第3回は「内政問題」がテーマであり、この金融危機の中で失地を回復することは難しいと思われます。今回の討論会でもマケインが突如発表した3000億ドルの住宅ローン買い取り政策も中身がわからず、逆に批判の対象になっています。またネガティブ・キャンペーンでオバマへの個人攻撃がいき過ぎているという批判の声も高まり始めました。
 各社の世論調査では、全体の支持率は最低でも4、5%開いてオバマがリードし、選挙人の予測でも、過半数の270人に対して260人に迫り、マケインは160人程度に留まっています。未決定が110人程度いますが、そのほとんどの州は前回ブッシュ大統領が勝ったところであり、それらの州でもかなりの割合でオバマがリードしている状況です。仮にマケインがこれらの激戦州で一つでも落とせば命取りです。客観的にどう見ても、マケインが勝てる要素が見つからないというのが正直なところです。

2008年10月 4日

討論会引き分けも、流れは大きくオバマへ

2日、副大統領候補であるバイデンとペイリンの最初で最後の討論会が行われました。ペイリンはこれまでの記者のインタビューで知識不足をさらけ出し、副大統領候補としての資質を疑問視され始めていた矢先での討論会でした。したがってペイリンはベテラン上院議員の前で立ち往生するのではないかとマケイン陣営はやきもきして討論会を観ていたに違いありません。討論会直後のCNNとCBSの世論調査では、バイデンがそれぞれ51%、46%、ペイリンが36%、21%と軍配はバイデンに上がっています。しかしメディアの論調を総合すると、両候補とも決定打は無く、特に期待値が低かったペイリンはよくやったという評価もあり、お互いに引き分けに近く、ペイリンはマケイン勝利への期待をつなげることができたものと思われます。

しかし私の見方は、これでオバマへの流れはさらに加速するのではないかということです。何故ならば、現時点で既に全体の支持率は、各世論調査の平均値(Real Clear Politics)でオバマはマケインを5.8%リードして差を広げており、ペイリンはその流れを多少なりとも変える必要があったからです。また同じ日に丁度タイミング悪く、激戦州の一つであるミシガン州でマケイン陣営が撤退することが判明しました。バトルの最中にマケインが力を入れていた州で一つでも撤退が明らかになると、他の激戦州でも雪崩を打って不利になる可能性があります。さらに重要な激戦州を見ると、前回、前々回にブッシュ大統領が勝ったオハイオ、フロリダ、ネバダ、バージニア、ノースキャロライナ、ミズーリ、インディアナ、コロラドでオバマがリードするか、ほぼ接戦の状況だということです。
そしてこの2,3週間の流れを変えた金融、経済の状況は今もって全く不透明であり、金融化安定化法案は成立しましたが、この金融危機、景気の悪化はこれまでのブッシュ政権の政策によるものであり、同じ共和党のマケインにはこれからも不利に働くからです。したがって、何一つとってもマケインが有利になる要素は見当たらないのですが、メディアは依然として「方向付け」に慎重であり、最後まで接戦に持ち込んで国民の関心を引き付け、視聴率、発行部数を上げたいのかと勘ぐりたくなるほどです。
もちろん明日の天気予報が外れるように、明日の政治も何が起こるかわからないというのも事実ですが、今日段階での見方を勇気を持ってお示ししました。

Profile

若林秀樹(わかばやし・ひでき)

-----<経歴>-----

1954年東京生れ。
1976年早稲田大学商学部卒業。
1979年ミシガン州立大学院農学部修士課程終了。
現在、08年3月からワシントンにある政策シンクタンク、CSIS(戦略国際問題研究所)の客員研究員。
80年からヤマハ(株)勤務、労組役員を経て93年からワシントンの日本大使館1等書記官として政府開発援助(ODA)と日米協力を担当し米国際開発庁(USAID)から表彰を受ける。帰国後は電機総研副所長を務め、01年に民主党比例区で参議院議員に初当選。在職中は「次の内閣」経済産業大臣・財務副大臣、国際局副局長を歴任。さらにイラク、シリア、イラン等を訪問し安全保障、復興支援、核問題等幅広く国際問題に取り組む。08年はCSIS(戦略国際問題研究所)客員研究員として活動し、09年1月より非常勤客員研究員。現在、(財)日本国際フォーラム常勤参与・主任研究員。

BookMarks

-----<著書>-----


『希望立国、ニッポン15の突破口』
2006年9月、日本評論社



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