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2007年8月31日

サブ・プライムローン

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自民党が歴史的な大敗を喫した7月29日。
投票日当日はテレビ局は開票速報以外に政治ネタを扱えないため、あの日のサンデープロジェクトも経済をテーマにしましたが、そのタイミングをはかったかのよう、サブ・プライムローン問題が勃発しました。
27日の日経新聞は、ニューヨークの特派員からの記事として次のように報じました。

「26日のニューヨーク株式市場でダウ工業株30種平均が、一時、前日比245ドル超下げた。 株価が不安定さの度合いを強めているのは、信用力が低い個人向け住宅ローンでの焦げ付き多発などをきっかけに、 これまで潤沢に供給されてきたマネーが投資リスクを嫌って株式市場から急速に引き揚げかねないとの懸念が高まっているためだ」
サブ・プライムローン問題について、ひとつ留意すべき点があります。
それはサブ・プライムローンが単純な不良債権問題ではなく、証券市場にダイレクトに影響を及ぼしていることです。

27日の日経新聞もこの点について、言及しています。
「米市場では6月中旬、大手証券ベアー・スターンズ傘下のヘッジファンドがサブ・プ ライムローンを組み込んだ金融商品の価格下落による巨額の損失を抱え、経営難に 陥っていることが表面化。同ファンドの投資家が投資資金をほぼ失う事態に発展した」

日本でも銀行が住宅ローンを証券化して投資家に売却することはいまや当たり前です。
米国のサブ・プライムローンも当然のように証券化されていました。
リスクは高いが金利も高いこの証券化商品に、ヘッジファンドや投資銀行が続々と投資をしたのです。

ところがローンの焦げつきが多発したことから、証券が紙くず同様となり、米国の名だたるヘッジファンドや投資銀行は大きな損失をこうむりました。
日本では野村證券がサブ・プライムローンだけで700億円を越える損失をしたと報じられました。

「世界バブルの崩壊か」そんな激震が走るのもわからなくはありませんが、この時点では、サブ・プライムローンが大きな問題になると専門家の多くは認識していませんでした。
私もサンプロ出演前に、金融のプロ数人にヒアリングをしましたが、マスコミが報じるほどの危機感はありませんでした。

理由はふたつあります。

サブ・プライムローンの不良債権額が金融市場を底抜けさせてしまうほど巨額なものではなかったことです。
FRBのバーナンキ議長の議会証言によれば「不良債権額は10兆円程度」でした。
バブル崩壊で日本が抱え込んだ不良債権の金額が100兆円であったことと、米国の経済規模が日本の2.5倍であることを考えると、その程度では、ただちに米国経済を底抜けさせるようなことはない、ということでした。

2つ目は、この問題が勃発した直後、米国株式市場はショックで暴落をしたものの、金利の急騰現象は起こりませんでした。

そもそも米国内の金利の基準となる米国債が、格付けシングルBの債券と比べ、金利差が2.8%という水準で、サブ・プライムローン問題が勃発したわけですが、その時シングルB格付けの金利は0.8%しか上昇しませんでした。

たとえば98年のアジア危機の当時、LTCMという有名ファンドが破綻をして米国金融界は大混乱に陥りましたが、その当時の米国債とシングルB債の金利差は5%もあったのです。
アジアの通貨危機勃発と同時にシングルB債の金利はなんと2.5%も急騰したのです。
それと比べると、今回のサブ・プライムローン問題では金利急騰もおこりませんでした。
したがって「株式市場はしばらくダメージを受けるだろうが、米国経済や金融市場が底抜けしてしまうようなことはない」
という楽観論が支配的だったのです。
私も7月29日のサンデープロジェクトで、同様の趣旨の発言をしています。

ところが8月3日、NY株式市場が再び暴落。
ここを境に、楽観論が悲観論へと劇的な転換が起こりました。

サブ・プライムローンの証券化商品に投資をしていたヘッジファンドが巨額の損失をこうむり清算に追い込まれるケースが次々と報道されていくプロセスで、シングルB債に代表される低格付け債券の金利が急上昇し始めました。

ひとつまちがえれば、世界中であふれていた余剰資金が一気に冷え込んで、金融市場から引き上げてしまうのではないかという恐怖がマーケットを覆いました。
NY株式市場の暴落は日本、欧州へと飛び火し、世界同時株安の悪夢を再び見せ付け始めました。
日本の株式市場でも8月10日には、一時、500円を超えるほどの暴落となりました。

世界の金融収縮の予防的措置として米欧の中央銀行は、資金繰りを心配して短期金融市場から銀行が多めに資金調達することでさらなる金利上場を招いてしまうことのないように、短期市場への資金供給をきめました。
日銀も10日に、米欧と歩調をあわせ、短期金融市場に1兆円の資金供給を実施しました。
いってみれば、予想外に問題が膨張してしまい、信用収縮を恐れた各国の中央銀行が手早く対応したということです。

そこで肝心なことは、今回のサブ・プライムローン問題がいったいどこまで広がるのかです。

「金利上昇はないから大丈夫」というシナリオが崩壊し、金利が急騰し、世界同時株安が再び起こってしまったとなると、いくら各国の中央銀行が素早い対応をしたとしても、金融市場の混乱が短期間に終結するとは考えにくい。

サブ・プライムローンを担保にした証券に投資をしたファンドや金融機関が大損をするというニュースは今後、さらに増えてくると思いますが、サブ・プライムローンの不良債権規模は10兆円程度ですから、これで世界経済が底抜けしてしまうということはありえない、と私考えています。

ただし、今回株式市場がこうむったダメージの回復は簡単ではないでしょう。
日本株でいえば16000円台を中心に年内もみあうような展開が続くかもしれません。
アジア通貨危機のときのような破綻が起こるとは到底思えませんが、軽い調整ですむというわけにもいかないのかな、というのが現時点での私の認識です。

Profile

財部誠一(たからべ・せいいち)

-----<経歴>-----

1956年、東京生まれ。
1980年、慶應義塾大学法学部卒業。同年、野村證券入社。
1983年、野村證券退社。
1986年、出版社勤務を経てフリーランスジャーナリストに。
1995年、経済政策シンクタンク「ハーベイロード・ジャパン」設立。「財政均衡法」など各種の政策提言を行っている。

-----<出演>-----

『財部ビジネス研究所』 (BS日テレ、土曜23時〜 再放送:日曜9時〜)

『報道ステーション』
(テレビ朝日系/平日21:54〜)

BookMarks

オフィシャルホームページ
http://www.takarabe-hrj.co.jp/

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