Calendar

2011年10月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31          

Recent Trackbacks

« 2011年9月 | メイン | 2011年12月 »

2011年10月21日

高野尖報:NPOに寄付をすると税金が返ってくる?! ── 寄付税制とNPO法の改正の意義

 私は神奈川県知事認可のNPO法人「神奈川馬の道ネットワーク」の理事長を務めていて、このほどその関係者向けに、6月の国会で与野党一致で採決された市民公益税制改正の意味について、とりわけ従来は極めて難しかった「認定NPO法人」の資格取得が大幅に緩められたことについて、分かりやすく説明してほしいとの要請があって、今日その原稿を送った。この問題については、8月のJFNラジオ「ON THE WAY ジャーナル/高野孟のラジオ万華鏡」で法改正の仕掛け人である岸本周平衆議院議員をゲストに招いて詳しく論じているが、その画期性についてはまだ一般によく知られていないようなので、「NPOに寄付をすると税金が返ってくる?!」と題したその原稿をここにも再掲する。

★         ★

 今年6月というと、マスコミ・野党こぞっての「菅首相は辞めろ」の大合唱で世の中が騒然としていた頃で、あまりニュースにも採り上げられなかったので、気が付かなかった人も多かったと思いますが、実は国会では与野党一致で、これからの日本の社会のあり方にとって重要な意味を持つ法律の改正が行われました。

 正式の名称は「市民公益税制改正」で、その中身は、(1)平成23年度分離税制改正法、(2)改正NPO法の2つです。国会やお役所が使う用語はむずかしくて、そう聞いても何のことやら分かりませんが、ごく簡単に言って、NPO法人はじめ公益法人、社会福祉法人、学校法人など公益性の高い団体に個人や法人が寄付をすると所得税などの税額控除が受けられる----例えば「認定NPO法人」に100万円寄付した人は、所得税と地方税を合わせて最大50万円のキャッシュ・バックを受けられることになり、これまでに比べて格段に寄付をしやすい、寄付を集めやすい制度になりました。

 またNPO法人の制度も大きく変わって、今までの面倒きわまりなかった認証手続きが簡略化されて設立しやすくなったばかりか、税制上の優遇を受けられる「認定NPO法人」の条件も大幅に緩和されて、一例をあげれば「各事業年度に100人以上から3000円以上の寄付を集める」ことができれば、それだけで認定NPO法人として認められることになりました。

 これによって、市民が自分の意思に従って「公益」を創り出していく「寄付文化」がようやく日本で緒に着くことになったのです。またその公益を担う1つの形であるNPOについても制約条件が大幅に取り除かれて、「NPO文化」が一気に育っていく可能性が開かれました。私たち「NPO法人神奈川馬の道ネットワーク」としても、この画期的な制度改正をよく研究して、組織と活動を大きく広げていくために知恵を出し合う必要があります。

●寄付大国アメリカと比べて

 寄付文化がもっとも行き渡っているのはアメリカで、08年の統計で寄付の総額は36兆2258億円でGDPの2.20%、その総額のうち82%が個人による寄付です。イギリスでは、07年で総額1兆0812億円、GDP比0.80%の寄付があり、その94%は個人によるものでした。それに対してこれまでの日本は、07年で総額でアメリカの何と60分の1にも満たない5910億円、GDP比で0.11%、しかも寄付を出したのは81%が法人で、個人はわずか19%。1人当たりGDPではアメリカの4万6860ドルに対して4万2783ドルと、豊かさにおいてけっして引けをとらない日本でありながら、寄付という文化はないに等しかったのです。

 どうしてかと言えば、ひと言でいうと、この国は経済の図体だけは大きくても、中身はまだ発展途上国だということです。明治以来、今日に至るまで、この国では、何が「公益」であるかを決定するのも、その公益の軽重や優先順位を判断して国民の税金をどう配分するかを決定するのも、すべて「お上」であって、われわれ「下々」の者が民間同士で勝手に何が公益かを判断してお金のやりとりをするなど、とんでもないこととされてきたのです。

 アメリカでは、芸術、スポーツ、宗教など広い意味での文化に関わる寄付は基本的に非課税であるため、たとえばの話、ニューヨーク市に住む1人の老婦人が、若い時から何十年もニューヨーク・フィルハーモニーの友の会の会員で毎月のコンサートを楽しんで来たが、晩年を迎えて、一生の思い出として手元にある僅かなお金を同楽団に寄付するのは、もちろん個人の自由です。ところが日本では、今までは、そんなことは許されず、そのお金は相続税などの形で召し上げられて、そうして集まった税金のうちいくらを文化庁に割り振るか、文化庁がまたいくらを楽団への補助金に割り振るか、さらにまたその補助金をどこの楽団に割り振るかは、すべてお上が決めることで、民から民へと勝手にお金を動かすことは出来ませんでした。

●「新しい公共」という考え方
 
 つまり、こういうことです。「公と私」「官と民」で座標軸を立てると、発展途上国=日本では、「公」すなわち公共的価値を担うのは「官」であって、「民」は口出ししてはならない。官こそが高潔な精神に基づいて何が公であるかを決めるのであって、私欲の固まりでしかない民にそんなことを判断することなど出来るはずがない、ということになっていたのです。

 実は、官僚も人の子で、汚職は論外としても、退官後の天下り先にしたいところに過分の補助金を回したり、私欲で動く部分が少なくないのですが、まあ一応、そういうタテマエで世の中のお金の配分方法が罷り通ってきた。それが、民主党政権になって、いろいろ批判もありますが、1つ目新しいことは「新しい公共」という考え方をマニフェストの柱に掲げて、公共はけっして官僚の専有物ではなく、民間や地域もまたそれぞれの意思に従って公共的な価値の創出に積極的に関わるべきであって、そうしないと、中央官僚の知恵だけでは現代社会の多様なニーズを満たすことが出来ないではないか、と言い出したことです。

 今回の法改正も、実はその「新しい公共」の具体化の1つです。NPOは、特に阪神大震災のあと平成10年にNPO法が出来て、ボランティア活動をはじめ市民が自由に行う社会貢献活動を国も促すようになり、現在約4万3000のNPO法人が設立されていますが、その中で「認定NPO法人」はたったの230ほど、全体の0.5%しかありません。それは、税制優遇を受けられるようにするには、総収入に占める寄付金の割合が20%以上であることをはじめとして、そのNPOが広く社会の支持を得ているかどうかを国税庁長官が判定することになっていたためです。国税庁は税金をたくさん集めるのが仕事ですから、認定NPOを増やして税収が減るのを喜ぶわけがない。認定を厳しくするのは当たり前でしょう。

●国税庁の権限が取り上げられた

 そこで今回のNPO法改正では、国税庁からその権限を剥奪して、認定を都道府県の自治体に任せることにし、なおかつ、その認定の基準として、今までの「寄付金が20%以上」という規定もまだ残ってはいますが、それ以外に、上述した「毎年3000円以上の寄付を100人以上から集める」とか「事務所が所在する自治体の条例で個別に指定を受ける」とか、新しい規定が付け加えられて、そのうち1つの規定を満たしただけで認定NPOとなることが出来ることになりました。3000円の寄付者を100人以上ということであれば、まともな活動をしているNPOなら、どこでも目標に出来る緩やかな垣根だし、また自治体が自分で条例を作ればもっと別の形で垣根を低くすることも可能でしょう。

 寄付金の税額控除とは、税金を払う国民の側が自分で税金の使い途を決めることが出来るということで、つまりは税金の民主化を意味します。日本が官僚主導の発展途上国状態をきっぱりと卒業して、成熟した民主主義国家、市民社会になっていくための第一歩として、この新しい制度をわれわれ自身が活用し、さらに拡充していくよう下から突き上げていくことが必要です。

 そうは言っても、まだ半信半疑の方もいるかもしれません。しかしそれは、明治以来100年余り、官僚主導、つまりは「お上にお任せ」の思想にドップリと浸かってそれを不思議と思わないでやってきたわれわれの奴隷根性のせいではないでしょうか。

 もう一度言いますが、まず我が馬の道ネットワークも、実際に3000円×100人以上の寄付者を集めて認定NPOになりましょう。認定NPOに寄付をした人は、税務申告に当たって、所得控除にするか税額控除にするかを選択することが出来ますが、税額控除を選択した場合、寄付金額マイナス2000円の40%が所得税から、さらにその10%が住民税から、合計50%(ただし所得税額の25%が限度)控除されます。仮に10万円を認定NPOに寄付したとして、その寄付を通じて社会に貢献しようという貴方の気持に免じて、半分の5万円を国が負担することにして貴方にお返ししましょう----つまり貴方は実質5万円の支出でNPOに10万円の活動資金を与えることが出来るわけです。だったら、最初から10万円の支出を覚悟していたのだから、いっそのこと寄付を20万円にしようかという人も出て来るかもしれない。そのようにしてNPOという新しい公共文化圏を広げていこうというのが今回の趣旨です。

 多くの先進国だけでなく、タイなど東南アジアの国々でも、企業と並んでNPOが社会の一角を占めて、経済活動の担い手となり多くの雇用も生みだしています。アメリカでももっとも市民意識の高いカリフォルニア州では、州GDPの約10%をNPOが生みだしていると言われています。そうすることによって市民の知恵が社会の中を縦横に巡るような本当の成熟先進国のあり方が作られていくのです。神奈川馬の道ネットワークを認定NPOに発展させていくために皆様のご理解とご協力をお願いします。▲

Profile

高野 孟(たかの・はじめ)

-----<経歴>-----

1944年東京生まれ。
1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。
通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。
同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。
80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任し現在に至る。
94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊したほか、PC-VAN・NIFTY-Serve・MSN、富士通ブロードキャストその他電子メディアのコンテンツ創造、講談社・小学館・集英社その他出版社のウェブサイト開設、『インサイダー』のメルマガ化、などを次々に手掛け、インターネット・ジャーナリズムの先駆的開拓者と呼ばれた。
現在、それらの経験を活かして、独立系メディアの総合サイト《THE JOURNAL》に取り組んでいる。
2002年に早稲田大学客員教授に就任、「大隈塾」の授業「21世紀日本の構想」、ゼミ「インテリジェンスの技法」、社会人ゼミ「ネクスト・リーダーズ・プログラム」を担当している。

-----<出演>-----

『サンデープロジェクト』
(TV朝日系、日曜10:00~)

『朝まで生テレビ!』
(TV朝日系、最終金曜25時頃~)

『たけしのTVタックル』
(TV朝日系、月曜日21:00~)

『情報ライブ ミヤネ屋』
(読売TV系、月~金曜21時~)

BookMarks

東京万華鏡:TOKYO KALEIDO SCOOP
http://www.smn.co.jp/

INSIDER:インサイダー
http://www.smn.co.jp/insider/

大阪高野塾
http://www.osaka-takano.com/

-----<著書>-----


『滅びゆくアメリカ帝国』
2006年9月、にんげん出版


『ニュースがすぐにわかる世界地図(2006年版)』
2005年、ポスト・サピオムック


『最新・世界地図の読み方』
1999年、講談社現代新書

『情報世界地図 98』
1997年、国際地学協会

『地球市民革命』
1993年、学研

『21世紀への世界時計』
1991年、集英社

『入門世界地図の読み方』
1982年、日本実業出版社

→ブック・こもんず←



当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.