麻生の心ない言葉で医師の「心が折れた」!
23日付毎日新聞2面「時代の風」欄、精神科医の斎藤環さんの言葉は重い。麻生太郎首相が「医師には社会的常識がかなり欠落している人が多い」という発言に対し日本医師会の唐沢祥人会長が直ちに抗議、麻生は発言を撤回し謝罪したが、医師たちの怒りはとどまるところを知らない。
「とりわけ深刻なのは医療の最前線を懸命に支えてきた医師たちの落胆ぶりである。『総理の発言で心が折れた。もう現場から撤退します』といった声が少なくないのだ」
麻生の前にもう1つ二階失言がある。11月10日に舛添要一厚労相と会談した際に二階俊博経産相が、救急患者に即応できない病院が増えている問題に関連して「何よりも医者のモラルの問題だと思いますよ。忙しいだの、人が足りないだのというのは言い訳にすぎない」と言い、これも抗議を受けて撤回、謝罪している。
斎藤さんは、麻生や二階のような発言が続くのは、彼らがマスコミによる偏向した医療バッシングの影響を受けているからだと指摘する。
「『たらい回し』『受け入れ拒否』『診療拒否』といった誤った言葉が、いまだに流通していることに驚かされる(正しくは「受け入れ不能」)。こうした誤用を改めずにいるマスコミは、果たして政治家の失言を嗤えるだろうか」
労働基準法など無視が当たり前の過酷な労働環境にありながら、第一線で献身的に働くたくさんの無名の医師たちがいる。この人たちの心が折れてしまえば、本当の医療崩壊が始まる。
「2000年にWHOは各国の医療を比較検討し、そこで日本の医療は総合1位と評価された。低いコストで世界一の健康寿命を達成し、国民が自由に医療機関を選ぶことができ、費用の負担も公平である点などが評価されたのである。欧米に比べればはるかに低い報酬と比較にならないほど過酷な労働環境で、患者の命を救うことを第一に考えている医師たちによって、この偉業はなしとげられた。今、その偉業はゆっくりと、過去のものになろうとしている」と。
この言葉を聞けば、麻生の発言は単なる失言として謝れば済むようなことではないことが分かる。なにしろこの国の政府は4半世紀にわたって、「医師が増えれば医療費が膨張する」という奇妙な論理に固執して、「医学部定員の削減」を閣議決定までして医師の養成を抑制してきたのである。医師が減れば医療費が減る? そんなことがある訳ないじゃないか。今年になって政府は医学部の定員を増やすことを決めたが、それで医師の卵がなんぼか増え始めるのは7年先のことである。
次の表はWHOがまとめた人口当たりの医師数(2000〜06年)の統計から上位30位辺りまでを順に並べ替えたものである。日本はほとんどの先進国より少なく、トップのキューバの3分の1、ロシアやベルギーの半分である。
《人口1万人当たり医師数》
01 キューバ 59
02 ギリシャ 50
03 ロシア 43
04 ベルギー 42
05 スイス 40
06 オーストリア 37
イタリア 37
オランダ 37
09 アゼルバイジャン 36
チェコ 36
デンマーク 36
12 ドイツ 34
フランス 34
ポルトガル 34
15 フィンランド 33
スペイン 33
スウェーデン 33
18 ウクライナ 31
19 ハンガリー 30
20 アイルランド 29
21 アメリカ 26
22 オーストラリア 25
トルクメニスタン 25
24 エジプト 24
キルギス 24
ヨルダン 24
25 日本 21
ニュージーランド 21
27 メキシコ 20
タジキスタン 20
29 カナダ 19
ベネズエラ 19
ルーマニア 19