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鞄の中身(4) スイス・アーミーナイフ

鞄の中身(4) Tiffuny Sterling Silver Swiss Army Knife

ナイフマニアで、いろいろな目的別に和洋数十種類ものナイフを持っているが、旅に出るときは、これはいささか自慢のTiffany特注の柄が銀張りのVICTORINOXのスイスチャンプ(31ツールのモデル)を必ず持ち歩く。「ティファニーで朝食を」のティファニーの優雅とスイス・アーミーナイフの無骨という取り合わせが面白くて、もう20年も前になるだろうか、ロサンゼルス・ダウンタウンのティファニーの店で200ドル強で衝動買いして、別途に買った黒革のケースに入れて世界中を一緒に旅してきた。VICTORINOXのカタログを見る限り、今は販売していないようで、たまにeBayなどのオークションに出てくることもあるが、まあ貴重品と言える。

tiffany2.GIF

銀張りの柄にはVICTORINOXの十字マークが刻印してあり、反対側に小さな文字で「TIFFANY & Co./925+750/STER+18K」というクレジットが入っている。数字の意味は不明だが、STER +18は純銀度18を表している。閉じた長さ91センチ、横幅32ミリ、重さ198グラム、メイン・ブレードの刃体長は標準の69ミリだったが、7〜8年前に北海道で乗馬キャンプ旅行をしたときに酷使して先を折ってしまい、家に帰ってから自分でグラインダーをかけて応急措置をしたので、長さが6ミリほど短く、形も不格好になった。

日本の銃刀法では、刃体長60ミリ以上の刃物を理由なく持ち歩いてはいけないことになっていて、飛行機に乗るときの検査もそれに準じている(9・11直後の一時期はすべての刃物がダメだった)。私のTiffunyナイフは63ミリほどなので、飛行機の手荷物には持ち込めない。海外旅行の時には預けるトランクに入れておけばいいのだが、国内旅行の時には預ける荷物がないので必ず引っかかる。それで、国内で飛行機に乗る時にはこれではなく、別のもっと刃体長の大きな単体ナイフを或る特別な方法でバッグに忍ばせる。これは一度も検査に引っかかったことがないが、その方法は公開する訳にはいかない。

私のスイスチャンプの31ツールは次の通り。

01 ラージブレード(丈夫で切れ味のいいメインのナイフ)
02 スモールブレード(細かい作業に適した小刃)
03 マイナスドライバー小(缶切りの先にあり、プラスドライバーとしても使える)
04 缶切り(押し切り型で、オレンジなどの皮むきにも使える)
05 栓抜き
06 マイナスドライバー大(栓抜きの先にあり、90度に曲げて狭い場所でも使える)
07 ワイヤストリッパー(栓抜きの根元の溝で電気コードの被覆を剥がす)
08 リーマー=穴開け(木や革に穴を開ける錐)
09 ソーイングアイ=糸穴(リーマーの中程の穴に糸を通して革やテントを縫う)
10 コルク栓抜き(コルク栓を開けるほか堅くなった紐の結び目を解くのに使う)
11 キー・リング(携帯用に紐を通す)
12 ピンセット(とげ抜き、毛抜き)
13 ツースピック(爪楊枝)
14 はさみ
15 マルチフック(缶のプルを起こすなど、引っかける作業に)
16 ノコギリ(押しても引いても切れる)
17 うろこ落とし(波状の歯を使って魚のうろこを取る)
18 はり外し(うろこ落としの先端のU字の溝で魚の喉から釣り針を外す)
19 スケール(うろこ落としの背側に目盛りがあり、釣った魚を計る)
20 爪やすり
21 金属やすり(同じやすりを金属やすりとしても使う)
22 爪そうじ(やすりの先端で爪の間に入った汚れを取る)
23 金属ノコギリ(やすりの下面に歯が付いている)
24 精密ドライバー(電気配線などの工作に)
25 ノミ(木工用のノミで、狭い溝などの掃除にも使える)
26 プライヤー(ボルトやナットを回す)
27 ワイヤカッター(プライヤーの根元でワイヤを切る)
28 プラスドライバー(90度に曲げても使える)
29 ルーペ
30 ボールペン(上向きにしても書けるスペース仕様)
31 眼鏡ドライバー(コルク栓抜きの中に収納されている極小ドライバー)

スイスチャンプの現行モデルは、このほか、プライヤーの柄に付属する端子潰しの機能と、本体から引き出して使う細いピンが加わって、計33ツール。プラスチック柄で色が赤、黒、青、白の4種類のほか、柄に時計が付いた替わりにピンセットと端子潰しがない32ツールのタイプの計5種類がある。このほか、「スペシャル」シリーズの中に、スイスチャンプ・シェル(柄が真珠母貝)、同スタッグ(鹿角)、同バッファロー(水牛角)、同ウッド(ローズウッド)があり、標準型と比べて端子潰し、ポールペン、ピンがない30ツールで、柄に凝っているだけ値段が高い。私が持っているTiffanyの銀製は、このスペシャルの別バージョンだと思われるが、スペシャルと比べるとボールペンが付いていて1ツール多い。

スイス・アーミーナイフには、VICTORINOXと、もう1つWENGER(ヴェンガー──日本では英語訛りでウェンガーと呼ばれるが、ドイツ語読みならヴェでしょう)がある。

VICTORINOXは、それまでスイスのナイフ市場が欧州最大の刃物産地ゾーリンゲンを中心とするドイツのメーカーによって支配されていた中で、スイスのシュヴィッツという小村で帽子職人の四男坊に生まれたカール・エルズナーがドイツとフランスで修行したあとワークショップを開いたのが始まりの、この国最初の本格的なナイフ・メーカーである。1890年にスイス陸軍が、新型のライフルのメンテナンスに必要なツールを備えた多目的ナイフを兵士に持たせることを決めると、アイズナーはこれに果敢に挑戦して4つのツールを持つ最初の「ソルジャーズ・ナイフ」を開発し、見事に制式の認定を得た。やがてそれをベースに、6つのツールを持つ将校用の「オフィサーズ・ナイフ」を製作したが、これは軍に制式採用されなかったので、同社は特許を確立した上で一般用として売り出した。これが、今日まで同社が世界中に送り出してきた数百種類のモデルの原型となった。VICTORINOXという社名=ブランド名は、アイズナーの母親の名Victoraと、同社が使っているステンレススチールの呼び名INOXを合わせたものである。今のVICTORINOXの社長は3代目カール・エルズナーである。

ところでアーミーナイフの受注に成功したアイズナーは、自社だけでは供給が追いつかないため、スイス各地の刃物職人37人を糾合して「スイス刃物業組合」を結成して彼らに下請けをさせた。その中から独立してスイスで2番目のナイフ・メーカーとなったのがWENGERで、1897年にテオドール・ウェンガーという人物が社長に就いたのでそれが社名になった。どちらも、スイス陸軍制式品であることを示すスイス国旗の十字章を柄にデザインすることを許されており、いろいろ変遷があるが、現在は、やや縦に長く下部が尖っている中に十字があるのがVICTORINOX、やや丸みを帯びた正方形の中に十字があるのがWENGERである。

TiffanyはWENGERにも特注デザインのナイフを作らせていて、これは9ツールのTravellerというモデルと機能は同じだが、柄がプラスチックでなく、厚く丸みのあるステンレスのメタリックなデザインの珍しいもので、十字マークはなく、代わりに柄の裏側に「TIFFANY & Co./SWISS MADE」と刻印がある。これは確か十数年前にニューヨークで買ったが、上記の銀製VICTORINOXを持ち歩くことが多いので、ほとんど自宅待機させられている。これもたぶん今は販売していないと思われる。

wenger.GIF

同じ多目的ツールでも全く趣が違うのは、米国Leatherman(レザーマン)の多機能プライヤーで、もちろんナイフも付いているが、メインはあくまで折り畳みのプライヤーで、その柄の中にいろいろな道具が組み込まれているコンパクト工具である。まさに英語のツールとはこのことである。

ティム・レザーマンという青年が1975年に欧州を貧乏旅行した時に、旅の行く先々でボロ車を直さなければならなかったが、道具がなくて困った。車で旅行するのに必要な道具類を最もコンパクトな格好で持ち歩くにはどうしたらいいかを考えながら帰国した彼は、すぐにガレージに閉じこもって自分の理想の道具作りに取りかかった。8年間を費やしてようやく最初のモデルである「ポケット・サバイバル・ツール(PST)」が完成し、彼は1983年に友人とともに会社を設立した。このいかにも米国人好みの機能一本槍の道具はたちまち人気を博し、世界ブランドにのし上がった。「1つの道具、数千の使い方」がキャッチフレーズである。

以後、MICRA、MINI-TOOL、SLIDECLIP、PST-II、SUPER TOOLなどのモデルが出てその都度改良が施されてきたが、創立15周年を記念して98年に出された最新の中心モデルは「WAVE」で、閉じた状態で長さ100ミリ、開いてプライヤーの形にした長さ160ミリで、17ツールの組み合わせ、重さ216グラム、メイン・ブレードの刃体長75ミリである。革ケース付きで米国内の実価60~70ドル、これが日本の専門店の正価(?)で2万円、実価1万5000円程度(これに限らず輸入刃物の価格はデタラメで、本国に行くかオンライン通販で買うと大体半分から3分の1で買える!)。95年の前モデルSUPER TOOLと比べると、機能はほとんど変わらないが(電工用クリンパーがなくなって鋏が付いた)、重さもサイズも一回り小さくなっている。特徴は、

(1)ハンドルを開かない状態でその両側からメインブレード、波刃ナイフ、鋸、ヤスリの4つのブレードを出すことが出来る、

(2)ナイフと波形ナイフは片手で開くことが出来る、

(3)その4枚とも独立した機構で完全にロックされる(PSTまではロックが不完全でその点ではGerberに遅れをとっていた)、

(4)プライヤーにしたときにハンドルが角張っていて長く使うと手が痛くなったが、丸みが付けられて握りやすくなった、など。

開くと全長16センチの使いやすい大きさのプライヤーになり、プライヤーの根元にはワイヤカッターとワイヤストリッパーが付いている。柄の内側からは、大小4種類のマイナスドライバー、プラスドライバー、缶切り・栓抜き、鋏、携帯用の紐を通すための小穴など小道具が出てくる仕掛けである。さらに別売の「アダプター・セット」(7000円、実価5000円程度)を買えば、6種類の電工用ヘックスドライバーのビットを装着できる。

leatherman.GIF

PSTの大流行のあと、iいくつものメーカーが似たようなものを出しているが、機能美と種類の豊富さではやはり本家のLeathermanに軍配が上がるだろう。私は米国在住の知人からプレゼントに頂いた皮ケース入りのWAVEを、以前はいつも車のグローブボックスに放り込んでいたが、鴨川で田舎暮らしを始めてからは、朝起きるとまずこれを腰に着けて行動し始めることが多い。

[参考]
●平山陽一『ツールナイフのすべて』(並木書房、1998年)
◆VICTORINOX JAPAN(http://www.victorinox.co.jp/)
◆VICTORINOX SWISS(http://www.victorinox.ch/)=英語
◆WENGER(http://www.wengerna.com/)=英語
◆LEATHERMAN(http://www.leatherman.com/)=英語

★この記事は、高野個人HPの「道具」→「ナイフと小刀」欄の記事を改訂・要約しました。

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コメント (1)

無差別殺傷事件が取りざたされている中でナイフをネタにした記事はどうかのぉ・・・

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Profile

高野 孟(たかの・はじめ)

-----<経歴>-----

1944年東京生まれ。
1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。
通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。
同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。
80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任し現在に至る。
94年に故・島桂次=元NHK会長と共に(株)ウェブキャスターを設立、日本初のインターネットによる日英両文のオンライン週刊誌『東京万華鏡』を創刊したほか、PC-VAN・NIFTY-Serve・MSN、富士通ブロードキャストその他電子メディアのコンテンツ創造、講談社・小学館・集英社その他出版社のウェブサイト開設、『インサイダー』のメルマガ化、などを次々に手掛け、インターネット・ジャーナリズムの先駆的開拓者と呼ばれた。
現在、それらの経験を活かして、独立系メディアの総合サイト《THE JOURNAL》に取り組んでいる。
2002年に早稲田大学客員教授に就任、「大隈塾」の授業「21世紀日本の構想」、ゼミ「インテリジェンスの技法」、社会人ゼミ「ネクスト・リーダーズ・プログラム」を担当している。

-----<出演>-----

『サンデープロジェクト』
(TV朝日系、日曜10:00~)

『朝まで生テレビ!』
(TV朝日系、最終金曜25時頃~)

『たけしのTVタックル』
(TV朝日系、月曜日21:00~)

『情報ライブ ミヤネ屋』
(読売TV系、月~金曜21時~)

BookMarks

東京万華鏡:TOKYO KALEIDO SCOOP
http://www.smn.co.jp/

INSIDER:インサイダー
http://www.smn.co.jp/insider/

大阪高野塾
http://www.osaka-takano.com/

-----<著書>-----


『滅びゆくアメリカ帝国』
2006年9月、にんげん出版


『ニュースがすぐにわかる世界地図(2006年版)』
2005年、ポスト・サピオムック


『最新・世界地図の読み方』
1999年、講談社現代新書

『情報世界地図 98』
1997年、国際地学協会

『地球市民革命』
1993年、学研

『21世紀への世界時計』
1991年、集英社

『入門世界地図の読み方』
1982年、日本実業出版社

→ブック・こもんず←



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