毎日新聞の「大隈塾」記事・その後
1月11日の本ブログで同日付「毎日新聞」で早稲田大学の「大隈塾」が採り上げられていることを紹介した。後日談が2つ。
(1)ゼミ生から寄せられた感想
この記事について、大隈塾演習を04年度に履修して現在米国留学中の学生から感想が寄せられた。なかなか鋭いので、本人の了解を得て転載する。なお本人が直接、毎日新聞に対して同様の趣旨をメールで送ったところ、すぐに書いた記者本人から懇切丁寧な反論と弁明が届いたという。こういう対応は偉いよね。ところで、この学生の意見を理解するには、私の短い要約だけ読んでいてもダメで、元の記事の全文を読まなければならない。まだ読んでいない方はこちらへ。
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04年度に大隈塾ゼミを履修していました、古屋宏樹です。現在アメリカ留学中につき、ゼミの飲みやラグビー等参加できず、ご無沙汰しておりまして恐縮しています。毎日新聞の「大隈塾」についての記事を読んで感じるものがありましたので、感想をお送りしたいと思いました。
個人的には、丹羽さんの講演を聞いて、多くの感銘をうけ、ゼミもたぶん丹羽さんの話を中心とした志望理由を提出し合格したので、ああいう引用のされ方を見ると正直良い気がしません。90分の授業の中で、丹羽さんは非常に多岐にわたって、示唆の富む人生感を語ってくださいました。そもそもリーダー論も、「みんなが右向け右で、一斉に残業して、一斉に出世する必要はなく、家庭を重視するものがいてもいいのでは」という形で前置きがあって、「それでもリーダーになりたい者は」という形で話に入っていたように記憶しております。
読んだ感想として、連載の性格上からも、始めに結論ありきで、そこの結論にそぐう形で上手いところだけ拾ったなという印象を受けました。格差社会に疑問を投げかけるという形で、たまたまリーダー養成を主眼とおく大隈塾が格好の題材になったような気がします。どなたのことかわかりませんが、引用にある政経学部の学生の方についても、大隈塾とは完全に関係ない帰国子女としての生い立ちを書かれています。格差社会というのを強調するために、大隈塾を扱いながらしながら、そこの部分だけまったく別物の、家庭環境の違いによる格差について言及している節があるかと思います。
将来報道機関に就職することを希望する自分に取って、こういった記事を書かないように気をつけなければという反面教師として読みました。完全に虚偽の事実を書く事は問答無用で悪いことなのですが、事実のなかから自分の主張に都合のよいものだけをパッチワークして記述し、一定の事実を書かないこともまた、悪いことだと考えています。また、自分は社会学を専攻しているため、レポートで社会問題に触れることが多いのですが、こういったようなことをレポートでしないように心がけねばなと痛感しました。何か主張をするということは、出来事の多様性を自分なりに解釈するということで、その過程で多様性の一面しか見えなくなってしまいがちなので、気をつけねばと痛感した次第です。
大隈塾は非常に人生観に影響を受ける授業であったので、大変感謝しています。このような記事が今後の後輩に対する授業に悪影響を与える事を若干懸念しています。先生方には、引き続きこの授業と演習がより良いものになるよう、ご指導していただけることお願いします。
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(2)16日付毎日でもう一度採り上げてくれたのはいいが…
私もコメントしているように、山種証券の元社長が財務担当副総長になったことと大隈塾の成り立ちは何の関係もなく、記者の事実誤認である。大学側(大隈塾がその傘下にあるオープン教育センター)がその旨事前にクレームを付けたが訂正が間に合わずそのまま記事が出てしまった。その償いということなのだろう、16日付同紙20面の「教育の森」欄の「存続の危機、改革急ぐ大学」の記事で、11日付の記事の要旨を再録した上で、大阪経済大学と早稲田大学の努力を採り上げ、早稲田については次のように書いている。
「早大は奥島孝康前総長のもと02年度、学部や学生の垣根を取り払い、全学から受講生を募る『オープン教育』を始めた。白井克彦現総長も熱心に推進する。『大隈塾』はその目玉講座だ。早大OBでジャーナリストの田原総一朗氏が奥島前総長と懇談した際にアイデアが生まれた。塾頭の田原氏の人脈で一流ゲストが招かれる。受講定員は220人前後。一方、受講者の中から論文と面接で選ばれた学生20人によるゼミ「大隈塾演習」は、政治経済学部の高野孟客員教授が担当する。(以下略)」
これで、大隈塾を始めたのは奥島前総長と田原氏であるという点は正確になった。が、高野が政治経済学部の客員というのは事実誤認で、オープン教育センターの客員。訂正という形でなく別の記事で補足するという上手なやり方で大学側と折り合いを付けようとしたのだろうけれど、そこでまた間違えちゃうんだからね。大学側はまた訂正を申し入れている。訂正の訂正が出るのかな。まあ肩書きなんてどうでもいいんだけどね。それにしても、肩書きは必ず本人もしくは当事者に確認するのが記者のイロハだが、そういうことが出来ない記者が増えているのは嘆かわしい。