A3(エー・スリー)森達也著 (集英社インターナショナル)
「オウム真理教事件」から、もう10数年になる。あの地下鉄サリン事件の日、私はちょうど旅行中だった。明確な記憶は薄れたが、空港のロビーでテレビに見入っていたことは覚えている。確か、福岡空港だった。その後、日本を覆い尽くした風潮については、ここで私が書くまでもない。
本書「A3」は、「A」「A2」に続いてオウム真理教を扱っている。前2作と同様、オウム真理教や麻原彰晃(本名・松本智津夫)にできうる限り接近し、本書は出来上がっている。だからといって、(当たり前のことだが)、森氏はオウム真理教やその事件を擁護しているわけではない。オウムに限らず、異質なものを排除しようとし、その理屈付けを「常識」へと昇華させていく、その社会のおかしさを突いているのである。
「A3」を読むと、メディアが伝えるのは、「社会全体がすでに合意していること」だと分かる。それが言い過ぎであれば、「まだ合意には至っていないが、納得したい内容」と言い換えてもいい。分かっていることを伝える・拡大する、体勢が納得したい理由付けを伝える・拡大する。それがメディアの本質であると、森氏は言っている。
そういった、奔流のような社会の趨勢に抗うものが必要であり、かつ、それが仮に可能だとすれば、その手立ては「愚直な質問の積み重ね」しかない、と思う。分かったふりをしない。分かったつもりにならない。常套句を用いて世事を理解したつもりにならない。そういった愚直さである。それは何も、取材・報道の現場に限った話ではない。
熊本日日新聞による「オウム真理教とムラの論理」(朝日文庫)も、愚直さを感じる良書である。
※この記事は「『ニュースの現場で考えること』の書棚」より転載しました
コメント (2)
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投稿者: 《THE JOURNAL》編集部 | 2011年1月13日 17:20
こんにちは(いま14日pm4:45頃です)
そうですね。
僕らは悪は悪。どこまでいっても悪だと思わされている。
例えば、オウム
例えば、ビン・ラディン
例えば、ヒットラー
ジャーナルで言えば、菅さんは絶対悪
そして、小沢さんは絶対善。
そんな単純なことでしょうか?
それぞれの論理があり、それぞれの情動があるって考えるべきでしょう。
相手のいうことには目もくれず、自分のいいたいことだけを主張する。
そうではなく、相手の言うことにも聞いてみる。尋ねてみるっていうことがあってもいいような気がする。
その際は、ヒステリックにならず、真摯に聞いてみる。
最低限の態度だと思います。
投稿者: xtc4241 | 2011年1月14日 16:55