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官房機密費とメディア ── 連綿と続く癒着の構造 »

事件報道の書き方を変えよ(2)

 日本の事件報道は過去、捜査当局の言い分を信頼しすぎてきた。起訴前の捜査は元来、見込みと不確実さを多分に含んでいるにもかかわらず、日本の報道界は、「捜査情報のスクープ」こそが本当のスクープであるとの認識に立ち、捜査当局と同じ目線で情報を拡散させてきた。
 なんだかんだと言っても、それが現実である。だから、警察・検察担当記者と捜査当局は、だいたいにおいて、同じ方向を向いている。捜査当局と一体になった激しい容疑者バッシング、「推定無罪の原則」など完全に忘れたかのような「犯人視報道」・・・。こうした例は枚挙にいとまがない。
 捜査当局を常に「正義」として捉え、当局と一緒になって「勧善懲悪」式の報道を繰り返す日本のメディアは、ほんとうに何というか、ウブだなと思う。

 捜査当局と報道各社の関係は、いまや「構造」である。
 前回の「事件原稿の書き方を変えよ(1)」で、筆者は、3つの要因がその構造を支えていると書いた。すなわち、記者の配置の問題(警察・検察記者クラブへの人員の過剰配置)、記者の目線問題(捜査当局と二人三脚になった犯人捜し・容疑者バッシング)、原稿の書き方、の3点である。このうち、改革が最も手っ取り早いのは、「原稿の書き方」だろう。「構造」は簡単には変革できないが、「書き方」の改善は、やろうと思えばすぐにでも可能だ。

 ところで、日本新聞協会は2008年1月の「裁判員制度開始にあたっての取材・報道指針」の中で、「捜査段階の供述の報道にあたっては、供述とは、多くの場合、その一部が捜査当局や弁護士等を通じて間接的に伝えられるものであり、情報提供者の立場によって力点の置き方やニュアンスが異なること、時を追って変遷する例があることなどを念頭に、内容のすべてがそのまま真実であるとの印象を読者・視聴者に与えることのないよう記事の書き方等に十分配慮する」と明示している。それに沿って、多くの新聞社が独自にガイドラインなどを設けた。

 ただし、多少のガイドラインを設けはしたが、それ以降も容疑者を「犯人視」する風潮など、実態は何も変わっていない。ひどいものである。新聞協会の指針や自社の取り決めなど、早くも忘れ去ってしまったかのようだ。
 一例を挙げよう。実際の事件原稿をもとにした、あくまでもモデル原稿である。まず、現在、通常に使用されている形式で、この事件を読んでもらいたい。下敷きにした原稿は、通信社のものである(もちろん、内容は少し変えてある)。

 他人名義のクレジットカード情報を悪用し、公演チケットをだまし取ったとして、警視庁銀座署は5日までに、電子計算機使用詐欺の疑いで、東京都港区、会社役員X容疑者(34)を逮捕した。銀座署によると、X容疑者は複数人のカード情報を使い、昨年4月以降、約180件の詐取を繰り返しており、被害総額は約3400万円に上るとみられる。
 X容疑者は「盗まれたカード番号を使った」と供述しているが、被害者の一人は「カードを盗まれたり、人に貸したりしたことはない」と話しており、銀座署は、カード情報のみを不正に入手したとみて調べている。
 逮捕容疑は昨年11月7日、チケット販売会社のサイトに、別人の名義のカード番号や有効期限などを入力し、劇団の公演のチケット2枚(2万円相当)をだまし取った疑い。X容疑者は「チケットはインターネット掲示板で転売し、約2千万円の利益を得た。ぜいたくな暮らしがしたかった」と容疑を認めている。

 読んでみて、どうだろう。実際の逮捕容疑は「2万円の詐欺」なのに、「数千万円の詐欺」が確定的事実のように伝わってくる。そう感じるのは、私だけではあるまい。この記事が仮に、他社の知らない「スクープ」だったとすると、この程度の内容でも社会面の2番手くらいの扱いになるかもしれない。その場合はたぶん、「他人になりすまし 34歳男 電気計算機使用詐欺で逮捕 3000万円超を荒稼ぎか」といった感じの見出しも付くに違いない。

 では、この原稿を以下のように改訂してみよう。ポイントは「情報の出所をできるだけ明示する」ことにある。

 警視庁銀座署は5日、電子計算機使用詐欺の疑いで、東京都港区、会社役員X容疑者(34)を逮捕したと発表した。銀座署の広報担当である山田タロウ副署長によると、X容疑者は複数人のカード情報を使い、昨年4月以降、約180件の詐取(被害総額は約3400万円)を繰り返していたとの情報を警察はつかんでいるという。ただし、当新聞は警察側からの情報以外に、この事件に関する情報は得ていない。
 報道発表文によると、X容疑者の逮捕容疑は昨年11月7日、チケット販売会社のサイトに、別人の名義のカード番号や有効期限などを入力し、劇団の公演のチケット2枚(2万円相当)をだまし取った、という内容。逮捕状は今月4日夜に執行された山田副署長によると、X容疑者は「チケットはインターネット掲示板で転売し、約2千万円の利益を得た。ぜいたくな暮らしがしたかった」と供述しているという。
 しかし、X容疑者が関与したと警察が判断している「約180件」について、どのような形で関与を特定したのか、という記者の質問には、副署長は回答しなかった。「約180件」のうち被害届が出ている件数についても回答しなかった。
 山田副署長によると、X容疑者は逮捕された後、弁護士を呼んでいない。

 「捜査情報の出所の明示」を記事の基本に据える場合は、単なる「関係者によると」という表記は使用しない。どのような関係者か、を極力具体的に書く。捜査に関わる人が情報源の場合は、「県警捜査2課の捜査員によれば」「県警の捜査員によれば」などのように、必要に応じて明示の度合いを考えていけばよい。
 その際も、広報担当の「副署長」「次席検事」などは実名で表記すべきだ。
 強大な権力の行使者だから、例えば、被疑者を起訴した際の検察官の名前、起訴時に報道向けにそれを説明した人物(通常は次席検事)なども実名で記述していくべきであろう。

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 所謂「陸山会」問題に関し、頭狂痴犬特騒部が民主党小沢前幹事長に対して「嫌疑不十分」で2度目の不起訴処分を決定したのは今年5月21日のことである。  日本... [詳しくはこちら]

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《THE JOURNAL》では、今後もこのコミュニティーを維持・発展させていくため、コメント投稿にルールを設けています。はじめて投稿される方は、投稿の前に下記のリンクの内容を必ずご確認ください。

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ご理解・ご協力のほどよろしくお願いいたします。

高田 様

 『事件報道の書き方を変えよ(1)』も、そうでしたが、陸山会の『虚偽記載』報道に限っては、特に『書き方』の問題では、ありません。

 問題は、『登記記録』、『収支報告書』、『現金・預金出納長』、『確認書』等の証拠資料との確認作業の怠慢、分析力の欠如、会計実務知識の欠如、それと、一番大事な『正義の心』の欠如だと思いますよ。

《THE JOURNAL》編集部 殿
 何度も催促して申し訳ありませんが、下記の『よろんず』への、私の投稿を、至急、記事に上げて頂けないでしょうか。参議院選挙前に、皆さんに読んでほしいものですから。
http://www.the-journal.jp/contents/yoronz/2010/03/post_63.html
投稿者: 冨田秀隆 | 2010年7月 2日 15:10

高田様
わかりやすい説明ありがとうございます。その通りだと思います。税金で禄を食んでいる人は(ようするに全公務員)国民に対してアカウンタビリティーがあると思います。現在の官僚機構では、国民の利害に直結する物でも責任を取るシステムになっていません。
 民間に置き換えると提供する商品、サービスに瑕疵があった場合、賠償責任が発生し、担当者、責任者はその内部で相応の責任を取らされるはずです。
 翻って公務員は作為、不作為を含めて提供するサービスに対して瑕疵があった場合、よほどのことがない限り、個人の責任が追及されることがありません。
 このシステムが改められないかぎり、官僚、公務員に文句を言っても馬の耳に念仏です。提供するサービスに対してきちんと責任を持つという当たり前の社会の実現を具現化できる政治家を選びたいものです。

記者クラブ問題=「国民」と「マスコミクラブ13社」の官製情報をめぐっての権力闘争なのでは?
13社は談合色が強くて初めて機能し編集権が力(権力)を発揮できる組織(商業マスコミ、洗脳、教育も含め捏造偏向編集が可能)
これら媒体ゆえの力を源泉に対官僚に対しても対等以上の関係にも
又利権の獲得も容易に運ぶ
勿論国民、立法府は商業マスコミにとっての位置づけのみ
記者クラブは諸悪の根源と位置づけていいのでは

どこかのサイトで、どなたかの論説を読んでさもありなんと思ったのですが・・・

日本の「新聞協会賞」と米国の「ピューリッツア賞」の選考基準の決定的な違いがあるようですね。

「特ダネ」至上主義の新聞協会賞を米国基準に変えることも必要かと思います。

もちろん、我々読者・視聴者もこの記事のニュースバリューが何であるのかといった具合に変わらなければなりませんね。
(例えば、政局的な永田町村で誰々さんと誰々さんは、仲が良いだの反目し合ってるだの、密会しただのなんてことを知らされたところで、ほとんど何の意味もありません)

「 阿修羅 」 の [ 運動部へ左遷させられた道新デスクが 「 記者はポチ 」 と痛烈批判  ( THE INCIDENTS インシデンツ 正式オープン準 ) ] のサイトに, 高田昌幸氏に関する情報が書かれている。 参考になるので, 一読されたし。

05年「裏献金」も立証へ 小沢氏団体の虚偽記入事件

 小沢一郎民主党前幹事長が不起訴となった収支報告書虚偽記入事件の公判前整理手続きで、検察側が、水谷建設(三重県桑名市)から元公設秘書大久保隆規被告(49)=政治資金規正法違反の罪で起訴=に渡ったとみている2005年の「裏献金」5千万円についても立証する意向を固めたことが6日、関係者への取材で分かった。

 水谷建設の「裏献金」の存否をめぐっては、検察側が既に、元私設秘書の衆院議員石川知裕被告(37)=同=が04年に受け取ったとみている5千万円の立証方針を固めている。両被告側はいずれも「受け取ってない」と強く反発、公判で証拠調べの対象になるかどうか焦点となりそうだ。

 関係者によると、水谷建設側は東京・赤坂のホテルで04年10月と05年4月、5千万円ずつ計1億円を渡した、と前社長らが東京地検特捜部に証言。小沢氏の地元である岩手県奥州市で建設中の胆沢ダム工事の下請けに参入する目的だったと説明した。

 公判前整理手続きでは、検察側が公判で証明予定の具体的な内容を示し、その証明に使う証拠を法廷で調べるよう請求。これに対し弁護側は同意か不同意かなどの意見や、公判で予定している主張を明らかにする。
http://www.47news.jp/CN/201007/CN2010070601001025.html


この記事では、「関係者によると」の部分に「東京地検特捜部の立件担当」という肩書きを入れ、実名を記載すれば概ね公正な表記といえるでしょうか?

高田昌幸様

 新聞報道などの誤報や犯罪事件の「えん罪」の原因は、捜査当局を最大の情報源にしているからと指摘されてます。その通りだと私も思います。
 警察や検察依存で、真偽を見分ける力が劣り、報道する側が情報源と一体化しているから危険です。むしろ権力をチェックする機能が必要です。
古くは「三億円強奪事件」で府中市に住む26歳の男が容疑者と一斉に報道され、「松本サリン事件」では、河野さんが容疑者として報道され、足利事件では菅家さんのえん罪が新しい記憶として思い浮かびます。
 関係者の話によると、××筋の話では・・・はまゆつばものです。結局、誰が話したのか曖昧なままで報道されている場合が結構多いです。編集方針で、字数の制約やシンプルな記事の書き方が求められているのでしょうが、情報が「誰によって」語られているか重要です。
 また記者クラブ体質で、各社横並び記事なら「みんなで渡れば怖くない」で誤報も作られます。自民党内閣時代は、政敵を葬るために、内閣が検察と同調していた憶測もあります。マスコミがそれらのリーク情報の「尻馬に乗って」世論形成に荷担しているなら、権力の暴走を止めるどころか利用されているとしか思えないです。

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高田昌幸(たかだ・まさゆき )

-----<経歴>-----

1960年、高知県生まれ。
1986年、北海道の地方紙入社。経済部、社会部、東京政治経済部、ロンドン支局などで取材。
1996年、取材班の一員として「北海道庁公費乱用の一連の報道」で新聞協会賞、日本ジャーナリスト会議(JCJ)奨励賞を受賞。
2004年、取材班代表として「北海道警の裏金問題取材」で新聞協会賞、JCJ大賞、菊池寛賞、新聞労連ジャーナリスト大賞を受賞。「記者会見・記者室の完全開放を求める会」世話人。

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