就任演説から読み解くオバマの“Change”
過去の米大統領とオバマ大統領の就任演説を比べたとき、最も内容が似ているのはケネディでしょう。ケネディは就任演説で「米国民諸君、国があなたたちのために何ができるかではなく、あなたたちが国のために何ができるかを問いかけよ」という歴史に残る名文句を残しました。ところが、オバマはそういった名文句は最後まで一言もなかった。これは、選挙中はアメリカ国民へのアピールのためのパフォーマンスが必要でしたが、大統領は会社でいう経営者ですから、アピールよりも「私はこうする」という、理念よりも現実を重視したからでしょう。
そのほか、オバマの演説で気になったのは、「歴史」と「先人」という言葉を繰り返すことで、アメリカの歴史を何度も何度も強調したことです。アメリカとは、「多くはその苦労が世に知られていない人たち」によって歴史がつくられたともオバマは語りました。独立戦争、第二次世界大戦、ベトナム戦争まであげてアメリカの歴史を語っています。
なぜ、オバマは歴史を強調するのか。彼は44代目の大統領にしてはじめてのアフリカ系大統領ですが、彼が大統領になれたのはアメリカの突然変異ではなく、約230年の歴史のなかで必然的に誕生したものであり、当然の結果であることを言いたかったのでしょう。
ところが、これは作家の佐藤優さんに教えられたのですが、就任演説の最後の部分に「首都は見捨てられ、敵が進軍してきたた。雪は血に染まった」と、非常に感情的な言葉を発しています。
「敵」とはイギリスのこと。アメリカとイギリスは兄弟のような国ですが、そのイギリスに向かって「敵」という言葉を使った大統領は、おそらく過去にいません。
なぜ、オバマはあえてイギリスに対して「敵」という言葉を使ったのか。佐藤さんの指摘では、これまでのアメリカは、メイフラワー号に乗ってきたピューリタンの人たちがアメリカのルーツであり、いわば白人(WASP)が中心になって国を造ってきた。これが自他共に認めるアメリカ常識でした。
しかし、オバマはイギリスをあえて「敵」と呼ぶことで、これからのアメリカは白人も黒人も少数民族も民主党も共和党もみんなが一丸となって United States of America を造ることを強調したかったのだと思う。Changeとはまさしくこのことです。その意味では、野心にあふれた意欲満々の演説で、そこがとても印象的でした。