
昨日の大隈塾は、諸井虔さんがゲスト講師だった。
諸井さんには、「財界のリーダー今昔」のような話をしてもらった。土光敏夫さんは「メザシの土光さん」で有名になったが、実は、お昼ご飯にはカツ丼やステーキやカロリーの高いものを食べていた。諸井さんいわく、「お昼にちゃんと栄養補給してました」と。
もちろん、今の若手の財界リーダーとしての三木谷楽天社長のこともきいた。
諸井さんは、三木谷さんのことを
「興銀の後輩だから、あんまりいいたくないんだけどね」
といいながら、
「ウソつきだ!」
といっていた。
「TBSの株を買わないと私にいっていたのに、あんなにたくさん買った。品がない」
と。
諸井さんはTBSの社外取締役で、特別委員会の委員長でもある。そうした立場での発言だと私は思っているが……。
実は、その日の夜は、三木谷さんにインタビューすることになっていた。
大隈塾のゼミ生たちに、こんな話をした。
大学2年から4年生の彼ら彼女らは、まさに「ゆとり教育」で育ってきた世代だ。
ゆとり教育の特徴は、総合学習の時間という科目をもうけて、そこで自分の力でいろいろなことを調べてみる、ということにある。教師は指導するのではなく、「支援」する、というものだ。
ところが、このゆとり教育が学力低下に結びついたと主張する声が大きくなり、文部科学省はついにゆとり教育を見直すことに方針転換したのだ。
さて、ゆとり教育が成功した学校と失敗した学校がある。この差はどこにあるか。
成功した学校は、みっつのことを実践している。
(1)「調べる」というのはどういうことか、生徒たちにしっかり教える。
(2)調べたことを「どうまとめるのか」、生徒たちにしっかり指導する。
(3)まとめたことをみんなの前で「どう発表するか」、生徒たちと一緒に試行錯誤する。
実は、新聞やテレビの報道はここがちゃんとなされていない。調べるとは、まとめるとは、どう伝えるのか、まるで教育していないのだ。
だから、記者たちはネットでちょこちょこと、あるいは熱心に調べて終わりにしている。
大事なのは一次情報だ。一次情報とは何か。本人のことだ。何事につけ、本人にあたって意見を聞き、論を戦わせてはじめて「情報をとった」といえるのだ。それなのに、伝聞情報、二次とか三次情報だけで、「〜といわれている」という報道をしていると思い込んでいるのがメディアの記者たちだ。
残念ながら、一次情報にきちんとあたっている記者は驚くほど少ない。
ゼミの学生たちは、必ずしも報道関係に携わろうとする人たちばかりではない。しかし、何の仕事をするにしろ、自分で情報を集め、企画をし、その企画を実現させ、結果を出すことが、プロのビジネスマンでありビジネスウーマンである。
大隈塾では、これを「エリート」と呼んでいる。
(大隈塾については、http://www.waseda.jp/open/attention/ookuma/ookuma_curriculum_2005.html)
12月4日のサンデープロジェクトでは、メインの出演者がなかなかきまらなかった、と前々回書いた。
実際に番組を見た方はわかると思うが、イーホームズの藤田東吾社長にはインタビューできていた。
しかし、スタジオに来てくれることも、録画での出演も無理だと。それで、インタビュー場面の写真と映像資料と、そして彼のコメントで構成したVTRをつくって、藤田氏の言い分を少しだけ紹介した。
なぜこんな、まどろっこしいことになったのか。
繰り返して記すが、オンエア前日の午後7時ごろまで、あの問題の関係者はすべて出演拒否。プロデューサーはじめスタッフ全員は、胃が痛む思いをこらえて知恵を絞り、あの手この手でアプローチをしていた。なんせ、事務所の電話も携帯電話もつながらず、連絡先すらわからない状態でもあったのだ。
そこで、ようやく藤田氏とつながったのが午後7時ごろ。私はスタッフから電話を替わってもらい、なんとかスタジオへ来てくれ、それがダメなら録画ででもいい、と説得した。
ダメだと、彼はいった。なぜか。
田原さんにはぜひ話を聞いてもらいたい。全部話す。しかし、テレビでその映像と声を流されるのは困る。
ひとつは、テレビに出ることによって、本当の自分の人格と違う自分が歩き出す、本当の真実とは違うメディアでの真実が歩き出す、と。
私は反論した。冗談じゃない。意図的に編集したり、悪意を持ったひっかける質問などするわけがないと。
彼は、それも違うといった。質問者、編集するスタッフにその意図はなくても、見ている人が勝手に解釈する。それがテレビだと。
もうひとつ。今、すべて本当のことを話すと、生命が危ない。
私はそれにも反論した。まだ若いんだから、仕事はいくらでもある、人生やり直しはきくだろうと。もちろん、彼の人生をダメにしかねないという良心の呵責は私にもあったが。
だが、彼はそれも違うといった。
具体的に、生命が消されるんだと。そういうものなんだと。
ならば、話だけでも聞かせてくれ、本当のことを教えてくれとお願いした。
藤田氏は、絶対に映像も音声も記録しないことを条件に、承諾してくれた。
深夜、約束の場所に藤田氏が現れ、真実を語っておよそ2時間半。あっという間だった。
だが、午後5時から番組の最終打ち合わせを始め、出演交渉を続け、藤田氏にようやくOKをもらい、話を聞き終わったのがその日の深夜だ。疲れないわけはない。
しかしスタッフは、そこからが勝負だった。メモからコメントを正確に拾い上げ、映像資料を探し、組み合わせ、ナレーションを入れ、オンエア用のVTR全体を構成し終えたのは、本番の本当に直前だったのだ。
だれ一人、一睡もしなかったらしい。
藤田氏の勇気に感謝するし、こうしてぎりぎりのところで支えてくれているスタッフがいるからサンプロが成り立っていると、スタッフにも感謝している。