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『週刊朝日』連載中止事件は「言論の敗北」ではなかったか »

『週刊朝日』連載中止事件

『週刊朝日』の橋下徹大阪市長に関する佐野眞一さんの連載が中止になった事件は、いろいろなことを考えさせられた。いまだにこれでよいのかと思わざるをえないのだが、それについて書いておこう。まず、以下は東京新聞に連載しているコラム「週刊誌を読む」に二度にわたって書いた記事だ。

■10月21日付東京新聞
『週刊朝日』10月26日号から始まった佐野眞一さんの連載「ハシシタ 奴の本性」が打ち切りになった。十六日に発売されたその号は、表紙に橋下徹・大阪市長の写真を掲げ、大々的に連載開始を宣言。本文中で佐野さんも、橋下市長が反撃してくることを予測していた。反撃を覚悟したうえで開始した連載だったことは明らかだ。

 それが発売二日後に謝罪、三日後には連載打ち切りが決まった。最悪の結末と言うほかない。『週刊朝日』に対するダメージはもちろんだが、言論やジャーナリズムに対する信頼感をも喪失させるような事態だ。どうしてこんなことになったのか、きちんと検証すべき事例だろう。

 橋下市長の出自を問題にするというアプローチは、昨年『週刊新潮』『週刊文春』がさんざんやって批判を浴びたものだ。私も当時、批判した。

 ただ超ベテランの作家である佐野さんが、その単純な二番煎じをやるとは思えないし、第一回で敢えて挑発的な書き方をするというのも佐野さん流の手法だ。だからせめて何回分か読んで佐野さんの意図したテーマを理解したうえで評価をくだすべきだ。私はそう思っていたから、第一回で打ち切りという事態は残念でならない。

 今回の事件は複雑な問題が含まれており、議論すべきことがたくさん残されている。朝日新聞出版の謝罪文では、記事中に被差別部落の地区名を記載したことが誤りだったとしているが、では地区名を伏せればよかったのか、橋下市長の血脈を探るという方法論についてはどうなのか。差別と文学といったテーマに関わるそういう問題は曖昧なままだ。
 
 橋下市長が親会社の朝日新聞社を攻めるという反撃方法をとったことも問題を複雑にした。これまで検察報道などで『週刊朝日』と朝日新聞の論調が違った時には「週刊誌は別会社だから」という言い方で乗り切りがなされてきたのだが、今回橋下市長は、その論理を許さなかった。編集権の独立という微妙な問題も今回は浮き彫りになったように思う。
連載が打ち切られたという結果が独り歩きし、『週刊朝日』を叩くだけで議論すべきことが葬られてしまうとしたら一番問題だ。

■10月28日付東京新聞
 いったいどうしちゃったの、という感じなのが『週刊朝日』だ。橋下徹・大阪市長の抗議を受けて佐野眞一さんの連載中止を決めた翌週11月2日号に「おわびします」という謝罪文を掲載した。目次の次の見開き二ページにわたって、これ以上目立つ載せ方はないというほど大々的に謝罪文を掲載したのは、ある意味潔いとも言えるが、できればその潔さをもっと違う方に示してほしかった。

「差別を是認したり助長したりする意図はありませんでしたが、不適切な表現があり......」というのが謝罪の骨子だが、前号の記事中に被差別部落の地区名などを掲げたことに謝罪しているのか、あるいは橋下市長の血脈を探るといった企画、アプローチの仕方そのものが誤りだったと言っているのか、相変わらずわかりにくい。スペースは大きいが、内容空疎な謝罪なのだ。

 橋下市長にあえてケンカを売りながら、抗議を受けた途端に連載中止を決めるというその対応は、かつて差別表現が見つかった時に出版社が慌てて出版物を絶版回収にしたのとそっくりだ。そうやって表現を封印するのではなく、むしろどこがどう問題だったのか丁寧な説明をつけて、差別表現についての社会的議論を作るのが正しい対応だ。そんなふうに、この二十年ほどメディア界の対応も変わってきたはずなのに、その教訓はどこへ行ってしまったのだろう。

『週刊朝日』編集長は既に更迭され、佐野さんも口をとざしたままだ。出版社は第三者による検証を行うと言っているから、それにわずかな期待をかけるしかないが、どうもこれまでの対応は釈然としない。

 謝罪を決めた決定要因とされている被差別地区の実名掲載については、昨年の『週刊文春』『週刊新潮』の橋下叩きではどうだったのか気になって調べてみたら、同様に地区名が掲載されていた。最初にそれを書いた『新潮45』の記事は雑誌ジャーナリズム大賞を受賞している。これではいったい何が問題なのか、読者にはさっぱりわからないだろう。  
『週刊朝日』がひどい過ちを犯したという印象だけが独り歩きしていく。これで本当によいのだろうか。
 
 他の週刊誌がこの事件をどう報じたかについては、11月4日付東京新聞に簡単に書いたが、ちょっと気になるのは、昨年秋に橋下「出自」報道を行った『週刊文春』『週刊新潮』がほとんどこれを報じていないこと。『週刊ポスト』『週刊現代』も佐野さんとつきあいがあるためか、ほとんど論評していない。火の粉がかからないように、という意識なのだろうが、この問題、きちんと議論しないといけないと思う。

 11月7日発売の月刊『創』12月号には、この問題について長い記事を書いた。そう遠くない時期に朝日新聞出版の検証報告も出るだろうし、佐野さんにも話を聞いてみたいと思っている。

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コメント (4)

大変興味深く読ませていただきました。深く共感いたしました。ぜひ、この記事を全文、貴blog名、URL明記で、弊blogに転載させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?ご検討下さい。もしご承諾を得られるようでしたら、ご一報下さると幸いです。

佐野 真一さんの論稿読み、一瞬これは又 橋下氏は噛み付きイッシュー化し、宣伝材料に使うとおもいました。文集や新潮の関連する記事読んでおれば、そんこと何故問題にするのか、するのなら文春などにも噛み付くべきと思うからです。
 橋下 徹氏の「大阪都構想」、「地方分権改革」、「道州制」など国家統治機構根本から変えるという言い草、出鱈目きわまりないのですが、マスメディア 中味分からないまま橋下氏の広報版に成り下がっています。
 私は、朝日新聞がここまでおつぶれたのか、そのことのほうが懸念材料です。

今回、週刊誌の表紙や見出しを見る限り、読者に橋下市長の全体像を示すよりも市長を貶めることを主たる目的としていると受けとめたが、本当にその狙いは無かったのか?
貶める目的ではなかったと抗弁しても、市長がそのように受けとめることは予想できる範囲であったはずだ。そう言う意味では、東京新聞の指摘通り、同和地区を明らかにした等々の週刊朝日の反省文は、的を射ていない。逆に的を外したあいまいな表現は、市長を貶める事によって最終的には政治生命を奪うことが狙いだったと逆に想像させることになる。

報道の自由は保障されているので、良心に従って何を書いても良い。しかし、市長の反論を受けたとき、即座にしっぽを巻いたのは、市長の政治生命を奪う目的とは口が裂けても言えることではないし、市長から資本関係を指摘されながら連載を続ければ、親会社の朝日新聞に傷を負わせれ恐れがあったからだ。

週刊朝日は営利企業である。発行部数が維持出来なければ食ってはいけないことは言うまでもない。このような企画をしたのは、発行部数も年々減っているからと想像できる。
今回、真面目な週刊誌というブランドを賭けて、時の人、橋下市長を選んだまでは良かった。最大の敗因は、政策という正門から入ることを避けて裏門から侵入したところにあった。
市長の全体像を描くには何門から入っても良い。しかし、政治力を弱める、政治生命を奪う手段としては、正々堂々と正門から入るべきではなかったか?
その根性がなければ、最初から面白い読み物を提供する、とすれば良かったのだ。

「週刊朝日」に何があったのか、この事件に関しては、他誌はほじくらないしネット上にも情報が出てこないし、唯一やってくれるとしたら篠田さんくらいだろうなと期待しておりました。明日「創」も拝見します。
結局、当事者である佐野さんの話を聞くしかないのでしょう。それにしても不可解であります。このていどのことで辞める朝日新聞出版の社長もなんなのでしょう。
勘ぐりますと、朝日新聞の現経営陣はもう「週刊朝日」を止めたいのかという気がします。
しかし、このままでは作家に対してあまりに非礼です。

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Profile

篠田博之(しのだ・ひろゆき)

-----<経歴>-----

1951年茨城県生まれ。
一橋大卒。
1979年より月刊『創』編集者。
81年より編集長。 82年同誌休刊に伴い、創出版を設立して雑誌発行を続ける。
現在は編集長兼経営者。
日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長、東京経済大学大学院講師など兼務。
東京新聞、北海道新聞などにコラム「週刊誌を読む」連載。
メディア批評のほかに、犯罪、死刑問題などについても新聞・テレビでしばしば発言。
著書『生涯編集者』(創出版)、『ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)。共著は多数

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『生涯編集者──月刊「創」奮戦記』
2012年6月、創出版



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2008年8月、筑摩書房

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