Calendar

2009年11月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

Recent Entries

« 光市母子事件「実名本」出版差し止め問題の争点
メイン
「婚カツ」詐欺事件をめぐる新聞と週刊誌の報道 »

のりピー騒動終幕で残された日本の薬物対策のお粗末

 以下は朝日新聞の「私の視点」にと思って書いた原稿だが、同じ趣旨の投稿が先にあったので、という理由で掲載されなかった。なんだかなあ、と思ったが、朝日と並んで影響力の高い「THE JOURNAL」(ほめすぎ?)に公表することにした。今回の薬物騒動がこのまま終焉していくのは、本当にマスメディアの社会に問題を提起する力が落ちていることを示すもので、残念としか言いようがない。

*   *   *   *

 8月から続いたのりピー騒動もようやく終幕を迎えようとしている。週刊誌は久々に部数を回復し、情報番組も高視聴率を上げて、陰では「のりピー特需」と呼ばれながら、その恩恵に浴したメディアが酒井法子被告を道徳的に断罪するという奇妙な騒動だった。騒動にうんざりという声も増えているからのりピー劇場の終幕自体はよいのだが、残念なのは、これが芸能スキャンダルに終始し、薬物汚染への社会的取り組みを促すような議論に発展しなかったことだ。メディアの責任はむしろその点でこそ問われるべきだと思う。

 私はもう10年ほど前から、女優・三田佳子さんの二男の薬物問題に関わり、この数年間は田代まさしさんに関わってきた。田代さんの裁判では証人として出廷もした。その過程で、薬物依存の問題について日本社会の対応がいかに遅れているか痛感した。
アメリカにはドラッグコートというシステムがあり、薬物依存者に対しては処罰だけでなく治療と連動させるという考え方が一般的であることを知ったのは、三田さんの二男の裁判の過程だった。アメリカでは80年代に薬物汚染に厳罰化で臨んだのだが、功を奏さず、治療の要素を取り入れる方向へと転換したと言われる。

 日本でも深刻化する薬物汚染に厳罰化を唱える声が高まっているが、それは刑務所の過剰収容に拍車をかけるだけだろう。薬物犯は再犯率が高いことで知られるが、実際、私の知っている経験者たちは口を揃えて、今の刑務所は薬物犯の矯正には役立っていないと言う。薬物依存は言わば病気なのだから、処罰だけでなく、アルコール依存がそうであるように治療が必要なのだ。薬物犯は初犯の場合、ほとんど執行猶予がつくのだが、本当ならその猶予期間に専門家の治療を受けるとかケアがなされればよいのだが、実際はそうならずに本人の自覚に任されたまま、多くの場合は再犯に至ってしまう。どうしてそれができないかというと、司法と医療や福祉との本格的な連動といったシステムが薬物対策には必要なのだが、日本ではほとんどそれができていないからだ。

 薬物依存が社会的病気だと考えれば、司法だけでそれを根絶するのが困難なことがわかるはずだ。民主党の国家戦略室周辺で薬物汚染対策をテーマに据えるべきという意見があるやに聞いているが、まさにこれは社会システムの変更を伴うような総合的な取り組みをしないと解決に至らない問題だと思う。

 今年の春の新型インフルエンザ騒動の時、既に日本で感染が広がっているのに、それを知らないまま「水際作戦」なるものを呼号して日本政府は失笑を買ったが、薬物汚染についての今の「ダメ。絶対」キャンペーンは全く同じ。汚染が拡大していることへの認識が政府や行政に弱いことを示している。認識が薄い点ではマスコミも同じだろう。

 8月以来、あれだけ多くの人が関心を寄せたのりピー騒動は、本当はそういう議論を展開させるきっかけになり得る好機だったのではないだろうか。それができなかったのは、政治とマスコミの力不足を示すものだ。

 三田佳子さんの二男も、田代まさしさんも、刑期を終えて社会に戻ったが、本当に大変なのはその後だ。裁判で刑罰が決まるとマスコミは一件落着かのように報道するが、薬物依存との闘いはそこからが始まりだ。

 日本社会に急速に薬物が蔓延しつつあるこの時期、真剣な取り組みが必要であることは論をまたない。そのためにも、のりピー騒動をこのままで終わらせてはならないと思うのだが。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.the-journal.jp/mt/mt-tb.cgi/6185

コメント (4)

■コメント投稿について編集部からのお願い

《THE JOURNAL》では、今後もこのコミュニティーを維持・発展させていくため、コメント投稿にルールを設けています。はじめて投稿される方は、投稿の前に下記のリンクの内容を必ずご確認ください。

http://www.the-journal.jp/contents/info/2009/07/post_31.html

ご理解・ご協力のほどよろしくお願いいたします。

篠田博之さんへ

これだけは言いたい!

大麻は合法化すべきだ!!

篠田さん、全く同感です。

>薬物依存は言わば病気なのだから、処罰だけでなく、アルコール依存がそうであるように治療が必要なのだ。

全く、そのとおりであると思います。
以前のエントリーに寄せられたコメントの多くに、批判的な意見が多かったですね。残念なことですが、国民にこのような認識が共有するようになるまで、まだまだ時間がかかりそうですね。

新聞記事によると、最近、BPOは、のりピー騒動などの薬物事件報道について、各局に対し、「一連の報道について量及び内容に疑問を抱かざるを得ない」と批判し、薬物による深刻な被害の実態を啓発、使用場面は慎重にすること、使用者だけでなく家族も犠牲になることなどの報道することを要望したようですね。
マスコミにはしっかりと反省してほしいですね。
薬物依存の実態を適切な報道によって国民を啓発することが大事でしょうに。残念ですね。

篠田さんの、この取り組みに敬意を表します。がんばってください。応援しています。

酒井法子さんの生い立ち暴露本を買った人に比べ,覚せい剤など薬物の正しい知識にお金を出す人はどのくらいいたのでしょうか? あれほど薬物は恐いと政府は声だかに言うのですから、新型インフルエンザ並みに、薬物対策の自衛に出費をいとわない人が多いはずです。でもそうではなかった、これは完全にマスコミの報道姿勢のミスリードです。また薬物問題がただのゴシップで終わってしまいました。

奇しくもアメリカでは医療大麻の規制をどこまで緩くすべきかの議論が連日盛り上がっているようです。
大学教授やジャーナリストらの冷静かつ客観的な意見は非常に納得できるものでした。大麻合法化のデメリットと、一方で取り締まるデメリット、政府の意向を感じる記事ではありませんでした。多くの意見は大麻の条件的規制緩和が望ましく、大麻は無害という主張をやめ、同じく逮捕して使用者を減らすことが出来たというデータは無いに等しいというものです。

なかでも元地方警察本部長のコメントは,この国ではない発想かも知れません。
「アメリカでは逮捕者を出すことなく教育によってタバコの消費量を半分に減らすことに成功している。大麻に関してもその可能性はあるのではないか?」

すべての薬物にも当てはまるのではないでしょうか。

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

※[投稿]ボタンをクリックしてから投稿が完了するまで数十秒かかる場合がございますので、2度押しせずに画面が切り替わるまでお待ちください。

Profile

篠田博之(しのだ・ひろゆき)

-----<経歴>-----

1951年茨城県生まれ。
一橋大卒。
1979年より月刊『創』編集者。
81年より編集長。 82年同誌休刊に伴い、創出版を設立して雑誌発行を続ける。
現在は編集長兼経営者。
日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長、東京経済大学大学院講師など兼務。
東京新聞、北海道新聞などにコラム「週刊誌を読む」連載。
メディア批評のほかに、犯罪、死刑問題などについても新聞・テレビでしばしば発言。
著書『生涯編集者』(創出版)、『ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)。共著は多数

BookMarks

創出版
http://www.tsukuru.co.jp/

最新号
↓ ↓ ↓

詳細はコチラ

-----<著書>-----


『生涯編集者──月刊「創」奮戦記』
2012年6月、創出版



『ドキュメント死刑囚』
2008年8月、筑摩書房

→ブック・こもんず←



当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.