Calendar

2011年2月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28          

Recent Trackbacks

« 2011年1月 | メイン | 2011年7月 »

2011年2月28日

TPPについて私が知っている二、三の事項(3)/Deux ou trois choses que je sais d'elle(3).

壊滅的な地震に襲われた当日、クライストチャーチではアメリカ・ニュージーランド評議会(US-NZ Council)とよばれる団体が主宰する両国の第4回パートナーシップ・フォーラムが開かれていた。

21日からのフォーラムに米側からはデビッド・ヒューブナー米大使(1984年から85年、東京で柿澤弘治のスタッフをつとめた)、カート・キャンベル国務次官補(東亜太平洋担当)、ブッシュ政権で通商代表を務めたスーザン・シュワブエヴァン・バイインディアナ州知事(元上院議員)、リチャード・アーミテージクレイトン・ヤイター元農務長官(親ブッシュ政権)、クリス・ヒル元イラク大使/元国務次官補(東亜太平洋担当)、国土安全保障省のマリコ・シルバー次官補など、このほかドン・マンズーロ下院議員など8人からなる議員団も参加したが、22日の朝には現地を離れたため、難を逃れた。ニュージーランド側は外務貿易省の実務のトップであるジョン・アレン事務次官(元NZポストの最高責任社)などが参加していた。ニュージーランド側の主催者は日本・ニュージーランド・パートナーシップ・フォーラムなどを通し、日本の経済界とも交流の深い現地経済人やロビイストたちだ。

地震の起きた時、フォーラムの出席者たちは市内8ヶ所に分かれて「昼食会」の真っ最中だったが、全員自力で指定されたラグビー場までたどり着き、空港近くにある南極センターにバスで輸送され、その日のうちにNZ空軍のC-130ハーキュリーズ輸送機でウェリントンに避難した。要人とはいえ、被災者の救助に回されるべき人員や資源が回されたのではないかと疑問視する声もある。

このフォーラムへの参加をボイコットし、難を逃れたのは労働組合協議会(NZCTU)のヘレン・ケリー議長だ。ケリー議長が招待をことわった理由は、TPP推進がこのフォーラムの大きな目的だったからである(ちなみにニュージーランドなどでは普通agreement、協定という言葉が付いてTPPAと呼ばれる)。労組はTPP交渉の不透明さなどを理由に、すでにかなり批判的な立場を取っている。このようにニュージーランドでは交渉の不透明さ、そして主権侵害がTPP反対の大きな理由になっており、問題点を指摘する『No Ordinary Deal』という本も出版されている(農文協から翻訳出版が予定されている)。「ニュージーランドは非売品(NZ Not for sale)」という反TPPキャンペーンが広範に繰り広げられており、20日にやはりクライストチャーチで「TPPを学ぶ会」が開かれていた

これらの心配を打ち消すかのように、US-NZ評議会のスティーブ・ジャコビ議長は地震の前日に放送されたラジオNZとのインタビューで、TPP交渉が秘密裏に行われている理由をこう述べている。

「交渉内容をオープンにしてしまえば既得権を持つ連中が反対する。家屋の売買や雇用契約はオープンでは行われないだろう。WTOの交渉はすべてオープンに行われた。どういう結末になっただろう。だから、TPPの交渉は水面下で行われているのだ」

また、22日の朝、ジャコビはTVNZの番組に出演し、その中で外国の企業や投資家が主権国により商活動が侵害された場合、政府を提訴でき、勝訴すれば損害賠償を求めるることができる条項が含まれるだろうと述べている。しかし、ジャコビは、同じ条項がすでに中国との自由貿易協定の中にも含まれており、何も新しいものではない。その心配は取り越し苦労であると反論している。

これは国対投資家の紛争解決条項(ISDS)のことでNAFTA11章とも呼ばれる。特に医薬品や食品管理、知的財産について、主権が失われるのではないかという危惧がある。例えば、条約締結国が禁煙を決めればフィリップモーリス社などが訴えることが可能であり、ペットボトル飲料の販売を禁止すれば、コカコーラ社などが商業活動を阻害されたと訴えることも可能だと言われている。

ニュージーランドは2005年にブルネイ、シンガポール、チリとの間で環太平洋協定(TPA)を締結したメンバーであり、TPPについても積極的な推進国のひとつと見られている。しかし、昨年12月に暴露されたウィキリークスの米外交電によれば、主席交渉官、マーク・シンクレアはそれほど乗り気ではないようにも伝わってくる。ウィキリークスの暴露した外交電によれば、去年2月にシンクレアは米側に「TPPはニュージーランドにほとんど何の利益ももたらさない」と漏らしたとされている。もし「報い」があるとすれば、日本や韓国の農産物市場に圧力をかけることぐらいであり、それも長期的にみてのことだと述べたとされている。
「ニュージーランドの企業はアメリカ市場に参入できることになるとバラ色の夢を描いているが、それは現実とはほど遠い」
つまり、TPPはほとんど誰の利益にならないものであることを主席交渉官が認めているのだ(もちろん、これはアメリカ大使館の外交官の印象であり、正確だとは限らない)。

そろそろ、交渉の内容が明らかにされるべきではないだろうか。日本ではTPPが農業の問題に特化されて報道され、議論されがちだが、そもそも、この交渉が有権者から秘密裏に行われていることの是非を問うべきだろう。

2011年2月24日

リビア情勢分析(2)/More on Libya.

リビア情勢の流動化が止まらず、原油生産が落ち込み始めている。
それを受け、原油価格が急騰している(ブレントは117ドル、WTIも2008年10月以来はじめて100ドルを超し、102ドルまで上がった)。


ロイターによれば、従業員の退避などにより、アフリカ第3位の原油生産国では約30万から40万バレルの生産が停止。これは生産の約1/4に相当する。この生産停止がさらに拡大するのか、また、どのくらい続くのか、まったく予想がつかない。仮に事態が収拾されたとしても、生産が内乱以前の状態に戻るまでにはかなりの時間がかかるだろう。

1979年のイラン革命では同国の生産の半分以上が止まり、現在に至るまで完全には回復していない。2990年のイラクによるクウェート侵攻では両国の生 産量は数年間にわたり減少、クウェートの油井は荒廃した。2002年のベネズエラの石油産業の大規模ストライキでも生産は滞り、ストライキ以前の水準には 戻っていない。

リビアは主にヨーロッパ向けに1日130万バレルの原油を輸出しているが、主要な輸出国であるイタリア政府筋によれば、輸出港にも混乱が波及し、港湾機能が停止しているようだ。

タイム誌は元CIAの現地要員が書いた記事で、カダフィ大佐に近い筋からの情報として、油田やパイプラインなどの施設を破壊するよう軍の精鋭部隊に命令が出されたと報道している。もっとも、同じ「筋」はチュニジアやエジプトの民衆蜂起がリビアに及ぶことはないと2週間前に語っていたとのこと。それは間違いだったので、この情報もどれほど精度の高いものかは分からないとしている。すでにカダフィはかなりやけになっているようで、分別をなくしている。油田などのインフラの破壊は、自分に反旗を翻す人たちへの復讐の一念からで、リビアをソマリア化してやる、そう言っているそうだ。同じ動機から、イスラム教過激派を監獄から釈放する命令を出したともいわれている。
サウジアラビアのアリ・ヌアイミ石油相はリビアの生産を穴埋めする用意があると発言している。仮に、その言葉通り、リビアの生産はサウジが肩代わりできたにしても、民衆蜂起の波が、生産量ではリビアに次いでOPEC第10位のアルジェリア(日産120万バレル)や第3位のイラン(370万バレル)など、他のOPEC諸国にも広がれば、それは次第に難しくなっていく。
「リビアとアルジェリアが原油生産を呈すれば、原油価格は220ドル超の水準」に達する可能性も示唆されている。2008年の石油ショック以降、上向きつつあった世界経済にもブレーキがかかりそうだ。

2011年2月22日

リビア情勢分析

チュニジア、エジプトなどを席巻する中東北アフリカ(MENA)諸国の情勢不安はついに産油国にもおよび、世界を震撼させようとしている。

カダフィ独裁体制が何らかの形で事態を収拾することができるのか、それとも体制の崩壊、民主化などといった形で状況がさらに流動化するのか、また、リビアより大きな産油国にも影響が波及するのか、世界は固唾をのんで見守っている。
リビアの政情不安を独裁対民主という構図でとらえる報道は多いが、MENA諸国で広がるデモの直接の原因は食料価格の高騰である。リビアの人口は2000年以来23%増えており、ほかのMENA諸国同様、25歳以下が人口の半分近くを占め、腹が減り、職のない連中が直接行動に出ていることが容易に想像できる。だから、たとえどんなに民主的な政権が生まれても、食料の高騰が収まらず、空きっ腹をなんとかしない限り、ふらふらと足下が定まらない状態は続くだろう。
こんなことを言うと「民主主義者」からはひんしゅくを買いそうだが、非常事態では独裁政権の方が混乱を効果的に収拾できることもある(例えば90年代のキューバ)。独裁は悪い、民主政権なら何でもいいというこれまでの枠組みが今、我々が足を突っ込みつつあるピーク以降の非常事態がだらだらと続く時代には通用しないこともある。
リビアにはアフリカ最大のアブラの埋蔵量があり、一日あたりの生産量は140〜170万バレルでOPEC第7位。それほどの量ではないが、需要と供給の逼迫状態が続く状態のポストピーク時代に見逃せる量ではない。

Energy Export Databrowserより転載。
開発生産の担い手は外国企業で、早くから(1959年)リビアの石油開発に加わったイタリアのエニ社が最大の生産(50万バレル以上)をあげている。輸出もイタリアなどヨーロッパ向けがほとんど。ヨーロッパの指標であるブレント原油価格は2008年以来最高のバレルあたり107ドルに達した(北米の指標であるウエスト・テキサス・インターミディエイトも6ドル以上上がり、92ドル前後)。
NYTによれば、エニ社を始め、外資系企業はすでに最低限必要な人員をのこし、家族なども避難している。リビアの原油生産が落ち込むのはやむを得ず、原油価格はさらに上昇するだろう。
もちろん、OPEC諸国にリビアの穴を埋めるだけの能力があり、その能力を使えば話は別だ。しかし、ブルームバーグによれば、OPEC諸国からの昨年12月の輸出は前月比で2%減。最大の産油国であるサウジは生産は増加し、ここ2年最高のレベルに達したにも拘らず、輸出は以前にも言及したように国内需要の伸びなどで前月に比べて4.9%減っている。だからOPECがリビアの穴埋めをすることは難しいかもしれない。
リビアショックが他の産油国に広まらなくとも、原油価格は上がりそうで、それが食料価格の高騰にも拍車をかけそうで、腹を空かした民衆の示威行動はMENA諸国だけでなく世界に広まっていくかもしれない。ピークの影響は玉突き状に世界を震撼させている。

クライストチャーチ倒壊/A killer quake hits the garden city.

南島最大の都会、人口約40万のクライストチャーチで22日の昼時、12時51分、マグニチュード6.3の地震があり、これまでに判明しているだけで65人が死亡、多数のけが人が出た。市内の病院の収容能力をはるかに超えるけが人に、重傷者は北島のオークランドに空輸されている。


まだ「100人以上」ががれきの中に閉じ込められているという報道もあり、富山出身の語学学校に通う日本人12人が行方不明という情報もある。
ジョン・キー首相は午後、被災地に入り、「我が国最悪の日を目の当たりにしているのかもしれない」と発言した。今日の被害を上回る自然災害は北島のネイピアで256人の死者を出した1931年のマグニチュード7.9の地震だけだ。
市内の道路には亀裂が入り、建物は崩れ、市の中心にある大聖堂の尖塔が折れ、空港も閉鎖された。停電、断水、下水管やガス管の破裂など、町のインフラはずたずたになり、家を失った人など何百人が避難所で夜を明かしている。市当局は節水を呼びかけるとともに、バケツや鍋を外に出し、今夜予想される雨を貯めるよう呼びかけている。市内は非常事態が宣言され、警官、軍隊が投入され治安の維持にあたる一方、対岸のニューサウスウエールズ州からも73人の捜索員が到着、行方不明者の捜索が続いている。
クライストチャーチでは去年9月4日にマグニチュード7.1の地震があったが、震源が10キロと深く、町の中心から30キロほど離れていたため、被害総額は40億ドルに上ったが、大けがをした人が2人だけで死者はなかった。その時に比べ今日の地震は規模は小さいものの、震源が町の中心部から南西に10キロほどの港町、リトルトンの真下だったこと、また、震源が5キロ程度と浅かったこと、地震が起きたのが昼時だったことで被害が大きくなった。去年の地震で建物がもろくなっていたことも考えられる。今日の地震の被害は去年のそれを大きく上回るだろう。
ニュージーランドは「揺れる島々」というあだ名もあるが、太平洋プレートとオーストラリアプレートの境界にまたがっており、年平均14000回ほどの地震がある。そのうちマグニチュード5を越すものが20ほどある。今回の地震は首都ウェリントンで近いうちに大きな地震がある予兆ではないかと心配する専門家もいる。
クライストチャーチはまだ余震で揺れている。

2011年2月14日

輸出崩壊/Saudis in Audis

エジプトでは大統領が実質的に退任し、中東情勢は一息ついています。産油国を中心に、高騰する食糧価格に対する不満をなだめるため、ばらまきが続いています。エジプトに誕生する新政権が慢性的な不満に対する若者たちの不満を果たして抑えておくことができるでしょうか。これから慢性的に続く食糧高騰の原因のひとつは、アブラの需要供給状況の逼迫です。主要な産油国、輸出国の動向がこれまでにもまして気になります。


ロイターはジェッダ発でサウジアラビアが国内のエネルギー需要を削減するため、家屋に断熱材を導入したり、節水などに投資することを伝えています。これらの策で、エネルギー需要の4割の削減を目論んでいるそうです。
saudi export.png
Energy Export Databrowserより転載

上のグラフで灰色の部分が総生産を表し、みどりの部分が世界市場に出回る量を表しています。注目しなければならないのは、下の方からじわじわと鎌首をもたげている黒い線です。これは国内消費を表しています。

サウジの現状のエネルギーミックスを同じくエネルギー輸出データブラウザーから見てみましょう。
saudi consumptive.png

サウジアラビアの電力使用の7割から8割はエアコンで使われるということなので、家屋に適切な断熱材を施せば、国内消費が4割ほど減るという読みもまあ、うなずけます。発電用も含め、サウジではアブラと天然ガスが国内のエネルギー需要をほとんどすべてまかなっており、ここ数年その消費が急激に伸びていることがこのグラフから分かります。サウジなど産油国はアブラの値段が上がれば上がるほど、潤います。そうして得た富が社会全体にまんべんなく回ることはありませんが、それでも国内における消費が増えていくことがこのグラフから分かります。グラフは2009年のBPの統計数字に基づくものですが、これによれば、国内のエネルギー消費は前年比4.2%の伸びです。先のロイター電はOPEC諸国の電力需要の増加を年率8%としています。こんな伸び率が9年続けばエネルギー需要は倍増してしまいます。

さて、サウジをはじめとする産油国の富裕化、そして国内におけるエネルギー消費の伸びは日本やニュージーランドなど、アブラの輸入国にとってどんな意味を持つのでしょうか。また、今回発表されたようなサウジの省エネ策の如何がどんな結果をもたらすのでしょうか。
これはホルムグレンが『未来のシナリオ』で取り上げていますが、いわゆる「アブラ輸出の崩壊」という問題です。産油国における国内消費が増えていけば、世界市場に出回るアブラの量は相対的に減ってしまうということです。一番上のグラフでも、みどりで表されている量が黒い線が這い上がってくるにつれ、減っているのが分かります。これが世界市場に出回るアブラの量です。ロイター電は2028年(わずか17年後!)には世界市場に出回るアブラの量は現在よりも一日につき約3万バレル減り、7万バレルほどに減ってしまうだろうと伝えています。
主流のメディアが「アブラ輸出の崩壊」を取り上げるのは珍しいことで、それなりに評価しなければなりませんが、この計算はかなり楽観的です。国内消費の伸び、そして、現在稼働中の油田の生産の鈍化についての見方がきわめて甘いと思います。たとえこうした楽観的な読みが当たってたとしても、需要と供給が著しく逼迫した状態ではこれだけの量が市場から消えてしまうことは大問題です。オイルピークは生産が頭打ちになるということですが、その影響は玉突き式に社会の隅々にまで波及します。「輸出の崩壊」はその一例に過ぎません。
サウジアラビアでは省エネだけでなく原発まで含めたエネルギーミックスの多様化に取り組んでいるそうです。化石燃料の国内消費を減らすことができれば、それだけ、輸出に回せるアブラも増える。外貨も獲得できるということが、その理由として発表されています。輸入国のほうとしても、とてもありがたいことで、その点では利害が一致します。しかし、産油国の国内消費削減がうまく行くかどうか、その影響は輸出国と輸入国では大きく違ってきます。アブラ輸出国の方では、消費削減にたとえ失敗しても、(もちろん、食料価格への波及など間接的には大きな問題だろうが)直接、困ることはない。しかし、エネルギー輸入国にとっては文字通り死活問題になるでしょう。
それぞれの自宅でも、あのサウジアラビアでもやっているということを励みにして、ひっちゃきに贅肉をそぎ落とすきっかけにしたいものです。

2011年2月11日

砂漠の誤解か(ウィキリークス)/Memories are made of this.

ガーディアン紙の報道で暴露された外交電について、アル・フセイニがウォール・ストリート・ジャーナルで反論しています。

アル・フセイニは、アラムコの公式発表されている埋蔵量についてまったく異論はないが、米外交官がアル・サイフのコメントとして引用した7160億バレルの「埋蔵量」に異を唱えたのだとしています。

7160億バレルは可採埋蔵量と非可採埋蔵量を含む「原始埋蔵量」のことである。サウジアラビアの生産可能な埋蔵量、いわゆる「確認埋蔵量」は2600億バレルだと公式発表されている(アル・サイフは、生産可能な埋蔵量は「原始埋蔵量」の約51%、すなわち、3580億バレルくらいだろうと言っている)。

つまり、アル・フセイニはアラムコの「確認埋蔵量」やアル・サイフの推定にも異論はない。ただ、「原始埋蔵量」を「確認埋蔵量」と混同すると、サウジアラビアの生産キャパが何千億バレルも水増しされてしまうと米外交官に言ったのだが、それが誤解されたと言っています。

ウィキリークスが暴露する外交電は、米外交官が自分の聞いた話、収集した情報をワシントンに報告したものです。暴露された文面はいくつかのフィルターのかかった生情報であり、検証されたものではありません。だから、それを読む時にはそれなりの理解が必要になるのは事実です。しかし、まあ、逆も可能なわけで、本当はあの時、そう言ったのだけれど、どうせ誰も反論できないだろうから、言い繕っちゃおうというケースもあるかもしれません。

重要なことは、現代社会は砂漠の王国の生産する原油にその存続を依存しています。サウジアラビアの埋蔵量や生産可能な率は、したがってきわめて大事な数字です。しかし、サウジアラビアの発表する数字はどれも検証されたものではなく、第三者の検証がない限り、どうにでも言いくるめることができるということです。

とりあえず、昨日お伝えしたアル・フセイニの発言を米外交官が引用したとされる外交電の該当部分を訳しておきます。
(前略)
12月1日行われたアラムコの掘削シンポで、上級副社長で現石油探索生産部長のアブダラー・アル・サイフは、サウジの埋蔵量を7160億バレルと発表し、そのうち51%が回収可能だとした。アル・サイフは、歴史的な傾向をみれば、今後20年には、埋蔵量が9000億バレルに拡大し、回収可能な原油の率は70%に上るだろうと明るい見方を示した。
アル・フセイニはこの見方に組せず、公称確認埋蔵量(7160億バレル)のうち、多ければ3000億バレルは「推測による資源」であり、過大報告されていると発言した。アル・フセイニは、そのかわり、すでに確定した埋蔵量、そしてこれまでの生産量や現在の技術で採掘可能な量についてのみ焦点を当てた。それは3600億バレルであることは誰もが同意している。アル・フセイニの考え方では、もともとの確定埋蔵量の半分である1800億バレルの生産を超えれば、その後はゆっくりとしかし確実に生産は減少し、どんなに努力をしてもそれを止めることはできない。アル・フセイニの計算によれば、これまでほぼ1160億バレルが生産されており、その決定的な分水嶺に到達するまで、残りは640億バレルということになる。日産1200万バレルならば、分水嶺には14年で到達する。アラムコは、次の10年、日産1200万バレルを上回る生産をあげることが可能ではあるが、分水嶺到達以降に始まる容赦のない生産減をふりのけるためだけに最大の努力を払わなければならなくなるだろう。アル・フセイニによれば、生産の高原状態は15年ほど続き、そのあとには生産減退が始まるということだ。
アル・フセイニは油田の減耗率が今後のアラムコや世界の生産の日程の鍵を握ると説明した。生産を上げるということは、すでに生産中の油田に新たな生産キャパシティをただ単に加えることだけではない。減耗率を加味すれば、新たな油田の生産は減耗する生産を補い、さらにその上、上昇する需要を賄わなければならないからだ。IEAの推定では、世界の減耗率は4%と見積もられている。2006年のアラムコの発表によれば、サウジアラビア全体のの減耗率は2%と見積もられている。
アル・フセイニによれば、日産200万バレルが需要増を満たすために必要であり、400万バレルが現存する油田の減耗を補うために必要となり、世界的には、少なくとも600万バレルの生産増が必要とされるだろう。
アラムコが計画するような生産増を達成できないもうひとつの理由は、補助資源の欠如である。例えば、アラムコは2009年までに1250万バレル原油生産を目論んでいるが、それが到達できないのは、原油の量が不足しているからではなく、熟練エンジニアや技術を持つ建設会社や精製のキャパが不足しており、産業用インフラの開発が遅れていたり、生産工程のマネージメント不足(しっかりした生産計画やテクニックを持たずに、過度に掘り出してしまうと、その油田のトータルな生産力を損ねることになる)によるものだ。
(後略)

2011年2月10日

サウジの埋蔵量は水増しか(ウィキリークス)/how long?

IEAが去年の「世界エネルギー展望」という年次報告書で「在来型原油の生産ピークは2006年だった。もうこれからそれが上向きになることはない」と報告して以来、「ピークオイル」という言葉はかなり普通にあちこちで目にするようになりました。しかし、(IEAを含めて)意味が分かっていない人が多いですね。


昨日もイギリスのガーディアン紙がウィキリークスが暴露した外交電を転載しています。ウィキリークスが暴露した5つの外交電は現地のアメリカ大使館から国務省に送られたものです。外交官の目から見て「極秘」だとか「秘密」としただけで、ピークオイルを追ってきた人たちにはとりたてて目新しい内容はありません。これまで秘密のベールに包まれてはいたものの、すでにかなり想像がついていたこともたくさんあります。

たとえば、2007年12月10日付けの外交電では国有石油会社のサウジ・アラムコの元石油探索生産部長のサダド・アル・フセイニの公称確認埋蔵量(7160億バレル)が4割程度も過大報告されているという発言を引用しています。まあ、これなんかも、すでにピーク論者の間では当たり前に考えられていたことです。
(自分のようなシロートですら5年前にこんなことを書いてます。水増しされたクウェートの原油埋蔵量

アル・フセイニはまた「ピーク・オイル説には組しないものの、世界の原油生産は5年から10年以内に高原状態に達し、15年くらい続いたあと、減少し始めるだろう」と述べたとされています。この発言がなされた時期から察すると、早ければ2012年には「高原状態」に達するかもしれないということです。アル・フセイニはは組しないとは言うものの、認めていることはピーク・オイルそのものです。彼が組しないというのはピークオイル「説」で言及されるピークの大きな影響のことかもしれません。
その点では、昨年「2006年が原油生産のピークだった」と認めたIEAにしても同じで、エネルギー展望でも「だから、どうだったっての?」という立場をとっています。ピークオイルがただ単に原油生産が頭打ちになる、これ以上伸びないだけだ。だからどうなのって論調は、昨今日本のメディアでも目にします。
例えば、こんなのがあります。
近年、ピークオイル論が法華の太鼓のように声高になる中、将来のエネルギー問題は、我々の生活の屋台骨を揺るがしかねないことになってきているわけだが、 今回のブラジルの巨大油田の発見と開発のニュースは、この、エネルギー問題を、緩和させる、あるいは薄れさせることとして、大いに歓迎されるべきことである。 

油田発見のピークは1964年のことです。もう50年前のこと。カリオカ油田のようなのがボコンボコン、それこそ「だんだんよくなるなんとやら」なペースで見つからないのはなぜなのでしょう。50年の間に技術は進歩しなかったのか。金もばんばんつぎ込まなかったのか。

この筆者もアル・フセイニやIEAと同じで、ピークの意味がまったく理解できていないようで、だからどーなのと。2008年以来の不況はどうなんだ。それと同じこと、もしくはもっとひどいことがわずか3年後の今年繰り返されようとしている。その理由はなんなんでしょう。
「法華の太鼓のように」繰り返すのは、これからの石油ショックが恒常的なものであり、石油の有用性、エネルギー収支のよさを考えると、現在のようなぬるま湯につかった社会は続いていけないからです。現代人はぬるま湯から自ら抜け出ることができるのか、それともどんどん冷えていく風呂の中で風邪を引いて、最悪、こごえてしまうのか。そういう岐路に立たされている。そういう時代に主体的に、現代社会という暴走列車を止めることができるのか。行く手には線路が途切れてることをしかっと目を見開き、見ようとするのか。これからの道のりは、がつんがつんとケツがどんどん痛くなっていきます。乗り心地は悪くなるばかりです。しかし、今なら、まだ社会を補修するだけの資源が残っている。それを浪費するのではなく、エネルギーが減少する将来のために使うことができるのかどうか。
自分たちが生きているのはこういう希有な時代なんです。そういうまれな時代にはそれにふさわしい見方が必要になります。そういう見方を欠いたまま、TPPがなんちゃらかんちゃらって言われてもねえ。

2011年2月 4日

しばらくムバラク?/All the young dudes.

エジプト情勢がムバラク大統領が9月の選挙には立たないと宣言してからも、流動化が止まらない。バラク・オバマ政権は「しばらくムバラク」の即時退陣を求めているそうだが、それでエジプトだけでなく中東から北部アフリカ(Mena)地域に広がる社会不安が一層されるのか、きわめて疑問である。

チュニジアから始まりエジプトで燃え盛る情勢不安の原因はいろいろ指摘されている。しかし、ほとんどのマスコミで軽視されていることのひとつに食糧価格の高騰がある。FAOの最新の報告によれば、食糧価格は最高を記録した12月からさらに3.4%上昇したことを伝えている。穀物の価格は、最高価格を記録した2008年にはまだ届かないものの、先月より3%上がったのが不気味だ。ちなみに、エジプトの農業大臣は「食糧の4割を輸入に頼っている。小麦に関しては6割が輸入だ」と2010年に発言している。
もうひとつ、なかなか報道にはでてこないことだが、この地域の人口構成がきわめて若いということがある。ドイツのder spiegelが指摘するように、中東から北部アフリカ地域(Mena)の人口の半数以上が25歳以下である。

image-173179-galleryV9-mddr-1.jpg
der spiegel
より転載

国際通貨基金(IMF)によれば、これらの地域の失業率は、スーダン、ヨルダン、チュニジア、アルジェリア、サウジで軒並み10%以上、エジプトは8%強とされている。まあ、アメリカとほぼ変わらない数字なので、なんてことはないと思ってしまいがちだが、若年層の失業率は一般的に社会全体の数字の倍といわれており、上記のように、ものすごい数の若者がいる国ではものすごい数の若者が失業しているはずだ。エジプトでデモに繰り出し、ムバラク打倒を口にする人の大半は食糧が高くなり、食うものも手に入らず、職がない、カネもない、誰かなんとかしろ、そんな気持ちなのではないだろうか。
食糧価格の高騰が引き起こす社会不安はチュニジアやアルジェリア、エジプトだけでなく、地域全体に広がっている。「食糧価格の高騰で倒れそうな25カ国」という記事にはチュニジア(18位だが、すでに倒れてしまった)、リビア(16位)、スーダン(8位)、エジプト(6位)、レバノン(5位)、アルジェリア(3位)、モロッコ(2位)と、この地域の国が軒並みランクされている。
サウジアラビアやクゥエート、アルジェリアなどの産油国は石油生産でそれなりに潤っているので、政府が補助金を出し、ある程度まで食糧価格高騰の影響を抑えることができる。クウェートは「建国50周年記念」と称して一人30万円と1年2ヶ月分の食糧を支給するが、産油国以外ではそうそう大盤振る舞いもできるものではない。アルジェリア(日産2百万バレル弱を生産。あまり多くないようだが、ちょうどOPECの余剰生産能力に匹敵するくらいの量で、特に受給が逼迫する昨今の状況ではきわめて重要。)も、政府が食糧価格に介入したおかげで、社会不安はとりあえず沈静化している。しかし、国際価格が上昇し続ければ、再燃の恐れは十分にある。

ここから予測されることは、このまま食糧価格の高騰が続けば、現在は国民の間の不満を補助金でそらしているMENA諸国のなかにも、それができなくなる国がでてくる。そして、それが何らかの形で産油国に飛び火すれば、アブラの生産が減り、現在バレルあたり90ドルを越した原油価格がさらに高騰する恐れがある。その結果、食糧価格がまた上昇する。そういう循環になる可能性は十分ある。

もうひとつ、エジプト危機の心配はスエズ運河への波及だ。EIAによれば、毎日この運河を地中海方面に百万バレル、逆に紅海方向へは80万バレルの原油やアブラ関連品が動いている。量的にはそれほどではないが、やはり、受給が逼迫した時勢だけに、ここが何らかの形で通過不能になれば、原油価格、そして世界経済へストレートに跳ね返ることは間違いない。それがまた食糧の価格を押し上げる、そして、それがまた危機にアブラを注ぐという循環になります。それがまたアブラの価格を押し上げる。

各国政府はどちらも可能性は少ないだろうと楽観しているようで、エジプトなどの「政権交替」や「民主化」で危機が脱出できるだろう、アラブとアブラの安定が回復できるだろうと期待しているようだ。しかし、上記のような要素を考慮すると、それだけで螺旋降下に歯止めがかかるものなのかどうか。

2011年2月 3日

逆巻く嵐(2)/Nasty as Yasi

カテゴリ−5と強度を増したサイクロン・ヤジが昨夜、クイーンズランド東北部へ上陸しました。


同州ではつい最近も未曾有の水害があったばかりで、かと思えば、数ヶ月前までは何年にもわたる旱魃に苛まれていたわけで、地球環境ゲテモノ化時代に生きていることをますます実感させられます。OECD諸国(いわゆる先進国)の中ではもっとも気候変動の影響を受けやすい国と言われるオーストラリアですが、これからはますます「異常気象」が頻繁になることでしょう。他の国に暮らす自分たちもそれを他人事ととらえず、どこにいようが狭い地球の上、それぞれの場所でも起こりうることだととらえ、行動していかなければならないと思います。なんにしても、自分たちはゲテモノ化時代に生きている、しっかりと立場を認識するところが出発点になります。

入ってくる情報によれば、2人が行方不明だそうです。サイクロンが直撃した地帯はまるで、戦場のようです。しかも、有数の農業地帯だけに農作物への被害が心配です。このABCニュースでも見られるように、バナナやサトウキビが根こそぎにされました。。
昨夜サイクロンの直撃したタリーやイネスフェイルなどの地域では全国のサトウキビの3割が生産されています。生産者団体のケイングロワーズは直撃前に、被害は5億ドルに上るだろうという被害予想を発表しています。オーストラリア経済は鉱山景気で好調には違いありませんが、水害に続くサイクロンの直撃で、成長率は鈍ることでしょう。気象庁はサイクロンの季節はまだ始まったばかりだと更なるサイクロンの襲来に警告を呼びかけています。
サイクロン・ヤジが直撃したこの地域は5年前に大型サイクロン・ラリーの直撃を受けた場所です。このときのサトウキビの損失は4割から5割に上ったそうで、今でも、このときの被害から立ち直っていない農家もいるそうです。バナナは全国生産の8割から9割がこの地域に集中しているため、ラリーの通過したあと、全国で価格が急騰しました。昨夜のサイクロンは「ナパームが炸裂したような感じで、ラリーの10倍もひどい、これまで経験したことのない、ものすごい嵐だった」という地元住民の声もあります。ラリーよりも被害は大きいかもしれません。
ヤジの影響は国内経済だけにとどまりません。砂糖の国際価格は上昇中ですが、これがさらに押し上げられ、しかも、砂糖はいろいろな加工食品に使われるだけに、食物全体の価格も上昇するでしょう。エジプトなど中東北アフリカ諸国(Mena)の社会不安の一因が食糧価格の高騰であるだけに、これらの地域だけではありませんが、玉突き状態で、社会不安が増していくこともあり得ます。
でかいからとはいえ、たかがひとつのサイクロンが何千キロもはなれた国を襲撃した。そのこと自体も現代の地球の発狂具合を表しているとはいえ、その影響がこちら側の生活にもじわじわと及んでくる。それがピークとゲテモノ化時代の切羽詰まった状況を象徴しています。

Profile

リック・タナカ(Rick Tanaka)

-----<経歴>-----

信州松本出身。
1980年、シドニーに漂着。
大学中退後、ラジオやテレビ、ウエッブ、雑誌、ニューズレターなどで執筆、制作、コンテンツ制作、翻訳/通訳、音楽マネージメントなどで活動。
1997年、それまで15年暮らしたシドニーから標高千メートルの高原の町カトゥーンバに引っ越し、執筆・メディア活動と並行しながら、消費を抑え生産する楽農生活に突入する。
2007年、大陸の東南に浮かぶ島にある人口300人の村に移住、オイル・ピークと環境ゲテモノ化時代に備える暮らし、近隣社会の構築を模索中。

BookMarks

-----<訳書>-----


『未来のシナリオ』
2010年12月、農文協

-----<著書>-----


『人工社会』
2006年3月、幻冬舎


『楽農パラダイス』
2003年、東京書籍


『おもしろ大陸オーストラリア』
2000年、光文社知恵の森文庫

-----<共著>-----


『Okinawa Dreams Ok』
1997年、Die Gestalten Verlag


『Higher than Heaven:Japan, war and everything』
1995年、Private Guy International

-----<訳書>-----


『沖縄ポップカルチャー』
2000年7月、東京書籍

『首相暗殺』
ロバート・カッツ著、集英社

→ブック・こもんず←

当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.