Calendar

2010年12月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  

« 狂牛の次は狂大豆?/It's a very, very, mad world.
メイン
ピークと英国/The poms are getting serious. »

TPPについて私が知っている二、三の事項/Deux ou trois choses que je sais d'elle.

日本ではTPPに関する議論があれこれ続いています。これについて、ふたつほど。


ひとつは歴史的な認識。このごろはTPPですが、これまでにも「貿易自由化」の流れがあったわけで特に目新しいことではない。この自由化を世界的にやろうとした交渉はすでに2003年にメキシコのカンクンで決裂しています。これをホルムグレンは『未来のシナリオ』のなかで「グローバル化の果実を維持しようとする大企業の最後の絶望的なあがき」だったと言っています。「最後の絶望的な」というのは、もちろん、人類の手にできる化石資源エネルギーの量がどんどん減っていく時代だということで、国際的な信用に基づく交易体制も変わっていくだろうし、資源ナショナリズムも当然出てくるだろうからです。資源獲得を巡る「国境紛争」があちこちで起きているのも偶然ではありません。

TPPにしてもそういう変化の時代の文脈で読む必要があります。これからも世界貿易体制がずっと続いていくのかどうなのか。そういうことを検討せずに、当然これからも世界貿易体制がつづくものだと考えて議論を進めてしまうと、変化の時代には通用しないかもしれません。

ふたつ目はもっと細かいことになりますが、果たして自由貿易はそれほど得なのかということです。

オーストラリアには生産性委員会という独立研究機関が政府のなかにあり、これが12月13日、自由貿易協定について報告書を発表しています。ケーススタディとして自由貿易を考える際に参考になるでしょう。

オーストラリアは83年にニュージーランドとの間で自由貿易協定を締結して以来、90年代、ハワード政権の時にシンガポール、タイ、アメリカと協定を結び、ラッド政権ではこれにチリとASEANが加わり、現在は6つの国、地域とのあいだに自由貿易協定を結んでいます。日本だけでなく、中国、マレーシア、インドネシア、湾岸協力会議(GCC)、太平洋諸島フォーラムとのFTAを現在、交渉中です。

生産委員会の報告書はその6つの自由貿易協定に関して、これが果たしてオーストラリアのためになっているのか、一年かけた研究に基づくものです。400ページもある報告書、最初の要約を読んだだけですが、それによれば、自由貿易は二国間のものであれ、ASEANとのあいだの地域協定であれ、コストばかり高くついて、いわれたような利益をもたらしていない。自由貿易協定を結んだからといって、必ずしも貿易拡大や経済成長につながるわけではない。「メンバー国間の貿易が拡大し、域外よりも急速に拡大したという証拠はない」としています。新しく自由貿易に合意する前に、貿易活性化、投資の保護、基準の相互認証などのようにコストが安くて、もっと効果のあがる策を検討するべきだと勧告しています。

自由貿易協定の恐ろしいところは、モノやサービスに関する直接的なカネのやり取りだけにとどまらないことです。13日付けの日経には「毒素条項」という毒々しい見出しでこの種の自由貿易協定につきものの条項について記事がありました。TPP大賛成の新聞にしては珍しい記事です。オンラインでは全文を読むことができませんが、できれば、ぜひ、読んででください。「毒素条項」がどんなものであるのかは、このログに簡単にまとめられています。

この「毒素条項」のなかで、生産性委員会も言及しているのはInvestor State Dispute Settlement(ISDS)、国対投資家の紛争解決、です。ISDSは別名「NAFTA(北米自由貿易協定)の11章」とよばれ、投資家がパートナー国の政策により不利益を被った場合、提訴することができ、その投資家が勝訴すれば、パートナー国は損害賠償をしなければならないという条項です。

NAFTA加盟国のカナダの事例が、2005年のものですが、PSI加盟組合日本協議会のサイトで報告されています。これによれば、カナダではNAFTA発足以来10年の間に10件の訴訟があったそうですが、すべてはアメリカ企業が「カナダの一般市民を保護する法律、たとえば、環境保護条例、有毒廃棄物輸出禁止法、カナダの水を保護する法律などが差別的であると主張」し、政府を訴えたものだそうです。

オーストラリアがこれまで結んだ自由貿易協定にはアメリカのものも含め、ISDSは含まれていませんでした。しかし、TPPでは持ち出される可能性があります。生産性委員会の報告書も、ほかはともかく、これだけはだめだと勧告してます。主権国家が国民のために政策を導入すれば、訴えられ、国民の血税がぶんどられてしまう。まさに主権に関わるような条項ですから当然です。

日本における議論では、TPPはアメリカが一人勝ちするだけだというような意見も見られます。

しかし、自由貿易はアメリカにとっても国益にそわないという報告もあります。

アメリカと自由貿易協定を結んだ17の国との貿易について、パブリックシティズンが今年の9月に出した報告書は、オーストラリアの生産性委員会と同じように、自由貿易がアメリカの利益になっていない、協定を結んでいない国との貿易の方が伸びている、など否定的な内容です。また、ISDSによる主権侵害に関しても、パブリックシティズンは警鐘を鳴らしています。

つまるところ、自由貿易はアメリカであれ、オーストラリアであれ、どこの国の経済にとっても利益を出さないばかりでなく、どこの国の主権も侵害されかねないものかもしれません。

日本ではTPPの議論が農業がああだこうだということに偏りがちです。

もちろん農業についての議論も大切ですが、まず、果たして世界貿易はこれからも続けていけるものなのかどうか。そして、広く自由貿易というものの功罪について議論することが必要なのではないでしょうか。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.the-journal.jp/mt/mt-tb.cgi/7709

この一覧は、次のエントリーを参照しています: TPPについて私が知っている二、三の事項/Deux ou trois choses que je sais d'elle.:

» 開国という嘘(中韓不参加のTPP) 送信元 さとうひろしオフィシャルブログ
菅首相は内閣改造早々、「開国」と称してTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)へ参加する意向を表明しましたが、この協定は名前とは裏腹に、東アジアの経済大国であ... [詳しくはこちら]

コメント (6)

■コメント投稿について編集部からのお願い

《THE JOURNAL》では、今後もこのコミュニティーを維持・発展させていくため、コメント投稿にルールを設けています。投稿される方は、投稿前に下記のリンクの内容をご確認ください。

http://www.the-journal.jp/contents/info/2009/07/post_31.html

ご理解・ご協力のほどよろしくお願いいたします。

この件についてもう少し勉強したくなりました。お勧めの本や資料があればご教示ください。

ですよね、夢みたいな美味しい話など持ち込んできたほうが何年も研究し・・・
ですよね、突然ハイって
振り込め詐欺に出くわしたか弱い羊みたいなもんですよね
中国は日本だけでなく世界中を研究してミスはどうして起きたか、
良いとこ取りする手段を研究して今があるはず。
韓国も2国間を随分やってきただろうし、研究もしてきたはず。

日本は?

リック タナカ 様

お尋ねのあったブラジルの大豆生産に関する情報です。
今年収穫した2010年大豆の生産量及び来年収穫される2011年大豆の予想生産量に特段の変化はありません。リックさん指摘の狂大豆病等の影響は今のところ無かったと言えます。
2010年の大豆は過去最高の生産高になっています。
専門家からはブラジル農業に様々な面で注意喚起されていますが、大豆栽培面積は拡大しております。

2010年の大豆生産量
68,467,108トン
2011年大豆予想生産量
68,362,122トン
栽培面積2360万haと1.1%増加するが生産量は約0.2%減少すると予想されています。
(出典:IBEGE ブラジル地理統計院)

先進国は「下山の時代」を迎えたのでしょうが、ブラジルは未だ「登山中」といったところでしょうか。

参考になれば幸いです。

昔から 自由貿易は 産業競争力が強いところが推し進め、 競争力の弱いところは 自由貿易を嫌がる。
おそらく、90年代までの日本ならば、自由貿易に疑問を呈する人はあまりいなかったかもしれない。
あるいは、 日本が100年以上アジアで先頭を走ってきたのは、いち早く開国したからだともいえる。

おそらく、これからも自由貿易を推進する国は、さらに競争力を強めていく。日本が 自由貿易を嫌がる風潮が出てきたとすれば、それだけ老いてきたということなんでしょう。 

浅山様に同感。
そりゃあ人口の半分がおじさん以上になれば、新しいことにチャレンジするより、旧いものの上に胡坐をかいているほうが楽だ、と国民の総意としてもそうなってしまいますよね。
バブルの時代にも、行け行けドンドンも先が見えて、これからは安定成長路線に切り替えよう、という論調がありました。
小泉竹中改革でどっかへ行ってしまいましたが・・・
もしあれが成功していたら、今頃は中国の発展にビクビクせず、悠々自適の国になっていたかもしれません。
なんて年寄りはつい夢想してしまいます。
だからこそ若い方達には、年寄りの言いなりにならないで、自分の信じる道に進んでいってほしいのです。

Profile

リック・タナカ(Rick Tanaka)

-----<経歴>-----

信州松本出身。
1980年、シドニーに漂着。
大学中退後、ラジオやテレビ、ウエッブ、雑誌、ニューズレターなどで執筆、制作、コンテンツ制作、翻訳/通訳、音楽マネージメントなどで活動。
1997年、それまで15年暮らしたシドニーから標高千メートルの高原の町カトゥーンバに引っ越し、執筆・メディア活動と並行しながら、消費を抑え生産する楽農生活に突入する。
2007年、大陸の東南に浮かぶ島にある人口300人の村に移住、オイル・ピークと環境ゲテモノ化時代に備える暮らし、近隣社会の構築を模索中。

BookMarks

-----<訳書>-----


『未来のシナリオ』
2010年12月、農文協

-----<著書>-----


『人工社会』
2006年3月、幻冬舎


『楽農パラダイス』
2003年、東京書籍


『おもしろ大陸オーストラリア』
2000年、光文社知恵の森文庫

-----<共著>-----


『Okinawa Dreams Ok』
1997年、Die Gestalten Verlag


『Higher than Heaven:Japan, war and everything』
1995年、Private Guy International

-----<訳書>-----


『沖縄ポップカルチャー』
2000年7月、東京書籍

『首相暗殺』
ロバート・カッツ著、集英社

→ブック・こもんず←

当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.