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石炭ピーク(は思ったより近い?)/Peak Coal may be around the corner.

中国が金融引き締めに転換というニュースが世界を駆け巡っています。たとえば、12月4日付けのasahi.com。アメリカでは失業率が悪化し、ヨーロッパでは主権国家の債務危機が収まらず、日本の好況も「エコなんとか」補助金(税金)というバイアグラが頼りなので、世界経済の回復は中国やインドなどにかかっています。

エコといえば、こういうニュース報道に接すると巷で大はしゃぎするわりに、生態系についてまったくわかっていないなあと感じないわけにはいきません。すべての生態系は基礎となるエネルギーの制約を受けるもので、人類の経済、政治や文化も同様にエネルギー源の制約を受けるということです。人間の生活や経済を律する「見えざる手」は市場ではなくエネルギーなのです。
そういう純粋にエコな視点から見れば、12月4日のニュースはすでに予想可能なことです。中国の経済成長のエネルギー基盤は石炭です。1800億トンといわれる埋蔵量の石炭を掘り出し、燃やすことで中国経済は発展してきました。1950年には年間1億トンほどの生産、消費でしたが、世界の工場となり、世界経済のエンジンルームになったこのごろでは年間30億トンの石炭が消費されています。中国の発電の8割は石炭でまかなわれています。世界的に見れば石炭消費の5割は中国です。中国(そして世界)の経済は(中国の)石炭にかかっています。

■中国の石炭生産と消費

グラフはtheoildrumより転載

■中国が世界の石炭消費に占める割合

グラフはtheoildrumより転載

ウォールストリートジャーナル紙は11月16日付けで中国国家エネルギー局(National Energy Administration)の張国宝(Zhang Guobao)局長の発言を引用し、中国政府は次の5カ年計画(2011年から2015年)で石炭の国内生産に36から38億トンの上限を設けることを検討していると報道しました。引用元の新華社通信の記事は見つかりませんでしたが、上限を設ける理由について、WSJは国内の炭坑では年10%で上昇する石炭需要を賄うことが難しくなっているからだとしています。毎年10%近い成長を続けてきた中国経済ですが、これからは国内の石炭だけでどうやらまかないきれない、減速せざるを得ない、そういう苦しい台所事情が今回の金融引き締めの裏にあるのです。

BPの世界エネルギー統計によれば、中国の石炭生産は2009年には30、5億トンでした。これが年率10%ずつ伸び続ければ2011年には前述の36億トンに達してしまいそうです。
しかし、年率10%といえば,7年で倍増することになります。つまり、このままいけば2017年頃には現在世界全体で燃やすのと同じ60億トンの石炭を中国一国で消費することになります。そんな成長率を維持できるわけがない、それが今度の金融引き締め発表の裏にあるのではないでしょうか。ドイツのエネルギーウォッチグループの研究(2006年)では中国の石炭はすでに分水嶺を超えたと見ています。

■中国の石炭(2006年エネルギーウォッチグループの研究)とその後の生産

しかし、ここ数年の生産はその予想をはるかに上回る勢いで拡大しています。エネルギーウォッチグループの計算よりも埋蔵量が大きい可能性があります。また、石炭だけでなく、ピーク以前にピークの時期を予測する、また、埋蔵量を予測することが如何に難しいことであるのかと言うことも同時にこのことからわかります。
しかし、ここ数年の生産だけを見て、中国の石炭埋蔵量が格段に多いだろうと結論することもできません。それは英国の北海油田の減耗を見てもわかるように、進歩した技術や桁違いの投資をすれば、ピークの時期を先送りすることは可能になります。しかし、その代償はピーク以降の急激な減耗です。
北海油田の2002年から2008年にかけての減耗率は年率6.7%です(それに相当する時期の米本土48州の減耗率は3.9%)。中国が同じように石炭を絞れるだけ絞っているならば、ピーク以後、生産は急にがくんと落ち込むことでしょう。中国を当てにする世界経済への影響は深刻です。
ピークに達していないにしても中国で石炭が不足すれば国内経済、そして世界経済は減速を余儀なくされます。中国は不足分を輸入で補い、経済成長を維持することも考えられます。2007年までは輸出国だった中国も今では石炭の輸入国です。人民日報によれば、2009年には国際市場で取引される石炭の1/5にあたる1億2千6百万トンを中国は輸入しています。今年は1月から5月までで、すでに7千万トン近い石炭が輸されています。オーストラリアなどの石炭輸出国にとっては朗報かもしれませんが、石炭の価格上昇は避けられません。そして、オイルピークに続き、石炭価格も上昇すれば、商品価格の上昇に跳ね返ることは間違いありません。数年前にリチャード・ハインバーグが言ったように、オイルピークは「すべてのピーク」を引き起こします。

ハインバーグはデビッド・フリッドリーとの共著で「ネイチャー」誌の11月18日号に「廉価な石炭時代の終わり」という記事を発表しています。全文は購読者でないと読むことができませんが、その要約はふたりが関わるポストカーボン研究所のサイトで読むことができます。
オイルピークをかじったことのある人なら、この記事のタイトルは1998年にサイエンティフィック・アメリカン誌に掲載され、以後のオイルピーク論争に火を付けることになったキャンベルとラエレールの論文「廉価な石油時代の終わり」を意識していることに気付くでしょう。
石炭はとてつもなく膨大な埋蔵量があり、気候変動がどうだとかこうだとか、炭素隔離の導入があろうがなかろうが、オイルピークの影響で石油が安く手に入らなくなれば、当然そちらにシフトしていくだろうと思われています。石炭火力発電の拡大が可能であり、石炭液化が真剣に論議されるのも、石炭がたくさんあると思われているからです。しかし、それが本当にそんなにたくさんあるのだろうか。廉価な石炭はそれほど残っていないのではないか。著者は問いかけます。
石油と同じで石炭の埋蔵量についても、その質や獲得の難易を計算に入れなければなりません。埋蔵量の数字も、やはり石油同様、疑ってかかるべきなのかもしれません。しかも埋蔵量が巨大であっても、それがそのまま生産量の増加につながるわけではない。例えば、アメリカには2400億トンの埋蔵があり、現在は年間10億トンの使用だから少なくとも200年以上は持つだろう。なんて考えがちです。石油の場合もそうですが、人間というのはより良い品質のものをできるだけ近いところから採掘するものです。石油についてならば、自噴する油田、しかもマーケットに近いところから手をつけるもので、わざわざ最初からオリノコ川沿いの石炭のいとことも呼ばれる低質な油や、海面下何千メートルの海底油田になんか手をつけたりはしません。石炭も同様で、最初に掘り出すのは安くて質がいいものです。たとえこれだけの埋蔵が現実にあったとしても、そのなかには掘り出すに値しないものや、掘り出せないものもあることでしょう。
通常原油がIEAが認めるように2006年に達したとすれば、ほかのエネルギー源にしわ寄せがいくのは十分に理解できることで、とりあえずは天然ガスと石炭の需要が急増するだろうと予測されています。しかし、このふたつも有限な資源であり、それぞれの生産ピークはそれほど遠いことではないのかもしれません。

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中国を主体とした世界的な資源の消費増大は、資源の枯渇を極度に早めていることは、十分認識を共有できる。

論点にあるとおり、資源は有限であり、コストパフォーマンスの悪化は、資源採掘の限界を示すので、資源の高騰は石油、石炭離れが以外に早まるかもしれない。

当然の警鐘であるが、総論賛成、各論反対の消費国のエゴをまとめていくのは、至難なことであろう。

資源の管理は、困難なことは理解できるが、全世界的な視野で科学的に埋蔵量を把握し、全世界で討議するすることの重要性を実感しています。

目からうろこが・・・
ありがとうございます。

yamadaさん、コメントありがとうございます。ピークに関して「減耗議定書」という形で世界各国に減耗率に見合う資源消費の削減を課そうという動きはあります。しかし、気候変動についての合意がなかなか得られないことひとつを見ても、こうしたことを国際的に決めるのは容易ではないでしょう。
むしろ、一人ひとりが取り組んでいった方が手っ取り早いかもしれませんね。結局。

エネルギーを化石燃料に頼ることの不安定さについては仰る如くでしょう。
しかし、既に始まっている太陽光や風力・波力等の自然エネルギーの未来(つなぎとしての原子力を含めて)は、利用可能量に限りはあるとしても、エネルギー源そのものが枯渇することはありません。
人類はエネルギー源を、薪炭から石炭・石油とシフトし続けており、薪炭林や石炭鉱山等は振り返れば死屍累々の状態で、油田も遠からずそうなるのは間違いないでしょう。
が、我々は枯渇しないエネルギー源に手が届く所までやってきました。
今後、化石資源(敢えて燃料と言わずにこう言いましょう)は文字通り資源として利用することとし、エネルギーは再生可能エネルギーにシフトしていくでしょう。
こうすることで人類の福祉は、従前どおりの勢いか否かは別として、停滞することは無いと信じています。
しかし再生可能エネルギーの利用にしても、現下の技術レベルでは地球生態系への影響は決して小さいものではありません。
エネルギー利用技術に一層の磨きをかけ、生態系に優しい、否、生態系の一員としての人類の未来を拓いて行きたいものです。

showさん、コメントありがとうございます。
確かに自然エネルギーへはシフトしていかざるを得ないと思います。代替エネルギーについては4年前に書いた記事を参照ください。

エネルギー問題が安全保障上最重要課題だとの認識が、産業界にもマスコミにも学会にも、ましてや政府、政党にも全く希薄な事が大問題です。
恐らく、彼ら老人たちは自分の生きている残り数年間の事しか興味が無いのだろう。
安全保障というとすぐに核武装云々という話が出てくる、中国と水爆を打ち合って、東京、大阪、北京、上海、が壊滅しても中国には大都市が多数残るが、日本は完全にアウトだろう。
そんな事も分からない人間たちが堂々と大声を上げている。

furyさん、コメントありがとうございます。
化石資源が減耗していく時代、資源ナショナリズムが生まれ、そして国内的にはファシズムなどが全体主義の政体すら生まれるかもしれません。今よりも国際的な緊張は高まるかもしれません。短気だが熾烈な戦争の可能性もあります。
これはホルムグレンが『未来のシナリオ』でブラウンテクと呼ぶシナリオですが、可能なシナリオはこれだけではありません。ピーク以降の時代、どんなシナリオがあり得るのか、それについては『未来のシナリオ』をご一読ください。

Profile

リック・タナカ(Rick Tanaka)

-----<経歴>-----

信州松本出身。
1980年、シドニーに漂着。
大学中退後、ラジオやテレビ、ウエッブ、雑誌、ニューズレターなどで執筆、制作、コンテンツ制作、翻訳/通訳、音楽マネージメントなどで活動。
1997年、それまで15年暮らしたシドニーから標高千メートルの高原の町カトゥーンバに引っ越し、執筆・メディア活動と並行しながら、消費を抑え生産する楽農生活に突入する。
2007年、大陸の東南に浮かぶ島にある人口300人の村に移住、オイル・ピークと環境ゲテモノ化時代に備える暮らし、近隣社会の構築を模索中。

BookMarks

-----<訳書>-----


『未来のシナリオ』
2010年12月、農文協

-----<著書>-----


『人工社会』
2006年3月、幻冬舎


『楽農パラダイス』
2003年、東京書籍


『おもしろ大陸オーストラリア』
2000年、光文社知恵の森文庫

-----<共著>-----


『Okinawa Dreams Ok』
1997年、Die Gestalten Verlag


『Higher than Heaven:Japan, war and everything』
1995年、Private Guy International

-----<訳書>-----


『沖縄ポップカルチャー』
2000年7月、東京書籍

『首相暗殺』
ロバート・カッツ著、集英社

→ブック・こもんず←

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