まさか、島を攻撃するとは!
なんともめちゃくちゃに忙しかった。夕方からテレビ局を梯子し、移動車の中で新聞や週刊誌等にコメント。帰宅したのは午前0時を回った。海上での南北砲撃戦のためだ。
韓国哨戒艦が沈没した黄海(西海)上で韓国軍単独による朝鮮戦争以来最大規模の軍事演習を今年8月に韓国軍が「我が領海内で行なわれる防御訓練である」として実施した際、北朝鮮人民軍は「単純な訓練ではなく、われわれに対する露骨な軍事的侵攻行為である」とみなし、韓国が「不法、無法のNLL(北方限界線)」をあくまで固守しようとするなら「強力な物理的対応打撃で鎮圧する」と警告を発していた。が、現実には北朝鮮は手を出さず、傍観した。
しかし、そのうち必ず行動に移すだろうとは予想していたものの韓国艦船への攻撃はあってもまさか延坪島(ヨンピョンド)を砲撃をするとは思ってもみなかった。北朝鮮最高司令部は韓国側が先に発砲し、砲撃したと説明しているが、それが事実であっても、だからと言っていきなり民間人が暮らす島を直接狙うとは信じられないことだ。無謀極まりない。
韓国の哨戒艦事件に続き、またもや一方的にやられた韓国側の怒りは半端ではないだろう。まして、一般人が犠牲になったことは憤りを通り越し、北朝鮮に懲罰を求める雰囲気が高まるかもしれない。軍人にいたっては、再び報復を叫ぶ者も出てくることだろう。軍の士気にかかわるからだ。
韓国国防部は3月の哨戒艦沈没事件後「やるならやってみろ。一発撃ったら、10発、100発でお返しする」と「報復」を誓っていた。北朝鮮がちょっとでも手を出せば、哨戒艦沈没の敵を打つ気構えでいた。
李明博大統領は事態をエスカレートさせず、冷静に対応するよう訓令しているが、その一方で、今度挑発があったら容認せず断固対処し、砲撃基地をミサイルで叩いても良いと軍を鼓舞したそうだ。
韓国がミサイルを使用すれば、北朝鮮もミサイルで応戦することは間違いない。大砲の打ち合いからミサイルの応酬ということになれば、局地戦争では済まなくなる。
今回の南北交戦がこれで終息するのか、それとも拡大するかは、今日、韓国軍が計画通り軍事演習を再開するかどうかにかかっている。仮に中止ということになれば、北朝鮮の軍事的威嚇に屈したとの誤ったメッセージを与えかねないだけにイージス艦や駆逐艦を動員しても今日含めて予定とおり30日まで軍事演習を継続するのではないだろうか。
そうなると、問題は北朝鮮の対応だ。「領土侵犯は容認せず、無慈悲な報復」を加えると言っている手前、韓国軍が北朝鮮が自らの領海と主張している現場で軍事演習を継続した場合、再び、砲撃することも考えられなくもない。南北双方にとって、これは言わば度胸ためしのようなものだ。ロシアンルーレットか、チキンレースか、とにかく、先に譲歩したほうが負けと考えているならば、再び衝突することは十分に考えられる。
仮に、今回はこれ以上、衝突が起きなかったとしても、韓国軍がこれまで自制していた拡声器による対北非難宣伝放送を再開することになれば、北朝鮮は即座に軍事的対応をすると公言しているだけに海上から今度は陸上で交戦が発生する可能性も十分に考えられる。
仮に、お互いがミサイルによる報復合戦となった場合、どうなるのだろうか。万一の場合に備えて、シミュレーションをしてみた。
まず、北朝鮮側の戦法だが、韓国軍がミサイルを使用した場合は、西海岸沿いに配備してあるシルク地対艦ミサイル(10基以上)とSA5地対空ミサイル(数十基)で攻撃するだろう。シルクワームの射程距離は90km。SA5ミサイルは、射程距離250km。韓国の空軍力に致命的な打撃を与えることができる。
北の西海艦隊所属の6戦隊が保有する艦艇は420余隻。SO1級警備艇は18隻。潜水艦は40隻。西海岸の3つの空軍基地には150余機の戦闘機が配備。離陸後5分でNLLに到着するとみられる。
これに対して韓国側はどうか。
北朝鮮のミサイル発射と同時にF-16(2個編隊)を出撃させ、ミサイル基地を爆撃する。続いて、韓国が実効支配している延坪島などに配置されてある射程距離130kmのハープーン・ミサイルで北朝鮮の海岸砲と地上砲基地を攻撃する。さらにNLL以南20kmに待機している駆逐艦に搭載されているハープーン・ミサイルで叩くことになるだろう。至近距離では哨戒艦の76mm砲で遠距離では65kmのミサイルで応戦する作戦だ。
韓国は西海岸に2艦隊所属の戦闘艦160余隻を保有。潜水艦10余隻。射程距離130kmハ−プンミサイルを保有している。艦船の数では韓国が劣っているが、500トン以上の大型艦艇など性能で上回っている。
このようなシミュレーションが現実にならないことをただただ祈るばかりだ。