Calendar

2009年4月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    

« 2009年3月 | メイン | 2009年5月 »

2009年4月27日

二度目の核実験に突き進む北朝鮮

 国連安保理議長声明への北朝鮮の反発は、大方の予想を上回る速さで、収まる気配がありません。

 「北朝鮮の発射」を非難する安保理議長声明が4月14日に採択されるや間髪を入れず、北朝鮮は6か国協議からの脱退と核開発の再開を宣言しました。2日後の16日には早くも国際原子力機関(IAEA)の監視チームに核施設の封印と監視カメラを撤去させたうえで国外退去させ、同時に核無能力化作業を監督していた米国の専門家らも寧辺から追放しました。

 濃縮ウラン疑惑が浮上したブッシュ政権下の2002年の時も、同様のことがありましたが、それでも一気にではなく、監視カメラ撤去まで10日間、IAEA職員の追放まで15日間かけて順次行ないました。また、昨年もテロ支援国指定を解除しないことに苛立ち、一時期核施設の無能力作業を中断させたことがありましたが、それでも封印と監視カメラの撤去及び3人のIAEA監視要員の追放までに1ヶ月近く間を置きました。過去のケースと比べようもないほど今回の北朝鮮の行動は迅速で、尋常ではありません。

 極め付きは、「使用済み核燃料棒の再処理を開始した」と25日に発表したことです。北朝鮮が現在保有している8千本の使用済み燃料棒を再処理するには再処理施設を修復しなければなりません。無能力化の段階にあった再処理施設の修復には1~2ヶ月、そして貯蔵プールに保管されてある使用済み燃料棒を取り出し、再処理するまでには3ヶ月間は要すると見られていました。従って、「核開発再開宣言」から僅か10日後の再処理着手には「本当だろうか?」との疑問の声がIAEAなど関係者の間で上がっていますが、いずれにせよ仮に8千本の使用済み燃料棒が完全に再処理されるようなことになれば、北朝鮮は秋までに新たに核爆弾5個分のプルトニウム25~30kgを手にすることとなります。

 ウォルター・シャープ駐韓米軍司令官は4月22日、韓国商工会議所での講演で「北朝鮮は少なくとも核兵器を6個製造できるプルトニウムをすでに保有している」と言っていました。また、オバマ大統領は昨年7月23日、大統領選挙遊説で北朝鮮は「核兵器を8個持っている」と公言していました。

 北朝鮮がプルトニウムとして保有しているのか、あるいはすでに核爆弾化させたのか、正確なことは米国にもわからないようです。また、保有数についても駐韓米軍司令官と最高司令官の見解は分かれています。しかし、プルトニウムにせよ、核爆弾にせよ、北朝鮮が新たに再処理して、プルトニウムを抽出すれば、二桁にのることだけは間違いありません。さらに北朝鮮には未使用の燃料棒が貯蔵所に1万5千本程度保管されたままにあります。破壊された冷却塔など原子炉の施設が復旧されれば、来年にはさらに10個分の量のプルトニウムが追加されることになります。

 北朝鮮外務省の「再処理開始宣言」は安保理議長声明の勧告により国連制裁委員会が北朝鮮企業3社を制裁対象に指定した直後に出されています。制裁に対する「対抗カード」として北朝鮮が予め用意していたことは明白です。前日の23日に韓国の柳明桓外相が「北朝鮮が再処理すれば、非核化への公約を全面的に違反することになる。国連安保理決議1718号をより厳格に執行しなければならなくなる」と北朝鮮に警告していましたが、北朝鮮は全く意に介していませんでした。

 北朝鮮の相次ぐ強硬姿勢には韓国のみならず、友好国の中国もロシアも完全にお手上げのようです。北朝鮮の説得に失敗したロシアのラブロフ外相は「北朝鮮はまるで孤立した要塞のようだ」と、北朝鮮の印象を語っていましたが、中国やロシアが北朝鮮の傍若無人な態度にあっけに取られるのも無理ありません。

 今回は、3年前とは違い、中国とロシアの両国は日米主導による決議を阻止しました。拘束力のない議長声明に格下げさせました。国連制裁委員会による資産凍結指定企業も日米が提出していた11~14企業から大幅にカットし、日米両国がすでに制裁を実施している「朝鮮鉱業開発貿易会社」(弾道ミサイル関連装置輸出)、「朝鮮嶺峰(リョンボン)総合会社」(武器輸出)、「端川(タンチョン)商業銀行」(弾道ミサイルや通常兵器の取引決済)の3企業だけに限定させました。日本が強く求めていた金正日総書記ら党幹部の専属病院「烽火病院」も対象リストから除外させました。

 また、制裁対象企業についても国連加盟国には制裁実施が義務付けられていますが、履行しなくても罰則はありません。制裁するかどうかは各国の自主的な判断に任されています。強制力と罰則が伴わない限り、制裁効果は期待できません。従って、北朝鮮にとっては大きな痛手とはならないと、中国もロシアも判断したから同調したわけです。

 また、核問題解決のため6か国協議を優先する立場の米国も早くから「ミサイルと核問題は別問題」として6か国協議とは別個に北朝鮮との対話にも応じる意向を表明していました。クリントン米国務長官自身はミサイル問題についても北朝鮮と交渉する用意があることを強調していました。韓国も米国と同じスタンスで、安保理議長声明を一区切りに北朝鮮との対話再開に乗り出す意向を表明していました。しかし、どの国も6か国協議のボイコット宣言ぐらいは想定していたとしても、北朝鮮がIAEAの職員追放から再処理再開へと矢継ぎ早に事態をエスカレートさせるとは予期していなかったようです。

 中国に続きロシアまでもが「衛星打ち上げをもっとも多く行った国が常任理事国として居座っている国連安保理が、国際法の手続きを経て正々堂々と行ったわれわれの平和的衛星打ち上げを上程、論議したこと自体、わが人民に対する耐えがたい冒とくであり、永遠に許しがたい犯罪行為である」(外務省声明)と怒り心頭の北朝鮮を宥めることに手を焼いている以上、米国が直接乗り出すほかはありません。6か国の関係国とも米国の対応を注目しています。

 その米国ですが、北朝鮮の再処理着手の報道にクリントン米国務長官は「北朝鮮の脅しにはのらない」と、断固たる対応を取ると言っています。北朝鮮の暴走を阻止するため、中国、ロシア、日本、韓国やその他の同盟国と連携して、制裁をさらに強化する意向を明らかにしています。

 但し、中国とロシアが制裁の強化に反対している以上、制裁は日米中心となります。問題は米国が日本と同様に単独の制裁に踏み切るか、あるいは逆に米朝対話に乗り出すのか、これが、今後の焦点となりそうです。一昨年までマカオの銀行に対して行なっていた北朝鮮金融制裁や一旦解除したテロ支援国指定を復活させるかどうかで米国の「真剣度」を測り知ることができます。

 仮にオバマ政権が再処理開始報道に反発し、制裁、圧力を強化すれば、「強硬には超強硬で」対処すると言っている以上、北朝鮮の次のカードは、おそらく核実験でしょう。それも当初の予定を1ヶ月早め、朝鮮戦争勃発日の6月25日に向けて再度強行すかもしれません。

2009年4月13日

国連安保理「議長声明」の次は

 北朝鮮の「ミサイル発射」を非難する国連安保理議長声明が15か国の国連理事国による全会一致で採択されます。安保理議長声明は、今回の発射が3年前の国連安保理決議1718号に「違反している」と規定しました。また、北朝鮮にさらなる発射を行わないよう強い警告を発しました。国連安保理の非難が決議ではなく、拘束力のない議長声明に格下げされたとしても、北朝鮮にとっては非常に厳しい内容となっています。

 何よりも、北朝鮮の友好国である中国とロシアの両国が、今回の発射を仮に人工衛星であったとしても「国連決議に違反している」と非難し、「宇宙の平和利用のための人工衛星の発射は自主権に属する」との北朝鮮の主張を退けたばかりか「二度と発射してはならない」と日米の主張に賛同した意味は大きいです。北朝鮮を非難し、再度の発射を禁じたということは中国もロシアも今回の発射が実質的にミサイルであったことを認めたに等しいです。

 北朝鮮は人工衛星発射後、朝鮮中央通信が今回の発射を「気象衛星をはじめとする実用衛星を打ち上げる前段階である」として、今後も人工衛星を打ち上げる方針を明らかにしていますが、国連安保理の議長声明は、ミサイルに続き人工衛星発射の権利を北朝鮮から取り上げたことにもなります。

 また、議長声明は3年前の国連決議(1718号)に基づき、制裁委員会に対して大量破壊兵器関連団体や個人の直接的、間接的な資金や金融資産を直ちに凍結するためのリストと、大量破壊兵器関連の計画にかかわる政策に、支持または宣伝を含め、責任があると認定した人物及びその家族の入国や通過を阻止するのに必要な措置を講じるためのリストを作成し、今月24日まで提出するよう求めています。制裁委員会が作成できない場合は、国連安保理が独自に作成し、国連加盟国に徹底させるとしています。

 仮にこれが履行されれば、ミサイル開発など国防産業全般を指揮する国防委員会は明らかにその対象となり、金正日国防委員長、金英春人民武力相ら13人の国防委員らは国外には出られなくなります。新たに国防委員に任命された労働党の張成沢行政部長も例外ではありません。入国や通過を阻止する対象に「その家族」も含まれているので、厳密に言えば、金総書記の長男、正男氏も当然対象となります。中国やロシアも含めて世界各国が入国禁止措置を取れば、北朝鮮にとってはかなりの痛手となるでしょう。

 北朝鮮にペナルティを科す国連安保理による議長声明が出されたことで、注目されるのが今後の北朝鮮の出方です。

 北朝鮮外務省は「人工衛星」を前に発表した3月24日の談話の中で「平和目的の人工衛星打ち上げを脅威とみなし、差別的に宇宙利用の権利を侵害しようとすることは、6か国協議の共同声明の『相互尊重と平等の精神』に反する」とし、「共同声明が否定される瞬間に6者会談はなくなり、非核化のプロセスが元の状態に戻る」と6か国協議の破綻、ボイコットを予告していました。3月26日には決議でなく、「議長声明」であれ、「プレス声明」であっても「朝鮮側の平和的な衛星打ち上げに対して一言でも非難する文書を出すのはもちろん、この問題が安保理に上程され取り扱われること自体が朝鮮側に対する敵対行為になる」と、上記の行動を取ることを示唆しています。

 こうした北朝鮮の「警告」からして、予想されるのは、6か国協議からの脱退を宣言することです。「6者会談は破綻する」と警告した以上、必ず実行に移すでしょう。6か国協議からの脱退は、最後まで拒否権を発動せず、日米と手を握った議長国中国の「裏切り」への北朝鮮の暗黙の「報復」と言えなくもありません。6か国協議を破綻させることで中国の影響力を削除し、米朝直接交渉に持ち込む考えなのかもしれません。

 また「朝鮮半島の非核化に向けて進捗状態にあった非核化のプロセスが元に戻る」と言明している以上、次のステップとして、核施設の再稼動に着手することになるでしょう。

 そして、3ヶ月以内にミサイル問題を含む米朝直接交渉の場に米国が出て来なければ、「我々には敵対行為を阻止するための力を強化していく道しかない」(外務省声明)で宣言していることから三年前と同様に核実験を強行するかもしれません。

 また、仮に韓国政府が「自国の法律と国際法に従って北朝鮮向け及び同国からの貨物検査を含む協調行動を必要に応じてとることを要請する」ことが規定された1718決議に則り、大量殺傷兵器拡散防止構想(PSI)への参加を発表すれば、航海の安全を担保した南北海運議定書の無効化を宣言し、本格的な渡り蟹シーズンを迎える西海(黄海)で軍事的アクションを起こすことも考えられます。

 「ミサイルを発射しても6か国協議は継続する」(ヒラリー国務長官)「6か国協議を再開させなければならない」(温家宝首相)との共通の利害で一致している米中が6か国協議を維持するため北朝鮮をどう宥めるのか、猶予は長くても朝鮮戦争休戦日(7月27日)までの3か月間です。

2009年4月11日

国連の経済制裁と逆行するEU企業の北朝鮮進出

 北朝鮮は核とミサイル問題で国連の経済制裁に直面しているが、驚いたことに水面下ではEUなど西側企業による北朝鮮市場への進出が始まっている。

 北朝鮮が外交的に孤立しているのは事実だが、それでも国連加盟国(192か国)中、160余か国と国交を結んでおり、EU加盟国ではフランスを除くすべての国と国交がある。但し、北朝鮮とEUとの貿易は北朝鮮の全体貿易量の10%程度に過ぎない。それでも、08年上半期は8、800万ドルと、2007年上半期の7、000万ドルから26%も増加している(EUの対北輸出6400万ドル、輸入2400万ドル)。

 平壌にはすでに欧州11の企業から成る欧州企業連合会が結成され、合弁事業を展開している。
 進出企業を国別でみると、以下のような企業がすでにビジネスを展開中である。
 イタリアはブリンデルリ法律会社と世界的運送会社のDHLが進出しているし、英国は、オリンド(Orind)社が北朝鮮のマグネサイトに食指を伸ばしている。
 また、アミネックス精油会社が北朝鮮との油田開発との関連で20年間の試掘契約を締結し、採掘を行なっている。採掘している石油埋蔵量について40~50億バレルと同社では推定しているが、資金の調達が難航し、足踏み状態にある。
 この他にロンドンの金融監督庁監督下にある「アングロ・ジノ・キャピタル投資会社」などが北朝鮮向け「朝鮮開発投資ファンド」(通称:朝鮮ファンド)を設立し、資金募集に乗り出している。鉱山や鉱物の開発への投資が目的である。
 フランスは北朝鮮と国交がないものの、パリには貿易の窓口として北朝鮮通商代表部がある。また、ラファース(Lafarse)社は平壌祥元(サンウォン)セメント会社に1億1千5百万ドルを投資しているエジプトのオラスコム社を150億ドルで買収している。オラスコム社は07年7月に祥元セメント工場の持ち株50%を取得しているので、実質的にラファース社の手にあると言っても過言ではない。
 スウェーデンは「NOKO Jean社」が北朝鮮では資本主義の象徴とみなされているジーパンの委託加工工場を北朝鮮企業と合弁で建設し、生産、輸出している。
 オランダでは昨年9月27日から10月4日まで7泊8日の日程で15の企業から成る市場開拓事業団(トレードミッション)が訪朝している。今年4月には北朝鮮から経済ミッションを招き、EU企業を対象に対北投資説明会を開く予定だ。
 西側企業にあって北朝鮮に進出しているのはEUだけでない。オーストラリアのRHIという会社も07年に端川のマグネサイト鉱山に800万ユーロを投資している。また、マラタナ信託会社が07年2月22日に北朝鮮の財務省と合弁で小規模の貸付金融合弁会社を設立し、すでに貸付を始めている。
 北朝鮮への経済制裁を解いていない米国でも、スターテック社が北朝鮮逓信会社との間で音声、インターネットプロトコール供給契約を締結している。
 北朝鮮に進出しているエジプトのオラスコム・テレコム社が今年1月から平壌で携帯電話の開通とインターネット高速サビース事業を開始したが、オスラコム・テレコムのバックには米企業がいる。オラスコム・テレコム・ホールディングを傘下に置いているウェザーインベストメンツの株を大量に取得しているのが米投資会社のブラックストーングループとエイペックス・パートナーズワールドワイドLLP社なのである。
 韓国の現代経済研究院が昨年2月3日に発表した「EU新アジア戦略分析と視点」と題する報告書によると、EUは北朝鮮を鉱物資源の宝庫とみなし、北朝鮮の発電設備や通信網の近代化事業、鉄道運輸システムの現代化事業から委託加工事業、観光事業への投資に大きな関心を寄せている。

 昨年9月(22-25日)に平壌で開かれた国際商品展覧会に中国、ロシアの他、英国、ドイツ、スウェーデン、デンマーク、ポーランド、シンガポール、インドネシアなど150か国の企業が訪れている。その中には平壌滞在中に携帯電話ゲーム、ソフトウェア開発に関する契約を交わした企業もある。
 今年も5月9日から16日までの間に開かれる国際商品展覧会にオランダ、スイス、スペインなどの企業から構成される対北事業団が参加し、情報技術やIT関連を中心に北朝鮮企業を視察する予定だ。◆

2009年4月 1日

北朝鮮に報復能力はあるのか?

 北朝鮮が打ち上げた「人工衛星」を日本が長距離弾道ミサイルと称して迎撃した場合果たして北朝鮮は報復するのでしょうか?

 朝鮮中央通信は昨日の論評で、北朝鮮が「人工衛星」と称して発射の準備を進めている長距離弾道ミサイルを日本が迎撃した場合、戦争行為とみなし、「最も強力な軍事的手段によってすべての迎撃手段とその牙城を無慈悲に粉砕する」と反発していました。3月9日にも陸海空を束ねる朝鮮人民軍総参謀部が同様の内容の声明を発表していました。

 人民軍総参謀部は声明の中では「平和的衛星に対する迎撃行為に対しては最も威力のある軍事手段により即時に対応打撃で応える」「我が革命武力は躊躇なく投入されたすべての迎撃手段だけでなく、迎撃陰謀を企てた日米侵略者と南朝鮮(韓国)の本拠地に対して正義の報復打撃戦を開始する」と迎撃を「宣戦布告」とみなし、攻撃を加えることを宣言していました。

 北朝鮮の威嚇が単なるハッタリか、実際に行動に移すのか、予測するのは難しいです。ただ気になるのは、米韓合同軍事演習を理由に全軍に発令した「戦闘動員態勢」を演習が3月20日に終了したにもかかわらず今なお解除されていないことです。迎撃に報復すれば、北朝鮮ミサイル基地への米国による猛烈な反撃は避けられず、それに応戦すれば、局地戦争、全面戦争に発展するとの想定しているからでしょう。

 しかし、日本による迎撃は、切り離されたブースターが誤って日本の領土、領海に落下する場合に備えての、国民の生命と安全を守ることを目的とした自衛隊法82条に基づくものです。「飛翔体」の落下は、厳密に言えば、領土、領海、領空侵犯に該当するので、迎撃は国際法的にも許されます。北朝鮮も、そのことは十分に認識しているはずで、従って北朝鮮による報復は、日本が検討している落下物への迎撃を指しているものではなさそうです。

 北朝鮮が言う報復とは、「人工衛星」が宇宙空間に向かって上昇中に迎撃された場合を指します。例えば、第一段のブースターが切り離される前後にイージス艦のSM-3で「人工衛星」が撃ち落された場合は、報復の可能性は極めて高いと思われます。

 報復の最大の理由は、「報復する」と大声をあげながら、実際に行動に移せないとなると、今後二度と日本や米国、韓国に対して威嚇や恫喝外交が通用しなくなるからです。同時に米国の軍事的圧力に屈すれば「100戦練磨の将軍様」と喧伝してきた金正日総書記の威信が完全に失墜するからです。弱腰、臆病とのレッテルを貼られれば、軍をこれ以上掌握するのは困難です。へたをすると、軍から見放されます。後継者問題にも影響を及ぼしかねません。

 まして、労働新聞は数日前(3月28日付)に「我々は勝つ」との見出しの長文の「正論」を掲げたばかりです。「正論」はその中でこれまでの対米外交戦の勝利は「敵が鉄砲を抜けば、我々は大砲で」と、強硬には超強硬で対処してきた金総書記の胆力があったからだと褒めたたいたばかりです。最高司令官兼国防委員長の威信を保つためにも報復に打って出ざるを得ないでしょう。金総書記としては引くに引けないということです。

 北朝鮮は過去に何度も一触即発の危機を経験してきました。古くは、1966年の「プエブロ号事件」、71年の「EC-121撃墜事件」、76年の「板門店ポプラ事件」から94年の「第一次核危機」、06年の「第二次核危機」と世界最強の米国とチキンゲームを演じてきましたが、その都度、北朝鮮は「報復には報復で、局地戦争には局地戦争で、全面戦争には全面戦争で応える」と応酬してきました。

 「報復には報復」という意味は、「やられたら同じようにやり返す」という意味で、迎撃されたら、迎撃したところを同じ手段を使って叩くという考えです。

 万一に備えたイージス艦による迎撃は、少なくとも北朝鮮の陸地から300km離れた日本海から行なわれます。ということは、海上のイージス艦に向けスカット・ミサイル(300-500km)が使われるものと思われます。仮に、日本本土の基地から迎撃された場合は、その基地に向けてノドン・ミサイル(1000―1300km)が使われることになります。艦艇とIL28爆撃を使えば、射程距離100kmの艦対艦、空対艦短距離ミサイルでのイージス艦への攻撃も可能です。

 北朝鮮は1984年以来14回ミサイル発射実験を行ってきました。1984年5~9月にかけてスカッドBを、1990年6月と91年7月にスカッドCを、93年5月にはノドン1号、そして98年8月にはテポドン1号の発射実験を行ってきました。

 韓国に亡命した北朝鮮ミサイル将校の安善国氏によれば、1993年に能登半島に着弾したノドン・ミサイルは「目標物と着弾地点との誤差が半径で500メ-トルと、基準に合格し、1回の実験で試射に成功した」そうです。大方の予想に反して、精度が高いとのことです。

 北朝鮮は2006年7月に東海岸でテポドン2号と同時にノドン・ミサイル、スカッド・ミサイルを連続して発射しました。また、07年6月には東海岸でKN-02反距離地対地ミサイルを発射実験を行い、昨年3月にも西海岸で3発から6発の短距離ミサイル発射実験を行なっています。射程距離46kmの艦対艦ミサイルと見られていますが、誘導弾の性能及び運用能力の向上が目的だったと言われています。

 北朝鮮は2007年4月25日に行なわれた朝鮮人民軍創建75周年の軍事パレードで新型中距離弾道ミサイル(IRBM)を初めて公開しました。「先進的な技術を使った全く新しいミサイルシステムである」と言われているこの新型ミサイルは、ソ連が潜水艦発射用として開発したSSN-6モデルを改造したもので、射程距離3000-4000kmとみられています。沖縄だけでなく、グアムまで射程圏内に入ります。新型ミサイルは舞水端里基地に配備されたことから米国は「ムスタン・ミサイル」と命名しているようです。すでに、昨年に実践配備されたとの情報もあります。

 北朝鮮はすでに1000基以上の弾道ミサイルを保有しています。昨年4月、英国の世界的軍事コンサルティング業者である「ジェーンズグループが発刊する「ジェーンズ国家別安保評価報告書」によれば、スカッド・ミサイルが600-800基、ノドン・ミサイルなど中距離ミサイルが150-200基、その他50の長距離ミサイルを含め1千基余りのミサイルがすでに実践配備されています。また、最近の米議会調査局の資料によれば、2006年までに20基のテポドン2を生産しているといっています。

 どうやら北朝鮮には報復の能力はあるようですが、後は、本気で報復するかどうか、金総書記の意思にかかっているようです。

Profile

辺 真一(ぴょん・じんいる)

-----<経歴>-----

1947年東京生まれ。
明治学院大学(英文科)卒業後、新聞記者(10年)を経て、フリージャーナリストへ。
1980年 北朝鮮取材訪問。
1982年 朝鮮半島問題専門誌「コリア・レポート」創刊。現編集長。
1985年 「神戸ユニバシアード」で南北共同応援団結成。統一応援旗を製作。
1986年 テレビ、ラジオで評論活動を開始。
1991年 南北国連同時加盟記念祝賀宴を東京で開催。北朝鮮への名古屋からの民間直行便開設に助力。
1992年 韓国取材開始。(以後今日まで二十数回に及ぶ)
1998年 ラジオ短波「アジアニュース」パーソナリティー。
1999年 参議院朝鮮問題調査会の参考人。
2003年 海上保安庁政策アドバイザー。
2003年 沖縄大学客員教授。
現在、コリア・レポート編集長、日本ペンクラブ会員。

BookMarks

オフィシャル・ウェブサイト
「辺真一のコリア・レポート」

-----<著作>-----


『「金正日」の真実』
小学館、2003年1月


『金正日「延命工作」全情報』
小学館、2002年11月


『強者としての在日』
ザ・マサダ、2000年11月


『「北朝鮮」知識人からの内部告発』
三笠書房、2000年1月


『北朝鮮亡命730日ドキュメント』
小学館、1999年6月


『北朝鮮100の新常識』
ザ・マサダ、1999年5月

『ビジネスマンのための韓国人と上手につきあう法』
ジャパン・ミックス、1997年12月

『朝鮮半島Xデー』
DHC、1994年8月

『表裏の朝鮮半島』
天山出版、1992年4月

-----<共著>-----


『読売 VS 朝日 社説対決 北朝鮮問題』
中央公論新社、2002年12月

『韓国経済ハンドブック』
全日出版、2002年3月

『一触即発の38度線』
飛鳥新社、1988年7月

-----<訳書>-----


『北朝鮮が核を発射する日』
PHP研究所、2004年12月

『凍れる河を超えて(上)』
講談社、2000年6月

『凍れる河を超えて(下)』
講談社、2000年6月

『私が韓国をキライになった48の理由』
ザ・マサダ、1998年9月

『潜航指令』
ザ・マサダ、1998年7月

『生きたい!』
ザ・マサダ、1997年7月


当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.