« 2006年7月 | メイン | 2006年9月 »

2006年8月25日

核実験はあるか

 北朝鮮が脅威と危機を意図的に煽っています。ミサイル発射で期待したほどの外交成果をあげられなかったどころか、逆に中国の離反で思わぬ国際包囲網に直面したためその打開策として切り札である「核カード」を今まさに切ろうとしています。そればかりではありません。軍部は8月21日から始まった米韓合同軍事演習を「休戦協定の無効化を宣言する戦争行為とみなす」と決め付け、「朝鮮人民軍は休戦協定の拘束を受けない」と宣言しました。朝鮮中央通信(KCNA)にいたっては何と「自衛のために必要と考えた時点で、先制措置を取る権利を有する」と発表しました。「先制措置」とは「先制攻撃」を指すことは言うまでもありません。

 相も変わらず工作員を送り込むなど韓国に対して挑発的な言動を繰り返しながら、その一方で、水害被害のための復旧支援や食糧援助を要請しています。韓国政府は人道的な観点と同胞愛から北朝鮮の求めに応じてセメント10万トン、コメ10万トンを含む総額で267億円相当の支援を決めました。戦争の危機を高めることで戦争を恐れる韓国や周辺国から譲歩を引き出すという北朝鮮による毎度お馴染みの戦術とも言えます。但し今回、軽視できないのは単に言葉の遊びに止まらず、核実験という不気味な動きを見せていることです。

 本来ならば、北朝鮮は昨年2月に核保有宣言をしたわけですから、失敗するかもしれない実験をあえて強行する必要はないわけです。すでに伝えられているように1998年にパキスタンで「代理実験」をやっているならば、なおさらです。放射能汚染があるかもしれない狭い国土で再度実験を強行する意味はないはずです。まして、核実験を実施すれば、今度こそ国連の経済制裁を免れないでしょう。そのようなリスクを犯す理由も見当たりません。前回最後まで国連安保理での制裁に反対した中国も今度は、黙ってはいないでしょう。

 このように考えると、核実験の可能性は低いと見るのが常識的な判断なのですが、この常識があてはまらないのが北朝鮮であるということも忘れてはなりません。7月のミサイル発射時も「まさかやるとは思っていなかった」との小泉総理の驚きのコメントに象徴されるように北朝鮮は世界の常識を覆しました。今回も、ミサイル発射時と同じような展開になるかもしれません。米国から譲歩を引き出すための威嚇、デモンストレーションと見るべきですが、仮にブッシュ政権が動じない場合は、実験を強行するかもしれません。

 ミサイル発射は、5月初旬の発射の動きから実際に発射された7月5日まで2ヶ月間要しました。ブッシュ政権の「回答」を待っていたわけです。しかし、「ゼロ回答」ということがわかると、発射に踏み切りました。今回も同様で、9月9日の建国記念日、9月19日の6か国協議共同声明発表1周年、さらには10月10日の労働党創建日までにブッシュ政権からシグナルがない場合、核実験のボタンを押すかもしれません。

 こうした事態に際してブッシュ大統領は中国の胡錦涛主席との国際電話で「北朝鮮の指導者に核兵器開発を継続するよりは良い選択肢があるとの明確なメッセージを送るため、引き続き努力していく必要性について話し合った」と言ってますが、どのような選択肢があるのか、ブッシュ大統領がどのような努力をするのか、一番注目しているのが、金正日総書記自身ではないでしょうか。8月13日に40日ぶりに姿を見せた金総書記が「潜伏中」に考えていた「次の手」とは、核実験だったのか、秋にはその答えが出るものと思われます。

2006年8月 1日

安倍VS金正日

 本格的な夏の到来とは逆に日朝関係は早くも「冬の時代」に突入してしまいました。拉致問題は「膠着」ではなく、完全に「凍結」してしまいました。日本はミサイル発射への制裁措置として万景峰号の入港を年内一杯止めましたが、この間は少なくとも拉致問題のための日朝政府間交渉は開かれそうにもありません。半年の間に北朝鮮が拉致問題で誠意を示し、6カ国協議に復帰すれば「凍結」氷解の可能性も考えられますが、北朝鮮は「拉致問題は解決済み」のスタンスを変えそうにもありません。また、ブッシュ政権が「金融制裁解除の交渉に応じない限り6カ国協議には戻らない」との頑な立場を貫いていることもあって事はそう簡単ではありません。と言って、「クリントン政権の過ちは繰り返さない」とするブッシュ政権も一歩も譲らない構えで、北朝鮮が譲歩しなければ、今後金正日体制の「レジムチェンジ」に向けて圧力を強める方針のようです。

 金正日政権もブッシュ政権の交代を待つ戦法のようなので、米朝はどうやら「長期戦」になる気配です。そうなれば、日朝も必然的に「持久戦」となります。日本と北朝鮮との本当の我慢比べの始まりです。日本は拉致問題という人道面で、北朝鮮は経済面でそれぞれ忍耐と苦痛を強いられることになります。もはや事態打開に向けた小泉総理の3度目の訪朝もあり得ません。任期終了までの「サプライズ外交」は絶望的です。小泉総理は完全にサジを投げてしまった感じです。あれだけ慎重だった経済制裁という名の「伝家の宝刀」を抜いたことからも明らかです。そうなると、次の政権、即ち本命視されている安部政権に拉致問題は引き継がれます。

 安倍政権への国民の、拉致被害者家族の期待は相当大きいものがあります。安倍さんは国際包囲網に加えて、経済的圧力を加えれば、「必ず先が見えてくる」と自信満々のようです。日本単独でなく、米国もさらに中国、韓国までもが国連安保理決議に従い、北朝鮮にプレッシャーを掛ければ、北朝鮮は耐え切れず折れてくると読んでいます。二本ある「伝家の宝刀」のうち「送金停止」(改正外為法の適用)というもう1本の「宝刀」を脅しや交渉のための「カード」として温存しているのもそのためです。真綿で首を絞めるようにじわじわと北朝鮮を追い込み、「窒息」寸前まで追い詰める考えのようです。北朝鮮が「窒息」を何よりも恐れているからです。ブッシュvs金正日に続き、安倍vs金正日の「チキンレース」も始まりました。

Profile

辺 真一(ぴょん・じんいる)

-----<経歴>-----

1947年東京生まれ。
明治学院大学(英文科)卒業後、新聞記者(10年)を経て、フリージャーナリストへ。
1980年 北朝鮮取材訪問。
1982年 朝鮮半島問題専門誌「コリア・レポート」創刊。現編集長。
1985年 「神戸ユニバシアード」で南北共同応援団結成。統一応援旗を製作。
1986年 テレビ、ラジオで評論活動を開始。
1991年 南北国連同時加盟記念祝賀宴を東京で開催。北朝鮮への名古屋からの民間直行便開設に助力。
1992年 韓国取材開始。(以後今日まで二十数回に及ぶ)
1998年 ラジオ短波「アジアニュース」パーソナリティー。
1999年 参議院朝鮮問題調査会の参考人。
2003年 海上保安庁政策アドバイザー。
2003年 沖縄大学客員教授。
現在、コリア・レポート編集長、日本ペンクラブ会員。

BookMarks

オフィシャル・ウェブサイト
「辺真一のコリア・レポート」

-----<著作>-----


『「金正日」の真実』
小学館、2003年1月


『金正日「延命工作」全情報』
小学館、2002年11月


『強者としての在日』
ザ・マサダ、2000年11月


『「北朝鮮」知識人からの内部告発』
三笠書房、2000年1月


『北朝鮮亡命730日ドキュメント』
小学館、1999年6月


『北朝鮮100の新常識』
ザ・マサダ、1999年5月

『ビジネスマンのための韓国人と上手につきあう法』
ジャパン・ミックス、1997年12月

『朝鮮半島Xデー』
DHC、1994年8月

『表裏の朝鮮半島』
天山出版、1992年4月

-----<共著>-----


『読売 VS 朝日 社説対決 北朝鮮問題』
中央公論新社、2002年12月

『韓国経済ハンドブック』
全日出版、2002年3月

『一触即発の38度線』
飛鳥新社、1988年7月

-----<訳書>-----


『北朝鮮が核を発射する日』
PHP研究所、2004年12月

『凍れる河を超えて(上)』
講談社、2000年6月

『凍れる河を超えて(下)』
講談社、2000年6月

『私が韓国をキライになった48の理由』
ザ・マサダ、1998年9月

『潜航指令』
ザ・マサダ、1998年7月

『生きたい!』
ザ・マサダ、1997年7月


当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.