« 2006年6月 | メイン | 2006年8月 »

2006年7月17日

金正日の「チキンゲーム」

 本誌が予想したとおり、ミサイルは発射されました。そして、日本の必死の外交努力にもかかわらず予想されたように国連安保理での制裁決議は通りませんでした。しかし、日本にとっては、中ロ両国を含む全会一致で非難決議が採択されたことは大きな外交成果といえます。最も大きな成果は、「平壌宣言」という2国間の合意ではなく、「国連決議」でミサイルに歯止めをかけたことです。これにより仮に、北朝鮮が再発射を強行した場合経済制裁にとどまらず国連による軍事制裁の道が開かれました。そして何よりも北朝鮮の友好国である中国とロシアの両国が非難決議に加わったことは、北朝鮮の手足を縛る上で大きな効果を持ちます。

 決議に従うか、それとも逆らうのか、北朝鮮にとっては二者択一しかありませんが、これまた予想されたように受け入れを全面的に拒否し、今後とも発射実験を続けると表明しました。しかし、北朝鮮にとっての誤算は、中国とロシアがまさか、非難決議に同調するとは予想していなかったことでしょう。「大国は自らの国益のため同盟国も犠牲にする」との歴史的教訓を北朝鮮は自ら体験したことになりました。中国もロシアも北朝鮮との関係が悪化しないようあの手この手を使ってなだめにかかることが予想されますが、北朝鮮の反発はそう簡単には収まらないでしょう。仮にこれで、北朝鮮が手も足も出せないようだと、金正日総書記がブッシュ大統領に仕掛けた「チキンレース」は北朝鮮の「敗北」に終わるからです。

 「チキンレース」の第一ラウンドは、米国の圧力に屈せず、ミサイル発射を強行した北朝鮮に有利に進んだ感もありましたが、第二ラウンドは、明らかに国際包囲網に成功した米国に軍配が上がりました。そこで、第三ラウンドですが、北朝鮮は再度、ミサイルを発射するか、核実験の動きを活発化させ、国連に「挑戦状」を叩き付けるかもしれません。北朝鮮が描いているシナリオは①ミサイルを再発射する②核実験を強行する③制裁決議が採択されれば、宣戦布告とみなし、国連から脱退し、休戦協定の破棄を通告する④戦争の危機を助長し、日米を戦争勃発の瀬戸際にまで追い込み、譲歩を引き出す戦術のようです。戦争一歩手前までいった1994年の「第一次核危機」の時に使った手です。この時、北朝鮮はカーター元大統領の訪朝と「ジュネーブ合意」を勝ち取ることに成功しました。

 ブッシュ大統領がその手に乗るかどうかはわかりませんが、「チキンレース」を仕掛けた以上、北朝鮮は一か八かの勝負に出てくるかもしれません。米国から投げられたボールを北朝鮮がどのタイミングで打ち返すかはわかりませんが、意外と「短期決戦」に出てくるかもしれません。そうなれば、まさに「危険なゲーム」となります。北朝鮮がこれ以上「暴発」しないよう国際社会の警告と説得が何よりも求められますが、ここで「チキンゲーム」を降りれば、「必勝不敗の将軍様」の威信の失墜に繋がるばかりか、軍部の支持を失う恐れがあるだけに、金正日総書記も降りるに降りられないでしょう。今の金総書記の心境は「ハムレットの心境」かもしれません。

Profile

辺 真一(ぴょん・じんいる)

-----<経歴>-----

1947年東京生まれ。
明治学院大学(英文科)卒業後、新聞記者(10年)を経て、フリージャーナリストへ。
1980年 北朝鮮取材訪問。
1982年 朝鮮半島問題専門誌「コリア・レポート」創刊。現編集長。
1985年 「神戸ユニバシアード」で南北共同応援団結成。統一応援旗を製作。
1986年 テレビ、ラジオで評論活動を開始。
1991年 南北国連同時加盟記念祝賀宴を東京で開催。北朝鮮への名古屋からの民間直行便開設に助力。
1992年 韓国取材開始。(以後今日まで二十数回に及ぶ)
1998年 ラジオ短波「アジアニュース」パーソナリティー。
1999年 参議院朝鮮問題調査会の参考人。
2003年 海上保安庁政策アドバイザー。
2003年 沖縄大学客員教授。
現在、コリア・レポート編集長、日本ペンクラブ会員。

BookMarks

オフィシャル・ウェブサイト
「辺真一のコリア・レポート」

-----<著作>-----


『「金正日」の真実』
小学館、2003年1月


『金正日「延命工作」全情報』
小学館、2002年11月


『強者としての在日』
ザ・マサダ、2000年11月


『「北朝鮮」知識人からの内部告発』
三笠書房、2000年1月


『北朝鮮亡命730日ドキュメント』
小学館、1999年6月


『北朝鮮100の新常識』
ザ・マサダ、1999年5月

『ビジネスマンのための韓国人と上手につきあう法』
ジャパン・ミックス、1997年12月

『朝鮮半島Xデー』
DHC、1994年8月

『表裏の朝鮮半島』
天山出版、1992年4月

-----<共著>-----


『読売 VS 朝日 社説対決 北朝鮮問題』
中央公論新社、2002年12月

『韓国経済ハンドブック』
全日出版、2002年3月

『一触即発の38度線』
飛鳥新社、1988年7月

-----<訳書>-----


『北朝鮮が核を発射する日』
PHP研究所、2004年12月

『凍れる河を超えて(上)』
講談社、2000年6月

『凍れる河を超えて(下)』
講談社、2000年6月

『私が韓国をキライになった48の理由』
ザ・マサダ、1998年9月

『潜航指令』
ザ・マサダ、1998年7月

『生きたい!』
ザ・マサダ、1997年7月


当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.