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2010年12月17日

グリーンエコノミーが生態系と農民コミュニティを壊す ヴィア・カンペシーナは主張する

 いま、世界で進行していることの一つに、小農民というひとつの社会階層が丸ごと消えようとしているという現実がる。小農民が生存できないほどの現実は生み出された背後には、資本の自由を気ままに許し、奨励する世界の仕組みがある。そのことが何を生み、消される側の小農民はどう向き合い、たたかえばよいのか、「資本の自由」とたたかう世界の農民運動のネットワーク、ヴィア・カンペシーナが名古屋COP10に際し出した声明を手掛かりに見ていく。

 生態系と生物多様性の経済学(The economics of ecosystems & biodiversity)」(以下「TEEB」と呼ぶ)と呼ばれる概念が、COP10で注目を浴びた。生態系の破壊や生物多様性の減少がもたらす経済的な価値や被害を定量的に評価する枠組みをつくろうというもので、生物多様性に配慮した、グリーンエコノミー、グリーンビジネスに理論的なバックグラウンドを与えるものだ。ヴィア・カンペシーナはこれに異議を唱える。

「名古屋では多くの政府の支援を受けて、企業によって、生物多様性の私有化、商品化が積極的に進められました。TEEB(生態系と生物多様性の経済学)に関するプログラムもその一つで、土地や動物、種子、水など、農業コミュニティの土地やテリトリーそのものである、自然のそれぞれの要素の市場で評価に道を開くものです。育苗の複雑さや、生態系、気候パターン、土壌肥沃度など、すべてを『生態系サービス』という言葉に矮小化し、排出権クレジットと同様の取引の対象としようというのです。」

 ヴィア・カンペシーナは同時にアグロ燃料・REDDにも異議を唱える。

「アグロ燃料は土地への投機を引き起こす一方で、炭素排出の減少には何ら役立っていません。第一世代と呼ばれるアグロ燃料は、トウモロコシやサトウキビ、オイル・パーム、ジャトロファのモノ・カルチャーに依拠していますが、これらは膨大な農地と水、化学的投入物を要求します。いわゆる第二世代は、牧草や樹木、遺伝子組み換え藻類などによるものですが、これらは作物だけではなく、すべての植物由来物質を脅かすものです。エネルギー効率が低いだけではなく、遺伝的汚染を通じて、私たちの食べ物や野生種を危険にさらすものです。」

「いくつかの政府による高い補助金によって、アグロ燃料はうまみのある『グリーン・ビジネス』となっているのです。」

「REDDも気候と生物多様性の商品化を加速するものとなっています。ヨーロッパの汚染産業は排出量を削減するという義務を回避して、REDDを通じて、ブラジルやインドネシアなど遠い南の国々の森林による排出権を購入しようというのです。REDDによっては排出量の削減はなされず、モノ・カルチャー林業が生物多様性を脅かすばかりです。また農民による農業や先住民族は土地やテリトリーから排除されることになるのです。」

 REDDとは、開発途上国における森林の破壊や劣化を回避することで温室効果ガス(二酸化炭素)の排出を削減しようとすることを指している。ヴィア・カンペシーナはこうした気候変動や生物多様性を守るとい名分で国際会議で論議され、制度化されようとしている対策自体が、地域のコミュニティを壊し、小農民の生存基盤を奪っていると批判する。

「世界市場向けのアグロ燃料など、産業向けの原材料生産のための土地収奪によって、私たち農民、そして小規模な食料生産者は私たちの土地から追い出されつつあります。何千年にもわたって生物多様性を育て、守ってきた私たちは、「保護地域」の名のもとに資源へのアクセスを禁止されています。その一方で、大企業は、「持続的だ」と偽るユーカリやパームのモノ・カルチャーの砂漠から資源を獲得しつつあるのです。」

■解決策は

 ヴィア・カンペシーナは、いま環境を守る経済学としてもてはやされているTEEBやREDDは生態系や生命を産業界の私有財産とし、生命を商品化し、投資・投機の対象とするものだ」と規定、拒否すべきだと呼びかけている。そして次のようにいう。

「生物多様性の破壊は、森林や草原、湿地などを含め、農業生態的な実践に基づいて農業生物多様性と自然/野生生物多様性を維持してきた農業コミュニティの破壊の結果なのです。生物多様性の保全のためには、農業コミュニティがその土地を耕し続けられるようにしなければなりません。企業の利益ではなく、エコロジカルな農業に取り組む若者世代の関心こそが生物多様性を守るのです。農業に取り組む若者たちが、生き続け、耕し続けられるということ、そのためには土地や水、種子、伝統的な知識へのアクセスが保持され、テリトリーと生態系への地域による完全な管理が実現しなくてはなりません。」

 グリーンエコノミー、グリーンビジネスという聞こえの良い言葉は、この地球に最後に残されたものを商品化し、市場経済に投げ入れる道具なのだ、とこの声明は主張、そのことに対抗する主体は生態系に依拠して生きる小農民と彼らがつくる地域コミュニティ以外にない、と言いきっている。

(ヴィア・カンペシーナの声明は原文がスペイン語。翻訳は「開発と権利のための行動センター・青西靖夫さんによった)

2010年12月10日

TPP 狙いは日米同盟強化 ── 経済政策より政治選択だった

 TPP(環太平洋経済連携協定)という聞きなれない言葉が、ある日突然メディで踊りだした。10月1日の国会での所信表明演説で菅直人首相が取り上げたのが発端なのだが、それはいかにも唐突であった。政府・与党内でも国会でもほとんど論議されないままいきなり総理の口からTPPという聞きなれない言葉 が国の重要政策として飛び出したのだ。待ってましたと、経済団体がTPPに参加し、世界の自由貿易の流れに乗れという要望書を政府に突き付け、新聞、テレビには「このままTPPを見送ると日本は滅んでしまう」という論調であふれた。いったいTPPって何なのだ。

 この一連の動きは単に騒がしいだけでなく、いかにも奇妙なものであった。まず、菅首相の唐突なTPPへの関心表明に至る経過がさっぱりわからない。

 いっそう奇妙なのは、権力の動きを監視するのが任務のはずのメディアが、その奇妙さを全く無視、「TPP参加こそが日本を救う道」と、TPP参加の太鼓 をたたき続けたことだ。しばらくしてその謎が解けた。TPPを日米同盟と重ね合わせる議論がメディアを飾るようになった。

 朝日新聞の船橋洋一主筆は10月8日にワシントンで米外交問題評議会と同社の共催で開いたシンポジウムで、「(日米同盟の課題の一つは)TPPに日本も参画し、日米が提携して『自由で開かれた国際秩序』を作ることだ」と発言した。

 読売新聞は葛西敬之JR東海会長の「日米同盟はまさにわが国安全保障の基軸であり、TPPはその展開形である。速やかに参加し、米国とともに枠組みづくりに名乗りを上げるべきだ」とする二ページにわたる長い論考を掲載、キャンペーンを張った(11月8日付「地球を読む」)。

 世界の成長センターであるアジア太平洋地域で経済のイニシアティブを握ることは落ち目の米国経済にとって、今や最重要事項をなっている。ところが、この地域で最大 の経済連携体であるASEAN(東南アジア諸国連合)を含む東アジアとの連携では中国がすでに主導権を握り、鳩山由紀夫前政権は東アジア共同体を政権の目 玉として打ち出して、こともあろうにこの地域の経済連携から米国を締め出すそぶりさえみせた。

 昨年までTPPは目だたない小国どうしの経済連携体であった。オバマ米大統領はその小国の連携に手を突っ込むことで、TPPを大きく変えた。落ち目の米国にとって、TPPはこの地域で米国が中 国に対抗して主導権を取れる唯一の経済連携グループとなったのである。TPPにかむことはそのまま米国をサポートすることにつながる。TPPは菅政権に とって普天間で揺るぎ、尖閣でその効用を再認識させられた日米同盟を立て直す切り札だったのだ。それは経済政策というより政治的選択だったのである。沖縄 の人々の思いより日米同盟優先でキャンペーンを張った主流メディアがTPP太鼓をたたいたのも当然の帰結だった。

(この記事は「日刊ベリタ」から許可を得て転載しました)

Profile

大野和興(おおの・かずおき)

-----<経歴>-----

1940年愛媛県生まれ。
農業ジャーナリスト。
四国山地の真只中の村で育ち、農業記者として約40年を日本とアジアの村を歩く。
「日刊ベリタ」現編集長、「脱WTO草の根キャンペーン実行委員会」事務局長、「アジア農民交流センター」世話人、「国際有機農業映画祭」実行委員会代表。

BookMarks

-----<著書>-----


『食大乱の時代』
2008年7月、七つ森書館


『百姓が時代を創る』
2008年2月、七つ森書館(増補版)、共著

『日本の農業を考える』
2004年4月、岩波書店

『百姓は越境する』
1991年8月、社会評論社

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