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2010年9月20日

中東和平問題 「パレスチナ人は災いだ、子どもを殺すことも許される」とラビは説教する

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パレスチナ自治区・ブリン村

 9月2日からオバマ米大統領の仲介で始まったパレスチナとイスラエルの和平交渉のカギを握るのはパレスチナ自治区に入り込んでいるユダヤ人入植者問題だ。先月31日にはパレスチナ武装抵抗組織ハマスが入植者を銃撃する事件が発生したが、その背後にはパレスチナ農民が入植者に襲撃され、農園を破壊され、ときには生命を奪われるという日常がある。先日本紙でオリーブの村がユダヤ人入植者に襲われ、オリーブ園が焼かれ、子どもが撃たれて入院したという現地 NGOからの報告を掲載したが、その村でこれまでどのようなことが起きていたのか、現地取材をもとに、報告する。

 パレスチナ自治区ヨルダン川西岸のブリン村がイスラエル入植者に襲撃されたのは7月26日のことだった。現地NGOは次のように伝えてきた。

「7月26日、70人を超える武装したイスラエル入植者がパレスチナ自治区ヨルダン川西岸のブリン村を襲い、オリーブ園を焼いた。発砲した入植者の弾に当たり、子どもが1人、重傷を負って病院に運び込まれたという情報もある」

◆オリーブの木が焼かれ、泉に毒

 ブリン村は西岸地域の北寄りにある典型的なパレスチナの農村だ。ふたつの山に挟まれた谷筋に幹道が走り、斜面には一面オリーブ園が造成されている。村の総面積は3200ヘクタール。そのうち2000ヘクタールがオリーブ園で占められている。村人の家は谷筋とふたつの斜面の裾野に固まっている。

 2010年2月上旬、日本の農民ら数人とこの村を訪ねた。村人の話は想像を絶するものだった。この村を囲む山の上に、イスラエルからの侵入者による入植地が2つある。そこから折に触れて、徒党を組んだ入植者が村を襲撃する。10代の子どもから老人までいる。銃や火炎瓶をもち、オリーブの木を燃やしたり抜いたり、家に火をつけたりする。この村では1万1000本から1万2000本のオリーブの木が焼かれたり引き抜かれたりしたと村のリーダーが話してくれた。

 乾燥地帯に位置するパレスチナでは水は貴重な資源である。この村には3ヵ所に湧き水があり、生活や営農はこの水に頼っていた。その湧き水に入植者が化学物質を投げ込んだ。百数十人の村人が体調不良を訴えたという。1999年には村のモスクが焼き討ちされた。

 ロケット弾が入植地から村に打ち込まれたこともある。"シャロン1"、"シャロン2"と名付けられた2発である。シャロンというのは軍人上がりの、パレスチナに最もきびしい姿勢を占めしたイスラエルのタカ派政治家で,2001年から2006年にかけイスラエル首相を務めた。

 山の上の入植地にはユダヤ教の司祭であるラビ(※)もいる。ブリン村の長老の1人が、ラビは入植者のユダヤ人に、次のように説教しえいると話した。

「パレスチナ人は自分たちにわざわいをもたらす存在だ。だから子どもを殺すことも許される」「ここにきて20年も待った。今こそブリン村の住民を追い出す時期がきた」

◆夫を殺されて

 一方の斜面の中腹にある1軒の家に案内された。こちらの斜面は家が少なく、それも下のほうに固まっているので、ただ1軒だけ孤立している。このお宅のある斜面の頂上に入植地があり、そこからやってくる入植者に何度も襲われている。つまりこのお宅は入植者とのせめぎあいの最前線に位置する家で、ここに住む一家が襲撃に耐えかねて出て行けば、こちら側の斜面に広がるオリーブ園は侵略者である入植者のものになってしう。

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襲撃された家のドア鍵

 一家の主はイマイマン・スファンさんという女性だった。49歳、娘さんやお孫さん14人と住んでいる。夫は2002年、家の中にまで入り込んできた入植者の一団に銃で殺害された。勤勉な農民だった。夫の写真が室内に飾られていた。このときの襲撃では室内に石油をまかれ火をつけられた。

 これまでの襲撃でオリーブの木23本が燃やされ、馬や羊が殺されている。外壁には銃弾の跡が残っている。襲撃の間、子どもたちはただ震えるしかなかった。

 このお宅の庭に立って谷筋を通る幹線道路を見ていると、イスラエル軍の車両が2台、猛スピードで通り過ぎるのが見えた。スファンさんが傍らで言った。

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イマイマン・スファンさん

「昨日は山の向こうの別の村が攻撃された。今日も攻撃がありそうだとみんな家を離れないでいる」

 入植者の襲撃がある前に、必ずイスラエル軍がやってくるという。そんな軍の動きをイスラエルの市民団体がそっと知らせてくれる。イスラエル軍は襲撃されている地区の周りに立ち、住民が駆けつけるのを妨害する。入植者と軍はいったいで動いているのである。

 7月26日のブリン村での襲撃事件をウエブサイトを通して国際社会に報じた現地NGOは次のように書いている。

「昨日の出来事は、イスラエルによる占領開始以来、占領地全土に渡って長い間パレスチナ人やその財産に対して入植者たちが行ってきた典型的な犯罪行為の一部でしかない。毎年オリ−ブの収穫時にピ−クとなるこのような暴力行為は、暴力行為を止めさせることも加害者を罰することもしようとしないイスラエル軍と司法当局の一貫した対応の結果である」

◆心も破壊

 村の長老が語った。

「ユダヤ人入植者は家やオリーブの木を焼き、村の住人を銃撃するばかりでなく、私たちの心も襲う」

 1999年に村のモスクが入植者の焼き打ちにあい、全焼した。やっと1カ月前に建て替えたモスクが完成した。そうしたら、「また燃やしてやるという脅迫が届いている」

(写真:天明伸浩 2010年2月撮影)

※ラビ〖(ヘブライ)rabbî〗
《わが師の意》ユダヤ人が宗教的指導者に対して用いる敬称。ユダヤ教の聖職者。(大辞泉より)

【関連記事】
■イスラエル入植者がパレスチナの村を襲い、オリーブ園を焼き、発砲
http://www.the-journal.jp/contents/ono/2010/08/post_11.html

■中東和平交渉、「入植」巡り決着持ち越し(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20100916-OYT1T00648.htm

■中東和平:凍結期限切れ後、入植再開の意向(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/world/news/20100916dde007030012000c.html

Profile

大野和興(おおの・かずおき)

-----<経歴>-----

1940年愛媛県生まれ。
農業ジャーナリスト。
四国山地の真只中の村で育ち、農業記者として約40年を日本とアジアの村を歩く。
「日刊ベリタ」現編集長、「脱WTO草の根キャンペーン実行委員会」事務局長、「アジア農民交流センター」世話人、「国際有機農業映画祭」実行委員会代表。

BookMarks

-----<著書>-----


『食大乱の時代』
2008年7月、七つ森書館


『百姓が時代を創る』
2008年2月、七つ森書館(増補版)、共著

『日本の農業を考える』
2004年4月、岩波書店

『百姓は越境する』
1991年8月、社会評論社

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