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スパイ映画よりずっとスパイ映画的でドタバタな現実

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↑ フェイスブックにUPされたアンナ・チャップマンの写真より

 こんなことが現実に起こってしまうのだから、アメリカという国の映画産業が滅びないわけだ。現実は映画のようにドタバタ進行し、映画のようなドタバタな結末を迎えて、次の現実のシークエンスへとまた移る。スラプスティックそのものだ。アメリカ司法省によるロシア・スパイ網摘発事件は、冷戦終結からもう20年近くも経ているのに、ロシアも(アメリカも)まだこんなことをやっているのか、と僕らを呆れ果てさせてくれる効果はあった。大体、スパイの定義とは何なのか? 生活資金の出所がいわゆるインテリジェンス=諜報部門の組織からであることか? アイデンティティを偽ることか? 死ぬまで変わらぬ忠誠心を国家に抱くことか? 一体、この情報過多社会の中で彼らが得ていた情報の価値がどれほどのものだったというのか? まだまだわからないことが多いけれども、何しろ派手なストーリー展開だった。

 アメリカ国内で逮捕された10人の「スパイ」は、子供もいる3組の夫婦を含み、アメリカで何年ものあいだ生活し、職業も不動産業やコンサルタント、スペイン語新聞の新聞記者までいて、それぞれが一応の仕事を持っていた。FBIの発表によれば、彼らはKGBの後継組織であるSVR(ロシア対外情報庁)から秘かに暗号による「指令」を受け、「表の顔」とは別の「裏の顔」を持って、非合法の情報収集活動を行っていたというのだ。うーん。そうですか。でも、今度の事件でタブロイド紙の格好の標的になったアンナ・チャップマン(28)なんかは、不動産業を営むかたわら、フェイス・ブックに自らの写真を載せまくっていたし、メディアにも頻繁に登場して、とても「筋金入りの諜報員」「熟達した詐欺師」 ("highly trained agent" "practiced deceiver"=連邦検察庁によるチャップマン評)だとは思えない。むしろ、かなり目立ちたがりの野心家ビジネスウーマンという感じで、スパイとかとはずいぶん異なる世界の住人のように見える。彼女の場合、父親がKGBの大物で、その影響をもろに受けていたとは、別れた彼女の夫(イギリス人)の主張だ。連邦検察庁によれば、彼女が「スパイ」である証拠に、盗聴によって次のようなやりとりがFBIに傍受されていたというのだ。ロシアの司令部ももしこんな指令を送っていたとしたらかなりのおバカさんである。そしてアナクロニズムの匂いがぷんぷんする。

"You were sent to USA for long term service trip. Your education, bank accounts, car, house etc... -all these serve one goal: fulfil your main mission, i.e to search and develop ties in policymaking circles in US to send intel [intelligence reports] to C. [center]" (FBIによって傍受されたチャップマンに送られたメッセージ)「あなた方は長期任務のためにアメリカに派遣されたのだ。諸君の教育、銀行口座、車、家、それらのものはたった一つの目的にために奉仕するためのものだ。すなわち、諸君の主要任務は、アメリカの政界との結びつきを築き、そこから得られた情報をロシアの中央司令部に送ることだ。

 タブロイド紙のはしゃぎ方はバカバカしいほどで、なかでもマードック系のNew York Postは、アンナの流出写真をデカデカと掲げて、スパイ同士の交換=swapという結末とかけわせて、扇情的な見出しを掲げていた。同紙は売上げのためには何だった掲げる。
「スパイ」同士の交換で事件を決着化させるという方法は、一斉逮捕の数週間前からFBIによって検討されていたと、7月10日付の各紙は報じているが、本当かな?と首をかしげたくなる。もし、本当にそうであれば、米ロ両国の諜報チャンネルは、事件が表面化したあと、実に機敏にかつ友好的に機能したことになるのかもしれない。そろこそ、米ロが大人の関係の新段階に入ったことになるのだが、どうなのだろうか。だが、考えてみると、今回の「スパイ」摘発事件の登場人物はほぼ全員がロシア人であり、10人と交換されてアメリカに保護される4人もロシア人なのだ。そういう意味では、実質的なダメージを受けたのは、明らかに一方的にロシアであって、いまだに冷戦時代の相当に時代遅れの「スパイ」ごっこをやっているお粗末な国というレッテルだけが残された形だ。そしておそらくはそれが真実の一片を語っていることも間違いないのだ。

 もう20年以上も前のモスクワ勤務時代の知己にPというロシア人がいた。彼はソビエト連邦崩壊とともに、自らがKGB諜報員であること告白して本を書き、ロシアを出国し今はアメリカに住んでいる。生活資金はCIAから出ているはずだ。そういうロシア人はたくさんいる。オレグ・カルーギンという元KGBの大物スパイも、今はアメリカに亡命してCIAの資金のもとに生活を送っていると聞いた。金大中事件を現場で指揮した元KCIAの金東雲書記官(当時は在東京の韓国大使館員)も、アメリカに長期間滞在し、いわば表の社会から身を隠していたことがある。記者という仕事柄、そのような人物との遭遇やアクセスは、長い歳月の内には、いくつかあるものだ。だが、今回、FBIによって摘発された人物たちは、どうみてもそういったスパイ、諜報員とはかなり異なっていて、いきなり「スパイ」とか言われても、???と首をかしげざるを得ないような人物たちに思えるのだ。

 日本は、参議院選挙のさなかで、海外で起きていることにほぼ目をつぶっている状況なので、あえてアップしておきたい。

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↑ タブロイド紙がはしゃいだアンナ・チャップマンの写真

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ご理解・ご協力のほどよろしくお願いいたします。

事実は小説より奇なり!を地で

いく事件でした。 時代錯誤な

この件がここまでセンセーショナ

ルになったのはやっぱり若くて

美貌?(私は普通と思うけど嫉妬

じゃないですよ!)の女性が居た

からですね。

良くも悪くも事件の

裏に女在り!今も昔も変わらぬ

この図式 この先も・・・・

NHKニュースで女性アナから「やっぱり男性はハニートラップに弱いのですかねぇ」と振られて男性アナがどぎまぎしていたのが印象的でした。

ブログの本題とかけ離れていて恐縮ですが、
10月から報道特集のキャスターになられると一部新聞で報道されていましたが、
モスクワ支局長時代の朝日ジャーナルや週刊金曜日でされていた連載以降の金平ファンとして、嬉しく思います!
大変かとは思いますが頑張ってください!

スパイを冷戦時代のアナクロと見くびらないほうがいいと思いますよ。
ロシアにもアメリカ側の草(スパイ)が多く放たれており、当局の監視下に置かれながら(泳がされている)今日もスパイ活動に従事していることをロシアが把握した上で痛み沸けに応じざるを得なかったことは、このたびのアメリカ国内のロシアスパイ摘発が一例に過ぎないことをアメリカが知らないはずもなく、当然こんなものはどっちもどっちでまあ確かに旧ソ連時代のKGBに比べたら格段とロシアの諜報力は下がりましたが、それでも昔取った杵柄ですからね。
ちなみに米軍の情報活動に従事する人たちがランクでいうともっとも手強い各国スパイの№1にKGBを挙げていたのを昔テレビでみた記憶があります。

ちょっとずれますがキャスター就任おめでとうございます。アニメなど強豪がひしめき合う時間帯ですが、健闘を祈ります。

金平さま
私はこの2年間はTBSを全く見なくなりました。筑紫さん亡きあとのTBSは、どの局よりも衰退がひどく見るに堪えません。聞けば、「報道特集」のキャスターになられるとか。あの番組も、料治さんや堀さん、田畑さんがいた頃はすばらしい看板番組だった。今は見る影もありません。あなたはそんなポジションを引き受けるよりも、もっと別の場所があるはずでしょう。なぜ筑紫さんのあとを継がないのですか? こころある視聴者とTBSファンはそれをのぞんでいたはずです。やはり今の経営陣のもとでは無理なのですか? 大体なぜあの人たちは、この惨状を招いた責任をとらないのですか? 私の所属する金融業界では考えられないことです。かつてのTBSファンのひとりとして
最後のエールを送らせていただきます。

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Profile

金平茂紀(かねひら・しげのり)

-----<経歴>-----

1953年北海道旭川市生まれ。1977年に在京の民間放送局に入社、以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、同局で筑紫哲也氏がアンカーマンをつとめるニュース番組のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。

BookMarks

-----<著書>-----

ブログが本になりました!
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『報道局長業務外日誌』
2009年6月、青林工藝舎


『米原万里を語る』
2009年5月、かもがわ出版、共著


『テレビニュースは終わらない』
2007年7月、集英社

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『ホワイトハウスから徒歩5分』
2007年6月、リトル・モア


慶應義塾大学出版会、部分執筆


『ジャーナリズムの条件4』
2005年5月、岩波書店、部分執筆


『従軍のポリティクス』
2004年7月、青弓社、部分執筆


『二十三時的』
2002年11月、スイッチパブリッシング

『電視的』
1997年12月、太田出版

『ロシアより愛をこめて』
1995年3月、筑摩書房

『世紀末モスクワを行く』
1994年12月、パルコ出版

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