反イラン・デモと鳩山首相の距離
「国連にアメリカがやっと戻ってきた」。ここまで変わるものか、と思うほど国連総会でのアメリカの関与政策への方向転換は明らかだった。23日の国連総会でのオバマ大統領の一般討論演説を聴いての率直な感想だ。
僕はブッシュ時代のうんざりする国連総会での取材を思い出して、単独行動主義(unilateralism)というキーワードが飛び交っていた時代のことを思い出していた。イラク戦争に突き進んだあの政権は致命的な過ちを国連の場でも犯した。コリン・パウエルは悔やんでも悔やみきれないだろう。イラクが大量破壊兵器を保持している疑いが強いと国連で熱弁をふるったのだから。
で、書きたいことはそのことではない。国連のそばにあるJapan Societyに鳩山首相が昼食会出席のためやってくるというので、国連のメディアセンターを抜け出して出かけてみた。ところがJapan Societyに面しているハマーショルド公園は、今日はさまざまな抗議行動、デモ隊の人々が集結していて、一種のお祭り状態になっていた。すごいエネルギーである。彼らを規制するために警察官が大量動員されていて、通行が厳しく制限されている。この期間はNYのミッドタウンは完全に交通がマヒする。おまけにNYPD(ニューヨーク市警)は、要人が来れば完全シャットアウトという全く理不尽な警備をするので、このJapan Society に近づくことができないのだった。
かれこれ30分以上たらい回しにあった挙句、一番最初のチェックポイントに行ったら、さきほどの警官が交替していて、今度は鉄柵のなかに入っていくのがOKになっている。何てこったい!デモの人々の顔ぶれは、イランの「独裁制」に抗議するFree Iran系の大規模な集会が突出していた。さらにはチベット「弾圧」に抗議する人々や法輪功といった反・中国指導部の人々、タミール人解放を訴える人々、反カダフィの人々などで大変な熱気である。鳩山首相は、このうちのイランの反アハマディネジャドの集会が最高潮にさしかかろうとしている時間帯に、このJapan Societyに到着することになっていた。建物のエントランス前のSPらしき男たちの顔がちょっとこわばってきている。
鳩山首相は諸行事が押してきて、1時間以上遅れて建物に到着した。Japan Societyの前の道路はデモ隊で溢れているので、車をつけて停めることができない。そこで当局は、隣のトランンプ・ビルの駐車場を使って、あとは鳩山首相御一行は歩いてJapan Societyまでやってきたのだった。僕は何食わぬ顔でつかつか寄って行って、鳩山首相に挨拶し言葉を交わした。「オバマさんはとても暖かかい人でしたよ」とは、その時の首相の言葉である。反イラン・デモの溢れかえる人々が鳩山首相の視界にしっかりとおさまっていたはずである。国連のすぐそばで、このような示威行動を行うことがアメリカではちゃんと認められている。日本ではどうだろうか。国会や官庁の建物周辺で、デモを行うことは「市民の基本権」として認められているはずなのだが。
この昼食会、在NYフランス人3千人を招いて昼食会を開くフランスのサルコジとは違って、プライベートな昼食会ということで、参加者50人足らずのexclusiveなランチなのだった。エントランス脇でどんな人が昼食会にやってくるのか見ていた。知った顔が近付いてきた。コロンビア大学のジェラルド・カーティス教授だった。SONYのCEOのハワード・ストリンガー氏もやってきた。もちろんNY総領事や国連大使の顔もみえた。そして、その目の前では市民の大規模集会が開かれている。なんだかとてもシュールな風景なのだった。
コメント (5)
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投稿者: 《THE JOURNAL》編集部 | 2009年9月24日 19:44
日本では、先の光景は考えられないことですね。
ところで、オバマさんは、ブッシュ前政権の外交を単独行動主義的であったと批判し、現政権は国連を重視する国際協調主義に変わった、と強調しましたね。
翌日、安保理は「核兵器なき世界」への決議を全会一致で採択しましたね。歴史的決議です。すごいです!
鳩山さんは、すばらしい演説をされましたね。
以下、私がそれを聞いて印象に残ったもの。
広島、長崎に訪れ、その被爆被害の実態を見、被爆者の方からの話を聞き、強く胸が痛んだ。世界の指導者の皆さんにも、ぜひ、広島、長崎に訪れていただき、その悲惨な事実と話を聞き、核兵器の悲惨さを心に刻んでいただきたい、と。
日本が非核化の道を歩むことを選んだのは、唯一の被爆国として果たすべき道義的責任があるという信念に基づいたからである、と。
日本は、世界の核廃絶に向けて先頭に立たなければない。オバマ大統領のプラハでの核廃絶へに向けての演説は世界の人々を勇気付けた。いまこそ、行動すべきとき。日本は核軍縮や不拡散を指導する積極的な外交を展開していく、と。
以上、私が印象深く感じたところです。
本当にすばらしい!最高です!
鳩山さんが、核廃絶へ向けて、積極的にリーダーシップを発揮していって下さることを強く、強く期待しています。
日本だけでなく、世界にも、新たな歴史がはじまるのかもしれません。
投稿者: パン | 2009年9月25日 02:00
先に投稿されている、パンさんには恐縮ですが、鳩山首相のメーッセージには落胆しました。
彼が、ベストなスピーチライターを用意出来ていない事が判明したような、そんな感じです。
「はい、よくできました!」的な、従来の官僚が用意したようなスピーチですね。
この前の(日本の)米国大使の「報道官レベルの…云々の」メッセージの方が、よほど、外交してますよ!。
常任理事国云々の件も、がっかりしました。唯一の被爆国であることを最大限に利用出来るチャンスだったのに、ここで、国際(戦勝国)連合組織のあり方に、一席を投じなかった事は、大きな手落ちだと思いますね。
「常任理事国入りを目指します…」、ほんとに、涙ものです。
それと、前政権の過失(世界に迷惑を被り)を避難して、世界に喜ばれる米国とは、一体全体、何者ですかね、その責任の取り方は?。日本のマスコミは好意的に報道するのでしょうけど、またまた、なんだか、おかしな雰囲気ですね。
投稿者: 梶原一 | 2009年9月25日 02:58
常任理事国の中で常に米国と同じ立場をとる日本など国際社会では何の重きも持たないのです。
米国が二国もあってももしょうがないからです。そういう意味で「米国との違いを出しつつ、さらに他の常任理事国とも違う立場を鮮明にし、なおかつ世界秩序に貢献できる日本」を前面に出す。これが常任理事国入りの条件です。
鳩山さんならできます。これからでも遅くないです。来年の総会へ向けて準備してください。なんせ今回は時間が少なすぎましたよ。
投稿者: ごてんまり | 2009年9月25日 08:01
金平様
>なんだかとてもシュールな風景なのだった。
いつも興味深い視点での報告ありがとうございます。
世界情勢を注意深く見つめる毎日ですが、如何せん私のような政治素人には、やはり市民の動向から嗅ぎ取れるものが、大きな判断材料になります。
大きな箱の中にいっぱい小箱が入っていて、出来るだけ多くの箱を開いてみないと、大きな箱の全体をなかなか把握出来ないので、金平さんが届けて下さる小箱は、いつも新鮮です。
これからも金平さんの「クール宅急便」楽しみにしています。
投稿者: LEE | 2009年9月26日 12:14