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NYタイムズ『劇画漂流』激賞の悦ばしさ

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『劇画漂流』を激賞したNYタイムズ紙記事

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プランゲ文庫所蔵の手塚治虫「Metropolis」など(筆者撮影)

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手塚の初期作品「ジャングル魔境」(筆者撮影)

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手塚初期作品のキャラクター(筆者撮影)

 このところ、日本からこちら(アメリカ)に伝わってくるニュースにはあまりいいものがない。特に政治や経済の分野でのニュースは、軒並み脱力感を抱かせるものが多いのだが、4月15日づけのニューヨークタイムズのART欄には驚かされた。

 日本の知る人ぞ知る劇画の生みの親、辰巳ヨシヒロの『劇画漂流』がとても大きな記事になって激賞されていた(Dwight Garner「Manifesto of a Comic-Book Rebel」《=漫画界の反逆児のマニフェスト》)。カナダの出版社(Drawn & Quarterly Publications)が辰巳の作品群に注目して、すでに英語版が出版されているのだが、この『劇画漂流』も『A Drifting Life』というタイトルで855ページという大部の一巻本になって出版された(オリジナルの青林工藝舎版は上・下の2巻本)。この『劇画漂流』は、僕自身も出版元の東京の青林工藝舎から送ってもらって読んだばかりだったので、なおさら嬉しさが募った。

 作品は、激動の日本の戦後史の確かな1ページを描きだしている。実話に基づいているだけに、劇画誕生に関わった漫画家たちのそれぞれの個性の生々しさ(手塚治虫の天才ぶりと寛容さ。さいとう・たかをの如才なさ等々盛りだくさん)もさることながら、劇画というメディアにかけた多くの人々の情熱がひしひしと伝わってくるのだ。また、自伝形式で進行するドラマの背景にひろがる文化風景についての小さな描写が、その時々の歴史をおのずと語っている点がとても面白い。力道山とかダッコちゃんとかコカコーラ上陸とか。この記事を書いたDwight Garnerという人についての知識は僕には全くないが、辰巳のこの自伝的作品について、「このジャンルでの金字塔(signal achievement)だ」と激賞しているばかりか、「あたかも村上春樹の作品を描いたように、美しく、広がりを感じさせる」と記している。うーん、よくわかってくれているよなあ、と感動するばかり。

 そう言えば、戦後まもない時期に描かれた手塚治虫の『LOST WORLD』や『METROPOLIS』が、アメリカのメリーランド大学プランゲ文庫に所蔵されているのをみて感動したのは去年の7月のことだ。ページをめくってみると、すでに後年の手塚の大作「ジャングル大帝」や「鉄腕アトム」のモチーフが見え隠れしていたが、このような戦後漫画史の流れの一角を確実に占めていたのが劇画の流れである。僕自身は辰巳の作品は『ガロ』を通じてしか知らない世代なのだが、それらの作品は子供向けの漫画ではない、大人向けの短編小説、および長編小説のような味わいをもつ作品だった。それにしても、『劇画漂流』に登場してくる手塚はまぶしいばかりの光を放っている。こういう人が本当にいたのだ、と。

 日本のアニメ、漫画、劇画の価値が欧米に伝わり、肯定的に評価されるのをみるのは嬉しいことだが、なかには「おたく」的な傾向が強すぎるものが強調されたりして、苦笑することもある。ニューヨークのJapan Societyで開催された「Krazy」展には、多くの日本サブカルチュア・ファンが訪れていた。会場には多くのニッポンの劇画、漫画、アニメが展示されていたが、それらのものだって、いいものもあれば、ヒドいものもある。当たり前のことだ。ただ、辰巳ヨシヒロの作品やつげ義春などを知っている欧米人と会うと、何だかとても誇らしく感じてしまうのだ。日本でこのような作品を評価する分野=批評界が、世界から取り残されて自閉しないことをここニューヨークの地から祈っている。

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メビウスが来日するというので、のぞきにいこうかと思っている。 といってもメビウスって名前しかしらないし、バンドデシネ(フランスのカラー劇画)の作家という... [詳しくはこちら]

コメント (5)

さっき朝日新聞を見ていたら、辰巳さんのこの作品が手塚治虫文化賞で大賞を獲得との記事が出ていました。そのすぐあとに金平さんのアメリカ便りをたまたま拝読。うれしいかぎりです。それにしてもNYTも目配りがすごいですね。筆者はどういう方なんでしょうか。筑摩文庫のつげ義春さんの作品集も好調。私の事務所のある大山の書店では10日の発売日には、すぐ売れてしまいます。今日は書店へ行かなくちゃ。

改行してください。

『THE JOURNAL』の読者としましては、
「軒並み脱力感を抱かせるものが多いのだが」とか、
「なかには「おたく」的な傾向が強すぎるものが強調されたりして、苦笑することもある」とか、
「世界から取り残されて自閉しないことをここニューヨークの地から祈っている」とか、
そのような余裕しゃくしゃく、「一人だけ別バラ」的おっしゃり方以前に、
もう少し喫緊な情報を提供して頂けないものだろうかと思い、一筆挿入させて頂きます。

たとえば、
訪米中とされる安倍晋三氏や前原誠司氏等の発言内容、およびそれに対する現地の反応、
あるいはテポドン発射に対する全米やビッグアップル界隈での受けとめ方、
また、次期駐日大使と目されるJ・ナイ氏への突撃インタビューなども考えられます。
(せっかく彼の地におられるようですから期待は大きく膨らみます)

少し大げさな言い方になりますが、
そうした現地情報ルートの恩恵を通じて、島国においてはより広範な文脈構成が可能になり、
ひいては蒙を啓きつつ、多事争論、「広ク会議ヲ興シ万機公論ニ決スヘシ」とあいなり、
めぐりにめぐった果てには、
次世代「辰巳ヨシヒロ」誕生を促す土壌の肥しとなることもありましょう。

ぜひ、国内の課題と直結する現地情報のハンティングを実施され、
国内読者の学習動機および機会を拡張するようなレポを拝読できれば有難く存じます。

不遜を顧みず、蛇足ながら一言申し上げれば、
メディアの動向は、いまや「監視対象」にあるという認識が圧倒的に重要でありましょう。
愚民もいれば賢民もいる、一人の人間が愚であるときも賢であるときもある、
それはメディアにおいてもあらゆる分野においても正規分布する、
ということが明らかになってきたのが現在の状況だろうと思われます。

ただ、コラムを読ませていただいて気になりますのは、
昭和前・中期風の時にペダンチックで目くらまし的な文体でございます。
情報格差を前提とする舶来教養主義的エリーティズムはいささか古風に過ぎます。
(一部、これに呼応するお仲間層も残存しているようではありますが)

たとえば、本格的に「MANGA」を語るには相当な覚悟が必要だということがあります。
(この国の「MANGAの読み」の伝統・深さ・広がりは他国を圧倒しております)
NY紙のひとつの記事を権威づけながら、
「世界から取り残されて自閉しないことをここニューヨークの地から祈っている」というのでは、
それこそ「MANGA」的に過ぎるのではないでしょうか。
(あるいはそこに個人的な実存にかかわる動機が潜んでいればまた話は別でしょうが)

ということで、御無礼を顧みず一筆したためさせて頂きました。了


無意味な改行は止めて下さい。ペダンチックすぎて読めたものじゃない。

「監視対象」とか、ぺダンチックとか、何だかテン張っている読者だらけなんですね。ネット論壇など夢のまた夢ですね。私は読み続けますから。がんばってくださいね。

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Profile

金平茂紀(かねひら・しげのり)

-----<経歴>-----

1953年北海道旭川市生まれ。1977年に在京の民間放送局に入社、以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、同局で筑紫哲也氏がアンカーマンをつとめるニュース番組のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。

BookMarks

-----<著書>-----

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『報道局長業務外日誌』
2009年6月、青林工藝舎


『米原万里を語る』
2009年5月、かもがわ出版、共著


『テレビニュースは終わらない』
2007年7月、集英社

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『ホワイトハウスから徒歩5分』
2007年6月、リトル・モア


慶應義塾大学出版会、部分執筆


『ジャーナリズムの条件4』
2005年5月、岩波書店、部分執筆


『従軍のポリティクス』
2004年7月、青弓社、部分執筆


『二十三時的』
2002年11月、スイッチパブリッシング

『電視的』
1997年12月、太田出版

『ロシアより愛をこめて』
1995年3月、筑摩書房

『世紀末モスクワを行く』
1994年12月、パルコ出版

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