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2008年12月29日

極私的2008年重大ニュース

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写真:筆者撮影
1)演説中のオバマ候補    2)「Dr.Atomic」のフィナーレ
3)聴衆に応えるバレンボイム  4)ピナ・バウシュ舞踏団のフィナーレ(Bamboo Blues)


■極私的2008年重大ニュース

今年は、6月まで日本にいて、あとの半年はNYに移ったので、ニュースをまとめて概観するのがとても難しいが、それでも今現在の記憶だけに従って列記してみると、以下のようになる。

①新大統領に選ばれたオバマのシカゴ演説
②経済危機を呼号する人々の立ち位置の無自覚
③秋葉原・無差別殺傷事件での「派遣社員」という呼称
④漢字の読み書きが不自由な日本の首相
⑤防衛省幹部のトンデモ史観
⑥二代にわたり続いた「政権」放り出し
⑦テレビ製作者における灯火の消滅
⑧日本における集会・デモ表現の不自由
⑨光市母子殺人事件と三浦和義氏の自殺
⑩ブッシュに靴を投げつけた記者

①は、バラク・フセイン・オバマがアメリカの建国以来の歴史で、初の黒人大統領に当選したこと。11月4日の夜にシカゴの公園で数十万人を前に行われた勝利演説は歴史に残るものとなるだろう。②については、アメリカ発の金融危機が日本を含む世界に波及した時、その現象を述べる人々の立ち位置の違いが、見事にあぶり出されたこと。「派遣切り」が企業として当然だとか、マクロにしか経済をみずに「上から」視点(だけ)で語る人々の足元を見よ。どこに彼らは立っているのかを。③6月に起きた秋葉原の無差別殺傷事件は、日本の現状の無残な形での映し鏡だ。僕らを含めたメディアが容疑者を「派遣社員」の呼称で報じ続けた現実を直視しなければならない。また秋葉原という場所が現在の日本の首相が好んで遊説に出かけた場所であることの「連結性」を考えてみるべきである。④⑤⑥とも、日本のあられもない劣化の現実を内外・満天下に曝した出来事だった。⑦は、筑紫哲也氏、村木良彦氏、吉田直哉氏ら、日本のテレビ界にわずかに残っていた「ともしび」のような人々が今年相次いで世を去ったことをさす。⑧は、ビラ配布や穏当なデモで逮捕・家宅捜索までに至る日本という国の表現の水位の低さの異常を言う。麻生邸見学ツアーの件はNYで後日知ったのだが、警察発表通り、「再三の警告を無視」だの「警官に暴力をふるった」だのと原稿をせっせと書いていた自分の同業者たちに何を言うべきなのだろうか。⑨は、日本の刑事裁判の水準が、法廷外と法廷内の激越な相互作用によって成立している現実を示したケースとして並列した。⑩は、今後、この記者がどのような運命となるのかを注視する意味で。

ついでながら、以下にストレート・ニュース以外の世界の広さを記すために。

■2008ジャンル・クロスオーバー・ベスト5

<書かれたもの>

①水村美苗『日本語が亡びるとき』(「新潮」9月号)
②マリオ・バルガス=リョサ『楽園への道』
③川上未映子『乳と卵』
④鴻上尚史『ぼくたちの好きだった革命』
⑤星野博美『愚か者、中国を行く』

2008年は、前半と後半では全く読書量が激変した(減った)。上記のもののうち、NYで読んだものは①だけ。あとはほとんど東京で読んでいたもの。ほんの少しでも笑いがこぼれてくるのは④と⑤くらいか。

<映画とか>

①『4か月、3週、2日』(ルーマニア映画)
②『接吻』(万田邦敏)
③『Gran Trino』(Clint Eastwood)
④『Taxi To The Dark Side』(Alex Gibney)
⑤『この自由な世界で』(ケン・ローチ)

映画の方はNYに来てからずいぶん気軽に見るようになった。ただ外れが多くて、上記のなかでは③だけがNYでみたもの。これ以外ではいずれもNYでみた『Frozen River』『I’ve Loved You So Long』『Dark Knight』『Burn After Reading』あたりが面白かった。

<舞台で演じられたもの>

①『フルムーン』(ピナ・バウシュ&ブッパタール舞踏団)
②『表裏源内蛙合戦』(シアター・コクーン)
③『Dr. Atomic』(リンカーン・センター)

演劇やダンス、ミュージカルなどはNYが本場とされているけれど、①②とも東京でみたものだ。原爆の父・オッペンハイマーを主人公にしたミュージカル③は、期待を大きく上回っていた。大好きなピナ・バウシュの作品は、①以外にも『パレルモ、パレルモ』、それにNYで近作『Bamboo Blues』をみたが、①がやはり一番。井上ひさし+蜷川幸雄のコンビは作品を重ねるに従って凄みを増している。

<写真展とか>

①石内都展(目黒美術館)
②『Invasion 68: Prague』(Josef Koudelka)
③マリオ・ジャコメッリ展(東京都写真美術館)
④SUSAN MEISELAS (IPC)
⑤横尾忠則展(世田谷美術館)

石内都さんの写真展はすばらしかった。最新作『ひろしま』に至る氏の軌跡を概観するのに、細心に練られた展示が行われていた。NYでみた②④はともにドキュメンタリー写真の範疇に入るのだろうが、とりわけ②には引き込まれた。

<音楽とか>

①Ethel (BAM Theater)
②Goran Bregovic(Lincoln Center)
③Kronos Quartet(Carnegie Hall)
④Daniel Barenboim Piano Solo Concert(Lincoln Center)
⑤忌野清志郎復活コンサート(日本武道館)

音楽はNYに来てからさすがにあふれるほどのLIVEやコンサートがあって、選ぶのが難しいほどなのだが、大好きなEthel のLIVEをブルックリンのBAMでみられたのは感激だった。②は東京でみたエミール・クストリッツァのバンドが霞んでしまうくらい(政治的ラディカルさをのぞく)すべての音楽面でまさっており、圧倒された。まさに映画『アンダ-グラウンド』の世界だった。③はメンバーの変遷を経て男性4人の形になっていたが、その前衛精神はますます磨きがかかっていて堪能した。バレンボイムのピアノ・ソロはなかなか聴けるものではない。大枚をはたいて聴きに行った甲斐があった。清志郎の復活コンサートは文句なし!よかったよ。

■2009年という年

世界的には、変化の実相が見え始める年。
日本に関しては「変わるか滅びるか」

2008年12月15日

記者から靴を投げつけられたブッシューーCHANGING AMERICA(2)

 史上最低の大統領と評されているブッシュ(レイムダック)大統領が、イラクのテレビ記者から靴を投げつけられた。何を勘違いしているのか、任期切れ間近なブッシュ大統領は、今日(NY時間の14日、日曜日)、イラクを電撃訪問した。マリキ首相との共同記者会見(アメリカ・イラク間の安全保障協定に署名したという内容)の終り頃になって、記者席にいたイラク国営テレビのムンタダール・アル・ザイディ記者(カイロに本拠を置くテレビ局アル・バグダディアの記者)がいきなり靴をブッシュ大統領めがけて2回投げつけた。「これがお別れの挨拶だ、犬野郎!("This is a goodbye kiss, you dog,")」」「夫を失った女性、親を失った子どもたちからの贈り物だ」と叫びながら靴を投げつけたのだという。ブッシュ大統領には靴は命中しなかった。ブッシュ大統領は「(投げられた)靴のサイズは10インチだったな」などとジョークを飛ばしながら会見を続行したのだという。アメリカの各種の政治ブログは、すぐにこの映像を立ち上げた。(http://www.huffingtonpost.com/2008/12/14/bush-visits-iraq-for-fina_n_150832.html

 アル・ザイディ記者はその場でシークレット・ザービスに取り押さえられてボコボコにされたという。彼の行為を「勇気ある」と称えた記者2人もすぐにその場で拘束されたという。CNNをみていたが、このシーンを何かトンチンカンに控えめに取り上げているようにみえた。靴を投げつけるのはイスラム国家では最悪の侮辱行為であることを、靴で民衆に踏みつけられているフセイン像の映像を見せながら解説していたが、もっと見当外れなのは、シークレット・サービスの配置が悪かったと本気で怒っている警護の専門家に話を聞いていたことだ。なぜ、これほどの憎しみをアメリカ大統領がイラクのジャーナリストたちからさえも受けているのかに向き合おうとしない。これは警備上の不備の問題なのではない。セキュリティ・チェックも全部終えた段階でも、心のなかまではチェックはできないのだから。

 折から14日づけのNYタイムズでは、ブッシュ政権によるイラク復興なるものが、付け焼刃のずさんな計画によって1000億ドルもの無駄を生じ失敗に帰しているとの政府報告書を入手して、特ダネとして報じられたばかりだ。一体何人のイラク人がこのたびの戦争で死んだのかさえ明らかではない。アメリカが、この誤った戦争に決着をつけるには、実はこの戦争を起こした張本人を弾劾するしかないのだが、そんなことはオバマでもやらないだろう。ただ、少なくともオバマは、イラク戦争が間違った戦争だったと明言して、イラクからの撤退を表明している。それに比べて、日本政府はどうなのだ、と。「間違っていた」イラク戦争で、自衛隊をwar zone に派遣した責任をどうするのだろうか。日本政府として「イラク戦争は間違った戦争でした」と表明する気が果たしてあるのか。おそらく日本は、アメリカを含めて世界中の国が「間違った戦争だった」と表明しても、一番最後まで態度を保留するような国だろうなあ。

2008年12月12日

面白すぎるイリノイ・スキャンダルーーChanging America(1)

 オバマ大統領誕生の熱狂に浮かれている間にも、ビッグ・ブラザーはやはりずっと見続けていた。オバマの地元イリノイ州のブラゴジェビッチ知事が検察・FBIによって逮捕された。その逮捕容疑は、オバマが大統領に選出されたことで空席になったイリノイ州上院議員の議席を金で売ろうとしていたという、信じがたい、字句通りの「汚職」だという。アメリカでは、上院議員が大統領就任などで退任した後の後継を州知事が指名する権限がある。これをブラゴジェビッチは悪用して、私利を得ようとしたというのだ。驚くのは、捜査当局が、ブラゴジェビッチの電話をすべて盗聴していて、金で議席を売ろうとした決定的な通話内容を全部録音していたことだ。アメリカでは盗聴による証拠収集がアリなのである。逮捕の発表と同時にその通話内容も公表された。個人的には何という、おっそろしい社会なのかと思う。この州知事、名前からわかるように、セルビア人移民の製鉄工の息子としてアメリカで生まれ育った。「改革」を唱えて2002年に州知事に当選し2期目だが、金権体質で以前から悪い噂が立っていたという。

 問題は、このスキャンダルがオバマにどういう影響を与えるかである。ブラゴジェビッチは、大統領選挙では、もちろんオバマを支持していたが、オバマは、噂の絶えないこの州知事とは一定の距離を置いていたようだ。オバマは一切の関与を否定しており、知事の辞任を要求している。このスキャンダル発覚をきっかけに、これまで意気消沈していた共和党や右派メディアは一気に元気を盛り返して、このスキャンダルをオバマと結びつけるべく躍起になっている。そういう意味では、オバマ新政権にとっては、発足前から初の厳しい試練に立たされているわけだ。オバマがこの事件に直接的に関与している可能性は非常に少ないが、民主党内部の腐敗は共和党に勝るとも劣らず、相当深刻なレベルに達していることは間違いない。オバマ新チームのなかに、仮に関与している人物がいただけでもダメージは免れない。

 僕はこの事件に含まれているさまざまな要素のうち3つのことがらが気にかかっている。ひとつは先に触れた「盗聴」の合法性だ。何を今更、と言われるかもしれないが、民主主義を標榜する国で、ここまではっきり盗聴の成果を誇示している国も珍しい。逮捕の記者会見を行ったのは辣腕で知られるフィッツジェラルド検事だが、彼はかつて、CIA要員の身元をメディアにリークしたヴァレリー・プライム事件の捜査で、チェイニーの片腕だったリビー元補佐官を監獄に送り込んだ人物である。徹底的にやるタイプの検事なので、どこまでこの事件が展開するのかがわからない。この摘発の意味が、FBIや検察当局(ビッグ・ブラザー)からのオバマへの何らかの警告・メッセージなのかどうか。2つめは、全く機を一にして経営が破綻したトリビューン社との関わりである。ブラゴジェビッチは、州からの同紙への支援と引き換えに、彼に批判的なシカゴ・トリビューン紙の記者の解雇を社主に迫っていたという別の容疑まで浮かんでいるというのだから呆れる。3つめの要素は、捜査当局がリークした「5番目の後継候補」についてのことだ。オバマの後の空席の上院議員候補には、自薦他薦含めて6人ほどの候補がいたというが、ブラゴジェビッチは、「5番目の候補(Candidate#5)」なら取引に応じると踏んでいた形跡があるというのだ。その5番目の候補の身元について、捜査当局は、ジェシー・ジャクソン・ジュニア(イリノイ州選出の下院議員)だとリークした。ジェシー・ジャクソンといえば、黒人の人権活動家で大統領選挙にも出馬したことがあるリーダーのひとりだ。ジュニアはその息子=2代目である。そのような人物が仮に金で議席を買おうとしていたとすれば、公民権運動の歴史に大きな汚点を残すことになるだろう。もっとも本人は嫌疑を強く否定しているが、ブラゴジェビッチと逮捕前に面会している事実が確認されている。どこの国でも事情は同じだ。世襲が先代の偉業を汚す。このことはオバマ政権の門出にも、とても不愉快なダメージを与えるかも知れない。

 いずれにしても、このイリノイ・スキャンダルは面白すぎる。しばらくはこの映画のような展開から目が離せない。

Profile

金平茂紀(かねひら・しげのり)

-----<経歴>-----

1953年北海道旭川市生まれ。1977年に在京の民間放送局に入社、以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、同局で筑紫哲也氏がアンカーマンをつとめるニュース番組のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。

BookMarks

-----<著書>-----

ブログが本になりました!
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『報道局長業務外日誌』
2009年6月、青林工藝舎


『米原万里を語る』
2009年5月、かもがわ出版、共著


『テレビニュースは終わらない』
2007年7月、集英社

人気のWeb日誌、出版!
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『ホワイトハウスから徒歩5分』
2007年6月、リトル・モア


慶應義塾大学出版会、部分執筆


『ジャーナリズムの条件4』
2005年5月、岩波書店、部分執筆


『従軍のポリティクス』
2004年7月、青弓社、部分執筆


『二十三時的』
2002年11月、スイッチパブリッシング

『電視的』
1997年12月、太田出版

『ロシアより愛をこめて』
1995年3月、筑摩書房

『世紀末モスクワを行く』
1994年12月、パルコ出版

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