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高増明(関西大学教授):チキンゲームとしての日中関係

 尖閣諸島の国有化によって、日中関係は過去にないほど悪化している。

 また、日中関係の悪化によって、トヨタの2012年9月の中国における自動車の販売台数が約半分になるなど、日本経済に及ぼすマイナスの影響が心配されている。

 中国における日本企業の売上は、2010年で34.7兆円という巨大な金額である(経済産業省『第41回海外事業基本活動調査』)。これは、北米の52.8兆円よりは小さいが、北米における売上が2006年の74.2兆円から大きく減少しているのに対して、中国における売上は27.1兆円から34.7兆円へと大幅に増加している。したがって、日本企業にとっては、最も期待される市場だったわけだが、今後、この売上が減少する可能性は高い。それは、日本企業、日本経済に対して大きなダメージになるだろう。

 また9月の日本の中国への輸出は、14.1%減少した。昨年の中国への輸出は、約13兆円であるから、それが15%減少すると約2兆円で、これはGDPに対して、0.4%程度のマイナス要因となり、数年続けば、その影響は非常に大きなものになるだろう。

 日本の2012年第3四半期のGDPは、年率換算で3.5%のマイナス成長になった。これには、輸出の減少が大きく影響している(輸出はマイナス5.1%になっている)。もちろん輸出が減少しているのは、EU、アメリカ、中国を含むアジアの経済が減速していることが大きいが、今後は、それに日中関係の悪化という政治的要因が付け加わることになる。事態は、さらに深刻になっている。

 政府はTPPを推進し、TPPがGDPを10年間で2.7兆円増やすという効果を推計しているが、日中関係の悪化によって、わずか1~2年で、それより大きなマイナスになるわけである。結局、政府にとっては、GDPの増加とか減少とかはどうでもよくて、アメリカや右傾化しているメディアと国民の支持が得られれば良いということなのだろう。また、TPP推進の理由のひとつであった「アジアの経済成長を取り込む」といったことも、まったく嘘だったことが明らかになった。ASEANとの経済関係の拡大に期待する人もいるが、市場規模を比べてみれば、中国の代わりにならないことは明らかである。

 国有化が日中関係を悪化させるということは、国有化を選択する時点で当然予想され、実際、当時の丹羽大使は、政府に警告を与えたのだが、政府はそれを無視し、逆に大使を更迭した。まさに、日本経済に対する影響などどうでもいいという確信犯的な決定だろう。

 少し視点を変えてみよう。このような状況は、「ゲーム理論」に登場するチキンゲームと呼ばれるゲームと似ていると考えられるのではないだろうか。チキンゲームとは、2台の車に乗った若者(AとB)が、車を相手に向けて走らせ、よけた方がチキン(臆病者)と見做されるゲームである。このゲームで、一方がよけた場合には、よけた方はプライドが傷つけられて、利得が-1、よけなかった方がプライドを高めることで、+1の利得になる。二人ともよけない場合には、大けがをして、どちらも-10になる。どちらもよけた場合には、利得は変化しない。

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 このゲームで、二人を日本と中国に置き換え、選択を「よける」は、「ハト」派的な協調主義政策、「よけない」は、「タカ」派的な攻撃的な政策に置き換えることができるのではないだろうか。ハト派的な態度をとることによって、国民のナショナリズム、政府の指導力は傷つく可能性はあるが、経済的に実質的な不利益は、ほとんど存在しないだろう。その一方で、もし両者が、タカ派的な態度をとれば経済的な損失は非常に大きなものになる。

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 このゲームで、最適な選択はどのようになるのだろうか?ゲーム理論でいうナッシュ均衡(相手が選択を変えないときに自分が最適な選択をしている)は、「日本がタカ・中国がハト」と「日本がハト・中国がタカ」の二つであるが、問題なのは、どちらに決まるのかわからない点である。

 そもそも国有化の利益というのはいったい何なのだろうか?豊富な石油が埋蔵されているという説もあるが、現在の状況で、日本が単独で油田の開発をすることは不可能である。したがって、利得というのは、チキンゲームと同じように、たかだか日本のなかの右翼的な考え方をもつ人が喜び、その人が政府を支持してくれるといったところだろう。一方、中国の場合、共産党にとっては、権威、国民の支持を維持するために絶対に譲れないポイントであろう。もちろん日本の中国への侵略という過去の歴史も忘れてはいけない。中国は、「タカ」を選択しなければならないだろう。また、「タカ」と「タカ」がぶつかったときの被害も、日本の方がおそらく大きいだろう。

 とすれば、日本の選択は、「ハト」しかないことは明らかであろう。「毅然とした態度」が好きな人にとっては、愛国心が傷つけられるということなのだろうが、日本が実効支配しているのだから、実質的には、ほとんどマイナスにはならない。一方、「タカ」を選択してしまえば、大きな被害になる。こんな単純なことも、日本の政治家はわからなくなってしまったのだろうか?

 この間、上海に行ってきて、中国人の大学の先生や経営者、学生と話をしてきた。みんな今回の状況については、とても心配していた。上海には10万人を越える日本人が生活しているが、今回の件で、ほとんどの人は肩身を狭くしているだろう。

 以前のように、日本人と中国人が普通に交流し、ビジネスを行える日は戻ってくるのだろうか。

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【プロフィール】高増 明(たかます・あきら)

takamasu.jpg1954年、東京生まれ。京都大学経済学部、大学院経済学研究科卒業。京都大学経済学博士。大阪産業大学経済学部教授を経て、2006年から関西大学社会学部教授。専門は理論経済学、国際経済学。著書に『ネオ・リカーディアンの貿易理論』(創文社)『国際経済学:理論と現実』『経済学者に騙されないための経済学入門』『アナリティカル・マルキシズム』(ナカニシヤ出版)などがある。市場メカニズムの効率性や個人の自発的意思決定を絶対視する経済学には批判的であり、公正な所得分配とはどのようなものか、それをどのように現実の経済政策によって実現するのかについて研究している。

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