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2011年9月29日

「全力で」と言っても出口が見えない普天間移設──野田は外交でも"没官僚"に逆戻り?

takanoron.png 21日にニューヨークの国連本部で行われた野田佳彦首相として初めてのオバマ大統領との会談は、トータル35分間、冒頭の挨拶場面の撮影や通訳の時間を除けば実質15分間にも満たない、形ばかりのものだった。その中でオバマはほとんど一方的に、普天間移設問題は結果を出せ、TPPは(対中国の)戦略問題だ(から早く参加を決めろ)、米国産牛肉の輸入規制を解除せよ、国際結婚が破綻した場合の子供の扱いを定めたハーグ条約への加盟を急げ、等々の要求を並べ立て、「いら立ち」(23日付読売)と「余裕のなさ」(同毎日)を露わにした。それに対して野田は、大震災への米軍「トモダチ作戦」への謝意を表して「日米同盟の深化・発展への信念」を述べて対米恭順を示しただけで、こんなことでは日米関係の再構築は望むべくもない。野田対米外交は、外務省主流を占める対米屈従派への"没官僚"基調でスタートしたのであり、これでは自民党政権時代の屈従外交に戻るだけではないのか。

●流血の惨事になる?

 普天間移設問題について、野田が「沖縄県民の理解が得られるよう全力を尽くす」と見栄を切ったのは、外務・防衛官僚の「06年の日米合意がある以上、それを断固執行するしか道はありませんよ。それを覆そうとすれば鳩山由紀夫元首相の運命を繰り返すことになりますよ」という囁きに付き従ったからに相違ない。

 しかし、これを巡る鳩山由紀夫元首相の迷走の後では、かえって沖縄は、県知事・県議会から普天間を抱える宜野湾市及び移転先に名指されている辺野古を持つ名護市の市長・市議会まで、「何が何でも県外へ」で岩盤のように凝り固まってしまっていて、これを揉みほぐすことはもはや不可能と言える。野田に「沖縄県民の理解が得られるよう」にするための妙案があって、すでに沖縄現地との間で密かに根回しが進んでいるというのであれば大したものだが、今のところその気配は全くない。とすると、彼の頭の中にある"説得材料"は、来年度に創設が予定されている沖縄振興一括交付金を、仲井真広多=沖縄県知事の再三の要望通り年間3000億円まで引き上げることくらいしかないのだろう。しかし、財政難の折からそこまで振る舞うのは到底無理という反対論が政府部内にも根強い上、たとえ実現したところで、同知事は「それと普天間問題は別」と明言していて、(原発交付金と同様)カネとイノチの引き替えを強要するようなやり方はもはや通用しないだろう。

 それでも野田が、日米合意を盾に辺野古移転を強行しようとすれば、野田訪米の直前にワシントンを訪問して米政府・議会関係者と会談した仲井真知事が20日、現地での記者会見で語ったように「銃剣とブルトーザーで(基地を)作るのかということになる」。その通りで、無理矢理着工となれば、現地住民はもとより、全国の平和・反基地団体や、ジュゴンとサンゴの貴重な海の破壊に反対する内外の環境団体などが集結して建設道路に寝っ転がって抵抗し、それを警察が排除しようとして流血の惨事が起こるだろう。そうなって初めて日本政府はワシントンに「申し訳ないが、どうしても住民の同意が得られない」と泣きつき、さすがの米政府も、血を流してまで建設を強行し、住民の敵意の真っ直中に基地を作ってみたところでそんなものは維持不能であるということを悟ることになる。

 06年日米合意の達成に「全力を尽くす」という野田の知恵のない宣言の先に見えているのは、そういう最悪のシナリオであり、敢えて弁護して言えば、鳩山はそれが分かっているから何としても県外・国外移転を目指して別の道を探ろうとしたのである。

●別のシナリオの可能性

 鳩山の、自らの辞職で償わなければならなかった失敗の原因は、まずもって最大の障壁である日本の外務・防衛官僚の頑迷と対決して折伏し抜くという真正面からの"脱官僚"路線を追求することを回避して、周辺ブレーンなどを使って搦め手から何とかしようとジタバタして、結果的に"反官僚"に陥って両省から総スカンを食ったことにあった。そうなるまいとして、野田が単に06年日米合意に沿って「全力を尽くす」というのでは、これはまた一転、"没官僚"への逆戻りでしかない。この問題での本当の"脱官僚"路線とは、06年時点では最善と思われたのかもしれない辺野古移転の日米合意は、今となっては実現不能であり、より深く沖縄の心の側に立ってよりマシな新たな日米合意を作り上げるべきであることについて、まずは日本の外務・防衛官僚ととことん話し合って説得し抜くことである。

 具体的には、第1に、米国の国防専門家やシンクタンクではすでにさんざん言われてきたことではあるが、海兵隊そのものの存在意義、またその海兵隊の3師団の1つが沖縄に駐留を続けなければならない軍事戦略上の意味は、必ずしも自明ではなく、議論はそこから始まらなければならない。海兵隊の本来任務はかつての朝鮮戦争における仁川上陸のような「敵前上陸強襲作戦」であるけれども、朝鮮半島で第2次朝鮮戦争とも呼ぶべき大規模陸上戦闘が起きる可能性はほとんど絶無であり、また台湾海峡危機があったとしてもそれは米海軍と空軍の出番であって海兵隊が地上戦闘に参加するというシナリオはあり得ない。さらに日本にせよアジアの他の国にせよ同様の大規模地上戦闘が起きて海兵隊が本来の役目を果たすことは考えられない。そのため米軍部や議会には前々から「海兵隊無用論」があり、それに対して海兵隊自身は「対テロ特殊作戦も出来ます」とか(確かにイラクやアフガニスタンにも出撃しているが、本格的な特殊作戦では海軍や陸軍のプロ部隊に及ばない)、「人道支援にも出動しています」とか、いろいろメニューを並べてアピールを続けてきたのが実状である。まあいろいろなことが出来るには違いないが、だからと言ってそれは沖縄に駐留しなければならない理由にはならない。そこを問い詰められると、結局は、駐留すること自体で"抑止力"になっているという、あるべき脅威の冷静な分析とそれへの戦略・戦術シナリオの策定を抜きにした幼稚な抑止力論に逃げ込まざるを得なくなる。鳩山はこの辺りで思考停止に陥ってしまったのだったが、そこから先に踏み込んで官僚たちと打打発止の議論を深めるのでなければ、この問題での政治主導などかなわぬ話である。

 第2に、それと並行してあらゆるチャンネルを通じた米国側へのロビー工作が必要となる。ペンタゴン直結のシンクタンク「ランド・コーポレーション」の上級政治研究員エリック・ヘジンボサム他は最新の米外交専門誌『フォリン・アフェアズ』に「東京の(政治的)転換」と題した論文を寄稿し、その中で、日本で政権交代が起きて民主党政権が長年の官僚支配を打破しようとして苦闘していることを「究極的には日本を一層民主的に、ダイナミックにする」ものとして全体として肯定的に評価しつつ、ワシントンはその変化に対して懲罰的な態度を採るべきでないと進言し、さらに沖縄の基地問題については次のように提言している。

●海兵隊はどこに居てもいい?

▼米国はどの基地や施設が最も枢要かを決定すべきである。例えば嘉手納空軍基地は、台湾と韓国の対中国・対北朝鮮の抑止にとって特別に肝心である。同基地は、人権支援や災害救済を含む広範なその他の機能を助けているし、また東南アジア各地への最善のアクセスを提供している。台湾をめぐる危機に対応して作戦を行う可能性を考えれば、嘉手納以外のどの空軍基地も数倍は遠い。
▼他方、米海兵隊のこの地域へのプレゼンスは極めて重要だが、それが西太平洋のどこに配置されるかは、訓練施設とインフラストラクチャが適切であれば、余り肝心なことではない。海兵隊はどこに基地を置こうと、その駐屯地からどんな任務のためにでも展開することが出来るだろう。
▼米上院議員のジョン・マケイン(共和党)、カール・レヴィン(民主党)、ジム・ウェッブ(民主党)は最近、普天間の海兵隊航空機を嘉手納に移し、現在嘉手納にある米空軍施設をグアムもしくは日本のどこかに分散配置することを提案した。この提案は新鮮で創造的なものではあるが、問題もある。普天間の航空機は主として、地上の海兵隊歩兵部隊を支援するよう設計された輸送ヘリコプターであって、米軍の航空戦力に貢献することは少ない。それどころか、海兵隊航空機が嘉手納に移動すれば、いざという時に(空軍が)追加の戦闘機、爆撃機、戦闘支援機を増強するのに必要なスペースを占拠してしまうだろう。普天間問題の袋小路を打開する別の解決策を見つけなければならないのは確かだが、それは嘉手納空軍基地の独特の利便性を損なうものであってはならない......。

 多分に空軍寄りの見解で、ウェッブ議員らが「嘉手納の航空戦力の一部を、日本国内の他の基地や、現状では半分も使われていないグアムのアンダーソン空軍基地に移せばいい」と主張していることには明確に反対している。しかし、そこに時間軸を持ち込んで、(1)将来的には海兵隊を沖縄にある司令部機能はじめヘリ部隊、歩兵部隊、佐世保にある艦艇母港、岩国にある航空部隊を一括グアムに移転し、一元的に統合運用出来るようにする、(2)それまでの間、"世界で一番危険な航空基地"である普天間の状況を1日も早く解消するために、あくまで暫定的に、ヘリ部隊を嘉手納に移転する。(3)それで緊急時に空軍が困るというのら、普天間基地をしばしそのまま空けておいていざという場合には使えるようにしておく----といった妥協案は十分に成立可能ではないか。

 沖縄の仲井間知事は先の訪米の際にレヴィンら3議員とも会談、彼らが「現実的な解決策」として改めて示した嘉手納統合案に対して、「周辺自治体の同意や環境・騒音問題が立ちはだかり、非常に困難」と答えつつも、会談後の会見では、その案が「問題を解決するためにいろいろ考えているという趣旨だと思う。日米両政府と違い、議員は(見直しに対し)弾力性があった。新たな解決策を模索する正しい方向だ」と語っている。

 野田は、日米保守官僚の側に立って沖縄に対するのでは破滅で、仲井間知事はじめ沖縄の側に立って官僚を抑え込まなければならない。▲

2011年9月26日

小沢一郎氏元秘書3人に有罪判決

ishikawa110926_1.jpg

 陸山会の土地取引をめぐり、小沢一郎元代表の元秘書3人が政治資金規正法違反に問われていた事件で、東京地裁(登石郁朗裁判長)は26日、執行猶予付き有罪判決を言い渡した。

 東京地裁は、公判で争点となっていた虚偽記載についての法的評価について検察の言い分をそのまま認めたほか、西松建設事件で大久保氏が談合の取りまとめとして発した「天の声」のほか、水谷建設が大久保氏と石川氏にそれぞれ5000万円渡したことも事実として認定した。

 被告人の一人である石川知裕衆院議員は閉廷後に記者会見を開き、「まったく事実でないことをもとに判決が下された。控訴して断固として戦い続ける」と語った。

※写真は同日衆議院第一議員会館でおこなわれた記者会見。

 

2011年9月18日

河野太郎×高野孟:核燃料サイクルなんていらない!

 毎月、多彩なゲストを交えて世界や日本について語る『高野孟のラジオ万華鏡』。今月は自民党衆院議員の河野太郎さんをお迎えし、核燃料サイクルの問題点について語ります。

 福島第1原発事故がおこる前から原発について積極的に発言してきた河野さんが、いま、考えている事を聞いていきます。

■ダウンロード(mp3)
http://podcast.jfn.co.jp/poddata/owj/tue_02/owj_20110920.mp3

2011年9月10日

野田・鉢呂はなぜ原発再稼働を急ぐのか? ── 火力発電増強で原発はすぐにでも止められる

takanoron.png 鉢呂吉雄経産相は就任早々から「原発再稼働」に前のめりになっていて、「ストレステストの結果を経産省原子力安全保安院、原子力安全委員会、国際原子力機関(IAEA)の3段階で評価し、さらに最終的に政治が判断して、国民や地元の理解を得たい」との趣旨の発言を繰り返している。また原発輸出についても、「認めていくのが前政権からの考え方であり、私も踏襲したい」と述べている。

 もちろん彼も、本論説の前回で要約した野田佳彦首相の考え方、すなわち(1)原発の新設はしない、(2)寿命が来たものは廃炉とする、(3)将来的に「脱原発依存」を果たす----をほぼそのまま復唱していて、最も広い意味での"脱原発"の立場であることでは変わりはない。野田は「現体制の保安院が安全性のチェックをするのでは国民の信頼感を得られないと思うので、不安をなくすにはどうするか、議論したい」と言っていたが、それへの鉢呂の答えが「3段階の評価プラス政治判断」ということなのだろう。野田が触れていないことで鉢呂が明言したのは、原発輸出は続けるということである。

●安全の新定義が必要

 まず第1に、そもそもストレステストの内容はどういうものであるべきか、それを実施するのが電力会社であってはお手盛りの結果にならない保証はあるのか。東電の柏崎刈羽原発1・7号機で9日から始まったストレステストは、地震や津波が原因となって燃料が損傷するケースを約60通り想定して、安全上重要な設備にどれほどの余裕があるかをコンピューターでシミュレートするのだそうだが、実際には、07年7月の中越沖地震の際の柏崎刈羽では緊急対策室のドアが歪んで開かないとか、フクシマではやっと到着した緊急電源車のプラグが合わなくて使えなかったとか、まあありとあらゆるバカバカしいほどの想定外の事態が次から次へと起こってどんどん対応が遅れていく訳で、そういったことのすべてをシミュレーションにかけることは不可能である。また、柏崎刈羽では、中越沖地震後、地下の活断層の長さが以前に考えられていたより3倍近いことが明らかにされており、シミュレーションの前提となる基礎データが正しいのかどうかも疑問がある。フクシマの現実に照らして、ストレステストの内容について、原発自体に批判的な専門家を含めた徹底的な検討が必要なはずだが、そのようなことが行われた形跡は皆無である。

 第2に、ストレステストの結果を評価するのがその「3段階プラス政治判断」でいいのか。保安院は完全に信頼を失って来年3月一杯で解体される運命にあり、チェック機関としての資格をすでに失っているし、原子力安全委員会の無能は天下周知である。IAEAも、保安院と同様、原発推進と検査の両方を受け持つ、というより推進のためには厳しく検査せざるを得ないという性格の、基本的に米国が主導権を握った組織であって、何の安心にもならない。ましてや日本の大臣の政治判断など全く当てにならない。

 第3に、再稼働に必要な安心材料とは、ストレステストだけなのか。前稿の繰り返しになるが、「寿命が来たものは廃炉」は当然として、その寿命をどう定めるのかは新しい安全基準の重要な1項目のはずである。エコノミストの大御所=伊東光晴は辻井喬との対談で「老朽化してもろくなった原発を使い続けるのは日本だけです。完成から30年をめどに廃炉すべきです」と言っている(9月7日付毎日新聞)。こんなことは世の中ではほとんど常識で、前にも触れたように、反原発の理論的主柱だった故高木仁三郎以来、30年を過ぎたものはすべて「老朽化原発」と考えてさしつかえない。とすると、最初から20基は再稼働の検討対象とならない。また、これも繰り返しだが、WSジャーナル調査で特に「地震にも津波にも脆弱」と評価されたものは24基あり、このうち老朽化原発に含まれるものを除くと15基で、老朽化と合わせると45基(もんじゅを加えれば46基)である。

 第4に、そうすると、再稼働の検討対象となるのは全54基中で9基だけとなるが、それらを廃炉時期が来るまで10年か20年か30年稼働し続けるとして、そのどれかで"第2のフクシマ"が起きないという保証はどこにあるのか。付け加えれば、廃炉が決まって停止したからといって安全とは言えず、廃炉作業が完全に終わるまでは現役と同様、地震や津波や作業ミスで爆発する危険は続く。老朽炉を停止し、地震・津波に弱いものも停止し、廃炉作業にも急いで取り組むとしても、「脱原発依存」が達成されるまでの30年間、さらにはその後始末が終わるまでの40年か50年の間は"第2のフクシマ"の危険に直面しながら生きろと国民を説得するのだろうか。これでは"脱原発"は口先だけになってしまう。

●イデオロギー的呪縛

 野田や鉢呂が再稼働に前のめりになるのは、経産省はじめ原子力利権共同体が振り撒くいくつかのイデオロギー的呪縛から逃れられないためである。

 第1のイデオロギーは、経済の維持・発展のためには電力供給の確保が至上命題だというもので、これは言い換えれば人間の命よりも経済が大事だということである。何万人もの人々を放射能による死の恐怖に陥れ、あるいは故郷を喪失して多くは恐らく2度と自分の家に帰ることが出来ないような状況に追い込んで、それで繁栄する経済とは一体何なのか。命あって、人々の生活があっての経済ではないのか。

 第2は、にもかかわらず地元にそれを納得させるために用いられるのは、起きないかも知れない事故の恐怖よりも目先のカネが欲しいんじゃないの?という、人間の尊厳を打ち砕くようなイデオロギーである。これについては説明を要さない。こんなことはもう止めにしたい。

 第3は、原発が減る分を自然エネルギーと節電で賄うのは無理だというイデオロギーである。7日付読売新聞の大社説「展望なき"脱原発"と決別を」は言う。「自然エネルギーの拡大は望ましいが、水力を除けば(現在の)全発電量の1%に過ぎない。現状では発電コストも高い。過大に期待するのは禁物である」と。これはどうにもならない衰弱思考で、電力の地域独占体制を守ろうとするばかりの過去の経産行政こそが自然エネの急速な拡大を抑えてきたのであって、菅直人前首相の置き土産である自然エネ法を突破口としていかにしてそれを反転させてドイツ並みの自然エネ比率を実現するかが課題である。

 第4に、それでも自然エネの普及に時間がかかるのは事実で、そこで当面の繋ぎとして火力発電の増強で補うことが出来るという考え方がジワジワと広まっているが、それに対してはまた別の経産省発のイデオロギーが振り撒かれていて、「不足分を火力発電で補うために必要な燃料費は3兆円を超え、料金に転嫁すると家庭で約2割、産業では4割近く値上がりするとの試算もある。震災と超円高に苦しむ産業界には大打撃となろう」(上記の読売社説)と。しかし前出の伊東光晴は「世界の流れは、液化天然ガス(LNG)発電です。LNGを米国はトンあたり2万円強で買うが、日本は3万8000円程度。国際カルテルの餌食になっている。米国並みの価格で買えれば、脱原発も簡単です。日本がまずやるべきは、このカルテルの打破です」と言い切っている。本論説も前から指摘してきたとおり、元々石油に比べて埋蔵量が多く、しかも温暖化ガス排出量が相対的に少ない天然ガスは、近年のシェールガス開発ブームもあって市場価格が軟化し、多くの国はスポット市場などを通じて有利な価格で調達するのが当たり前になっているのに対し、日本だけは昔ながらの"安定確保"市場主義を捨てられずに、高価格の長期契約による調達方式から抜けられない。その広く知られた問題点に一言も触れることなく、「3兆円の負担増」とか国民を脅迫しているのが経産省であり、それを請け売りで振り撒いているのが読売である。

●ガス・石炭の活用

 8月17日付朝日新聞が7人のエネルギー専門家に脱原発実現のための代替エネルギーの本命は何かと問うたところ、5人が天然ガスを挙げ、その内3人はそれと並んで石炭を挙げた。全員が自然エネルギーを拡大すべきだという立場ではあるが、それが直ちに電力供給の代替基盤となると考える人は少なかった。

 石炭火力の増強は意外に支持者が多い。朝日のその記事では、7人の1人である橘川武郎=一橋大学教授(エネルギー産業論)が「石炭火力の効率化技術では日本は世界一。資源小国として選択肢を残しておくべきだ」と語っている。

 久保田宏=東京工業大学名誉教授(エネルギー工学)は8月17日付東京新聞「談論誘発」欄で、自然エネは理想だが、冷静に考えれば原子力の代わりに経済的に用いることのできるのは「化石燃料、中でも保有エネルギー当たり輸入価格の一番安価な石炭が適当」と語っている。石炭と言えば、直ちに湧き起こるのは二酸化炭素排出量が多いという批判だが、久保田は「地球温暖化の原因をCO2の排出量の増加だと主張する国際機関の報告には異論が多くなってきた。もしそれが正しかったとしても、地球温度の上昇とCO2排出量の関係しか分かっておらず、温暖化による被害金額と、それを防ぐためにどれだけ費用をかけて削減する必要があるかは、科学ではわからない。日本だけが25%削減すると国際的に見栄を切っても物笑いの種」と指摘している。

 さらにJパワー(旧電源開発)の北村雅良社長は、「識者の中にも石炭は良くないイメージがあるようだが、磯子の石炭火力発電所は世界中で最も有害物質の排出が少なく、天然ガスと同じくらい。今後CO2排出をさらに削減し発電効率を上げる」として、石炭をガス化してガスタービンで燃焼させて発電し、廃熱をさらにスチームタービンにつなげて発電する「石炭ガス化複合発電」方式のメリットを強調している(7月15日付毎日)。この方式は同社が中国電力と組んで実証プラントを建設準備中で、17年に稼働予定。北村が別のところで語っていたところでは、この石炭ガス化複合方式では熱効率は50%近くに達し、さらに次世代の石炭ガス化複合に燃料電池を組み合わせる「トリプル複合火力」方式にすれば熱効率が60%程度に達するという(週刊エコノミスト01年11月10日号)。

 世界の電力発電量に占める石炭火力の割合は42%で、国別では多い順に中国80%、インド70%、米国49%、ドイツ49%などで、日本は27%。石炭火力の熱効率は、中国・インドが平均32%、米国37%で、日本は現在でも平均41%、最新鋭の磯子で43%、さらに上述のように複合方式、トリプル方式が完成すれば50〜60%に達する。従って、「仮に、米国、中国、インドの既存の石炭火力を日本並みの熱効率に更新していけば、日本1国で排出しているCO2全量を削減することができる計算になる」(北村)。

 一瞬耳を疑うが、「日本1国で排出しているCO2全量」ですよ。この3大石炭火力国に日本のクリーンコール技術を適用したら、日本のCO2排出量は25%どころではない、100%削減できるのですよ。原発などを輸出して他国の将来世代にまで災いを残すなど愚の骨頂で、まずはこの石炭火力技術を輸出すべきではないのか。

 かくして、原発を急いで再稼働させて電力不足に陥らないようにして、かつ原発輸出の方針も変えないという野田内閣=鉢呂経産相の路線は没官僚的で間違っている。ガス・石炭火力を強力に拡充して、原発ではなくクリーンコール技術を輸出することに発想を転換するのが脱官僚的である。▲

2011年9月 5日

特集:TPPとは一体何物か?TPPの真相と深層

 8月29日に民主党代表選が行われ、野田首相のもとで新政権が発足した。

 代表選の争点のひとつだった「TPP(環太平洋連携協定)」は、あいかわらず関税や農業問題に焦点があたり「農業vs国益」「開国vs鎖国」の対立軸で議論されている。TPPは日本の保険や医療制度、郵政、投資、知的財産権などに影響する問題にも関わらず、昨年10月以降の様相とまったく進化していないメディアの思考停止状態がいまだに続いている。

 決断の「期限」とされてきたAPECホノルルまで残り2ヶ月。THE JOURNALでは、「TPPは農業だけの問題じゃない」という視点で掲載してきた記事を『TPPの真相と深層』としてまとめ、揺れる経済連携協定の"今"と"これから"を徹底分析します!

《最新記事》
■「TPP反対!」耳を傾けるべき被災地の声(10/14)

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↓ 特別動画(日本語版 50分) ↓
ジェーン・ケルシー「異常な契約──TPPの仮面を剥ぐ」

→http://www.nicovideo.jp/watch/1311150657←

kelsey110714.jpg
<内容>
1,TPP交渉の背景
2,今までの交渉で浮上してきた問題点
3,日本への影響(主に米国からの要求から)

★ ★ ★【記事一覧】★ ★ ★

■ジェーン・ケルシー:異常な契約──TPPの仮面を剥ぐ(7/22)
■鈴木宣弘:「想定外」では逃げられない原発とTPP報道(7/19)
■「TPPの仮面を剥ぐ」ジェーン・ケルシー教授が来日(7/12)
■山田正彦:「農政」大転換──大震災と原発事故からの農業再生(6/22)
■TPPは11月すべりこみ参加!? 「TPPを考える国民会議」で反対論(5/25)
■高増明(関西大学教授):TPP内閣府試算の罠 ── 菅内閣がひた隠す"不都合な真実"(4/19)
■TPP推進派の根拠に落とし穴 ── 内閣府試算GDP3.2兆円増は10年間累積試算(3.10)
■TPP反対派に押される「開国フォーラム」とは?(2.24)
■大野和興:平成の不平等条約TPP(2/18)
■中野剛志:「TPP亡国論」発刊にむけて(2/16)
■舟山やすえ:米国基軸のTPPよりアジア中心の経済圏を(2/8)
■村上良太:TPPを考える1冊 「異常な契約 TPP」(2/6)
■TPP報告書を公開!──"情報収集"とはいかほどのものか(2/3)
■山田正彦:TPPは農業だけの問題ではない!(1/31)
■村上良太:米失業率9.4%──失業率9%以上が連続20ヶ月超は大恐慌以来(1/31)
■山本謙治:「日本の農業はもっと強くなれるから、保護は要らない」という欺瞞(1/29)
■山本謙治:TPP 「農業」を「たべもの」に置き換えて考えよう(1/28)
■篠原孝:丸太関税ゼロで疲弊した中山間地域(1/26)
■和田秀子:手放しで喜べないインドネシア人看護師候補生の「在留延長」(1/25)
■「TPP反対!」地方紙からの声(1/24)
■中野剛志:TPPはトロイの木馬(1/19)
■続・世論調査の「TPP推進」は本当?(1/17)
■世論調査の「TPP推進すべき」は本当?(1/13)
■印鑰智哉:モンサント、ブラジルの遺伝子組み換え大豆「開国」の手口(1/12)
■TPPをめぐる俗論を反証する──緊急出版『TPP反対の大義』より(1/11)
■TPP「開国」報道に"待った"の動き(1/9)
■山下惣一:「自給率」より「地給率」──私がアジアの農村で得た教訓(1/3)

---(↑ 2011年 ↑/↓ 2010年 ↓)---

■金子勝:歴史の中の「自由貿易」 錦の御旗を立ててみたけれど...(12/31)
■篠原孝:TPPを切っ掛けとした、食と農林漁業再生推進本部の設立(12/16)
■金子勝:Uターンする日本 そこに未来はあるのか?─TPPと戸別所得補償(11/27)

★ ★ ★【記事ダイジェスト】★ ★ ★

110714_agri.jpgジェーン・ケルシー氏(オークランド大学教授)
「異常な契約──TPPの仮面を剥ぐ」(7/22)

「自らの課題は自らが決定しなければならないということを強調したい」「異常な契約─TPPの仮面を剥ぐ」の著者・ジェーン=ケルシー(オークランド大学教授)氏の講演が7月14日憲政記念館で開催されました。 TPP参加表明9ヶ国による会合(ラウンド)は7回を終え、米国、ペルーの2回を残して、11月のオバマ大統領の故郷・ハワイAPECに臨みます。

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suzuki2.jpgのサムネール画像鈴木宣弘氏(東京大学教授)
「『想定外』では逃げられない原発とTPP報道」(7/17)

今回の震災でようやく実現できるような大規模化政策が全国モデルとして展開できるはずがありません。日本で大規模農業をすることはそれほど難しいということです。また、世界的な大規模農業というと、豪州は1区画あたりの平均面積は約100ヘクタールです。日本が数ヘクタール程度の区画整備をしても、そんな外国勢とたたかえるのでしょうか。

なにより、「みなさん、震災で土地がグチャグチャになっています。いい機会ですから、大規模区画整備して規制緩和で企業に入ってもらい大規模型農業を進めていきましょう」といった言葉は、現場で苦闘する人たちに対して心を疑われる言動です。現場に根ざした視点、現場で苦労している人たちからの発想が欠けています。それぞれに言いたいことがあるのでしょうが、無理やり震災復興と結びつけていて論理が飛躍しています。火事場泥棒的な発想といえるでしょう。

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TPPbook.jpg
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「TPPに参加し、地域社会の崩壊や国土の荒廃が進み、安全な食料を安く大量に買い続けていく」。これが日本の将来のあるべき姿なのか? TPP問題を農業問題に矮小化することなく、TPPによって国民は何を得て、何を失うことになるかを論じた一冊です。

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News Spiral
「『TPPの仮面を剥ぐ』ジェーン・ケルシー教授が来日」
(7/12)

日本では医療など規制改革をふくむ自由貿易協定「TPP」が"錦の御旗"のようにいわれているが、「参加国の経済の大半はアジアおよびPacific Rim(環太平洋地域)において、または米国にとって限られた地域的重要性しか持っていない」「TPPから大儲けが得られると予測した研究はいっそうもっともらしくないことになるだろう」「TPPについての経済的論拠はニュージーランドにおいては声さえ聞こえなくなった」と外国からの目線でTPP批判する書籍が出版された。

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110710_TPP.jpg
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News Spiral
「TPPは11月すべりこみ参加!? 再出発の『TPPを考える国民会議』で反対論」
(5/25)

5月24日、参院会館で「TPPを考える国民会議」(代表世話人:宇沢弘文 以下、国民会議)が開かれた。会場には赤松広隆元農水相、山田正彦元農水相、舟山康江元農水政務官など閣僚経験者をはじめとする国会議員のほか、学者、企業代表など約60名があつまった。国民会議は政府が進めるTPPに待ったをかけようと2月に設立した会で、以来全国各地で集会が行われていたが震災の影響で一時ストップ、3ヶ月たちいよいよ再スタートをする。

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takamasu.jpg高増明氏(関西大学社会学部教授)
「TPP内閣府試算の罠 ── 菅内閣がひた隠す"不都合な真実"」(4/19)

政府はGTAPモデルを使って、日本がTPPに参加したときの経済効果を計算して発表しましたが、日本のGDPの増加だけを発表していて、個別の産業、商品の生産がどのように変化するのかを発表していません。しかし、実際には、コメ、小麦、牛肉など個別の商品の生産の変化が問題なのは明らかです。それを発表しないのは、都合の悪い結果を隠しているのかなと思ったので計算してみました。

日本だけがTPPに参加した場合
※表はクリックすると拡大します
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News Spiral
「TPP反対派に押される『開国フォーラム』とは?」
(2/24)

読売、朝日、毎日、産経、日経の他、関東地区の13の地方紙紙面に2月11日、「開国」広告が掲載された。

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2月11日の新聞広告。5段1/2サイズの広告料金は約880万円(読売新聞広告料金表より計算)

国家戦略室が企画している「開国フォーラム」で、政府公報によると第2,3回目の広告もすでに18の地方紙に出している。菅首相が掲げる「平成の開国」について、「各界の関係者間で議論をいただき、国民の暮らしとの関係について理解を深めることを目指」すイベントのようだ。

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110127_funa.jpg舟山康江氏(元農水大臣政務官)
「TPP内閣府試算の罠 ── 菅内閣がひた隠す"不都合な真実"」(2/8)

私は昨年11月の参議院本会議(リンク:参議院映像)で「農業をとるか、輸出産業をとるかという問題にすり替えてはいけない話です」と菅首相に投げかけました。すると「舟山さんに質問をいただきましたが、農業はしっかり守ります」と答えられました。私は農業を守ってくれなんてことは一言も言っていません。

TPPは「農業vs輸出産業」「農業保護vs国益」ではありません。各国が独自で持っている規制制度や風習、慣行などがTPPによってどう変わっていくのか、きちんと可能性を分析した上で考えなければなりません。今の日本独自のシステムでは生きていけなくなる、思い切って変えていこうということを問い、それに対して多くの人が賛同するのであればわかります。

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TPP交渉では24の作業部会が開かれる。赤く塗りつぶした3作業部会のみが関税に関するもの

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yamabiko110124_4mono.jpg山田正彦氏(元農水大臣)
「TPPは農業だけの問題ではない!」(1/31)

TPPは"国の形が変わる"かどうかの大きな問題です。TPP交渉では貿易はもちろん金融や知的財産などが協議されており、参加国は共通の制度で揃えるという動きのようです。制度を変えるということは国の形がかわるということです。極端にいえば、日本は米国の51番目の州になりかねない問題で、国民的議論が不可欠です。

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政府が根拠としているTPPのメリットと試算。山田氏はこの試算根拠の公表を求めたが断られた(EPAに関する各種試算(内閣官房)より)

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110114_nakano4.jpg中野剛志氏(京都大学大学院准教授)
「TPPはトロイの木馬」(1/19)

TPP問題はひとつのテストだと思います。冷戦崩壊から20年が経ち、世界情勢が変わりました。中国・ロシアが台頭し、領土問題などキナ臭くなっています。米国はリーマンショック以降、消費・輸入で世界経済をひっぱることができなくなり、輸出拡大戦略に転じています。世界不況でEUもガタがきていて、どの国も世界の需要をとりにいこうとしています。1929年以降の世界恐慌と同様に危機の時代になるとどの国も利己的になり、とりわけ先進国は世論の支持が必要なので雇用を守るために必死になります。

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ニュージーランド、ブルネイ、シンガポール、チリの4加盟国+ベトナム、ペルー、豪州、マレーシア、米国の5参加表明国に日本を加えたGDPグラフ。日本と米国で9割以上を占める。(国連通貨基金(IMF)のHPより作成(2010年10月報告書))

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2011年9月 4日

一見地味だが、内にはなかなかのしたたかさ? ── 野田佳彦新首相の滑り出し

takanoron.png 何度も述べて来たように、菅直人前首相の人格・資質・能力には大いに問題ありとしても、直ちに引きずり下ろさなければならないほどの大失策があった訳ではなく、その意味では、やらずもがなの民主党代表選ではあったけれども、まあともかくも、小沢一郎代表の傀儡という以外に特に意味のない海江田万里にならなかったのは、不幸中の幸いだった。海江田が第2回投票で敗れた相手が、前原誠司元外相ではなく野田佳彦前財務相だったのはいささか意外だったが、前原は国民の間で人気投票をすれば圧倒的な人気があるが、党内では言動の余りの軽さを嫌う者が少なくないのに対して、野田は逆で、一般には印象が薄いが、党内では黙々と地道に与えられた仕事をこなして決して偉ぶらない人柄を悪く言う者はほとんどいない。その違いを野田自身、金魚とドジョウに喩えたのだろう。派手に対する地味の勝利と言える。

●幹事長人事のしたたかさ

 地味であっても引っ込み思案ではないし、また人当たりがいいと言っても優柔不断でなく、むしろ内にはかなりしたたかな計算と思い切りよい決断力を秘めているのではないかと思わせたのは、いきなり小沢の盟友=輿石東参院議員会長を幹事長に据えるというところから党・内閣人事をスタートさせたことである。代表選後、輿石自身も小沢も「(野田が)党内融和とは言うが、実際に(人事が)どうなるか見てみないと」というようなことを言っている中で、政界事情通の間では「まさか党のカネと選挙対策を小沢グループに丸々渡す訳には行かないし、かといって反小沢勢力から持ってくれば小沢は納得しない。幹事長人事が最大の難関だ」などと語られていた。

 そこへ、ズバリ、単刀直入、輿石である。幹事長という党内第2位の公的地位に据えてしまえば、小沢グループの重鎮としての言動は抑えて党全体のそれこそ融和のために働かざるを得ない。また輿石も、相当なワルではあるけれども、労組幹部出身者として「機関運営」という文化は身につけていているはずだから、衆人環視の中で幹事長職を利用して小沢グループの利を謀るようなことはしないだろう。この人事を聞いて、さすがの小沢も「野田もなかなかやるじゃないか」と苦笑し、小沢グループ幹部の1人も「これでかえってやりにくくなった」とボヤいたというが、その通りだろう。輿石の補佐役に、野田が日本新党結成に参加して以来の僚友で2歳下の樽床伸二を幹事長代行として貼り付けたのも、なかなか巧みだった。

 それに続く組閣も、まあまあの出来と言えるのではないか。細野剛志=環境・原発担当と平野達男=風向防災の留任は当然、鹿野道彦=農水と自見庄三郎=郵政・金融の留任、それに中川正春=文科の副大臣からの昇格も、また順当。川端達夫=総務は、党幹事長、文科相、議院運営委員長も経験した練達の士で旧民社系だけでなく党内の信頼が厚い。鹿野と共にこの内閣の"重し"となるだろう。意外性があったのは玄葉光一郎=外務、安住淳=財務と、2大枢要ポストを40歳代の中堅実力派であるとはいえこの分野に経験のない2人に委ねたことで、リスキーではあるけれども、古川元久=国家戦略・経済財政、蓮舫=行政刷新・公務員改革、それに細野と合わせて全部で5人の40歳代を配したこの内閣の"若さ"を強調する狙いからのことだろう。

 古川と蓮舫はまさに適材適所で、野田が、没官僚でも反官僚でもない真の"脱官僚"を模索していく上での要となる。特に古川は、かつての経済財政諮問会議を真似て新設される「国家戦略会議(仮称)」のまとめ役として極めて重要で、裏では彼の親分で政策調査会長代行に就く仙谷由人前官房副長官が指南役を務めることになろう。政策面の実質的な軸は、仙谷→前原→古川の直結ラインとなる。

 山岡賢次=国家公安は、輿石のケースと似ていて、小沢側近の大物を1人は閣内に置いておこうということだろう。野田が「全体としては適材適所で、それにいろいろなことを配慮した」と言っているのはその通りで、1に適材適所、2に党内バランスである。

●脱原発はどうなる?

 菅が打ち出した"脱原発"路線はどうなるのか。実は菅も"脱原発"という言葉そのものは口にしておらず(当時の枝野幸男官房長官から「脱原発とは言わないで下さいね」とクギを刺されたので)「原発に依存しない社会」というやや穏健な表現で通しており、その意味では野田もその継承者である。

 2日の記者会見で野田は、用意した冒頭発言では原発をどうするかについて触れなかったが、質問に答えて次のように述べた。

▼原発の新設は現実的に困難だ。

▼寿命が来たものは更新することなく廃炉とする。

▼電力需給はこの冬は何とか乗り越えられると思うが、来年は幾分心配なところがある。再稼働できる原発については、ストレステストなど安全性をしっかりチェックした上で、地元の理解を得て再稼働させたい。

▼現体制の保安院が安全性のチェックをするのでは国民の信頼感が得られないと思うが、(保安院の機能が環境省に移る)来年4月まで対応を待つのでは遅すぎるので、過渡的な中で国民の不安をなくすにはどうするか、原発事故担当相を含めて議論したい。

▼将来的に「脱原子力依存」。自然エネルギーの大々的普及や、省エネ社会を着実に推進する流れの中で、丁寧にエネルギー基本計画を作り上げなければならない。

 第1に、原発新設はしないこと、また寿命が来た原発を更新せずに廃炉とすることを明言したのは評価できる。菅もここまで口にはしなかったのではないか。

 第2に、その上で、何をもって「寿命」とするかが問題で、本論説は基本的に運転開始から30年を超えたものは老朽化の域に入っていて、40年を超えたものは即刻廃止すべきだという立場をとっている。日本の原発の老朽上位20基のリストは本論説6月9日付(INSDER N.572)に掲げているが、最上位3基は40年超、20位の伊方2も運転開始は1982年3月で、間もなく30年を迎えようとしている。仮に30年超はすでに危険と基準を決めれば、少なくともこれら20基の定期点検後の再稼働はなくなる。

 第3に、寿命だけではなく、「地震と津波に弱いかどうか」も再稼働が可能かどうかを判断する重要な問題で、本論説は3月24日付(INSIDER N560)で、WSジャーナルのデータを元に、全世界400以上の稼働中の原発のうち地震危険地帯に設置されていて、なおかつ海岸から1マイル(1.61キロ)未満にあって地震にも津波にも弱い原発は39基だが、そのうち何と9割超の35基が日本にあると指摘している。海岸からの距離だけでなく、米地質調査所とスイス地震局による世界地震被害調査のデータも合わせて、WSジャーナルが「地震高危険(High Activity)区域」とした地域にある原発は24基ある。原発名のみ再録すると、浜岡3・4・5、女川1・2・3、美浜1・2・3、敦賀1・2、大飯1・2・3・4、高浜1・2・3・4、志賀1・2、島根1・2・3で、このうち上記老朽化に含まれるものを除くと15基で、老朽化と合計すると45基である(他にもんじゅ1基)。ということは、例えば浜岡が急遽、津波避けの堤防を作るとか言ってもそれであらゆる想定外の事態に対して安全確保が万全とは到底言えず、そもそも立地そのものが間違っていたとしか言いようがない訳だから、新しい基準を設ければ、これらも再稼働の検討対象から外れるだろう。逆に、再稼働の可能性を問うべきなのは、たった9基しかない。

 もちろんこれは、寿命と特に津波に対する弱さに一定の基準を設けた場合の仮定に基づいているが、野田内閣は政府としてどういう基準で再稼働を検討するのか、世に対して明確にする必要がある。

 第4に、それでもなお野田が、来冬はともかく来夏が心配だから再稼働を進めると言っている背景には、2つのイデオロギー的呪縛があって、1つは、原発と風力や太陽光など再生可能エネルギーとをトレードオフ視して、後者は簡単にはコスト的・技術的に折り合う段階に達しないから、それまでのかなり長い期間は原発を止めるわけにはいかないという、マスコミの大勢も陥っている常識の罠、もう1つは、実はその間を埋める過渡的対策としては、天然ガス・石炭による火力発電の増強が決め手になるのだが、火力増強は二酸化炭素排出の目標達成の障害となるという、これまたマスコミが煽っている常識の罠である。ガス・石炭火力の可能性については、今までも述べてきたし、また近くまとめて論ずるつもりだが、簡単に言って、「温暖化ガスは20年代に当初削減目標に比べて多少増えるかも知れないが、そんなことは何ら問題ではなく、30〜40年代には自然エネルギーの増大によって大幅にカバーされ、さらに50年代に近づくにつれ水素エネルギー社会の到来による二酸化炭素ゼロを達成する可能性が高まる。脱原発を短期的にはガス・石炭火力の増強で補い、その間に中期的には自然エネルギーを増やし、その先の長期的な考え方としては、それらすべてを水素次元で統合する水素エネルギー社会の世界に先駆けた実現を目指す──というのが新内閣が採るべき方向性だと思うが、その点、野田はまだ常識の罠に嵌っている。

 老朽化と津波の危険についての基準を緩くすればするほど、再稼働の原発が増え、朝日新聞が提唱しているように「30年」かかって脱原発を果たすようなことになるが、その場合、まだ原発が稼働している30年間に"第2のフクシマ"が絶対に起きない保証を新しい安全基準に盛り込まなければ地元も国民も納得しない。そんなことは事実上、不可能だから、論理的には、再稼働なしで来夏までに全廃というのが正しい。同じ「脱原発」と言っても、「即」すなわち1年以内から「30年」すなわちほとんど現状維持に近い(私が生きている内には原発は亡くならない!)ものまで、大きな開きがある中で、野田は一体どこに落とし込むつもりなのか。

●小沢一郎のお粗末

 それにしても、今回の小沢一郎は酷かった。

 本論説は1年前の民主党代表選の観察からすでに「小沢は終わった」という判定を下しているので、驚くには当たらないが、まず第1に、党内百数十人とかの最大勢力でありながら、自グループ内にまともな代表選候補者がいない。今に始まったことではないが、如何に彼が人を育てられないか----腰巾着は入れ替わり立ち現れても、自分を乗り越えて次の時代を切り拓くような人材は永遠に出て来ない。

 そこで第2に、政局技術的な手練手管で乗り切ろうとするが、当然にも、失敗する。3日付毎日新聞の岩見隆夫コラム「近聞遠見」によれば、6月の"菅下ろし"騒動の後、小沢はかつての盟友=藤井裕久元財務相、輿石に働きかけて固辞され、次に西岡武夫参議院議長に働きかけたところ、西岡は二つ返事で「命を懸けてやります」と応え、それで小沢は「今度は必ず勝つ。誰を推すかはまだ言えない。これまで名前が挙がっていない人物だよ」と語って上機嫌だったという。

 70歳代後半の長老にばかり狙いをつけたのは、世代交代の歯車を逆転させ、自分が裁判で無罪獲得した後、来年の代表選に出馬する余地を残そうというだけのことだろうが、その歪んだ構想が明らかになると、輿石や鳩山が猛烈に反対、立ち往生した小沢は、自分でも宰相の器とは認めていなかった"泣き虫"海江田支持に踏み切る。踏み切った以上、第1回投票で過半数を得て決めなければ勝ち目はなく、そのために赤松広隆あたりを中心に鹿野グループをはじめ他派への露骨極まりない"引き剥がし工作"を展開したが、それもかえって裏目に出て、結局惨敗した。今度は必ず勝つと言いながら勝てないのが小沢の現実である。どうしてそうなるかと言うと、小沢がもう天下国家が見えていなくて、誰だったら自分の地位保全に有利かという判断基準しか持ち得なくなっているからである。

 第3に、それで仕方なく、「党内融和というが実際を見極めて」とか嫌みをかましていたところへ「輿石幹事長」という野田の抜き打ち脳天斬りで、黙らざるを得なくなった。

 それ以前からすでに小沢グループはバラバラ状態で、この失態でますます彼の求心力は低下するだろう。マスコミは、親小沢vs反小沢が民主党内の主要な座標軸であるかの前提に立って人事のバランスがいいとか論じているが、そのような座標軸そのものが終わったのが今回の代表選だったと言える。▲

 

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『知らなきゃヤバイ!民主党─新経済戦略の光と影』
2009年11月、日刊工業新聞社

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