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2011年8月29日

高野閑話・塩と海と人(その3)

 1つ忘れていた。「自然塩」の一種と思われているものに「岩塩」があり、モンゴルなどでは旅行者のお土産として人気があるし、こだわりレストランで「アンデスの岩塩を使用」を謳っているところもあったりする。が、岩塩も、自然には違いないが、採掘前に土中あるいは露天で風雨に晒されている間ににがり成分が流出してしまうので、海水の成分と同じではない。

 さて、沖縄の海塩「ぬちまーす」については、前に「高野孟の遊戯(ゆげ)自在録026」内の今年7月1日付でちょっとだけ紹介した。
http://www.the-journal.jp/contents/takano/2011/07/026.html
 (メイン・ページ左上の高野顔写真をクリックしても入れます)

 繰り返しになるが、創業者の高安正勝は南西航空を辞めて起業し、最初は蘭栽培のための水管理システムを開発し販売していた。蘭は根腐れしやすく、それを防ぐには水を超微粒子にしたミストの形でふんわりと花や葉に水分を供給する必要がある。折しも専売制度が廃止されて誰でも塩を製造できるようになり、彼は一種の水平思考で、海水をミストにして空中に散布してほぼ常温の温風にさらすと水分だけが瞬時に蒸発して、海水の全成分がそのまま粉雪のように下の床に堆積するという「最も海水の成分に近い塩」の製造法を開発した。6〜7年前だろうか、私が那覇でお会いした頃は、研究開発に私財を使い果たし、本格的に生産を始めるための工場建設資金への銀行融資もままならず、苦労をされておられる様子だったが、今はすっかり軌道に乗ったようで、楽天市場などでも売っているし、テレビ番組や雑誌でも頻繁に紹介されている。
★ぬちまーす企業HP:http://www.nutima-su.jp/
★ぬちまーす公式通販ショップ:http://www.nutima-su.com/

●21種類のミネラル成分

 ぬちまーすの方法は「常温瞬間空中結晶製塩法」として日本、米国など13カ国で特許を取得しているので、もちろん世界中でここしかやっていない。それで作られた塩の何よりの特徴は、にがり成分まで含めた海水の成分がほぼそのまま含まれていることで、これこそが究極の「自然塩」と言えるのではないか。自然塩ブームを作った1人である某メーカーの宣伝文句には「にがり成分もほどほどに含まれています」というのがあるが、ほどほどとはどれほどなのか分からないし、全部でなくほどほどの方がいいという理由が分からない。全部が正しいのではないか。

 以下に、ぬちまーすの宣伝パンフに載っている自社と他社の塩100g中のミネラル含有量比較の表を引用する。

newsspiral110829.png

 見るとおり、ぬちまーすの塩は一般的な食塩に比べて塩分が25%低く、また他には全く含有されていない9種類、他では1社しか含有がない3種類を含めて、塩分以外に全部で21種類ものミネラルが含有されている。もちろん、塩に含まれるミネラル類の多くは微量で、この塩を食べれば、指摘されている日本人のミネラル不足がカバーできる訳ではないが、しかし少なくとも「食卓塩」を舐めさせられるよりはマシであることは間違いないし、何よりも、そのまま舐めて「おいしい」と感じることが有り難く、それはなぜかと言えば、生命の根源である海水の成分バランスが生体にとって好ましいからだろう。

 そもそも、厚労省お得意の(そしてしばしばWHOがバックアップした)「喫煙すると癌になる」とか「塩を摂りすぎると高血圧になる」とか「腹囲85センチを超えると成人病である」とかいった撲滅型のキャンペーンは、一部の学者や医者が都合のいいデータだけ寄せ集めて恐怖を誇大に煽り立て、それに役人が飛びついて新たな予算や制度や天下り団体を作るために便乗している場合が少なくない。塩に関しては、日本人は普通1日12グラム程度をとっているのに対して10グラム、いや9グラムまで抑えるべきだと言っているが、軽症の高血圧患者が1日4〜6グラムに制限しても15%の人は血圧が上がったという米高血圧学会での発表もあるし、極端な減塩が睡眠障害、栄養摂取不良、抵抗力低下など様々な障害を引き起こすという主張も広く行われている。だからと言って摂りすぎても大丈夫ということにはならないけれども、質のいい、おいしい塩を選んで、それを1つの手掛かりにミネラル摂取に気を配った食生活を自分なりに編み出すべきではないか。

 8月12日付沖縄タイムズや18日付日経新聞の地域面には、ぬちまーすの業務用塩を原料としたスポーツ飲料「多運動」が台湾のコンビニなどで発売を開始したとの記事が載っている。私は前からそれを自分で作っていて、夏の野外作業の時などには500ミリリットルの水に3グラム程度のぬちまーすとクエン酸少々を混ぜたものを冷蔵庫で冷やしておいて、それを魔法瓶に入れて持って出る。最近知ったのだが、ぬちまーすでは「レモン汁を加えると飲みやすくなる」と推奨しているが、クエン酸でも同じことだろう。前に、病院で点滴をして貰うよりポカリなどを飲むほうがマシだと述べたが、ポカリは要するにリンゲル液に柑橘系粉末ジュースの素を入れて飲みやすくしたもので、当量成分はナトリウム+=21、カリウム+=5、カルシウム+=1、マグネシウム+=0.5、塩素-=16.5、クエン酸-=10、乳酸塩-=1というものだから、それよりも遥かにマシなのが私の自家製ぬちまーすドリンクである。お陰様で、屋外作業で午前と午後の2回、シャツからズボンから下着までグショグショになって着替えなければならないほどの汗をかいても、バテるということはない。▲

2011年8月26日

何のための代表選なのか? ── さっぱり見えてこない脱菅・脱官僚・脱原発

takanoron.png 大連立の前に大乱立と皮肉られる民主党代表選だが、立候補予定者の数が多いのは構わないとして、その誰もが、どうして自分が立候補し、従って総理としてこの国をどうしたいのか、明快な言葉で被災者はじめ国民に語りかけていないことが問題である。これでは何のための代表・総理の交代なのか分からない。

●脱菅直人

 私は未だに、なぜこの時期に菅直人総理が交代しなければならないのか、理解できていない。6月に"菅下ろし"の大合唱が始まって以来、同じことを言い続けているが、確かに菅には指導者としての人格・資質・能力に欠けるところが大きいけれども、大震災・大津波・原発爆発という人類史上でも未曾有と言っていい事態に直面して、誰がその座に就いていても右往左往、七転八倒を繰り返したに違いない状況で、まあここまでよく乗り切ってきたと言えるのではないか。そうではなく、菅ではダメだからということでこの最中にわざわざ代表選を実施するのだから、各候補者は、なぜ菅ではダメで自分ならマシなのか、菅なら何が出来なくて自分なら何が出来るのか、国民の前で明らかにすべきである。それなしには、国民は「誰がなっても同じだろ」という受け止め方しかしない。

●脱官僚体制

 小沢一郎元代表は、「(マニフェストの)原点回帰か(それを修正しようとした菅の)継続かの戦いだ」と今回の代表選を位置づけて見せたが、マニフェスト修正の是非など大した問題ではない。野党時代の机上の空論に発したマニフェストが実際に政権を獲ってみたらそのままでは通用しないことが分かったなどということは、あっても一向におかしくないし、第一、世の中が当時は想定さえしなかった方向に動いていく(例えば3・11)のだから、それは当然とさえ言える。原点回帰というならば、かつての小沢の言葉を借りれば「明治以来100年余りの官僚主導体制を打破する革命的改革」こそがこの政権の中心テーマであるはずで、その点では、海江田万里は経産官僚の操人形となって「原発は安全だから運転を再開してほしい」などと言い回ってきたし、野田佳彦は財務官僚の「まず増税ありき」の凝り固まりだし、前原に至っては、元々その自民党顔負けの外交・安保タカ派路線は外務・防衛両省の守旧的親米派の受け売りであり、また国交相の時に八ッ場ダム注意を宣言したのは英断だったが、たちまち国交官僚に抑え込まれて言いっぱなしで責任をとらなかった。菅はまだ、経産省・電力会社・経団連・自民党などからなる原発利権体制を敵に回して、たった1人になっても戦ったが、このような人々ではそれすらも出来ずに丸め込まれているだろう。菅のやり方では単なる"反官僚"になってしまう、私ならこうやって本当の"脱官僚"を実行するということを各候補者は言って貰いたい。

●脱原発

 それと重なるが、現下の最大焦点は、菅が踏み込んで口にして、自然エネルギー法案の成立でその扉を少しだけ開けることに成功した"脱原発"路線をどう具体的に推進していくのかにある。今さら「原発を増やそう」と言う勇気のある人は誰もいないだろうから、せいぜいが「現状維持」で、それとても新設はせず寿命の尽きたものから順次廃炉して自然に原発が減るのを待つという意味だから、"脱原発"の一種である。朝日新聞が社論としてまとめた「30年かけて脱原発を」というのも、それと同工異曲である。50年でも30年でも10年でも5年でも、ゆっくり、あるいは少し急いで"脱原発"を進めようという主張は、少なくともその期間中、どうしたら「第2のフクシマ」が起きることを防げるのかの具体策を提示しなければ、国民の不安と不信を解消することは出来ないから、論理的には「即時全部停止」が正しい。まず全部止めて、国際的にも通用する明確な安全基準の下で地元と国民が納得して再開できるものは再開し、地震・津波に明らかに弱いもの、運転30年が過ぎて老朽化が始まっているものについては、これも基準と優先順位とタイムスケジュールをはっきりさせて、そのまま再開させずに廃炉していくというのが現実的だろう。そうすると多分5年ほどで脱原発を基本的に達成できる。その間の電力需要はガス火力と石炭火力の増強で十分補完できるし、そうこうする内に自然エネルギーも育ってきて、最終的には多分世界に先駆けての「水素エネルギー社会」の実現に到達することも可能だろう。

 誰と誰に絞られるのか、このまま大乱立のまま行われるのか、どちらにしても次期総理候補たちは少なくともこの3つの"脱"についてテレビで徹夜の討論会でもやって、自らの人格・識見を天下に晒して貰いたい。▲

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2011年8月25日

高野閑話・塩と海と人(その2)

takanoron.png 海と生命の40億年を思うと、塩分を摂るというのは、単にNaClを摂ればいいということではない。

 そこで、我々の身近にある食塩を見渡すと、まず目につくのは、赤いキャップでお馴染みの(財)塩事業センター(旧日本専売公社)の「食卓塩」である。結論から言うと、こんなものは絶対に買ってはいけない。かと言って、世に氾濫する「自然塩」「天然塩」の類を買えばいいのかというと、それもまた一概には言えない。
★塩事業センター:http://www.shiojigyo.com/

●「食卓塩」は薬品である

 第1に、「食卓塩」の主原料は、塩事業センターのHPが堂々と謳っているように、メキシコ産の「天日塩」であり、どうしてそうなのかと言えば、輸送費を含めてもそのほうが国産より安いからである。日本の塩の自給率は13%で、これが日本の食料自給率の低下に寄与している。と言っても、01年の国内消費864万トンの内、家庭や飲食店で直接食用に供されるのは21万トン=2.5%、業務用が183万トン=21.1%でその約半分の90万トンが食品工業、ソーダ工業用が660万トン=76.4%と圧倒的大部分を占めるので、人の口に入る塩は消費量の十数%にすぎないが。

 ちなみに、ソーダ工業では苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)、ソーダ灰(炭酸ナトリウム)、炭酸水素ナトリウム=重曹などとして多方面に用いられる。苛性ソーダの主な用途は、上水道・下水道や工業廃水の中和剤、洗浄剤、固形石鹸の製造、パン・スナック菓子の表面のつや出しと食感改善のための添加剤、ボーキサイトからアルミナを取り出す触媒、パルプ製造のリグニン溶剤、等々。

 第2に、「天日塩」と表示し、それを「天日(太陽熱と風力)によって海水の水分を蒸発させてつくられた塩のことです」と説明しているのを読むと、何となくナチュラルな感じがするけれども、必ずしもそうではない。天日塩は、言うまでもなく、塩田に海水を導いて水分を蒸発させるのだが(ちなみに日本の伝統的な製塩法では、塩田で濃度を高めた鹹水を作り、それを平釜で煮て結晶化させるので、純然たる天日塩ではない)、その時ににがり成分(主として塩化マグネシウム)の大部分は分離して底土に逃げてしまう。「食卓塩」の場合は、それをメキシコから持ってきて、もう一度水に溶かして砂などの不純物を取り除きつつ濃度の高い鹹水を作り、それを立釜と呼ぶ密閉減圧釜で煮詰めて結晶を取り出し、最後に湿気で固まるのを避けるために炭酸マグネシウムを混合する。出来た塩は、純度99%以上の、ほとんど純粋な塩化ナトリウムに近い代物である。

 日本人は明治時代までは、純度70〜75%の塩を食べていた。上述のように平釜で煮れば当然、にがり成分は分離され、それはそれで豆腐製造の際の凝固剤として利用されるのだが、にがり成分の一部を含めた各種ミネラル分は塩に残るので、普通のやり方ではそれ以上に純度が上がらない。明治38年に塩の専売制度が出来た頃には、「一等塩」から「五等塩」までの等級区分があって、実際に出回る食塩の64%は五等(純度70%以上)、16%は四等(同75%以上)であるのに対し、三等(同80%以上)から一等(同90%以上)は「真塩」と呼ばれて高級品扱いだった。「日本の塩は品質が劣悪で恥ずかしい。何とかして純度の高い塩を」というのが塩専売制度のイデオロギーで、戦後、昭和40年代になってようやくイオン交換膜を用いて高純度の塩を効率よく大量生産できる方式が確立して、明治以来の夢は達成された。

 裏返せば、それ以外の成分は不要なソーダ工業はじめ工業用の需要に応えるために99%以上の「超一等塩」を作り、それを人間にも食わせておこうというのが「食卓塩」だと言ってさしつかえない。

 塩事業センターの名誉のために言っておけば、同センターは国産塩も製造していて「食塩」という銘柄で売っている。しかし、これも純度99%以上。1つだけ例外は「新家庭塩」でこれは袋に「にがりをふくんだしっとりとした用途のひろい塩です」と書いてあるとおり、にがりを含んでいるが、これとても90%以上である。

●「自然塩」の不自然

 2000年代前半には、健康食品ブームに乗って「自然塩」「天然塩」が盛んにもてはやされた。その始まりは、1971年に専売公社がイオン交換膜製法によって大量生産を始めると同時に、国が1000年以上の歴史を持つ伝統的な塩田を全廃させる強硬措置を採ったために、それに反発した中小製塩業者らが「食用塩調査会」(後の日本食用塩研究会)を組織して、試験生産用あるいは自家消費用として認可を受けて細々と塩田による天日塩を製造し、それを専売公社の「化学塩」と対比して「自然塩」「天然塩」などと称していたことにある。この認可を与えるについて、国が「専売の塩の悪口を言わないこと」を条件にしたというエピソードが伝わっているが、ということは、専売公社がそれだけ品質に自信がなかったということである。

 97年に塩の専売制度が廃止され自由化されたことで、これが一気に拡大して自然塩ブームが起きたが、消費者からは、何が自然であり天然であるのか、「ミネラル豊富」とあるがどのように豊富なのか表示がいい加減だとか、輸入塩を加工しているのに国産と称しているものがあるとかの批判が巻き起こり、そのため08年には公正取引委員会や東京都の警告や勧告を受けて、「自然、天然の表示を使用しない」「ミネラルの効用を示す表示はしない」「原料や製造過程の表示を分かりやすくする」などの業界申し合わせが行われた。とはいえ、イオン交換膜方式でない伝統的な製法で作られた食塩が「自然に近いのではないか」というイメージは消費者の間にすっかり定着して、愛好者は増えているし、またその延長上で一時は「にがりを飲むと痩せる」などという出鱈目なテレビ番組のせいで「にがりブーム」まで起きたりもした。

 しかしこれは、塩というものをどう考えるかの基本に関わることであって、単なる表示の問題ではない。旧専売公社=塩事業センターの考え方は、にがり成分だけでなくその他のミネラル類も徹底的に取り除いたものが塩であるというにあり、自然由来ではあるがどう見てもそう呼ぶにはほど遠い、塩化ナトリウムという化学薬品のようなものである。

 それに対して、海水成分からにがり成分を取り除いたものが塩であるという観念に立てば、天日塩や日本の伝統的な塩田プラス平釜方式の塩は、製法が自然的であるのに加えて、他のミネラル類が残っているのはもちろんのこと、にがり成分の一部も取り切れずに残っている場合もあるという意味では海水の自然に近いので、確かに「自然的な塩」である。

 ところがそこで、にがり成分も抜かずに海水成分をそのまま食塩に出来れば、それこそ本当の「自然塩」ではないかと考えた革命児がいる。それが沖縄の「ぬちまーす」の創業者、高安正勝である。[続く]▲

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2011年8月23日

それでも民主党革命は終わらない ── 改正NPO法と寄付税額控除の導入が日本を変える!

 菅内閣の月内退陣が濃厚となり、またしても約1年で首相が交代することになった民主党。しかし、その見るも無様な民主党が、日本の社会を激変させるかもしれない2つの重要な法案を今国会で成立させた。それは、認定NPOの要件を緩和した「NPO法」と寄付金税額控除を導入した「税制改正法案」だ。

 この2つの法案は、鳩山政権時代から「新しい公共」を広く展開するための最重要法案として位置づけられていた。この法案の内容とそれがもたらすインパクトについて、法案成立に尽力した岸本周平民主党衆院議員に聞いた。

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岸本周平氏(民主党衆院議員)

最大約50%の寄付金額が減税される

──今国会で、NPO法と市民公益税制が改正されました。関係者の間では「画期的な法案が成立した」と評価されています。そのポイントはどこにあるのでしょうか

日本全国にある4万3000のNPO団体のうち、寄付控除の対象となる「認定NPO」はこれまで215しかありませんでした。これは認定要件(パブリックサポートテスト)が厳しく、全体の収入のうちの20%以上が寄付金収入である必要があったため、事業収入を中心に運営している団体が対象にならなかったからです。

そこで、改正NPO法では二つの新しいパブリックサポートテストをつくりました。ひとつは3000円以上の寄付を毎年平均で100人以上から集めること、もうひとつは事務所がある自治体の条例で個別に指定できるようにしました。

また、設立されて5年以内の団体は会社でいうとベンチャー企業と同じですので、ベンチャー支援の意味で「仮認定」の制度を設け、3年間は控除対象となるようにしました。これで新設のNPO団体も「来年4月からは寄付金が減税されます」と言って寄付を集めることができます。

さらに、この寄付税制は今年の1月1日からの寄付にさかのぼって適用できるようにしました。東日本大震災で活動したNPOに寄付したお金も、その団体が控除対象となれば、来年の確定申告で税額控除の対象となります。ですので、東日本大震災で活動されたNPO団体は、ぜひ3000円×100人をクリアして、認定を受けていただきたいと思います。

──市民公益税制では、これまで寄付には所得控除しかなかったものに「税額控除」が加わりました

認定NPOの基準を簡素化した上で、さらに寄付額の約50%が「税額控除」として寄付者に還付される仕組みにしました。厳密にいうと、100円の寄付が税額控除の対象となると事務作業が膨大になりますので、寄付総額から2000円を引き、その金額の50%を還付される仕組みにしています。たとえば、10万円を寄付すると[(10万円ー2000円)×0.5]で4万9000円が還付されます。税額控除は、最大で納税額の25%までが対象となります。

ちなみに、他の先進国の寄付税制は所得控除が基本で、税額控除にした制度は世界でも例がなく、今回の法改正で画期的な制度になりました。

市民自らが補助金を配る!

──寄付に税額控除を導入したことで、どのような影響があるのでしょうか

これは何を意味するかというと、10万円をNPOに寄付しても、寄付者は実質5万1000円しか負担しなくてよいということです。つまり、本来は国が分配する税金を、市民がどこに配分するか決めることができるということです。本来であれば、そのお金は税務署に行き、東京のお役人が補助金として配っていたのですが、「補助金の行き先は私たちで決めますから」ということになります。これは政府の仕事が減ることになるので政府の規模が小さくなり、市民が中心となる社会につながります。

また、今回は社会福祉法人、学校法人、公益法人なども税額控除の対象になっていますので、幅広い団体に寄付ができるようになります。この制度がスタートすれば、地方の小さな幼稚園や小さな老人ホームに寄付することで、その団体は補助金を受けることと同じ意味を持ちます。

今回の法改正にはいろんな意味が含まれているのですが、その一つに、NPOが成長すれば、いままで無償で働いていた事務局員に年収300〜400万円程度の給料を支払うことができるようになり、雇用も生まれます。そうすると、公務員に給料を払うよりも効率よく、現場に近い方に給与が支払われることになるわけです。たんに「寄付金を戻します」ということだけではなく、この法律の本質は仕事革命にもあるのです。

──今後、日本のNPOの役割はどう変化するのでしょうか

これまでよりも認定NPOになりやすくなることは確実ですが、一方でNPOのみなさんにもお願いしたいことがあります。というのも、NPOの多くはこれまで「善意でやっているから」ということが前提で、会計報告もあいまいな団体が多かったわけです。しかし、これでは事務局の人に正当な給料が出せず、組織が大きくなりませんでした。ですので、将来的には会計帳簿も単式簿記から複式簿記にすることで透明性を高くし、情報公開も積極的に行って、企業と同じように経営することを明記しました。法律では移行期間を設けていますが、できれば2〜3年以内に実現していただければと思っています。

というのも、NPOとは「Non Profit Organization」の略ですが、日本人は「Non profit」は「利益を出さなくていい」と勘違いしている方が多い。本来は「Non profit」とは「投資家に配当をしない」という意味で、その逆の「For profit」は「配当する」という意味です。株主がお金を出すのはProfitを求めているのだから「For profit」、しかし、NPOへの寄付には「配当や利息は求めません」ということなんです。ですから、アメリカではNon profitであろうとFor profitであろうと普通の会社と同じく効率よく運営するということです。

たとえば、アメリカの大きなNPOのほとんどは株式会社を持っています。NPOが株式会社を持つことで、出版事業など、確実に利益の出る部分については株式会社で行う。もちろん株式会社では利益が出れば配当がもらえ、残ったお金は本体のNPOに寄付するわけです。その株式会社の社長と理事長はだいたい同一人物で、NPOと株式会社が車の両輪で活動しています。日本のNPOにも将来的にはそこまで目指してほしいと思っています。

なぜ、メディアは大事なニュースを伝えないのか

──改正NPO法は超党派で立法したことも特徴ですね

最初のNPO法が12年前にできた時も議員立法でした。今回も12年前の法案成立に尽力された加藤紘一先生が代表で、顧問には鳩山由紀夫前首相、事務局長に中谷元元防衛庁長官、そして公明党の谷合正明参院議員と私が事務局次長でお支えするという形になりました。また、辻元清美衆院議員が幹事長で、辻元さんは12年前の議員立法の立役者でもあります。

今回、私は国会議員としてはじめて法律を書き、改正NPO法は超党派で議員立法ができました。そのほかにも、津波対策推進法や改正障害者基本法も超党派で全会一致で成立しています。ただ、報道では政局のところばかりが取り上げられますので、これらのことはあまり知られていません。メディアの報道の陰でこういった重要な法律がちゃんと成立しているので、メディアには、政局と政策はちゃんとわけて報道していただきたいですね。

──大幅な認定要件の緩和で、悪用を警戒する声もあったのではないでしょうか

仮認定も控除の対象となったことで、心ない団体がこの制度を悪用するのではないかという意見はありました。特に「マネーロンダリングに利用される」という意見は財務省の殺し文句で、そこでみんなが思考停止していました。しかし、これが政権交代によって「100人のうち1人だけ悪い人がいることで、残りの99人を泣かせていいのですか」ということになり、「悪い奴は後で捕まえればいい」とマインドセットが変わったわけです。

アメリカではそこのあたりをもっと徹底していて、悪質なNPOを摘発するNPOがあるんです。ちゃんとしたNPOからすると、悪いNPOがあることは自身の評判が落ちることにつながります。そこで、NPO団体からお金を集め、悪いNPOを情報公開して摘発するんです。つまり自分たちで自律的に襟をただす。私たちは、将来的には日本もここまでやってほしいなと思っています。

ちなみに、今回の議員立法には3年後の見直し規定も入れています。使い勝手が悪かったり、悪用する人がいれば政治家の責任で見直すことにして、「まずはやってみようよ」ということでスタートしました。もちろん、その背景には新しい公共を担う市民運動が強くなってきたということがありますが、最初から100点満点を目指すと法案が厳しくなってしまって立ちすくんでしまいますので、そこを政治主導で責任を持つことで法案が成立できたのです。

民主党としては政権交代をしてもなかなか成果が出ていないのですが、これから10年経ったとき、この法律によって2011年というのは日本にとってエポックメーキングとなる年になるはずです。また、そうしなければならないと私は思っています。

(構成:《THE JOURNAL》編集部 西岡千史)
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高野閑話・塩と海と人(その1)

takanoron.png 猛暑が続き熱中症で亡くなる方もいつになく多い中、「塩入り食品」の売れ行きが伸びているという(8月16日付日経)。塩あめの売り上げが、スーパーいなげやでは前年同期の2.4倍、ヤフー通販では5倍に達した。アサヒ飲料では「三ツ矢サイダー」に天然塩を加えて水分を吸収しやすくした新商品が、発売から1カ月以内で年間目標を突破した。外食チェーンのプロントでは塩にこだわった「冷製豚しゃぶと塩麹トマトソースのスパゲッティ」などのメニューが予想を2割上回る売り上げを記録した。

●塩をもっと摂らないと

 汗をかいたからといって水ばかり飲んでいてもダメで、塩分も一緒に摂らなければならないことは誰でも知っている。汗をかくと、水分と一緒に塩分も体外に出て行ってしまうためで、身体の生命活動に不可欠な役割を果たしている塩分の主成分である塩化ナトリウム(NaCl)が不足して脱水症状、浮腫み、倦怠感、精神不安定などいろいろな不具合が生じることになる。下痢で水分と塩分を一挙に失った場合も同じことが起こる。

 少し詳しく言うと、NaClは体内では、ナトリウムイオン(Na+)と塩素イオン(Cl-)の形で存在している。塩素イオンは、胃酸の主成分となって消化を助ける。胃酸はpHが1の強烈な塩酸で、1日に1〜1.5リットル消費される。それに対してナトリウムイオンは、(1)細胞の浸透圧を一定に保つ、(2)酸とアルカリのバランスを保つ、(3)栄養素の吸収を助ける、(4)神経の電気信号の伝達に関係する----などの複数の重要な働きをする。

 この中で特に重要なのは(1)で、人間の身体には60兆個の細胞があるが、それぞれの細胞の中にはカリウムを中心成分とした細胞内液があり、それが細胞膜を通して、ナトリウムを中心成分とする細胞外液との間で必要な物質をやりとりしているが、この時に内液と外液の浸透圧を一定に保つよう調整するのが外液に含まれるナトリウムである。環境や体調の変化で外液中のナトリウムが少なくなって浸透圧が低くなると、内液との浸透圧のバランスが崩れて、細胞が水膨れ状態になる一方、外液がますます減って脱水状態になる。当然、身体は水分を要求するが、その時に水だけを飲むと、外液の塩分濃度はさらに薄まってバランスが一層悪化する。だから食塩水を飲むのである。日本農業新聞は、熱中症の予防には、農作業の30分前に0.1〜0.2%の食塩水をコップ1杯(200ミリリットル)飲むことを勧めている(7月19日付)。1リットルの水に小さじ5分の1の塩を入れる計算となる。

 病院で使われる点滴液の内、生理食塩水(0.9%食塩水)、リンゲル液(ナトリウムだけでなくカリウムなどの成分を調整したもの)なども同じ理屈だが、この場合は、口から補給が出来ないほどの重体患者に緊急投入するものだから、濃度は高い。リンゲル液は人間の細胞外液と似たナトリウムイオンとカリウムイオンの濃度に調整されている。

 ちなみに、病院通いが癖になっている高齢者の中には点滴マニアがいて、「元気になるような気がするから打ってくれ」とむやみに医者に要求する場合があるらしいが、その時に用いられるのは、リンゲル系などではなく、アミノ酸、糖分、ミネラルを配合した高カロリー輸液にさらに総合ビタミン剤を混ぜたもので、効かない訳ではないだろうが、それで元気になるというほどは効かないという。医者も大して効かないと分かっていても、そこそこの点数になるので「じゃあ打っておきましょうか」と応じるらしいが、医療費の無駄の最たるものなので止めたほうがいい。それだったら、大塚製薬のポカリスエットや、日本ではサントリーが作っているゲータレードを飲むほうがマシだ。これらはリンゲル液を飲みやすく改良したナトリウム、カリウム、マグネシウムなどを含む飲料で、大塚製薬の宣伝文句によれば「水よりもヒトの身体に近い水」である。

●問題は塩分の中身

 という訳で、水分だけでなく塩分を適切に摂ることが大事なのだが、そこで問題は塩分の中身である。塩あめでも塩サイダーでもでも、自分で作った食塩水でも、主としてナトリウムとカリウムは摂ることが出来るし、ポカリであればそれ以外にマグネシウム、塩素、クエン酸塩、乳酸塩などのイオンも配合されている。しかし、塩分の中身をそれだけに絞り込んでしまっていいのか、という問題がある。

 塩分の本質は海水で、地球史上の38億年前にまさにその海水の中で生命が誕生した。そのため、一方では、人間はじめ生体の体液の成分が海水とほぼ同じなのはその生命誕生の歴史の記憶故であるという言い方がよくなされ、他方それに対しては、生体の塩分濃度は0.9%で、海水のそれは3.1〜3.8%であって、人間が海水をガブガブ飲んだら塩分過多で死んでしまうじゃないかという反論もある。たぶんどちらも極端で、まず第1に、海水の塩分の濃度も成分も地球史の変遷と共に変化してきた。第2に、濃度は、海水の絶えざる酸化によって、おおむね次第に高くなっている。第3に、成分は、生命を誕生させた古代海の組成ではカリウムの濃度が高く、現在の生体細胞の内液に近いのではないかと考えられているのに対して、4億年前に生物が陸に上がった頃の海水はナトリウムの比率が高く、現在の細胞外液の組成に近いのではないかと言われている。

 してみると、生体の体液が現在の海水と同じという言い方は確かに不正確だが、他方、体液すなわち細胞外液の塩分濃度が現在の海水の4分の1程度だから全然違うと言うのもまた機械的で、海水も、そこで生まれ育まれた生物も、それぞれに、その時代時代の地球の環境変化をくぐり抜けて変化しながらも、過去の記憶を簡単に捨て去るのでなく、それを重層的に継承し温存しながら現在の姿に至っている訳で、それを塩分濃度が違うというだけで切り捨てることは出来ないこともまた確かである。

 そこで、たぶん海水にとっても生物にとっても重要なのは、ナトリウムとカリウムだけでなく、それ以外の海水成分を含めたの組成であって、そう言い切る根拠もなしに言うのだが、その多様なミネラル類の含有の多様性とその得も言われぬ微妙なバランこそが実は生命の鍵なのではないだろうか。生命エネルギーの根源は水素と酸素の反応である。それを可能にしたのは、海底火山の噴火や構造プレートの擦れ合いで生じる熱水噴射孔の近辺に生じた(ダーウィンのいわゆる)「原子スープ」で、たぶん自然の悪戯から生まれたそのレシピはいまもって解明されていないが、少なくとも、その熱水孔から海中に吐き出されるマントルには様々な鉱物由来の細胞から成る酵素が含まれていて、それが触媒の役割を果たすことなしにはその反応が始まることはなかったと言われている(ニック・レーン『生命の跳躍』、みすす書房)。

 その意味では、単に塩分の濃度ではなく、またナトリウムとカリウムの濃淡だけでもなく、それ以外の多様なミネラル類を含めた全体的なバランスが生みだす得も言われぬ微妙な作用があって、それは科学的にはほとんど未解明であるけれども、海水と生体体液とと数十億年に及ぶ"対話"の原動力となっているのではないだろうか。[続く]▲

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2011年8月19日

少し見えてきた福島原発事故の真相 ── 田辺文也と早川由紀夫の研究成果で

takanoron.png 福島第一原発の事故から5カ月、本当のところ何が起きていたのかを示唆するデータが、政府・東電からではなく、民間研究者の地道な努力によって少しずつ出て来ている。1つは、旧日本原子力研究所の元研究主幹=田辺文也が9月の日本原子力学会で発表を予定している「3月21日の3号機の水素爆発は炉心の大部分が"再溶融"しその大半が圧力容器を突き抜けて(メルトスルー)格納容器に落下したことを示す」という説。もう1つは、群馬大学教育学部の火山学者=早川由紀夫が独自にマッピングした「放射能汚染地図」である。

●3号機は21日に再溶融

 1号機では、3月12日、電源車による電源確保作業がもたついている間に、10:04、核燃料が水面から50センチ露出していることが確認され、注水を続けるも15:28には水面から170センチまで露出、その直後の15:36に水素爆発が発生した。3号機では、13日02:44に高圧注入系が停止し、04:15には核燃料の頭頂まで水位が下がっていることが判明、その日午後には「12日に1号機で発生した事象と同じことが起こる可能性が否定できない」との判断が立てられ、海水注入が強化されたものの、14日11:01に大規模な水素爆発が発生し、炉心が溶融して圧力容器の底に落ちた(メルトダウン)と考えられている。

 東電の公表データによると、その後20日までの3号機への1日当たりの注水量は300トンを維持しており、溶融した核燃料は圧力容器の底で冷えて固まりかけていたと考えられる。ところが、21日から圧力容器内の圧力が急に高まって水が入りにくくなり、そのため注水量は21〜23日は24トン、24日は69トンと激減した。その間、21日15:55に3号機から「やや灰色がかった煙」が発生、23日16:20には「黒煙」が噴出して23:30頃まで止まらなかった。この事態について、政府・東電は、「炉の状態は詳しくわからないが、溶けた燃料の大部分は圧力容器の底に止まっているが、燃料の一部は格納容器に落ちてゴムや潤滑油などへ引火して黒鉛を出した」と説明していた。

 ところが、8月8日付朝日新聞が大きく報じた田辺の分析によれば、

▼21日以降の注水量は炉内の燃料の発熱を防ぐに必要な量の11〜32%しかなく、1日もあれば再び高温に達して溶け始める計算になる。

▼実際、21日01:00〜03:00頃に圧力容器の圧力が約110気圧まで急上昇しており、冷却不足のため何らかの爆発的な現象が起きたらしい。圧力容器内で固まっていた核燃料の塊が割れて内部から流れ出た溶岩状の高温物質が水に触れて大量の水蒸気を発生させた可能性がある。これが再溶融の始まりだろう。

▼これによって大量の放射性物質が放出され、また核燃料の大半は圧力容器の底を破って格納容器に落ちた(メルトスルー)と推測される。

▼黒煙は、溶けた燃料が格納容器のコンクリートと触れて起きる「コア・コンクリート反応」の可能性があり、これは炉心溶融後も冷却不足が続いた場合の典型的なシナリオである。

 ──とされる。田辺は旧原研時代に米スリーマイル島の原発事故の解析を手掛けたその道のプロで、この説明には、一連の事態を首尾一貫した流れとして理解させるだけの説得力があるし、また早くからメルトスルーが起きていることを指摘していた京都大学の小出裕章助教の考え方ともおおむね一致する。なお田辺は、海保博之との共著で『ヒューマンエラー/誤りからみる人と社会の深層』を出版している。

★朝日の報道:http://www.asahi.com/national/update/0807/TKY201108070330.html

●放射性物質の広がり

 さて、群馬大学の早川は火山学を中心とした防災科学の研究者で、とりわけ火山爆発の際の火山灰の分布の分析に関心を抱いていて、その手法を応用して各地の放射能測定結果を地図上にプロットした地図を作成した。最初は4月21日に、初歩的なマップを早川由紀夫研究室HP内の「早川由紀夫の火山ブログ」に掲載、それを「@nnistarさん」がフォローして7000地点の計測データを収集してプロットし、それをまた早川が等高線を引き直すなど修正を加えて改訂版を出し、いくつかの雑誌でも紹介された。その後さらにプロットを重ねて7月26日に最新の「三訂版」が公開されている。その三訂版を元に作成した地図は8月18日付読売新聞にも載っている。

★早川由紀夫の火山ブログ:http://kipuka.blog70.fc2.com/[7月26日付の三訂版と、同13日付の改訂版にルートと時間を描き加えたものを参照することをお勧めする]

★nnistarのnni's blog:http://www.nnistar.com/gmap/fukushima.html

★読売の報道:http://www.yomiuri.co.jp/feature/20110316-866921/news/20110818-OYT1T00169.htm[但し電子版に地図は付いていない]

 早川によると、噴火によって火山から吐き出される火山灰は上空数キロから十数キロを吹く高空の風で移動するが、福島原発から漏れた放射性物質は高さ数十メートルの風に乗って地表をなめるように移動した。盆地や山肌など地形の起伏を感じ取って分布しているのはそのためである。汚染ルートは少なくとも3方向にが伸びていて、それぞれ日時が違う。

(1)一関ルート──3月12日15:36の1号機の爆発の後、同日20:00頃に南相馬、13日01:50頃に女川原発を通って岩手県南端の一関あたりにホットスポットを生んだ。

(2)飯舘ルート──3月14日11:01の3号機の水素爆発の後、翌15日18:00頃に飯舘村を直撃し、19:00頃に福島、20:30頃に郡山を通って那須、日光あたりに達した。

(3)東京ルート──同じく3号機の水素爆発の後、15日04:00頃にいわき、08:30頃に水戸、09:30頃に東京=新宿、12:00頃に茅ヶ崎に達して相模湾に抜けたが、一部は首都圏に滞留し16:00頃には市原近辺に達してまた三郷、流山方面へ戻って行った。

(3')群馬サブルート──水戸近辺で東に枝分かれし笠間、館林、高崎、軽井沢(15日16:00頃)、沼田に達してホットスポットを作った。

(4)柏ルート──3月21日の黒煙=再溶融開始に前後して、同日06:00頃に水戸沖、09:00頃に柏、さらに流山、三郷から東京、川崎沖に達した。21日から23日には、関東地方で強い雨が断続的に降り、北から来た放射能雲と南から来た湿った空気とがぶつかって、その放射能の濃度と雨の強さによって東葛地方や霞ヶ浦のホットスポットが形成された。

 こうして見ると、広く東北から関東に重大な放射能被害をもたらしているのは、主として3号機の水素爆発と再溶融であり、同機がプルサーマル焚きであったことが余計に事態を深刻化させたことが伺える。しかもその広がり方は、福島第一原発を中心に機械的に描かれた10キロ、20キロ圏などの同心円とは全く無関係な形を示していて、民間個人の努力でも出来るこのような分析がなぜ政府・東電によってこれまで行われてこなかったのか訝しい思いが募る。

 早川の地図を紹介した18日付読売は、「政府や東電、福島県などで構成するモニタリング調整会議は、東北から中部地方までを測定した広域の放射線量地図を作ることを決めた」とシャラリと書いていて、なぜ今までやらなかったのかを追及していないし、しかもそのこととどういう関わりがあるのか示さないまま突然に早川の地図を紹介していて、何だかすっとぼけた記事である。▲

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2011年8月15日

農文協の主張:新自由主義的復興論を批判する ── 復興に名を借りた漁業権・農地所有権の自由化を許すな

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『現代農業』2011年9月号

 下記の論説は、農文協が発行する『現代農業』2011年9月号に掲載されたものを許可を得て転載したものです。著作権は農文協にありますが、下記リンクに書かれているとおり、本論説はコピーフリーとなっています。震災から5ヶ月が経過した東北で、いま何がおきようとしているのでしょうか。安易に叫ばれる「復興」という言葉に一石を投じます。
http://www.ruralnet.or.jp/syutyo/index.html

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新自由主義的復興論を批判する ── 復興に名を借りた漁業権・農地所有権の自由化を許すな
http://www.ruralnet.or.jp/syutyo/2011/201109.htm

■規制緩和路線に沿った宮城県の復興計画

 東日本大震災から、はや5カ月が経とうとしている。

 被災地の方々が復興に向けて必死に歩み出しているなかで、気になることがある。

 復興を好機とみて、漁業や農業の規制緩和を進めようという動きがあからさまになってきたことである。

 その典型が、村井嘉浩宮城県知事がすすめようとしている水産業の規制緩和=「民間参入を柱にした水産復興特区構想」だ。「宮城県震災復興基本方針(素案)」は、被災地を単なる「復旧」にとどまらず、県の農林水産業・商工業・製造業の在り方を抜本的に「再構築」するとし、水産業については「水産業集積拠点の再構築、漁港の集約再編及び強い経営体づくりを目指」すとしている。この基本方針を引っさげて、政府の復興構想会議に乗り込んだ村井知事は「漁業の株式会社化を大がかりにやったらどうだろうか」と提案し、沿岸漁業への民間参入や資本導入を図る「水産業復興特区」をぶち上げた。具体的には「県内に約140カ所ある漁港を3分の1から5分の1程度に集約する」「地元漁協に優先的に与えられる漁業権の枠組みを緩和し、国の資金で水産関連施設や漁船の整備を行い、その後漁業権を漁業者や民間企業の資本を活用した会社などに移す」(「日経」5月11日付)というものである。

 こうした村井知事の構想は、宮城県漁協をはじめとした漁業関係者から被災地漁民の意向を無視したものだと激しい反発を招いたが、知事はこうした意見を一顧だにしない。

「宮城県震災復興基本方針」は野村総研の全面支援を受けて作成したものであり、県震災復興会議にも野村総研顧問や三菱総研理事長が名を連ねている。財界系シンクタンクの意見を丸呑みすることは、日本経団連や経済同友会の復興への提言(後述)と足並みをそろえることである。

■集約化とは「あきらめる」人をつくること

 財界やその代弁者である政治家・学者は、何かというと第一次産業の大規模化・集約化、民間活力の導入を口にする。大規模化・集約化というと聞こえはいいが、漁業や農業を続けることを多くの人があきらめないかぎり、大規模化・集約化はすすまない。漁港を3分の1なり5分の1にしたら、多くの漁民は漁業を捨てなければならないのだ。これは復興といえるのだろうか。そうではなくて、漁業や農業をあきらめる人を一人でも減らすことが、第一次産業の復興のかなめなのではなかろうか。

『季刊地域』6号「特集 東北はあきらめない!」に登場した岩手県宮古市の重茂漁協は「漁師を一人も地域の外に出さない」を目指して復興を進めている。重茂地区には12の漁港があり、天然と養殖のワカメとコンブ、磯漁のウニ、定置網のサケなど豊かな漁業資源に恵まれている。重茂の人々は魚付林として広葉樹とアカマツの混交林を守ることでこの資源を維持してきた。

 東日本大震災による大津波で組合員が所有していた約800隻の船はほとんど流されたなかで、重茂漁協では無事だった船、直せば使える船はすべて漁協が借り受け、漁協が所有する新しく造った船とともにすべてそれを一定期間組合員に貸し付けて共同で使い、仕事も分配、収益も分配する仕組みをすすめている。新造船にかかる費用は協業船では船の購入費は国と県、漁協が3分の1ずつ負担する。

 6月には、津波にもかかわらず例年どおり成長した天然ワカメから漁を再開。漁には組合員のいる約400世帯中約150世帯が参加。漁船数が不足しているために、小型漁船一隻に数世帯の漁師が相乗りし、ワカメを収穫した。今回のような大被害のもとでは、それぞれの漁民が養殖設備や船を再建、購入するのは二重ローンに陥ることになる。漁協を中心にした協業化は必然だが、それは宮城県の構想のように小さな港をつぶすとか、漁業権を企業に明け渡して、漁民をサラリーマンにするとかいうことではない。

■経団連の火事場泥棒的「復興・創生」プラン

 農業についても財界は大規模化、規制緩和路線を押し出しており、漁業で漁業権をターゲットにしたように、農業では農地の所有権がターゲットにされようとしている。

 先に触れた日本経団連の「復興・創生マスタープラン」は、その書き出しを「復興の青写真を描くのは、基本的にはそれぞれの地域の住民自身である」としながら、すぐ続けて、「しかしながら、復興は単に元通りの姿に戻すことにとどまるべきではな」く、「我が国にとってモデルとなる力強い農林水産業を戦略的に創生していくことが肝要」として、「(その)視点から復興すべき地域・拠点の認定」をし、「農林水産業の事業資産の権利調整」ならびに「事業主体の体制整備」を行ない、もって農地を集積し「大規模・先進的経営を実践する」と述べている。

 要するに「力強い農業」をつくるために「復興すべき地域・拠点」とそうでない地域を分け、小さな農漁家には「事業資産の権利調整」の名のもと利用権や所有権の放棄を迫り、その受け皿として「体制整備」された「事業主体」即ち企業の参入を促す、というものにほかならない。

 被災地住民、農漁家が一刻も早い暮らしと生産の再建に苦闘しているときに、これからは企業が入って大きな農業や漁業にするのだからそこのけそこのけ、と言っているわけである。復興の主体は「それぞれの地域の住民自身である」という書き出しは、取って付けた飾り言葉にすぎないことはあきらかだ。

 被災地を「復興すべき地域・拠点」とそうでない地域に分ける発想がそもそも驚きだが、震災のどさくさに「権利調整」=利用権・所有権の召し上げを敢行し「先進的経営」をつくるとはいかなる了見か。火事場泥棒とはこういうことを言うのではないだろうか。しかも、震災があって始めてできる「モデルとなる力強い農林水産業」とは、まるで再び三度の大災害を待望しているかの言い方で、その思想、精神は政策論以前の、人の道にもとるものと断ぜざるを得ない。甚大な被災を契機にした「モデル」なるものは、断じて全国に広げられるモデルたり得ないし、「地域の住民自身」を「基本」にした「創生プラン」ではない。

 経団連「プラン」はその「おわりに」を「『TPPへの参加』を、震災によって後退させることなく推進する」と締めくくっているが、その一体的狙いに厳重な警戒が必要だ。

■お門違いの高齢者農業・農地法犯人説

 財界や菅直人首相が大規模化や強い農業を叫ぶとき決まって持ち出すのが平均年齢65.8歳という日本農業高齢化の実態だ。そして、だからあと10年で農業は成り立たなくなる、だから新しい血、たくましい企業に門戸を開かなければならない、それを妨げている農地法の更なる改正=一般法人への農地所有権解禁が必要だ、それをしないから耕作放棄地がどんどん増える・・・とくり返す。思いつき総理の名にふさわしい、どんどん飛躍する「論理」である。

 第一に高齢化のために農業は成り立たなくなる、という想定は誤りである。そもそも米農家に後継者がいない訳ではない。だが"米では飯を食っていけない"から兼業に出て、定年になったら年老いた親とバトンタッチして米作りに励む。順繰りの世代交代なのだ。「このようにして、高齢農家が次々と新しく生まれてくる。高齢化の構造とは、このようなものである。今後、高齢化が進み、その結果、農業者が激減する、という想定は、こうした実態を見ようとしない者、あるいは、見ることのできない者が犯しやすい誤りである」(森島賢「TPPと日本農業は両立しない」農文協ブックレット1『TPP反対の大義』2010年)。

 農地法が一般法人への農地所有権を閉ざしているから企業が参入できず耕作放棄地も増えるというのも事の本質をはきちがえた俗論だ。本当に農業をする気なら「別に農地を所有しなくても借地で十分であり、借地なら農業生産法人方式でもいいし、農業法人の要件クリアが煩わしい、あるいは経営支配を確保したいというのなら、現在では株式会社がストレートに借りることもできるようになった」(田代洋一「日本農業のネックは農地法なのか?」農文協ブックレット2『TPPと日本の論点』2011年)。にもかかわらず所有権に拘るのは農業以外の何か別の目的があるのではと疑われても仕方がないと言わざるを得ない。

 耕作放棄地についても、そもそも農外企業が耕作放棄地に進出しないのは採算の見通しが立たないからであって、農地法が関所になっているからではない。

 東京大学准教授の安藤光義氏は、全国農業会議所や農水省の各種調査を踏まえ、耕作放棄地が増える原因は直接には高齢化・労働力不足だが、その背景に米価の下落を始めとする「経営環境の悪化」があり、それが「農地需要の縮小となり、耕作放棄地の増加をもたらしている」と指摘している(安藤光義「農地保有の変容と耕作放棄地・不在地主問題」シリーズ地域の再生第9巻『地域農業の再生と農地制度』2011年、農文協)。

 その上で安藤氏は長野県上田市の「農地なんでも相談会」や福島県相馬市の、子どもを含む市民を巻き込んだ耕作放棄地削減の取り組みを紹介している。そして、「担い手が不在の地域こそ耕作放棄は深刻な問題なのである。そうした地域では構造再編と耕作放棄地解消を結びつけるのではなく、地域活性化を前面に据えた取り組みのほうが有効ではないだろうか」と結んでいる(安藤、同上論文)。

 また右シリーズの続巻である『里山・遊休農地をとらえなおす』(仮題)では日本の里山・草地が生物多様性を維持してきた過程を長い歴史にそってつぶさに振り返りながら、地元農家だけでなく市民と共にそれを維持・再生していく「新しい入会制」=総有を提唱している。農地制度を見直す必要があるとすれば、そんな脈絡でのことだろう。

 以上、日本農業の構造問題の一端だが、このように農業や農村の現実は政府や財界が権利調整したり農地法を更に改正すればすむという単純なものではない。そして、単純ではない現実を熟知しているのは、他ならぬ農家農村だ。

■日本的、農家的構造変革の息吹

 いま日本の農村は、財界などの言い分とは全く異なる次元から、地域の実情に応じた、いわば「下からの構造変革」を進めつつある。それは地域の中に「あきらめる人」を生み出すのではなく、それぞれの家族構成や年齢、労働力条件に応じ、みんなが持ち味、持ち分を生かした"むらの共同""むらの知恵"としての「構造変革」だ。

 上掲『農地制度』の本の中で大妻女子大学教授の田代洋一氏は、こんにちの農村には農業経営に限らない「多様な担い手」がいて、それが互いに依存し共同しあってむらと経営を守っていると指摘し、次のように述べている。

「グローバル化した時代には『担い手』は『地域農業の担い手』だけにとどまらない。・・・このように農村の社会的課題が噴出した」時代にあっては、その課題を担う担い手は、「A:『農業経営の担い手』、B:農業経営まるまるは無理だが土日・朝晩なら農機に乗れる『農作業の担い手』、C:農機は危なくなったが水管理・畦草刈りならお手のものという『地域資源管理の担い手』、D:『直売所、地産地消や食育等の担い手』、E:生まれ在所に生き死んでいこうとする者が居てこそ『むら』が守られるという『むら社会の担い手』など、農村社会は住民がそれぞれの『もち味』を活かした『担い手』になることによって初めて定住可能になった。『多様な担い手』論の登場である」。

 田代氏のこの論文は上掲書のなかで「土地利用型農業の担い手像」つまりは規模拡大経営について担当し書いたものだが、このテーマに即してもAの「農業経営の担い手」だけでは自己完結せず、B以下すべての「担い手」との連携・共同があって初めて成り立つものであることを明らかにしている。

 それは、(法人成りを含む)大規模家族経営にあっては農地の集積はひたすら「待ち」の姿勢であり、黙々と借地をていねいに耕し、あの家なら末永く貸すことができるという信頼感を醸成し、貸し手の農家が年齢や家の事情で行き詰まって農地の買い取りを頼まれれば言い値で買い取る。規模拡大しながら同時に地域農家との共存を願う。農地を丸投げされても手間のかかる地域資源管理はできないからだ。自分の経営を守るためにも地域の農家と共存し、むらを守らねばならない。個人の経営であって単に個人のものではない。日本の農業は「むら農業」なのである。そしてこのような規模拡大は政府、財界がよくするように、あらかじめ何ヘクタールと目標設定されるものではない。A~Eの多様な担い手の、そのまたむらごとに異なる多様なあり方の関数なのである。

 集落営農も同様だ。経理を一元化しただけのプレ集落営農から転作作物の受託のみのもの、水・畦畔管理は地権者に再委託するもの、法人経営体として確立したもの、標高差による作業適期のズレを機械の共同利用でこなす中山間地域の集落営農連合など、その形は集落の数ほどある。それは発展段階ではなく、むらあるいは旧村単位などの「多様な担い手」のありかたを反映した類型差なのである。

 こうして「2010年農林業センサスでは5ha以上経営体の農地面積シェアは初めて5割を超えた(00年37%→05年43%→10年51%)。この中には増え続けている集落営農も含まれており、個別経営の規模拡大ばかりではない。いよいよ日本農業はアメリカ型、ヨーロッパ型とは異なる、集落営農という他国に類のない営農主体を含む多様な担い手によるユニークな構造変化に向けて動き出した」。それは「高齢化や過疎化の中で、それに抗するようにして」出てきた「危機と併進する構造変化」であり「新たな挑戦」である(小田切徳美「TPP問題と農業・農山村」前掲『TPP反対の大義』所収)。

 かくして明確なことは日本的、むら的構造変革が「多様な担い手」すべての共同ですすめられていることであり、「特定者に農地集積を誘導・強制する構造政策は、農村を知らない財界や一部政府要人の短絡的思考の産物であり、なんら成果をあげていない」(田代前掲論文)ことを悟るべきだ、ということなのである。

■農地をむらから切り離してはならない

 このような日本的、むら的農業構造変革の根底には、農地を守ることとむらを守ることを一体的に把握するものの考え方が歴史的に形成されてきたことがあることを忘れてはならない。

 同じく『地域農業の再生と農地制度』の著者の一人である早稲田大学教授の楜澤能生氏は、「農地を商品一般に解消してしまうと、農地を農地として維持することができない、というのが少なくとも小農制を歴史として持つ社会の」共通認識であり、だから、「農地を...他の商品とはこれを区別し、一般法とは別途その取引を規制する農地法制」が必要で現に実施してきたのだが、それとは別の次元で「農地を農地として維持するのに不可欠の要素としてむらの維持を念頭に置くという発想、農地をむらと一体的なものとして捉え、この観点から農地制度を構想するという着想は、従来必ずしも意識的には追求されてこなかったように思われる」と自らの課題を設定し、主として大正、昭和、今日に至る「むらと農地」の関係を総ざらいした。

 国レベルの立法過程はもとより、全国各地の村や産業組合や各種土地組合などの動向を調べ上げたその結論は、「むらの農地はむらびとの手に、というむらの規範が、農地法制の必要を引き出してきた」ということだった。

「村内耕地ノ村外ニ流出スルヲ防止シ併セテ自作農創定を為サムコトヲ決議」(傍点楜澤氏)した秋田県幡野村を始め多くの実例を挙げ、自作農創設がじつはむらの農地をむらに留め置く施策の一環として位置づけられていたこと、なぜならそれは、むらの土地がむらから流出(所有権が移動)すると、むらの共同性が崩れると観念されていたからであることを、豊富な史料で明らかにしている。

 かくして農地管理は、「農地の権利移動のみを意味するのではなく、地域にとって望ましい農地利用一般の実現を課題とする。農地の作付協定、農作業の効率化、合理化のための利用調整等、多様な内容を地域の状況に応じて、地域の自律的な取組みを前提として実現する」ものであり、「農地流動化の加速、流動化率の向上といった、国が設定した目標達成にのみ還元されるものではない」のである。

「むらと農地」を切り離そうとするTPP推進派の新自由主義的復興論を許さず、地域からの「自律的な取組み」を強めることこそ、復興の基本である。

(農文協論説委員会)

2011年8月14日

"脱原発"阻止へ日米旧体制が必死の反撃 ── 東京・毎日・朝日vs読売・日経・産経の構図

takanoron.png 新聞戦線で言うと、東京新聞はいち早く"脱原発"路線を打ち出して(当初はおっかなびっくりだったが、それを評価して新規購読する人が急増したとか)、毎日と朝日がそれに追随したのに対して、正力松太郎以来、社是として原発推進の急先鋒を走ってきた読売新聞、経団連の機関紙のようなものである日本経済新聞、保守イデオロギーに凝り固まった産経は、菅直人首相の"脱原発"路線を1日も早く葬ろうと、必死のアンチ脱原発のキャンペーンを繰り広げている。

 朝日も毎日も、原発に関しては恥ずべき歴史を持っていて、1974年に田中角栄が電源開発3法を作って原発交付金が「これでもか」とばかり立地自治体に流れ込むような制度が出来たのとほぼ同時に、電事連に原子力広報専門委員会が発足して、その実務責任者であった鈴木健=電事連広報部長が個人的に親しかった朝日の江幡清=論説主幹に相談を持ちかけて、月1回、10段の原発PRを載せ始めた。それを見て奮起したのは読売で、「原発は故・正力松太郎=社長が導入したものだ」とネジ込んで、朝日と同等の広告が入るようになった。焦った毎日は、紙面では反原発キャンペーンを展開しているというのに、広告局が電事連に原発PR広告を出稿してくれるようお願いに行って、鈴木から「御社ではいま原発反対のキャンペーンを張っている。反対が天下のためになると思うなら反対に徹すればいいではないですか。広告なんてケチなことはどうでもいいではないですか」と恫喝されてたちまち屈して、キャンペーンを止めた。読売から1年遅れで毎日にも原発PR広告が載るようになった(『別冊宝島/誰も書けなかった日本のタブー』の特集「金と権力で隠される東電の闇」)。以前にも紹介したが、上記『別冊宝島』によると、

▼東京電力の年間の広告宣伝費は243億5700万円、販売促進費は238億9200万円(日経広告研究所『有力企業の広告宣伝費2010年版』)、それとは別に使途非公開の普及開発費が200億円近くあってその多くがメディアに流れている。

▼東電はじめ地域電力10社と電源開発を合わせた電力会社11社では、広告宣伝費884億5400万円、販売促進費623億0700万円に上る。

▼電力会社以外にも、電事連、原子力産業協会、原子力文化振興財団はじめ多数の外郭=天下り法人、経済産業省=資源エネルギー庁、文部科学省にもそれぞれ原発関連の広報予算があって、「これらをすべて合計すれば、原子力・電力業界がメディアに流している金は、年間2000億円に迫る」。

 原発推進企業がこれほどまでに手厚く新聞はじめマスメディアを囲い込んで来たにもかかわらず、東京、毎日、朝日は「原発PR広報はもう頂かなくても結構です」と重大決心をして踏み切って、戦線を分裂させた訳で、そうなると、脱原発の立場からすると、産経なんぞはどうでもいいとして、読売と日経の「原発を止めたら日本は立ち行かない」かの恫喝的キャンペーンをどう粉砕するかが標的となる。

●経団連が原発を死守したい訳

 経団連の米倉弘昌会長は親原発の急先鋒で、フクシマ直後の3月16日に「原発が1000年に一度の津波に耐えているのはすばらしい。原子力行政はもっと胸を張るべきだ」とアホなことを言って以来、翼賛発言を繰り返していて、7月30日付読売でも解説面の半分を使ったインタビュー記事で「展望なき脱原発は衰退招く」と国民を脅しつけている。どうして彼がそれほどまでに感情的になるのか。

 第1に、米倉の出身企業は住友化学で、『東電・原発おっかけマップ』(鹿砦社)の「米倉弘昌」の項(P.186)によると、

▼住友化学はGEともに放射性医薬品を扱う会社、日本メジフィジックスの親会社だ。日本メジフィジックスは10年にセシウムの体内除去剤「ラディオガルダーゼ」をドイツから輸入する許可を受け、フクシマ後に緊急輸入、福島県などで配っている。同社には厚生省からプルトニウム除去材の開発の依頼もきているそうだ。

▼過激なまでの原発推進、東電擁護の発言ばかり聞いていると、米倉が被曝ビジネスのタネだから、原発の旗ふりをしているんじゃないかなんて気にもなってしまう。

 第2に、住化に限らず経団連の主要企業の多くは東電はじめ原子力業界のお得意先である。『赤旗・日曜版』8月7日付の見開き特集「原発マネー群がる面々」によると、原子力産業協会の調査で09年度の電力11社の原発関連支出は2兆1353億円で、そのうち約2000億円はマスコミ対策だが、こんなのはかわいい方で、

▼原子炉メーカー(三菱重工、日立、東芝など)=6300億円
▼商社(三菱商事、丸紅など)=3512億円
▼鉄鋼など(新日鉄など)=3200億円
▼建設業(鹿島、大成、清水、大林など)=3080億円
▼化学など(住友化学など)=5億4500万円

 などの原発マネーがメーカーに流入する。また金融で言えば、三菱東京、三井住友、第一生命などが09年度だけで5兆5000億円もの融資を電力各社に注いでいる。

 第3に、そのような実態を反映して、経団連トップを構成するのはこれらの重厚長大型メーカーや大手金融機関の連中である。「東京電力は歴代、経団連会長、副会長を送り出してきた企業。新日鉄も会長、副会長を出した。原子炉を独占する三菱重工、日立、東芝は、経団連副会長。三菱東京、第一生命も副会長。会長の米倉氏が会長である住友化学も核燃料の再処理にかかわっている」(赤旗・日曜版)

 第4に、上記『東電・原発おっかけマップ』によると、経団連の地方組織ともいえる各地の経済連合会で、電力会社が占める役割は生半可ではない。11年6月現在で、各地方の経済連合会の現職会長は全員!電力会社トップで占められている。

北海道:近藤龍夫(北海道電力会長)
東 北:高橋宏明(東北電力会長)
中 部:川口文夫(中部電力相談役)
北 陸:新木富士雄(北陸電力会長)
関 西:森 詳介(関西電力会長)
四 国:常盤百樹(四国電力社長)
九 州:松尾新吾(九州電力会長)

 地域独占であるというだけでなく、「総括原価方式」によって予め利益が確保されている各電力会社が、地方の最優良企業であるのは当たり前で、それが偉そうな顔をして地方経済界を仕切っているのが、この国の発展途上国丸だしの実状である。

●米国も"脱原発"潰しに参入

 さて、8月5日付日経「経済教室」欄には、米戦略国際問題研究所のジョン・ハムレ所長が「日本が原子力を放棄するのは、むしろ弊害が大きい」という趣旨の論文を寄せていて、米国サイドからも日本の"脱原発"を阻止しようとする情報工作が活発化している。その論理は珍妙なもので、

▼たとえ日本が打ち切っても、中国はじめ世界の多くの国は原発を推進するだろう。これまで世界の原発を監督しその核兵器製造への転用を防止する役割はIAEA(国際原子力機関)が担い、そのIAEAで主導的な役割を果たしてきたのは日本と米国である。

▼もし日本が原発を断念したら、再び推進に転じた米国の原子力政策も打ち切られる可能性がある。

▼日米両国が原発から撤退し、両国の安全思想にくみしない国々が原子力システムの運営責任を担う事態となれば、日本も米国も今よりはるかに安全でなくなるだろう......。

 何を言っているんだ。米国仕込みの「安全思想」がフクシマで破綻したのだ。米国人が、こんなものを安全と偽って日本はじめ世界に普及して大儲けしてきたのは私共であり、大変申し訳ないと謝るなら話は分かるが、分家のお前が慌てて原発を止めたりしたら本家のこちらにも累が及ぶんだぞと脅しをかけるとは何事か。ましてや、中国など途上国が原発を推進することを止められないという前提に立って、だから米日がIAEAのヘゲモニーを握り続けるために原発を続けろというのは、完全に倒錯で、「安全思想」の破綻に責任をとって米日が率先して原発を止め、世界を脱原発に導くよう共同のイニシアティブを発揮すべきではないのか。

 原発推進派の狭いサークルのことを「原子力村」と言うが、その陰の村長は米国であり、そのことを暴き出さない限りフクシマ後の道筋は見えてこない。が、今のところそこに焦点を当てて報道を続けているのは『赤旗』くらいのものである。同紙の連載「続・原発の源流と日米関係」第4回は福島原発事故への対処も米国に直結していたと指摘、事故対応のため米国から派遣された関係者のリストを掲げている。

・米エネルギー省(3月15日までに) 34人
・米原子力規制委員会(同16までに) 11人
・米パシフィック・ノースウェスト国立研究所(同30日に) 2人
・米保険福祉省(同13日に) 1人
・米海兵隊放射能等対応専門部隊(4月2日〜5月4日) 約150人
・米海軍艦艇システム司令部原子力技術部長 1人
・米原発運転協会技術者 ?人
・米ゼネラル・エレクトリック社から技術者など ?人
・米原子力規制委員会ヤツコ委員長(3月22日以降の日米協議に出席)
・米太平洋艦隊ウォルシュ司令官(同上)

 彼らは別に日本人を心配して来てくれた訳ではない。日米に跨がる原発共同体の利益を防衛するために血相を変えて駆けつけたのであり、彼らにとっても"脱原発"を口にする菅直人首相は早々に退陣させなければならなかったのである。▲

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2011年8月 9日

河合弘之×高野孟:浜岡原発を廃止せよ!

 毎月、多彩なゲストを交えて世界や日本について語る『高野孟のラジオ万華鏡』。今月は弁護士の河合弘之さんをお迎えし、浜岡原発の問題について語ります。

 河合さんはさくら共同法律事務所所長、中国残留孤児の国籍取得を支援する会会長、さらには浜岡原発差止訴訟弁護団長をつとめていて、最近の著書に「浜岡原発差止訴訟弁護団長・脱原発」があります。

 浜岡原発差し止め訴訟の仕掛け人とも言われる河合さんが考える「浜岡原発の本当の危険性」とは。

■ダウンロード(mp3)
http://podcast.jfn.co.jp/poddata/owj/tue_02/owj_20110719.mp3

2011年8月 2日

菅野芳秀:誰が彼らを守るのか

「誰にも責められてはいないが、みんなに責められている気持ちだ。」

 白鷹町の友人の牛が放射線に汚染されたワラを食い、出荷した4頭の牛の肉から1kgあたり55~290ベクレルのセシウムが発見された。彼は50頭ほど飼っている米沢牛の畜産農家で、上はその彼の言葉だ。

 4月、彼は被災地の宮城県石巻近郊にボランテイアの炊き出しに行った際、以前取引のあった近くのワラ業者に電話をし、何か力になれることはないかと尋ねたところ、「俺もワラ屋だからね」と応えたという。分かってくれということだ。

 自分の田んぼの稲ワラを与え、牛の堆肥をその田んぼにかえす。彼はかねてよりこのような牛と田んぼの小さな循環を大切にしていた。儲かるからといってやたらに牛の頭数を増やそうとせず、自分の管理している田んぼの面積に応じて飼う。これが彼のやり方だった。今年もワラは充分だったが、震災の渦中にいる業者の言をうけ、一台ぐらいならばと引き受けた。まさか宮城県北部の大崎平野の田んぼのワラまで放射能で汚染されていたとは考えられなかった。

 ところで私はワラは秋に田んぼから厩舎に取り込むものと思っていたので、春になぜ汚染したのかが分からなかったが、雪国以外のところでは田んぼに散在していた稲ワラを春に取り込むことは広く行われていることだという。

 国や県の関係機関がもっと早く事態を察知し、指摘してくれたなら対処の仕様もあったのにと思うと残念だ。関係者は牧草の汚染を知り、注意を呼びかけていたのだから、ワラの汚染にも当然気づいていたはずだ。「春になぜ汚染したのか・・」ということではないのだ。

 牛肉から検出されたセシウムの量は国が定めた暫定基準の500ベクレル(アメリカは1200ベクレル、カナダは1000、EUは1250、WHO、FAOは1000)よりはずっと下回っている。しかし、マスコミは「山形県の牛から・・」とセンセーショナルに報じ、県は「疑いのある牛」の個体識別番号をインターネットなどで公表した。その後、全てが基準値を下回っていることを強調したのだが遅かった。今、牛肉は記録的な安値をつけている。

 牛肉の取り扱い業者は「低い数値とはいえ、一方にゼロがあるのだから売れないだろう」といっているという。畜産農家にとっては切なく、深刻な話だ。彼は「新聞やマスコミで報じられて以降、稲ワラ業者、畜産農家、食肉業者は被害者なのだが、加害者のようになってしまっている」と話す。実感だろう。

 県は宮城県などから稲ワラを買っていた112戸の畜産農家に対して出荷自粛を要請した。出荷時期になっても出荷できず、餌を食べ続ける。さらに買い手が付かないとすればその被害は甚大だ。

 政府は基準値である500ベクレルを超える被害については国が全頭を買い上げるといっているが、それ以下は対象外としている。

 誰が彼らをまもるのか。

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【プロフィール】菅野芳秀(かんの・よしひで)
1949年生まれ。養鶏農家を営む一方、山形県長井市の全世帯を巻き込んだ生ゴミ・リサイクルのシステム「レインボー・プラン」を実現。著書に『玉子と土といのちと』(創森社)、『土はいのちのみなもと 生ゴミは よみがえる』(講談社)

2011年8月 1日

児玉龍彦東大教授の国会陳述の衝撃(続) ── 教授と議員との質疑応答

takanoron.png
山口和之(民主党):民主党の山口和之と申します。福島県出身です。たくさんのお話ありがとうございました。色んな方が色んなことを言うので、実際どこが正しく、どこが安全で、どこが大丈夫で、何が大丈夫かと、まったく国民と同じ目線になっている自分がいます。まず少しずつお聞きしたいんですけども。ひとつとして、今回出ませんでしたけど、ホルミシス効果というのが、話が出たりします。例えば1万人のデータを採って、ある程度の線量の放射線を浴びた場合ですね、逆に健康であるという話があるんです。まず、これを肯定されるか、否定されるかというのをお聞きしたいんですけども。まずは明石先生と児玉先生にお聞きしたい。よろしくお願いします。

児玉龍彦:私どもから見ますと、先ほど申し上げましたように、放射線や何かを当てると、例えばp38というMAPKだとか、NF-κBというシグナル系の分子が動きます。それで、これは短期的には様々な効果をもたらしまして、それを健康にいいとか悪いとかいう議論は様々あります。しかし、こういう状態を長期的に続けますと、我々は慢性炎症と呼んでいる状態になりまして、慢性炎症は例えばガンの前提の条件になったり、様々な病気の原因になるということが、よく知られています。

山口:どうもありがとうございます。そうしますと、たいがいは放射線による害の方が、あるだろうという風にみなさんの意見をそう思いましたけれども、そうしますと、線量の問題が先程らい出ておりました。あとは内部被曝という話が出ておりましたけれども、まずは線量のところで、お聞きしたいんですが。明石先生、それから唐木先生等は、まあ大丈夫だと、安心できますよという話だったんですけれども。児玉先生の方から、ああいうお話があったんですけれども、唐木先生と明石先生の話はデータに基づいて出ていまして。埋もれて、ある程度低いところでは埋もれて、分からないところが出るんでしょうけれども、それ以降については有意な差があって出ているということがありましたけれども、それに対する何かご意見みたいなもの、児玉先生お持ちだったらお聞きしたいんですけれども。

児玉:放射線がですね、人間の遺伝子を傷害します。その時に人間には2万5千の遺伝子がありますが、一定の数のDNA修復に関係する遺伝子、DNAの保護に関わる遺伝子というのがあります。それで普通はこれがやられないとですね、低線量のものは大体問題なく修復されるということが分かっています。

 だけれども、先ほど例えばα線でやられてるP53だとか、それから我々最近ガンゲノムシークエンスというので肝臓ガンや様々なものを遺伝子配列全体を決定して、いわゆるドライバーミューテーションという最初にガンを作っていく方向に起こってしまう変異が、何で起こるかというのを研究しておりますと、例えばp53のような、最初のDNAを守っていたり、そういうところに関わる遺伝子を壊すと、ガンになるということが分かっています。そうしますと、実際には2万5000の遺伝子の中で、どこがやられるかということは、極めて確率論的になってきます。

 ですから一般に分かるのは、統計学的に非常に沢山の人を集めて、例えば後でチェルノブイリの時の甲状腺のように、最初はですね、多分長瀧先生の方がご存知だと思いますが、笹川財団で調べた時に、5万人ぐらいまで調べた時に、「有意な差がない」と言われたんです。ところがですね、それが今になってはコンセンサスとして「6000人の甲状腺ガンと15人の死亡例が生まれている」という風に変わってきています。

 私もともとですね、こうした問題に興味を持ちましたのは、自分はコレステロールの方が専門でして、コレステロールの薬を作る時にも、たくさんの論争がありました。それで私は医学者として今一番感じておりますのは、どこの線量が安全かという議論と、国の政治的な関わり方を分けていただいて、国は、要するにコレステロール論争の時に一番大事だったのは、「コレステロールを下げる薬をやって心筋梗塞が減るかどうか」という問題です。それで今日の厚生委員会でも考えていただきたいのは、学問論争に対して厚生委員会で結論を出したり考えたりする必要は、私はないと思っています。

 国民の健康を守るために、どういうことができるかという時に、まずセシウム137というのは、自然界には1945年以前に存在していないものです。原発と原爆で生まれて、それが1960年代の初めに水爆実験によってピークになったものであります。その時に猿橋勝子さんという女性研究者が、海水のセシウム濃度が100倍になっているということを、微量線量計で確認して、これでアメリカへ行って、その公開実験というのをフォルサム博士とやって、これが大気圏内の核実験禁止の大きな学問的根拠になりました。その後セシウムはずっと減ってきていたのが、またそれを遥かに倍する量に今上がろうとしている時であります。そうしますと、その線量議論の問題というよりも、元来自然界にないセシウム137というのが膨大にまかれて、ガンマカウンターで簡単に分かるような量に散らばっている。しかもそれが広島原爆の20倍の量まかれているという事態に対して、国土を守る立場から是非積極的な対応をお願いしたいというのが、基本的なお願いです。

山口:どうもありがとうございました。結論付けるつもりはないですし、県民、国民はどうしてたかというと、一番不安な、一番安全、一番危険なところを聞いて動いているというのが、今実態ではないでしょうか。だから、安全だと思って聞いていらっしゃる方もいらっしゃいますし、中には線量が少ないところであっても子どもを連れて県外に避難されてる方も沢山いらっしゃると思います。やはり不安でしょうがないと思うんですけれども。避難区域の住民が戻れる条件、いま避難区域になってますけれども、先生方で「こういう条件にしたら、避難区域に戻れるだろう」「今でも十分戻れるよ」という場合もあるでしょうし、先生方によって違うでしょうが、避難区域に戻れる条件を少し教えていただきたいんですが。ちょっと時間がなくてですね、聞きたいこと沢山あるので、簡潔にちょっといただければと思うんですけれども。どなたでも結構です。

児玉:私が一番申し上げたいのはですね、住民が戻る気になるのは、行政なり何なりが一生懸命測定して、除染している地域です。ですから測定も除染もなければ、「安全だ」「不安だ」と言われても、信頼できるところがありません。ですから、「この数値が安全」「この数値がどう」ということではなしに、行政の仕組みが一生懸命測定をして、その測定に最新鋭の機械を投じて、除染に最新鋭の技術をもって、そのために全力でやってる自治体が、一番戻るのに安心だと思います。

山口:どうもありがとうございました。もしですね、牛の基準であったり、お米、これから作物つくっていかなきゃならないし、果物の基準とかもありますけれども、今は厚生労働省で基準を作って、「これぐらい食べても5ミリシーベルト超えなければ大丈夫ですよ」という、先ほどお話があったかもしれませんけれども、農家で米を作るとかですね、果物を作るだとか、何かそういった作る段階での基準などはございますでしょうか。どなたかお願いできますでしょうか。

児玉:入り口の方で基準を決めるというのは、非常に厳しいと思っています。生物学的濃縮というのは、様々な元素が身体に入ると、トランスポーターとか結合タンパクというので、極めて特殊な集積の仕方をしますので。ですから、出てきた農産物をきちんと見るという仕組みを、徹底的に作っていかなくてはならないと思います。そうするとですね、やっぱりラインのような格好で、どんどんイメージとして、農産物が、量がチェックできるような仕組みが実際にはあるんですが、まだほとんどこういうものの測定に使われていませんので、そういうものを全国の産地に緊急に整備していかないと、今回の稲ワラのようにやっぱり想定外の場所での濃縮事件というのは、自然界では山ほど起こります。ですからやっぱり、出口の食物の出ていくところでのチェックというのを、緊急に物凄く良くするというのが大事になると思います。

吉野正芳(自民党):現地でもですね、各小学校単位ごとに、それぞれの専門家の先生方をお招きして、放射線の勉強会、本当に参加の数は何百人、小学校単位ですから何百人という方が、来るんですけども、何回やっても同じなんですね。ですから、これは本当にどうすれば不安を取り除くことができるのかなと。例えば私はですね、科学的なことでいくら説明しても、理解しても、自分の頭で理解しても、身体がついていかないという。こういう状況下に置かれていますので、もうその方は、避難できる方は避難してください。そしてそれに対する支援をしていく。避難できない方は、きちんと家庭での防護策と言いますか、それを我々政治の方はやるべきだなと私自身は思っているんですけれども、その辺はいかがでしょうか。あの、熱い児玉先生。

児玉:要するにあの、信頼感というのは言葉で説明を聞いて生まれるんではない、と思います。私も毎週南相馬に行っていますが、南相馬の例えば、方たちが本当に汚染してる学校や何かを案内してくれるのは、一回目じゃやっぱりないんですよね。そのだから、支援に来ている人がただ一回だけ来て帰っていってしまうのは、かえって問題をひどくするだけで、やっぱり本当に持続的にやっていこうとすると、一緒に測って一緒に考えて除染していく、避難されたい方は避難を応援する。そういうのがすごく大事ではないかと思っています。

 それで南相馬に行って、私どもが最初に言われたのは、やっぱりそのさっき言った、「線量の低いところから高いところへ、スクールバスで子どもが、千人超え移動させられている」ということで。それで実際に地域を見ても、ひとつの学校を見ても、さっきから「何ミリシーベルトだったら安全ですか?」という議論は、私現実味がないと思うのは、例えば2マイクロシーベルトの学校を測っていても、1カ所に行くと33マイクロシーベルトなんです。ですから、その時に一体何ミリシーベルトをその土地とするかという問題が出てきてしまいますから、やっぱり高いところがあったら、「必ず刈り取っていきますよ」と、「測って一緒にやっていきますよ」と、「不安があったら相談に乗りますよ」と、「農産物があったら最新鋭の科学機器を集めて、最高の検査メーカーが来てやりますよ」というような体制がない限り、安心できないというのが当たり前ではないかと。ですから今もとめられているのは、最高の施策が福島県民に与えられるように、国会で是非考えていただきたいということであります。

高橋千鶴子(日本共産党):ありがとうございました。最後に児玉参考人に伺いたいんですけれども、まさしく今日、内部被曝の問題がずいぶん話題になりました。また遠距離被曝ということも、いま沢田先生からだいぶ指摘されましたので、そういう観点でずっと除染作業もやってらっしゃる先生から一言うかがいたいと思います。

児玉:私、放射線取扱者に1977年になりまして、1995年から放射線取扱主任として、除染と規制に関わっております。それで今まで科学技術庁告示、平成12年から我々がやらされていたことを、ひとつだけご報告しておきます。それは、例えば妊娠可能な女子については、第5条4項で内部被曝を1ミリシーベルト以下にする。それから、第6条第3項、妊娠中である女子の腹部表面については、前項第4号に規定する期間につき、2ミリシーベルト。これを規制されてこの規制を守るべく、30年やって参りました。ところが、福島原発の事故で、広島原爆20個分の放射線が撒き散らされた途端に、このような基準がすべて反故にされている。

 先ほど福島県の議員から「どのようにしたら安心か」というご質問がありました。私は安全に関しては、基準を決めたら、危機になったら、それを変えていく格好では、ダメだと思います。いま今年できないかもしれないけれども、来年までにその基準に持っていく、再来年までにはこうするとうことがなければ、住民が安心できるわけがないではありませんか。そのためには最初から申し上げている通り、広島原爆20個分の、天然にないセシウム137を撒き散らした東電と政府の施策を反省し、これを減らすため全力を挙げる以外に安心できる解決などありえないのです。そのことを抜きにして、どこが安全だという議論をいくらやっても、国民は絶対に信用しません。

阿部知子(社会民主党):引き続いて、牛のセシウム汚染をはじめとして、今朝でしたか、腐葉土にもやはりかなり高濃度のセシウムがあるということで、単に牛だけでなく、及ぼす影響は全食品にかかわってきていると思います。また海への汚染もありますので、今後魚への汚染ということも避けて通れないと思います。その中で先ほど唐木委員のお示しいただきました参考資料の中にですね、例えば牛についてですけれども、全量、全体、全個体検査や抜き取り検査は、かなりこれは困難というか、不適切であるというような表現でありましたが、これも2週間ほど前、NHKスペシャルでやっておりましたベラルーシでの取り組みは、チェルノブイリ事故25年をたっても、各学校で子どもたちのミルクや野菜の放射性レベルを点検するということでございました。

 やはり私はここまで食品汚染がひろがってきた場合には、やはりなるべく口に入る身近なところで検査するという体制、それがどこまで身近にやれるかはまたあると思いますが、そうした考え方に立つことが重要ではないかと思いますが、この点について唐木参考人と、あと児玉参考人は先ほどラインの測定でずっとフォローしていくというような技術も、我が国の現状においては可能ではないかという風なお話でしたので、もう少しご披瀝をいただきたいと、各々お願いいたします。

児玉:今おそらくやられているのは、かなり旧式なやり方なんですが、ゲルマニウム半導体というので、周囲を6センチぐらいの鉛で遮蔽した中にモノを置いてやられています。それで今日、半導体の検知器というのは、かなり多数の種類が改良されておりまして、私が最先端研究支援でやっておりますのは、PETという機械でやっているのですが、PETで検出する時には内視鏡の先でも検出できるぐらいの感度の高いものを開発しております。それで、そういうのを集めていて、今やられているのはむしろイメージングに変えている。ですから、ゲルマニウムの半導体というのはスペクトラムを出して、長いスペクトラムを全部見るんですが、例えばセシウムに絞って、この線量を見るんであれば、半導体検知器の検出感度が今ずっと良くなってますから、画像型にすることが簡単にできています。

 それで、例えばその画像型のひとつのイメージみたいなものは、米軍から供与されてヘリコプターに載って地上の汚染(調査)をやるのに、いま色んなところで、今日あたりは茨城県をやってると思いますが、検知器で地上を写すようなものが、ずっとやられております。それで農産物を沢山やろうとする場合には、ライン化したところで多数のものをできる仕組みをやらなくてはなりませんから、イメージングの技術を基礎にして、半導体を集めたようなもののセンターを沢山つくって、流れ作業的に沢山やれるようにして、その中でハネるものをどんどんイメージで、こう画像上で、これが高いと出たらハネていくような仕組みを、これは既存の技術ですぐできますものですから、そういうものを全力を挙げてやっていただきたいと思っております。これを生産地にかなりのところ作る必要があると思っています。

阿部:私もいま先生が言っていただいたように科学は謙虚にあらねばならないと思います。そして先ほど児玉先生のお話で、チェルノブイリ膀胱炎と呼ばれるものが20数年たって初めて疫学的にも有意に出てくるということを見ると、やはり実は甲状腺癌も子どもの場合もそうでしたが、最初否定されておりましたから、きちんと科学はいつもその可能性を否定せずに向き合うと。最後に児玉先生にひとつお願いしたいと思いますが、アイソトープセンターこれは全国にございますが、これを今回の除染に活躍させるために何が必要かお願いします。

児玉:5月に全国のアイソトープ総合センター会議というものがありまして、そこで色いろ議論をしていた時に、文科省の放射線規制室の方が、おっしゃってたのは、「福島原発以来のRIは、RIではない」と。「我々は国民の健康に責任を持つという仕事をやっているのではなくて、法律に決められた放射線取扱者を規制することが仕事だ」という風におっしゃっていました。それで、ある面で私非常に違和感を感じたんですが、もう一方では例えば文科省の法律の規制室の方は、従来の規制に従ってやらざるをえない。それで、高い線量のものが少量あるということに対応した法律体系はありますが、低い線量のものが膨大にあるという、それをどう除染していくかということに関する法律がほとんどなくて、今も汚泥問題、その他すべて問題になっているのは、ここであります。それで、しかしながら現在の全国のアイソトープ総合センターなんかは、旧来の法的規制のまんまで何らのこれらの組織、例えば先ほどゲルマニウムの機械が足りないというお話がありましたが、そんなものは全国に沢山あります。ところが、そこへの持ち込み、持ち込んだ廃棄物の引き取り、こういうのが法律的にまったくない。

 だから今も東大のアイソトープセンターでやっているのは全部違法行為だと申し上げました。この場合にはセンター長である私と専任教官と事務主任の上で審査委員会を設けて、内部でチェックして超法規行為を勝手にやっているというのが現状であります。それでそういう法律を一刻も早く変えて、測定と除染というのに是非立ち上がっていただきたい。それなくして親の安心もないし、しかも先ほどから長瀧先生たちがおっしゃっている原爆型の放射能の常識というのは、これは原発型の常識の場合にはまったく違います。それから先ほどおっしゃいました、長瀧先生のおっしゃった一過性に核医学で治療をやるというのも、これも形式が違います。我々たとえば抗体にイットリウムをくっつけて打つと、ゼバリンという医薬がありますが、あれは一過性にもかなりの障害を起こしますが、それでもガン細胞をやっつけるためにいいからやっているということであって、正常者にこれをやることは、とても許されない。無理なものであります。

 それで、ですから私が申し上げたいのは、放射線総量の全体量をいかに減らすか、これは要するに数十兆円かかるものであり、世界最新鋭の測定技術と最新鋭の除染技術をただちに始めないと、国の政策としてまったくおかしなことになるんです。いま我々がやっている、たとえば幼稚園で除染します。除染して高圧洗浄器でやりますと、側溝に入ります。側溝をきれいにしています。しかしその側溝の水はどこへ行くかというと、下流の農業用水になっています。それでイタイイタイ病の時の経験は、カドミウムの除染を下手にやりますと、2次被害を引き起こします。ですから国の政策として国民の健康を守るためには、総量の問題をまず考えてください。緊急避難とひとつ、総量の問題ふたつ、これを是非議論よろしくお願いします。

柿澤未途(みんなの党):最後に一点だけ。児玉参考人におうかがいをしたいと思います。細野原発担当大臣が、すでに避難区域の解除と帰宅ということを、就任早々おっしゃられて、今度も無人ヘリを飛ばして現地の調査を行って、場合によっては早期に解除して住民帰ってもらおうと、こういう話が出てきています。しかしチェルノブイリの強制移住レベルを上回るような高濃度の汚染地域が、東京23区全体を上回る800平方キロメートルに広がっている中で、今の状況でこの非難区域を解除するということが、正当化されうるのかということを、児玉参考人にご見解としておうかがいをしたいと思います。

児玉:まずですね、20キロ、30キロの地域というのは、非常にまだら状になっています。それで南相馬、私が一番よく存じております南相馬の場合ですと、南北ではなくて東西に線量が違います。それで飯館村に近い方は20ミリシーベルト以上で、現在避難が開始されている地域。それでこちらの方は、海側の方は、それよりもずっと線量が低いところがあります。それでこうした場合には、自治体が判断した方が、今は20キロ、30キロ圏は、病院は休診、学校は休校ということが、一応指示となっております。それをやっぱり学校を開いて、一番低い線量のところで子どもが授業できるようにするとか、そういう判断は、やっぱり自治体の判断でできるようにした方がいいと思います。ですから今の線引きの問題という話よりも、実際にいかに子どもの被曝を減らしたり、地域を復興していくかという問題がまず1個あります。

 ただそこでもうひとつの問題は、地元で聞きますと、商工会や何かから、今は強制避難ですから補償が出ています。だけれども避難区域が解除されたら、補償がなくなってしまうということで、実際に私が南相馬に行っている間も、住民の中で非常に大きな意見の違いが生まれていて、見ていてとてもいたたまれない思いがいたしました。それで是非避難の問題と、それから補償の問題を分けて、それで先ほどおっしゃった避難の解除というのは、要するにどういう問題があるかというと、高い線量のところはこれは除染しないと非常に危険です。

 それで今そういう問題になっているのは主に年20ミリシーベルト以上の被曝を受けてしまう地域であると思いますから、そこに関しては引き続き強制的な避難が必要であると思っていますし、ここの地域をどう除染していくかということは、東電なり我々科学者なり日本政府がとてつもない十字架を背負っていると思います。そのことを住民の判断だけに押し付けるのは、とても難しい問題があると思っておりまして、20ミリシーベルト以上の地域に関しましては、やはり是非とも国でここの避難している人たちの生活の保障と、それから除染の努力をどのように詰めるかという見通しを、本当に必死に考えないといけないと思っています。

 それで20キロから30キロという現状の同心円が、それを正確に示しているかと言うと、今はそうではなくてむしろ地域復興の妨げになっている面がありますから、地元自治体との相談の上で、そこの地域のさまざまな行政、生活上の問題に関しては、子どもやお母さんが一番安心できるようなものにするということを一刻も早くやっていただきたい。それで細野大臣はある面ではそういう意見を反映している面があると思います。もう一方では、それを補償問題とどういう風に結びつけるかという議論がないと、やはりこれはもう一方で非常に大変な問題が生まれてしまいますので、やはり今は強制避難でないと補償しないとか、住民が被害を立証できないと補償しないというような格好は、もうマズいんではないかと私は思っております。▲

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児玉龍彦東大教授の国会陳述の衝撃 ── 広島原爆の29.6個分の放射線総量が漏出している!

takanoron.png 数人の友人・知人から「27日の衆議院厚生労働委員会『放射線の健康への影響について』の参考人招致での児玉龍彦東大教授の裂帛の演説を聞いたか」と通報があり、あわててYouTubeで視聴した。
http://www.youtube.com/watch?v=eubj2tmb86M

 この日の委員会では、何人かの放射能専門家が意見を述べているが、その中で圧倒的に迫力があるのは、東大の医師で同大アイソトープセンター長でもある児玉で、熱量で見て広島原爆の29.6個分の放射線総量が漏出しているにもかかわらず、政府の対応はその実状から余りにかけ離れていると怒りを込めて告発している。

 不思議なのは、この内部被曝問題の第一人者の重大発言を翌日の新聞がほとんど1行も報じておらず、ネットで検索し直した限りでは、NHKが他の参考人陳述と並べて1〜2行、彼が陳述した事実を報じているだけで、それも中身はほとんど伝えていない。

 YouTubeを観て頂くのが一番早いが、時間を気にしながら早口でしゃべっていて、専門用語についていけない部分もあるかと思うので、ネットで出回っている複数の全文起しを借用しつつ若干手をくわえてて以下に掲げる(小見出しと[]内は当編集部による補足)。

 なお、同教授が陳述に使用した3ページの資料は以下にアップされている。
http://www.slideshare.net/ecru0606/ss-8725299?from=ss_embed

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■児玉教授の衝撃の陳述

 私は東京大学アイソトープ総合センター長の児玉です。3月15日に、大変に驚愕しました。私ども東京大学には27カ所のアイソトープセンターがあり、放射線の防護とその除染などの責任を負っております。

 私自身は内科の医者でして、東大病院の放射線の除染などに数十年関わっております。まず3月15日の午前9時ごろ、東海村で5マイクロシーベルトという線量を観測しまして、それを文科省に第10条通報ということで直ちに通報いたしました。

 その後東京で0.5マイクロシーベルトを超える線量を検出しました。これは一過性で[すぐに]下がりまして、そのあと3月21日に東京で雨が降り0.2マイクロシーベルト等に線量が降下し、これが今日までの高い線量の原因になっていると思っております。この時に枝野官房長官が、さしあたり健康にあまり問題がないということをおっしゃいましたが、私は実際にこの時にこれは大変なことになると思いました。

 なぜなら現行の放射線の障害防止法というのは、高い線量の放射線が[特定の場所に]少しあることを前提にしています。この時は総量はあまり問題ではなくて、個々の濃度が問題になります。

 ところが今回の福島原発の事故というのは、100キロ圏で5マイクロシーベルト、200キロ圏で0.5マイクロシーベルト、さらにそれを越えて、足柄から静岡のお茶にまで汚染が及んでいることは、今日、すべてのみなさんがご存じの通りであります。

●放射線の個々の濃度でなく総量を見ないと

 われわれが放射線障害をみるときには総量を見ます。それでは政府と東京電力はいったい今回の福島原発事故の総量がどれぐらいであるか、はっきりとした報告はまったくしていません。

 そこで私どもがアイソトープセンターの知識をもとに計算してみますと、まず熱量の計算では広島原爆の29.6個分に相当するものが漏出しております。ウラン換算では20個分のものが漏出しています。

 さらに恐るべきことには、これまでの知見で、原爆による放射能の残存量と、原発から放出されたものの残存量は1年経って、原爆が1000分の1程度に低下するのに対して、原発からの放射線汚染物は10分の1程度にしかならない。

 つまり今回の福島原発の問題はチェルノブイリ事故と同様、原爆数十個分に相当する量と、原爆汚染よりもずっと大量の残存物を放出したということが、まず考える前提になります。

 そうしますと、われわれはシステム生物学というシステム論的にものをみるやり方でやっているのですが、総量が少ない場合には、ある人にかかる濃度だけを見ればいいです。しかしながら総量が非常に膨大にありますと、これは粒子の問題です。

 粒子の拡散というのは、非線形という科学になりまして、われわれの流体力学の計算ではもっとも難しいことになりますが、核燃料というものは、砂粒のようなものが、合成樹脂のようなものの中に埋め込まれております。これがメルトダウンして放出されるとなると、細かい粒子がたくさん放出されるようになります。そうしたものが出てまいりますと、どういうことがおこるかというのが今回の稲藁の問題です。

 例えば岩手の藤原町では、稲藁5万7000ベクレルパーキログラム、宮城県の大崎1万7000ベクレルパーキログラム、南相馬市10万6000パーキログラム、白河市9万7000パーキログラム、岩手6万4000パーキログラムということで、この数値は決して同心円上にはいかない。どこでどう落ちているかということは、その時の天候、また例えばその物質が水を吸い上げたかどうか、にかかります。

●計測器を大量投入して徹底的な測定を

 今回の場合も、私は南相馬に毎週行っています。東大のアイソトープセンターは現在までに7回の除染を行っていますが、南相馬に最初にいったときには1台のNaIカウンターしかありません。農林省が通達を出した3月19日には、食料も水もガソリンも尽きようとして、南相馬市長が痛切な訴えをウェブに流したのは広く知られているところであります。

 そのような中で通達1枚を出しても誰も見ることができないし、誰も知ることができません。稲藁がそのような危険な状態にあるということは、まったく農家は認識されていない。農家は飼料を外国から買って、何十万という負担を負って、さらに牛にやる水は実際に自分たちが飲む地下水にその日から代えています。

 そうすると、われわれが何をやらなければいけないのかというと、まず汚染地で徹底的な測定ができるように保障しなければいけません。われわれが5月下旬に行ったときに1台しか南相馬になかったというけれど、実際には米軍から20台の個人線量計が来ていました。しかしその英文の解説書を市役所の教育委員会で分からなくて、われわれが行って教えてあげて、実際に使いだして、初めて20個での測定ができるようになった。それが現地の状況です。

 それから先程から食品検査と言われていますが、ゲルマニウムカウンターというのではなしに、今日ではもっとイメージングベースの測定器が、はるかにたくさん半導体で開発されています。なぜ政府はそれを全面的に応用してやろうとして、全国に作るためにお金を使わないのか。3カ月経ってそのようなことが全く行われていないことに私は満身の怒りを表明します。

●単なる全身スキャンは意味ない

 第2番目です。私の専門は、小渕総理のときから内閣の抗体薬品の責任者でして、今日では最先端研究支援ということで、30億円をかけて、抗体医薬品にアイソトープをつけて癌の治療をやる、すなわち人間の身体の中にアイソトープを打ち込むのが私の仕事ですから、内部被曝問題に関して、一番必死に研究しております。

 そこで内部被曝がどのように起きるかということを説明させていただきます。内部被曝の一番大きな問題は癌です。癌がなぜ起きるかというと、DNAの切断を行います。ただしご存知のように、DNAというのは二重らせんですから、二重のときは非常に安定的です。

 それが細胞分裂するときは、二重らせんが1本になって2倍になり、4本になります。この過程のところがもの凄く危険です。そのために妊婦の胎児、それから幼い子ども、成長期の増殖の盛んな細胞に対しては、放射線障害は非常な危険性を持ちます。

 さらに大人においても、増殖の盛んな細胞、例えば放射性物質を与えると、髪の毛に影響したり、貧血になったり、それから腸管上皮に影響しますが、これらはいずれも増殖の盛んな細胞でして、そういうところが放射線障害のイロハになります。

 それで私たちが内部に与えた場合のことで知っている事例を挙げます。これは実際には1つの遺伝子の変異では癌はおこりません。最初の放射線のヒットが起こったあとにもう1個の別の要因で、癌への変異が起こるということ、これはドライバーミューテーション
とか、パッセンジャーミューテーションとか、細かいことになりますが、それは参考の文献をつけてありますので、後で、チェルノブイリの場合や、セシウムの場合を挙げていますので、それを見ていただきますが、まず一番有名なのはα線です。

 プルトニウムを飲んでも大丈夫という東大教授がいると聞いて、私はびっくりしましたが、α線は最も危険な物質であります。それはトロトラスト肝障害というところで、私ども肝臓医は、すごくよく知っております。

 要するに内部被曝というのは、さきほどから何ミリシーベルトという形で言われていますが、そういうのは全く意味がありません。ヨウ素131は甲状腺に集まります。トロトラストは肝臓に集まります。セシウムは尿管上皮、膀胱に集まります。これらの体内の集積点をみなければ全身をいくらホールボディスキャンしても、まったく意味がありません。

●20年以上かかる内部被曝の疫学的証明

 トロトラストの場合、これは造影剤でして、1890年からドイツで用いられ、1930年頃から日本でも用いられましたが、その後、20から30年経つと肝臓癌が25%から30%起こるということが分かってまいりました。最初のが出て来るまで20年というのが何故かと言うと、トロトラストはα線核種なのですが、α線は近隣の細胞を障害します。そのときに一番やられるのは、P53という遺伝子です。

 われわれは今、ゲノム科学ということで人の遺伝子の配列を知っていますが、一人の人間と別の人間はだいたい300万カ所違います。ですから人間を同じとして扱うような処理は今日ではまったく意味がありません。いわゆるパーソナライズ・ドメディスンと言われるようなやり方で、放射線の内部障害を見るときにも、どの遺伝子がやられて、どのような変化が起こっているかということをみることが、原則的な考え方として大事です。

 トロトラストの場合は、第一の段階でP53の遺伝子がやられて、それに続く第2、第3の変異が起こるのが20年から30年かかり、そこで肝臓癌や白血病が起こってくることが証明されています。

 次にヨウ素131、ご存知のように甲状腺に集まりますが、成長期の集積がもっとも特徴的であり、小児に起こります。しかしながら1991年に最初、ウクライナの学者が甲状腺癌が多発しているという時に、日本やアメリカの学者は、[科学雑誌]「ネイチャー」に、これは因果関係が分からないということを投稿しております。なぜかというと1986年以前のデータがないから統計学的に有意だということが言えないということです。

 しかし統計学的に有意だということが分かったのは、20年後です。20年後に何が分かったかというと、86年から起こったピークが消えたために、過去のデータがなくても因果関係があるということがエビデンスになった。ですから疫学的な証明というのは非常に難しくて、全部の症例が終わるまでだいたい証明できないです。

 ですから今、われわれに求められている子どもを守るという観点からはまったく違った方法が求められます。そこで今、行われているのは国立のバイオアッセ―研究センターという化学物質の効果を見る、福島昭治先生という方がチェルノブイリの尿路系に集まるものを検討されていまして、福島先生たちが、ウクライナの医師と相談して500例以上のある症例を集めています。

 前立腺肥大のときに手術をしますと膀胱もとれてきます。これを見まして検索したところ、高濃度の汚染地区、尿中に6ベクレルパーリットルと微量ですが、その地域ではP53の変異が非常に増えていて、しかも増殖性の前癌状態、われわれから見ますと、P38というMAPキナーゼと、NFカッパーBというシグナルが活性化されているのですが、それによる増殖性の膀胱炎というのが必発性でありまして、かなりの率で上皮内の癌ができているということが、報告されています。

●きめ細かい除染で子どもを守る

 それでこの量に愕然といたしましたのは、福島の母親の母乳から2〜13ベクレル、7名から検出されているというがすでに報告されていることであります。われわれアイソトープ総合センターでは、現在まで毎週だいたい4人ぐらいの所員を派遣しまして、南相馬市の除染に協力しております。

 南相馬でも起こっていることはまったくそうでして、20キロ、30キロという分け方はぜんぜん意味が無くて、幼稚園ごとに測っていかないと全然ダメです。それで現在、20キロから30キロ圏にバスをたてて、1700人の子どもが行っていますが、実際には南相馬で中心地区は海側で、学校の7割は比較的線量は低いです。

 ところが30キロ以遠の飯館村に近い方の学校にスクールバスで毎日100万円かけて、子どもが強制的に移動させられています。このような事態は一刻も早くやめさせてください。今、一番その障害になっているのは、強制避難でないと補償しないということ。参議院のこの前の委員会で当時の東電の清水社長と海江田経済産業大臣がそのような答弁を行っていますが、これは分けて下さい。補償問題と線引の問題と、子どもの問題は、ただちに分けて下さい。子どもを守るために全力を尽くすことをぜひお願いします。

 それからもう1つは現地でやっていて思いますが、緊急避難的除染と恒久的除染をはっきりわけていただきたい。緊急避難的除染をわれわれもかなりやっております。例えば図表にでています滑り台の下、ここは小さい子どもが手をつくところですが、滑り台から雨水が落ちて来ると毎回ここに濃縮します。右側と左側にずれがあって、片側に集まって
いますと、平均線量1マイクロのところですと、10マイクロの線量が出てきます。こういうところの除染は緊急にどんどんやらなくてはなりません。

 またコケが生えているような雨どいの下、これも実際に子どもが手をついたりしているところなのですが、そういうところは、高圧洗浄機を持って行ってコケをはらうと2マイクロシーベルトが0.5マイクロシーベルトにまでなります。

 だけれども、0.5マイクロシーベルト以下にするのは非常に難しいです。それは建物すべて、樹木すべて、地域すべてが汚染されていますと、1か所だけを洗っても全体を下げることは非常に難しいです。

 ですから除染を本当にやるときに、一体どれぐらいの問題があり、どれぐらいのコストがかかるかといことを、イタイイタイ病の一例であげますと、カドミウム汚染地域、だいたい3000ヘクタールなのですが、そのうち1500ヘクタールまで現在、除染の国費が8000億円投入されています。もしこの1000倍ということになれば一体どれだけの国費が必要になるのか。

●新しい法律が必要

 ですから私は4つのことを緊急に提案したいと思います。第1に国策として、食品、土壌、水を、測定していく。日本がもっている最新鋭のイメージングなどを用いた機器を使って、半導体のイメージング化は簡単です。イメージング化して流れ作業にしていくという意味での最新鋭の機器を投入して、抜本的に改善してください。これは今の日本の科学技術でまったく可能です。

 2番目。緊急に子どもの被曝を減少させるために、新しい法律を制定してください。私の現在やっていることはすべて法律違反です。現在の障害防止法では、核施設で扱える放射線量、核種などは決められています。東大の27のいろいろなセンターを動員して南相馬の支援を行っていますが、多くの施設はセシウム使用権限など得ていません。

 車で運搬するのも違反です。しかしお母さんや先生たちに高線量のものを渡してくるわけにはいきませんから、今の東大の除染では、すべてのものをドラム缶に詰めて東京にもって帰ってきています。受け入れも法律違反、すべて法律違反です。このような状態を放置しているのは国会の責任であります。

 全国の国立大学のアイソトープセンターには、ゲルマニウムをはじめ最新鋭の機種を持っているところはたくさんあります。そういうところが手足を縛られたままで、どうやって、国民の総力をあげて子どもを守れるでしょうか。これは国会の完全なる怠慢であります。

 第3番目、国策として土壌汚染を除染する技術に、民間の力を結集して下さい。これは例えば東レとかクリタだとかさまざまな化学メーカー。千代田テクノルとかアトックスというような放射線除去メーカー、竹中工務店などは、放射線の除染に対してさまざまなノウハウを持っています。こういうものを結集して、ただちに現地に除染研究センターを作って、実際に何十兆円という国費をかかるのを、今のままだと利権がらみの公共事業になりかねないいう危惧を私は強くもっています。国の財政事情を考えたら、そんな余裕は一瞬もありません。どうやって本当に除染をやるか。7万人の人が自宅を離れて彷徨っているときに国会は一体何をやっているのですか。[4番目の提言がないのは時間切れのためか?]以上です。

 児玉教授の陳述後に行われた議員との質疑応答は次号に掲載する。▲

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