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2011年7月26日

甲斐良治:東北はあきらめない!── 人間はあきらめれば無力だけど、あきらめなければ無力ではない

『大震災・原発災害 東北(ふるさと)はあきらめない! 』[農文協]
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 《THE JOURNAL》執筆者である甲斐良治さんが編集長をつとめる『季刊地域』が、東北の被災地を独自の視点から編集した『大震災・原発災害 東北(ふるさと)はあきらめない!』を刊行した。いまある「東北の姿」とは何か。また、「大規模化」や「集約化」が声高に叫ばれる現状をどう見ているのか。甲斐良治編集長に話を聞いた。

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甲斐良治氏(『季刊地域』編集長)
「人間はあきらめれば無力だけど、あきらめなければ無力ではない」

──「東北(ふるさと)はあきらめない!」というタイトルに込めた思いは

なぜ「東北はあきらめない!」というタイトルにしたのかというと、人間はあきらめれば無力だけど、あきらめなければ無力ではないということを、現地の取材を通じて実感したからです。

たとえば特集では、宮城県塩竈市出身の編集部員の、津波の被害を受けた実家のレポートを掲載しています。鉄工所を経営している彼の父親は、30年続く洋菓子店の生地こね機や製粉機が津波にあい、「修理には業者の見積もりで400万円以上かかる」となかばあきらめて話していた店主に対し、「モーターを真水で洗えば動くかもしれない。あきらめるには早いよ」とアドバイスしたそうです。そのとおりにしたら機械が動くようになった。店主は「もう1回がんばってみるよ」と喜んで知らせに来たそうです。

実家の鉄工所は笹かまぼこなど魚の練り製品の1次加工用機械を製造していて、得意先の水産加工会社の8割を津波で失った。でも、工場の旋盤を真水で洗ったら動き出した。いまでは、単発で単価の高い機械の受注製造は厳しくても、修理や整備などの小さな仕事を「複業」でやっていけるのではないかと考えているそうです。東北の人たちは、こうやって小さな希望をを見つけて、その地域で生きていくことを「あきらめない」。復興には時間がかかるかもしれないけど、私は、こういった小さな希望をひとつひとつ実現していくことが、地域の復興に一番つながるのではないかと思っています。

── 編集作業を通じてどんなことを感じましたか

「がんばれニッポン!」ではなく、どうすれば「あきらめない」でその地域に暮らしていけるか。このことは最初からそう考えていたわけではなく、特集の取材活動過程を通して感じたことで、特集全体にそれがにじみ出ていると思います。

もちろん、あきらめないのは塩竈市だけではありません。岩手県陸前高田市の老舗味噌・醤油製造店である八木澤商店の河野和義会長は、震災後に従業員を1人も解雇しないどころか、震災前に採用内定していた2人も採用した。震災後、いったんは廃業も考えたそうですが、陸前高田で「廃業」「解雇」という言葉ばかりになったら、高田のまちは支援を受ける年寄りばかりになってしまい、若者がいなくなってしまう。そういう想いを持って再建をめざしています。

── 被災地は少しずつではあっても、動きはじめているのですね

東北地方の小さな集落を歩いてきた民俗研究家の結城登美雄さんは、震災から2週間後に三陸沿岸で暮らす知人から「もう二度と、海のそばには戻りたくない」という言葉を聞いたそうです。それでも、一ヶ月が過ぎようとしていたころ、「こんな情けない姿になったけれど、ここは本当はいいところなんだよね」とポツリと語るようになった。「やっぱり、やり直そうかな」と。特に、漁村で生きて来た人たちは、海に流されて行方不明になった人たちは、100日間は生きていると考え、待ち続ける昔からの風習があるそうです。この雑誌も、3.11から100日が経過したころの発行で、「あきらめない」という気持ちが動き始めた時期でした。

大規模化や集約化は「あきらめること」を前提としている

── 一方、被災地の漁業や農業に対して「大規模化しろ」「集約化しろ」という声も高まっています

特に宮城県の復興計画では、現地の漁師、漁協、県漁連が反対しているにもかかわらず、株式会社が参入できるような特区の創設をうたっています。実際には、今の漁業法の枠内でも株式会社は参加できるのに、ことさら株式会社が主導する形での特区構想が進んでいる。津波被害を受けた農地も同じです。

しかし、「大規模化」や「集約化」は、現地で暮らす漁師たちが、これまでやってきた仕事をあきらめなければ実現できない。それは「あきらめ」を前提としているのです。被災者である漁師たちが「あきらめない」と言ってるのに、県はなぜその支援をしようとしないのか。それが「復興計画」と呼ばれているものへの最大の疑問です。

── 3.11の大震災では、津波だけではなく原発事故の影響も甚大でした。日本の社会そのものが問われているように感じます

哲学者である内山節さんの言葉を借りると、今回の大震災と原発事故によって、巨大システムが破綻してしまえば次から次にそれが連鎖して、システムが働かなくなるという事態が明らかにななりました。

近代以前の人間の技術とは、自分で想定し、設計、施工し、修理も自分でやるものでした。そこには素人の介入があった。一方、原発を頂点とする近代の巨大システムは専門家集団で運用されていて、そのシステムに外から誰も介入できない。つまり、「専門家集団の判断は正しい」ということを前提に、すべてを委ねてしまっているわけです。

そういったものに対して、僕らはこれまでも「小さな農業」という言い方をしてきました。「小さい」というのは、たんに規模の問題だけではありません。「小さな農業」を営む人々は、自然(生命)からの情報をからだ(生命)で感じ、からだ(生命)で処理することのできる人たちです。つまり、自然との交感ができる人たち、自然と人間のつなぎ目にいる人として、これからも存在しなければなりません。

漁業も同じで、被災した東北の漁業は養殖や小型定置網で使う1トンから3トンの小さな船が主流です。山田正彦前農水相もこの特集で語っていますが、全国で使用されていない小さな船を集めて東北に送れば、三陸沿岸の漁師たちはすぐにでも復活できるのです。その一方で、宮城県の復興計画の「株式会社化」は、「大きな船でないと復興はできない」という考えで、そのあたりが現場感覚と大きく違うと思う。この復興計画は2009年に日経調が主催したシンポジウムでの「日本の漁船の99%は不要。1%でよい。そうすれば漁業関連予算5700億円のうち、70~80%がカットできて、漁業の効率化がはかれる」という発言と通底しているように思います。机上の空論でそう発言する人は、農業や漁業は産業である以前に「その地域に暮らす人びとの家族の営み」であることを理解していません。

経済のために「場所性」と「地域性」を無視してよいのか

── たしかに、被災地に資本を投入し「大きなシステムを導入すればすべてがうまくいく」という考えは単純すぎる考えに感じます

TPPにしても法人税にしても、大きなグローバル企業は「改革をしなければ海外に行くぞ」「原発をなくして電気料金が高くなったら海外に行く」となかば脅すように言います。でも、地方には、その土地で生き、その土地のものを使い、その土地の雇用を支えることを生きがいにしていてる企業人がたくさんいて、また、そういう人たちを支える全国的な仲間のつながりがある。たとえば、陸前高田に復興住宅ができるようになったら気仙杉の端材が出るだろうから、その端材で割り箸をつくることを金沢市の企業が提案しています。仙台の警備保障会社は、震災後の陸前高田の誘致企業第一号となって、実際に80人を募集している。共通しているのは、その土地に根ざした経済活動をすることに意義を感じているということなんです。

しかし、グローバル企業であれば、どこの国での経済活動であろうが関係ない。経済とは、「場所性」と「地域性」を無視してよいのかということを考えなければなりません。ちょっと固い言葉でいうと、「持続可能性」ということです。漁業について言えば、一時期は全国的に乱獲の漁業になったことがありましたが、漁師も長くその土地で暮らしていきたいから、いまではどの漁村も持続可能な漁法を大事にしています。グローバル化、無国籍化、無地域化は持続可能性を無視し、破壊することにつながるのではないでしょうか。

よく「経済をまわす」と言いますが、その範囲が重要です。日本中をまわればいい、世界中をまわればいいというものではなく、地域でお金がまわることの意味が「持続可能性」にも求められているのではないでしょうか。

── 被災地の支援には、東北の生産者を被災地以外の人々がどのように支えるのかも重要になります

特集では、「だれでもできる復興支援」というコーナーもつくりました。現地にボランティアに出かけられなくても、誰でもできるおカネの使い方もあります。

たとえば、最初にお話をした鉄工所は蜂屋工業所というのですが、その親戚が経営する蜂屋食品は、「復興がんばろう!餃子セット」を売り出しています。これは、60セット売れるごとに被災地に480個の餃子が被災地に届く仕組みになっています。そのほかにもガレキから出た廃材を利用した岩手県大槌町の「復活の薪」は10kg500円。柱や梁などとして使われてきたスギやアカマツを良質な燃料として活用します。このお金は、被災者による廃材集め、薪づくり、梱包などの作業の代価として地域通貨として支払われます。被災地以外の人々が東北の生産者を支える「はがき商品券」や「復興応援ファンド」、カキ、ノリ、ワカメ再生のための「一口オーナー制度」などの取り組みも、いろいろな形で動きはじめています。

(取材・構成:《THE JOURNAL》編集部 西岡千史)

【参考資料】
■地域農業の再生と農地制度 ── 日本社会の礎=むらと農地を守るために(シリーズ地域の再生)
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※宮城県で問題となっている漁業権は、日本の農地制度の問題と通底しているものがあります。メディアや政治家は「漁業権・農地制度=既得権益」という単純な図式で捉えがちですが、そこには先人から引き継がれたたくさんの知恵がつまっていることもたしかです。何を変え、何を守るべきか。そのことを考えるために、本書は必読の一冊となっています。

【参考リンク】
■八木澤商店
■蜂屋食品
■復活の薪
■はがき商品券
■うらと海の子再生プロジェクト

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【プロフィール】甲斐良治(かい・りょうじ)
1955年宮崎県生まれ。九州大学経済学部卒。社団法人・農山漁村文化協会(農文協)「増刊現代農業」編集主幹。『定年帰農 6万人の人生二毛作』『田園住宅 建てる借りる通う住まう』『田園就職 これからは田舎の仕事が面白い』『帰農時代 むらの元気で「不況」を超える』の「帰農4部作」で、1999年農業ジャーナリスト賞受賞。その後も『青年帰農』『団塊の帰農』『若者はなぜ、農山村に向かうのか』などの「帰農シリーズ」で新しい農的生き方を追究するとともに、「地元学」(ないものねだりではなく、あるもの探し)による各地の地域づくりにかかわる。都市と農山漁村の共生・対流推進会議運営委員、100万人のふるさと回帰支援センター・里山帰農塾講師。

2011年7月22日

ジェーン・ケルシー:異常な契約──TPPの仮面を剥ぐ


7月14日 ジェーン・ケルシー教授・TPP講演会(英語版公開中)

「自らの課題は自らが決定しなければならないということを強調したい」

異常な契約─TPPの仮面を剥ぐ」の著者・ジェーン=ケルシー(オークランド大学教授)氏の講演が7月14日憲政記念館で開催されました。

 TPP参加表明9ヶ国による会合(ラウンド)は7回を終え、米国、ペルーの2回を残して、11月のオバマ大統領の故郷・ハワイAPECに臨みます。日本は依然として結論を先送りしているものの、経産省や外務省は11月までのすべりこみ参加の意志を示しています。TPPの大枠合意が交わされるとされる次回のAPECまで4ヶ月、今後の動向はどうなるのか。これまでシンガポールを除きすべてのラウンドに参加し情報収集してきたケルシー教授による講演です。

 現在、下記URLで放映中です。有料会員に登録されていない方は、この機会にぜひご登録下さい!なお、英語版は公開し、テキスト版は後日更新掲載する予定です。

↓   ↓   ↓

■ジェーン・ケルシー教授:異常な契約──TPPの仮面を剥ぐ(日本語版)
→http://www.nicovideo.jp/watch/1311150657←

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<講演内容>
1,TPP交渉の背景
2,今までの交渉で浮上してきた問題点
3,日本への影響(主に米国からの要求から)

(講演主催:TPPを考える国民会議 収録・撮影・編集:《THE JOURNAL》編集部)

【関連記事】
「TPPの仮面を剥ぐ」ジェーン・ケルシー教授が来日
TPPは復興にとって「NO」 ジェーン・ケルシー教授(農業協同組合新聞)

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2011年7月20日

陸山会事件:検察が石川議員に禁錮2年を求刑するも、調書不採用で論告は精彩を欠く

 小沢一郎民主党元代表の政治資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐり、石川知裕氏ら元秘書3人が政治資金収支報告書の虚偽記載で政治資金規正法に問われている事件で、検察側は20日、東京地裁で論告求刑を行い、石川氏に禁錮2年、大久保隆規氏に同3年6ヶ月、池田光智氏に同1年を求刑した。

 検察側は、「『政治とカネ』をめぐって国民に政治への不信感を蔓延させた」などと被告人を強く批判。水谷建設の裏金疑惑についても「石川氏はアリバイを立証できていない」と、虚偽記載の背景事情について5000万円のヤミ献金があったとあらためて主張した。

 一方、6月30日に裁判官が被告人の供述調書を多数不採用にしたことで検察側の論告が難しくなり、「虚偽記入は小沢氏の政治生命を危うくするものであり、虚偽記入をしたのは理由がある」「大久保氏に知らせないで虚偽記入できないことは明らか」など、客観的証拠や証言ではなく、推論にもとづく論告が多く見られた。

 日本全国を揺るがせた西松建設事件と陸山会事件は、8月22日の弁護側の最終弁論をもって結審する。裁判の焦点は、土地購入の時期の記載を意図的にずらした「期ずれ」や小沢氏から借り受けた4億円を政治資金収支報告書に記載していなかったことに、裁判官がどのような判断を下すかとなる。判決は、9月26日の13時30分より言い渡される。

 なお、石川氏は閉廷後に本誌編集部の取材に応じた。一問一答は下記の通り。

▽   ▲   ▽

石川知裕氏(衆院議員)

──求刑を聞いての感想は

検察が「無罪」と言ってくるいってくるわけはないので、相応の求刑があると思っていた。「こんなものかな」という感じです。

──検察側の論告で気になったところは

驚いたのは、私への論告の半分ぐらいが水谷建設の裏献金に関わることだったこと。特に、水谷建設の裏金5000万円の受け渡しについて、検察が「石川氏はアリバイの立証も何らできていない」と語ったことには驚きました。架空の話をデッチあげてるんだから、(証明できないのは)当たり前。じゃあ、あなた方は「5年前の何月何日の何時何分に何をしていたのか」ということを立証できるのかと。これにはビックリしました。

──論告求刑が終わった後、区切りがついたような表情を見せたが

そうですね。後は弁護側による最終弁論だけなので、これでようやく一つの区切りが付いたと感じました。終わった後、控え室で大久保さんと池田と3人と話したときは、「会計責任者(=大久保氏)の責任は重いんだな」という話だけはしました。

──今後については

今は9月26日の判決まで淡々と自分の仕事をするだけです。(判決が)無罪になるのか、どういう罪がつくのかによって、その時に判断したいと思います。

2011年7月19日

鈴木宣弘:「想定外」では逃げられない原発とTPP報道

TPP反対派として全国行脚する鈴木宣弘東大教授にインタビューを行いました。震災復興における「強い農業」プランについて「火事場泥棒的な発想」と批判、TPPの進捗状況はもちろん、3.11以降の原発とTPP報道の共通点にも触れていただきました。

*   *   *   *   *

鈴木宣弘氏(東京大学教授)
「想定外」では逃げられない原発とTPP報道 suzuki4.jpg

TPPの取りまとめ役だった西山審議官が原発問題のスポークスマンになったのに代表されるように、TPPの実働部隊は震災や原発対応チームにシフトし、TPPを詰める事務方がいないのが現状で、物理的に進められません。しかし内閣官房の中でも、11月のAPECまでに日本の参加を滑り込ませようという意見が主流です。「開国」で地域を活性化することこそが震災復興だ、放射能で日本の食料が不安なのだから、食料は世界からたくさん輸入しなければいけない、という声があります。

─震災を機に大規模化し農業の輸出増をとの意見があります。『「強い農業」を作るための政策提言 』によると「大規模な農地区画を実現するなどの思い切った政策を導入すれば、復旧、復興の域を超えて、農業を新生することができる。これを全国に及ぼしていけば、日本農業全体の新生につなげることが可能」と言っています

今回の震災でようやく実現できるような大規模化政策が全国モデルとして展開できるはずがありません。日本で大規模農業をすることはそれほど難しいということです。また、世界的な大規模農業というと、豪州は1区画あたりの平均面積は約100ヘクタールです。日本が数ヘクタール程度の区画整備をしても、そんな外国勢とたたかえるのでしょうか。

なにより、「みなさん、震災で土地がグチャグチャになっています。いい機会ですから、大規模区画整備して規制緩和で企業に入ってもらい大規模型農業を進めていきましょう」といった言葉は、現場で苦闘する人たちに対して心を疑われる言動です。現場に根ざした視点、現場で苦労している人たちからの発想が欠けています。それぞれに言いたいことがあるのでしょうが、無理やり震災復興と結びつけていて論理が飛躍しています。火事場泥棒的な発想といえるでしょう。

─現場ではどのような政策が求められているか

酪農家が自殺される事件が先日起こりました。深刻な状況で、現場の方々は今日明日の暮らしをどうしていくか、そして今後の見通しは立つのかを考えて悩んでおられます。農家が作ったものが売れなければ補償し、今後の作付けや販売の見通しを約束すべきです。国の対応が遅ければ、農協などが一時的にせよ、肩代わりすべきです。

東西しらかわ農協(鈴木組合長)は、自分たちの力で打開していかなければいけないと都内で直売会を開くなど必死に取り組んでいます。私も相談を受けました。直売会では野菜からの放射線量をその場で測定し、お客さんに数値を見せて販売しています。

生産者側は積極的に動き、消費者も直売会では午前中で売り切れるほどに反応してくれています。しかしそれらの中間に立つ卸売業者や加工食品メーカーに疑問があります。この期に及んで契約打ち切りや、買いたたく動きがあるように聞きます。「支え合い」と言いながら、もし自分たちだけが儲けるような取り組みをしているのであれば悲しいことです。

─現地に有用な情報が少ないという声があります

放射能の件で言うと、結局、炉心溶融や飯舘村への放射性物質の飛散など、海外から指摘があったのに政府は認めませんでした。ついに、静岡のお茶や岩手の牧草からも高い放射性物質が検出され出しました。

外国の反応は過剰と言って笑っていたのが、実は笑われていたのは自分たちで、情報が無くて「冷静」だった。知らなかったのは日本人だけという話です。パニックを避けたいのはわかりますが、情報が遅れたせいで相当な数の人間が被曝しています。

─311からはネットメディアが独自に取材し、報道していました。炉心溶融(メルトダウン)の危険性やプルトニウムなど放射性物質の飛散を報じたメディアに対し「不安をあおるな」という指摘がありました

日本社会は、情報は出すものでなく隠すもの、操作するもの、という認識が当たり前のようです。しかし、人々の命に直結する情報を隠すことはゆゆしき事態です。隠すことで被曝した方々に将来どのような影響が出るかが心配されます。そもそも、国、企業、学者、報道機関はいままで原発を安全だと言い続け、反対する人を次々とつぶしていき、その結果がこのありさまです。関わった人の責任は、刑事責任をふくめて厳しく問われるべきです。「想定外」で逃げることはできません。想定できたことに準備しなかった責任をうやむやにしてはいけません。

TPPの議論にも同じことがいえます。あきらかに情報操作されています。政府や報道機関は日本社会全体を根底から揺るがしかねない重大な他の情報は出さず農業だけの問題にすりかえ、「農業をなんとかすればTPPに参加できる」と議論をわい小化しようといます。情報操作して、国が間違った方向に行ったとき、誰が責任を取りますか。

─日本はTPPに参加するメリットや問題点などについて、どこまでシミュレーションしてきたのでしょうか

私はいままで自由貿易の交渉に参加してきた経験から、交渉の障害になるものが何であるかわかっています。製造業でいえば繊維、皮、履物などは歴史的に日本は絶対にゼロ関税にできません。またサービス分野、たとえば外国人看護師やマッサージ師の受け入れについても、これまで、かたくなに排除してきております。TPPにおいても「今まで以上のことを考えたことがないし、上からも検討の指示がない」というのが、所管官庁の課長クラスの認識のようです。

実働部隊である各省課長に指示をしていないというのが本当であれば、開国やら、自由化やら盛り上げようとしているが、具体的に何が起こるのかについては、実際はシミュレーションもしていないということになります。いままでとまったく違う次元の協定を議論しようとしているのに、日本が主体的な方針を持っていないというなら、情報操作以前の問題で、いい加減な話です。

─直接TPPと関係ないEUは、日本のTPP関連の動きをどうみていますか

EUの代表部の方が私に質問しました。EUと日本は、WTOにおいて「多様な農業との共存」を重視し、FTAにおいても柔軟性を確保する姿勢は共通しています。その日本がTPPにおいてすべて明け渡してもいいというのは、整合性がとれない、どういう論理なのかと言うのです。私も回答に困りましたが、「あまり悩まないで欲しい、深く考えてないからこうなるんだろう」と言うと納得してくれました。EUからみても日本がTPPに参加することは非論理的だと見えるのでしょう。

日本とEUとの関係で言えば、二国間FTAで予備交渉が開始されることになりました。日本やアジアにとって、米国やオーストラリアといった新大陸に比べて共通性の高いEUとのFTAは真剣に検討する必要がありましょう。EUは、適切な関税と適切な国内対策の組合せによって「強い農業」を追求する政策を実践していますので、TPPとは違い、農業についての着地点を見いだすことは可能だと思います。

─TPPに反対する動きがあります。実際、TPPに参加しないストーリーは描けるか

日本がTPP参加に反対できるのか。日米関係、日中関係をどうするのかに関わって、外交上難しい問題です。TPPに反対するのであれば、現実的な対案を示さなければいけません。

今後、経済成長するのは近隣のアジアの国々です。中国との関係が難しくても、ともに懐深く協力し合って、アジア全体のいっそうの成長につながるような経済圏の足場を固めることは重要です。実は、私も事前交渉の委員の一人として参加し、日中韓FTAの事前交渉が進んでいます。来年早々には政府間交渉を始めることが決定しています。いよいよ日中韓FTAが具体的に動き出します。

TPPのような極端なゼロ関税ではなく、適切な関税と適切な国内対策の組合せによって、参加者全員が総合的に利益を得られるような妥協点を見いだす必要があります。中国は農業については積極的で、いまはコメも含めて全部自由化しようとも言っていますが、投資などについては、日韓が積極的で、中国が防戦しており、最終的には、お互いに例外を認めつつ、柔軟で互恵的な着地点に到達することは可能だと思います。

このように、いままで何十年も実現できなかったゼロ関税の徹底と、ルールの共通化、たとえば弁護士や看護師の受け入れ、そこまでして「最後の砦」を明け渡しても米国への自動車輸出が増えるかもわからないTPPではなく、アジアやEUとの柔軟性ある互恵的なFTAを促進する方向性が、日本にとって現実的と思われます。ただし、その場合は、米国との関係悪化を回避しつつ進めなくてはならないという非常に難しいバランスも要求されます。

─政界でもTPPの賛否は割れている。今後どう進んでいくか

TPPは参加表明国が定期的に集まり協議していますが、そう簡単にまとまりそうにありません。とはいえ、11月にオバマ大統領が生まれ故郷ハワイに錦を飾る時には、大筋合意という形で、とりあえず発足する可能性があります。

その11月までにTPPを本気で止めようとする政治家がどれだけ出てくるかが一番重要です。与野党ともに反対する議員も半数くらいはおられるわけですから、日本の将来に禍根を残さないために、最後まで、信念と覚悟をもって行動して下さることを期待したいですね。「努力したが、結局止められなかった」ではすまない問題だと思います。私も、研究者の立場から、発言を続けます。震災復旧・復興でたいへんな状況ではありますが、TPPについても、全国各地で、政府の方針説明を求めつつ、国民各層を巻き込んだ議論を拡大して行かねばならないと思います。(了)

(取材日:6月16日 取材・構成:《THE JOURNAL》編集部・上垣喜寛・西岡千史)

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■結城登美雄:被災地から考える食の未来──古い大規模価値観から脱却を
■大学に眠るガイガーカウンター──直売所コミュニティが"見えない不安"を解消する

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【プロフィール】鈴木宣弘(すずき・のぶひろ)suzuki2.jpgのサムネール画像
1958年、三重県生まれ。東京大学大学院農学生命科学研究科教授。
1982年、東京大学農学部を卒業後、農水省に入省。2006年より現職。著書に「TPPと日本の国益」「現代の食料・農業問題〜誤解から打開へ〜」など

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2011年7月17日

原発運転再開の先駆となった玄海町長の素性 ── 赤旗日曜版と西日本新聞の報道

takanoron.png 海江田万里経産相が7月4日佐賀県に出向いて「原発は安全です」と宣言して、定期点検で停止中の玄海原発2、3号機の運転再開を迫ったこと自体、大臣が官僚の操人形に堕していることを象徴する恥ずべき光景だが、それを待ってましたとばかり受け入れて運転再開に同意した玄海町の岸本英雄町長のためらいのなさもまた常軌を逸している。

●町長が原発土建のボス

 それもそのはずで、同町長は同原発関連の工事を多数受注してきた地元土建業者「岸本組」の元専務・営業本部長で、今も実弟が社長を務める同社の第2位の大株主。このことは共産党の機関紙『赤旗』が報じ、その後『西日本新聞』がフォローし、さらに一部全国紙もベタ記事程度で報じたが、余り知れ渡っているようではないので、7月10日付『赤旗日曜版』の「玄海町再稼働"容認"の裏側/町長と原発の"利益共同体"」及び同日付『西日本新聞』の「玄海町長実弟企業に原発マネー17億円」の記事から要約紹介する。

 岸本組は、九州電力玄海原発1号機の着工直後の1973年頃から原発工事に参入し、76年には原発サイト内に事務所を設置するまでして、06年8月〜10年4月だけでも少なくとも4億8000万円の工事を請け負っていた。また、同じ期間に同社が町から受注した公共工事は少なくとも22億9000万円で、うち12億2000万円が電源3法に基づく交付金事業だった。それ以外にも、九州電力が20億円を寄付した「早稲田佐賀中学校・高等学校」の工事でも、岸本組は共同企業体に加わって1億7600万円を受注している。

 岸本組は、町長の曽祖父が明治44年に創業した地元名門企業で、町長は1995年に県議に当選するまで同社の専務取締役・営業本部長を務めていた。後を受け継いだ町長の実弟が現在の社長で、その実弟が筆頭株主、町長は今も発行株式の約12.5%を持つ第2位の大株主である。このような、九州電力とベッタリ癒着して利益を貪ってきた直接の利害関係者が、堂々と町長になってはばからないという恥ずべき「原発政治文化」を築き上げてきたのがこれまでの自民党〜経産省〜電力会社の原発ブロックである。

 玄海町の場合、玄海原発1号機が運転開始した1975年度から2010年度までの35年間に町として受け取った電源立地地域対策交付金や核燃料サイクル補助金、広報・安全交付金などの「電源3法交付金」は、総額約267億円。2011年度の同町一般会計予算約57億円のうち、原発関連財源が約6割に達する。原発がなくなれば町の財政が立ち行かないのは明らかで、だからこそ岸本町長は全国に率先、原発再開を認める発言をした訳だが、それはつまり、「命よりも金が大事」という価値観を認めろと町民に迫っているに等しい。

●メールだけがやらせ?

 さてその玄海原発再開を巡って、6月26日に県内ケーブルTVとインターネットで行われた「県民の意見を聞く」ための番組で、九州電力が組織的に社員や子会社社員に「再開賛成」のやらせメールを送るよう指示していたことが問題になっているが、こんなことは今に始まったことではなく、そもそも原発の安全性を国民に植え付けるためのすべてのイベントが「やらせ」なのである。

 『週刊文春』7月21日号は巻頭特集「九電"やらせメール"どころじゃない/東京電力元社員が明かす"ペテン説明会"全手口!」で、経産省や原子力安全委員会が法に基づいて開催する「公開ヒアリング」そのものが、経産省と電力会社による遥かに膨大な「やらせ」であることを暴露している。

 それによると、まずヒアリングに参加して意見を述べる陳述人は、事前に経済産業大臣宛てに、住所、氏名、年齢、職業を明記して、質問内容を1200字以内で書いて、郵送しなければならない。しかし実際には、その陳述人を選定して、その質問内容を作成してその通りに言わせるのは電力会社の役目で、そのためどの公開ヒアリングでも、原発推進派が7割、反対派が3割になるよう割り振られ、しかも会場には必ず「住民」を装った電力会社やその関連の社員や家族が動員され、拍手や野次までもが推進に傾くよう演出されていた。

 つまり、原発そのものが「安全」という虚偽を取り繕うための「やらせ」の上に成り立ってきたということである。単純な話で、原発がそれほど「安全」ならば、何百億もの金を地元に落として「札束でほっぺたを叩く」ことも必要ないし、何度も公開ヒアリングも開くとは無意味だし、そこでの住民の鋭い質問を恐れて七転八倒の「やらせ」をすることもないし、要は自分らが「安全ではない」と分かっているものを押しつけようとするからそんな風にジタバタするのでしょう。石油や石炭やガスの発電所を作るのに、何百億円もの交付金その他を注ぎ込むということはなかったのだから、そういうものを注ぎ込んできたこと自体が、「安全でないものを押しつけることのお詫び料」を払わなければならないという負い目の現れなのでしょう。そういう政治的な原発文化が終わったのである。▲

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2011年7月15日

"脱原発"に暴走する?菅直人首相 ── その踏ん張りを評価する声も・・・

takanoron.png 今週の『週刊プレイボーイ』は「居座る菅をあえて応援したくなる理由」と題した記事を掲げ、「確かに、不人気で政権運営能力にもペケ印がついているけれど、歴代総理がビビッて言い出せなかった脱原発を口にし、原子力から再生可能エネルギーへのシフトを本気で実行しようとしているのは菅首相が初めてだ」と書いた。記事中には、6月30日付本論説でも触れた作家の矢作俊彦も登場し、「電力会社と政界と官僚、マスコミにまたがる『電力権益』側にとって、菅は人間爆弾のようなもの。実際、彼が浜岡原発に停止要請を出した直後に永田町が一斉に"菅降ろし"に走った」「上手にくすぐって脱原発に猛進させればいいんです」と語っている。

 それに応えた訳でもあるまいが、その菅首相は13日の記者会見で、昨年6月に閣議決定した「2030年に原発の発電比率を53%にする」としたエネルギー基本計画を白紙撤回し、「段階的に原発依存度を下げ、将来は原発がなくてもやっていける社会を実現する」と言明した。

 マスコミは相変わらず、「場当たり」「無責任」(日経)、「実行力に疑問」(毎日)、「政権延命のための人気取り」(東京)などと、ほとんど常套化した菅批判の言葉を見出しや社説に散りばめたが、まずは、週刊プレイボーイの言う通り、脱原発を言明した初めての総理大臣としてその蛮勇をまっとうに評価すべきではないのか。

 微妙なのは、まさに13日付朝刊で大軒由敬論説主幹による「提言・原発ゼロ社会/いまこそ政策の大転換を」を掲げて、社を挙げて脱原発路線に踏み切ったばかりの朝日新聞で、14日付では、

▼1面トップで「首相『将来は脱原発』/具体的道筋明言せず」との見出しを掲げ、

▼3面に「方法と根拠示せ」という科学医療エディター=上田俊秀の論説を載せ(何を言ってるんだ、大軒論説だってろくに具体的な道筋を示していないじゃないか)、

▼社説では「政策の大転換である」「首相の方針を歓迎し、支持する」「首相が交代した後も、この流れが変わらぬような道筋をつけてほしい」と言い、

▼さらにその下の「社説余滴」欄では松下秀雄論説委員が「『菅おろし』にみる政治の病」と題して、「『菅おろし』の過熱ぶりに強い違和感を覚える」「指示が遅い、内閣の足並みを揃えてくれ...。それを批判するのは当然としても、『とにかく辞めろ』と騒げば、原発を守りたい人たちと同じ動きになる。脱原発に向かう次のリーダーの目星もつけずに菅おろしを急げば、原発推進派を利する」と書いている(おいおい、朝日の社内の足並みを揃えてくれよ)。

▼加えて、社説の右隣の「声」欄では、「辞めさせれば、それでいいか」と題した47歳会社員の投書をトップに載せている。「1年くらいは菅さんに頑張ってもらっていい」「議員たちは、菅首相を非難する時間があったら、自身の日本再生ビジョンを示してほしい」と(議員たちだけでなくメディアも自身のビジョンを示すべきですね)。

 何とも不思議な紙面構成だが、朝日も、菅さえ降ろせばたちまち世の中がよくなるかのように思い込んだ「政治の病」を克服しようともがいているということである。

 1年は無理かもしれないが、菅首相には、暴走と言われようと何と言われようと脱原発の道を猛進してこの国が後戻り出来ないようにして貰いたい。▲

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2011年7月13日

結城登美雄:被災地から考える食の未来──古い大規模価値観から脱却を

未曽有の被害を出した東日本大震災は11日、発生から4カ月を迎えた。漁港や魚市場など少しずつインフラの復旧は進んでいるものの、岩手県では9割の漁船が喪失し、漁師は仕事を再開する目処すらたっていない。いっぽう、中央目線で発せられる被災地「復興」プランは本当に被災者への支援策になっているのか疑問が残る。東北地方をすみずみまで知る民俗研究家の結城登美雄氏に、農漁村の再興のために必要なことをうかがった。

※ 写真は3月11日以前に結城登美雄氏によって撮影されたものです。

*   *   *   *   *

結城登美雄(民俗研究家)
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復興のターニングポイントは6月18日、震災から100日目でした。

漁師町が広がる宮城県の唐桑半島では、海難事故が起こると"百か日"の供養をします。事故から100日目に薪を焚いて火を灯し、花と供物をそえて沖からの霊を迎えます。事故で身内を失ない、心にさまざまな思いを抱える人たちが集まり、"死"を心に受け止めるのが東北漁村の供養の仕方です。

ちっとも漁村の視点をもたないNHKをはじめとする報道機関は、現場のレポートを延々とやっていました。津波被害の大きかった浜の風習では、身内の人は「区切り」まで被災者との時間につきあいうため隣人、知人、肉親を気にして調子のいい話を一切しません。今回の震災でいえば、6月18日までは死者のための100日なのです。区切りを境に、これからは生きる人間の時間だと立ち上がるタイミングが復興へのターニングポイントです。

──漁村地域の被害が甚大でした

阪神淡路大震災が都市型災害だとすると、地震と津波による今回の震災は農漁村型でした。もっとも被害が大きかった地域が半農半漁の生活を送っていた海辺の町や村でした。彼らは死と隣り合わせになりながら魚をとり、そこで収穫されたものがわれわれの食卓にのぼっていました。今回の震災はそれらを根こそぎさらっていったのです。

水産庁の発表によると、福島県の全漁船数1068隻のうち、8割にあたる873隻の漁船が被災したといわれます(7月5日現在)。全国第2位の水揚量を誇る宮城県、第5位の岩手県の被害はいまだに調査が終わっていないのだろうか、「壊滅的被害」とあるだけで実態はわかりません。岩手県野田村の友人に話を聞いたところ、3つの小さな漁港にあった220隻の船のうち、残ったのは3隻だけだそうです。宮古市では700隻あった船がほとんど全滅。被害額は100億円を超えると言います。宮城県荒浜港では80隻のすべての漁船が陸に打ち上げられ、7人の漁師が死亡しました。岩手、宮城の両県でおそらく9割以上の被害があったのではないかと思っています。

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──結城さんが被災地と連絡を取り合ったのはいつごろですか

被災から2週間が経とうとしたころ、浜の仲間と電話で連絡が取れました。みんなは被災したときの悲惨な状況だけでなく、「もう二度と、あの海のそばには戻りたくない」という言葉を口々に言いました。家と船を失い、漁業を辞めていく漁師たちが出てくるだろうと思いました。

4月に入って初めて被災地を訪ねて歩きました。岩手県陸前高田市、宮城県の唐桑半島、気仙沼市、女川町、石巻市、現場を見て回ると「二度と戻りたくない」という気持ちが痛いほど伝わってきました。しかし現地で会う人々と話していると「もう一度頑張ってみようかと思っている」とわずかな時間で心境の変化が見られたのです。

自然の厳しさを知っていると同時に、自然の豊かさを知っている、それが漁民なんです。彼らは過去に何度も津波に遭い、犠牲を出してきました。この震災を受けてわれわれが想像すべき事は、漁民がいなくなることが何を表すかです。私たちに代わって危険を冒しながら魚をとってくれる人々がいなくなるということで、私たちの食糧危機と密接に関わっています。

──さまざまな「復興」プランが出ております。村井宮城県知事を中心にまとめられた「宮城県震災復興計画」は、被災者を高台に移住させて大規模農地にする「高台移転」「職住分離」や、漁港を3分の1に集約再編するプランがあります

「ここで生きていこう」と思う人間とつきあうならば、現地に行って被災地をご覧なさい。高台と言われても、「高台なんてどこにあるんだ」という浜はゴロゴロあります。どうも「復興」プランは現実味がないほど、わかりやすくウケがいいようです。

現地で話を聞いてみれば、被災地で時間が無為に流れているとは思わないはずです。彼らは隣人、知人、肉親のことを思いながら一生懸命に生きています。「こんな情けねえ姿になったけど、本当はいいところなんだ」と彼らは言います。「本当はいいところ」という現場の想いとつきあわないといけません。その想いをモノサシにすえて、暮らしの場所を取り戻すような「復興」プランがいまは求められているのだと思います。

町の姿は壊れたように見えるかもしれませんが、人々の心は壊れていません。お願いだから、彼らのことを優柔不断とか、落ち込んでいるとか言いなさんな。

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──出荷できるかわからない生産者のリスクをどう考えますか。公開自主検査をする直売所「みずほの村市場」を取り上げましたが、生産者が安心して食べものを作れるしくみが必要では

食べ手とつくり手が信頼関係で手を結び合う「CSA(Community Supported Agriculture)」がヒントになります。それは生活協同組合などが取り組んできた「共同購入」から一歩進めた考え方です。たとえば、食べる側が海産物を毎月平均5,000円支出しているとすると、年間6万円を漁師に前払いしてみてはいかがでしょうか。6万円が100世帯集まれば600万円になります。いくらなら漁師の生活が成り立つか、食べる側が無理がないかをお互いに相談しながら定期的に海産物を届けてもらえる関係ができれば互いの暮らしが豊かになるでしょう。

自然を相手にするのがどれほどリスクがあるか、今回の震災でわかったと思います。リスクを生産者だけに押しつけて「見た目がいい魚だけ買ってやるわい」なんて。リスクも消費者がシェアする考え方が大切です。もしかするとこのような考え方は、若い世代しかわからないかもしれません。船を出したら魚が捕れる保証なんてありません。種を蒔いたら野菜がとれるとは限りません。食べるということは自然というリスクの上に成り立っているのです。

相変わらず農地の大小や船の大小で判断する古い価値観が政治や行政、さらには市場にあるようですが、今回の大震災はそこからの脱却を私たちに問うているのではないでしょうか。

(取材・構成:《THE JOURNAL》編集部 上垣喜寛)


【関連記事】
■100日目の供養 前へ進むため「区切りが必要」(産経新聞 2011.6.10)
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110610/dst11061021280029-n1.htm
■鳴子の米プロジェクト─「消費者」から「当事者」へ(結城登美雄「地元学からの出発」)
http://www.the-journal.jp/contents/yuuki/2010/03/post_1.html

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【プロフィール】結城登美雄(ゆうき・とみお)110712_yuuki7mono.jpg
1945年、中国東北部(旧満州)生まれ。宮城教育大学、東北大学大学院非常勤講師。「地元学」の提唱で2005年芸術選奨・文部科学大臣賞受賞。著書に「地元学からの出発―この土地を生きた人びとの声に耳を傾ける」(農文協)「東北を歩く―小さな村の希望を旅する」(新宿書房)など

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2011年7月12日

「TPPの仮面を剥ぐ」ジェーン・ケルシー教授が来日

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日本では医療など規制改革をふくむ自由貿易協定「TPP」が"錦の御旗"のようにいわれているが、「参加国の経済の大半はアジアおよびPacific Rim(環太平洋地域)において、または米国にとって限られた地域的重要性しか持っていない」「TPPから大儲けが得られると予測した研究はいっそうもっともらしくないことになるだろう」「TPPについての経済的論拠はニュージーランドにおいては声さえ聞こえなくなった」と外国からの目線でTPP批判する書籍が出版された。

その書籍「異常な契約-TPPの仮面を剥ぐ(原題:No Ordinary Deal 農文協)」を編著し、ニュージーランドでTPP反対論を展開してきたオークランド大学のジェーン・ケルシー教授が来日し、12日から仙台、札幌、そして東京で講演(一般公開・参加費無料)する。

2010年3月から始まったTPP交渉は、6月にベトナムで開かれた会合で7回を数えたが、交渉が順調に進んでいるとは言い難い状況だ。米国をはじめ、TPPに疑問を投げかける声、反対する動きは広がりつつあるものの、各国内だけでとどまっているのが現状だ。ケルシー教授は滞在中にTPPに関係する諸団体との会合が予定されており、今後業界や国境をこえた連携が起こるきっかけになると目されている。

<講演詳細(東京会場)>

日時:7月14日(木)13:30~
内容:13:30〜ジェーン・ケルシー教授の講演
   14:30〜ケルシー教授+榊原英資(青山学院大学教授)パネルディスカッション
場所:憲政記念館「講堂」
東京都千代田区永田町1-1-1
アクセス:東京メトロ「永田町」駅2番出口から徒歩5分
参加費:無料
主催・問合先:TPPを考える国民会議(座長・宇沢弘文)
03-3288-1154

※東京会場のみ同時通訳となります。7月12日、13日の仙台、札幌会場については「TPPを考える国民会議」HPをご覧下さい。

【関連記事】
■村上良太:TPPを考える1冊 「異常な契約 TPP」(No Ordinary Deal)
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2011/02/tpp1_tppno_ordinary_deal.html
■TPPは11月すべりこみ参加!? 再出発の「TPPを考える国民会議」で反対論
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2011/05/tpp11tpp.html

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2011年7月 7日

石川知裕:最後に特捜部にエールを送って、この事件を終わりにしたい

東京地裁は6月30日、陸山会事件で検察から証拠請求されていた調書を大量に不採用にした。調書が不採用となったことで検察側の立証が困難になるのは必至で、判決にも大きな影響を与えることは確実だ。調書の不採用を受け、被告人の一人である石川知裕議員に話を聞いた。

※インタビューの最後に、7月7日に発売された石川知裕議員の新著『悪党 ── 小沢一郎に仕えて』の紹介コメントも掲載しています。

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石川知裕氏(衆院議員)

──東京地裁は6月30日に陸山会裁判で石川議員ら3人の被告の調書を却下しました

裁判官は公正中立な立場で判断をされるわけですが、決定を聞いてうれしかったです。

──調書はどの程度の数が不採用になったのでしょうか

大久保、池田、石川の3人で38通の調書があり、私の調書については15通のうち10通が完全に不採用、残り5通が一部不採用となりました。

やはり大きかったのは、聴取を録音をしていたことによって水掛け論にならなかったとです。この点に関しては、録音をすすめていただいた佐藤優さんに非常に感謝しています。また、取り調べの可視化にも一つの前進になり、特捜部の手法そのものも今後問われてくるのではないかと思います。

──被告の主張によって、これほど大量の調書が不採用になったのは異例ですね

東京地検特捜部が証拠請求をした調書が、これだけの数で不採用になるのは例がないと聞いています。いままでは検面調書の特信性が絶対的な信頼を裁判所に与えていたわけですけが、近年の特捜部の手法が裁判所に不信感を与えたのではないでしょうか。

私は、検事ひとりひとりが不正を行っているわけではないし、立派な方々だと思います。正義感に燃えて、国家にのために巨悪をのさばらせないために働いているのだと思う。私自身も、検察官個人に対して恨みはありません。しかし、組織体として動くと、特捜部長をはじめ配属された検事が、特捜部に在籍している約2年間で「何か成果を出さなければ」となる体質に問題がある。佐藤優さんはこれを「集合的無意識」と話していましたが、全体の意思として動いてきたことを変えなければいけない。そのきっかけとなる調書不採用だったのではないでしょうか。

──裁判を振り返ると、検察側の主張は、経理作業も含めて「完全無欠の小沢秘書軍団」をアピールして、一方で3人の元秘書が法廷で語る小沢議員の秘書の実務の実態がかなりかけ離れていたように感じました

そのとおりですね。私の発言でも、当時の経理作業について「合理的に説明できない」という言葉が広がっていましたが、あの発言は、「その時その時に処理しようとしてきたことを、後から一本の線で理屈につけて説明するのは難しい」という意味で、やった行動のすべてが不合理だという意味ではないんですよ。秘書時代は、3月31日に政治資金収支報告書を提出する前にバタバタとやらないといけないぐらい経理以外の仕事が忙しかったですし、それが当たり前だと思っていました。

だから、問題はこの後です。名ばかり会計責任者をどうするのか。大久保さんは何も知らなくて、私や池田がハンコを借りて、会計責任者として押印していた。では、私や池田が特殊な事例かというと、少なからぬ事務所ではそういったことが行われていたはずで、それは改めるべきだと思います。ですので、いまの私の事務所では、ちゃんと公認会計士を入れて、監査をやるようにしました。将来的には、監査法人のチェックを受けるように法制化する必要があるかもしれません。

一方で、私自身の調書が大量に不採用になったことで、これからまた特捜部の闘いになるのではないかと感じています。これは心の根の部分にあります。

──特捜部との闘いになるとはどういうことでしょうか

特捜部としては名誉を傷つけられたわけです。「石川が政治家をやり続けるかぎりはやってやる」という、そこはかとない恐怖があります。

──判決で仮に有罪となった場合、公民権停止で失職となる可能性もありますが

政治家にとって、やはりそれは気になるところです。ただ、まだ若いですし、これまでが順調な人生だったのかもしれませんし、頑張るしかないと思います。それも運命です。しかし、調書がこれほど不採用になるということは、この裁判が時代の真ん中にある裁判だったことは確かだと思います。

──メディアについてはどのように感じていますか

私は、今回の調書不採用によって、記者の情報の取り方について一石を投じたと思います。リークというのはスクープなんですが、これは最高裁でも認められている権利です。ただ、検事と私しか知らないはずの調書が、次の日に新聞に載っている。それでは公務員の守秘義務はどうなってるのかと。こういうリークが報道されることによって、あたかも事実であるかのように定着してしまう。これは大手マスコミが考えないといけないひとつのきっかけになると思います。

──これからの検察のあり方についてどう考えていますか

土地の取得時期を翌年にずらしたということで、収支報告書の記載について疑われるところがあったことは確かです。ただ、特捜部がこれだけの人員を使って、これだけの長期間の捜査をする事件だったのかはよく考えてもらいたい。もし、判決で我々が無罪ということになれば、おそらく検察は控訴してくるでしょう。しかし、特捜部には落ち着いて考えてもらいたい。我々もそこまでの事件だったのかと思いますし、特捜部にも「お互い冷静になって考えましょう」ということを言いたい。

私は、特捜部に対しては「本当の巨悪を捕まえてくれ」というエールを送って、この裁判を終わりにしたいと思っています。

   (構成:《THE JOURNAL》編集部 西岡千史)

▽   ▽   ▽

■石川知裕氏 新刊『悪党 ── 小沢一郎に仕えて』
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『悪党 ── 小沢一郎に仕えて』(石川知裕 著/朝日新聞出版社 刊)

(石川議員からのコメント)
小沢一郎さんに関連する本は国会図書館で調べると100冊ぐらいありますが、きわめて肉声が少ないんです。この本では、小沢さんの肉声と行動原理を書きましたので、他の小沢本にはない特徴があると思います。

5月30日に小沢さんと行った対談も収録してますので、内閣不信任案のことについても触れています。新聞にも出てますけど、民主党は経験を積まずに偉くなった人ばかりだと語っていて、こういう危機のときにはどういう判断をとらなければいけないのかという話をしています。

そのほか、小沢さんのものぐさなところや、もう少しいろんな人に電話をかけたりすればクリアできた問題もあったのではという思いを、内側の目線から書いています。

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2011年7月 5日

菜の花・ヒマワリで放射性物質を吸収せよ! ── 植物による土壌浄化の可能性と課題

福島第一原発の事故による放射能汚染が深刻化する福島県で、いま、植物を利用した土壌浄化の取り組みが注目されている。農水省もすでに5月に実証実験を開始していて、8月中に検証結果をまとめ、農地の放射能汚染の回復に活用する計画を立てている。そこで、本誌編集部はこのプロジェクトに関わっている篠原孝農水副大臣にインタビューを行い、植物による土壌浄化の可能性や今後の課題について聞いた。

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篠原孝氏(農水副大臣)


── 植物による放射能汚染の浄化について、現在は研究段階ということですが、実現性はどの程度あるのでしょうか

植物による土壌浄化はチェルノブイリで行われていています。菜の花は土壌からセシウムを吸収する上に、収穫したナタネからバイオディーゼルを搾油でき、搾りかすや茎葉を発酵させて、メタンなどのバイオガスの生産も可能です。セシウムは水溶性で、油とは相容れません。ですので、菜の花やヒマワリを栽培しても、そこからとれる油に放射性物質はほとんど含まれません。発酵残渣には放射性物質が含まれますが、バイオガス自体には放射性物質は含まれないことがわかっていて、発酵残渣から放射誠意物質を分離することができれば、放射性物質だけを回収することも可能です。

ただ、植物による土壌浄化が行われても、放射性物質が消えるわけではありません。なので、発酵残渣から放射性物質を分離させ、容器に閉じ込め、最低でも放射性物質が無害化するまでの約300年間を地中で眠らせる必要があります。これには莫大なコストがかかるのですが、やる気になればできると思っています。

── 菜の花に注目している理由は

菜の花は日本で消えてしまった代表的なものです。日本の国土と相性が良く、かつては春になれば菜の花が咲き、収穫後はナタネ油をとって利用されていました。菜の花は循環型社会にも適応できる作物で、もっと活用されるべきなのですが、それが外国産の大豆油やナタネ油にかわり、国産のナタネ油はほぼゼロになってしまいました。いまでも残っているのは、観光資源としても有名となった青森県の横浜町やさつま揚げに不可欠な鹿児島県などわずかです。それでも、菜の花は日本中のどこでも作れるし、中山間地域の遊休農地でも簡単に作付けできますし、景観作物にもいい。また、廃油からバイオディーゼルも作れますので、循環型社会にピッタリの象徴的作物です。いまでは農業者戸別所得補償の対象作物に入っています。

また、菜の花と同じようにセシウムを吸収する性質のあるヒマワリを使って、二毛作ができるのではと考えています。菜の花は10月上旬までに種を蒔き、翌年6月収穫できます。その後にヒマワリの種を蒔けば、8月に収穫できるので、1年に2度、放射性物質を吸収する作物を収穫できるのではと考えています。ヒマワリに限らず、どのような作物と輪作すればいいのかを実証することも必要です。

──今回の原発対応では、表土を取り除くべきとの意見もあります

「表土を削る」と簡単に言いますが、削り取った土壌をどこに持って行くのでしょうか? たしかに、すべての土を削ってそれぞれの農地の一画に集めることは可能でしょう。しかし、日本には地震があり、津波があり、洪水もある。汚染された土を集めた場所に水害が起これば、放射性物質が流れ出てしまう危険性もあります。いまでも学校の校庭から削り取った土をどこに持っていくかが問題になっていますが、土を削り取るだけでは物理的に限界があるのです。なので、植物を使って放射性物質を吸収、分離してから集めるという方法も重要になります。チェルノブイリで試されている様々な手法を検討しながら、土壌を削ることも含め、最も安全で効果的な方法を考えなければなりません。

── 課題はどこにあるのでしょうか

一番は予算の問題です。予算があれば、放射性物質を大量に分離することも可能だと思います。ただ、このプロジェクト自体は現在は実験段階で、どれくらいの予算規模になるのかもわかりません。今後、さらに放射能汚染が拡大する可能性もあります。だからといって、汚染問題の解決には放射性物質を分離するしかないのです。また、分離した放射性物質をどこに保管するかも問題となります。地震や津波の影響を受けない固い岩盤の場所に穴を掘り、埋めるしかありません。これも難しい問題です。

── そのような予算は計上できるのでしょうか

予算については、まずは東京電力の責任です。一方で、原発は国策ですから国の責任もあります。もちろん民主党にも責任があります。民主党は政権をとってから、2030年までに現在54基もある原発を14基増やし、原発発電割合を30%から50%に増やすという狂った計画を立てていたのですから。

チェルノブイリではいまでも常時5,000人が原発の地域で作業しています。作業員は2週間サイクルで作業し、60キロ離れたところから電車で通っていてます。現在は、ボロボロになったコンクリートの石棺をさらに鉄で覆う工事も行われていますが、それも100年しか持たず、その後も放射能を出し続けるそうです。こういった状況を考えただけでも、地震の多い日本に原発はあってはなりません。

── 農水省は福島県飯舘村で行われている実証実験を開始していますね

飯舘村で実証実験を開始したのは、放射能汚染に悩んでいた菅野村長が、「ヒマワリと菜の花で除染をやりたい」と話していたからでした。5月28日には鹿野農水相が飯舘村に行ってヒマワリの種を蒔き、夏には結果も出るはずです。

この実証実験により、汚染された土壌でどの作物がどの程度の放射性物質を吸収するのか、植物のその部分に放射性物質がたまるのかという移行係数を日本が検証し、世界に示さなければなりません。また、検証するだけでなく、除染に役立てなければいけません。

「放射能汚染されているから畑を耕してはいけない」と言われても、作物を作らなければ、雑草と木が生えてきて畑が荒れます。汚染度の低い地域については一時的に帰宅し、除染作物を植えるなどの農作業を行うということも必要となるのではないでしょうか。

── どのような手法にせよ、放射能除染が長期間の作業になることは確かです。いま、篠原さんが副大臣としてやりたいことは何ですか

1951年に丸太の関税が無税になり、1964年には輸入木材に対する外貨割当制度が廃止され、いわゆる「貿易自由化」がされたことで、日本の林業は大きな打撃を受けました。その後、山は手入れされなくなり、世界から「日本は汚い」と言われながら、木材は安い木材を大量に他国から買ってきました。その結果、中山間地で暮らせる仕組みがなくなり、いびつな人口配置になってしまった。それにもかかわらず「東京の税金で地方を食わせてやってる」と考えている人がいる。とんでもないことです。電力だって食料だってみんな地方からのもので、その恩恵で都市住民は生活しているのです。

岩國哲人さんは「鄙の論理」で島根県で真面目に育ち勉強して大学に行っても、みんな仕事が無くて地元に戻ってこないので、毎年200万円を大阪や東京に投資していると言っています。日本のように繁栄している国で、これほど地方がガタガタになっている国は世界にありません。都市部に金・人・情報が集中し、政府もそれを是正する対策を講じてきませんでした。もっと地方で暮らしていける仕組みを作らないといけません。

こうした状況を是正しようと、震災後、ふるさと納税の額が10倍に増えていると聞きます。ないよりましですが、善意に頼り、施しを受けているようなものはダメで、政策の中に都市部から地方への所得移転の仕組みを入れ込むべきです。

食料が安すぎて農業で食えない、山を切り出すだけでは赤字になるから林業では食えない。そういう状況になっているのに、「TPPに参加せよ」という話もある。私は、「原発とTPPは日本に必要ない」ということを今後も訴えていきたいです。

(取材・構成:《THE JOURNAL》編集部 上垣喜寛・西岡千史)

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2009年11月、日刊工業新聞社

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