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2011年6月30日

菅首相の開き直りが面白い ── 再生エネ法案をやり遂げて花と散れ!

takanoron.png 菅直人首相が民主党執行部からさえもほとんど見放された格好で、政局論の常識からすれば「見苦しい」とか「異常な権力執着」とか言われるのも当然だが、彼はそんなことは百も承知で、28日の民主党両院議員総会でも「皆さんからすればなぜここまで頑張るのかという見方もあるのかもしれないが、私自身は私のことだけで言っているのではなく、(次期首相に)安定的に引き継ぐということで、私個人が何かを得たいとかいうことではない」と言い放った。何を次に引き継ぎたいのかと言えば、同じ席での発言・・・

▼第2次補正予算案、特別公債法案、再生エネルギー法案の成立が退陣の条件だ。

▼エネルギー政策をどのような方向に持って行くかは次期国政選挙でも最大の争点になる。

▼残された期間で原子力行政に禍根を残さない方向性を示したい。時間の許される中で方向性を打ち出すところまでやらせてほしいという意味だ。

 2次補正と特別公債法案は、誰であってもすぐやらなければならないことで、中身はともかくそれを早期成立させることについては議論の余地はない。真の争点は、再生エネ法案を菅政権の置き土産とするのかどうかで、菅はそれによって「脱原発」への方向性を確かなものにして辞めようと思っているのに対して、そうはさせじとという勢力が自民党から民主党内に跨がって強固に存在していて、1日も早い菅退陣を策している。私は、菅政権が続くことを願っているわけではないし、実際に続かないだろうとも思うけれども、事ここに至っては、彼があらゆる永田町的な政局論に逆らって図々しく開き直り、再生エネルギー法案を何としても押し通した上で、花と散って欲しいと思う。それがせめてもの罪滅ぼしということだろう。

●自然エネルギーへのこだわり

 菅の自然エネルギーへのこだわりは昨日今日の話ではない。6月27日付朝日新聞1面トップ「電力の選択」シリーズ第1回が書いているように、彼は1980年に社民連から初当選して間もなく、三宅島に東電が試験的に建てた100kW級風力発電2基を視察し、82年の初めての質問で自然エネルギーを「未来永劫、無限に再利用できる」と訴えている。民主党に移ってからも、03年総選挙で党代表として自然エネルギーの買い取り制度を公約に掲げ、それは09年総選挙での公約にも一応、引き継がれている。

 と言っても、民主党の原発政策は右往左往の連続で、98年の民主党再結成以来、原子力を「代替エネルギー確立までの過渡的エネルギー」と位置づけていたが、06年に小沢一郎が代表に就いて以後、日立労組出身の大畠章弘(現国交相)を中心に「エネルギー安全保障上、欠かせない恒久的エネルギーとして積極的に推進する」という方向で政策転換しようとする動きが活発となり、しかし旧社会党出身者を中心にそれへの反発があって、07年マニフェストではむしろ「再生エネルギー導入の強力な推進」が強く謳われた。それを09年マニフェストは買い取り制度にまでもう一歩、踏み込んだわけである。

 このあたりのせめぎ合いに菅がどう具体的に絡んできたのかは詳らかでないが、前掲朝日によると、フクシマ後、「菅は『電力改革のチャンスだ』と周辺に力ん」で、5月以降、浜岡停止要請、2050年に原発50%とした鳩山時代の政府エネルギー計画の白紙化、電力会社から送電部門を切り離す「発送電分離」、G8サミットでの太陽光パネル1000万戸構想、と踏み込みを続け、その直後から自民党を震源地とした「『菅降ろし』は勢いを増す」のである。民主党内で鳩山由紀夫前首相と小沢グループがそれに呼応して、菅は結局"辞任表明"に追い込まれるが、そこには「浜岡停止の要請後、東電・経産省連合の巻き返しは凄まじかった」と菅が漏らすような闇の力が働いていた。

●菅さん頑張れと投書

 菅の辞任表明をもたらしたこのアホくさい政局の主因は、菅自身の政治的無能と人格的欠損にあることは言うまでもないが、その底流にもう1つ副因として、彼の脱原発&自然エネルギー志向を再生エネルギー法案として実体化しようとする意思と、それを何としても阻止してその前に彼を辞任に追い込もうとする旧体制の覚悟とのせめぎ合いがあることは疑いがない。

 前掲朝日の記事の見出しは「自然エネルギー、阻む政官業/『電力権益』構造脈々」である。菅の主観では恐らく、自身の脱原発=自然エネ志向が「菅降ろし」の主因であると映っていて、それに屈して辞めたのでは成仏のしようもないという思いが強まっているのではないか。

 私も、一般論としては、男(女でもそうだが)は引き際が大事で潔くすべきだとは思うけれども、そこに脱原発の流れを阻止しようとする自民から民主内部、経産省、電力とその身内の経団連等々、政官業癒着の旧体制による策謀が働いているのだとすれば、少なくとも再生エネルギー法案の成立までは「菅、頑張れ」とエールを送りたい。

 朝日新聞も、そういうつもりで27日付の記事を掲げたのだろうし、さらに翌日の「声」欄トップに「再生エネ法案成立まで政権守れ」という茨城県つくば市の鍼灸師69歳の投書を持ってきて、社説では言い切れないことを言わせたのだろう。その全文は次の通り。

▼菅直人首相は、党内外からの圧力にもかかわらず、少なくとも、自然エネルギーの全量固定価格買い取り制度実施を目指す再生可能エネルギー特別措置法の成立までは辞任しない考えのようだ。この点に限って私は、菅さん頑張れと言いたい。

▼本紙の世論調査では、原発を段階的に減らして将来はやめることに74%が賛成と答えた。しかし、代替となる自然エネルギーの発電コストは、かなり割高なので、政策による支援なしには、普及が期待できない。従って、電力会社に買い取らせるという、一種の大胆な「補助金」を投入する制度が欠かせない。

▼ドイツ、スイス、イタリアでは明確な「脱原発」の民意が示された。日本では、電力網がつながっている欧州各国と違って、電力を輸入するわけにはいかない、などの理由を並べて、脱原発や再生エネ法に反対する勢力が頑として存在している。

▼本当は、福島第一原発事故はいまだ解決の見通しが立たず、地震国なのに全国に54基もの原発を抱えている日本こそ、世界に先駆けて脱原発をめざすべきである。日本国民の固い意志と団結、そして高い技術力をもってすれば、必ず可能であると信じている。

 ネットで話題になっている、巨匠=宮崎駿の「自然エネルギー法案をぜひ通して下さい」という「菅直人へのメッセージ」や、作家=矢作俊彦のツイッター発言「鼻をつまんで菅を支持する」も、同様の趣旨である。矢作は言う。「王様と臣や敵軍にはただ一点、違うところがある。原発に対するスタンスである。彼だけが再生可能エネルギーへの転換と原発の(段階的)廃止を主張している。そして――ここが肝心だ。彼がそれを言いだしたとき、家臣と敵軍は王様を玉座から下ろそうとし始めた」と。

★宮崎駿:http://ameblo.jp/toseinin-tora/entry-10929896363.html
★矢作俊彦:http://togetter.com/li/153442

 賛成である。このまま「菅降ろし」のグチャグチャの流れの中で次期政権が生まれれば、そもそも新首相が菅とは違って何が出来るのかという問題はさておくとしても、脱原発志向でない政権になるのは恐らく確実で、それを防ぐには、菅が何としても再生エネルギー法案までやり遂げて、この方向性を堅持することを次期政権に託すと言って辞めるようにして頂きたい。

 ここに日本再生と東北復興の鍵がある。そこを抜きにした政局与太話はもういい加減に止めて貰いたい。▲

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2011年6月27日

大学に眠るガイガーカウンター──直売所コミュニティが"見えない不安"を解消する

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 3月11日の地震と津波、発生から3ヶ月たった今もなお大きな脅威がある。それが東京電力福島第一原子力発電所から飛散した放射性物質だ。DAYSJAPANの広河隆一さんがいち早く現地に行き、携帯していたのが大気中の放射線量を測定する放射線測定器、ガイガーカウンターである。種類は様々で、安いものは5万円から、量販店や通信販売でも売り出している。
 震災後まもない3月下旬、茨城大学の高妻孝光(こうづま・たかみつ)教授は、大学が保有する放射線測定器をある場所へ持ち出し、無償で計測していた。その場所とは研究都市で有名なつくば市にある直売所「みずほの村市場」(以下、みずほ)である。みずほは高妻教授の協力を得て、直売所に出す野菜の放射線量を自主検査している。

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会場は直売所に隣接する加工所。茨城大の学生が助っ人に入って測定する

 みずほは国よりも厳しい基準を設けて一検体当たり10分程度かけて測定し、超えたものは店頭に並べない。文科省は今から9年も前の時点で「緊急時における放射性ヨウ素測定法」(pdf資料は→コチラ←)を取り決めており、みずほではそれに従い測定している。
 国内の大学にはほこりをかぶった放射線測定器がたくさんある。茨城大学でもガイガーカウンターと同部類のGM計数管を3台、シンチレーションサーベイメータを2台保有している。大学が研究用に持っているもので、今まで決して外部に持ち出すことはなかった。

★ 消費者に隠れた生産者の不安感 ★

 3月19日枝野官房長官が茨城県内のホウレンソウから食品衛生法の暫定基準値(2000ベクレル/kg)を超える1万5020ベクレルの放射性ヨウ素が検出されたことを発表し、茨城県は各市町村と農協に「出荷制限」の要請を出した。

「消費者よりも不安なのは生産者だ」

「出荷制限」以降の出荷者の顔は青ざめていたとみずほの長谷川社長は言う。ホウレンソウはダメで横に植えられているキャベツやコマツナは大丈夫なのか、土壌の放射線量は危なくないのか、一方的な国からの出荷制限はいつ解除されるかもわからなかった。
「出荷制限」は一度出ると、たとえ線量がゼロであっても出荷制限解除されるまでに最低でも約1ヶ月の時間を費やす。さらに出荷できたとしても卸売市場で値段はつかない。出荷制限発表後の東京の大田市場では、ホウレンソウ以外の野菜ですら山積みにされ、卸値は下落した。(「ホウレンソウ取扱量、東京で半減 4県産出荷停止受け」朝日新聞2011.3.22)

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「政府は出荷制限すれば消費者は安心すると思ったのだろうが、それは大間違い」と長谷川社長

 自分自身で測定することが必要だと思った長谷川社長だが、JGAPなど外部機関での測定を依頼すれば、一検体当たり4時間程度の時間と約2万円の費用がかかり、コストが上がる。そんな時に高妻教授と偶然出会い、自主測定が実現できた。大学から測定器を持ち出すことは教授自身の気持ち次第だ。高妻教授はいまでは直売所での測定を研究の一環と位置づけ、学生が手伝いやすい環境にしている。
 みずほの自主測定の結果、みずほの基準値を超えた作物もあった。2.5ヘクタールで野菜を育てる女性農家はチヂミホウレンソウが基準値を超え、約30万円の損失が出た。「30万円の損失はきびしい。でもみずほの検査に出してなければ今後の作付け計画もたてられず不安だったでしょう」現在はサツマイモや落花生など次のシーズンの作物に取りかかっている。次の作付けができることは農家にとって安心して暮らせる大きな要素だ。

★ 疑問を共有するコミュニティを ★

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次第に落ち着きを取り戻していったみずほの店内

 政府が断片的な情報を出し、不安感は一気に広がり、みずほの売上は一時通常の半分になった。事故以来、政府は「市場に出回っているのは基準を超えていないものです」と野菜を食べながら話す光景は何度も放映された。しかし消費者の不安は解消されておらず、北関東、東北産の農水産物を避ける人はいまだに少なくない。
 みずほの公開測定会に参加した消費者の一人は「野菜は洗えば放射線量の数値が下がる、大根の葉には放射性物質が残りやすいなど、自分の目で数値を確認してようやく納得できた」"見えない不安"が取り除かれていった経緯を語った。

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店内には子どもがたくさん

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カゴに入ったニワトリ。店内には動物まで

 "見えない不安"をどうやって解消するか。食を通じたコミュニティに注目するのは阪神淡路大震災などの被災状況を調査してきた中村幸安(なかむら・こうあん)氏だ。「『どうしてこのホウレンソウだけ残留線量があるんだろう』『あ、生産者が違う、地域が違う』と共同で放射線量を測定すれば、疑問を共有してそこからまた新しい問題意識が芽生えます。都会のコミュニティに共通してるのは消費すること。小さなグループでもいいから共同で食べ物を消費し、問題意識を共有することに価値があります」と一人で問題を抱えるよりも共有することの価値を訴える。(了)

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みずほの動物たち

(文:上垣喜寛(《THE JOURNAL》編集部) 写真:高木あつ子 取材日:4月29日)

★ ★ ★ ★ ★

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 この記事は農文協の許可を得たダイジェスト記事です。「みずほの村市場」のくわしい取り組みのほか、菅野飯舘村長のインタビュー、この震災で活躍した各地域については最新号「季刊地域」(農文協)掲載されています。全国の書店で発売中です。

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2011年6月24日

原発は、もう終わった!(その4)── 水素エネルギー社会への道程

 前稿で天然ガス火力の優位性について述べたが、追補的に言うと、実は石炭ガス化火力というのも馬鹿にならない。石炭は、石油や天然ガスに比べると遥かに埋蔵量が豊富で調達コストも安いが、環境汚染度が酷いということで「過去の燃料」のようにイメージづけられてきた。しかし実際には、3大エネルギー消費大国である米国が50%、インドが70%強、中国が80%を石炭に頼っていて、石炭は依然として世界の電力源の主流に居座っていると言って過言でない。日本でも1次エネルギーの25%が石炭である。

 石炭をそのまま、あるいは微粉炭にして燃やすのでは、CO2、SOx、NOx、煤塵などの大量発生は避けられず、中国のそのような旧式石炭火力から排出される汚染物質が黄砂に乗って日本にも飛来し、それが土壌汚染による森林破壊の一因となっているとも言われている。が、電源開発や日立などが担う日本の石炭火力技術は世界最先端で、石炭をガス化して燃焼させてガスタービンを回すだけでなく、その排熱をボイラーで回収して蒸気を発生させて蒸気タービンも回す《コンバインドサイクル方式》を採用することにより、発電効率を50%程度まで向上させ、さらにこれと燃料電池による水素発電を組み合わせて三重に発電する超複合発電も開発されつつあるし、またその過程で発生するCO2を回収して廃棄する技術も進んでいる。

 私は、原発輸出などとんでもないことで、日本の誇るべき天然ガス火力の技術と並んで、この石炭ガス化の複合発電、超複合発電の技術を特に中国、インド、米国の3大石炭火力依存国に提供することが、CO2削減への決定的な世界的貢献となるのではないかと思っている。

★日立の石炭火力:http://www.hitachi.co.jp/environment/showcase/solution/energy/coal_thermal_power.html

★電源開発の石炭火力:http://www.jpower.co.jp/company_info/rd/index.html

●水素エネルギーとは何か

 さて、水素である。本連載ではこれまで、"脱原発"の当面の決め手は天然ガス火力の増強であり、それで過渡期を凌ぎつつ太陽光や風力など自然エネルギーの開発と普及を思い切って進展させ、将来的にはそれら自然エネルギーを水素ベースで統合する「水素エネルギー社会」の実現を目指すべきだという趣旨を述べてきた。が、なぜ水素なのかについては説明してこなかったので、ここで私の理解する限りをまとめておきたい。

 水素エネルギー社会を目指すべきであることについては、例えば日本の新エネルギー研究開発の管制塔である「新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)」ホームページ→「よく分かる!技術解説」→「燃料電池・水素」の項は、「地球温暖化を抑制する水素エネルギー社会を目指して」というタイトルで、「水素は次代を担うクリーンエネルギーとして注目されており、水素の安全な製造、輸送、貯蔵、充填など、水素利用のトータルシステムを構築するための技術開発が期待されています」という書き出しで始まっていて、またその文中でも、(1)水素は化石燃料やバイオマス、水などさまざまな原料から製造できること、(2)燃料電池自動車や家庭用、業務用のエネルギーとしての様々な用途に利用可能であること、(3)燃やしてもほとんど有害ガスが出ないクリーンなエネルギーであること、(4)特に燃料電池自動車は水素エネルギー社会の牽引役を担うものとして大いに期待されていること----などが強調されている。

 また経産省の「燃料電池実用化戦略研究会」」は、燃料電池導入の意義として(1)省エネルギー効果、(2)環境負荷低減効果、(3)エネルギー供給の多様化・石油代替効果、(4)分散型電力エネルギーとしての利点、(5)産業競争力強化と新規産業創出」5項目を挙げ、燃料電池を21世紀のエネルギー・環境分野におけるキーテクノロジーと位置付けている

 ところが世の中の報道や論評では、「自然エネルギー」について語る際に、太陽光、太陽熱、風力、バイオマス、地熱、波力......などと列記されるのが普通で、それと並んで水素エネルギーが挙げられることはまずほとんどない。これはどうした訳なのか。

 1つには、NEDO解説でも「水素エネルギーの普及にはまだ多くの技術的課題があり、水素の製造、貯蔵、輸送、利用を含めた全体のシステムを構築することが必要不可欠」と言われているように、それがまだ技術的に未成熟な部分が多々あるためだが、実はそれは本質的なことではない。本当のことを言うと、水素は、太陽光や風力などと同列に並べられるべき「自然エネルギー」ではないのである。

 え?と思われるかもしれないが、自然エネルギーという場合は、この地球上にあるがままに存在しているが故に無尽蔵なものを活用して、有限な地下資源である化石燃料や天然ウランにこれ以上頼ることを止めようという意味で言われるのであるけれども、水素は無尽蔵で再生可能でもあるには違いないが、この地球上にはあるがままの純粋な形ではほとんど存在していないのである。

●太陽に手が届いた?

 水素の原子記号はHで、陽子1個と電子1個から出来ている原子番号1の最もシンプルな原子で、一般にはその水素原子が2個結びついた水素分子H2として気体の形をとる。このH2は、この世にある気体としては最も軽いので、あったとしてもたちまち空中高く上がって行ってそのまま大気圏を突き抜けて宇宙へと放散されてしまう。なので、気体としては地球上にはほとんど存在することが出来ないが、その代わりに酸素と結合して水となって海を作り、雲や雨や川や湖となって地球の生理を支えているし、炭素などと結合して有機化合物を作り、すべての生物の生命活動を促している。地球上では、至る所にあるが、そのものとしてはない。それが水素である。

 宇宙全体で見れば、宇宙の全質量の75%は水素で占められる。恒星が光るのは、水素が核融合を起こしてヘリウムを生みだす際に光と熱エネルギーを発するからで、太陽の場合で言えば、何と1秒間に6億トンの水素を呑み込んで爆発させて5億9600万トンのヘリウムを生みだし、その差の400万トン/秒分をエネルギーとして放射し、そのうち0.0000004%ほどが太陽光として地球に届くので我々の命が成り立っている。

 ということは、水素こそ地球を含む全宇宙のエネルギー原理の根本であるという意味では、究極の自然エネルギーであると言えるのだが、残念ながらその水素を地球上で直接的に利用する方法はない。そこで、太陽光が降り注ぐのをあるがままに部分的にでも利用させて貰うのが太陽光・太陽熱発電であり、また太陽のエネルギーと地球の自転が生みだす風を部分的にでも利用させて貰うのが風力発電で、そのように謙虚に、受動的かつ部分的に、ということは神である太陽に決して逆らうことなく、その恵みを享受させて頂こうというのが、地球人にとっての「自然エネルギー」である。

 原水爆や原子力発電が間違ってしまったのはそこで、本来は神である太陽しか司ることの出来ない核融合の奇跡を、核分裂という形で擬似的に人工的に密閉容器内で作りだして、能動的かつ全面的に自分のものにして制御しうると錯覚した傲慢にある。

 日本の原子力元年は1954年で、その前年のアイゼンハワー米大統領の「原子力平和利用」宣言に読売新聞社主=正力松太郎と改進党のチンピラ代議士=中曽根康弘が飛びついて、この年3月、初めての原子力開発予算を強引に通したのが、今日の事態を招いた根元だが、同年正月に始まった読売新聞の原子力キャンペーン連載のタイトルが「ついに太陽をとらえた」というものだった。古来、太陽は神で、日本でも天照大神で、そんな領域に手を掛けてとらえようとしてはいけないでしょう。その結末が今のフクシマの放射能の下血状態である。これを言うと顰蹙を買うかもしれないが、私は石原慎太郎都知事の「天罰」発言が、大地震や大津波にに向けられてものはなくフクシマに向けられたものだとすれば、全く以て賛成なのである。

 という訳で、水素は、宇宙の自然エネルギーの根本ではあるが、地球人にとっての実用的な「自然エネルギー」ではないということを理解する必要がある。

●2次エネルギー

 では何なのかと言うと、「2次エネルギー」である。槌屋治紀『燃料電池と水素エネルギー』(ソフトバンク・クリエイティブ、2007年刊)はこう述べている。

「自然界から入手できるエネルギーを『1次エネルギー』と呼びます。この1次エネルギーを変換して使いやすいエネルギーにしたものを『2次エネルギー』と呼びます。石油、石炭、天然ガス、太陽光、風力、バイオマスなどは1次エネルギーです。2次エネルギーの代表は電力です。水素は自然界にないので、1次エネルギーから水素を作ることになります。そのため水素は、電力と同じような2次エネルギーです。2次エネルギーは、エネルギーの媒体(キャリア)とも呼ばれています。キャリアとは『運ぶ手段』を意味します」

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↑ 図1(クリックすると拡大します)

 ここで「エネルギー」のいくつかの概念について頭を整理しておく。図1は、資源エネルギー庁資料からとったもので、色づけは私がした。「エネルギー全般」は、(1)石油と、(2)「石油代替エネルギー」としての石炭、天然ガス、原子力、それに(3)「再生可能エネルギー」とに大きく分かれる。(1)と(2)は(ここにはそうは書いてないが)「再生不能エネルギー」である。特に(1)は、世界的に石油生産のピークが過ぎたと見られていること、第2次石油危機を受けた79年のIEA宣言で石油火力発電の新設禁止が謳われたことからして、すでに半ば過去のエネルギーだと言える。

 「再生可能エネルギー」には(4)「自然エネルギー」と(5)「リサイクルエネルギー」とがあり、(6)「バイオマス」はその両方に跨がっている。例えば木質バイオマスを使って発電・発熱すれば自然エネルギーの一種となるし、廃材や糞尿など廃棄物を利用すればリサイクルエネルギーの一種となる。

 ここまでに「水素」は出て来ず、右端の「エネルギーの新利用形態」の欄に「燃料電池」が出て来る。この図にはないが、この上に「エネルギーの旧利用形態」を付け加えれば、「ガソリン自動車、都市ガス、電力」などが挙げられるのだろう。

 1次と2次のエネルギーという分け方で言えば、石油、石炭、天然ガス、ウラン、水力、地熱、太陽光、風力、自然由来のバイオマス、将来の波力、海洋温度差利用などはいずれも1次エネルギーで、電力と水素は2次エネルギーである。

 また、図の中段の黄色に塗った横長長方形が「新エネルギー」の範囲で、これが97年施行の「新エネ法(新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法)」が対象としている分野である。太陽光、風力などの「自然エネルギー」、廃棄物利用などの「リサイクルエネルギー」、燃料電池などの「新利用形態」も新エネの範疇に入っている。

 さらに、どの時点でエネルギーを燃焼させて発電・発熱するかによって、オンサイトとオフサイトの区別がある。

▼石油(重油)・石炭・天然ガス・原子力・水力などによる大型発電所はまさにオフサイトで、電力会社による集権型の大規模送電網を通じて消費者に供給される。

▼同じ石油由来でも、LPG(プロパンガス)、灯油、ガソリン・軽油などは陸上流通を経て消費者のオンサイトでその場所の空気=酸素を使って燃焼され、電気、熱、動力などとして利用される。

▼都市ガスは、ガス会社による大規模パイプ網が必要なことでは電力と同じだが、燃焼は末端のオンサイトで起きる。そのため、最新の天然ガスによるコジェネなどは企業や地域で発電するだけでなく温水を利用して冷暖房を行うなど、高い効率でエネルギーの地産地消・自給自足を実現できる。

▼従って、プロパン、灯油、ガソリン・軽油などやカセット式ガスボンベなどは、手元にストックがある限り、大規模供給網が災害などで途絶してもしばらくはエネルギー利用を続けられるという意味で、より分散的ということになる。

▼水力でも、最近増えている小規模水力発電は、地産地消・自給自足的である。

▼太陽光、風力、バイオマスなど再生可能エネルギーは、大規模発電所として建設される場合もあるがそれはむしろ例外で、季節や時間帯、気象条件や自然環境などに左右されやすく不安定であること、遠距離を搬送すると効率が悪いなど、本質的に小規模分散型の地産地消・自給自足に向いている。

●分散型のエネルギー体系へ

 こうして見ると、原子力は絶対的にオフサイトでその電力は集権的な送電網を通じてしか供給され得ないのに対し、天然ガスは、供給そのものは集権的だが、オンサイトが可能であるため、企業の自家発電や地域発電&冷暖房システム、さらには企業・家庭の段階での燃料電池による発電発熱システムなどに活用可能で、そこに原発は早々に止めて、その分を天然ガスでカバーしていくことの妥当性がある。それによって自ずと、エネルギー体系の集権型から分散型への質的転換が進み、太陽光や風力はじめ自然エネルギーが大きく増える可能性が出て来る。

 電力にせよ都市ガスにせよ、大規模供給網のメリットは、スイッチさえ捻ればいつでも好きなだけエネルギーが使えるというところにあったのだが、今回のような大震災と原発事故が起きてみると、それが決して安全でも安心でも安価でないことを誰もが思い知らされた。私自身の体験に照らしても、いきなり13時間の停電とその後の計画停電に直面して、一番の安心の元は、少なくとも160万年前から人類が頼ってきた「薪」という原初バイオマスであり、またロウソク、灯油ランプ、プロパンガスなど自宅にストックが有る限りは使い続けることの出来る超分散型のエネルギー機器だった。薪は極端としても、こうなれば可能な限り大規模供給網に頼らないエネルギーの地産地消・自給自足を目指そうという人が急増するのは自然の流れで、そこへの過渡期として天然ガスの役割が見直されることになったのである。

 これを水素という側から見ると、まずは天然ガスを利用した燃料電池車や家庭用の発電・発熱装置「エネファーム」などの普及が進むだろう。天然ガスはもちろん化石燃料で、だからそれを使う燃料電池は「自然エネルギー」ではなく、そのことが「水素」の「新エネルギー」における位置づけそのものを理解しにくくしている1つの理由なのだが、他の水素製造技術が確立していない段階での導入期の方便としてはやむを得ない。それに、社会経済的要因としては、都市ガスとプロパンの供給網を活用した方が水素利用拡大の早道であるし、ガソリンスタンドやプロパン配給業者がいきなり廃業に追い込まれるのでなく水素ステーションや水素ボンベの配給で生き延びられるようにしたほうがいいという事情もある。

 バイオマスという観点からすると、原初バイオマスの薪と炭は別として、土中に蓄積されたバイオマスとして化石燃料を、人類は石炭→石油→天然ガスの順で活用してきたのだが、前出の槌屋によると、要は炭化水素である化石燃料の「水素と炭素の原子の比率を見ると、石炭には水素はほとんどなくて、石油はおよそ2:1、天然ガスは主として4:1、それが水素になると1:0になり......次第に水素の割合が大きくなってきた」。つまりわれわれは、次第に水素の割合の大きい燃料を求めてきて、水素にいたって初めてそれを純粋な形で最も効率よく利用できる段階に達するということである。

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↑ 図2(クリックすると拡大します)

 図2は「水を原料とした水素をベースとする水素エネルギーサイクル」の簡略な模式である。要するに、太陽光、原子力、火力など1次エネルギーによる電力を用いて水を電気分解して水素を得、それで発電、輸送機器の動力、家庭や産業などのエネルギー消費を満たすと、出て来るのは水なので、それをまた初めに戻して電気分解する----というサイクルである。今のところ、水素を得る現実的な方法は、天然ガスなどを「改質」して中に含まれる水素を取り出すか、この図のように、化石燃料由来を含む電力で水を電気分解するか、どちらかが中心だが、これから天然ガス過渡期を通じて自然エネルギーの増大とエネルギー体系の分散化が一気に進展すると、例えば太陽光発電による電気を使って水を電気分解することが当たり前となり、脱化石燃料化が進む。また燃料電池の電力と比べた著しい特徴は、水素の形で輸送や貯蔵が自由になるところにあり、そのため、太陽光など自然エネルギーの不安定な電力をそのまま電気として使うのでなく、それで水を電気分解して水素を作って貯蔵し、必要な時に必要なだけ電気や温熱として利用する----つまりエネルギー消費の末端のオンサイトで、自由にエネルギーを溜め込んで自分で制御して使用することが可能になる。

 さらに将来のこととして盛んに開発が進んでいる技術として「人工光合成」があるが、これについては次回に述べる。▲

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2011年6月23日

槌屋治紀×高野孟:水素エネルギーは脱原発の切り札となるのか!?

 毎月、多彩なゲストを交えて世界や日本について語る『高野孟のラジオ万華鏡』。今月は、システム技術研究所所長の槌屋治紀さんをお迎えし、ポスト原発時代のエネルギーとして期待されている水素エネルギーについて語っていただきました。

 水素エネルギーは原子力に代わる代替えエネルギーとなるのか?

 それはいつ頃から可能なのか?

 その可能性と課題について語ります。

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2011年6月22日

山田正彦(元農水大臣):「農政」大転換──大震災と原発事故からの農業再生

 3月11日に発生した東日本大震災と東京電力福島原発事故。その後メディアや経済団体の復興計画には「バラマキをやめて日本も『強い農業』にかえていかないといけない」「東北の農業再生計画には『強い農業』を」というの言葉が並ぶ。
「日本の農業の現場を知らないで、無責任な話はやめてほしい」(あとがきより)
 飯舘村をはじめ被災地を飛び回った山田正彦前農水相が「『農政』大転換」を執筆、震災後の日本農業の方向性やTPP問題、今後の政局についてインタビューで話していただきました。

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『農政』大転換」(2011年6月、宝島社新書)

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山田正彦氏(前農水大臣・民主党衆院議員)
「大震災と原発事故からの農業再生」
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 食料の自給率は下がり続けて今では40%。コメの価格は1俵(60キロ)あたり24,000円が12,000円を切り、コメを作れば作るほど赤字の状態が続いています。経済界とメディアはこのままでは農家の高齢化が進み日本の農業が消えてしまうので、TPPに参加して「強い農業」づくりを急げと大合唱を始めました。

 本当にそれでいいのでしょうか。

 民主党が2009年に政権をとり、EUの制度を参考にしながら農家の赤字部分を定額で直接支払う「戸別所得補償」のモデル事業から始めて、これから本格実施に入ります。その内容がどのようなものなのか、私がいままで考えてきた日本農政のグランドデザインをあらためてまとめたい、とこの本を執筆しました。

─この本では東日本大震災からの復興計画に触れられています。各企業・団体からの復興計画を見てみると、「強い農業」とは大規模、効率化農業を目指す意見が多いです

 東日本大震災やTPPの動きを見ていると、いまだに規模拡大による構造改革、集中化など新自由主義的な発想で農林漁業をとらえようとする声がたくさんあります。私は大規模拡大さえすれば合理化され、利益をうみ、競争力が増すとはとうてい思えません。それは私自身が農畜産業で実践、失敗した実体験をもとにした意見です。

 米国も規模拡大したから競争力がついたわけではありません。トウモロコシは代表例で、米国がトウモロコシによって世界を席巻したのは、1973年から1エーカー(約0.4ヘクタール)あたり28ドルの補助金を生産者に助成して大量生産されたことに始まります。モンサント、カーギルなど大手の穀物メジャーの支配下で、種子、肥料、農薬すべてが系列化され、農家は大型トラクターなど設備投資に追われて膨大な負債を抱えています。補助金によって国際市場でもどこの国の生産物よりも安い価格が実現したのであって、自由競争で勝利したとは言えません。

 また、大増産されてあまったトウモロコシはその後どうなったか。近年放映されたドキュメンタリー映画「キング・コーン」をみるとよくわかります。トウモロコシは家畜のエサや甘味料「コーンシロップ」として大量に流通、加工食品や炭酸飲料となって一般家庭で消費されるようになります。そのトウモロコシのほとんどが遺伝子操作され安全性にも疑問があります。これらを本当に「強い農業」と言えるでしょうか。

 この本ではBSEや口蹄疫の問題にも触れておりますが、もし日本が自然に逆らって大資本のもとに効率だけを重視した「強い農業」の方向を進むことがあれば、いずれ食の安全・安心も損なわれることになると思います。

─食の安全・安心という点で、所得補償とセットに進めるのがトレーサビリティの推進でしょうか

 トレーサビリティを進め、すべての食品に原料、原産国、生産者の表示をすれば消費者が安心して食べられます。安心だけでなく、国産農作物の消費上昇が予想されます。

 私は5,6年前からすべての食品に原料原産国表示を求めて国会に2回も法案を出し、その都度その法案は葬られていました。「お茶飲料については原料原産地を表示すべきだ」と取り上げていたので、農水省は飲料用のお茶の缶にも5年前から表示するようになりました。それまで輸入のお茶を原料としていたのが、国産の茶葉にかわり、南九州はお茶の一大産地になりました。

 リンゴジュースにしても約9割は輸入果汁ですが、そのことをみんなが知らされていません。韓国に行けば原料、原産国が表示されています。日本がトレーサビリティを徹底すれば、海外産の果汁ではなく、青森県産のリンゴを使ったジュースを飲んでくれるようになるのではないでしょうか。きちんと食品表示され、消費者が見分けるようになれば、国産農産物の消費量は変わってくるでしょう。

─民主党農政については「バラマキ」という批判があり、特に戸別所得補償については自民党があらためるよう求めています

 農家への直接支払いは、今まで国から農業団体を通していたお金を直接農家の口座に振り込まれむ画期的なものでした。農家の約7割が支持しており、仮に自民党への政権交代が起こっても戸別所得補償をなくすことは難しいでしょう。バラマキと言われるが農業予算は自民党時代のままでシフトしております。

 日本は長いあいだの自民党政権の下で、戦後高度経済成長をとげて自動車や電気製品を輸出すれば、その大きな利益で安い食料をいつでも輸入できると「農林水産業の安楽死」を意図的に進め、その結果が農家の高齢化、自給率の低下という事態を招きました。

 EUやイギリスはかつて自給率が30%台まで落ち込んでいましたが、今では農家の平均所得の約8割は国の助成金で支払われ、自給率を回復しました。EUは農産物の関税を19%とし、日本の関税の倍ぐらいをかけてしたたかに食糧の自給を堅持しています。家族での農業を主体にして、農地法で企業、法人の大規模化は規制しています。米国ですら一戸の農家で平均193ヘクタールを耕しているが平均所得の3割は国からの補助金でまかなわれています。

 日本の水田稲作にしても、10町歩(10ヘクタール)以上を超えると規模拡大のメリットがないことがわかってきました。大規模化は必ずしも良くない。大規模化している法人は利益を上げているかというとそうとは限りません。小さく多品種を植えている農家がほとんどです。日本は日本なりのやり方があります。麦やコメ、蕎麦、大豆などを組み合わせて生産し、所得補償を受けながら4〜5ヘクタールでやっていけるような農家を大事にしたいという気持ちを持っています。

★ ★ TPPと政局 ★ ★

─「『農林水産業の安楽死』を意図的に進める」といえば、前原元外相の「1.5%発言」を筆頭に「農業vs輸出産業」の構図をつくったTPPが思い当たります。本書でも触れられていますが、TPPは今後どうなりますか

 TPPについて政府は6月を期限とするTPP参加判断の「先送り」を発表しました。しかし発表直後の5月26日、菅首相は日米首脳会談の席でオバマ大統領に「早期の判断」を約束したと報道され、無視できない動きを続けています。政府がハッキリと「TPPに参加しない」と言わない限りは予断を許さない状況が続きます。

 ようやく再開した「TPPを考える国民会議」では、7月にニュージーランドのジェーン・ケルシー教授(※)を招き、宮城県の被災地をまわって講演をしていただく予定です。国民会議の地方集会は8月から再開する予定です。

※「異常な契約─TPPの仮面を剥ぐ」(著 ジェーン・ケルシー/農山漁村文化協会)は近日発売予定です。予約はコチラから→http://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54010308/

─自民党は3月までに党内で意見集約する方針だったTPPの結論を先送りしています。震災前後でTPPの情勢がかわってきました

 気になっているのは自民党と大連立を組むという話で、政策合意文書に「TPP推進」を盛り込む可能性があることを私は耳にしました。自民党はこれまで「民主党が進めるTPPには反対」と言いながら、谷垣総裁、石原幹事長、石破氏が基本的に推進の立場をとってきました。また自民党は農水委員会でTPP反対の決議をしようと言っていたがそれも中断、党内は二分されていることがわかります。現在自民党の山田俊男(やまだ・としお)氏と話し、自民党内のTPP反対グループと「国民会議」の役員同士の意見交換をしようとしています。

─TPPは民主党代表選にも影響があるのでしょうか

 民主党代表選の争点はTPPと増税でしょう。震災後、財務省はすでに国は800兆円の財政赤字があり借金でやりくりしている、他の予算を削るか増税をしなければならないと主張しています。いまは増税よりもお金をまわす政策が必要で、30兆円ほど復興のための国債を発行すべきです。政府が持っている預貯金、有価証券などの金融資産を財務省は公表しないが、700兆円はあるとみられ、米国の国債だけで100兆円を政府は保有しています。国債発行すれば金利が上がって大変といいますが、財務省の思い通りにさせたら日本はつぶれます。消費税増税をうたうような人がトップになってはいけません。

(取材日:2011年6月10日 / 《THE JOURNAL》編集部 上垣喜寛)

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【プロフィール】山田正彦(やまだ・まさひこ)yamabiko110124_4mono.jpg
1942年、長崎県五島市生まれ。民主党衆議院農林水産委員会委員長・前農林水産大臣。

1966年、早稲田大学第一法学部卒業。牧場経営、弁護士を経て、1993年新進党から衆院選に出馬し当選。著書に「小説 日米食糧戦争-日本が飢える日」「中国に「食」で潰される日本の行く末」「アメリカに潰される!日本の食―自給率を上げるのはたやすい!」など。

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2011年6月21日

チャイナシンドロームが始まった?福島第一原発 ── TV朝日の報道に反響広がる

takanoron.png 福島第一原発1〜3号機の炉心溶融(メルトダウン)した核燃料が圧力容器内で止まらずに、底部貫通(メルトスルー)して格納容器下部にまで落下いることは、すでに政府も認めているが、6月16日のTV朝日「モーニングバード」にVTR出演した小出裕章=京大原子炉実験所助教は、溶融核燃料がさらに格納容器をも突き破って建屋のコンクリート床を溶かし、地中にのめり込み始めている可能性が高いと指摘した。まさにチャイナシンドロームの悪夢で、そうなると地中で地下水に接触して超高濃度の汚染水が近くの海に流れ出すという最悪事態となる。しかも、底が抜けているのではいくら水を注いだり冷却装置を取り付けたりしても、もはや核燃料を冷やすことは出来ない。このことは、19日18時のANNニュースでも採り上げられ、米GE出身の原子力コンサルタント=佐藤暁がほぼ同様のことを指摘している。

 両番組ともYoutubeにアップされ、特に前者はすでに9万を超えるアクセスを得るなど反響が大きく広がっている。

★モーニングバード:http://www.youtube.com/watch?v=fjklBl0A9Kc
★ANNニュース:http://www.youtube.com/watch?v=t3JI0vuIjdg

●地下ダム建設着手に東電が抵抗?

 小出によれば、汚染地下水の海洋流出を防ぐには、建屋全体を取り囲むように地中深くにまで壁をめぐらせて「地下ダム」を作る以外に方法がない。これについて20日付毎日新聞の連載コラム「風知草」で山田孝男が書いているところでは、「原発担当の馬淵澄夫首相補佐官は小出助教と同じ危機感を抱き、地下ダム建設の発表を求めたが、東電が抵抗している」という。

 理由は、地下ダム建設には1000億円かかり、今それを公表すると東電の債務がますます増えると受け取られて株価が下がり、28日の株主総会を乗り切れなくなるからだという。あのねえ......チェルノブイリよりも酷い環境汚染が広がり、日本近海のみならず太平洋が死滅の危機に陥るかもしれないという問題と、これ以上下がりようもないほど下がっている自分の会社の株価がいよいよ底を打つかもしれないという問題とを、どうして天秤にかけることなど出来るのか。東電の経営者は頭が狂っているとしか思えないし、それを押し切ることの出来ない政府もだらしない。

 なお「モーニングバード」では、日本大学生物資源科学部の小澤祥司講師が「今の福島の計画的避難区域でも、セシウム137の汚染度で言うとチェルノブイリの強制避難区域と同じくらいのレベルで、そのままセシウム137が動かずに残るとすると、事故前の1ミリシーベルト程度に戻るのに100年以上かかる。20ミリシーベルト程度になるにも数十年。この区域の人々は帰る故郷を失うかもしれない」と述べている。小出も「数十万人がたぶん帰れない。それでも残れば被曝の悲劇になり、だからと言ってその人たちを別の場所に移すというのも悲劇で、その選択が迫られている」という趣旨を語っている。▲

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2011年6月20日

原発は、もう終わった!(その3)── "脱原発"の主役はガス火力

takanoron.png 電力側がよく持ち出す理屈に、「太陽光発電で原発分をカバーしようなんて夢物語。原発1基分の電力を得るには山手線の内側全部に太陽光パネルを敷き詰めなければならない」というのがあり、それを聞くと、確かに再生可能な自然エネルギーは結構ではあるけれどもそれで電力を賄えるようになるのは何十年も先の話で、それまでは原発を続けるのもしかたないんだろうな、と誰もが思い込む。これも一種の情報操作で、実際には別に山手線分の更地が必要な訳ではなく、すべての屋根や屋上にパネルを取り付ければいいだけの話だし、最近ではどんな建物の屋根や壁や窓、あるいは自動車の屋根やボンネットにも貼り付けられるプラスチックフィルム型の太陽光パネルの技術も開発が進んでいて、制度的な制約を外せば太陽光は想像を超えた勢いで広がりうる。

 しかし、問題の焦点は実はそこにあるのでなく、広瀬隆も言うように(例えばダイヤモンド・オンライン5月11日特別レポート=http://diamond.jp/articles/-/12199)、原発を止めるのに自然エネルギーの拡大は特に必要でなく、火力発電、とりわけ天然ガス火力の増強で十分なのである。

●自然エネルギーへの過渡期

 週刊エコノミスト6月21日号の大特集「脱原発の本命/ガス復権」は要旨次のように言う。

▼国際エネルギー機関(IEA)は6月6日、世界が「ガス黄金時代」を迎えたとするシナリオを発表、世界の天然ガス需要は2035年に08年比で62%増加し、世界のエネルギー構成で大きな役割を占めると予測した。丸紅経済研究所の猪本有紀チーフアナリストも「次の10年から20年はエネルギーの主力が天然ガスになる」と断言する。

★IEA「ガス黄金時代」:http://www.worldenergyoutlook.org/golden_age_gas.asp

▼電力源として最終的に太陽光や風力といった自然エネルギーへの依存を高めていくのは理想的だが、ただちに原子力の代替とするのは現実的に難しい。このため「過渡的なエネルギーとして天然ガスに頼らざるをえない」というのが環境派も含めてエネルギー関係者の間では共通した見方となっている。

▼実はこれまで日本では天然ガスの位置づけは極めて曖昧だった。燃焼時のCO2排出量は石炭や石油より少ないが、化石燃料であることに変わりはなく、環境性では原子力や自然エネルギーに劣る。また燃料コストでみた場合には安い石炭にはかなわない。そのため日本の1次エネルギー源に占める天然ガスの割合は17%で、主要国平均の24%より低い。それがここに来て、原子力の信頼が失墜し、原油価格が高騰する中、「最も有望な選択肢」として脚光を浴びることになった。

 「ガス黄金時代」の背景には、天然ガスの世界市場の緩みがある。すでに"ピークオイル"を過ぎた石油と比べて天然ガスそのものの埋蔵量が多いことに加えて、近年は米国を中心に「シェールガス」(地中深くの頁岩=シェールの隙間に内蔵されているガスを水圧破砕するなどして取り出したもの。これはこれで環境への悪影響も指摘されているが今はさておく)はじめ非在来型の天然ガスの開発が世界的に盛んになりつつあるため、長期的にも供給超過が続くと考えられている。年間7000万トンの液化天然ガス(LNG)を輸入する世界最大の輸入国である日本としては、これへの依存を増やすことは自然な流れと言えるだろう。

 石油に比べて燃料調達が容易であること、石炭はもちろん石油に比べても相対的にCO2排出量が少ないことに加えて、建設コストが原発に比べて10分の1程度の数百億円で済み、工期も最短なら原発の数十分の1の1年かそれ以下であること、さらに原発や他の火力に比べて遥かに高い発電効率を実現できることが、ガス火力のメリットである。

 原発の場合は、核爆発でとてつもないエネルギーを引き出しながら、それで何をしているのかと言えば、要するにお湯を沸かしてその蒸気でタービンを回して電気を起こしているだけのことで、その時生じる熱は急いで冷却して海に吐き出してしまうから、全く無駄になる。そのため原発の発電効率は30%程度で、火力よりも低い。それに対して最新のガス火力は、ガスを燃やした高温燃焼ガスでガスタービンを回した後に、その排熱をボイラーで回収して再利用する。

 独立した大型発電所の場合は、《コンバインドサイクル方式》と言って、回収した排熱で水を沸かして蒸気を作りもう1つ別の蒸気タービンを回して二重に発電する。このため発電効率は60%前後にも達する。これにさらに燃料電池を組み合わせて、水素発電と合わせて三重に発電する技術も三菱重工などで開発が進んでいる。

★三菱重工:http://www.mhi.co.jp/news/story/0910014859.html

 また企業の自家発電や地域共同発電などの場合は、《コジェネレーション(熱電併給)方式》と言って、回収した熱で給湯したり、蒸気を作って蒸気使用施設や蒸気吸収冷凍機を動かしたり、地域冷暖房に使ったりするので、やはり熱が無駄にならず、総合効率は最大85%にも達する。

 家庭用の燃料電池として商品化されている「エネファーム」もコジェネの一種で、水素で0.7〜1kWを発電してその排熱で給湯する、言わば「発電機付きの湯沸かし器」。家庭にまで水素によるコジェネを普及させ始めたのは世界でも初めてで、各国から熱い視線が寄せられている。原発技術など輸出するよりも、これを世界に広めた方が遥かにマシである。

●分散型のエネルギー社会へ

 実は日本の企業の自家発電能力は合計で6000万kW、つまり東電1社分、全発電能力の20%強もあり、しかも大震災と計画停電を体験した後では自家発電を導入しようとする企業が急増して、ガスタービンや発電機のメーカーは大忙しになっている。現在でも、いわゆる産業用大口消費者の電力の3割は自家発電で賄われており、その比率は特に電力消費の多い石油・石炭業で8割、紙パ業で7割、化学業で6割にも達していて、こういう業界では、夏の需要ピークに備えての節電など関係がない。話はむしろ逆さまで、仮にこれらの企業が一斉に真夏に操業を休んで自家発電の電力を社会に提供すれば6000万kW分が世の中に溢れ出てくることになり、原発などなくても十分に乗り切れる。

 すでに95年の電気事業法改正で一般事業者が電力会社に電力を卸す「卸電力事業(IPP)」が可能になり、さらに00年には電力小売りを部分的に自由化して「特定規模電気事業者事業(PPS)も始まったが、結局のところ電力会社が送電線使用料を吊り上げて独占体制の防衛を謀っているため大きくは広がっていない。「電力会社が送電線を独占し、高額の送電価格を設定しているため、これらのすぐれた事業者が電力市場から排除され、自由に電気を売れないわけです。日本の国家としては、即刻、送電と発電の事業を完全に分離して、電力の自由化を進め、国民のために送電線を開放させることが、国会と政府の急いで行うべき務めなのです」と広瀬隆が言う通りである。

 東電はまた、東京ガスが発電事業に大きく進出することも妨げてきた。4月28日の記者会見で東京ガスの岡本毅社長は、東京ガス傘下の電力供給会社「扇島パワー」のガスタービン発電所に対し、東京電力から発電設備の増設を要請されていることを明らかにし、今後、東電との協議で増設に合意すれば早期に着工する方針であると述べた。が、これはお笑い種というもので、東京ガス75%、昭和シェル石油25%の共同出資で始まった「扇島パワー」は、当初、天然ガス燃料のガスタービン3基で総出力122万1300kWの発電所を建設する計画だったものの、東ガスの発電事業への本格進出を畏れた東電が政府を動かして「100万kW以上の発電所を作るなと圧力をかけた」ため、2基81万4200kWに縮小せざるを得なかった経緯がある。東ガスにしてみれば、今更どの面下げて頼みに来たんだというところだろう。

★扇島パワー:http://www.tokyo-gas.co.jp/Press/20100712-02.html

 こうして大規模火力発電では東電の壁にぶつかった東ガスは、地域コジェネでは先端的な事業を進めており、東京都庁の新宿副都心移転に伴って71年から始まった「新宿地域冷暖房センター」は世界最大級の地域冷暖房システムとして注目されたし、六本木ヒルズの開設に当たっては森ビルと共同して03年に特定電気事業として大規模コジェネによる電力供給と地域冷暖房を行う「六本木エネルギーサービス」を始めている。同サービスは大震災に伴う電力不足では、東電に対して昼間4000kW、夜間3000kWの電力を融通して話題となった。

★新宿地域冷暖房:http://www.tokyo-gas.co.jp/csr/report_j/4th/4th262.html
★森ビル:http://www.mori.co.jp/morinow/2011/05/20110512160000002184.html

 東電が無惨な有様となって、これまで長年にわたり東ガスを苛め、オール電化でエネファームを抑えつけ、発電事業への自由な参入を妨げ、企業自家発電の拡大にブレーキをかけるなどして、何としても集権型の電力独占体制を守ろうとしてきた醜い努力もすべて無駄に帰して、結局は発送電の分離による電力事業の完全自由化を受け入れざるを得なくなるだろう。企業の自家発電や地域共同コジェネ、それにエネファームなど家庭用も含めて、分散型のエネルギー源が一気に増大して、それが自然エネルギーによる電力などを水素の形で貯蔵する仕組みとも結合して行けば、最終的には、原発はもちろん、送電線も電柱も要らない、エネルギーを地産地消・自給自足する新しい水素ベースのエネルギー社会の実現が見えてくるだろう。ガス火力は実はそこへの導火線となる可能性を秘めているのである。

 自然エネルギーはまだまだだから原発を続けるのも仕方がないという常識の嘘に多くの人々が囚われている限り、この大きな可能性は見えてこない。▲

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原発は、もう終わった!(その2)── 原発がないと停電だぞという恫喝に屈するな!

takanoron.png 繰り返すが、政府=経産省が「短期的な原発安全対策は完了した」(6月18日付日経1面トップ)として停止中の原発の早期再稼働を自治体に求めているのは愚の骨頂で、 このやり方では地元の不安を解消できずに、かえって全原発の"頓死"を招くことになる。日経の同記事が解説で書いているように、原発立地を持つ自治体は「(1)福島原発の事故原因が十分に解明されていない、(2)政府が唐突に中部電力浜岡原発の停止を要請した、(3)稼働から30〜40年たつ古い原子炉の安全性----などに多くの自治体が疑問を持って」おり、「こうした問題に答えや対策が示されないうちは、住民の理解を得るのは難しい」からである。

 何よりも福島の事故がまだ収束しておらず、これからどんな破滅的な事態が起きるか分からないし、周辺の放射能被害がどれほど深刻化するかも分からない中で、どうして「安全対策が完了した」などと言えるのか、全く理解不能な無神経の極みで、「はい、そうですか」と再稼働に応じる自治体などある訳がない。浜岡ストップの唐突性というのもその通りで、立地や設備や性能や老朽度が1つ1つ異なるすべての原発を一定の指標を設けて精査した上で、短期の対策でしのげるかもしれないもの、堤防建設など中期的な対策が必須なもの、そんなことをするよりも老朽度からしてすぐにでも廃炉にした方がいいもの等々に区分けをして(私の言う"安楽死"シナリオ)、その中でも大地震の切迫性、堤防の不在、フクシマ級事故が起きた場合に放射能被害が首都壊滅をもたらす危険性などからして浜岡は特に優先度が高いということを位置づけてみせるのでなければ、他の自治体は納得しないだろう。

●「電力不足」で国民を恫喝!

 こうした無茶を押し通すために政府が懸命に取り組んでいるのが、「原発がなければたちまち停電だぞ」という恫喝的な情報操作で、その先頭に立っているのは、経産省主管の日本エネルギー経済研究所である。

 同研究所が6月13日発表したレポート「原子力発電の再稼働の有無に冠する2012年度までの電力需給分析」は、来年夏までに全原発が停止した場合、「発電能力が最大消費電力を7.8%下回り、全国規模の電力不足に陥る可能性」があり、また「火力発電所を高い稼働率で運転させるため、燃料の石炭・液化天然ガス・石油の消費が増え、3.5兆円の燃料コスト追加が必要」となって、「2012年度の標準家庭の電気料金が月1049円アップ」が避けられないという。

★エネ経研:http://eneken.ieej.or.jp/ →6月13日特別速報

 これを真に受けて、新聞各紙には「電気料金1000円アップへ」などの見出しが躍るが、果たして本当にそうなのか。全文を読むと、ただちにいくつかの疑問が湧く。

 第1に、来年夏の「最大電力」は電力各社の2005〜2010年度の月間最大電力の最大値を単純合計して算出しているが、これにどういう合理性があるのかよく分からない。それを、原発分がゼロとなり火力を目一杯稼働させた場合の発電能力と比べると7.8%の発電能力不足になると主張している訳だが、大震災の後でも、産業界も一般家庭も以前と同じマインドで電気を使い続けるという前提に立ってはいないか。

 もちろん、同レポートも「節電」の可能性を見込んではいるものの、第2の疑問は、その節電は東京電力と東北電力の管内で15%行われるだけとしていることである。東京電力の夏季最大電力6000万kWを15%節電して5100kW、東北電力で同じく1480kWが1258kWになり、その結果、節電時最大電力を上記(原発ゼロ・火力目一杯)発電能力と比べると、それでも全国的に1.7%の発電能力不足となり、さらに「電力安定供給のためには5%程度の余力が必要なのでさらなる節電が必要となって、「特に産業活動に甚大な影響が出る可能性がある」と言うのだが、ちょっと待って貰いたい、どうして東電と東北電管内以外は節電に参加しないのか。大震災とその後の計画停電の出鱈目を体験した関東・東北の企業や一般家庭は節電は当たり前というマインドになっているのに対し、関西以西ではそのマインドが薄いのは事実だが、産業界ではどこどこ管内ということとは関係なしに全国の事業所で節電対策を実施しつつあるし、一般家庭でもそのマインドはいずれ全国に波及するだろう。どうして全国的に15%の節電が実現した場合、さらにはもっと頑張って20%の節電が実現した場合のシミュレーションを避けているのか。

 そもそも節電には、需要者の自覚任せではなく政府として思い切ったイニシアティブが必要だろう。例えば、同研究所の別のレポート「LED照明による省電力ポテンシャルと費用対効果の試算」では、現在使用されている白熱灯及び蛍光灯をすべてLED照明に代替した場合、日本の年間早電力消費量の9%=922億kWh=原発13基分の省エネとなる。これを一遍にやろうとすると16兆円の初期費用が必要だが、白熱灯をLEDに置き換えるだけなら交換費用は8500億円で、3.4%=273億kWh=原発4基分の省エネとなって、政府がその気になって、一般家庭に対するエコポイント、企業に対する省エネ投資への税制優遇や補助金制度を整備すれば、出来ないことではない。やればいいのではないか。

★エネ経研:http://eneken.ieej.or.jp/ →6月16日研究レポート

●決め手は天然ガス火力では?

 疑問の第3は、原発がゼロになる場合の火力発電の増強について、その運転優先度を「石炭→天然ガス→石油」とし、それらの稼働率を石炭85%、ガス70%、それで足らざるところを石油としているのは、「過去の実績、燃料受け入れ能力の実態、業界ヒアリング等を通じて年間平均の最大値を想定」したものだそうだから、それなりに根拠があるように見える。しかしこれは、既存の火力発電能力が大震災前までは50%程度の稼働率に据え置かれていたのを、どこまで掘り起こせるかということを言っているだけで、逆に、来年夏までに全原発が止まることを覚悟した上で、火力の中で最も効率がよく、相対的に燃料費が安く、CO2排出量も多くない天然ガス火力を思い切って拡充するという方針を採用すれば、また話は大きく違ってくるのではないか。

 国際エコノミストの齋藤進は6月11日付朝日のコラムで「原発を全部止めれば、電気が足りなくなるし、電気代も上げざるを得ない----。これが現在のところ、大方の日本人が抱いている『常識』かもしれないが、私の解答は『否』である」として、次のように述べている。

▼既存の火力発電設備だけでも電気は余るし、昨年の原子力発電実績を新型発電設備のガスタービン・コジェネレーション(熱電併給)に置き換えても、必要な新規投資額は8000億円程度で済む。この新規設備能力に30%増しの余裕をみても1兆円程度だ。

▼燃料の天然ガスは、原油と異なり、世界的には供給量が増えており、長期的には安定供給が見込まれる。天然ガスを液化する段階で硫黄・窒素分などの有害物質は除去され、環境負荷は極めて小さい。

▼しかも、日本の大手重工業メーカーには上記の設備を短期に製造・設営する能力がすでに備わっている。

▼日本が得意とする国家総動員態勢で当たれば、早ければ1年、遅くても2年以内にすべての原発に代わる新規発電設備ができる。

 賛成である。これを裏付けるように、今週発売の週刊エコノミスト6月21日号は「脱原発の本命/ガス復権」の大特集を組んでいる。そこでも、「発電効率の高い最新型のガスタービン(コンバインドサイクル)を110万kW級原発と比べれば、建設コストは原発の数千億円に対して数百億円。工期も最短ならば1年程度で済む」と言われている。来年夏に原発がゼロになると腹をくくりさえすれば、(1)まずは省エネの徹底、(2)既存火力のフル稼働、(3)それでも足りないと見込まれるなら、1〜2年のうちに最新型ガスタービンの増設----で難なく乗り切って"脱原発"を達成できるのではないか。

 まずは人々が、原発がなければ日本はお終いみたいな支配的イデオロギーの恫喝から自らを解放しなければならない。ガスタービンがなぜ脱原発の決め手なのかについて詳しくは次回に譲る。▲

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2011年6月19日

6月22日は「100万人のキャンドルナイト」── 電気を消してスローな夜を!

takanoron.png 今年の夏至は6月22日(水)で、今年もまたこの日の夜8時から10時までの2時間、全国のみならず全世界で「電気を消してスローな夜を」味わう多彩なイベントが繰り広げられる。

★キャンドルナイト:http://www.candle-night.org/jp/

 2003年に辻信一=明治学院大学教授/なまけもの倶楽部代表や藤田和芳=大地を守る会代表らの呼びかけで始まったこのイベントも、9年目を迎えた。昨年は、日本全国で推定700〜1000万人が家庭や企業・団体単位で参加し、東京タワー、札幌時計台、姫路城など主だったライトアップ施設13万 8905カ所が消灯、この消灯分だけで1億8033万5644kWhの電力を削減した。また世界79カ国・地域で賛同NGOによる呼びかけがなされ、そのそれぞれで、ささやかかつ有意義な取り組みが行われた。

 私は始まって以来、呼びかけ人に名を連ね、31文字以内と指定されたメッセージとささやかなカンパを続けてきて、今年は「この取り組みは生き方の根本に関わる。そのことをフクシマが教えた」というメッセージを届けた。

 いやなに、参加は簡単。22日その時間帯、家に居るなら家族と一緒に、まだ事務所なら社員全員で、電灯も空調もテレビ・ラジオもCDプレーヤーもパソコンも、つまり電気的なものは全部消して、ロウソクを1本立てて、それで2時間を過ごしてどんな気分になるか、どういう会話が成り立つか、試して貰いたいということである。

 自分だけでやっても詰まらないという方は、各地で行われるイベントに参加してもいい。例えば東京では代々木公園で恒例の「ゲシフェス」が開かれ、ライブ演奏や辻、藤田両氏ほかのフォーラムが行われる。

★GeshiFes:http://geshifes.cultivaders.com/

 皆さんも是非キャンドルナイトにご参加下さい。▲

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2011年6月18日

原発は、もう終わった! ── その先へどう進むのかを考え始めよう(その1)

takanoron.png 前稿で、日本の原発体制はすでに半壊状態で、このままでは次々に"頓死"に陥るしかなく、政府・電力会社がそれを避けようとして頑張ったとしても、せいぜい順を追った"安楽死"のシナリオを描くのが精一杯ではないか、という趣旨を述べた。が、その後の情報を総合すると、事態はより切迫的で、6月 12日付朝日のまとめによると、現在営業運転中の17基のうち5基が今年8月までに新たに定期検査に入るため、今夏の電力需要ピーク時には14基しか稼働していない上、残りの12基も秋から来年夏にかけて順次、定期検査入りする。そのため、6月9日付読売によると、「いったん止まった原発の再稼働は地元の了解がなければ困難な状況」であるので「再稼働しなければ来年夏までには全部が停止」し、「原発が作りだしていた全電力喪失の事態を迎える」。

●現状の再整理

 これについて考える前に、もう一度、原発の運転状況について整理しておこう。前稿で私は、『週刊東洋経済』6月11日号の特集「暴走する国策エネルギー=原子力」の原発一覧表をベースに独自の解釈を加えて、現役の全原発54基ののうち「運転中」は17基、今回大震災で「緊急停止中」は15基、以前の震災や事故で「停止中」が4基、「定期検査で停止中」が18基と分類していた。

 第1に、「現役の全原発54基」と言い慣わしてきたが、事故収束作業中の福島第一の1〜4号機はすでに「廃炉」が決まっているので、本当のところ現役は「50基」とするのが正しいのだろうが、便宜上「緊急停止中」に含めておく。ちなみに、すでに廃炉となって処理を待っているのは、東海(日本原電)の国内初の商業炉、浜岡の1〜2号機、商業炉以外では失敗作=新型転換炉「ふげん」(原研機構)の計4基で、これらも廃炉処理が終わらないうちは災害などに弱いことに変わりはない。

 第2に、「運転中」を19基としている場合が多いが(例えば読売)、そのうち泊3号機と大飯1号機は定期検査の仕上げ段階で調整運転に入っているもので、運転しているからには一定の出力があるには違いないが、本格的な営業運転ではない。そのため、「運転中」を17基とし、残り2基を「調整運転中」として区別する場合もあるが(例えば朝日)、私はこの2基も「定期検査中」に含めている。

 第3に、東通1号機、女川2号機、福島第一5、6号機は「定期検査中」だったものだが、検査が終わっても大震災の影響で再開の見通しが立たないので、「緊急停止中」に分類する。

 第4に、浜岡の3〜5号機は、単に「停止中」とされる場合もあるが(朝日)、4号機と5号機は今回大震災との関連で政府の要請で停止されたもので、東北地方太平洋岸の13基と同様、「震災緊急停止中」に入れる方が分かりやすい。浜岡3号機は定期検査中だったものだが、検査が終わっても4、5号機が動かないのに3号機だけ動くことは考えられないので、これも含め浜岡の3基全部を「災害緊急停止中」に分類する。

 第5に、過去の震災、事故、不具合で停止中のものは、余計に再開同意を取り付けるのが難しいだろうから、普通の定期検査中とは区別した方がいいので、その分類を設ける。前稿では4基を挙げていたが、志賀1号機もこれに該当することが分かったので、計5基となる。

 第6に、建設中、計画中のものも分類を設けてリストする。

 ----以上の考慮に基づいて、前稿で掲げた一覧表を次のように修正する。さらに、前稿で掲げた《老朽化ランキング》に従って運転開始から30年を過ぎたものには●、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル調査などで地震にも津波にも脆弱と判断された特に危険度の高いものに◎を冠した。

《現在運転中の原発》・・・17基
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《現在停止中の原発》
(1)今回大震災で緊急停止中・・・18基

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(2)以前の震災や事故で停止中・・・5基
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(3)定検停止中・・・14基
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(4)建設中・計画中・・・12基
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※資料はクリックすると拡大します

●政府無策のまま全原発停止?

 海江田万里経産相が官僚や電力の手先となって、定期検査が終わったものについては「何としても運転再開を」などと各知事に要請に歩いているのは、滑稽極まりない。日本のすべての原発が地震多発地帯にあるのは仕方がないとして、その上、津波の危険を著しく軽視してきた経緯を(浜岡を別にして)個別に精査して厳格な対策を講じることを抜きにして、さらにまた、故高木仁三郎などが早くから警鐘乱打してきた運転開始から30年を超えた原発の「老朽化」の危険を無視して、これからも30年どころか40年を超えても使い続けるかの無茶な方針を再検討しないまま、ただ目先の電力不足が怖いからと再開を頼んで回るなどということがどうして出来るのか。

 それよりも政府がやるべきことは、上の一覧表で言えば、●と◎の両方が付いたもの、すなわち30年を超えた老朽原発で、しかも津波対策がろくになされていないものを最優先するといった基準を立てて、危険度の高いものから順次「廃炉」を進めて行く"安楽死"のプログラムを公表することではないのか。ということは逆に、比較的危険度の低いものについては、これこれの条件を満たすならば運転再開を認めてもいいという基準を示すことにもなる。そうすれば、例えばの話、今後10年がかりで、こういうテンポで原発依存が減っていくので、その分を火力の増強や自然エネルギーの拡大でどういうテンポで補っていくかの見通しも立てられるだろう。ドイツはそういうやり方である。

 そうでないと、前稿でも書いたように、次々に不慮の"頓死"が起きて、意図せずして来年夏までに全部の原発が止まる。それはそれで構わないし、むしろ望ましいこととも言えるのだが、政府無策のまま野放し状態で全原発停止の事態に突入するのではパニックを引き起こしかねない。それならそれで、全原発が止まっても、既存火力の稼働率アップや天然ガス火力を中心とした新規増設、企業の自家発電のフル活用などの過渡的対策で電力確保が十分に可能であるという、"脱原発"のプログラムをしっかりと示してその方向に迅速に行動を起こさなければならない。実際、原発がなくても日本は大丈夫であり、そのことは次稿でもっと詳しく論じることとする。▲

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2011年6月16日

田中良紹:政治家とは何か

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→ http://www.nicovideo.jp/watch/1302717074 ←

 ジャーナリストの田中良紹さんが、長年の記者生活と歴史に関する豊富な知識から分析した「永田町のカラクリ」と「これからの世界と日本」について参加者と語り合う『居酒屋田中塾』。

 今回のテーマは「政治家とは何か」です。

 東日本大震災後、さらに混迷を深める日本の政治。なぜ、菅政権は退陣間際まで追い込まれているのか。その理由について解説します。

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2011年6月15日

【動画】森達也×高橋源一郎トークショー:オウム、原発、東日本大震災・・・・・・この社会が目をそむけてきたこと。そして目をそむけてはいけないこと。

5月23日、『A3』(集英社インターナショナル)刊行記念イベントが開催されました。

超満員の会場では熱心にメモを取られている方も多く、舞台裏まで熱気が伝わってくるほどでした。

そんなトークの一部を動画でアップしました!

是非、ご覧ください。

森 達也×高橋源一郎 対談【前編】

森 達也×高橋源一郎 対談【後編】

JAMSTEC:東北地方太平洋沖地震、フィリピン海プレート北東端で破壊は止まった

2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震が発生した。地震の規模を示すマグニチュード(M)は9.0、日本周辺でこれまでに観測されたことのない史上最大級の地震だった。

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地球の表層は、十数枚のプレートと呼ばれるかたい岩盤で覆われている。東北地方の太平洋側の沖合には日本海溝があり、そこで東日本を載せた北米プレートの下に太平洋プレートが沈み込んでいる。その沈み込みに伴い北米プレート引きずられてひずみがたまる。北米プレートがひずみに耐え切れなくなり、もとへ戻るように反発することで破壊が起き、今回の超巨大地震を引き起こした。

海洋研究開発機構(JAMSTEC:ジャムステック)の海底地形調査により、本震の震源付近から日本海溝へ至る領域が南東〜東南東方向に約50m、上方に約7m移動した可能性があることが判明した。北米プレートが反発して南東〜東南東方向に引き伸ばされたことにより、陸に近い海底は沈降し日本海溝付近の海底は隆起した。それに伴い巨大津波が発生したのだ。

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宮城県沖から始まった破壊は、南は茨城沖へ、北は岩手沖へ伝わった。破壊域は500km×200kmの範囲に及ぶと推定されている。それでは、破壊はどのようにして止まったのか。

JAMSTECでは、破壊域の南限にあたる茨城県から千葉県沖において、海底下の地下構造探査を以前に実施していた。今回そのデータを分析したところ、千葉県銚子沖の海底下にあるフィリピン海プレート北東端と破壊域の南限が一致した。この領域から南側は、北米プレートの下にフィリピン海プレートが位置し、さらにその下で太平洋プレートが沈み込んでいる。太平洋プレートのすぐ上に載るプレートが、北米プレートからフィリピン海プレートに替わる領域で、破壊が止まったと考えられる。

この領域は、余震域の南限とも一致する。ただし高橋成美グループリーダーは、「今回の超巨大地震により、プレート内の応力分布が変化し、新たな大地震を誘発する恐れがあります」と警告する。「破壊域の南側に位置する千葉県南部の房総沖では1677年にM8クラスの地震が、また北側の十勝沖では1968年にM7.9の地震が起きています。今後、これらの領域で巨大地震が誘発される可能性があるかどうか、海域での観測を行い、そのデータをもとに検討する必要があります」

-------------------------------------------

海洋研究開発機構(JAMSTEC:ジャムステック)では、地震発生後、通常の調査を打ち切り、深海調査研究船「かいれい」を出航させ、3月15日より、三陸沖から銚子沖にかけて海底地震計を100台設置し、地震後の地殻変動を精密に測定しています。今回の記事は、JAMSTECの発行誌「Blue Earth 112号」より抜粋・転載したものです。

2011年6月12日

菅首相が自然エネルギーについての懇談会をネットで公開

 菅首相は12日、首相官邸で自然エネルギーについての「総理・有識者オープン懇談会」を開き、自然エネルギーを推進するための組織を設置することを表明した。

 すでに事実上の退陣表明をしている菅首相に対し、民主党内をはじめ、自然エネルギーを推進する立場の議員からは「全量買い取り制度」の法制化を求める声が高まっている。全量買い取り制度は電気料金の値上げにつながる可能性があるため批判が多いものの、脱原発社会に向かうための核となる制度として期待されている。

 懇談会にはソフトバンクの孫正義社長、ミュージシャンの坂本龍一氏、サッカー日本代表元監督の岡田武史氏らが出席し、懇談会の模様はインターネットで中継された。現在、下記のURLで録画版が視聴できる。

■自然エネルギーに関する「総理・有識者オープン懇談会」(官邸HP)
http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg4972.html

2011年6月 9日

すでに半壊状態の日本の原発体制 ── "頓死"か"安楽死"のどちらかしかない

takanoron.png ドイツのメルケル政権の決断はまことに鮮やかで、今後、国内に17基ある原子力発電所を順次停止し2022年までにすべて停止することを6日閣議決定した。

 もちろん、国内にはまだ意見対立があり、とりわけ産業界にはエネルギー・コストのさらなる高騰への強い懸念があるし、またそもそもこの決定の裏には隣国フランスからの主として原発による電力を輸入することを当て込んでいるという小賢しさがつきまとっていることも確かである。そういったことを捉えて、「ドイツの脱原発はインチキで、日本とは事情が違う」といった論調がさっそく繰り出されているけれども、これは引かれ者の小唄の類にすぎない。

 フクシマの惨状を見れば、誰が考えても原発という文化を将来に渡って維持し発展させていくことは論理的にも現実的にも不可能であることは明らかで、そうであれば、いつまでもああだこうだと議論するのでなく、まずそのような大局的判断をドーンと据えて、それによって引き起こされるであろう数多の矛盾やフラストレーションは別途、順次対処していけばいいと腹をくくる。これこそが政治主導の見本である。

 日本ではなかなかそうはいかなくて、誰もが「原発はもうダメなんだろうなあ」とは思いつつも、なおその巨大利権を貪ろうとする政治家がおり、電源開発3法による政府交付金や電力会社のバラマキに運命を託した自治体があり、「そんなことを言っても停電になったらどうするんだ」と怯える国民もいて、すべては情緒的なレベルで漂うばかりで、「原発をどうするのか」という本格的な議論はまだ始まってもいない。

 そのような現状で、しかも肝心のフクシマの事態がなお大きな危険を孕みながら現在進行中である中では、政府が軽々に"脱原発"を宣言する訳にはいかないのは仕方がない一面がある。けれども、菅直人首相が一方で「2050年までに原子力50%」という妄想的なエネルギー基本計画を「根本的に見直し」て「自然エネルギー開発に力を注ぐ」と言いつつ、他方で「原発の安全確保を徹底する」とも言って、ベトナムなどへの原発輸出も止めるとは宣言していないのは、まこと混濁的で、フクシマ後に一体この国がいつまでに、何を中心に据え何を補完に置いた新しいエネルギー生活構造を創り出していこうとするのかのメッセージは伝わってこない。

●17基しか運転していない

 とはいえ、現実を見れば事態はよほど先行していて、すでにして日本の原発体制は半壊状態に陥っていて、このまま政治が無為のままだと、政府の意思がどうであろうと原発は"頓死"する可能性が高い。

 まず第1に、現在全国に54基ある現役の原発のうち、運転中のものは32%に当たる17基しかなく、その発電能力合計は1549万kW(認可出力ベース)にすぎない。もちろんその分は、急遽、火力発電を再開・増強して補っていて、それはそれで燃料コスト増やCO2排出増などの問題を生んでいるのだが、ともかくも原発の3分の1以下しか動かなくても経済も生活も破綻するわけではないことが実証されつつある。

《現在運転中の原発》
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※資料はクリックすると拡大します

 他に、定期検査に伴う「調整運転中」のものが、泊─3、大飯─1の2基あるが、本格的な運転中ではないので下記の「定期検査中」に含めてある。

 これら運転中の原発の大半は、来年初めまでに定検に入るが、定検が終わってもおいそれとは再開出来ないだろう。

 第2に、運転していない37基は、(1)今回大震災で停止してそのまま停止中のもの、(2)過去の震災や事故で停止したままのもの、(3)今回大震災時にたまたま定期点検停止中だったもの、またその後定検は終わったが再開を延期しているもの、に分けられる。

《現在停止中の原発》
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※資料はクリックすると拡大します

(1)のうち、福島第一の1〜4号機は、事故がなんとか収まったとしても廃炉が決まっている。(1)の残りの11基も(2)の4基も、いずれも"傷物"だけに、万全の安全対策(そんなものがあるのか? あるんだったらそれ)を示して地元が心から納得しない限り再開は難しい。(3)の中にも、すでに定検が終わっているのに電力会社が地元に運転再開を言い出せなくて延期しているところが6カ所ある。

 地元とは、知事及び県、周辺市町村の首長と議会、住民で、フクシマを見た後ではまず住民が少々のことでは同意しないし、事実上の再開決定権を持つ知事は次の選挙のことも考えて住民感情には敏感にならざるを得まい。周辺市町村は、原発がないと財政が成り立たないところが多く、また議員の多くは原発利権に絡んでいて、「早期再開」を求めたりするだろうが、「カネと命を引き替えにするのか!」という声を押し切ることが出来るのかどうか。

 例えば浜岡の4、5の場合、政府の要請は一応、12メートルの津波に耐えうる防波堤を2〜3年かけて新設するまで停止となっているが、東海沖大地震の切迫がますます厳しく指摘されている中では、堤防ができました、ハイ再開、ということにはならないだろう。7日付毎日「記者の目」欄で舟津進=掛川通信部記者が書いているように、御前崎周辺の岩盤は硬くて心配ないと何十年も言い張ってきた中部電力は、09年8月の駿河湾地震で3〜5号機の激しい揺れを経験した後、初めて「付近の地下岩盤に地震波を増幅する特殊地層があり、建設時には見逃していたが最新のボーリング調査で明らかになった」と公表した。津波対策にしても、これまでは海と原発の間に高さ10メートルの砂丘があるので心配ないと宣伝してきたが、フクシマを見て慌てて堤防建設の方針を打ち出した。同記者によれば、停止しているとはいえ3〜5号機には2400体の燃料棒が装着されたままだし、廃炉となった1〜2号機の分も含めて使用済み燃料プールには6625体の燃料棒が水中保管されている。さらに様々な作業で生じた低レベル放射性物質を詰めたドラム缶3万4810本も貯蔵庫に保管されていて処理方法も定かでない。いつフクシマになってもおかしくなく、それは浜岡に限らずどの原発でも大同小異である。

 さらに、建設中・計画中でも同様で、建設中の3基のうち東通1号機(東京電力)と大間1号機(電源開発)はいずれも建設工事を一時中断、完成間近だった島根3号機(中国電力)は12年3月の運転開始予定を無期延期した。また計画中の11基のうち福島第一7〜8号機は計画中止、他の9基も全く目途が立っていない。

●老朽化の恐怖

 そうこうするうちに、もう1つの恐怖の原因としての原発そのものの老朽化が進行する。故は遺著とも言える11年前の『原子力神話からの解放』(最近、講談社+α文庫から復刊)で、こう述べていた。

▼これから2010年にかけて、運転開始から30年を超える原発が2基、5基、10基というふうに増えていきます。それまでに原発を止めないと、40年くらいの寿命を持った原発がますます増えてしまいます。そういう時代に大きな原発事故が起こる可能性を、私は本当に心配しています。

▼2010年で考えると、...運転年数が40年を超す原発が数基出てきますし、30年を超す原発は10基以上出てきます。...政府は原発の寿命を当初、40年くらいと想定してきましたが、新しい原発が建てられないという状況と、これまでの稼働実績を考えると、原発の寿命をあと20年くらい延長できるんだということを言い始めています。...これは非常に警戒しなければならない状況です。

▼運転年数が30年以上の原発は相当老朽化していると思いますし、...いろいろなトラブルが増えてきます。40年以上になったら、もっとトラブルが増えてくるでしょう。

 高慢な推進派の学者たちでさえ彼にだけは一目置いたという反原発派の理論的主柱=高木が予言した通りのことが、まさにこの3月に40年の寿命を超えた福島第一1号機を筆頭に現実のこととなった。寿命40年を超えたワースト3の1つが福島第一1号機だが、それに続く寿命30年を超えた"後期老朽化"原発のワースト20のリストは次のようである。

《原発老朽化ランキング》
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※資料はクリックすると拡大します

 この中で運転中は6基あるが、次の定検を迎えた後に再び目覚めて運転再開されるかどうかはかなり疑わしく、また現在定検停止中のものもどういう条件で永眠を避けられるのか定かでない。福島第一の1〜4号機は死亡宣告済みだし、5〜6号機もたぶんダメだろう。

 菅政権が浜岡を止めたのは確かに1つの"英断"には違いないが、実のところ、なぜ浜岡は即刻停止で他はそうではないのかの安全基準上の根拠は明らかでなく、詰まるところ「浜岡が一番危なそうなので、シンボリックな意味でこれを止めてしまえば、政府としての原発危機対応への断固たる姿勢を国民に印象づけられるだろう」という助平根性に尽きる。これでは他の原発周辺の人々の不安と不信を鎮めることにはならず、停止中はもちろん建設中も計画中もすべてが疑心暗鬼の中で次々に"頓死"に追い込まれていくほかなくなる。それを避けるには、政府が明確な新基準を示して、これこれの技術的な条件を満たした上で住民はじめ地元を本当に安全だと納得させることに成功すれば運転して構わないということにして、しかし老朽化ばかりはどうにもならないので古いものから順次廃炉しながら、緩やかに"脱原発"に導いていく軟着陸的な"安楽死"プログラムを持たなければならないだろう。そうでないと、原子力依存をどの程度のテンポで減らして、その分を過渡的には化石燃料の中の石炭ガス化や天然ガスの活用でカバーしつつ、しかしその先自然エネルギーの開発に可及的速やかに重心を移していくのかという新しいエネルギー基本計画など策定しようもない。▲

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2011年6月 7日

森ゆうこ氏が週刊文春の記事に反論!

 『週刊文春』6月2日号に掲載されたノンフィクションライターの森功氏による記事「"小沢有罪"の3点セットが揃った!」のなかで、民主党の森ゆうこ参院議員に関する記述が事実と異なるとして問題となっている。記事中には森ゆうこ氏の写真とともに「裁判長に注意された森ゆうこ議員」というキャプションがつけられていて、御一行を引き連れて裁判を傍聴していたかのような記述もあるが、森ゆうこ氏によると「そういった事実はまったくない」として週刊文春に強く抗議したという。この件について森ゆうこ氏からコメントが届いたので、以下に掲載する。

──────────────────────────────

森ゆうこ氏(民主党参院議員)

 週刊文春6月2日号に森功氏が執筆した「"小沢有罪"の3点セットが揃った!」で私に関して下記のとおりの記述がありますが、事実とは異なるため、週刊文春に抗議しました。

 4月27日の第10回公判。水谷建設元社長の川村の証人出廷だ。裏金を渡した張本人だけあって、小沢陣営も気が気でなかったに違いない。この日は永田町の小沢ガールズまで法廷に駆けつけていた。
 アハハ・・・・・・。ふだんは静かな法定内に、下品な笑い声が響く。誰かと思えば、森ゆうこ参議院議員とその御一行だ。川村の証言を揶揄するかのような態度に、裁判長から、「静かにして」と、たしなめられる一幕まであった。ただし、公判は順調に進んだ。


 ここに書かれている内容のすべては捏造であり、事実ではありません。

 第一に、私が4月27日の第10回公判で行われた川村氏の証言を傍聴したという事実はありません。傍聴したのは石川知裕議員の女性秘書が証言を行った第9回公判で、それは4月22日の午後に行われたものです。

 第9回公判を傍聴したのは、私自身が検察官適格審査会の委員であり、昨今問題となっている検察の取り調べの実態について、女性秘書の証言を聞きにいくためでした。ましてや「御一行」を引き連れて行ったという事実もありません。そのほか、この記事では私の写真に「裁判長に注意された森ゆうこ議員」というキャプションまでつけて掲載していますが、第10回はもちろんのこと、第9回公判でも裁判長が「静かにして」と私に注意したという事実もありません。

 政治家という公的な仕事に関わる者として、政治活動がメディアから批判されることは覚悟しています。しかし、この記事に掲載されている内容はまったくの捏造であり、絶対に看過できないため週刊文春に強く抗議しました。

 ところが、週刊文春は第10回公判に私が傍聴していないことは認めたものの、第9回公判で裁判長から注意されたことや「御一行」という記述については訂正していません。

 「御一行」という表現は、おそらく、公判の空き時間に傍聴者の方々が私に話しかけてきたものを、森功氏が勝手に勘違いして記事にしたものと思われます。事実は、私自身はその方々とお会いするのは初めてで、陸山会事件における検察の捜査に疑問を持っていたために、私に話しかけてきたのです。そういう一般市民の方を、あたかも国会議員の指示によって傍聴していたかのように連想させる「御一行」という記述は、とうてい許せるものではありません。

 また、「御一行」の事実は私が否定していて、傍聴者にも事実関係を確認すればすぐに間違いであるとわかることです。しかし、それすらしていないということは、週刊文春は記事を掲載するにあたって事実関係を重視せず、仮に間違えても再確認しないことの証左です。このようなスタンスで記事を掲載している以上、この記事全体に信憑性があるはずもありません。

 そもそも、石川知裕議員をはじめ小沢一郎議員の元秘書が3人も逮捕された陸山会事件は、いったい何の事件だったのでしょうか。そこがあいまいなまま、「小沢一郎は金に汚い」というイメージだけで捜査が行われ、しかも報道機関がそれに追随し、今回のような記事が氾濫しています。国民はこの事件について間違ったイメージをすり込まれていて、その結果、検察審査会の議決にも影響を与え、小沢一郎議員が強制起訴されるという恐ろしいことになっています。

 こういう記事が出ることは、政治家の自由な活動を不当な悪意で抹殺することで、日本の民主主義にとって重大な危機です。

 一方、悪意ある記事を流すメディアがあるなかで、検察問題や原子力事故の問題では、当局が隠そうとしていても、市井の人々や研究者などが独自に調査をし、その結果をインターネットで発信していることが支持を受けています。これらの動きは大きな希望だと思いますので、私は、こういった方たちとともに行動していきたいと考えています。

 私は、今回の悪意ある記事に影響されることなく、今後も検察の取り調べの正当性や検察審査会の問題について、徹底追及していくつもりです。

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2011年6月 6日

菅首相退陣で復興連合政権の樹立を!

日本一新の会 達増拓也(岩手県知事)

 ついに菅首相が退陣することになった。

 やはり、参院選で大敗し、民意による不信任を受けた首相が、自ら作ってしまった「ねじれ国会」を切り盛りして政権を運営するということが、無理だったのだ。

 宇野宗佑首相、橋本龍太郎首相は、参院選大敗で「ねじれ国会」を作ってしまった際に、すぐに退陣した。その後にそれぞれ自公民路線、自自連立ができて、自衛隊のカンボジアPKO派遣や日本経済の景気回復という難局に取り組んだ。一方、安倍晋三首相はすぐに退陣をせず、政権は行き詰って、後になって結局退陣することになった。

 参議院の多数に支えられずに、政権を運営することは、まず無理なのだ。まして、選挙で参議院の多数を失った首相が、そのまま首相に居座ろうとすることは、どだい無理なのだ。退陣こそ王道だ。

 菅政権は去年の参院選以後、王道を歩まず、邪道に邪道を重ねた。もともと自民党の主張だった消費税引き上げを内閣の目玉政策にした。TPP参加という、大向こうのウケをねらうような新政策を突然ぶち上げた。党の代表選挙で次点となった有力者である小沢一郎氏を排斥し、マスコミ論調や自民党などの一部に媚を売ろうとした。

 これらの邪道路線は、去年の参院選の民意に反するだけではなく、「生活が第一」マニフェストで政権交代を実現させた一昨年の衆院選の民意をも裏切るものだった。民意に反したことに加えて、一方で自民党などを愚弄して不信と怒りを買い、もう一方で政権交代の盟友を虐げてきた。この邪道路線が、大震災後の対策にも深刻な影を落とし、内閣不信任案の可決やむなしという状況をもたらし、菅首相退陣という当然の結果になったのだ。

 ついては、一日も早く、衆参両院の過半数に支えられた、強力な内閣を作って欲しい。復興連合政権の樹立である。そして、被災者支援、復旧・復興を力強く進めて欲しい。原発事故の収束も、もちろんだ。

 ここで、民主党には猛省を求めたい。去年秋の代表選挙で菅首相の続投を決め、邪道路線にお墨付きを与えたことは、民主党全体の罪である。邪道路線に対して抵抗する民主党内有志が存在し、その粘り強い運動が今回の内閣不信任案可決やむなしから菅首相退陣への流れを作ったということは評価できる。しかし、邪道路線が国の政策をぐちゃぐちゃにし、そして大災害への対応を鈍らせた罪は、極めて重い。その罪は下野に値するほどだ。

 菅首相の次の総理大臣を当然民主党から出せるとは、思うべきではない。邪道路線を推進してきた菅内閣の閣僚や党幹部が、復興連合政権の首相になるべきではない。自民党やその他の党から総理大臣を出す方が、筋が通る局面である。

 なお、民主党の「生活が第一」マニフェストは、一昨年の衆院選で圧倒的な国民の支持を受けたのであり、その全面的放棄を自民党などが求めるのは、自重すべきだ。被災者支援や復旧・復興を進めるにあたり、「生活が第一」という理念はますます重要である。他方、大震災という緊急事態において、マニフェストに掲げた政策の内容を修正したり、優先順位を変えることは、当然必要である。超党派で、国民本位の議論をして、復興連合政権の基本政策を決めて欲しい。

 最後になるが、内閣不信任案に賛成した松木、横粂両議員を民主党が処分するのは、おかしい。菅首相本人が退陣すると言うのだから、首相の退陣を求める内閣不信任案に賛成するのは、首相の意に沿う。菅首相が退陣を決断した時点で、民主党の幹事長なり国対委員長なりが、自民党などに内閣不信任案の撤回を求めるべきであった。どうせ首相は辞めるのだから。そうすれば採決をする必要はなかった。意味のない採決であった。

 内閣不信任案を提出し、賛成した自民党などともこれから連携しようというのだから、松木、横粂両議員を罰するのは本当におかしい。邪道である。

 一日も早く邪道に決別し、政治の王道を歩み、被災者支援と復旧・復興、そして原発事故の収束を力強く進めていただきたい。

◇      ◇      ◇

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2011年6月 3日

《第13回後半》陸山会公判傍聴記 ── 水谷建設元会長が語る「裏ガネ渡しの流儀」

引き続き午後の部。

13時30分開廷。証人である水谷建設元会長の水谷功氏が法廷に入る。水谷元会長は大柄でスキンヘッド、黒に近いスーツにピンク色のネクタイという風貌。それにドスのきいた低い声で関西弁を話すので、見るからに親分の風格が漂っていてる。

まずは弁護人による尋問。
(──は弁護人、「」内は水谷元会長、※は筆者注)


── どのようなゼネコンに営業活動をしていたのですか

「だいたい日常の営業活動でどこが(工事の受注に)強いということがわかりますので、そこに営業することになります」

── 水谷建設が受注できる見込みはありましたか

「過去の実績がありましたので、受注をもらえると思っていました」

── スポンサーは誰が決めるのですか

「お客さん(ダムを受注したゼネコンのこと)が決めます」

「スポンサー」とは、ゼネコンの下請け業者を取りまとめる幹事社のこと。後の証言でも出てくるが、水谷建設は胆沢ダムの工事でスポンサーになりることを目指していて、そのために小沢事務所に営業活動をしていた。

── スポンサーをとることは重要なことなのですか

「我々の中では、サブになることは難しくないです。交渉権のあるスポンサーが金額の設定をしますので、非常に責任感もあります。私ども下請け業界では雲泥の差があります」

── 具体例で言ってもらえますか

「いろいろとありますけど、メリットも多いということです」

── スポンサーになることは仕事にも影響がありますか

「スポンサーになれれば勝ちだし、なれなければ負けです。胆沢ダムでスポンサーになると実績にもなりますし、逆にスポンサーになれないと『水谷建設は力がない』ということになりますね」

■水谷建設の営業活動の実態と裏ガネの手配

水谷元会長は、胆沢ダムの営業活動では、小沢一郎氏の元秘書である高橋嘉信氏に営業をかけていた。しかし、高橋氏は04年当時はすでに小沢事務所から離れていたため、川村元社長に大久保隆規氏に営業活動をかけるよう指示したという。

── 大久保氏へのあいさつ(営業活動)とは具体的に何をするのですか

「まあ、鹿島建設と水谷建設の間ではスポンサーでの受注の了解ができているので、横槍を入れてほしくないという話ですね」

── 川村元社長はスポンサーをとることが大事だとわかっていましたか

「当然わかっております」

大久保氏に話題が及んだことで、突然、水谷元会長が被告人席に話しかけはじめる。

「最初に言わないといけませんが、当社のためにご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます」

頭を下げる水谷元会長。突然の謝罪だったので驚いたが、弁護人の質問は淡々と続く。

── 5000万円についてあなたはどう思っていますか

「まあ、大久保さんとそれなりの約束(※スポンサーになる約束のこと)ができたから、そうなんだろうということです」

── 本当にそのお金は大久保氏に渡されていますか

「それはわかりません。私が報告を受けていることと川村君の証言は違いますし、刑務所での検事の取調べの時も『なんだろうな』と思っていました」

── 川村元社長からはこの件について報告を受けていたのですか

「逐一、受けておりました」

── 川村元社長は5000万円を2回渡したと証言していますが

「2回という記憶はないですけど、1億円とは聞いております」

── 04年10月15日に石川氏に渡したとされる5000万円は誰が手配したのですか

「私が手配しました」

■水谷建設の裏ガネ渡しの流儀

水谷建設は裏ガネ渡しについていくつかのルールを持っていた。そこを弁護士がたずねる。

── あなたはさきほど『スポンサーになることが前提』という話をされましたが、鹿島建設が胆沢ダムの工事を落札できたのは10月8日ですよね。金を渡したのは10月15日で、しかもその後に水谷建設はスポンサーから外れてますよね

「はい」

── あなたは裏ガネを渡すのは『スポンサーになるのが前提』と話しているのに、04年10月15日にはまだスポンサーになることが決まっていないし、その後、スポンサーにもなれていませんね

「川村からの報告で決まったものやと思って、了解しました」

── この段階でスポンサーになれることが決まっていなかったらどうしていましたか

「(裏ガネの)用立てはしません」

── こういうお金は話が成立してから渡すものじゃないのですか

「以前の私の場合は、(裏ガネを渡す)陳情は盆と正月で、それ以外にお願いしたいときは、ちょっと言いづらいけど・・、成功報酬として出していました。自分は親からこういうものなんだという教育を受けてましたので、そうしてました」

── あなたは裏ガネの支出については厳しかったのですか

「社員何百人が稼いできたお金を、価値のない使い方はできません」

── 川村元社長はスポンサーになれなかったとき、水谷建設で労災隠しが発覚したためだという説明をしていませんでしたか

「彼はそういう説明をしないと、(社内が)おさまりませんわな」

── 水谷建設がスポンサーになれなかったとき、あなたは川村元社長にどういう話をしたのですか

「私は川村君に『話が違うやないか』と言ったら、川村君は『名目上は(スポンサーの下請けとなる)サブですが、交渉権は水谷建設にあります』と説明があったんですが、納得がいかなかったので、『大久保さんと合意ができているのならおかしいやないか』と言いました」

── こういう簿外の裏ガネを管理していたのはだれですか

「最終的には管理部長が管理していました」

── 裏ガネの保管場所は

「(桑名市の水谷建設本社の)3階の金庫です」

── 普通の現金の保管場所は

「1階の金庫です」

── 裏ガネの支出を管理するメモはないのですか

「裏ガネは表のカネ以上に厳しく管理していました」

── たとえ裏ガネであっても、もちろんそれは会社にとっては公金ですよね

「はい」

── 管理部長が裏ガネの記録をつけていたのですか

「はい」

── 管理部長は、この法廷で国税が入ったときに処分して、それ以降は帳簿をつけていないと証言していますが

「それはちょっと考えにくいですね。年間でいうと数億というカネが動いていますので、(帳簿は)わかるようにしていました」

補足。この管理部長は第12回公判で証人として出廷していて、弁護人の『裏ガネの帳簿がありますよね』と繰り返し質問されたが、すべて否定している。

── 脱税事件では裏ガネの帳簿が発見されていないのですが

「・・そんなことも話をしないといけませんか」

── して下さい。お願いします。

「管理部長の責任で動かしました」

── どこに動かしたのですか

「断定はできませんが、(管理部長の)お父さんのところか、社員のところだと思います。金を渡したという証拠がないと渡しは納得できなかったので、(刑務所内で事情聴取を受けたとき)なぜ、中村はそう話すのかなあと検事に話したんです。私が(脱税事件で)逮捕されたときに役員で集まったときも『あれが見つからなくてよかったです』と話していました。その前年にも裏ガネの帳簿が合わなかったときに中村に言ったら『明日、報告します』ということで翌日に本人の勘違いだったとわかったということもありました」

── 政治家に金を渡したことは

「あります」

── そういうときのルールとはどんなものですか

「北海道、東京、九州といろいろありますけど、カネは朝に持って出て、着いた時に渡すことにしていました。当日が無理な場合は、前日に持って行きます。あと、できるだけ第三者に入ってもらうようにしていました」

── 川村元社長は法廷では04年10月15日の午後に大久保の使者である石川に渡したと話しました。川村元社長は、金はその2日前の13日に東京に運んでもらって、しかも見届け人も入れずに渡したということですが

「私とは認識の差がだいぶありますので、これを言うとややこしくなりますので・・」

── というのは

「川村君が出張する前に私に連絡がありまして、出張から帰ってきた翌日に渡すと。それで14日に専務と一緒に渡すよう言ったつもりなんです」

── 川村元社長は一人で渡したと言っていますが、見届け人については

「見届け人は・・いなかったんですかね。ちょっと考えづらいんですけど」

── こういった金を渡す時の配慮は誰が指示したのですか

「川村君にしてみればはじめてのことですので、専務にも行かせたんですけど、そこが不明朗になっています」

── 川村元社長はどのように話していましたか

「私には『大久保さんに渡した』と報告を受けました」

── 川村元社長は石川氏に渡したと話していますが

「もし私であれば、渡した時に約束した人(※大久保氏のこと)に電話して、預かり証をもらっていますし、そもそも一人で行くことはないです」

弁護人の尋問は終了。続いて行われた検察官による尋問では、水谷元会長が5000万円を手配した時のことについてたずね、水谷元会長は「管理部長に『お金を◯日までに用意して、◯日の◯時までに東京に持って行きなさいと指示しました」と証言する。最後に、裁判官の尋問。

(──は裁判官、「」内は水谷元会長)

── 胆沢ダムに関しては社運をかけていたということですが

「(胆沢ダムは)日本で数えるほどしかない規模のダム工事で、これまでやってきたダム工事が終わって機械があまりますので、受注したかったということです」

── 高橋嘉信さんの所にお願いに行ったということですが

「(法廷で)余計な名前を出してしまいましたけど・・、私は何度もお願いに行きました」

── それまでは高橋さんと話をしていたのですか

「私はずっと高橋さんがやっているものと思っていましたが、あそこ(※小沢事務所のこと)が違う会社を推薦してきているという話ですので、協力会社の社長に頼んで、大久保さんに話をしに行ったということです」

── 本件で問題となっている5000万円について、専務には話をしたのですか

「お金を持って行って、できるだけ(受け渡し場所に)一緒に行ってこいという話をしたのですが」

── 電話ですか、直接ですか

「電話だと思います」

── そのとき、専務はどこにいたのですか

「静岡だと思います」

── その時に金額の話をしましたか

「言ってないと思います」

── 管理部長にはどのような話をしたのですか

「『社長から聞いていると思うけど、14日に必要だから』と話しました」

── 中村さんに金額は言いましたか

「5000万円と言いました」

 以上で第13回公判が終了。水谷功元会長は証言台から退いた後、ドアの付近で裁判官、弁護人、検察官、傍聴席に深々と頭を下げ「失礼しました」と礼をして退廷したのが印象的だった。


※一問一答は筆者の傍聴記メモを元に再構成したものです

(《THE JOURNAL》編集部 西岡千史)

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2011年6月 2日

馬鹿らしいにもほどがある「不信任案」騒動

takanoron.png 菅直人政権の大震災及び原発事故に対する対応ぶりに、「初動の遅れ」「あいまいで場当たり的な指揮命令」「意思決定が複雑を極める対策本部の乱立」(昨夕提出の内閣不信任案)等々、あれこれといちゃもんを付けることは誰にでも出来るが、それがどの程度まで菅自身の指導者としての不適格性に起因するものなのか(ということは、菅さえ首をすげ替えれば解決可能なことなのか)ということは、何ら検証されているわけではない。むしろ、大地震と大津波に原発事故までが重なるという未曾有の事態に直面して、初動の乱れや場当たり的な指揮命令は、どの党の誰が首相であったとしても、程度の差や具体的なケースの違いはあったにせよ、大同小異のことだったのではないだろうか。

 6月1日公表されたIAEA調査団暫定報告書が「避難を含め,公衆を保護するための日本政府の長期的な対応は見事であり、非常に良く組織されている。公衆及び作業員の被ばくに関する適切且つ時宜を得たフォローアップ計画及び健康モニタリングは有益であろう」と述べたのは、多少とも外交的美辞の臭いもするが、「見事」とは言わないまでも、まあ毎日が大変の連続の中で何とか1つ1つをこなして、破局的事態に転がり込むのを防いできたのは立派なものである。

★IAEA暫定報告補仮訳:http://www.mofa.go.jp/mofaj/kinkyu/2/20110601_211954.html

 そうではないと言って不信任案を提出しまたそれに賛成しようとする者は、ならば、菅ではなく他の誰か(もしくは自分)がリーダーであれば何が出来たのか、また現在及び将来に渡って、菅ならば何が出来なくて他の誰か(もしくは自分)であれば何が出来るのかを責任を持って示して国民に問いかけるべきである。それがなければ、居酒屋のサラリーマンが酒のつまみに「菅じゃあダメだよ」「あの不景気面は2度と見たくない」とか、みのもんた風の口調で言い合っているのをそのまま国会に持ち込んできただけの、ただの鬱憤晴らしにすぎない。馬鹿馬鹿しいにもほどがある。

●権力亡者の自民党

 この騒動を主導しているのはもちろん自民党で、それを突き動かしているのは「自民党の悪い癖」としての「権力欠乏症」である、と倉重篤郎=毎日新聞論説委員は2日付同紙のコラムに書いている。「長期間の権力不在に耐えられず、目の前に権力がちらついてくると、条件反射的に体が動いてしまう」という病である。

「17年前がそうだった。細川護煕政権をこれでもかとスキャンダル攻撃で追い込み、全く政策の異なる社会党と手を組むまでして、政権復帰を果たした。......権力に戻りたい、という起き上がりこぼし的な本能が勝っていた。今回の"不信任"戦術も同じ臭いがする。菅直人政権の原発対応が悪かったと重箱をつつき回し、考えの違う小沢一郎民主党元代表勢力をあてに政局づくりをしている」

 その通りで、あの時は、93年秋の予算編成過程で地元からも業界からも誰も「陳情」に訪れない事態に直面して野党の悲哀を嘗めた自民党が、何が何でも細川とその後継の羽田孜を引きずり下ろし、「政策の違いなんかどうでもいい。首相なんて誰でもいい。とにかく与党に返り咲いて予算をいじりたい」というまさに権力欠乏症に取り憑かれて、陰謀的な工作を弄して村山政権を作った。今回も、政策次元から見れば、自民党はこれまでさんざん小沢が作ったマニフェストの「バラマキ政策」を批判し、菅政権がそれを現実に即して見直すよう圧力をかけてきたはずなのに、ここへ来て、政策なんかどうでもよく、小沢勢力と組んで菅を潰して政権復帰の手掛かりを掴もうという、むき出しの政局に走っているのである。

「今回、さらに罪作りなのは、不信任案裁決後の展望を明確にしないまま、本能に任せて動いていることだ」と倉重は言う。自民党の谷垣禎一総裁は1日の志位和夫=共産党委員長との会談で「菅首相をやめさせた後、どういう政権構想を持っているのか」と迫られ、「確たる展望を持っているわけではない」と正直に答えていて、それを見ると確かに彼が目先の権力本能だけで動いていることが分かるが、実は事情はもう少し複雑で、この政局シナリオを描いて小沢勢力とも気脈を通じて裏で立ち回っているのは、森喜朗元首相、古賀誠元幹事長ら、「もう退場したんじゃなかったのか」と思われるほどの旧ボス連中である。彼らから見れば谷垣はピエロ的な使い捨てのカードで、一方では「不信任が成立すれば『谷垣総理』のチャンスが巡ってくるぞ」とおだて上げて走らせて、他方では「不成立なら責任問題になり谷垣を辞めさせればいいだけのこと」と割り切っている。

●小沢の戦術的過激

 大事な場面で、戦略的大義を忘れて戦術的過激に走るのは、小沢一郎が繰り返してきたビヘイビアである。2年前に自民党=検察の反革命連合から陸山会事件を仕掛けられた時には、これと司法的のみならず政治的にも正面から戦って中央突破を図ることが、彼個人の命運はともかく、実現間近だった政権交代の意味を広く国民に理解して貰って「明治以来100年余りの官僚主導体制を打破する革命的改革」(小沢)への覚悟を固めるよう呼びかける絶好のチャンスで、そこにあの局面での戦略的大義があった。が、彼はあっさりと代表を退いて戦いの場を司法にのみ限定してしまった。

 17年前に村山政権の登場を許したのも、小沢のビヘイビアが一因である。羽田政権の終末当時、仙谷由人ら社会党の中堅・若手やさきがけの一部、そして私などは、この場面で最重要な戦略的大義は、何としても自民党を引き続き野党に塩漬けにして、少なくとも3〜5年は辛酸を嘗めてドロドロの旧体質からリハビリして貰うことであり、それには、社会党とさきがけが与党に復帰して「第2次羽田政権」を作って政治改革の旗を掲げ続けることだ、という意見だった。が、小沢は「羽田は一度首相にしてやったからもういい」と訳の分からぬことを言って、自民党から海部俊樹元首相とその取り巻きを誘い出して「海部政権を作る」という、戦術的に過激ではあるが戦略的な意味も政局的な成算も不明な構想を抱いて与党内の混乱を招き、それに乗じて自民党の当時、亀井静香を前線司令官とした社会党・さきがけ取り込みの大陰謀が成功するといった経緯があった。

 当時私は、毛沢東『矛盾論』まで持ち出して、矛盾には主要な矛盾と副次的な矛盾があって、そのそれぞれの所在を見失うと何をしているか分からなくなってしまうと、社・さの自民党迎合派と小沢グループの両方を批判したけれども、このような政治の大道を見ずして政局の手練手管に走るという小沢的欠陥は今も続いている。

 小沢に限らず鳩山由紀夫を含めて今日の午後に不信任案に賛成するであろう人々の多くは、菅の人格的破綻者に近いほどの人間不信哲学にほとほと嫌気がさして、止むに止まれぬ気持でそうするのであろうことは想像も理解もできる。しかしそんなものは根本的には個人的感情の次元のことで、まず民主党の政治家として政治戦略の次元で考えるべきは、せっかく実現した政権交代の果実としてのこの政権を(誰が率いていようと----菅に率いさせたのはあなた方でしょうに)敵の攻撃から断固として防衛して存続させることであり、そこにこそこの場面での戦略的大義がある。菅への不満というのは、いくつもある副次的矛盾の1つであって、それを主要な矛盾であるかのように扱ってはならない。

 矛盾には非和解的な敵対矛盾と和解可能な内部矛盾もあって、この両者も取り違えると致命的である。菅への不満という副次的矛盾は、あくまで敵の攻撃から自分らの政権を防衛した上で、党の中の内部矛盾の処理方法としての党内手続きを経て党首を交代させて解決するのでなければならない。党内で自分らにそれを達成する力がないからといって、自民党の仕掛けに便乗して「菅さえ引き摺り下ろせばそれでいい」というのは、もしも不信任成立ならその先の政局次第では「谷垣政権」に道を開くかもしれない可能性に身を任せるということで、はっきり言って敵前逃亡の利敵行為として処罰されて当然である。

 小沢も小沢で、谷垣と同じように、菅のどこがダメで他の誰か(もしくは自分)がやれば何がどうなるのか明示することなく、隠然たる票読み工作で菅に打撃を与えることにのみ奔走している。戦略を見失った政治ほど貧しいものはない。▲

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内閣不信任案可決の可能性高まる ── 可否判明は午後3時ごろ

 衆議院は2日午後の本会議で、自民、公明、たちあがれが提出した内閣不信任案の採決を行う。民主党からは小沢グループを中心に大量の造反者が出る見込みで、「民主党内から82名」と言われている可決ラインを超える可能性が高まっている。

 1日夜に都内で行われた小沢グループの集会には民主党衆院議員の71名が参加し、出席した議員のほとんどが不信任案に賛成する見通し。さらに、報道機関に発表された出席者名簿には、すでに賛成の意向を表明しながらも欠席した小沢グループの議員や鳩山由紀夫氏らの名前はなく、実際に賛成票を投じる議員が増えることは確実だ。

 菅直人首相は不信任案が可決された場合は解散権を行使する意向を繰り返し表明している。ただ、衆院を解散しても参院で過半数を割り込んでいる状況は変わらないため、仮に衆院選後に民主党が過半数を得たとしても、政局が安定するわけではない。

 一方、小沢氏は民主党内の参院議員にも働きかけを強めていて、すでに20名程度の同調者を集めている模様だ。参院で20名集まれば「自民(83議席)・公明(19)・小沢グループ(20)」で過半数の122議席が得られるため、解散総選挙の結果がどうなろうとも小沢氏は一定の政治的影響力が確保できる。

 内閣不信任案は記名投票で行われ、可否判明は午後3時ごろとなる見通し。

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『知らなきゃヤバイ!民主党─新経済戦略の光と影』
2009年11月、日刊工業新聞社

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