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田中利幸:オバマ政権「核兵器廃絶」という名の戦力強化

昨年末、米国オバマ政権は、核兵器関連(特に「核兵器体制の現代化」)予算の増額の約束と引き換えに、野党が多数派を占める連邦議会上院で新戦略兵器削減条約(新START)の批准承認をなんとか確保した。これを受けてロシア議会もまたこの批准法案を承認し、今年2月5日に新STARTが発効した。この条約により、米露両国は、向こう7年間で、それぞれの戦略核兵器発射装置を700基に、配備済み戦略核弾頭数を1,550発にまで削減することになっている。

ところが、この新STARTには、実に奇妙な核弾頭数の数え方が適用されていることが、不思議なことに専門家の間でもほとんど議論されていない。地上ならびに海上から発射されるミサイルに搭載されている核弾頭数は実際の搭載数がそのまま計算される。しかし、複数の核爆弾を搭載できる大型爆撃機は、1機で弾頭数1個と計算されるのである。したがって米空軍の核戦略用の22機のB52爆撃機は、実際には数百発の核爆弾が搭載可能なのにもかかわらず、22個と計算されることになっている。この摩訶不思議な計算方法により、少なくとも米国は450発の核弾頭を、ロシアは860発の核弾頭を、書類上は削減したことになるのであるが、実際には配備し続けることになる。したがって、米国の場合、1,550発にまで配備済み戦略核弾頭を削減しても、実際には2,000発の核弾頭を配備していることになるのである。さらに忘れてはならないことは、配備から外された核弾頭は廃棄されるのではなく貯蔵されるのであり、米国は約3千発、ロシアは約1先発の核弾頭を貯蔵し続け、条約さえ破棄すれば、いつでも配備可能な状況にあるということである。

よって、「新STARTが核廃絶に向けての一歩前進」などと、気軽に喜んではいられないのである。地球全体を完全に破壊してもはるかに余りあるだけの無数の核弾頭を保有すること自体が「狂気の沙汰」であるが、その「狂気の沙汰」を「狂気」とも感じない軍人や政治家、ひいては諸国民の麻痺した精神そのものが、まさに「狂気」としか表現の仕様がない。

前述したように、新STARTの批准承認は、米国の場合は、オバマ政権が「核兵器体制現代化」プログラム用予算を大幅増額する約束を、上院と政治的取引することで実現させたのであり、この取引結果は2月14日に公表された2012年度予算要求額に如実に表れている。核兵器予算総額は76億ドル(約6,310億円)で、今年度より約6億ドルの増額となっている。2016年度までに核兵器予算額は86億ドルにまで増額される予定で、これが達成されれば、2010年から6年間で核兵器予算額は34パーセントの大幅増額となる。

「核兵器体制現代化(modernization of the nuclear weapons complex)」とは、実際にはアメリカの核兵器製造能力の再構築に他ならないのであり、その漠然とした名称は実態を隠蔽するものである。このことは予算配分の内訳を一見するだけで明瞭となる。プルトニュウム生産施設であるロスアラモス化学冶金施設建替え用の来年度予算要求額は、今年度予算の33パーセント増の3億ドルとなっており、昨年度予算の3倍にまで増えている。このロスアラモス化学冶金施設建替えには、現在の段階で、最終的に61億6千万ドルがかかると推定されているが、実際のところは米国政府も "TBD (to be determined)" 「未定」であると述べており、いったいどれくらい膨大な金額が投入されるのか誰も分からないというのが実情である。オークリッジY-12ウラニュウム処理施設建設予算も今年度対比で39パーセント増の1億6千万ドル。この施設建設には、現段階で、最終的に65億ドルが必要であると推計されているが、これも実際のところは「未定」となっている。

さらに、今年度同様に、様々なタイプの核兵器の「寿命延長計画(LEP)」(=老朽化し、2040年までに寿命を終える現存の核兵器を新型弾頭で置き換えるという計画)にも多額の予算要求額が当てられている。例えば、トライデント潜水艦発射弾道ミサイル用核弾頭W76のLEPプログラムは、今年度の2億2320万ドルから2億5,700万ドルに増額。大陸間弾道ミサイルICBM の核弾頭 W78 の LEP プログラムには5,100万ドルを超える予算があてられることになっている。

したがって、2009年4月にプラハでオバマが格調高く唱えた「核兵器のない世界」構築の志しと希望とは裏腹に、「核兵器廃絶」に向けての積極的な政策など米国政府には存在しないのであり、実際には、配備済み核兵器を減少させながらも、核攻撃力の強化を計る政策が巨額の予算で推進されているのである。

一方、核兵器予算とは別枠の国防費について、オバマ政権は今後5年間で780億ドルを削減すると発表し、一般に歓迎すべきニュースとして取り上げられている。ところが、実際には、この国防費予算削減についても落とし穴がある。なぜなら、780億ドルの削減のほとんどは、2014年度ならびに15年度に実行される計画として発表されているのである。つまり、それまでに国防長官は入れ替わるため、新任の国防長官の下で予算見直しが行われる可能性は高いし、さらには、オバマが次期大統領選挙で敗退すれば、この削減計画も白紙に戻される。

したがって、実際には、2012年度国防費予算要求額6,710億ドル(約55.7兆円)は、今年度内に国防省が使うことになっている予算額より5パーセント増えているのである。しかも、この予算の中にも「核兵器体制現代化」と直結している研究開発プログラムが含まれている。例えば、核兵器搭載可能な新型の、しかも無人機としても使用可能な長距離飛行爆撃機の開発のために配分されている2億ドル近くがそれであり、今後5年間では37億ドルがこの爆撃機の開発につぎ込まれる予定である。国防省は、2020年代半ばまでに、この新型爆撃機を80機から100機ほど実際に配備したいと考えている。さらに、来年度国防費の中には、現在のオハヨー型潜水艦に替わる新型の弾道ミサイル搭載用潜水艦の開発のための予算10億ドルが含まれている。その上、アフガニスタンならびにイラクでの戦費には、今年度の場合1,500億ドルがあてられており、来年度は1,000億ドルまでにとどめたいとオバマ政権は考えているようであるが、両国での混沌とした現状から見て、果たしてこれが可能かどうかは極めて疑わしい。現在、アフガニスタンに10万人、イラクには4万人の米軍兵が駐留しているので、兵員1人当たりに米国政府はほぼ100万ドル(8,300万円)を毎年使っている計算になる。

現在米国が直面している深刻な経済不況は、軍産複合体制の下で長年にわたり、巨額の予算を甚だしく非生産的な軍備と戦費に浪費してきた結果として積み上げられてきた膨大な債務と、密接に関連していることは言うまでもないことである。例えば、1998年と比較すると、現在の米国政府は軍事費に2倍の予算を使っている。オバマ大統領は環境問題にも真剣に取り組んでいると主張しているが、二酸化炭素を排出する石油の消費量からすれば、皮肉なことに、世界で最も環境破壊を行っているのはオバマ自身が最高司令官を務める米軍という巨大組織である。このまま軍事費がますます増大するならば、近い将来に米国経済は完全に崩壊してしまうことが予測されるとアメリカの軍事批評家カール・コネッタは主張しており、コネッタはアメリカを超軍事予算浪費による「自殺国家」と呼んでいる。

同じように長期の経済不況に落ち込みながらも、「防衛大綱案」に基づき2011年度から5年間の中期防予算に23兆4,900億円もの巨額を投じようとしている日本は、さしずめ、この「自殺国家」に道連れを余儀なくされている「財政赤字道連れ自殺国家」とでも称せる国であろう。とりわけ今回の東日本大震災の復興費用では、総額20兆円とも25兆円ともいわれる膨大な金額が必要となる。「子供手当」の延期や増税などさまざまな小手先だけの提案の声が聞こえてきているが、「中期防予算23兆4,900億円をそのまま復興費に転用せよ」というアイデアはどの政党からも聞こえてこない。「防衛」、すなわち「国を守る」とは「国民を守る」ことであり、「国民の生命・生活を守る」ことである。したがって「防衛費」は軍備だけに使うものではなく、震災被害者の生命・生活を守ることに金を使うことも広義の意味での「防衛費」に他ならない。日本政府が行おうとしていることは、瀕死の患者を放り投げておいて、将来使うか使わないか分からない高額の医療器械の購入にやっきになっているのと同じである。

「核兵器廃絶」を唱え、ノーベル平和賞を授与されたオバマが大統領を務めるアメリカ政府がこのような状態であるから、新START締結の相手国であるロシアもまた、米国同様に、核兵器保有数は減らしながらも、実際には核兵器力ならびに通常兵器力の両面での強化を推進する計画を打ち出しているのも不思議ではない。2月末の記者会見で、ポポフキン国防次官は、2020年までに19兆ルーブル(約53兆円)を「ロシア軍装備現代化計画」に投じると発表した。ロシアもまた、アメリカ同様に「現代化」という表現を使っているのは、アメリカに対抗する姿勢を明示するためであろうか。

この軍事力「現代化」には、新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「ブラワ」を搭載する原潜8隻や、液体燃料式大型大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発など、戦略核戦力の強化をはかる重要なプログラムが含まれている。新型ICBMでは核弾頭が最大10個まで搭載可能となり、既存のRS20(サタン)に取って代わるし、耐用年数も10年のびて35年以上になる。この「軍装備現代化」には、さらに、戦略爆撃機ツポレフの拡充、防空ミサイル・システムS400の56基配備の上に、最新型S500の10基導入、戦闘機600機以上、ヘリコプター1千基以上、艦船約100隻の購入など、大幅な軍事力強化計画が含まれている。したがって、こうした米露両国の核ならびに通常兵器兵器の強化政策の実態を目にしてみると、新STARTがほとんど意味を持たない政治的パフォーマンスに過ぎないことが理解できるはずである。

さらに、中国の近年の国防費予算の急速で大幅な増大にも我々は注意しなければならない。この20年以上にわたって中国の国防費の増加率は(昨年をのぞいて)毎年10パーセント台という高い増加率を保っている。今年3月初旬の発表では、2011年度の国防費予算案が前年実績比の12.7パーセント増の6,011億元(約7兆5千億円)になることを明らかにした。しかし、この国防費には、2014年完成予定の国産空母の建造費や、近い将来に実戦配備が予定されている次世代ステルス戦闘機「殲20」の開発費は含まれていない。したがって、実際の国防費は、米国防省の推計では、公表額の2倍であると考えられており、中国はもはや米国に次ぐ軍事大国である。中国はこれまで、核兵器保有はあくまでも自衛のためであり、先制攻撃目的に使用することはないと主張してきた。ところが、最近、中国軍最高幹部の一人が、「状況によっては先制攻撃に核兵器を使用することもありうる」という意味の発言をしているとの情報も流れてきている。

このように、核大国の現状を見てみると、「核兵器廃絶」とは逆方向の「核戦力強化」に向かっていることが明らかとなる。その上、中近東では核保有国イスラエルと核兵器開発の疑惑がもたれているイラン、シリアとの緊張関係、イスラエル近隣のエジプト、リビア、サウジアラビアなどでの民主化闘争、両国が核保有国であるインド・パキスタン関係にアフガン戦争が絡むという中央アジアの複雑な政治状況、北東アジアではますます悪化する北朝鮮問題があり、これら全ての地域にアメリカの政治・軍事力が深く関与している。しかも、イランからの石油輸入やパキスタンへの原子力技術面での援助にも見られるように、中国もまたこれらの地域に、急速に政治的影響を拡大しつつあり、核・軍事力をめぐる世界状況はますます錯綜したものになっている。

かくして、残念ながら、反核平和運動にとって世界の現状況は決して楽観できるようなものではない。このような困難な状況の中で、私たちは、めまぐるしく変化する国内外の政治状況に足下をすくわれることがないよう、私たちのよってたつ根本的な土台を常に確認しつつ運動を地道にすすめていくより他に道はない。その土台とは、すなわち、「いかなる状況であれ、いかなる目的のためであっても、核兵器の使用は重大な"人道に対する罪"であり、最終的には、いかなる紛争も軍暴力によっては解決できない」という思想である。この普遍的人道理念に基づき、私たちは、核廃絶に向けて実現可能な有効的且つ具体的な方法について熟考し、提案し続けていく必要がある。

【関連記事】
■田中利幸:The Atomic Bomb and "Peaceful Use of Nuclear Energy"(JapanFocus)
http://www.japanfocus.org/-Yuki-TANAKA/3502

■新START発効 「核なき世界」へ米ロ外相が批准書(朝日新聞)
http://www.asahi.com/international/update/0205/TKY201102050324.html

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【プロフィール】
田中利幸(たなか・としゆき)
広島市立大学広島平和研究所教授。西オーストラリア大学にて博士号取得。オーストラリアの大学で教員を長く務めた後、敬和学園大学教授を経て現職。第2次大戦期における戦争犯罪の比較分析を研究テーマとしている。著書に『空の戦争史』(講談社現代新書)、『戦争犯罪の構造―日本軍はなぜ民間人を殺したのか』(大月書店)などがある。

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田中 様

どのような表現を使おうとも、国際政治権力の源泉は、相手を威嚇する近代兵器であり、軍事力であり、政治力である。

言葉の上でどのような平和を志向するような文言が踊っても、世界の経済的実権を保持している国家が、権力の源泉である威嚇軍事力を減らすことはありえない。

減らすようなことを言ったとしても、今回のように、軍事力をソフトに分からないように包み込むだけである。それが一流の政治家であって、話し合いの通り減らすのは政治家の部類に入らない。

世界における権力の実態を広い視野でもって良く理解すると、今後の日本の選択すべき方向は、極めて難しくなっている。日本の近隣は、ロシア、中国、アメリカの三大国が取り囲んでいるのである。

アメリカとは太平洋を間におき日米安保条約で深く結ばれているが、中国の経済力がGNPで日本を追い越し、ますます発展することは間違いなく、兵器の近代化と巨大な軍事力は米国を間違いなく追いかけ、同等以上の軍事力を確保することになることは間違いない。

このような地理的環境、軍事バランスの微妙な変化がおきつつあるのが明確に判断できるのに、全く無神経な状態で日本的平和主義をむさぼっていていいのかどうか。

今回の東日本大震災が教えてくれた教訓、原発の無防備な危機管理によってもたらされた恐ろしさを、国対国の問題として、国民が連想想起自覚することが出来ないならば、民族の不幸この上ない。

緊急の災害対策立法が成立できたならば、無能な菅氏では、国家の今後の選択を託するには荷が重過ぎるので、日本のことを考えて、小沢氏に禅譲して、政治的な国際競争力を確保してほしい。国際政治は峻厳であり、冷徹であり、国民に厳しいものであることを理解する必要性を強調したい。

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