Calendar

2011年4月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

Recent Entries

« 2011年3月 | メイン | 2011年5月 »

2011年4月30日

西尾漠×高野孟:原子力資料情報室共同代表が語る福島原発の今とこれから

 毎月、多彩なゲストを交えて"日本のこれから"について語る『高野孟のラジオ万華鏡』。今月は、原子力資料情報室共同代表の西尾漠さんをお迎えし、福島原発の今とこれからについて語っていただきました。

 政府の情報に問題はあるのか?
 放射線量は実際どうなのか?
 福島で起きている本当の事とは?
 東京電力の責任は?
 原発の未来は?

 我々が気になっている疑問をぶつけます。

※今回の放送は4月14日収録分です。

■ダウンロード(mp3)
http://podcast.jfn.co.jp/poddata/owj/tue_02/owj_20110419.mp3

2011年4月29日

節電のためのチェックシート(1)── 日本のエネルギーの供給と需要

takanoron.png 大震災の被災地の人々は1週間かそれ以上も電気が切断されるという苦痛を味わい、またそれだけでなく東京電力管内の全住民も計画停電という名の無計画停電に翻弄されるという希有な体験をして、これまで自分らがいかに電気を使いたい放題に使い、そうであるが故に原子力発電についても「ちょっと怖いらしいけどやっぱり便利な生活を維持するには止めるわけにいかないんだろうな」くらいの認識しか持っていなかったことに初めて真剣に思い至って、来夏のピーク時に電力が足りなくなるかどうかとは関係なく、年間を通じた自分や家族、職場を含めたライフ・スタイルの問題としてエネルギー消費のありようを自問せざるを得なくなっている。

 もっとも、東日本と西日本や北海道とでは意識のギャップは大きいようで、先日京都で乗ったタクシーの運転手は「東京の方は街も暗くなって大変ですなあ。関西は前と変わりなく電気も使い放題ですわ。アッハッハ」などと暢気なもので、余程「馬鹿め。若狭湾の15基の原発が爆発したら京阪神は絶滅だぞ」と言ってやろうかと思ったが、大人げないので止めた。確かに西日本の住民にはまだ実感が伝わらないのかもしれないが、東日本で始まったこのエネルギーへの意識の転換は底深いものがあり、遠からず全国にも波及していくことになるだろう。

●民生用の電力消費は34%

 すでにマスコミでもネットでも「節電」のためのマニュアルやチェックシートが数多く出回っているが、一覧したところ、部分的なテーマだけ採り上げて、しかも内容も中途半端で、かえって誤解を生みかねないようなものも少なくなく、私なりに納得できるよう多くの資料から項目を取捨選択して整理してみたのでそれを公開する。読者の批判や補足を頂いてさらに充実させていきたい。

 本題に入る前に、まず日本のエネルギー供給と需要の構造をおさらいしておこう。

newsspiral110429.jpg

 1次エネルギー供給源ということだと、この国は、約82%を化石資源に頼っている。もちろんその全てが発電に回る訳ではなく、総発電量では約62%が化石燃料で、約30%が原子力である。そうやって出来た電気を誰がどう使っているかというと、民生・産業・運輸の3部門の比率が34:43:23で、何と言っても、第1次産業(農林漁業、鉱業)、第2次産業(製造業)、第3次産業(サービス業、運輸業)を合わせれば圧倒的大部分で、純粋の家庭用は約14%プラス運輸部門のうち自家用分を加えても20%に満たないだろう。

 ということは、個人が家庭でいくら30%節電に励んだとしても、全体で30%の節電が必要である内の5〜6%を分担するに留まるということである。その意味では、マスコミが盛んに個人・家庭の節電が急務であるかに煽るのは、筋違いというか、本当は企業部門こそが徹底した節電戦略を持たなければいけないという喫緊課題から目を背けさせるという一面がある。

 とはいえ、個人は家庭の一員であるだけでなく、企業や地域やその他の社会的組織の一員でもある訳で、まずは自分の身の回りで節電努力を始めることを通じて、今までは無自覚に享受してきた社会全体の過剰電力消費に目を向けるきっかけにはなるだろう。▲

────────────────────────

■有料会員制度スタートのお知らせ

《THE JOURNAL》では10月に有料会員制度をスタートしました。本記事も、有料会員の皆様の支援によって制作されたものです。有料会員制度の詳細については下記URLをご参照下さいm(_ _)m
http://www.the-journal.jp/contents/info/2010/10/post_66.html

2011年4月28日

《第9回(前半)》陸山会事件公判傍聴記 ── 石川議員が受け取った1500万円はワイロではありません!

4月22日くもり。本日から東日本大震災で被災した釜石市在住の大久保隆規氏が審理に復帰する。公判の最初に登石裁判長が「一日も早い復興をお祈りします」と大久保氏に声をかけたことが印象的だった。

10時開廷。第9回公判では、午前に石川氏の取り調べをおこなった吉田正喜検事(当時は特捜副部長)が検察側の証人として、午後に昨年1月に10時間に及ぶ不意打ち事情聴取を受けた石川氏の女性秘書が出廷する。なお、今回の傍聴記は分量が多いので、前半と後半にわけてアップする。

まずは午前の部から。

陸山会事件の石川氏への事情聴取は、政治資金規正法の虚偽記載については田代検事が、水谷建設のウラ金疑惑については吉田検事が行っている。石川氏は逮捕時から一貫して水谷建設による5000万円のウラ金の受領を否定していたので、今回の法廷では水谷建設のウラ金をめぐる厳しいやりとりが明らかになるのだろうと思われた。

ところが、公判で持ち上がったのは、吉田検事が取り調べ時にとった唯一の調書で、その調書には、石川氏が議員となった後の平成19〜21年の間に、ある会社から計1500万円の政治資金を受領していて、それがワイロにあたると書かれているという。

また、その調書には石川氏が「議員辞職します」ということも書かれていて、陸山会事件の控訴事実とはまったく関係のない事実が突然公判で明らかにされ、その調書について争われることになった。まずは検察側による吉田検事への尋問から。
(──は検察官、「」内は吉田検事の発言)

── (1500万円のワイロについて)具体的に話してください

「それほど詳細を聞いたわけではないですが、平成19〜21年に1500万円を受け取っています。『議員活動のお金ですのでワイロだと認識しています』ということでした」

── 証人(吉田検事)から石川氏に「(この金は)ワイロだ」と言ったことはありますか

「ありません。その時は(石川氏には)職務権限もないので、そんなことはありませんでした」

── 調書をとった理由は?

「その前に(石川氏の)女性秘書の聴取が問題になっていて、石川さんに聞くと『私をかばおうとするからこんなことになるんですよ。私をかばわなくていいということで伝えていい』ということで、調書にしようということになりました」

── その調書には「議員を辞職する」と書かれていますが

「石川さんが議員になってからの話ですので、議員になった後に不正があったとなると、政治資金規正法にもワイロで間違いないことなので、辞職しますということでした」


そのほか、検察側からの尋問で、吉田検事は取り調べの際にメモを石川氏の目の前で破ったことも認めた。

この「ワイロ」とされる部分についてはその日に各紙で報道されていたのでご存知の読者も多いと思うが、その多くが吉田検事の証言をそのまま報じているので、法廷でのやりとりが正確に伝わっていない。そういったこともあり、石川氏は公判終了後に報道機関に申入書を入れていて、その中ではこの調書について「無理やり署名させられた」と語っている。弁護側の反対尋問の前に、その申入書を先に公開しておく。

申入書

私が、国会議員としての職務に関し、賄賂を受け取ったことを認める旨の供述を行った旨の報道がなされていることに対し、下記のとおり申し入れを致します。

1 私としては、そのような検察官調書を取られていることは事実ですが、私は賄賂など受け取ってはいません。
 真実は、私が支援者等から受けたパーティー券収入等について、検察官から「そんなものは賄賂だ」と決め付けられて調書にされ、署名を迫られたのです。

2 そして、この点につき、私の女性秘書が別の検察官から逮捕されると脅されていたので、そのような事態を避けるため、私は致し方なく署名しただけです。要するに無理やり署名させられただけです。

3 現に本日の公判に証人として出廷した検察官も、賄賂であるなどと判断したとは証言しておりません。裁判の内容を報道されるのであれば、検察官からの主尋問の一方的な供述内容のみならず、弁護人からの反対尋問を経ての検察官からの供述内容も報道されるのが公平だと思います。
私としては、今後、報道が公平公正に為されることを要望します。

平成23年4月22日   石川 知裕
 


石川氏の言うように、ほとんどの報道が吉田検事が発した「ワイロ」という印象的な言葉に飛びついて報道しているだけで、そのワイロの内容までは精査していない。弁護人による反対尋問はこうだ。
(──は弁護人、「」内は吉田検事の発言)

── 賄賂が成立するには公務員の職務権限があって、その対価としてもらってはじめて賄賂になりますよね

「はい」

── 具体的に何を聞きましたか

「詳細は聞いておりません」

── 石川氏はなんでこれがワイロにあたると考えたのですか

「それはわかりません」

── それなのに調書を取ったんですか

「はい。とりあえずそういう供述があり、調書を取りました」


やりとりからわかるように、石川氏が受け取ったとされる1500万円は吉田検事もワイロとは認識していなかった。吉田検事の理屈は「石川氏が自分からワイロだとしゃべったから、それを調書にしただけ」という程度のもので、それが違法行為にあたるとは判断していないようだ。公判を最後まで聞いていたらその日の報道のような記事にはならないはずだが、夕刊に間に合わせたかったのか、この件の記事には重要な部分がごっそり抜け落ちていた。

引き続き、裁判官の尋問。これもあまり報道されていないが、裁判官は石川氏への聴取の際に目の前でメモを破ったことを繰り返し追及する。
(──は裁判官、「」内は吉田検事の発言)

── 石川氏の前でメモを破った理由は何ですか?

石川さんが「私がやった不正(ワイロとされる1500万円の金のこと)は認めてるじゃないか。だから水谷建設からの金はもらっていないというのは本当ではない」という言い方をするので、「いま聞いているのは(注:水谷の裏金のこと)はこの件とはまったく別のことなんだ」ということでした。

── メモを破る必要性は?

「メモというか、箇条書きしたものですが、これをサイドストーリーということで破りました」

── なぜ破くという行為になるのですか?

「水谷の5000万円というのは大久保被告の指示という疑いを持っていました。1500万円というのは個人の金で、5000万円というのは小沢の金なんだということで隠しているという疑いを持っていました」

── (被疑者を検事が)説得することとメモを破くというのは質的に違いがあるという認識はありますか?

「メモは箇条書き程度のもので・・」

── テクニックということですか

「そういうことです」

── 興奮していたのですか?

「複合的な思いがありました」

── 気の弱い被疑者であれば恐怖感を感じるのでは?

「取り調べの状況が必ずしも気の弱い被疑者といったものではありませんでしたので、そうは思いませんでした」

── どういう効果を期待していたのですか?

「弁解の形がその後に語らなくなるということを期待しましたが、そういうことはありませんでした」


以上で第9回公判の午前が終了。午後は石川氏の女性秘書が証言台に立つ。

※法廷でのやりとりは、筆者のとったメモを元に再構成したものです。

(文責:《THE JOURNAL》編集部 西岡千史)
────────────────────────

■有料会員制度スタートのお知らせ

《THE JOURNAL》では10月に有料会員制度をスタートしました。本記事も、有料会員の皆様の支援によって制作されたものです。有料会員制度の詳細については下記URLをご参照下さいm(_ _)m
http://www.the-journal.jp/contents/info/2010/10/post_66.html

2011年4月27日

ホリエモン緊急記者会見 ── 若者は中国へ行け!

newsspiral110428.jpg

 証券取引法違反の罪に問われていた堀江貴文元ライブドア社長は26日、懲役2年6ヶ月の実刑が確定した。同日に都内の国際文化会館で緊急記者会見(主催:自由報道協会)を行った堀江氏は、上告趣意書を最高裁が「上告理由に当たらない」として退けたことに対し、異議申し立てをすると語った。なお、これまでの粉飾決算事件では企業が経営破綻してから捜査されていたが、この事件では経営破綻していない会社が強制捜査されたという点で、異例の事件だった。

 堀江氏は会見で、「検察の無謬性ということは信じないで、三権分立という仕組みから分離している警察の怖さを知ってほしい。メディアに関して言えばもっと多角的な角度からものごとを報道してほしい。証券取引法違反ということで証券取引等監視委員会が日興やビックカメラなど十数件は行政処分、課徴金処分で済んでいる。今回、不公平であるが、世の中は不公平で満ち足りているので、それを受け入れるしかない。ただライブドアの株主の方々には謝罪したい。またあまりにも実行できる環境であったがために、まわりへの説明を怠る部分があったことに関して責任がある。事件が経済に与えた影響を今更言っても仕方ないが、その後M&Aが減り、個人投資家も下火になったことは現在に繋がっている」と淡々と答え、改めて検察の捜査とメディアを批判した。

 また、「起業を目指す若者が今回の事件で萎縮してしまっている、その若者達に今メッセージを送るとしたらどのようなことか」という筆者の質問に対して堀江氏は、「若者は中国にいった方がいい。中国人に会うと全然エネルギーが違うので楽しいし、みんな前を向いている。言論の統制はあるが、商業に関しては自由でつぶしにかかるなどということはない。日本は閉塞している。このまま日本にいるとだめな気がする、若者はぜひ海外へ」と語った。

 収監後の生活については「獄中では読みたい本がたくさんあるので、勉強し、出所後みなさんのお役に立てるようにしたい。メールマガジンも続けていく」と発言した。

(大学生記者:湯浅 拓)


【関連記事】
■堀江貴文被告緊急記者会見全文(ニコニコニュース)

2011年4月26日

現実味を帯びる首都圏壊滅の危険(3)── もし浜岡原発が爆発したら?

takanoron.png 日本列島の半分が乗っている北米プレート全体が揺れ動いている中では、首都直下地震が単独で起きるかもしれないし、東海大地震のほうが先かもしれず、また両者が連動して起きるかもしれない。それだけでも十分に破滅的な事態となるが、加えて、東海大地震が起きればほぼ確実に御前崎の浜岡原発群が爆発事故を起こし、そこから吐き出される放射能は北東に流れて首都を直撃する。首都直下地震と放射能が重なればもう手の着けようはなく、首都喪失、日本沈没となる。

●震源域の真ん中にある浜岡原発

 浜岡原発の危険性はさんざん語られてきて、反原発・脱原発派の間では常識中の常識に属するが、最近私は、静岡県はじめ東海地方でさえもこの問題をほとんど知らないか、多少は知っていても全く気にかけていない人が少なくないことを知って驚くということを2度立て続けに経験したので、簡単におさらいしておこう。

 中部電力が原発建設候補地として浜岡を挙げたのは1967年。その時点で、東海地震の危険性を指摘する説はなく、またプレートテクトニクス論さえも提唱されていなかったのは事実で、一概に中電を責めることは出来ない。が、早くも69年11月には、東京大学地震研究所の茂木清夫教授によって「東海地方でM8級の大地震の可能性がある」ことが初めて唱えられ、地震予知連絡会を通じて発表されて新聞、テレビでも大きく報じられた。翌70年2月には予知連が、M8級の発生をにらんで東海地方を「特定観測地域」に指定(のち74年に「観測強化地域」に格上げ、78年に「大規模地震対策特別措置法」施行)したにも関わらず、それを全く無視して、中電は70年5月に1号機の設置申請、わずか7カ月の審査で国の許可を得て71年に着工、76年に運転開始した。また2号機も72年に申請、73年に着工して78年に運転開始した。

newsspiral110426_7.gif
↑《図7》

 76年には東大地震研の石橋克彦教授が、1707年の宝永地震や1854年の安政東海地震の分析を踏まえて、過去の東海地震の震源域が駿河湾の奥にまで達していることを明らかにし、その断層モデルも提唱した。それが《図7》で、誰が見ても震源域の真上にある浜岡原発の怖さを実感出来るものとして有名になった。震源面が斜めになっているのは、本稿(1)に載せた《図2》で、フィリピン海プレートが西から押し被さるユーラシア・プレートときしみ合いながら伊豆半島に向かってせり上がっていく様子を示している。しかし中電は、そのような地震学の最新の発展も無視して、82年に3号機、89年に4号機に着工する。

 95年の阪神大震災の惨事を受けて、石橋は97年に月刊誌『科学』10月号で「原発震災」という概念を提唱する。原発震災とは「地震によって原発の大事故と大量の放射能放出が生じて、通常の震災と放射能被害が複合・増幅し合う破局的災害」である。「それが本格的な場合、震災地の救援・復旧が強い放射能のために不可能になるとともに、原発の事故処理や住民の放射能からの避難も地震被害のために困難をきわめて、無数の命が見捨てられ震災地が放棄される。さらに、地震の揺れを感じなかった遠方の地や未来世代にまでを覆い尽くし、夥しいガン死や晩発性障害をもたらして、国土の何割かを喪失させ、地球全体を放射能で汚染する」(石橋、月刊『世界』11年5月号)。

newsspiral110426_8.jpg
↑《図8》

 《図8》もよく知られているもので、浜岡原発が爆発した場合に放射能が北東に流れ首都を直撃する可能性が大きいことを示す。

●相次ぐ事故やデータ改竄

 それでも怯まない中電は、99年に5号機に着工するが、2000年代に入ると事故やデータ偽造や不正行為が頻発するようになる。01年11月1号機で配管破断、水素爆発で2号機も運転停止。02年5月2号機で配管水漏れ。04年2月2号機タービン建屋で火災。05年11月1号機で配管水漏れと燃料プールへの異物混入、3号機で屋外配管腐食による蒸気漏れ。06年6月5号機でタービン羽が破損。07年3月不正行為やミスが14件あったことを中電が発表。09年4月5号機の溶接処理94カ所でデータ改竄が判明。09年8月駿河湾沖地震で4、5号機が緊急停止、5号機排ガスからごく微量のヨウ素131を検出。09年12月3号機で放射性廃液が漏れ作業員34人が被曝......。

 この間、04年7月には、4号機に使うセメント骨材を一手に納入してきた安倍川開発の元課長が、社長の命令で検査データを改竄し証明書を偽造してまで基準に達しない粗悪な骨材を納入し続けたと内部告発した。この骨材では、半年も経つと無数の亀裂が走って、重大な事故の原因になりかねないと思い詰め、保安院に申告書を提出したが、同院も中電も黙殺した。続いて05年4月には、浜岡原発の設計を担当していた東芝のエンジニアらが、浜岡原発の岩盤強度が低いにも関わらず耐震数値を誤魔化しており、しかも地震の横揺れは考慮しているものの縦揺れは無視して設計されており、これでは燃料棒の集合体を支える格子板が地震に耐えられず燃料棒集合体が共振を起こす危険があると告発したが、これも経産省と中電は無視した。が、恐らくこの告発がきっかけとなって、1年半後に1号機と2号機を廃炉にした。

 御前崎市民や静岡県民を中心とする浜岡原発に対する反対運動は早い段階から組織され、とりわけ東海大地震との関係が明らかになり、さらに事故や不正が頻発するようになるとますます大きな広がりを見せた。その中心は「ストップ浜岡」で、同ウェブサイトは現在は「No More Fukushima」のスローガンをトップに掲げている。また各市民団体は「浜岡原発とめよう裁判の会」として03年に1〜4号機の運転差し止め裁判を起こし、07年に中電の主張を大幅に認めた判決によって敗訴したものの、この裁判は全国の目を浜岡の恐怖に向けさせる役割を果たし、04年からは村田光平(元駐スイス大使)の呼びかけに多くの識者・文化人が賛同して「原発震災を防ぐ全国署名運動」が始まり、これまでに100万人近い署名を集めている。裁判そのものは現在控訴中で、フクシマの後では高裁の判断も大きく変わるのではないかと期待されている。

※ストップ浜岡 http://www.stop-hamaoka.com/
※浜岡原発とめよう裁判の会 http://www.geocities.jp/ear_tn/
※原発震災を防ぐ全国署名 http://www.geocities.jp/genpatusinsai/

●泥縄で堤防を作る?中電

 福島の事態で誰よりも震え上がったのはおそらく中電だろう。「福島はダメだったが浜岡は大丈夫」と言える根拠などあるはずもなく、3/11の5日後の16日には浜岡に高さ4メートルの防波壁を建設して海抜12メートルの津波でも防げるようにする計画を慌てて発表した(さらに4月12日には高さを15メートル超に引き上げると発表)。浜岡原発は最大6メートルの津波しか予想しておらず、それでも海と原発との間に高さ10メートルの砂丘があるから大丈夫と主張してきた。進歩と言えば進歩だが、それが完成するのは早くて2〜3年先だという。

 続いて中電は、敷地内の高台に非常用ディーゼル発電機を設置すること、今年4月にも予定していた6号機の着工を1年間(たぶん無期限になる?)延期すること、さらに来春を目途としていた4号機でのプルサーマル計画も延期することなどを矢継ぎ早に発表した。泥縄とはこのことで、こんなことをいくら重ねても、震源域のど真ん中に原発を作ってしまった罪は消すことは出来ない。4月10日には都内で2500人が集まり、「東海地震が起きれば震源地域の真上にある浜岡原発では、福島第1原発の二の舞いかそれ以上の事態になる。即刻運転停止するべきだ」と訴えた。▲

────────────────────────

■有料会員制度スタートのお知らせ

《THE JOURNAL》では10月に有料会員制度をスタートしました。本記事も、有料会員の皆様の支援によって制作されたものです。有料会員制度の詳細については下記URLをご参照下さいm(_ _)m
http://www.the-journal.jp/contents/info/2010/10/post_66.html

2011年4月25日

現実味を帯びる首都圏壊滅の危険(2)── 首都直下地震が起きたら一体どんなことになるのか?

takanoron.png 首都直下地震が、溝上博士の言うように、茨城県沖地震から茨城県内陸南部地震を経由して惹起されるのか、東海大地震が起きてそれが連動・波及するのか、あるいはそうした外的要因がなくとももっと表層に近い活断層の動きで単独で起こりうるのか、それは誰にも分からないが、東日本大震災の後では今までに増して起こりやすくなっているのは事実だろう。

 ひとたびそれが起きたならば、一体どういう被害となるのか、そのイメージを与えてくれるのが、政府中央防災会議の下で平成17年に組織した「首都直下地震対策専門調査会」に資料として提出された「首都直下地震対策について」という文書である。
http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/taisaku_syuto/pdf/gaiyou/gaiyou.pdf

●避難生活者700万人?!

 この専門調査会の座長は、先述の溝上恵博士であり、この資料にも彼の見方が反映されているだろうとは推測されるが、この調査会としての結論ではないし、ましてや政府としての公式見解ではないので、あくまで1つのイメージとして捉えるべきものであろうとは思われるが、それにしても首都直下地震の被害の甚大さには驚くばかりである。

newsspiral110425_1.jpg
↑ 《図3》

 冬季の18時夕食時にM7.3の地震があったとして、死者は1万1000人、負傷者21万人、建物の全壊・焼失は85万棟に及ぶ《図3》。建物の半壊・半焼となれば、その数倍から10倍にも及ぶだろう。

newsspiral110425_2.jpg
↑ 《図4》

 経済的な被害額は約112兆円《図4》。建物被害を中心とした直接被害が66.6兆円、被災地域内だけでなく域外や国外にまで及ぶ生産額低下による間接被害が39.0兆円、域内外の交通寸断による機会損失・時間損失が6.2兆円と見積もられている。

newsspiral110425_3.jpg
↑ 《図5》

 震災発生時の外出者を2100万人、うち居住地帯外への外出者を1400万人と想定して、その1400万人のうち半分近い650万人が帰宅困難者となる。その時の気象条件等にもよるが、1日後の避難所生活者約460万人、疎開者250万人で、計700万人。1カ月後でも避難所生活者270万人《図5》。救援も支援もやりようがない地獄絵が現出する。

●世界ダントツ1位の危険都市

newsspiral110425_4.jpg
↑ 《図6》

 これも、上記専門調査会に参考資料として提出され広く知られるようになったものだが、ミュンヘン再保険会社が2002年に発表した世界主要都市の災害危険度ランキングで東京・横浜の危険度指数は710で、第2位サンフランシスコの167、第3位ロサンゼルスの100をブッちぎりで引き離してダントツ第1位と評価された《図6》。

 これは、(1)地震、台風、水害、火山爆発、山林火災、寒害など災害の発生危険性、(2)住宅の構造特性、住宅密度、都市安全対策の水準から見た災害に対する脆弱性、(3)各都市の家計、経済水準から見た災害による経済的被害の大きさ──を指標化したもので、ランキングは次の通り。

東京・横浜     710.0
サンフランシスコ  167.0
ロサンゼルス    100.0
大阪・神戸・京都   92.0
ニューヨーク     42.0
香港         41.0
ロンドン       30.0
パリ         25.0
シカゴ        20.0
メキシコシティ    19.0
北京         15.0
ソウル        15.0
モスクワ       11.0
シドニー       6.0
サンチアゴ      4.9
イスタンブール    4.8
ブエノスアイレス   4.2
ヨハネスブルグ    3.9
ジャカルタ      3.6
シンガポール     3.5
サンパウロ      2.5
リオデジャネイロ   1.8
カイロ        1.8
デリー        1.5

 災害の危険が非常に高いところに、人口と経済を極度に集中させ、しかもそのリスクへの備えが出来ていないという、世界で最も後進的な大都市が東京ということになる。しかもこの災害危険度には、原発事故による放射能災害は考慮されていない。[続く]▲

────────────────────────

■有料会員制度スタートのお知らせ

《THE JOURNAL》では10月に有料会員制度をスタートしました。本記事も、有料会員の皆様の支援によって制作されたものです。有料会員制度の詳細については下記URLをご参照下さいm(_ _)m
http://www.the-journal.jp/contents/info/2010/10/post_66.html

2011年4月23日

現実味を帯びる首都圏壊滅の危険(1) ── 東北沖は茨城沖を通じて関東直下、東海にまで連動する

takanoron.png 大震災以来4月22日までの約40日間に起きたM5.0以上の余震は、気象庁発表によると合計429回で、そのうちM6.0以上が74回、 M7.0以上が5回である。M4.0以上まで広げると何と700回を超える。今後も数カ月ないし1年間は続くと言われているものの、実はどんな専門家にも分からないというのが本当だろう。

●北米プレートの激動

 問題は、その頻度やマグニチュードの大きさばかりでなく、質的な側面、すなわち構造的な連動性である。プレートテクトニクス説は地震のすべてを説明できず、ましてその予知にはほとんど役立たないという批判もあるが(例えば日経ビジネス・オンライン4月22日号の角田史雄=埼玉大学名誉教授)、それはひとまず措くとして、今回の大地震が太平洋プレートと北米プレートの境界をなす日本海溝の陸地寄りで起きて、日本列島が5.5メートル東に動いたと言われるほどの衝撃を列島に与えたことは間違いなく、とすると、特に北海道、東北、関東から甲信越のほとんどが乗っている北米プレート全体が激しく揺さぶられ、日本海溝のさらに南の茨城県沖と房総沖、北米プレートと西のユーラシア・プレート及び南のフィリピン海プレートとの境界付近など、要するに北米プレートの縁辺全体に余震が集中しているのは当然のことと考えられる。

newsspiral110423_2.jpg
《図1》北米プレート周辺で次々に起きる余震の怖さ(スイス地震局HPより)

 そのことをたぶんいち早く指摘したのは、国際的に権威あるスイス地震局で、前に書いたように、3月17日のブリーフィングで《図1》を掲げた。東日本大地震と太平洋側で多発するその余震群に加えて、3月11日青森沖M6.6、同日新潟内陸M6.2とM5.5、3月15日静岡M6.2など北米プレート境界ぐるり一周的な余震をプロットし、さらに「東海及び南海の震源域はまだ動いていないが、これこそ最大でM7.9から8.2を伴う最大の危険である」として、それが東京地方にも波及する可能性を示唆した。
※スイス地震局 http://www.seismo.ethz.ch/index_EN

 これらが単に北米プレート境界のあちこちで起きているというだけでなく、その中でも特に、茨城県沖と茨城県南部の地震が首都圏直下型大地震と東海大地震を誘発する可能性があることを1980年代から指摘していたのは、故・溝上恵=東京大学名誉教授である。溝上は、地震防災対策強化地域判定会の会長を96年から08年まで務めた地震学の権威で、10年に73歳で亡くなったが、『週刊朝日』は彼に11年前に取材していた記録に基づいて、4月29日号に「地震学の権威が警告していた首都圏直下大地震の戦慄」と題した記事を掲げた。

newsspiral110423_1.jpeg
《図2》東北沖が首都直下誘発する連動性を示した断面図(週刊朝日より)

●フィリピン海プレートが鍵

 それによると、(1)茨城県沖では約20年ごとにM7クラスの地震が起きている、(2)この地震は茨城県南部の地震と連動する、(3)その2つの地震がプレートに影響して南関東直下地震を誘発する----というのが溝上仮説である。これを理解するには、お馴染みのプレートのせめぎ合いの平面図だけでなく、茨城県沖から静岡県沖にかけての断面模式図《図2》を見なければならない。これを見ると、鍵を握るのはフィリピン海プレートで、それは西日本の太平洋側でユーラシア・プレートとせめぎ合って南海トラフを形成しながら、静岡市近辺に向かって突き刺ささり、底から北の北米プレートに接し、さらに三宅島西方辺りで太平洋プレートとぶつかっているのだが、(1)フィリピン海プレートが上昇しながらユーラシア・プレートと擦れ合っているところが東海大地震の震源域となり、(2)そのまませり上がって伊豆半島を押し上げている辺りが小田原地震を起こしかねず、(3)しかし北米プレートに当たると今度はその下に食い込み始めて相模トラフを作り、さらに潜って北米プレートの活断層を刺激して関東直下地震の原因を作り、(4)さらに潜って行って東から潜って来た太平洋プレートと60〜80キロの震度で擦れ合うが、その真上が茨城県南部である。つまり、平面図で見ると、太平洋プレートは日本海溝南端でフィリピン海プレートと接しているだけのようだが、実際には、太平洋プレートは茨城県沖で沈み始めてから斜め西にどんどん潜って行って、茨城県南部の深いところで、今度は北米プレートによって押し下げられてきたフィリピン海プレートともう一度、きしみ合うのである。

 してみると、東北沖の地震は日本海溝続きの茨城県沖や房総沖に連動するのは当然として、さらに構造的に、茨城県沖は直ちに茨城県南部を刺激し、さらにフィリピン海プレートに変調を惹起して関東直下や小田原や東海の大地震を引き起こすきっかけとなるということである。▲

────────────────────────

■有料会員制度スタートのお知らせ

《THE JOURNAL》では10月に有料会員制度をスタートしました。本記事も、有料会員の皆様の支援によって制作されたものです。有料会員制度の詳細については下記URLをご参照下さいm(_ _)m
http://www.the-journal.jp/contents/info/2010/10/post_66.html

2011年4月22日

東日本大震災津波・岩手からの報告

日本一新の会 達増拓也(岩手県知事)

 「日本一新メルマガ」への投稿は、大震災津波後、初めてになります。岩手県や県内被災地に対し、全国から、世界から、多くの支援、お見舞い、激励をいただいています。この場を借りて、感謝申し上げます。

 また、大震災で犠牲になられた方々、その関係者の方々に、心からの哀悼の意を捧げます。

 発災翌日の3月12日、岩手県選出参議院議員である平野達男内閣府副大臣が、23人の事務方と共に岩手入りし、岩手県庁内に政府の現地連絡対策室を立ち上げました。事務方は、内閣府の防災担当参事官の下に各省庁の若手で構成。県庁内には、11日のうちに自衛隊の連絡窓口もでき、その後、北東北3県を管轄する第9師団の司令部が青森市から岩手県庁に移されました。

 これにより、発災当初から、被災地が直面する課題について国と地方自治体の職員が共同で解決する体制ができました。同じころ、県は、停電と通信途絶の中で、12の沿岸市町村全てに本庁職員を派遣して、状況を把握し、初動を支援しました。市町村と、県と、国の各省庁がつながって、人命救助、避難、応急復旧、被災者支援を展開しました。避難所のケアは、自衛隊に負うところ大です。

 工場で研修をしていた中国人が多数被災したので、外務省の中国語ができる職員にすぐ来てもらいました。被災市町村の行政機能が大きく損なわれており、県や他市町村からの大規模な支援が必要だということで、市町村行政に詳しい総務省職員に来てもらい、支援体制作りを手伝ってもらいました。その他にも、いろいろと、現場の要請で各省庁に動いてもらいました。後に政府が決めた被災地支援策のかなりの部分は、市町村、県、各省庁の事務方の「現場力」で作り上げたといえます。

ガソリンなどの燃料不足が長く続いた件は「現場力」では対応しきれず政府による全国的な調整力と指導力の不足がたたりました。なお、宮城県の政府現地連絡対策室担当の東祥三内閣府副大臣が岩手の被災地入りした時に、仮設ガソリンスタンドの設置を現地で決めてくれ、すぐ実行されたのは助かりました。

 「政治主導」を感じたのは、がれきの処理です。樋高剛環境政務官が政府のがれき処理プロジェクトチームの座長となり、関係省庁の事務方を糾合し、平時であれば1年かかるような省庁間調整を2、3日で終わらせました。阪神淡路大震災時を上回る財政措置も決まりました。がれき問題は被災市町村長が抱える最大の悩みの一つであり、大いに助かりました。樋高政務官は、中選挙区時代に小沢一郎秘書として陸前高田市などの今回の被災地を担当しており、かつて一軒一軒歩いた家ががれきとなってしまった、そのがれきの問題は何としても解決しなければならない、と言っていました。

 発災直後、私が被災地の市町村長さん達にお願いしたのは、住宅地図で一軒一軒確認するように被害状況を把握すること、名簿をしっかり作って住民の安否状況を把握すること、でした。住宅地図と名簿は、小沢一郎さんに習った選挙手法でもあり、災害対策本部長の仕事は選挙対策本部長の仕事と共通点がある、と思いました。

 また、私は津波の被害を受けなかった内陸の市町村長さん達に集まってもらって沿岸支援への協力をお願いし、さらに、県内の諸団体に被災地支援をお願いする文書を作って協力を依頼しました。目的を達成するために、より多くの団体、企業、個人の支援を取り付けていく、というのも選挙の手法に似ています。選挙において有権者の力を結集して為すべきことを実現する手法は、災害においてあらゆる力を結集して被災者を救う手法と共通するのです。

 ちなみに、団体対策に強い自民党本部は今回の災害でも動きがよく、経団連と被災県を直接結ぶホットラインは、経団連の機関紙で喧伝されていますが、自民党災害対策本部が仲介してくれたものです。

 がれき処理で財務省が前例のない財政措置を認めたのには、小沢一郎さんのはからいがあったと思います。小沢一郎さんが岩手入りした時、私との会談では「県は補正予算でいくら確保したか」とか「国の本予算には○兆円の予備費があるから、まずそれを使えばよい」とか、財政的な話が中心になりました。財務省筋から、かなり情報を得ており、また財務省に対してかなり影響を及ぼしているな、という印象を受けました。がれき処理以外でも、財務省が前例のない財政措置を認めた分野がいくつかあります。

 私は、平安時代の中央政府による東北平定の歴史を踏まえ「東祥三さんは宮城駐在の征夷大将軍、平野達男さんは岩手駐在の鎮守府将軍。今回は地方勢力と力を合わせて東北の平安のために働いていますが、小沢先生こそ2人の将軍の上にいる大将軍だと思っていますからね」と言いました。小沢一郎さんは、「はっはっは」と笑うだけでしたが、本人も大将軍的な立場を自覚していろいろ手を打っているのだな、と私は感じました。

 それから、仙台空港を在沖縄米軍が片付けたのは、新進党から自由党のころに小沢側近と呼ばれていた元衆議院議員の米津等史さんの働きかけによるものだったようです。米津さんは普天間問題の関係で在沖縄米軍と一緒に仕事をしており、大震災津波後、仙台空港が放置されているのをテレビで見て、在沖縄米軍に片付けられないかと持ちかけたところ、じゃあやろう、ということになった由。ここでも小沢一郎の弟子が奔走していました。

 大震災津波そのものによる被害への対策については、「小沢力」がかなり有効に働いていると思います。しかし、今のままでは、「小沢力」が全く生かされないのが、原発対策です。本人も、そこが一番もどかしいと感じているのではないでしょうか。

★   ★   ★

◎日本一新の会事務局からのお願い

この論説は「メルマガ・日本一新」の転載で、日本一新の会が、週一回発行しています。購読を希望される方は、「 http://www.nipponissin.com/regist/mail.cgi 」から仮登録してください。折り返し案内メールが届きますので「規約」をお読み頂き所定の手続をお願いします。

少なからず不着メールがありますので、仮登録後に数日経っても案内メールが届かない場合は、「info@nipponissin.com」へご一報下さい。

2011年4月21日

マスコミが原発事故報道で腑抜けになるワケ(2)

takanoron.png もちろん、電力業界に弱いのはどのテレビ局も同じである。4月18日付毎日で鳥越俊太郎が「原発正門に立って」と題した一文を寄せ、どの新聞もテレビも政府が決めた30キロ圏、20キロ圏を突破して福島第1原発の正門前まで到達、今やゴーストタウンと化したそのエリアの様子を線量計を片手にテレビカメラに収めてきた体験を綴っている。「私が問題だと思うのは、日本のメディアがこのエリアに警察の同行以外で入って取材しないことです。......放射能となるとなぜ全員右へならえで自己規制してしまうのか? なぜ?」。自分が怖がって危険地帯には行かないというのもどうかと思うが、さらに問題は、鳥越が自分で撮った映像を放映するよういくつかの報道番組に声をかけたが「しかし『うちで放送する』と言ってくれた局は1つもありませんでした。ふぬけですね」----これは自分が被曝するという話ではないから、別のものを怖がって腑抜けになっていることは明らかである。怒った鳥越は、まぐまぐ上に新たな有料メルマガ「鳥越俊太郎の"ニュース力"養成講座(月額840円)」を開設して、そこで発信することを始めた。

●東電だけで年680億円がメディアに?

 別冊宝島の最近刊『誰も書けなかった日本のタブー』の巻頭、川端幹人「金と権力で隠される東電の闇/マスコミ支配の実態と御用メディア&文化人の大罪」がまとめているところでは、東京電力の年間の広告費は約244億円、販売促進費は約239億円、その他に普及啓発費200億円弱で、計約680億円の多くがメディアに流れている。今年3月時点で東電がスポンサーになっていたテレビ番組は、TBS系で『みのもんたの朝ズバッ!』『報道特集』『ニュース23』、フジ系で『めざましテレビ』、日本テレビ系で『情報ライブ・ミヤネ屋』『ニュースevery』『真相報道バンキシャ!』、テレビ朝日系で『報道ステーション』などで、主だった報道・情報番組のほぼすべてをカバーしている。

 東電だけでなく他の各電力の広告宣伝費も相当なもので、関西電力の広告費は199億円、販促費は59億円、九州電力は同じく80億円、112億円など。他にも、電力10社が構成する電気事業連合会(電事連)も独自の広報予算を持っていて(非公開ながら)年間300億円以上と言われているし、さらには経済産業省・資源エネルギー庁や文部科学省の原子力関連の広報費もあって、それらすべてを合算すると「原子力界・電力業界がメディアに流している金は年間2000億円に迫る。現在、広告出稿量第1位のパナソニックが771億円、強大な広告圧力でメデイアから恐れられているトヨタが507億円だから、この金額がいかに大きいものであるかがよくわかるだろう」(川端)。

 月刊『文芸春秋』最近号を見ると、3月号には電事連の「日本にはウラン資源を有効に活用できる『原子燃料サイクル』の確立が不可欠です」というカラー1ページ広告が載り、4月号には同じく電事連による「ギモンの視点(12)原子力発電から出る高レベル放射性廃棄物はいかにして処分されるのか」と題した藤沢久美(ソフィアバンク副代表)のモノクロ2ページの研究所訪問記(「研究所では数万年先までの地質現象を鑑みながらシミュレーションを行っている」だと。目先の地震も分からないくせに!)、東電提供の「世界の電力マン(19)」でカナダ・ダーリントン原発の女性広報担当官を紹介するモノクロ2ページ提灯記事が出ている。「東日本大震災/日本人の再出発」と特集を銘打った5月号には、さすがに東電も電事連も広告を出していないが、裏側では「頃合いを見て出来るだけ早く広告を復活させますから、ひとつ事故報道のほうはお手柔らかにお願いしますよ」「ま、そのへんは心得ていますから」といった隠微な会話が交わされていても不思議ではない。

●カネで固めた「安全神話」

 このようにマスコミは、電力業界の広告費・販促費漬けになっているから、個々の勇気ある記者や編集者の抵抗はあるにしても、全体としては原発の真の危険から目を背けさせようとしてきた恥ずべき歴史を持っている。

 マスコミだけではない。政治家には政治献金、官僚には天下り先、学者には研究費、地元代議士や地方政治家や暴力団には利権配分、自治体と周辺住民には電源3法に基づく手厚い交付金......と、あらゆる関係者に莫大なカネをバラ撒いて「原発は安全」という虚構を塗り固めてきたのである。

 政治献金について言えば、昨年7月29日付東京新聞他が大阪の関西消費者団体連絡懇談会の調査結果を元に「電力9社役員が自民に献金」と報じたことが記憶に新しい。

 同会は06〜08年にかけての自民党の政治資金団体「国民政治協会」への企業献金を精査し、沖縄電力を除く(沖縄だけは原発がないからね)電力9社の常勤役員全員と東京ガスの役員の多くが個人名義を装って多額の献金をしている事実を明らかにした。

 役員個人の献金は政治資金規正法上、問題ないものの、同会は「職位ごとに額がそろうなど申し合わせない限りできない。事実上の団体献金ではないか」と指摘している。実際、各社とも、社長は年30万円前後、副社長は25万円など、職位順に整序された額を毎年献金していて、これはどう見ても組織的な仕業である。非常勤も含めた判明分で、3年間の合計金額が一番多いのは東京電力だった。

 最新の『週刊ダイヤモンド』4月16日号「東電の大罪」は、改めてこのうち東電分について氏名・役職・金額の一覧表を掲げて詳しく報じ、会長・社長は30万円、副社長は24万円、常務は12万円、執行役は7万円と綺麗に揃った額で、その総額が06年=49人/570万円、07年=46人/603万円、08年=53人/654万円に達することを明らかにした。

 これは政権交代後はどうなったのだろうか。民主党にも電力労連や電機労連などの出身者を中心に原発推進派がいて「原発輸出」を軌道に乗せようと盛んに画策していたので、そちらに重点が移ったのかどうか、追跡調査が必要だ。▲

【関連記事】
■マスコミが原発事故報道で腑抜けになるワケ(1)
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2011/04/1_6.html

2011年4月20日

山田正彦(元農水大臣):食糧とエネルギーの地方分散型のセーフティネットで列島改造計画を(下)

yamada_110124.jpgのサムネール画像

養殖漁場回復に「所得補償」制度を

 それにしてもホタテ、牡蠣などの養殖には収入を得るためには3年はかかる。その間の生活支援についても対策を講じなければならない。
 私が大臣時代に、資源管理を条件に漁業者に対する「所得補償制度」に予算措置をした。稚魚、幼魚、産卵前の親魚の漁を止めて、資源の回復を図ることに「所得補償」をすることにしたのだ。養殖でも、過剰な養殖で湾内の環境が三陸でもかなり劣化している。この際湾内の自然環境を整えることに、「所得補償」することも考えられる。
 農業においても同様の対策が講じなければならない。岩手、宮城、福島、茨城だけでも2万4000ヘクタールの水田が潮に浸かって塩害が生じている。この先大量の水で数年かかって塩を洗い出さないと復田できないところもかなりの面積が予測されている。
 何よりも排水施設、水路、導管パイプの補修にすぐさま取り掛からなければならない。これは従来のような土地改良区への補助金ではやれない。

恒久的でシンプルな公共事業を

 国の公共事業として10分の10負担してでも大胆に取り組んでいきたい。いずれにしても、農地を回復することは、国の資産価値を高めて、将来襲い掛かる食糧危機に備えるものである。
 土地改良事業も従来のように、10年20年経つとポンプの電気系統、土中に埋めてある配水管の取替えをしなければならないようなものでなく、恒久的なシンプルにしてしっかりした灌漑施設に切り替えるべきである。
 私の住んでいる長崎県の大村市には江戸時代250年前に深沢義太夫という鯨網の網本が私財をなげうって、野岳湖の造成を行い200ヘクタールの灌漑がなされている。いまだにその水路もそのまま生かされている。アフガンでの中村哲医師の3000ヘクタールの灌漑設備も筑後川の昔の堰の工法蛇籠を利用している。
 同時に、水路、水流をあまねく利用する「小水力発電」を利用するのがよい。年間1730ミリの雨量に恵まれた日本は火力についで安定した電源として再び水力発電に力を入れるべきである。
 今度の大震災で農家はトラクターなどの農機具も喪失してしまった。野菜、果樹のハウスもすべて壊れてしまった。再び農業に取り組むには無担保、無保証、無利息の特別融資のほかに、漁業者と同様な二重ローンの解消対策を講じなければならない。再び農業に意欲を持って取り組める体制を整え、その間の農家が収入を得るまでの生活支援対策も別途講じなければならない。
 農業所得補償制度はヨーロッパなどの先進国でなされている食糧自給率をあげるために農家の所得を補償するもので、耕作しないことには所得補償しないことになっている。地域を指定して、ある一定期間の特例措置として生活支援のための所得補償を認めなければならないだろう。

原発避難、風評被害に速やかな対応

 福島原発近くの農水産物について、ヨウ素、セシウムなどの放射線が暫定基準値を超えて出荷停止になった牛乳、ほうれん草、魚介類についてはより深刻である。当然、一義的には東京電力がその補償をしなければならない。
 それより、福島、北関東の農産物に対する風評被害が大変な金額にのぼる。それに福島、北茨城、千葉などの漁家は漁にもいけない状態が続いている。これらの農家、漁家の被害も福島原発に起因するものであることは明らかだから、その損害のすべてを補償しなければならない。
 この間全く収入がないので生活もできず困窮している。これらの風評被害にも、政府としてはすぐにでも、とりあえずの一時金の支払いをすべきである。

財源は電源特会積立金

 風評被害農家には、漁家も含めて収入が閉ざされた人たちに一世帯当たり50万円でも支払ったらどうだろうか。後日、政府が東京電力に求償請求して清算すれば足りるはずで、原子力損害賠償法にもとづいても、東京電力が損害を負担できない金額に上れば国が補償の責任を負うことになっている。
 かつての住居地に戻れなくて、いまだに避難生活を送っている人たちは深刻である。1年後に戻れるか数年を要するか、戻れない地域も出てくる可能性がある。周囲30キロの農地は耕作もできない。このような人たちの生活支援、損害賠償を考えれば、数兆円規模にその損害額が上ることが考えられる。
 彼等避難生活を続けている人たちにも、政府は速やかに1世帯当たり100万円ほどの一時金の支払いはすべきではないか。それだけでも避難を余儀なくされている人たちにどれだけ明るい希望を持たせることができるかはかり知れない。
 今回の原発の事故では、それくらいのことを政府も電力会社も必死でやらなければ、これからの各電力会社の停止中の原発の再開、新規原発の建設についての住民の理解を得るのが大変厳しいのではないだろうか。幸い、各電力会社が協力して積みたてて来た3兆円余の特別会計分、東京電力の内部留保もすべて総力を挙げて損害賠償の責任を果たして欲しい。

省エネマインド徹底も

 一方国民の側もこれまでのように床暖房に重ねて暖房機を入れるなど、これが「電化生活」などとジャブジャブと電気を使うことを止めるべきである。
 ドイツが選んだように各戸の屋根には太陽光のパネルを設置して、自然再生エネルギーの活用を最大限努力しなければならない。自動車、家電などの産業界も勤務時間を変えて休日も替えるなどして、節電に最大限努力しなければならない。
 そしてこの際、かねてから検討されてきたように配電分野を電力会社から分離したらどうだろうか。
そうすることによって、誰もが自然再生エネルギーを売電できるようになり、さらに住民も、電気自動車、電動漁船の電池に余剰の電力を蓄電して、必要時に利用するスマートグリッドメーターをつけて、スマートシティの建設に踏み込むことができる。これこそ、大震災を契機に日本が率先して取り組まなければならない課題である。
 さらに今回の大震災で、釜石市が1300億円をかけて湾口に完成させた海底から60メートルのギネスブックに記載された防潮堤も役に立たなかったことは、深刻に受け止めなければならない。
 大船渡市の吉浜では明治29年の大津波のあと村長が高台にしか住宅を建てさせず、かつての集落跡地は田畑にしてしまって、1戸の犠牲も無く津波の災禍を免れることができた。この貴重な体験をもとに、住民と話し合って、新たな都市計画のゾーンをすぐにでも検討し始めなければならない。

災害に強い都市計画 20兆円を超す財源は政府金融資産で

 都市計画のゾーンの設定には学者など有識者の意見も尊重されるが、基本的には住民の意思で決められる。この際、特別立法で土地所有権などの私権の制限も必要になってくる。いずれにしても莫大な予算を5年間でつぎ込まなければならない。私は20兆円をくだらない金額に上ると考える。
 財源はどうするのか政府は頭を痛めている。財務省は口を開けば、既に国は800兆円の財政赤字があって借金でやりくりしているので、他の予算を削るか増税をしなければならないと主張する。
 そうではない。確かに政府の借金は800兆円ある。しかし政府が持っている預貯金、有価証券などの金融資産を財務省は明らかにしようとしない。米国の国債だけで100兆円を政府は保有している。年金基金だけでもヨーロッパ各国は平均して年の支払額の数か月分しか貯めていないのに、日本は数年分270兆円も保有している。私は各省庁に数百はある基金、特別会計の残高を合計すれば政府は700兆円の金融資産は持っていると考えている。そうであれば、ここで増税など考えることは全くない。
 名古屋市の河村市長が「減税日本」で大勝して、「先ずは減税して民のかまどを豊かにしなければならない」と言っているのは一理ある。今、デフレから脱却できずに苦しんできたこの時期こそ「防災復興債」を20兆円を発行して大胆な内需の拡大、景気の回復に当たる最大のチャンスを迎えているといえる。
 財源を23年度の予算から一部削るなどのやりくりはやめたほうがいい。とりあえず日銀に引き受けさせればいい。国民も今は日本が国難に面していることを承知している。このようなときだからこそ、国債の元本を政府が保証すれば、10年もの、20年ものの無利息の「防災復興債」をこぞって買ってくれるに違いない。案ずるより決断が求められる。
 これら20兆円の財源を新しい自然再生エネルギーを基にした港湾、水田などの土地改良事業から農業、漁業の再生、災害に強い都市計画、スマートシティの建設に取り掛かれば一気にデフレを克服して、再び日本の国内需要が回復して力強い経済成長が期待される。今この時期に政府は決断して大胆にその実行に着手しなければならない。東日本大震災、福島原発事故は日本列島を大きく揺るがしてしまった。ここで政府は思い切った財政措置を取らなければならない。(完)

(前編「山田正彦:食糧とエネルギーの地方分散型のセーフティネットで列島改造計画を(上)」はコチラ)

-------------------------------------------------------------------------------------
【プロフィール】山田正彦(やまだ・まさひこ)yamabiko110124_4mono.jpg
1942年、長崎県五島市生まれ。民主党衆議院農林水産委員会委員長・前農林水産大臣。

1966年、早稲田大学第一法学部卒業。牧場経営、弁護士を経て、1993年新進党から衆院選に出馬し当選。著書に「小説 日米食糧戦争-日本が飢える日」「中国に「食」で潰される日本の行く末」「アメリカに潰される!日本の食―自給率を上げるのはたやすい!」など。

2011年4月19日

高増明:TPP内閣府試算の罠 ── 菅内閣がひた隠す"不都合な真実"

 TPPの参加問題について海江田万里経済産業相は19日の閣議後の記者会見で「まだ完全にあきらめたという話ではない」(日経)と語ったという。また、竹中平蔵慶大教授は、18日の産経で「東北の農業を単に復元するのではなく、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)対応型の強い農業にする」と語り、東日本大震災の影響で一時は棚上げされていたTPPが、再び議論の俎上に上がりつつある。

 しかし、本誌でも繰り返し主張してきたように、TPP推進派の論拠は薄く、いまだに反対派との間できちんとした議論も行われていない。

 なぜ、議論がいつまでたっても平行線なのだろうか。理由は単純である。それは、内閣府が"GTAP"という計算モデルを用いてTPPの経済的影響を試算した結果について「実質GDPを2.4兆〜3.2兆円、0.48%〜0.65%押し上げる」と自らに都合のいいデータだけを公開し、それ以外の結果のほとんどを隠し続けているからだ。

 では、政府が隠しているデータとは何か。今回は、独自にGTAPモデルを用いてTPPの経済的影響を試算(※1)した関西大学の高増明教授に、政府がひた隠す"不都合な真実"を明らかにしてもらった。

【参考】
(※1)高増明教授による農業に関するTPP参加の経済効果のシミュレーション
http://www.takamasu.net/tpp.html

────────────────────────

高増明氏(関西大学社会学部教授)

──なぜ政府とは別にGTAPモデルを使ってTPP参加の経済効果を計算したのですか?

政府はGTAPモデルを使って、日本がTPPに参加したときの経済効果を計算して発表しましたが、日本のGDPの増加だけを発表していて、個別の産業、商品の生産がどのように変化するのかを発表していません。しかし、実際には、コメ、小麦、牛肉など個別の商品の生産の変化が問題なのは明らかです。それを発表しないのは、都合の悪い結果を隠しているのかなと思ったので計算してみました。

日本だけがTPPに参加した場合
※表はクリックすると拡大します
newsspiral110419_1_1.jpg

日本・中国・韓国・台湾・すべてのASEAN諸国がTPPに参加した場合 ※表はクリックすると拡大します
newsspiral110419_2_1.jpg

※グループ名に対応する国名は下記URLに掲載
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/newsspiral110419_3.png

──その結果、どうなりましたか?

日本だけがTPPに参加した場合、日本はGDPを0.29%増加させますが、日本のコメ生産額は-64.5%、小麦の生産額は-62.3%、肉類の生産額は-23.9%となって、日本の農業は壊滅的な打撃をうけるという結果になりました。また日本、韓国、中国、台湾、ASEAN諸国がすべてTPPに参加した場合、東アジアの先進工業地域、中国はTPPに参加することによって、GDPを上昇させることができますが、日本、韓国、台湾のコメ生産は壊滅的な打撃を受け、そのほかの農産業についても日本は大きな生産額の減少を余儀なくされるという結果になりました。日本のコメの生産を減らさないためにどの程度の補助金を出せばいいのかということも計算してみましたが、400%程度という非常に高い補助金を支給する必要があるという結果になりました。(詳しい内容は表を見てください)

このような結果は政府も得ているはずで、それを発表しないのは、都合の悪い結果を隠しているとしか思えません。また他の国のGDPがどのように変化するのかも明らかにしていません。私の推計では、アメリカのGDPはほとんど増加しません。これは農業生産の増加が工業生産の減少で相殺されるということです。したがって、政府やマスメディアが言うように日本もアメリカも利益を得るというのは必ずしも当たらないと思います。

政府は農業が受ける影響を隠している

──そもそもGTAPモデルとはどういうものなのですか?

アメリカのパーデュー大学の農学部のグローバル・トレード分析センターが提供している貿易政策の効果を推計するためのモデルで、モデルとともに、世界経済についてのデータベースも提供されています。最新のものは、2004年について、113の地域と57の商品についてのデータが用意されていて、それを使って関税を引き下げたときの生産、貿易などへの影響を調べることができるわけです。農学部に所属しているということからもわかるように、GDPの増加を計算するのが目的ではなく、農業の個別の商品への影響を調べるのが最も重要な目的だと言っていいでしょう。その意味でも政府の使い方は間違っています。

農林水産省の推計よりGTAPモデルの方が正確だという議論がありますが、私が行ったようにGTAPモデルでも農業に大きな被害が発生することが結果として出ているはずです。またGTAPモデルのように多数の商品、多数の国を扱う一般均衡モデルの場合には、均衡を計算するために、モデルは単純なものにならざるをえず、またどうしてもデータは古くなるので、必ずしも推計の精度がいいとは言えません。GTAPモデルがいいと言う人は、モデルの構造もデータの問題もまったくわかっていない人ではないでしょうか。政府も関係者も、たとえばコメの関税を引き下げたら、中国産のコシヒカリや秋田小町、アメリカの玉錦、国宝などがいくらで輸入されるのかといった点を具体的に考えるべきだと思います。

TPPの経済効果はゼロに等しい

──政府はGTAPを用いて「実質GDPを2.4兆〜3.2兆円、0.48%〜0.65%押し上げる」と発表していますが、試算をした野村証券金融経済研究所の川崎研一氏は、東洋経済でのインタビューで「私が算出した政府試算は、関税撤廃等の自由化を10年やった場合の累積だ。TPP参加、不参加で3兆~4兆円差がつくとみているが、1年で3000億~4000億程度、GDPなら0.1%相当にしかならない」と答えています。政府が発表していた数字が10年間の累積だったというのも驚きですが、同じGTAPモデルを用いた計算でもこれほど結果が異なるものなのでしょうか?

誰でも1年で3~4兆円だと思いますよね。それが1年で3000億~4000億円なんていうことであれば、ほとんどゼロに等しいです。

政府は10年間の試算を出していることから、おそらく動学モデルを使っています。それに対し、私はもっとも基本的な静学モデルを使っているので違いが出ているのだと思います。

静学モデルとは、ひとつの状態(均衡)と別の状態を比べたもので、動学モデルは時間的な経路をみるものです。動学モデルでは、投資や資本の国際間移動などを取り扱え、時間的変化を調べられるのですが、複雑にしたから正確だとは一概には言えません。

その結果、政府と私では計算結果が違ったのだと思いますが、そのほかにもパラメータを変更したり、モデルのセッティングを変えることはできますから、結果は人によって変わります。私はあまり恣意的なことはしたくなかったので、基本モデルを使って、デフォルトのセッティングで計算しました。

でも、計量モデルとは所詮はその程度のもので、数字の大きさは参考程度でしょう。数字についてどちらが正確かとか、その大きさを過大に評価してはいけないと思います。

政府試算に非関税分野は含まれていない

──TPPでは農業以外にもサービス産業などの非関税分野も含まれていますが、これらも予測できますか?

GTAPモデルは、サービス産業の分析には適していません。サービス産業は関税が問題なのではなく、様々な規制、あるいは目に見えない障壁が問題だからです。TPPに日本が参加することによって、アメリカのGDPはほとんど増えないと思いますし、アメリカの狙いが、金融分野などにあることは明らかだと思います。

しかし、金融については、リーマンショックでも明らかになったように、規制緩和が良い結果をもたらすとは限りません。ヘッジファンドは、利回りの高い住宅ローンを証券化したものを買って、さらにそれを担保に債券を発行して資金を調達し、さらに証券を買うということを繰り返して、手持ちの資金の何十倍もの資金を運用しました。その結果、利益も何十倍になる可能性があります。しかし、それが損失となったときには、それも何十倍になるということです。このような影の金融機関やその取引を規制できなかったのが、リーマンショックの原因でした。

日本や中国などアジアの国が、リーマンショックの影響を直接受けなかったのは、規制や障壁が厳しかったからです。それが、TPPへの参加によって、なしくずしになる可能性は高いと思います。国全体が投資銀行化し、一時は高い経済成長を達成したアイスランドやアイルランドがどうなったのかを忘れてはいけないと思います。所得格差の拡大という面についても問題です。

──内閣、大手メディア、財界らが一体となった「TPP推進」の動きについて経済学者として感じることは?

まず「平成の開国」というキャッチフレーズを聞いて、TPP参加が危ういものだと思わない人は、どうかしていると思います。いったい誰が考えたのですか? 「開国」が関税ゼロという意味なら、どこの国にとっても、そう簡単に認められるものではありません。そもそもFTAが拡大してきたのは、包括的な交渉であるWTOが合意できなかったからです。もし、どこの国でも、どの産業についても、関税引き下げが望ましいのだったらWTOもすぐ合意できたでしょう。

関税の引き下げがいいことだというのも一般には間違っています。競争や自由貿易が経済を望ましい状態に導くというのは、様々な前提が満たされているときだけで、現実にはそれは満たされていないと考えるべきです。収穫逓増、不完全競争、情報の不完全性、公共財、外部性など「市場の失敗」と呼ばれる状況は現実に普通に存在しています。また自由貿易は産業構造の変化を促進させますが、その結果、生じる失業は、失業する人、ひとりひとりにとっては、そんなに簡単な問題ではありません。

日本の自動車産業だって、戦後の長い間、高率の関税で守られてきました。もし1950年代、60年代に自動車の関税を引き下げたら日本の自動車産業は壊滅していたでしょう。実際、当時の経済学者の一部や日銀総裁は、自動車産業不用論を唱えましたが、通産省(現在の経済産業省)が反対して自動車産業を育成したのです。経済産業省は、その時のことを忘れたのでしょうか?競争でいいのなら、経済産業省なんていらないですよね。

一般に、ある経済政策を行うときには、それによって利益を得る人と不利益を被る人がいます。合計して利益になるとしても、不利益を被る人をどのように救済するのかが問題で、その議論なしに経済政策を決めることは考えられません。とくに被害が大きいときは問題で、TPP参加を決めて、被害については後で考えましょうといったやり方は考えられません。最近になって政府も例外となる品目もあるというようなことを言っているらしいですが、例外としてどの商品を設定するのかを明らかにしてから交渉参加を決めるべきです。

東日本大震災でTPP参加は実質的に不可能

──目の前の事実を正しく認識し、それを科学的に分析する能力を持っていなければならない経済学者や政治家が、なぜTPPのような極端な政策に賛同してしまうのでしょうか?

経済学者のなかには、農業のような生産性の低い分野に投入されている資本や労働をより生産性の高い分野に振り向けるべきだという人もいます。竹中平蔵さんも、構造改革は生産性の低い産業で働いている人が高い産業へ移れるチャンスですと言っていました。しかし、本当にそんなことが可能だと思っているのでしょうか? 昨日まで農業をしていた人が、今日からIT産業で働けることはありえません。最近の経済学者のなかには、現実と経済モデルの違いがわからない人がたくさんいます。TPPのような極端なものに飛びつく経済学者は、そういう人か悪い奴のどちらかだと思います。マスメディアの一部もそういう乱暴な議論が好きですよね。

ようするに、政策を行って生じる様々な問題をうまく全体としてコントロールするということができなくなって、その結果、右か左かという極端な選択を突きつけるようになってきています。しかし、農業を保護しなければならないことはどの国・地域にとっても明らかで、またその一方で、FTAを進める必要があることも明らかです。政府は、バランスのとれた政策を提案し、メディアも全体としてのバランスを検証しなければなりません。それができなくなっているということです。それは、おそらく日本という国、政府、国民、メディアのすべてが追い詰められているなかで、生じてきていることでしょう。

貿易政策をナショナリズムと結びつけるのもやめてもらいたいと思います。貿易は個別の企業や個人が行うもので、どちらの政治体制が好きだから行うものではありませんし、政府が決めるものでもありません。一部のメディアが、東アジア共同体は中国が入るからだめで、TPPはアメリカ主導だからいいといったようなことを言っていますが、とんでもない議論です。それもTPPの議論をゆがめているひとつの要因です。

領土問題も同じで、強硬な主張が利益になることは一般にありえません。相手国が自分の領土だと主張している地域を勝手に開発することはむずかしいでしょうし、もし行ったとしてもそれによって得られる利益はごく小さいものでしょう。一方、友好的に貿易や相互投資を行うことの利益の方がはるかに大きいでしょう。私は「国益」とか言う人を基本的に信用していません。あるのは一人ひとりの利益だけです。ただし、それは利己的になれということではなく、他人の利益や痛みも考慮して、全体としてバランスのとれた社会や経済をつくっていくべきだということです。

──東日本大震災から1ヶ月が経過し、なかには「震災を契機に強い農業を」と主張する経済学者もいます。こういった意見についてどのように思いますか?

私は、震災と原発事故によってTPP参加は実質的に不可能になったと思います。東北、関東の農業、漁業は大きな被害を受けましたし、原発事故による放射能汚染は深刻です。海外に日本の農産物を輸出することは、よりむずかしくなりました。原発事故の収束には、長い時間がかかるでしょうから、その間に、日本の農業の国際競争力を上げることは到底、考えられません。しかし、震災と原発事故によって、農業のリスクの大きさや農業を守ることの重要性を多くの人が認識するようになったのではないでしょうか。その認識をこれからの政策に生かしてもらいたいと思います。

(聞き手:《THE JOURNAL》編集部 西岡千史)

【TPP関連記事】
TPP推進派の根拠に落とし穴 ── 内閣府試算GDP3.2兆円増は10年間累積試算だった
山田正彦:TPPは農業だけの問題ではない!
舟山やすえ:米国基軸のTPPよりアジア中心の経済圏を

────────────────────────

【プロフィール】高増 明(たかます・あきら)

takamasu.jpg1954年、東京生まれ。京都大学経済学部、大学院経済学研究科卒業。京都大学経済学博士。大阪産業大学経済学部教授を経て、2006年から関西大学社会学部教授。専門は理論経済学、国際経済学。著書に『ネオ・リカーディアンの貿易理論』(創文社)『国際経済学:理論と現実』『経済学者に騙されないための経済学入門』『アナリティカル・マルキシズム』(ナカニシヤ出版)などがある。市場メカニズムの効率性や個人の自発的意思決定を絶対視する経済学には批判的であり、公正な所得分配とはどのようなものか、それをどのように現実の経済政策によって実現するのかについて研究している。

────────────────────────

■有料会員制度スタートのお知らせ

《THE JOURNAL》では10月に有料会員制度をスタートしました。本記事も、有料会員の皆様の支援によって制作されたものです。有料会員制度の詳細については下記URLをご参照下さいm(_ _)m
http://www.the-journal.jp/contents/info/2010/10/post_66.html

山田正彦(元農水大臣):食糧とエネルギーの地方分散型のセーフティネットで列島改造計画を(上)

yamada_11024_2.jpg

 この国はおかしい。米倉経団連会長は3月16日に福島原発を津波に耐えて素晴らしい、原子力行政はもっと胸を張るべき」と述べ、4月6日には「東電は甘くなかった」と発言している。国民は決してそうは思っていないだろうに。
 今回、巨大地震はいつどこで起こるかわからないことは、骨身にしみてわかったが、100年に1回の周期で繰り返し来ている「東海・南海大地震」も、既に150年になるので、明日発生してもおかしくない深刻な状態にあることを日本は認識しなければならない。
 今の日本は非常時である。このようなときだからこそ、災害に強い日本列島の改造に取り組まなければならない。

防災復興府への権限を

 今、まさにその時期を迎えたのだ。
 まず、政府に防災復興府を設けることを提案する。 これまでのように、がれきの撤去一つにしても、管轄は総務省だ、いや財務省の了解を得なければならないとか、放射能の汚染についても文部科学省所管だ、食品の安全基準は厚生労働省の所管だ、土壌は農水省でと言っていて官僚間で調整をやっているようでは間に合わない。
 学者など専門家による復興会議を開いて復興計画を作成するにしても、「会議は踊る」の例えもあるように時間ばかりかかって、このようなことでは国家的危機を乗り越えることはできない。
 この際、総理大臣の下に、内閣府と並んで各省庁の上に立って直接総理を補佐する「防災復興府」を常設の機関として設置することが必要である。そして「防災復興府」に、権限と財源を集中させて明確な指揮系統の命令の元に「ヒト・モノ・カネ」を迅速、大胆に運用して復興計画の実行に当たる。当然のことながら防災復興担当大臣を任命して、現地にも各県の副知事クラスを集め、現地対策本部を置き、その地域に即した防災復興計画を直ちに立てなければならない。

目標は食糧・エネルギーの再構築

 この際、復興計画の基本理念とするのは、食糧とエネルギー(自然再生エネルギーの活用)の地方分散型のセーフティネットの構築にある。それに向けた新たな列島改造計画を立てなければならない。
 まずはがれきの撤去、仮設住宅の設置を各被災市町村の長の専権事項として、被災者から雇用して、雇用の確保を図らなければならない。
 震災直後、私が陸前高田市を訪ねたとき、市長も呆然としていたが、「この際すぐにでも瓦礫の撤去を、被災者を雇って始めたらどうですか」と話すと、「そんなことをしてもいいのでしょうか。県と相談してみます」と答えていた。政府もすぐにでも、現地で指針を示す必要がある。がれきが撤去されて道路が整然としてくれば、住民も復興への希望がわいてくる。

漁港の再整備、陸上設備も同時に

 漁業においては、300から400もある漁港の優先順位を決めて、例えば塩釜、石巻、気仙沼、宮古などを公共事業として集中して整備する。また、魚市場も冷蔵庫、製氷工場も公共社会資本として港湾と一緒に整備する。
 個人経営の水産加工業者には、私が大臣時代に予算措置した無担保無保証、無利息の融資制度を大胆に活用すればいい。

西日本からリースで当座の漁船確保を

 新たに漁に行く漁船を調達しなければならない。
 東日本の沿岸は造船所も流失しているので、漁船の建造もすぐには間に合わない。ワカメの養殖などはすぐにかからなければならない。秋鮭の定置漁もすぐにくるが漁船がなくて動けない。各地の漁業協同組合と自治体、政府が出資し「漁業復興公社」を設立して、西日本各地から中古の漁船を集め漁民にリースで貸し与える。
 私は被災地に行き漁船を失って呆然としている漁民を見て、すぐに五島、壱岐対馬の浜に飛んだ。
「中古で使っていない漁船で分けてくれる船はないか」と訪ねて回った。九州沿岸の漁民は今回の大震災を自分のことのように心配している。
 すぐに反応があった。長崎県の離島だけでも数十隻の漁船は集められそうだ。エンジンだけが外されたFRPの廃船も処理に100万円から200万円はかかるので無数に打ち捨てられている。これらの船にモーターをつけて、電池で走らせるようにすれば、養殖、小型の定置網などはすぐにも利用できる。モーターなら大量に生産すればエンジンの10分の1の価格で生産できる。
 私が農水省の副大臣、大臣を務めているときに、愛媛県が電動漁船の取り組みをしていることに感動した。NEDO(経済産業省の研究機関)の推計によれば、5年後にガソリンが1リットル160円、10年後には200円まで上がるとされている。

燃料対策に再生エネルギーの開発を

 現在それよりも速いスピードで値上がりが続いている。それにつれて重油も当然上がってきて燃費が高騰してくる。そうなれば、再び漁にいけなくなることが予測される。
 太陽光、風力などの自然再生の電気を蓄電して、それを利用して漁ができるようになれば燃費が8分の1で済むはずだ。電池の価格も1キロワットアワーあたり5年間で7分の1まで下がると予測されている。ちなみに、この2年間で3分の1まで下がっている。この勢いではさらに1年後には現在の価格の半額まで下がるはずだ。
 今年、対馬に電動漁船を試験的に導入したが、この際東日本の小型の漁船は電動漁船に切り替えるのも一つの方法である。今、浜ではFRP漁船の廃棄処分に困っているが、これらの船を電動漁船に改造してその再利用をはかればいい。流失してしまった漁船の代替が可能になる。
 いずれにしても、沿岸の1本釣りの漁業者も、わかめ、牡蠣、ホタテなどの養殖業者も、そのほとんどの人が借金を抱えている。ここでさらに無担保、無保証といえども借金を重ねることは難しい。二重ローンを解消しなければならない。
 漁協が組合員に対する震災前の旧債務を免除することはできないだろうか。ところが、肝腎な漁協の組合は小さなところが多く、その多くは不良債権を抱えているのが実情だ。しかも漁業組合の事務所まで流されてしまった。組合事務所そのものは、間借りでもプレハブでも構わないが、市場の維持、職員の給料の支払いにも困っているのが現状だ。
 農林中金において、各都道府県の信用漁連の債務を免除する。県の信用漁連は各漁協の債務を免除する。漁協は漁業者の債務を免除してやる。農林中金に対しては、国が震災救済のための特例措置として10年間、課税を免除すればいいのではないか。
 二重の借り入れをなくすことによって、漁民は再び立ち上がることができる。(つづく)

(4月20日に「食糧とエネルギーの地方分散型のセーフティネットで列島改造計画を(下)」を掲載予定です)

【関連記事】
■【インタビュー】東電は甘くはなかった=経団連の米倉会長(WSJ 2011.4.6)
http://jp.wsj.com/index.php/Japan/Companies/node_217459

-------------------------------------------------------------------------------------
【プロフィール】山田正彦(やまだ・まさひこ)yamabiko110124_4mono.jpg
1942年、長崎県五島市生まれ。民主党衆議院農林水産委員会委員長・前農林水産大臣。

1966年、早稲田大学第一法学部卒業。牧場経営、弁護士を経て、1993年新進党から衆院選に出馬し当選。著書に「小説 日米食糧戦争-日本が飢える日」「中国に「食」で潰される日本の行く末」「アメリカに潰される!日本の食―自給率を上げるのはたやすい!」など。

2011年4月18日

田中良紹:震災後の日本には何が必要か

izakayatanakajuku1011.JPG

→ http://www.nicovideo.jp/watch/1302717074 ←

 ジャーナリストの田中良紹さんが、長年の記者生活と歴史に関する豊富な知識から分析した「永田町のカラクリ」と「これからの世界と日本」について参加者と語り合う『居酒屋田中塾』。

 今回のテーマは「震災後の日本には何が必要か」です。

 世界中を震撼させた東日本大震災。この未曾有の危機に、日本はどう対応すべきなのか。田中良紹さんが長年の政治記者としての経験を交えながら、「復興への道のり」を展望します。

 現在、下記URLで公開中です。有料会員に登録されていない方は、この機会にぜひご登録下さい!

↓   ↓   ↓

■田中良紹:震災後の日本には何が必要か(5月31日まで配信)
→ http://www.nicovideo.jp/watch/1302717074 ←

■《THE JOURNAL》@ニコニコ支局 番組一覧
http://ch.nicovideo.jp/channel/ch711

────────────────────────
※上記URLからは新規会員登録もできます。なお、視聴にはニコニコ動画へのログインが必要となりますので、チャンネル登録の際に使用したメールアドレスとパスワードでログインしてください。不明な点がある場合は、ニコニコ動画のヘルプページをご利用下さい。
http://help.nicovideo.jp/channel/

────────────────────────
■有料会員制度スタートのお知らせ
《THE JOURNAL》では10月に有料会員制度をスタートしました。本記事も、有料会員の皆様の支援によって制作されたものです。有料会員制度の詳細については下記URLをご参照下さいm(_ _)m
http://www.the-journal.jp/contents/info/2010/10/post_66.html

2011年4月17日

マスコミが原発事故報道で腑抜けになるワケ(1)

takanoron.png 3月25日25時半からのTV朝日「朝まで生テレビ」は、「福島第一原発の危機回避なるか?」「大地震、大津波から2週間、現状の問題点と復興への道とは?」と銘打って、島田保之=東京電力執行役員営業部長、放射線科学の専門家である松本義久=東京工業大学准教授、藤城俊夫=元日本原子力研究所大洗研究所長などの当事者や専門家もパネリストに招いていたので、ライターとしての出世作『原子力戦争』(講談社文庫、絶版)の著書もある田原総一朗の司会の下、相当突っ込んだ議論が展開されると期待したが、実際は、今なお続く事故の実態やその危険な見通しには全く触れることなく、むしろ勝間和代の「放射性物質が実際より怖いと思われていることが問題」「今回の原子力の問題でも、死者が出ましたか?」といった露骨な原発擁護発言が罷り通る有様だった。

 田原に問うと、「まあいろいろあってね」と言葉を濁したが、周辺に取材したところ、当初、テレビ朝日首脳陣は「原発問題は取り上げるな」と番組サイドに宣告した。当然、田原も番組サイドも「今この時期に他に何をやれと言うのか」と反発したが、局は「何でそんなに原発問題にこだわるのか」と押し返す。何でと言ったって、今全国民がこれほど関心を持っている問題はないじゃないか。すったもんだの挙げ句、推進派中心の当たり障りない顔ぶれで、しかも原発問題に絞らずに穏健に行うことで妥協が成り立ったらしい。それでも局側は心配で、幹部が勢揃いして田原が暴走しないか監視し、CMの度ごとに「これまでのところは、まあ妥当だ」とかプロデューサーに圧力をかけ続けたと言う。

 勝間なんてのは、中部電力の「原発は発電時にCO2を出さない」という原発PRのCMに出演して「原油価格は大きく変動するし、経済成長のためにエネルギーは量とコストと両方が安定していないといけない」「燃料価格に左右されにくいという(原発)のは、これはすごく大きな強みなんですね」とかしゃべっていた。

 このCMには、勝間の他に、弁護士の北村晴男、タレントの薬丸裕英が出演していた。私の知り合いの評論家で、中部電力からこのCMに出ないかと誘われた人がいて、彼によると、当初「何を言ってもいいですよ」と言われたので、「今出来ちゃってる原発はしょうがないとして、これからは止めた方がいいですよと言いたい」と答えると、中電は「それはちょっと控えてほしい」と。提示されたギャラは500万円。フリーの身としては相当迷ったが、結局断った。「こうなってみると、断ってよかったですよ。500万円というのは、まともな出演料というより買収費ですよね」と。

 勝間なんぞは中電から500万円貰っちゃっているから、「死者が出ましたか?」とか言わざるをないのである。

 東京電力は、キャスターの草野仁やエジプト考古学の吉村作治を、関西電力はプロ野球の星野仙一を、CMに使い、また雑誌のPR記事では、茂木健一郎(脳学者)、弘兼憲史(漫画家)、石原良純(俳優)、長嶋一茂(元野球選手)、中西哲生(スポーツ・ジャーナリスト)、大宮エリ(演出家)などを起用している。東電は中電などとは格が違うから、CM出演料も倍くらいになるではないかと推測される。▲

2011年4月15日

報道されない新種の反原発デモ

※写真はクリックすると拡大します
110409antinukedemo1_1.JPG
↑ デモの先頭で反原発ソングを歌うちんどん屋。デモの全長はゆうに1kmを越えた。

110409antinukedemo6.JPG
↑ アンプを搭載した軽トラックからは常に音楽が流れていた

 去る4月10日(日)、原子力発電に反対するデモが全国各地で行われた。NHKなどの大手メディアは、芝公園から東電本社、経済産業省を経由する、いわゆる典型的デモを報道した。参加者は2000名程度だったという。

 しかし、時を同じくして東京・高円寺で開催されたデモは、様子が少し違っていた。一部テレビ局も取り上げていたが、参加人数は少なく見積もっても1万人以上。その多くがtwitterなどのインターネットの情報をもとに集まってきた。デモ主催者で古着&リサイクルショップ「素人の乱」代表の松本哉(はじめ)氏は言う。

「前から反原発派というわけではありませんでした。福島の事故がきっかけになりました」

 参加者の大多数は特定の政治的イデオロギーに偏ることはない、二十代から四十代の若い世代。先頭には反原発ソングを演奏するちんどん屋がいた。巨大アンプを搭載した軽トラックからは、レゲイ、ヒップホップ、ロックなどの音楽が流れていた。ある人は楽器を演奏しながら、またある人は乳母車を押しながらデモに参加していた。デモの全長はゆうに1kmを越え、その雰囲気は反原発デモというよりも、反原発音楽フェスタのようだった。

 デモから2日経ってインターネットの情報をみると、このデモの問題点を指摘する声もある。twitterでは、「原発反対デモには反対じゃない、だけど大規模デモをするなら地元商店街への説明、迂回路の設置、物品破損時や急病人発生時の連絡先等を地元に説明してほしかった」という意見も twitされている。そんなことを言ったって、主催者が大規模になるかどうか分からずに呼びかけて、エジプト並みのtwitter効果で思いがけず1万人以上も集まってしまったのだから仕方がないじゃないか。

 この高円寺のデモは、(1)特定の政治的イデオロギーからくる反原発運動ではないこと、(2)twitterなどによる情報伝達で多くの若い世代がデモに参加したこと、が特徴といえるだろう。日本のデモの中にある政治的イデオロギーの臭いが嫌いな人も沢山いるのではないだろうか。しかし、未曾有の地震によって、そういった典型的な日本のデモ文化に亀裂が入り、化学変化が起きていることは確かである。

(写真・文:鈴木貫太郎)

110409antinukedemo3.JPG
↑ 反原発マークの着いた眼鏡をつけた参加者。楽器を吹きながらデモ行進

110409antinukedemo4.JPG
↑ マスクを着けた参加者も多くいた。集合場所の高円寺中央公園附近

110409antinukedemo5.JPG
↑ 「おばあちゃんが住んでいる山口に原発をつくるな」というプレートを持った参加者

110409antinukedemo2_1.JPG
↑ ニューヨーク在住のストリートパフォーマー。パフォーマンスをするために仙台も訪問予定

────────────────────────

■有料会員制度スタートのお知らせ

《THE JOURNAL》では10月に有料会員制度をスタートしました。本記事も、有料会員の皆様の支援によって制作されたものです。有料会員制度の詳細については下記URLをご参照下さいm(_ _)m
http://www.the-journal.jp/contents/info/2010/10/post_66.html

東日本大震災 現場からの報告:遅きに失している石巻の医療

 以下は、千葉県鴨川市の亀田総合病院から被災地への医療支援を行っている小野沢医師から、4月10日付で届いたメールです。本人の許可を得て、転載します。

★   ★   ★

 亀田総合病院 小野沢です。

 先月29日から石巻に入っています。

 4月6日、遊楽館という避難所で当直をしていました。ある男性が、苦しそうだと言われ、診察をしました。すでに呼吸停止、共同偏視があり、何か大きなイベントが起きたことは明らかでした。救急車の到着は30分後、彼は泣き崩れる妻の脇で口から血を流しながら息を引き取りました。

 湊中学という避難所に行きました。リウマチの女性が手首を腫らし、痛みに耐えていました。受診の手続きを取りましたが、彼女はその避難所から沖縄への移住を希望しました。沖縄は県をあげて受け入れをしていると、あるMLで知ったからです。沖縄の担当者に連絡をすると、『罹災証明申請書のコピーが必要です』『沖縄の受け入れは、災害救助法ではなく県の予算なので、5人まとまったらはじめて飛行機に乗れます。飛行場までは自分できていただく必要があります。そこでチケットをお渡しします。』『申込書はインターネット上から、書式をダウンロードしていただき、印刷して書きこんでください』と、担当官に告げられました。非常に困難な条件で、少なくともパソコンをプリンターを持った援助者と、飛行場までの足、り災証明書の申請を行うために市役所に行くという手順をその足が腫れた女性が手配しなければ不可能なのです。責任者の方とお話ししましたが、埒があきませんでした。

 湊中学は、瓦礫の中にあります。入り口にはニチイのデイサービスセンターの車が3台、見も無残な形で横付けになり、津波に洗われたホコリとヘドロがそのままになっています。そこでは避難途中の方がかなりの数亡くなられたとのことです。近辺には人影はまばらで、地震から1ヶ月ほどたった現在でも、車が家に突き刺さり、魚の腐った匂いが立ち込めています。湊中学避難所には電気も、水道も、下水もありません。便はダンボール製の看護師手作りの便器にして捨てています。1ヶ月経とうと言うのに。

 果たして、これを市の職員が中心になって解決できるのでしょうか。彼らも罹災しているのです。明らかに疲弊しきっています。市民から多くの非難を毎日浴びながらの仕事です。あまりにも広範です。あまりにも人数が多すぎます。未だに、自宅避難者の詳細も分かっていません。

 明日、市内の3地区の在宅避難者の調査をします。ボランティアを東京、千葉、宮城などから60名集め、市の保健師さんに情報をもらいながらの仕事です。しかし、市内のごく一部なのです。このデータが市全体の被災者の推計に使用でき、少しの被災者のためになり、そして一番には今後の計画の助けになればと考えての行動です。

 ふと、これは私の仕事だろうかと思うことがあります。

 国会議員の皆さん。是非、立ち上がってください。やっている、と思われるのであれば、そのやり方がどこか間違っているのです。上手くいっていません。非常事態宣言を地区を限定して発するのもひとつの方法でしょう。

 とにかく、物事が遅きに失しています。

2011年4月14日

原子力事故対応マニュアル

takanoron.png 福島第1原発の連鎖事故は、ついにレベル7、史上最悪とされてきたチェルノブイリ事故と同じ程度の大惨事となりつつあると判定された。チェルノブイリ級ということはおおむね、原発周辺の30キロ圏が死の地帯と化すだけでなく、300キロ圏内の各所にまで点々と高濃度汚染地域が広がって、そこから40万人は避難したものの、子どもらを含む残りの500万人以上は故郷を捨てるに捨てられずに今なお放射能と同居して暮らしている、といった状況が起こりうるということである。福島第1の場合、100キロ圏の人口は330万人、300キロ圏となると首都圏も含まれることになるから、被害の大きさはチェルノブイリの比ではなく、東日本死滅である。では西日本は安全かと言えばそんなこともなく、15基の原発が立ち並ぶ福井県はじめどこででも福島と同じことは起こりうる。自分の命は惜しくはないけれども、子や孫を守り国を救うために戦わなければならず、それには何があっても生き延びなければならない。そう思って、原子力事故への最小限の自衛策を、桜井淳監修『原子力事故自衛マニュアル』ほかいくつかの新聞・Web情報を参照して整理した。こんな程度のことはとっくに知っているという方は読まなくて結構である。

●放射線量計測単位「シーベルト」とは何か?
 放射性物質が放出する放射線量を測る単位でよく使われるのは「ベクレル」と「シーベルト」で、ベクレルは放射性物質そのものが放射線を出す能力の強さを示し、放射性元素の原子が1秒間に1個壊れて放射線を出すと1ベクレルと言う。それに対して「シーベルト」は、単位時間内にどれだけの放射線が人体に当たったかの合計量を示すもので、通常は「毎時」で表される。報道などでは「毎時」が省略されることが多く、例えば「この地域で1マイクロシーベルト(μSv)が観測された」といった言い方がなされるが、これは、その地域で外気中で1時間過ごすと1 μSvを被爆するという意味である。報道ではまた、マイクロシーベルト、ミリシーベルト、シーベルトが混在して用いられる場合もあるので《1Sv=1000mSv=1000000μSv》という等式を頭に入れておく必要がある。

 どのくらいの放射線量でどのくらいの危険があるかについては、元資料は放射線総合医療研究所らしいが(未確認)、それをベースに各出版物、新聞、Web等に似たような表を作っていて、中には数字の桁を間違えているようなものもあるので、一応私なりに精査して妥当だと思われるものを次に掲げる。大雑把に言うと、
(1)0.25Sv以下の急性被曝では大きな問題はない。
(2)1Svを超えると生命の危機を伴う。
(3)7Svを超えると死亡する確率が高くなる。
――というのが"常識"だが、(1)に関しては異論もあり、どんなに低い被曝量でもそれに比例した影響が出るとする「閾(しきい)値なし」モデルの主張もある。0.25以下では急性障害は出ないが、何年か何十年か経ってガンで死ぬとか、子や孫に遺伝するとかの晩発性障害については分からないというのが本当だろう。逆に、チェルノブイリ事故では10Svも浴びながら生き延びた人もいるそうで、個人差も小さくない。

●事故発生のニュースに接したらまず何を見極めるのか?
 原子力事故発生の情報やニュースが伝えられたら、慌てずにまず次のことを見極める。
(1)外部への影響があるのかどうか。外部に影響が出ていないならとりあえず慌てる必要はない。
(2)放射線漏れか放射能漏れか
 放射能とは、日本語では、放射線(radiation)を出す能力(radioactivity)の意味と、その能力を持つ物質(radioactive material=放射性物質)の意味の両方で使われるが、この場合、後者である。「放射線漏れ」とは、放射性物質が事故サイト内に留まっているが放射線は外に漏れていることであるのに対し、「放射能漏れ」とは、放射性物質そのものが外に漏れ出してそこから自然界、水、動植物、人体などに放射線汚染が拡散することである。
(3)終わったのか、まだ続いているのか、もっと拡大する危険があるのか。

●事故状況を知るにはどこに問い合わせればいいか?
 事故の状況を詳しく知るには、テレビ・ラジオの報道だけでなく、自分の住む自治体の「災害対策本部」がその地域に必要な情報を流している場合もあるので、複数チェックする。自治体の防災メールに登録しておくと、電話が通じない場合でも最低限の必要情報が届くかもしれない。
(1)自治体の災害対策本部(千葉県の例)
・千葉県災害対策本部 
http://www.pref.chiba.lg.jp/bousai/saigaitaisaku/oukyuukatsudou/taisakuhonbu.html
・ちば防災メール登録
http://www.bousai.pref.chiba.lg.jp/portal/bousaimail/gq36_1.html
(2)行政機関など
・首相官邸災害対策ページ http://www.kantei.go.jp/saigai/
・原子力安全委員会 http://www.nsc.go.jp/
・原子力安全・保安院
http://www.nisa.meti.go.jp/ 広報課直通 03-3501-1505、3501-5890
・日本原子力研究開発機構
http://www.jaea.go.jp/ 健康相談ホットライン 0120-755-199
・放射線総合医療研究所
http://www.nirs.go.jp/index.shtml  放射線被曝の健康相談窓口 043-290-4003
(3)電力会社
・東京電力 http://www.tepco.co.jp/index-j.html
・電気事業連合会 http://www.fepc.or.jp/

●事故現場からどのくらい近いと危険なのか?
 福島第1事故では、当初半径3km以内に避難命令、3~10km圏内に屋内退避指示が出され、翌12日に避難命令の範囲を10km圏、さらに20km圏と拡大、さらに15日には20~30km圏に屋内退避指示が出た。当初の命令・指示は、放射性物質が拡散しながら濃度を薄めていき、距離の二乗にほぼ反比例して人体への影響が小さくなっていくことが分かっていて、現場から500メートルの放射線量を1とすると10キロ地点で0.1を下回るというデータに基づいて原子力安全委「防災指針」に定められていることで、それなりに根拠のあることである。その後の退避命令と屋内退避指示は、建屋の崩落、水素爆発など事故連鎖の拡大に伴って行われたもので、それなりに妥当なことと思われる。

 これに関連して、米国はじめ世界各国が事故の数日後の段階で、在日の自国民に対して80km圏外に退避し、また可能なら自主的に離日するよう勧告したことを以て、「日本政府の判断は甘いのでは?」との疑心暗鬼が広がったが、これは無知故のパニック心理で、桜井淳に言わせれば「両方とも正しい」。外国政府は、地理も事情もよくわからない他国の、しかも地方部で、自国民が事故に巻き込まれ、交通が途絶したり物資が滞ったりする中で1人1人をピンポイントで救出しなければならないような事態を避けるために、予め最大限に慎重な措置をとって当然である。

 従って、一般論としては、現場から(1)半径10km圏内なら避難、退避もしくは厳重注意、(2)20km圏内なら要注意、ということになるが、しかし被害の範囲と程度は距離だけでなく、風向きと風速、そして雨またはその予想など天候によって大きく左右される。文科省=旧科学技術庁系の天下り団体である(財)原子力安全技術センターは、事故の際にはSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)を稼働させることになっていて、現地の放射能放出量に気象庁のアメダス情報、各自治体の気象観測情報、地形情報などを重ね合わせて汚染状況を予測しているが、その情報は一般には直接開示されず文科省に報告されて政府と自治体災害対策本部が予測放射線量を算定して、周辺の住民に告知されることになっている。防災指針では、
(1)全身への予測放射線量が0.01Sv以上では自宅などの屋内退避が必要。
(2)同0.05Sv以上では圏外に避難が必要。それ以下でも、放射能の放出が長期間続く予想がつけば、圏外避難。
とされている。

●自宅退避になった場合にまず何をすべきか?
 まずは外に出ないことだが、
(1)洗濯物や、庭・ベランダなどに置いてある大事なものを屋内に取り込む。汚染されている疑いがある衣服や洗濯物は、ビニール袋に入れて玄関の片隅などに保管し、後に自治体などで放射能検査を受け、汚染が酷ければ汚染物質として廃棄処分して貰い、軽微であればよく洗濯して使う。
(2)すべても扉や窓を閉め、雨戸があればそれも閉め、ビニールテープやガムテープで隙間を塞ぐ。
(3)エアコンや換気扇を止める。
(4)それが終わったら、なるべく窓際や壁際には近づかない。
(5)事故発生から時間が経っておらず、水源地や浄水場がまだ汚染されていないと判断できるなら、浴槽、バケツ、ペットボトルなどに目一杯、水を汲んでおく。

●外出中に事故発生を知ったらどうするのか?
 屋外・野外を歩いていて事故発生を知った場合、事故の規模や現場からの距離にもよるが、ただちに身を守らなければならないと判断すれば、
(1)まずハンカチなどで口と鼻を塞ぎ、放射能を吸い込むことを防ぐ。
(2)付近の建物、出来るだけ木造ではなく鉄筋コンクリート造の建物に飛び込む。
(3)なるべく建物の奥に入り、窓を閉めエアコンや換気扇を止めるよう中の人に言う。

 車に乗っていた場合は、
(1)まず窓を閉め、エアコンや外気導入弁を切る。
(2)ラジオを消さず、事故情報と交通情報に注意する。
(3)車で逃げられるか、車を捨てて逃げた方がいいか、判断する。

 逃げ込む建物が木造よりコンクリート造がいいのは、放射線には種類があって、アルファ線は紙でも止まる、ベータ線はアルミなどの薄い金属板で止まる、ガンマ線やX線は鉛や熱い鉄板で止まる、中性子線は水や熱いコンクリートで止まるという違いがあるからである。ガンマ線の低減係数は屋外を1.0として木造家屋で0.9、大きなコンクリートビルの扉や窓から離れた内部で0.2以下となる。

 徒歩、車、公共交通機関で逃げる場合は、
(1)風上に逃げる。
(2)現在地が風下の場合は、風上を向かったのでは事故現場に近づくことになるので、風の流れに対して直角に向かい、風下から逃れる。
(3)風向きは変化するので、チェックを怠らない。

●やむを得ず外に出る場合にはどういう服装をすればいいか?
 自宅退避では間に合わず外に出て避難所などに退避しなければならないといった場合、まず外部被曝を防ぐには、
(1)出来るだけ皮膚が外気に触れないようにする。
(2)特に事故後に降る雨は、大気中に放出された放射能が雨に吸着して一気に地上に落ちてくるので極めて危険であり、水滴が皮膚に触れないよう、ビニール製・ゴム製のフード付き雨合羽、帽子、ゴム手袋、ゴム長靴を予め用意しておいて装着する。

 また外部被曝以上に恐ろしい呼吸による内部被曝を抑えるには、
(1)口と鼻をマスクやハンカチで覆う。
(2)目をスキー用のゴーグルや水泳用の水中眼鏡で覆う。
(3)身体に傷口がないかチェックし、あれば絆創膏などで厳重にカバーする。

 医療用の高性能マスクがあればベターだが(私は若干量備えている)、それがなくとも例えば16折にした男性用木綿ハンカチを口と鼻に当てれば放射能は94%除去される。トイレットペーパーでも3折すれば91%除去出来る。せっかく呼吸系を保護しても、放射能は小さな傷口からも体内に入り込むので、かすり傷程度と思っても軽視せずしっかりと保護する。

●避難するには何を持って行けばいいか?
 原子力事故に限らずどんな災害に対しても、自宅で被災することを想定していろいろな防災用品を備えておくことは当然だが、特に原子力事故の場合は最小限の物だけ持って緊急避難しなければならないことが大いにあり得るので、
(1)雨具(上述のように雨合羽、帽子、ゴム手袋、ゴム長靴)
(2)携帯用ラジオ、そのための電池、携帯電話
(3)常用薬
(4)着替え一式(最低1日分)
(5)現金(プラス通帳、キャッシュカード、印鑑)
(6)1~2日分の食料と水
などを原子力事故用として1パックで用意しておいた方がよい。現金は、お札でなくコインで1~数万円分を持っていると当座極めて助かるというのが阪神大震災経験者の教訓。

●原発のない地域は相対的に安全なのか?
 日本には今、13道県17カ所に54基の原発があり、本論説で前に書いたように、そのうち35基は地震の高危険・中危険地域にあるというのみならず、ほとんどすべてが地震はともかく津波の危険を軽視して建てられている。他に建設中・計画中・廃炉作業中の原発も数多い。また原発以外の原子力施設もたくさんあって、99年に衝撃的な臨界事故を起こした茨城県東海村のJOC核燃料施設をはじめ、同じく東海村には、三菱原子燃料=再転換施設、同=成型加工施設、原子燃料工業=成型加工施設、日本原子力研究湯開発機構=再処理施設、同=原子炉、 東京大学の原子炉(休止中) などが集中している。また同じく茨城県大洗町には日本原子力研究開発機構の原子炉もある。 青森県六ヶ所村の日本原燃=ウラン濃縮工場、同=廃棄物処理施設があり、再処理施設も建設中である。 神奈川県横須賀市にはGNFJ=成型加工施設、立教大学の研究用原子炉(廃止)がある。同県川崎市には東京都市大学(旧武蔵工業大学)の原子炉がある(事故で停止、のちに廃止)。大阪市熊取町には原子燃料工業=成型加工施設と京都大学の研究用原子炉があり、東大阪市には近畿大学の研究用原子炉がある。

 福島の事態に怯えて大阪に逃げた外資系はじめ企業や社長も少なくないが、彼らはたぶん大阪にも原子炉がいくつもあることも、15基の原発が密集する日本一の原発集中地区である福井県敦賀市一帯から100km圏内にあることも、知らない。あるいは、沖縄だけは原発がないからと、そこに避難した者もいるが、浅はかで、日本と同様に地震と津波に弱い原発が台湾に4基あって、そこが事故になれば沖縄は真っ先に被害に遭う。

 自分のどれだけ身近に原子力施設があって、日頃からどれだけのリスクに晒されているのかは、自分でチェックしておくしかない。

2011年4月13日

森達也:震災

mori110413_6.jpg

 3月11日、僕は六本木のアークヒルズ16階にいた。テレビ・ドキュメンタリー企画の審査会に参加するためだ。会が始まってすぐに、床と壁が激しく揺れた。最初は横揺れ。次にはドスンと下から突き上げてくるかのような縦揺れ。そしてまた激しい横揺れ。審査会のスタッフが「このビルは免震構造で揺れるようにできていますから大丈夫です」と叫ぶように説明したが、揺れはまったく収まらない。ビル内のアナウンスが、非常階段を使ってビル外に退避するように呼びかけ始め、審査委員の一人である崔洋一が、「この揺れは確かに尋常ではない。全員でビルの外に出よう」と声をあげた。

 実のところ僕は高所恐怖症だ。遊園地では下から見上げるばかりだ。ビルの16階など、本来ならいるべき場所ではない。それが激しく揺れている。相当に動揺した。「高所恐怖症なんです」と傍らの崔に囁けば、「実は俺もそうなんだ」との言葉が返ってきた。

 結局のところ審査会は打ち切られた。ところが帰宅しようにも電車が動いていない。そこで審査会に参加するために上京していた地方局のディレクターやプロデューサーたちとともに、六本木の居酒屋で、夕刻からビールを飲み始めた。僕は途中で飲みものをホッピーに換えて、困ったねえとか仕方がないよねえなどと言い合いながら、何度もお代わりをした。六本木には珍しい正当な居酒屋で、わいわいと談笑しながら、ウドの酢みそ和えや天ぷら盛り合わせ、なども食べた。

 夜半に店を出たけれど、電車はやはり動いていない。おそらく今夜中の復旧は難しいだろう。そう判断した僕たちは、それぞれ徒歩で移動することにした(地方から上京してきたほとんどのディレクターやプロデューサーたちは、事前にビジネスホテルの宿泊を予約していた)。新たにホテルを予約しようにも電話が繋がらない。歩きながら見かけたビジネスホテルはすべて満室だ。こうなったら仕方がない。日帰りするつもりでホテルの予約をしていなかった信越放送の手塚孝典ディレクターとともに、審査員の一人である星野博美の家に泊めてもらうことにした。

 六本木から一時間ほど歩いてから、星野の家の近くにある中華料理店で、三人でまたビールを飲んだ。閉店時刻間際だというのに、店は混雑していた。多くの男女たちがビールや老酒を飲みながら、ほかほかと湯気を上げる麻婆豆腐や餃子や酢豚を食べていた。携帯はずっと繋がらない状況だったけれど、これはこれでいいかなという思いもあった。子ども時代、台風が上陸する直前、大人たちが雨戸に釘を打ち付けたり停電に備えて蝋燭を用意したりする様子を眺めながら、妙に高揚した気分でいたことを思いだした。

 夜中に星野の家に行き、僕と手塚はリビングで雑魚寝した。寝る前にテレビのスイッチを入れた。漆黒の闇が燃えていた。ライブの釜石の空撮映像だ。アナウンサーが(現状で把握できている)被害の規模を伝えている。

 暗い部屋で暗い画面を見つめながら、僕と手塚は声がない。知らなかった。思い至らなかった。これほどの大惨事になっているとは。これほど悲惨な状況になっているとは。僕がビールを飲んだりウド酢みそ和えを食べたりゲラゲラと笑ったりしていたそのとき、暖房が効いた小部屋で老酒を飲みながら餃子や酢豚を食べていたそのとき、たった数百キロしか離れていない場所で、これほどに凄まじい事態が起きていた。多くの人が津波に呑まれ、流され、焼かれ、親や子や夫や妻の名を呼びながら、助けを求めながら、為す術もなく死んでいった。

 僕は知らなかった。気づかなかった。思い至らなかった。

mori110413_1.jpg

 地震発生から二週間後、僕は陸前高田にいた。花巻から国道を南下しながら海が近づいたとき、川沿いの周囲の景色が一変した。圧倒的な瓦礫の量だ。単なる瓦礫ではない。つい数日前までは、多くの家族が暮らしていた家の建材、日用品、電化製品、カバンや靴などの日用品。それらが泥にまみれながら堆積し、多くの車が無惨にひしゃげながら、樹木のありえない高さに引っかかっている。まるでシュールレアリズムの絵画の世界だ。でもこれは絵画でもCGでもない。紛れもない現実だ。そしてこの瓦礫と泥の下には、今もまだ多くの遺体が埋もれている。

 高台にある避難所(小学校)を経由してから、車は海沿いのエリアに着いた。ここにはかつて陸前高田市があった。でも今はない。

 それから三日かけて、大船渡や石巻、東松島など、特に被害の大きいエリアを回った。この取材のあいだ、形容する言葉が思いつかなかった。なぜならそこには、かつてあった町がない。家がない。一面の泥と瓦礫。足もとに転がるアルバム。写真の一枚一枚に残された一人ひとりの笑顔。入学式。結婚式。ハイキング。泥にまみれたかつての日常。絶たれた営為。そしてその下に今も埋もれている多くの遺体。

 圧倒的な喪失であり、圧倒的な無慈悲だった。そして何よりも、圧倒的な無力感を抱えながら、僕は立ちつくしていた。そんな語彙しか使えない。他には思いつかない。

mori110413_2.jpg

 大地震発生の翌日、電車を乗り継いで星野の家から自宅に戻ってからは、どこにも出かけず、何もせず、何もできず、早朝から深夜まで、ひたすらテレビを見続けた。

 画面に映し出される光景は、まさしく壊滅であり、破壊であり、そして喪失だった。被災者や遺族たちがカメラに向かって泣き叫ぶ。あるいは瓦礫の中に茫然と立ちつくす。そんな様子を、僕は呆けたように見続けていた。いくつかの新聞やラジオなどからはコメント依頼が来たけれど、すべて断った。口にできる言葉がない。何も言いたくなかった。何もしたくなかった。

 そのようにして二週間が過ぎたころ、テレビを見続けた多くの人と同じように、僕は相当に鬱になっていた。そんなときに、戦場ジャーナリストで「リトル・バーズ イラク戦場の家族たち」など映画作品もある綿井健陽から、「被災地に撮影に行かないか」との誘いが来た。いったんは断った。現場になど行きたくない。家にいたい。何もしたくない。そもそも僕はジャーナリストでもないし、映像だってもう十年以上撮っていない。被災地に行くなどありえない。でも断ってから一時間後、僕は着信に残っていた綿井の携帯番号を、ダイヤルしていた。

 同行は、「A」や「A2」、そして「リトル・バーズ」のプロデューサーである安岡卓治。そして一昨年にドキュメンタリー映画「花と兵隊」を発表した松林要樹の4名だ。要するにインディーズのドキュメンタリー・クルー。ただし僕のカメラは、部屋の隅でもう十年以上埃を被り続けていたので、綿井のカメラを借りることにした。

 全校生徒のほとんどが津波に呑まれた石巻の大川小学校では、子どもの遺体を探す母親たちに同行した。瓦礫と泥で沼のようになった学校横の住宅地を歩きながら、僕はずっと無言だった。ただし手にしたカメラは回している。何かを言わねばならない。訊かねばならない。でも言うべき言葉を思いつけない。訊くべき言葉がわからない。かけるべき言葉が見つからない。やっとのことで「ご家族は?」と訊ねれば、「子どもが二人流されました」と一人の母親から即答された。

 彼女たちはねばり強く作業を続けていた。泥で足をとられて一人の母親が転びかけたときには、笑い声すら聞こえた。でもそれをもって、「人は強い」などとは絶対に言えない。彼女たちは放心している。震えている。生と死の狭間に落ち込みかけながら、込み上げる嗚咽を必死に堪えている。そんな彼女たちに、「負けるな」とか「がんばれ」だなんて、口が裂けても言えない。

 僕だけではない。多くの記者やカメラマンたちは、現場で立ちつくしながら困惑していたはずだ。写真を撮ったり遺族の口もとにマイクを突きつけたりしながら、「いったいおまえは何ものなんだ」「何の権利があるんだ」と、自分に問いかけていたはずだ。
取材や撮影は、そもそも人を加害する。取材対象者や被写体だけではない。時には(今回のように)見たり読んだりする人を傷つける。それはわかっている。ある意味でいつものことだ。

 でも今回は、規模があまりに大きすぎる。あまりに不条理で、あまりに非常な現場だ。矛盾や煩悶を押さえ込めない。指のあいだから洩れ落ちてしまう。そこまでしてなぜ取材しなくてはならないのか。なぜ撮影しなくてはならないのか。

 もちろん、解答は明らかだ。何が起きたのか、何が起きているのか、それを僕たちは伝えなくてはならない。その理由を否定することなど、絶対にできない。

 それはわかっている。わかってはいるけれど言葉を失う。だから立ち尽くす。

mori110413_4.jpg

「・・・空爆でもこれほどの破壊はありえないです」

 撮影を終えて車に乗り込んでから、イラクやアフガン、コソボなど、多くの紛争地域を取材してきた綿井が、吐息まじりにつぶやいた。全員が無言だった。それぞれカメラを手に、無言で瓦礫を見つめていた。

「日本は強い国」「今、私にできること」「がんばれニッポン」「今こそひとつに」

 撮影から戻ってきた3月下旬以降、こんなフレーズやキャッチコピーが、メディアを媒介にして少しずつ広がり始めている。大きな声で異を唱えるつもりはない。基本的にはそのとおりだと思う。がんばれとは僕も思う。負けるなとも思う。できることを考えなくては、とも思う。でも同時に違和感がある。実際に現場に立ち尽くした感覚としては、何かが違うと思う。微妙な何かだ。微妙ではあるけれど、決定的な何かだ。

 おそらくこれから日本は変わる。変わらざるを得ない。行政やエネルギー政策や制度だけではなく、人の意識も変わる。メディアだって変わるかもしれない。それほどに圧倒的な喪失だ。

 ここから歩き始めなくてはならないけれど、「がんばれ」や「負けるな」はまだ早い。まだ口にするべきじゃない。もう少しあとでいい。今は黙って寄り添うべきだ。現地に行けば誰もがそうなる。一緒にぐずぐずと泣いてもいい。

 でも泣きながら、当事者ではない自分たちにできることを考え、黙々と実践すること。今はそれで充分だ。

mori110413_3.jpg

mori110413_5.jpg

-----------------------------------------------------------------------

【プロフィール】森達也(もり・たつや) 110114_nakano4.jpg

1956年、広島県生まれ。映画監督・ドキュメンタリー作家。98年、自主制作ドキュメンタリー映画『A』を発表。ベルリン映画祭に正式招待される。2001年、続編の『A2』が山形国際ドキュメンタリー映画祭にて審査員特別賞・市民賞をダブル受賞。著書に『A』『マスコミが報道しなかったオウムの素顔』『職業欄はエスパー』(以上、角川文庫)、『下山事件』(新潮社)、『ご臨終メディア』(森巣博との共著、集英社新書)、『日本人と戦争責任』(斎藤貴男との共著、高文研)、『誰が誰に何を言ってるの?』(大和書房)、『首都圏生きもの記』(学習研究社)など多数。

2011年4月11日

《第8回》陸山会事件公判傍聴記 ── エッ、特捜部って証拠物のFAX送信記録とか調べないの!?

3月25日晴れ。前回に続き、今回も傍聴希望者の抽選はなし。やっぱり震災の影響か。裁判所の地下にあるコンビニに行ってみると、昨日も品薄状態だった店内から、ペットボトルの飲み物がさらに消えていた。どうやら、東京都の水道から乳児の飲用基準を超える放射性物質が見つかったため、売り切れてしまった模様。エレベーターも節電のために稼働台数が減っている。当然のことだけど、この大震災の下では裁判所も正常ではないということだ。

10時開廷。午前は検察側の証人として、池田光智被告の取調べを担当した蜂須賀三紀雄検事が出廷する。池田氏は3人の被告のなかで、2010年1月の逮捕時は32歳と最も若かった。そのこともあってか、蜂須賀検事も見た目は30代後半ぐらいで若い(※読売の記事によると38才とのこと)。まずは検察官の尋問から。(── は検事、「」内は蜂須賀検事の証言)

── 取調べのときの池田氏の態度は?

「言葉を選びながら注意深くという態度で、最初はあいまいで、だんだんはっきりしてきました」

── 調書をとる際に気を付けていたことは?

「本人の記憶について気を使っていたので、そのレベルにあわせた表現をしました」

── 池田氏は大久保氏に収支報告書についてどう報告していたと話したのですか?
「私が最初に確認したときには気づかなかったのですが、どういう確認をしているかをきいたところ、(東北で活動をしている)大久保氏のいる所にFAXを送って確認してもらったり、上京したときに確認したということでした」

── 池田氏は大久保氏に内容を見せて承認をもらったことはないと主張していますが

「その話は違うと思います。私は、大久保氏が岩手にいたとは気付かなかったし、池田氏から大久保氏にFAXを送っていたという話を聞きました。小沢氏にも積極的に見せていたとのことでした」


そのほか、蜂須賀検事は池田氏の供述が本人の証言をもとに正しく行われたことを張する。これはこれまでの裁判でも繰り返し検察側の主張として語られていることなので、割愛する。

続いて弁護側の反対尋問。弁護人は「大久保氏に収支報告書の報告した」という池田氏の供述は検察側の作り上げたストーリーだとして、蜂須賀検事の矛盾点を追及する。

── 収支報告書は50ページもありますが、池田氏はそれをFAXで送ったと供述したのですか?

「はい」

── 池田氏はどこに送っていたと話していましたか?

「そこについては(大久保氏は)いつも同じ事務所にいたわけではないので、その都度の場所に送信していたとのことでした」

── FAXの送信記録は調べましたか?

「私は取調べ官ですので、その捜査をしているかどうかの確認はしていません」

思わず「そんなアホなっ!」と心の中で叫んでしまう筆者。池田氏が作成した収支報告書の内容を大久保氏に報告したかどうかは小沢事務所内の共謀を認定する材料であるため、裁判の行方を左右する重要なこと。にもかかわらず、検察側は50ページにも及ぶFAXの送信記録が確認できておらず、これまでの公判でも証拠として提出していない。そもそも確認しなかったのか、それとも確認したが見つからなかったのかは不明だが、だからといって供述のみによって裁判が進行していることに、あらためて驚く。

昼休憩をはさみ、13時15分再開。午後は蜂須賀検事の後任として池田氏の聴取を担当した花崎政之検事が出廷。まずは検察側の尋問から。これまでと同じく、「被告は裁判でこのような発言をしているが、本当か?」という問いに、「いいえ、記憶にありません」と答えるパターン。これまた内容が同じなので、印象に残った部分だけを紹介。(──は検事、「」内は花崎検事)

── 池田被告に(調書をサインさせるために)「保釈はない」と言ったことは?

「ありません」

── 心当たりはありますか?

「逮捕拘留されて本人が気にしているのは『今回、自分はどうなるのか、裁判になるのか』という話がありましたので、私の個人的経験から、『否認していたら保釈されないこともあるけど、それは裁判官が決めることなので、私の経験では否認しても保釈されることもある』と話しました。池田氏はそれを曲解したり歪曲しているのではないかと思います」

検察の尋問終了後、弁護側の尋問が始まる。弁護人に対しても、花崎検事は同じような回答を続ける。(──は弁護人、「」内は花崎検事)

── 大久保さんが関与していない可能性については考えなかったのですか?

「可能性はありましたよ。ただ、予断で決めつけたことはなかったです」

── 岩手のどこにFAXしたことは確認しなかったのですか?

「具体的に聞いてないかもしれません」

── 池田さんは「だまされた」と言っていますが

「それは本人が言っているだけで、事実とは違います」

── 池田さんが弁護人にあてた手紙も、あなたが言ってもないことを手紙に書いているということですか?

「そうですね」

以上で第8回公判が終了。弁護団は蜂須賀検事と花崎検事に対して捜査の矛盾点を追及したが、両検事は弁護人の主張を淡々と否定するのみだった。

この裁判では調書の任意性が問われている以上、双方の言い分が衝突することはしょうがない。だが、これまでの公判を見てみると、供述調書の任意性に重点が置かれるあまり、物的証拠が軽視されているのではないか。特に、第8回で弁護人が指摘した50枚のFAX送信記録などは、なぜ検察が証拠として提出していないかが理解できない。

供述調書が証拠採用されるかどうかは、裁判官の心証も大きく影響する。であるがゆえに、密室で行われた供述調書の任意性が争点となれば「言った」「言わない」の水掛け論になることは避けられない。裁判官とはいえ所詮は彼らも人間であり、主観を完全に排すことはできないことを考えると、こういった裁判で公平・公正な判決を期待することは不可能なのかもしれない。

裁判は供述調書の任意性を争うための水掛け論ではなく、それ以外の証拠物によって有罪か無罪かを判断できるようにすべきで、そのためにも「取調べの可視化」があらためて必要だと感じた。

次回公判は4月22日。石川議員の女性秘書が出廷する予定。

〈構成・文責:《THE JOURNAL》編集部 西岡千史〉
────────────────────────

■有料会員制度スタートのお知らせ

《THE JOURNAL》では10月に有料会員制度をスタートしました。本記事も、有料会員の皆様の支援によって制作されたものです。有料会員制度の詳細については下記URLをご参照下さいm(_ _)m
http://www.the-journal.jp/contents/info/2010/10/post_66.html

2011年4月 6日

「防災服を一括購入します」 民主党が防災服を新調したことに批判続出

newsspiral110406.jpg
↑ 党関係者に配布された「防災服購入のご案内」。色はネイビーで、サイズは8種類。(クリックすると拡大します)

 民主党総務委員会が3月28日に、党所属国会議員らに「党防災服購入のご案内」という文書を送ったことが党内で失笑をかっている。

 震災から17日が経過してから配布された文書(上記画像参照)には、「各国会議員よりのお問い合わせやご要望も多くあることから、地震対策本部のご要請に基づき、希望者からのご注文を受け一括購入する形で、党の防災服を作成することといたしました」と書かれていて、1着5000円程度のオリジナル防災服の右腕部には民主党のロゴマークも入っている。

 震災発生直後にはドン・キホーテまで防災服を買いに行った議員もいたとのことだが、この通達に対し、ある民主党議員は「国会議員がキレイな防災服を着ていても国民からバカにされるだけ」とバッサリ。防災服は4月中旬ごろに購入希望者にのみ配布されるという。

三井環:検察審査会に検事総長や特捜検事らの訴追申し立て

村木厚子事件などに関連し最高検が不起訴処分をした16人の検事に対し、このたび東京検察審査会に不服申立をしました。

その申立書の全文を下記の通り掲載します。

本申立書を読んでいただけるとよく判ると思いますが、小沢一郎氏について検察審査会に申し立てられた理不尽な内容に対し、今回の申し立ては誰もが十分に納得性のあるものだと確信しております。

そこで検察審査会が起訴相当の議決をするよう是非多くの方のご協力をお願いいたします。

具体的には皆様方の住所と氏名、(可能であれば)ご意見を三井環事務所までメール(info@syowakikaku.com)でお送り頂ければ、賛同者の名簿、意見として検察審査会に提出いたします。

以上、宜しくお願いいたします。

審査申立書

東京第 検察審査会御中

2011年4月1日

1 申立人

三井 環

2 被疑者

① 林谷 浩二(大阪地検特捜部検事)
② 坂口 英雄(同庁副検事)
③ 國井 弘樹(同庁検事)
④ 遠藤 裕介(同庁検事)
⑤ 高橋 和男(同庁副検事)
⑥ 牧野 善憲(同庁副検事)
⑦ 佐賀 元明(同庁特捜部副部長)
⑧ 大坪 弘道(同庁特捜部長)
⑨ 玉井 英章(同庁次席検事)
⑩ 小林 敬(同庁検事正)
⑪ 榊原 一夫(大阪高検刑事部長)
⑫ 太田 茂(大阪高検次席検事)
⑬ 中尾 功(大阪高検検事長)
⑭ 鈴木 和弘(最高検刑事部長)
⑮ 伊藤 鉄男(最高検次席検事)
⑯ 樋渡 利秋(検事総長)

3 罪名及び罪条

上記①~⑥ 証拠隠滅(刑法104条)公用文書等毀棄罪(刑法258条)
上記⑦~⑯ 犯人隠避(刑法103条 刑法60条)

4 不起訴処分

平成22年12月24日(最高刑第380号)

5 不起訴処分をした検察官

最高検察庁検察官検事 長谷川 充弘

6

①被疑者林谷、同坂口、同國井、同遠藤、同高橋、同牧野は平成21年2月頃から同22年3月頃までの間、大阪地方検察庁において「取り調べメモ」を廃棄し、村木厚子事件の証拠を隠滅するとともに公務庁の用に供する「取り調べメモ」を毀棄したものである。

②被疑者佐賀、同大坪、同玉井、同小林 同榊原、同太田、同中尾、同鈴木、同伊藤、同樋渡は共謀の上、上記林谷ら6人の検察官が「取り調べメモ」を廃棄し、村木厚子事件の証拠を隠滅するとともに公務庁の用に供する「取り調べメモ」を毀棄した証拠隠滅ならびに公用文書等毀棄の罪に当たる犯人であることを認識しながら、これを隠ぺいしたものである。

7 不起訴処分を不当とする理由

①最高検が被疑事実について不起訴処分としたその裁定の根拠及び理由を告知されたく申立人は平成23年2月17日請求したが文書では明らかにされていない。ただ後記のとおり長谷川主任検事から本年3月29日、電話にて申立人に若干の説明があった。

本件の争点は「取り調べメモ」が公文書に該当するか否かにある。これまで「取り調べメモ」につき最高裁において、平成19年12月25日第三小法廷決定、同20年6月25日第三小法廷、同年9月30日第一小法廷決定がある。いずれの決定も「取り調べメモ」が公文書であって証拠開示の対象であることを認定している。

その決定をふまえて最高検は同20年7月9日付同年10月21日付最高検刑事部長通知が高検次席検事、地検次席検事に発せられ各検察官はこれらの最高裁決定を充分了知していたものと考えられる。さすれば本件「取り調べメモ」は公文書であること疑う余地がなく、被疑者ら6人はこれを廃棄したことを自ら認めているのであるから、証拠隠滅と公用文書等毀棄罪が成立する。

「取り調べメモ」は被疑者の供述の内容、言動等がなまなましく具体的に記載されているものでそのメモに従って検面調書が作成されるのである。メモの内容のすべてが検面調書に作成されるということはありえない。申立人が約29年間検事の職務に従事した経験からそれは絶対にありえないと断定しうる。
  
被告人に有利なことはメモにあっても検面調書にはないのが通常である。特に村木厚子事件では上村勉係長、塩田部長の検面調書は虚偽内容であって法廷での証言が真実だと裁判官によって認定され多くの検面調書の証拠能力がないとして排除されたのである。

当初の供述内容(真実)、村木厚子が関与した虚偽供述の内容、脅迫等を加えられて虚偽供述をした状況等、任意性、信用性を否定しうる事柄がメモには記録されていると考えられる。

その公文書を廃棄したのであるから、裁判の結果をゆがめる行為である。前田恒彦主任検事がフロッピーディスクを改ざんした証拠隠滅罪と本質的には全く同様の重大な犯行だと断定せざるを得ない。長谷川主任検事は伊藤鉄男次長検事、大林宏検事総長の決裁を得た上「嫌疑なし」との処分をした。

仮にも被疑者6人の犯罪を認定すればその上司である⑦~⑯の被疑者の犯罪、すなわち犯人隠避罪の責任が問われるのである。

被疑者6人の犯行を「嫌疑なし」としたのは門前払いすることによって検事総長らの犯行を隠ぺいしたとしか考えられない。3月9日長谷川主任検事は申立人に対し電話で「取り調べメモの内容がすべて検面調書の内容となっているため廃棄した」と説明した。

メモの内容がすべて検面調書に作成されたのか否か破棄しているのであるから裁判官、弁護人、第3者が対査することは不可能である。検察を信用しろというのであろうか。

村木厚子事件を通じて検察の信頼は崩壊した。その隠ぺいの体質は多くの国民の知るところとなった。検察を信用しろというへり屈は多くの国民には通じないであろう。「取り調べメモ」が公文書であると認定されるならば、その内容が仮にも検面調書の内容となっていたとしても本来公文書であるものが非公文書となるものではない。

ここまでへり屈を言ってまで検事総長らの犯罪を隠ぺいする必要があったのである。仮にも検事総長ら上層部の犯人隠避罪が立件されるならば法務検察は完全に崩壊するであろう。その配慮が働いた結果、被疑者①~⑥をの「嫌疑なし」と裁定したとしか考えられない。

②なお①~⑥の被疑者の犯罪の犯行状況は公判経過報告(三長官報告)によって検事総長まで認識しているのである。公判経過報告を検察審査会が入手すれば上層部の被疑者⑦~⑯の決裁印が捺印されていることが明らかになるであろう。犯人隠避罪はもちろん不作為犯でも犯しうること判例理論の認めるところである。

③平成22年9月27日付 同10月12日付告発状を参考までに添付したい。また平成22年12月24日付処分通知書、同23年2月15日付不起訴処分理由告知書同23年2月17日付の請求書をも参考までに添付したい。

④検察審査会は「民意を反映させてその適正を図る」組織である。常識的に判断してもらいたい。 常識的に判断するならば「嫌疑なし」などという処分にはなりえない。本件は最高検が捜査した事件であってその検察内部の論理が優先された結果、身内の者をかばい、また検事総長ら上層部をかばい、法務検察維持と自己の保身を図ったものと断ぜざるを得ない。

⑤裁定理由、捜査記録を検討されその結果、検察審査会において疑問点があれば、ぜひとも申立人に対し文書による反論の機会あるいは尋問されることを期待したい。

(連絡先)
三井 環事務所
〒110-0015 東京都台東区東上野6-1-4 イワツキビル201号
TEL 03-3844-8722 FAX 03-5827-3132
メール info@syowakikaku.com

==============================

tamaki110406.jpg

三井 環(みつい・たまき)
1944年愛媛県生まれ。中央大学法学部卒業。72年検事に任官。高知、高松地検次席検事時代には数々の独自捜査を成功させた。1999-2002年、大阪高検公安部長。2002年4月に現職のまま実名で、裏金告発のためテレビ朝日「ザ・スクープ」に出演しようとしたが、その収録の3時間前に、大阪地検特捜部より逮捕された。逮捕はでっち上げであり、口封じのためであるとして、裁判では無実を主張。最高裁まで争ったが、1年8ヵ月の実刑が確定。2008年10月に収監。10年1月18日に満期出所した。著者に、『告発! 検察「裏ガネ作り」』(光文社)、『検察との闘い』(創出版)、『「権力」に操られる検察』(双葉新書)がある。

※レイアウトの都合上、段落に関しましては一部変更させていただきました。

2011年4月 5日

田中利幸:オバマ政権「核兵器廃絶」という名の戦力強化

昨年末、米国オバマ政権は、核兵器関連(特に「核兵器体制の現代化」)予算の増額の約束と引き換えに、野党が多数派を占める連邦議会上院で新戦略兵器削減条約(新START)の批准承認をなんとか確保した。これを受けてロシア議会もまたこの批准法案を承認し、今年2月5日に新STARTが発効した。この条約により、米露両国は、向こう7年間で、それぞれの戦略核兵器発射装置を700基に、配備済み戦略核弾頭数を1,550発にまで削減することになっている。

ところが、この新STARTには、実に奇妙な核弾頭数の数え方が適用されていることが、不思議なことに専門家の間でもほとんど議論されていない。地上ならびに海上から発射されるミサイルに搭載されている核弾頭数は実際の搭載数がそのまま計算される。しかし、複数の核爆弾を搭載できる大型爆撃機は、1機で弾頭数1個と計算されるのである。したがって米空軍の核戦略用の22機のB52爆撃機は、実際には数百発の核爆弾が搭載可能なのにもかかわらず、22個と計算されることになっている。この摩訶不思議な計算方法により、少なくとも米国は450発の核弾頭を、ロシアは860発の核弾頭を、書類上は削減したことになるのであるが、実際には配備し続けることになる。したがって、米国の場合、1,550発にまで配備済み戦略核弾頭を削減しても、実際には2,000発の核弾頭を配備していることになるのである。さらに忘れてはならないことは、配備から外された核弾頭は廃棄されるのではなく貯蔵されるのであり、米国は約3千発、ロシアは約1先発の核弾頭を貯蔵し続け、条約さえ破棄すれば、いつでも配備可能な状況にあるということである。

よって、「新STARTが核廃絶に向けての一歩前進」などと、気軽に喜んではいられないのである。地球全体を完全に破壊してもはるかに余りあるだけの無数の核弾頭を保有すること自体が「狂気の沙汰」であるが、その「狂気の沙汰」を「狂気」とも感じない軍人や政治家、ひいては諸国民の麻痺した精神そのものが、まさに「狂気」としか表現の仕様がない。

前述したように、新STARTの批准承認は、米国の場合は、オバマ政権が「核兵器体制現代化」プログラム用予算を大幅増額する約束を、上院と政治的取引することで実現させたのであり、この取引結果は2月14日に公表された2012年度予算要求額に如実に表れている。核兵器予算総額は76億ドル(約6,310億円)で、今年度より約6億ドルの増額となっている。2016年度までに核兵器予算額は86億ドルにまで増額される予定で、これが達成されれば、2010年から6年間で核兵器予算額は34パーセントの大幅増額となる。

「核兵器体制現代化(modernization of the nuclear weapons complex)」とは、実際にはアメリカの核兵器製造能力の再構築に他ならないのであり、その漠然とした名称は実態を隠蔽するものである。このことは予算配分の内訳を一見するだけで明瞭となる。プルトニュウム生産施設であるロスアラモス化学冶金施設建替え用の来年度予算要求額は、今年度予算の33パーセント増の3億ドルとなっており、昨年度予算の3倍にまで増えている。このロスアラモス化学冶金施設建替えには、現在の段階で、最終的に61億6千万ドルがかかると推定されているが、実際のところは米国政府も "TBD (to be determined)" 「未定」であると述べており、いったいどれくらい膨大な金額が投入されるのか誰も分からないというのが実情である。オークリッジY-12ウラニュウム処理施設建設予算も今年度対比で39パーセント増の1億6千万ドル。この施設建設には、現段階で、最終的に65億ドルが必要であると推計されているが、これも実際のところは「未定」となっている。

さらに、今年度同様に、様々なタイプの核兵器の「寿命延長計画(LEP)」(=老朽化し、2040年までに寿命を終える現存の核兵器を新型弾頭で置き換えるという計画)にも多額の予算要求額が当てられている。例えば、トライデント潜水艦発射弾道ミサイル用核弾頭W76のLEPプログラムは、今年度の2億2320万ドルから2億5,700万ドルに増額。大陸間弾道ミサイルICBM の核弾頭 W78 の LEP プログラムには5,100万ドルを超える予算があてられることになっている。

したがって、2009年4月にプラハでオバマが格調高く唱えた「核兵器のない世界」構築の志しと希望とは裏腹に、「核兵器廃絶」に向けての積極的な政策など米国政府には存在しないのであり、実際には、配備済み核兵器を減少させながらも、核攻撃力の強化を計る政策が巨額の予算で推進されているのである。

一方、核兵器予算とは別枠の国防費について、オバマ政権は今後5年間で780億ドルを削減すると発表し、一般に歓迎すべきニュースとして取り上げられている。ところが、実際には、この国防費予算削減についても落とし穴がある。なぜなら、780億ドルの削減のほとんどは、2014年度ならびに15年度に実行される計画として発表されているのである。つまり、それまでに国防長官は入れ替わるため、新任の国防長官の下で予算見直しが行われる可能性は高いし、さらには、オバマが次期大統領選挙で敗退すれば、この削減計画も白紙に戻される。

したがって、実際には、2012年度国防費予算要求額6,710億ドル(約55.7兆円)は、今年度内に国防省が使うことになっている予算額より5パーセント増えているのである。しかも、この予算の中にも「核兵器体制現代化」と直結している研究開発プログラムが含まれている。例えば、核兵器搭載可能な新型の、しかも無人機としても使用可能な長距離飛行爆撃機の開発のために配分されている2億ドル近くがそれであり、今後5年間では37億ドルがこの爆撃機の開発につぎ込まれる予定である。国防省は、2020年代半ばまでに、この新型爆撃機を80機から100機ほど実際に配備したいと考えている。さらに、来年度国防費の中には、現在のオハヨー型潜水艦に替わる新型の弾道ミサイル搭載用潜水艦の開発のための予算10億ドルが含まれている。その上、アフガニスタンならびにイラクでの戦費には、今年度の場合1,500億ドルがあてられており、来年度は1,000億ドルまでにとどめたいとオバマ政権は考えているようであるが、両国での混沌とした現状から見て、果たしてこれが可能かどうかは極めて疑わしい。現在、アフガニスタンに10万人、イラクには4万人の米軍兵が駐留しているので、兵員1人当たりに米国政府はほぼ100万ドル(8,300万円)を毎年使っている計算になる。

現在米国が直面している深刻な経済不況は、軍産複合体制の下で長年にわたり、巨額の予算を甚だしく非生産的な軍備と戦費に浪費してきた結果として積み上げられてきた膨大な債務と、密接に関連していることは言うまでもないことである。例えば、1998年と比較すると、現在の米国政府は軍事費に2倍の予算を使っている。オバマ大統領は環境問題にも真剣に取り組んでいると主張しているが、二酸化炭素を排出する石油の消費量からすれば、皮肉なことに、世界で最も環境破壊を行っているのはオバマ自身が最高司令官を務める米軍という巨大組織である。このまま軍事費がますます増大するならば、近い将来に米国経済は完全に崩壊してしまうことが予測されるとアメリカの軍事批評家カール・コネッタは主張しており、コネッタはアメリカを超軍事予算浪費による「自殺国家」と呼んでいる。

同じように長期の経済不況に落ち込みながらも、「防衛大綱案」に基づき2011年度から5年間の中期防予算に23兆4,900億円もの巨額を投じようとしている日本は、さしずめ、この「自殺国家」に道連れを余儀なくされている「財政赤字道連れ自殺国家」とでも称せる国であろう。とりわけ今回の東日本大震災の復興費用では、総額20兆円とも25兆円ともいわれる膨大な金額が必要となる。「子供手当」の延期や増税などさまざまな小手先だけの提案の声が聞こえてきているが、「中期防予算23兆4,900億円をそのまま復興費に転用せよ」というアイデアはどの政党からも聞こえてこない。「防衛」、すなわち「国を守る」とは「国民を守る」ことであり、「国民の生命・生活を守る」ことである。したがって「防衛費」は軍備だけに使うものではなく、震災被害者の生命・生活を守ることに金を使うことも広義の意味での「防衛費」に他ならない。日本政府が行おうとしていることは、瀕死の患者を放り投げておいて、将来使うか使わないか分からない高額の医療器械の購入にやっきになっているのと同じである。

「核兵器廃絶」を唱え、ノーベル平和賞を授与されたオバマが大統領を務めるアメリカ政府がこのような状態であるから、新START締結の相手国であるロシアもまた、米国同様に、核兵器保有数は減らしながらも、実際には核兵器力ならびに通常兵器力の両面での強化を推進する計画を打ち出しているのも不思議ではない。2月末の記者会見で、ポポフキン国防次官は、2020年までに19兆ルーブル(約53兆円)を「ロシア軍装備現代化計画」に投じると発表した。ロシアもまた、アメリカ同様に「現代化」という表現を使っているのは、アメリカに対抗する姿勢を明示するためであろうか。

この軍事力「現代化」には、新型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「ブラワ」を搭載する原潜8隻や、液体燃料式大型大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発など、戦略核戦力の強化をはかる重要なプログラムが含まれている。新型ICBMでは核弾頭が最大10個まで搭載可能となり、既存のRS20(サタン)に取って代わるし、耐用年数も10年のびて35年以上になる。この「軍装備現代化」には、さらに、戦略爆撃機ツポレフの拡充、防空ミサイル・システムS400の56基配備の上に、最新型S500の10基導入、戦闘機600機以上、ヘリコプター1千基以上、艦船約100隻の購入など、大幅な軍事力強化計画が含まれている。したがって、こうした米露両国の核ならびに通常兵器兵器の強化政策の実態を目にしてみると、新STARTがほとんど意味を持たない政治的パフォーマンスに過ぎないことが理解できるはずである。

さらに、中国の近年の国防費予算の急速で大幅な増大にも我々は注意しなければならない。この20年以上にわたって中国の国防費の増加率は(昨年をのぞいて)毎年10パーセント台という高い増加率を保っている。今年3月初旬の発表では、2011年度の国防費予算案が前年実績比の12.7パーセント増の6,011億元(約7兆5千億円)になることを明らかにした。しかし、この国防費には、2014年完成予定の国産空母の建造費や、近い将来に実戦配備が予定されている次世代ステルス戦闘機「殲20」の開発費は含まれていない。したがって、実際の国防費は、米国防省の推計では、公表額の2倍であると考えられており、中国はもはや米国に次ぐ軍事大国である。中国はこれまで、核兵器保有はあくまでも自衛のためであり、先制攻撃目的に使用することはないと主張してきた。ところが、最近、中国軍最高幹部の一人が、「状況によっては先制攻撃に核兵器を使用することもありうる」という意味の発言をしているとの情報も流れてきている。

このように、核大国の現状を見てみると、「核兵器廃絶」とは逆方向の「核戦力強化」に向かっていることが明らかとなる。その上、中近東では核保有国イスラエルと核兵器開発の疑惑がもたれているイラン、シリアとの緊張関係、イスラエル近隣のエジプト、リビア、サウジアラビアなどでの民主化闘争、両国が核保有国であるインド・パキスタン関係にアフガン戦争が絡むという中央アジアの複雑な政治状況、北東アジアではますます悪化する北朝鮮問題があり、これら全ての地域にアメリカの政治・軍事力が深く関与している。しかも、イランからの石油輸入やパキスタンへの原子力技術面での援助にも見られるように、中国もまたこれらの地域に、急速に政治的影響を拡大しつつあり、核・軍事力をめぐる世界状況はますます錯綜したものになっている。

かくして、残念ながら、反核平和運動にとって世界の現状況は決して楽観できるようなものではない。このような困難な状況の中で、私たちは、めまぐるしく変化する国内外の政治状況に足下をすくわれることがないよう、私たちのよってたつ根本的な土台を常に確認しつつ運動を地道にすすめていくより他に道はない。その土台とは、すなわち、「いかなる状況であれ、いかなる目的のためであっても、核兵器の使用は重大な"人道に対する罪"であり、最終的には、いかなる紛争も軍暴力によっては解決できない」という思想である。この普遍的人道理念に基づき、私たちは、核廃絶に向けて実現可能な有効的且つ具体的な方法について熟考し、提案し続けていく必要がある。

【関連記事】
■田中利幸:The Atomic Bomb and "Peaceful Use of Nuclear Energy"(JapanFocus)
http://www.japanfocus.org/-Yuki-TANAKA/3502

■新START発効 「核なき世界」へ米ロ外相が批准書(朝日新聞)
http://www.asahi.com/international/update/0205/TKY201102050324.html

-----------------------------------------------

【プロフィール】
田中利幸(たなか・としゆき)
広島市立大学広島平和研究所教授。西オーストラリア大学にて博士号取得。オーストラリアの大学で教員を長く務めた後、敬和学園大学教授を経て現職。第2次大戦期における戦争犯罪の比較分析を研究テーマとしている。著書に『空の戦争史』(講談社現代新書)、『戦争犯罪の構造―日本軍はなぜ民間人を殺したのか』(大月書店)などがある。

Profile

日々起こる出来事に専門家や有識者がコメントを発信!新しいWebニュースの提案です。

BookMarks




『知らなきゃヤバイ!民主党─新経済戦略の光と影』
2009年11月、日刊工業新聞社

→ブック・こもんず←




当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.