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大野和興:平成の不平等条約TPP

農業記者として約40年間日本とアジアの農村を歩き続けた大野和興氏にインタビューを行いました。大野氏は国際的な視野で独自取材を重ね、国内議論にのぼらないTPPの問題点を指摘してきました。

90年代との社会変化、「中央 vs 地方」という対立軸、そしてネットでは見えてこない女性農村運動の広がりも必見です。

*   *   *   *   *

大野和興氏(ジャーナリスト)
「平成の不平等条約TPP」
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─大手メディアのTPP報道をどう見ていますか

読売新聞の「平成の開国」という特集の中で、TPPに反対するのは「国賊」であると経産省の言葉を掲載していました。「国賊」とは問答無用、「それを言っちゃあおしまいよ」という言葉です。日本一の部数を誇る読売新聞が看板企画でこのような言葉を使ったことが既成メディアの退廃を示していると思います。

─大手メディアは「経済界 vs 農業」の構図で報道し続けました

TPPは農業だけの問題ではなく、さらに農業界全体が反対しているわけでもありません。ジャーナリストの西沢江美子(にしざわ・えみこ)氏によると女性農業者の中でもTPP推進派がいると聞きます。主に農水省の路線で起業した人たちでTPPをきっかけによりいっそう売れると思っているようです。農業界の意見の割れ方を見れば、「経済界 vs 農業」の構図は古いと言えます。

全国紙と地方紙が1つの問題をめぐってこれほど対立することは珍しいという印象を受けており、今回のTPP問題は「中央 vs 地方」という対立軸があると思います。

─対立軸がかわった背景は

ひとつは「貧困」の社会問題化があると思います。

1980年代後半から90年代の日本はまだバブルの時代で、みんなが「それ行けドンドン」とうかれていました。労働組合でさえ銀座の行きつけの店で高いお酒を飲んでいた時代です。

しかし1990年代後半から「貧困」の問題が表に出てくるようになり、状況は変わりました。2001年以降の小泉政権時代に労働法制がかわり、規制緩和が進むと、年越し派遣村に代表される「貧困」が社会問題になりました。

─「反貧困ネットワーク」を始めとする反貧困の動きは全国に広がりました

地方では農業所得と農外所得の両面に問題が起こっています。

食糧管理法が生きていた1995年ぐらいまでは農家の収入となる米価は横ばいでした。かわって成立した新食糧法によって米価が市場によって決まる仕組みができ、それ以降は農家の収入は毎年1割ずつ減るような状態が続いています。90年代に2万円/60kgを超えていた農協からの仮払米価は、今年は9,000円です。

もっと深刻な問題は農外所得です。地方工場は海外に移転し、国内で残っている工場では賃金切り下げと「もっぱら派遣」が横行しています。

─「もっぱら派遣」とは

ある工場が自前の派遣会社をつくり、そこで採用したスタッフを自分の工場に派遣するのです。

ある東北の企業を例にあげます。そこは社員が1人、他は派遣スタッフという100人規模の企業です。雇用責任は総務部に置かれた別の派遣会社にあり、いつでもリストラできるという実にひどい雇用破壊が進んでいます。

地方農村を見ると、農業所得と農外所得の両側から貧困が迫っていることがわかります。

☆ ☆  食料高騰とTPP ☆ ☆

日本のTPP議論に欠けているのは、ニュージーランドやオーストラリアで取り上げられている論点です。それはTPPの決定事項が国内法や国内制度よりも優位に働く点です。

米国企業が日本に進出して問題を起こした場合、日本の法律で裁けなくなる可能性があります。例えば、モンサント(米国)が自社のGM(遺伝子組み換え)大豆を使った豆腐をつくって食品表示をしなかった場合、当然日本政府は国内法に照らして操業差し止めなどモンサントに罰則を与えられるはずです。しかしモンサント側は逆に国際機関に日本政府を訴えることができるようになります。そうなれば日本政府は保護しすぎだと罰せられ、米国企業に罰則金を払うことになります。

戸別所得補償のような国内セーフティーネットもTPPのもとでは違反の対象になってくるでしょう。

─外資企業に治外法権を認めるTPPですね

外資企業によって市場どころか生存権まで握られてしまいます。幕末の不平等条約そのものです。

─途上国にとってはメリットがあるのでしょうか

途上国の論調に変化が起こっています。WTOの前身であるGATT・ウルグアイラウンドで、途上国は欧米諸国への輸出が増える狙いで賛成側に回りました。しかし結果的には逆に輸入の増加を招き、途上国の間で「話が違うじゃないか」という声が上がりました。今のTPP問題を見ていると、当時の途上国と今の日本が重なってみえます。

─TPP参加の理由に「日本の輸出が増える」というものがありました

TPPの本質は米国の市場拡大であって、米国の尻ぬぐいにすぎません。米国は成長するアジア太平洋地域への市場拡大を狙っているだけです。

─逆に輸入農産物が増えれば、日本の食生活は国際価格に左右されることになります
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農水省「世界の食糧事情と農産物貿易の動向」より

天災の影響で穀物価格が世界的に上昇しています。大手メディアは穀物価格高騰報じながら、TPP、つまり食料自由化と結びつける論理がありません。

2008年の食料価格高騰は米国のリーマンショックと金融緩和政策が密接に絡んでいました。現在米国はそれ以上の金融緩和政策をとっており、大増刷されたドルは米国から海外に流れて食料市場への投機にまわっています。

また、中国は使い道がない米国ドルで世界の土地を買っています。

私はアジアの農村をまわっていますが、中国資本がカンボジア、ラオス、タイ、ベトナムの農民を追い出してる現場を目にしてきました。米国発の過剰資本が生んでいる現象です。

☆ ☆ グローバリゼーションとどう向かい合うか ☆ ☆

─TPPと平行して、FTAやEPAなどの二国間協定が進んでいます

私は2003年に脱WTO草の根キャンペーンをつくり、活動してきました。貧困社会の増大、環境破壊の拡大でWTOが行き詰まってくると、二国間・地域間の自由貿易協定FTAが現れ、脱WTO"/FTA"草の根キャンペーンにして反対し続けました。しかし我々の運動自体の戦略も練り直す時期に来ていると思います。

私は今後の流れは「WTO改革」だろうと思います。WTOまで否定してしまうと身動きがとれません。とは言え今のWTOは強者の論理で動いており、医療や介護、食料、環境など基本的人権や生存権に関わる分野の自由化を規制化すべきと思います。

また、WTOは一種の法廷でもあります。現在は協定違反をすれば訴えられますが、基本的人権を重視する仕組みに変えて、もし権利を侵害されるような事態が起これば逆に訴えられるような法廷にすべきです。もう一度WTOに立ち返って協議するべきかと思います。

─WTOが実質機能しなくなった背景には、途上国の反対論と中国やインドなどの新興国の存在があると思います

その中国は国内で農民問題を抱えています。農業人口が減り、農業生産力が減り、輸入国へと転換しています。土地問題が内部で起こり、反乱が起こっています。

中国人民大学教授の温鉄軍氏が「三農問題」を取り上げています。中国共産党の中央委員会で問題提起して、党に「三農問題」というとらえ方を定着させた人です。「三農問題」とは、過小零細農の世界は農業、生活、共同体の3つの視点でとらえなければいけないという考えです。僕が20代の頃の記者時代は、農業経済はそういうとらえ方をするよう学んだものです。

60年代の農業基本法以降、日本は農家・農村の問題を農業問題としてしかとらえられていません。農業と暮らしと村を一緒にとらえないといけません。農業問題としてアプローチすると、どうしても規模拡大して生産性を上げることが解決策になってしまいます。

─大野さんは反グローバリゼーション運動を展開してきました

グローバリゼーションそのものは否定できなくなっています。今問題になるのは環境破壊や貧富の格差、基本的人権の侵害といった"グローバリゼーションによる暴力"です。スーザン・ジョージの「オルター・グローバリゼーション」にもつながるところですが、暴力を発揮させないようなグローバリゼーションにしていくことが大切かと思います。TPPについてもその視点から反対論を展開していきます。

─2月26日には国内の零細農家や消費者だけでなく、韓国からの農民も集まり、デモイベントが企画されています

「TPPでは生きられない!」と百姓が農協など既成の組織と関係なく自前で立ち上がり、呼びかけています。さらに、農業という枠内にとどまるのではなく、グローバリゼーションの中で苦しむ非正規労働者や中小零細事業者、野宿者などへ大きく「ともに」と呼びかけています。

そして女性の動きにも注目です。「反TPP百姓女性の会」では北海道から沖縄まで、全国の農村女性の間で回覧ノートがまわっています。回覧ノートを書いて、郵送で送るという戦後農村女性運動の手法です。FAXと電話と手紙が入り乱れ、暮らしの中から意見が集まっています。

小さい輪は、次第に広がってきています。

(取材日:2011年2月10日 構成:《THE JOURNAL》編集部・上垣喜寛)

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【プロフィール】大野和興(おおの・かずおき)
1940年愛媛県生まれ。農業ジャーナリスト。
四国山地の真只中の村で育ち、農業記者として約40年を日本とアジアの村を歩く。「日刊ベリタ」現編集長、「脱WTO草の根キャンペーン実行委員会」事務局長、「アジア農民交流センター」世話人、「国際有機農業映画祭」運営委員会代表、本誌ブロガー「大野和興の農業資料室

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【編集部よりお知らせ】
当たり前に生きたい、ムラでもマチでも TPPでは生きられない!座談会
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日時:2月26日(土)午後1時から
場所:東京千代田区神田駿河台、明治大学リバティータワー2階 1021教室
参加費:500円
内容:中野剛志・京都大学助教授の基調講演、韓国農民の報告、参加者の3分間スピーチ、キャンドルデモなどが予定されている。

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ご理解・ご協力のほどよろしくお願いいたします。

長野県中川村が、村のホームページにTPP反対のコーナーを開設しました:
http://www.vill.nakagawa.nagano.jp/against_tpp/

TPPは、日本にとって誰が考えても不利な条約。政府は、なぜ全国キャラバン隊まで仕立てて推し進めようとするのか。それがわからない。

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