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2010年12月31日

金子勝:歴史の中の「自由貿易」 錦の御旗を立ててみたけれど...

やりたいことと正反対の理由をあげて、やろうとすることを正当化する...。
戦争を仕掛ける側がしばしば「平和」や「正義」を口にするように、世の中にはよくあることです。

最近、進められているEPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)も同じ。それは「自由貿易」という名の「市場囲い込み競争」かもしれません。

菅直人総理も、TPP(環太平洋連携協定)への参加を「平成の開国」と呼び、「自由貿易」を錦の御旗としています。どうもTPPを考えるには、そもそも「自由貿易」にまで立ち返って考えてみないといけないのかもしれません。

通常、経済学では、昔デビッド・リカードが唱えた「比較生産費」説という考え方に基づいて「自由貿易」を正しいと教えます。比較生産費説とは、簡潔に言えば、各国は比較優位のある財に特化して輸出し、代わりに比較劣位にある財を輸入した方が、お互いに一国だったらできない量の生産と消費が可能になるという考え方です。

しかし、実際の歴史的事実に即してみると、自由貿易という考え方は絶対的とは言えない面が見えてきます。自由貿易主義の起源をたどっていくと、国家主導の重商主義を批判して、自由貿易の効用を説いたイギリスの経済学者アダム・スミスに行き着きます。しかし、これに対して、後発国のドイツでは、フリードリッヒ・リストが自国の産業の育成のために「保護貿易主義」を掲げて、先進国の「自由貿易主義」に対抗しました。

イギリスは穀物条例と航海条例を廃止して自由貿易を達成したと言われます。しかし現実には、通説とは異なり、イギリスも保護貿易主義をとって産業を育成しました。当時の基軸産業であったのはイギリス綿工業。その最大のライバルはインドの綿織物工業でしたが、イギリスは競争力をつけるまで、インドからの綿織物に対して高い関税をかけて保護していました。

つまり、歴史的事実としては、どの国もまず「保護貿易主義」を採り、自国の産業が強くなった途端に「自由貿易主義」を訴えるようになります。それが自国産業に最も有利だからです。当たり前のことですが、自由貿易は弱肉強食になりますから、国際競争力のある国には断然有利ですが、これから自国の産業を育成しようという国は、丸裸で市場にさらされると負けてしまいます。

自国の産業競争力が低い、あるいは幼稚産業や農業など弱い産業を抱える、経済が発展途上の段階にある国々では、「産業」を主語にして経済政策が語られる傾向があります。日本の戦後もそうでした。大学にも工業経済論、農業経済論、労働経済論といった産業論の講義がたくさんありました。ところが、国際競争力をつけると、途端に「市場」を主語にして「自由貿易主義」が語られるようになります。後からついてくる後発国に保護貿易主義をとらせないことが、自国の産業の優位を確保できるからです。最近でも、ケンブリッジのハジュン・チャンの『はしごを外せ―蹴落とされる発展途上国(Kicking Away the Ladder)』(日本評論社)が改めてこうした視点を掘り起こしています。

このように現実を見ると、関税ゼロが普遍的に正しいといった原理主義的な説明は必ずしも正しいとは言えず、それは発展段階の異なる国同士の国際的な力関係を表しているというリアルな認識が必要です。

考えてみれば、日本の戦後も同じプロセスをたどってきました。日本はアメリカに対して、弱い自国産業を保護しながら、国際競争力をつけるにつれて、徐々に自由化をしてきました。ところが、しだいに競争力をつけるにつれて、今度はアメリカから「公正貿易」という形で、対日要求がつきつけられるようになってきました。それは関税引き下げだけにとどまりません。アメリカが参加できない日本の市場そのものが「不公正」なのだから、制度そのものをアメリカにそろえろとか、アメリカ企業に市場を割り当てろと言った強引な要求がなされるようになります。

日本側も、バブル崩壊後、護送船団方式に対する批判や、日本のシステムは「社会主義」的だなどという声が強まり、日本は米国の要求にしたがって「自由貿易」「市場主義」を選んできました。そこには郵政の民営化のように世界的に普遍的とは言えないような対日要求も含まれていました。対米輸出が多くなる限りで、それは正当化されました。が、今は米国についていくメリットは次第に失われ、もはや中国をはじめアジア諸国が輸出先としては圧倒的に高い比重を占めるようになってきました。

さらに、これまで対米交渉のたびに、いつも農業が保護主義のやり玉に挙げられてきました。農産物が米国の重要な輸出品だからです。実は、その結果、コメ、コンニャクなどの関税は例外的に高いものの、農産物の平均関税率は10%ほどで、EU諸国より低くなっています。農家の戸別所得補償も欧州諸国は粗生産額の8割も出しており、欧米諸国に比べて非常に低い水準にあります。むしろ米国への譲歩を繰り返すうちに、日本の農業はほとんど裸同然にされてしまったというのが正確な実態です。それゆえに農業が衰退してきたと言ってもいいかもしれません。世の中ではきちんと検証しないで、まったく逆のイメージを流布するイデオロギーむき出しの議論が横行しています。

最近では、中国や韓国が日本と同じ道をたどって成長してきています。日本は小泉「構造改革」がとられた 2000年代以降に、産業の国際競争力を著しく低下させています。まだ規制緩和、市場任せで、中国・韓国などの国家資本主義に対抗できると思っている人は、日本の産業競争力の危機的状況を認識していないと言わざるをえません。

では、今日、なぜ自由貿易がこのように強調されるのでしょうか。その一つの理由は大恐慌期の教訓から来ています。80年前の大恐慌の時、列強各国は、為替切り下げ競争という「近隣窮乏化」政策をとり、宗主国が植民地市場を囲い込む「ブロック経済」政策を採りました。要するに自分さえ良ければよいという「自国中心主義」に走ったわけです。世界中が一斉に保護貿易に走ると、世界市場が縮小して不況を一層悪化させてしまい、その結果、世界大戦に突入してしまいました。その反省からいま「自由貿易」の必要性が唱えられているのです。

ところが、過去の歴史を振り返ると、最も強い国が率先して貿易を開き、弱い国や産業にはセーフティネットとして一定の例外規定を認める国際的自由貿易体制ができないと、国際経済は安定しないというのが正しいのです。それが実現したのは、パックス・ブリタニカやパクス・アメリカ― ナの全盛期くらいでしょうか。

しかしEPAやFTAも、よく考えると、二国間・少数国間だけで「自由貿易」を推進する協定であって、その他の国々には高い関税などを課すものです。本来的に世界中の多国間で自由貿易主義を推進するのはWTOです。実は、WTOという国際自由貿易体制が十分に機能できない中で、EPAやFTAは「自由貿易」という名を借りた「市場の囲い込み競争」という面を持っているのです。それは、ブロック経済の現代版と言えなくもありません。TPPも基本的に同じです。まさに、やりたいことと正反対の理由をあげて、やろうとすることを正当化するやり方です。

しかし、あちこちでEPAやFTAが次々始まったら、日本だけ締結をしないわけにはいかず、どんどん追い込まれてしまいます。しかし、そうであるなら、なおさら割り切って自国の利益になるかどうかをしっかり見据えなければならないはずです。

まずTPPが「国を開くか開かないのか」という選択だと、インチキな恫喝をかけるメディアがありますが、それは本当でしょうか。TPPにはロシアはもちろん、ASEAN+3でFTAを進めてきた中国は、米国主導のTPPには乗らないでしょう。また米国とFTAを締結した韓国も参加しないでしょう。実は、米韓FTAではコメが例外品目ですが、TPPではそれが許されませんから。今や世界で最も成長し、実際にも日本の輸出先として圧倒的に重要な中国などの東アジア市場でしょう。その中国や東アジア諸国が加わらないのに、TPPが「国を開くか開かないのか」という恫喝はないでしょう。これらの国々と個別に EPA、FTAを結んだ方が日本にとってずっと得です。

しかも、中国・韓国などとEPAやFTAをする際には、農業利害の衝突も起こりにくいのです。とくに中国は水田中心で平均耕作面積が1haにも満たない状態で、小麦・トウモロコシなどの穀物、畜産、砂糖などで競合せず、むしろ米や果物など日本の農産物の輸出の可能性が切り拓かれます。実際、中国最大の農業国営企業の中国農業発展集団と20万トンの日本米の輸出契約への取り組みが行われようとしています。

じゃあ、TPPで日本の農産物が壊滅的な打撃を被る一方で、日本の製造業品の輸出が伸びればいいのかもしれません。しかし、日本の製造業品の対米輸出が本当に伸びるんでしょうか。どうも、それも期待できそうにありません。オバマ政権は中間選挙で大敗したため、議会は機能しない中で、再び、金融危機が再燃する恐れが強まっているからです。オバマ政権が取りうる経済政策は限られています。そこで、オバマ政権は、今後5年間に輸出を倍増して雇用を200万人増やすと表明しています。つまりTPPは米国の輸出を倍増する計画の一環なのであって、決して日本の対米輸出を増やすものではないのです。

そう考えると、TPPで問題になるのは、実は農業だけではありません。実はTPPは単なる輸入関税の話ではなく、より広範なパートナーシップを目指したものであり、さまざまな分野が協議の対象となるかもしれないのです。いくつかの可能性があります。

①公共事業などの入札に関しては、すでにWTOルールにしたがって事業金額規模に基づいて政府調達へ海外企業の参加条件が決まっています。その金額の引き下げが求められてくるかもしれません。

② 金融分野で門戸開放も含まれる可能性があります。このテーマであれば、民主党が2009年マニフェストで掲げた郵政民営化見直しも含まれると考えるのが自然でしょう。米国政府の要求は「自由貿易」というより「公正貿易」なので、米国企業が参入していないこと自体が問題だということになります。郵貯や簡保資金の運用に関して、米国金融機関への割り当てをよこせということになるかもしれません。

③BSE絡みで米国産牛肉は月齢20ヶ月という輸入条件がありますが、その条件の緩和が要求される可能性もあります。

④労働市場の開放によって、ベトナムなどから移民労働を受け入れる問題も出てくる可能性もあります。

まだ分かりませんが、米国が「年次改革要望書」であげる対日要求のどれが出てもおかしくないでしょう。TPPに乗ることで、先に挙げた対日要求が強まり、むしろ日本は犠牲だけを強いられるのではないでしょうか。米国が「不公正慣行」だといえば、財界は諸手を挙げてそれに賛成するのでしょうか?今の日本にそんなゆとりがあるとは思えません。とりあえず民主党内の反対で、菅政権がTPPで米国が何を求めてくるのか、まず情報を収集するとして、何も考えていない菅首相の失点は防がれました。

今は、折からの尖閣問題や朝鮮半島の緊張もあって、民主党政権は、当初のマニフェストで掲げた東アジア共同体構想から、旧来の自公政権による「日米同盟」重視の路線へと乗り換えつつあります。しかし、TPPの議論の過程を見ていると、イラク戦争に突っ込んで失敗したプロセスとそっくりです。米国について行けば、うまくいくという思考停止に陥っているからです。この歴史的転換期にそれでは、国の進路を誤ってしまう危険があります。

そういえば、証拠がないのに始めたイラク戦争も「中東平和のための戦争」だったはずですね。やりたいことと正反対の理由をあげて、やろうとすることを正当化するやり方でした...。バイアスを排して、状況を冷静に見て判断することが大事です。

(本記事は12/21付の金子勝ブログより、ご本人の許可を得て転載したものです。一部の情勢変化についてはご了承下さい。)

【関連記事】
■金子勝:Uターンする日本 そこに未来はあるのか?─TPPと戸別所得補償
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2010/11/u.html

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【プロフィール】金子勝(かねこ・まさる)
1952年東京都生まれ。東京大学経済学部卒。現在、慶應義塾大学経済学部教授。主な著書に、『日本再生の国家戦略を急げ!』(武本俊彦氏と共著、2010年)、『新・反グローバリズム――金融資本主義を超えて』(岩波現代文庫、2010年)、『金子勝の食から立て直す旅―大地発の地域再生』(岩波書店、2007年)がある。

2010年12月29日

高野孟のほろ酔い談義・年末スペシャル──21世紀最初の10年が終わった

《THE JOURNAL》主幹の高野孟が1年を振り返る恒例の「ほろ酔い談義」を行いました。

21世紀最初の10年はどんな年だったか、2010年のメディアの動きなど高野孟が語ります。

今年はどんな年でしたか?

読者の皆さんも、お酒を飲みながらご視聴ください。(12月14日収録)

★    ★    ★


《パート1(再生時間:12分56秒)》


《パート2(再生時間:10分29秒)》

【関連記事】
■高野論説:2011年はどういう年か(2010.12.24)
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2010/12/2011.html

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■有料会員制度スタートのお知らせ

《THE JOURNAL》では10月に有料会員制度をスタートしました。本記事も、有料会員の皆様の支援によって制作されたものです。有料会員制度の詳細については下記URLをご参照下さいm(_ _)m
http://www.the-journal.jp/contents/info/2010/10/post_66.html

2010年12月26日

シリーズ小沢一郎論(10) ── 亡国の菅政権三大失策

日本一新の会 達増拓也
(岩手県知事)

 菅首相が小沢一郎氏と会談し、政倫審出席に関して物別れに終わった、というニュースを見て、暗澹たる気持ちになった。最高権力者が、実質的に不当なことを強行しようとする異常な姿勢。それに加え、善悪を別にして、困難なことをやろうとしつつ、とてもできそうにない、驚くほどの稚拙なやり方。「亡国」という言葉が頭をよぎる。

 参院選で消費税引き上げ論議を持ち出したことも、横浜APECに向けてTPP参加を打ち出したことも、そうだった。今回の小沢政倫審出席問題と合わせ、亡国の三大失策である。他にも亡国的な失策はたくさんあるが、消費税、TPP、政倫審の三つは、内閣が吹き飛ぶような失策をよせばいいのに自ら招いたという点をはじめ、いくつか顕著な共通点があり、他と区別して取り上げる意義があると考える。

 消費税引き上げ、TPP参加、小沢氏政倫審出席の三つは、どれも一見良いことのように見え、マスコミ世論調査でも賛成が多く、全国紙の社説のほぼ全てが賛成している、というところが共通している。

 しかし、よく考えてみると、消費税引き上げは経済・雇用が低迷している時にやるのは無茶であり、人々を路頭に迷わせないような対策をまず構築しなければならないはずだ。TPP参加も、調べれば調べるほど無茶である。輸出に強みがある、少なくとも輸入に弱みが無い、関税撤廃でダメージを受けないような中小国同士の協定がベースだ。そこに、それらの国との間では弱みがないアメリカが参加するのは分かるが、日本が参加するのは得より損が多いだろう。また、米韓FTAに負けるな、という声がある。だがあれは、アメリカが、韓国の牛肉輸入障壁を崩し、米国自動車の対韓輸出について韓国自動車の対米輸出以上の条件改善を飲ませようとするのに韓国が抵抗して、交渉が行き詰っていた。それが、北朝鮮の韓国砲撃で韓国が妥協に走り、米国も牛肉をあきらめ、それで合意に至ったものである。韓国の対米自動車輸出より、米国の対韓自動車輸出のほうが大きく条件改善される内容である。一方韓国は農業を守ったままである。日米間で関税撤廃するのとは全然話が違う。

 そして、小沢氏政倫審出席が、いかに理の無い、検察の暴走の尻馬に乗って暴走する民主主義の破壊であるかは、読者の皆さんはよくお分かりのことであろう。菅首相らが本気で真実を知りたいなら、まず自分達で調べればよい。そうすれば、小沢氏の秘書らの逮捕がいかに不当であるかが分かり、検察審査会の起訴議決がいかにでたらめであるかが分かるはずだ。問題の多い調書作成過程など、検察のあり方を変えること、そして検察審査会のあり方も変えることこそ、政府・与党が本気で取り組むべきことである。

 百歩譲っても、消費税、TPP、政倫審の三つは、賛否両論が均しく論じられるべきテーマであり、問答無用で賛成を押し付けてよい問題ではない。私は、問答無用で反対と決めてもいいくらいの三大無茶だと思うが、議論の余地は認めてもよい。

 それを、マスコミ世論調査とマスコミ論調を後ろ盾にして、しゃにむにつっ走ろうとするのは、間違っている。そもそも、マスコミがこの三つに関して安易に賛成のスタンスを取るという判断ミス(意図的かもしれないが)をしており、世論も間違った方向に誘導されてしまっているのだ。菅政権とマスコミが共に三連敗なのである。

 さらに問題なのが、政権による進め方の稚拙さである。結果として、消費税で民主党が参院選に大敗してしまった。TPPでは作らなくてよい国民間の亀裂を国内的に生じさせ、国際的にはTPP交渉に同席させてもらえない恥をかいている。政倫審問題では、予算編成を中心に国民と一体になって政策を実現していくハイライトたるべき年末に、政府・与党のエネルギーのかなりの部分を内部対立と混乱の拡大に費やすという空前の愚挙を天下にさらすはめになっている。

 まあ、悪事に失敗しているのだから、国民生活や民主主義の致命的な破壊に至っていないことは不幸中の幸い(最大不幸中の最小幸福だが)である。しかし、国の舵取りとは、失敗ということが許されない、真剣勝負の世界である。失敗したら、政権を譲るしかない。そのへんの所がはっきり見えてきた今日この頃である。

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◎日本一新の会事務局からのお願い

「日本一新運動」の原点として連載している論説は、「メルマガ・日本一新」の転載であり、日本一新の会が、週一で発行しています。配信を希望される方は http://www.nipponissin.com/regist/mail.cgi から、仮登録してください。折り返し案内メールが届きます。

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2010年12月24日

2011〜12年の主な日程

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   世  界              日  本

ーー2011年ーー
《1月》
01国際森林年(〜12月31)       01日独交流150周年(〜12月31)
01ブラジル初の女性大統領が就任   01改正商品取引法が完全施行
01エストニアが共通通貨ユーロ導入  13民主党大会
01中台経済協力協定発効       13山梨県知事選告示(30投票)
01韓国が限定的二重国籍認める法改正 20愛知県知事選告示(2月6投票)
06世界最大の家電見本市(ラスベガス)20アメリカン航空の羽田NY便就航
09スーダンで南部独立を問う国民投票 ●通常国会招集
10デトロイト自動車ショー      ●米グーグルが日本で電子書籍販売
26スイス・ダボス会議        
●オバマ大統領が一般教書演説    
●胡錦濤主席が訪米         
●ベトナム共産党第11回大会
●中国・ミャンマー高速鉄道着工?
●アラブ連盟経済サミット
●EUが新たな金融監督機関を設立
●ロシアがWTO加盟の準備本格化

《2月》
04ミュンヘン安全保障国際会議    ●米ボーイングが787型1号機をANAへ
10ベルリン国際映画祭        16国際ナノテクノロジー総合展
11ウガンダ大統領選・議会選     16環境電池製造展
26国連東ティモール統合支援団終了  20英BAが羽田ロンドン便開設
26米、最後のスペースシャトル打上げ 26任天堂が裸眼3Dの新型ゲーム機発売
27米アカデミー賞発表        26日本体育協会創立100周年シンポ
                  
《3月》
05中国全人代(第12次5カ年計画)   02国際水素・燃料電池展
16イスラム諸国会議首脳会議     12九州新幹線、博多鹿児島間全線開業
21NHK交響楽団カーネギー演奏会    24統一地方選13知事選告示(4月10投票)
29韓国仁川国際空港開港10周年    24東京国際アニメフェア
●香港行政長官選挙         27統一地方選5市長選告示(4月10投票)
●NASAの水星探査機が周回軌道に   31家電エコポイント制度が終了
                  31高速道路の無料化社会実験が終了
                  ●東北新幹線に新型はやぶさ運転開始
                  ●日本航空のジャンボ機引退
                  ●高島屋大阪店が増改築を終え全面開業

《4月》
10ペルー大統領選にフジモリ長女出馬 01公文書管理法施行
16IMF・世銀総会           01年金記録確認の「ねんきんネット」開始
21上海国際自動車見本市       01小学校5〜6年生で英語必修化
27イエメン議会選          01携帯電湾のSIMロック解除
29英ウィリアムズ王子結婚      01映画に特化した初の映画大学発足
●G8+G20金融サミット        13北朝鮮に対する経済制裁の期限
●中国が昨年秋の国勢調査結果発表  17統一地方選88市長選等告示(24投票)
●ミャンマー新政府発足       20宮崎県の口蹄疫発生から1年
                  ●全省庁の物品共同購入制が始まる
                  ●大丸梅田店が増改築を終え全面開業

《5月》
11カンヌ国際映画祭         04大阪駅北口に大阪三越伊勢丹が開業
20ベルリンフィルが佐渡裕を指揮者に 21裁判員制度が施行から2年
●主要8カ国(G8)首脳会議(ニース)

《6月》
20パリ航空ショー          16日本で見える皆既日食
                  23沖縄戦没者追悼式
                  ●政府がTPPと農業改革の方針決定
                  ●外国人福祉労働者の受入れ方針決定
                  ●地方議員年金制度を廃止
                  ●青森県知事選

《7月》
01韓国とEUの自由貿易協定が発効   23ソマリア沖海賊対策の海自派遣期限
06国際五輪委が18年冬季の開催地決定 24テレビが地デジに完全移行
●米軍のアフガン撤退開始期限    ●日本で国連軍縮会議(松本市)
●中国が社会保険法施行       ●高速増殖炉もんじゅが発電試験実施
                  ●TV視聴率調査の対象にパソコン加える

《8月》
01ディズニーのオアフ島リゾート開業 06広島平和記念式典
●米アップルがMacOSXを刷新     09長崎平和記念式典
                  15全国戦没者追悼式
                  ●群馬県、埼玉県知事選
                  ●東電の太陽光発電所(浮島)稼働
                  ●ホンダの小型ジェット機1号機納入

《9月》
02ロシアが対日戦勝記念式典     07尖閣漁船衝突事件から1年
09ラグビーW杯(ニュージーランド)   15東京ゲームショー
11同時多発テロから10年       25世界建築会議が東京で
24IMF・世銀総会
●国連総会
●エジプト大統領選

《10月》
01北京・上海間の高速鉄道が開通   06山形ドキュメンタリー映画祭
03東西ドイツ統一の記念行事     06世界体操選手権が東京で
07米英のアフガニスタン攻撃から10年
●ロシア下院選

《11月》
06ニカラグア大統領選        ●高知県知事選
12アジア太平洋首脳会議(ホノルル)
27コンゴ大統領選
28国連気候変動COP17(南アフリカ)
●20カ国(G20)首脳会議(フランス)
●TPPの基本合意取りまとめ目標

《12月》
●米軍のイラク全面撤退期限     02東京モーターショー
●米海軍が初の女性潜水艦乗員を配置 ●日本とインドのEPAが発効      
●WTOが2年ぶりに公式閣僚会議    ●東京スカイツリー竣工
●エジプト大統領選

ーー2012年ーー
《1月》
●ポーランドが共通通貨ユーロ導入

《2月》
16金正日が70歳誕生日

《3月》
05中国全人代
●台湾総統選(3月中?)
●ロシア大統領選(春?)

《4月》
15故金日成主席生誕100周年
●韓国総選挙

《5月》
12韓国で麗水国際博覧会(〜8月12)

《7月》
27ロンドン五輪開幕(〜8月12)

《9月》
●ウラジオストクでAPEC首脳会議

《10月》
●中国共産党第18回大会       15北朝鮮拉致被害者5人帰国から10年

《11月》
●米大統領選

《12月》
●韓国大統領選
●フランス大統領選(年内?)

2011年はどういう年か

takanoron.png 2011年は、特に国際的に見ると、2012年の前年である。国際的に見なくても11年は12年の前年に決まっているが、そういう意味ではなくて、12年は、米国、ロシア、中国、台湾、北朝鮮、韓国そしてフランスなどで一斉に指導者の交代(もしくは再選)が行われる年であって、その前年である11年は、それらの国々を中心として世界が「21世紀の最初の10年間」を振り返りつつ、次の10年間にどう足を踏み出していくか、準備を競い合っていく年となろう。

●オバマ再選はあるか?

 あれほどの拍手喝采に迎えられて颯爽と登場したオバマ米大統領が、わずか2年後には「無能者」呼ばわりまでされるほどボロクソに叩かれて、11月の中間選挙で惨敗せざるを得なかったのは、当のオバマにとってというよりも米国民にとって悲劇である。米国民は、今ほど考え得る範囲では恐らく最良の指導者を選んだのだったが、しかしそこには、彼に託しさえすれば身の回りの不満や将来への不安がたちまち解消するかのような安易で過剰な期待も多分に含まれていて、すぐにそうなるものでもない現実の厳しさに直面するや、今度は急転直下、激しく苛立って短気になり、自分らが選んだ指導者に向かって石をぶつけるように汚い言葉を投げつける、一種の自傷行為に走っている。

 米国民にとって思い通りにならない「現実の厳しさ」とは何か。本論説は09年1月のオバマ就任演説へのコメントで次のように述べていた(i-NS476)。

「空前のお祭り騒ぎに送られて、オバマ新政権が出帆した。が、新大統領が漕ぎ出したのは荒れ狂う危機の海であり、一身に寄せられた過剰なまでの期待に応えて船を正しく導くことが出来るかどうかは、全く保証の限りではない。何しろオバマは、米国政治史上で言えば"黒人初の大統領"に違いないが、より大きな世界史的・文明論的次元では"アメリカ帝国が崩壊し始めて初の大統領"なのだから」

 米国は、外交・軍事面ではイラクとアフガニスタンの2つの戦争の失敗、経済・金融面では米国式金融資本主義の破綻と、両輪ともパンクした状態のままガタガタと帝国崩壊の坂道を下り始めている。オバマ一人の力でその崩壊を押し止められるはずもなく、彼に出来ることはと言えば、せいぜい時間をかけて、軍事力と金融力を振り回して世界を支配しようとする20世紀の米国ではない、"帝国以後"の21世紀の米国の姿を描き上げて、そこへ向かって出来るだけ静かに軟着陸させていく筋道を立てることであって、それに彼は取り組んでいると思う。

 ところが国民は、イラクとアフガンの戦争とその後遺症の深刻さが争点どころか話題にもなっていないことが象徴するように、帝国崩壊への漠然たる不安は感じつつもそこを出来るだけ覗き込まないようにし、ただ目先の借金苦や収入減や失業への不満を政府に向かって爆発させるばかりである。政治的に無責任であるばかりか知的に退廃している野党=共和党は、先の中間選挙を通じて、オバマの医療改革によって増税と財政赤字が増大するという批判はまだしも、それによって衰弱した米国が中国によって支配されることになるという恐怖の近未来シナリオをテレビCMで流し続けた。帝国崩壊の真実に目を向けるのでなく、まるでオバマの医療改革のために米国が衰弱して中国の支配下に組み込まれるかのような、出鱈目というかデマゴギーを撒き散らして国民の不安を絡め取ることに成功した。こんなやり方で、仮に12年の大統領選でペイリン候補か誰かで勝利したとしても、ますます国民が自分を客観視することが出来なくなって、硬着陸的な崩壊に突き進むことになることが懸念されるが、そんなことはお構いなし、共和党もまた目先の勝利しか追い求めていないのである。

 ハーバード大学のJ・クロッペンバーグ教授(歴史学)は『ニューズウィーク』12月1日号で「耳をつんざくオバマ批判が起きている今、彼が就任前に書いた2冊の著書を読み直すべきだ」と提唱している。すると、医療改革でも金融規制でも対アフガニスタン政策でも、自分が描いたシナリオに従って実質的かつ緩やかな変革を着実に実現してきたことが一目瞭然だ、その姿をゆがめているのは政治批評というアメリカのミラーハウスだ、と。

 このようにして米国が自分を見失いつつあることが、全世界にとって深刻な脅威であり、さて11年を通じてオバマはこの状況を突破する方向に踏み出して2年後の再選を目指すことが出来るのかどうか。それを占う上で最初の基調報告となるのは1月末に彼が議会で述べる一般教書である。

 11年はアフガニスタン戦争10年目に当たり、7月にはアフガニスタン駐留米軍の撤退開始の公約期限がやってくるが、10年末に発表されたアフガン戦略再検討結果では、1年前にオバマが決断した3万人増派も具体的な成果を上げておらず、「漸進はなお脆弱」で「アルカイダの完全打倒にはなお時間がかかる」とボヤくばかりで、明確な出口戦略を示すことは出来なかった。10年1年間の米兵死者は過去最悪で、開戦以来の死者数は1500人を超えた。

●排外主義

 経済苦境への苛立ちが草の根保守運動となって誰かに向かって吐き出されるという状況は、米国に限らず欧州でも共通だが、米国ではそれがオバマという強者への中傷に向かいがちなのに対して、欧州ではそれが移民などの弱者への迫害という一層陰惨な形をとっている。スウェーデンで9月に行われた選挙では、極右の民主党が「外国人を排除せよ!」と叫んで初めて20議席を得た。彼らが制作した選挙用のCMは、スウェーデン人の老婦人が歩行器に頼ってようやくのことで社会保障費を受け取るための窓口に近づいて行くと、その脇をブルカをまとったイスラム女性がさっさと追い越して先に窓口に並んでしまうという、およそ露骨なもので、さすがにテレビ局から放映を拒否されたが、欧州でも最も成熟した市民社会を持つはずのこの国でこんなことが起こること自体、驚きである。

 フランスのサルコジ大統領は、移民迫害という点では極右のルペン国民戦線党首と共闘を組んでおり、イスラム女性がブルカやニカブなどの衣装を公共の場で着ることを禁止した。また放浪の少数民族ロマ(英語ではジプシーと呼ばれる)に対しては、ロマのキャンプを解体して、10月1カ月間だけで8600人を掴まえてルーマニア国境へ送還した。イタリアでは、ネオ・ファシスト系の右翼団体が全国各地に2000の市民巡視隊を結成、社会から移民を一掃する実力活動に出ている。ロシアでもネオ・ナチの暴力行為が深刻になっている。

 フランスのジャーナリスト=イニャシオ・ラモネは「経済のグローバル化、EUの拡大と主権国家の変容、国境の消滅、移民の大量流入などが、多くの欧州人から、心のよりどころや生きる指標を奪っている」「不安や失業などの土壌の上に、昔の魔術師=極右がゆおみがえり、外国人、イスラム教徒、ユダヤ人、黒人に押しつける忌まわしい『排外主義』が復活している」と指摘するが(11月30日付読売)、その通りで、日本ではそれが、一方では菅・仙谷への反感、他方では中国、北朝鮮への憎悪、その両者が例えば尖閣事件で連動し合って余計に増幅されるといった形をとっている。

 11年以降も米欧日のこうした社会的病状はさらに広まっていき、国家の枠組みが解体されていくほど国家にしがみつこうする人が増えて本質的な議論から遠ざかって行くという矛盾が深まって行くだろう。

●ウィキリークス化

 米外交公電25万通の漏出で世界を驚かせたウィキリークスもまた、国家が溶融する時代の産物で、この騒動の本質は、伝統的な国家による垂直的な情報統制の原理に対してインターネットに象徴される水平的な情報共有の原理が対抗しているところにある。20世紀までのすべての国家の組織はピラミッド型で、そこでは情報の分節化が管理の要諦となる。すべての情報にアクセス出来るのは中枢トップだけで、そこから下に向かって職務と権限が細分化していくにつれアクセス可能な情報も分節化されていく。ところが、余りに巨大化し官僚化した国家は、そのやり方では必要な情報が上に上がって来ないばかりか、上が伝えたいと思う情報が確実にその現場に届かないという動脈硬化症状が生じ、組織が機能しなくなる。そこで、分節化を緩めて組織全体での情報共有を促そうとすると、インターネットの万民平等というアナーキスティックな本質がたちまち開花して歯止めが利かなくなってしまう。

 一方では、機密が多すぎる。今回漏出した米外交公電がそうであるように、そこそこの本物の機密も、単に公表がはばかられるというだけの愚劣な与太話も、何でもかんでも機密扱いにされるので、"機密のインフレ"(米『タイム』誌)が起きる。他方では、その機密にアクセスできる人が多すぎる。今回の文書にアクセス権限を与えられた政府職員が国防総省だけで63万人もいたというのは、もうほとんどお笑いで、政府が自分で街頭でバラ撒いているのと変わりがない。尖閣事件で漁船衝突の映像に最初は海保職員の誰もが簡単にアクセス可能だったというのも同様で、犯人を捜し出して処分したところでモグラ叩きのようなことである。

 11年を通じてウィキリークス化現象はさらに広がり、各国政府にとって手に負えないものとなろう。

●中国指導部の世代交代

 5年に1度、次は12年秋に開かれるはずの中国共産党第18回大会で胡錦濤=党中央委員会総書記・党軍事委員会主席(国家主席)は、温家宝=党政治局常務委員(国務院総理)と共に引退し、習近平=党中央軍事委員会副主席・党政治局常務委員・党中央書記処第1書記(国家副主席)及び李克強=党中央委員会常務委員(国務院副総理)に道を譲る。習と李は翌13年春の全人代でそれぞれ国家主席、総理に就任するはずである。中国にとって11年は、その10年に一度の大きな世代交代をいかに破綻なく進めるかに全力を挙げるべき年となる。

 2002年に江沢民から総書記のポストを引き継いだ胡錦濤は、革命第4世代の代表格であると共に、近年台頭著しい共産主義青年団(共青)人脈を率いる改革派。引退したとはいえ軍を中心に広く影響力を持っていた江沢民派=上海人脈中心=保守派を巧みに抑え込みつつ、何とかこの8年間、経済・政治・外交とも破綻を避けつつ緩やかな改革を進めてきた。その立場からすれば、次の第5世代に権力を継承するに当たって、共青人脈筆頭の李克強に主席を委ねたいところだったろうが、江沢民派はこれまで培ってきた特権や利権を失うことを恐れて、彼らにとって相対的にコントロール可能なように思える「太子党」代表の習近平を強く推してきた。確かに大幹部の子弟として全般的には特権・利権には目がなく、その点では保守派と利害が共通する太子党の連中ではあるが、しかし習近平に限っていえば、珍しく血筋に胡座をかくことを嫌って自ら望んで下から幹部歴を積み上げてきた苦労人であり、清廉潔白に徹していることで知られる人物で、そのため胡錦濤も江派に妥協することが出来たのだろう。とはいえ、習を太子党代表だから御し易しと見るのはたぶん江派の誤解で、主席になった習はむしろ江派はもちろん胡派についても利権漁りには厳しく当たることになるのではないか。

 この胡派と江派の陰鬱な確執に、対日問題も微妙に絡む。胡派は基本的に親日的であるのに対して江派は反日的で、江派が胡派に揺さぶりをかける国内政争の手段としてしばしば「反日デモ」を煽って利用したりする。昨秋、習が党中央軍事委員会副主席に就任でき(て総書記への道を固め)るかどうかというタイミングで尖閣での漁船衝突事件が起きたことが、この問題の処理が余計に複雑骨折的になった中国側の理由の1つである。

 11年3月の全人代は、第12次5カ年計画を決定する。グローバル化への対応とりわけ人民元の漸進的な国際化、環境・資源の制約を織り込んだ成長戦略、所得と地域の格差拡大への対策、高齢化社会への準備などがどのように盛り込まれるかが注目される。この計画期間中に起きる画期的な出来事はいくつかあって、(1)2014年頃に1人当たりGDPが1万ドルに達する、(2)2013年頃に中国の個人金融資産が10兆ドルを超える、(3)2015年を境に労働力供給が減少に転じ、高齢化が始まる、(4)2015年頃に、中国の歴史上初めて都市人口が50%を超え農村人口を上回る。これらの重要な社会的構造変動が、習ら第5世代指導部の下でさらにその次の第6世代が一斉に要職に上がってくるという世代的要素とも相まって、中国の政治的民主化にどのようなインパクトを与えるのかも注目される。

 香港の曽蔭権行政長官も12年3月に2期目の任期を終える。3選は禁止なので新しい長官が選ばれる。

 台湾も12年に4年に一度の総統選を迎える。馬英九総統は10年に野党の反対を押し切って、台湾・中国双方で806品目の関税を撤廃する経済協力枠組み協定を締結、これが11年から発効して段階的な関税引き下げが始まる。10年の台湾経済は「過去20年来で最高」と言われるほど好調で、11年を通じて中台経済交流の拡大効果が加われば、馬総統の再選可能性は高くなる。民進党は焦っていて、国民党=統一vs民進党=独立という旧図式に嵌ることを避けるため、同党独自の中国との対話窓口を新設して中台関係に当事者能力があることを示そうとしている。

●金正日引退?

 北朝鮮では、12年4月に故金日成主席生誕100年という大きな節目がやってきて、併せてその2カ月前に金正日総書記が70歳の誕生日を迎える。この年に「強盛大国」を完成するというのは金が前々から公言してきた目標で、その意味は「政治・軍事では既に(核も持って)十分な強国となった北朝鮮が、経済の面では『国民に白いご飯と肉入りスープを食べさせたい』という金日成の控えめな願望すら到底達成していない現状を急速に克服して、経済強国にもなって、3代目=金正恩への継承を確実にしたい」ということである。それを達成するには11年の1年間では余りに短すぎることは明らかだが、金正日の健康を考えると無理にでもそうしないと間に合わない。結局、中国の支援により強く寄りかかって、事実上の属国化することも辞さずに、いくつかの象徴的な建造物や産業プロジェクトを完成させて「経済でも強国になった」と叫ぶのが精一杯ではないか。

 先の延坪島に対する砲撃は、直接には韓国軍の射撃訓練に対する対抗措置であるが、より大きな背景で見るなら、(1)軍事強国ぶりを国内にも喧伝して「強盛大国」完成と金正恩後継を盛り立てる、(2)米国に対して「もう6カ国協議の再開とかではなく、平和協定交渉を始めよう」と誘いかける、(3)中国に対して「経済支援は受けるが、だからと言って言いなりにはならないぞ」という意地を示しつつ、他方では「北は黄海を米韓が支配することを許さない覚悟を持っている。中国も気を入れて米韓合同演習に敵対しろ」と尻を叩く----といった複合的な外交的・政治的狙いを込めたものと考えられる。これ以上の軍事挑発の繰り返しは、中韓米の我慢の限度を超えるであろうことは金親子も認識しているだろうから、恐らく12年まではこのような激越な軍事行動はむしろ控えて、6カ国協議に関してはノラリクラリしつつ米国との交渉の糸口を探ることになるのではないか。

 北の隠れた"武器"は実は金・銀・ウラン・レアメタルなどほとんど手付かずの豊富な鉱物資源である。中国は前々からそれを喉から手が出るほど欲しがり、札束で頬を叩くような態度で利権を買おうとしてきたが、金正日は中国に一方的に蹂躙されることを嫌い、日本との国交正常化を急いで、日本からの賠償見合いの援助金と技術支援を得て鉱物資源開発を推進し中国と日本が拮抗する形を作ろうとした。それが、2002年の「日朝平壌宣言」で恥を忍んで拉致問題で謝罪までして国交交渉を始めようとした背景だった。が、拉致問題が膠着して日朝関係は険悪化し、そのため北朝鮮はその役割を米国に期待してその鉱物利権をちらつかせた。それが06年以降のブッシュ第2期政権が急に北に対して妥協的になった理由だが、ブッシュもオバマも結局、6カ国再開で核の危険を除去してからでなければ平和協定交渉もそれに引き続く米朝国交交渉も始めようがないという姿勢であるため、結局、巡り巡って北の鉱物資源はほとんど中国の手に落ちそうな趨勢である。いま平壌は中国人ビジネスマンで溢れかえっている。

 この核=6カ国と平和協定のどちらが先かという問題は、本当のところ、北の言い分が論理的である。言うまでもなく、北・中国と韓国・米国は現在も国際法上では戦争状態にあり、単に休戦協定によって「撃ち方止め」の状態を維持しているだけである(韓国は休戦協定の署名者ではない)。その戦争状態の中で、米国がかつては韓国内の基地に戦術核兵器を配備し、それを冷戦後ブッシュ父が撤去した後も第7艦隊の核艦船によって常時、北を核攻撃可能な態勢で脅迫し続けているからこそ、北は自衛のために核を持たなければならない。逆に、休戦協定を平和協定に置き換えて戦争状態が解消され北にとっての核の脅威が除去されれば、北が核に手を染める理由もまた消滅するのであるから、そのほうが話が早いしロジカルでもあるというのが北の立場である。が、恐らく米国はその理屈を認めず、核を手放さなければ対話に応じないという方針を変えないだろうから、11年を通じて米朝関係に大きな進展はないだろう。

 ロシアも12年春が大統領選で、11年12月にはその前哨戦として下院選がある。プーチン率いる「統一ロシア」は、現在も下院の3分の2超を抑えていて、下院選でも大統領選でも負ける要素は少なく、現体制が続くことになろう。ただ石油・天然ガスの輸出に過度に依存した経済は構造的に脆弱で、資源の食い尽くし以外の発展戦略に軌道を移し換えることは容易ではない。ロシアが長く望んできたWTO(世界貿易機構)への加盟は、10年秋に米国が賛成・支持に転じたことから俄に実現に近づき、11年早々には準備のための報告書が完成すると見られる。

●菅政権はいつまで?

 先週の『週刊現代』のご託宣では「菅総理は年明け退陣へ、次は前原か岡田」とのことで、まあ実際そんなことが起きてもおかしくないけれども、前回本論説でも述べたように、そうは言っても倒れそうでなかなか倒れないのがこの政権である。最初の試練は1月末の通常国会招集で、野党は小沢一郎元代表の招致もしくは喚問、仙谷由人官房長官の更迭などを呑まなければ国会を開かせないと凄むのだろうが、そんな程度のことが菅退陣の理由になるのかどうか。

 小沢の問題はほとんど馬鹿げていて、小沢が言うように「何らやましいことはない」のであれば「だから出ない」のではなく「だから出る」のが当たり前で、それを岡田幹事長とは会わないとか何とかさんざん引き延ばして菅政権に1カ月以上も余計なストレスをかけ続けているのは異様である。出ないなら出ないで、別の打開策を菅・岡田に授ければいいではないか。「我が儘な子供が押し入れに入りて出て来ぬが如き話なり」(19日付日経)である。

 仙谷の問題は別の意味で馬鹿げていて、まずはあの問責決議自体がお笑いである。問責の真っ先の理由とされている「尖閣諸島沖中国漁船衝突事件における極めて不適切な対応」について言えば、そもそも前原誠司国交相(当時)が「逮捕だ!」と無理押ししたのが間違いの始まりであって、尖閣事件で問責に値するのは前原である。もう1つの理由とされている「自衛隊は暴力装置」発言に関して言えば、それが左翼用語であるというのも間違いだし、それを自衛隊に対して用いたことが「侮辱」に当たるというのもトンチンカンの極みであって、およそソレルもウェーバーもレーニンも読んだことがなくて最低限の社会科学の基礎教養もない連中の戯言である。

 参院で問責した仙谷長官をクビにしないと国会を開かせないという野党の主張は度が過ぎていて、それが罷り通るなら参院が衆院の意思を上回って内閣の運命を左右することが出来ることになってしまい、憲法の趣旨とも背馳する。問責への対応は本来「陳謝」止まりではないのだろうか。

 そこを乗り切って通常国家招集に漕ぎ着けたとしても、そこから先が大変で、3〜4月の予算案可決を乗り切ったとしても予算関連法案が通るのかどうか、さらに同じ時期に折り重なる統一地方選の結果がどう出るか、それ次第で菅政権はいつでも頓死する。とはいえ、民主党としては衆議院の圧倒的多数を握っている限り政権を手放す必要はなく、13年まで代表=総理が代わることがあっても政権が代わることはないのではないか。

●普天間基地問題

 12月17日に沖縄を訪問した菅首相は、辺野古移転を「ベター」な案として「甘受」するよう求め、当然にも仲井真弘多知事の拒絶に遭った。去る11月の県知事選では、仲井真33万6000票、対抗馬の伊波洋一=前宜野湾市長29万7000票と接戦を演じたが、2人とも辺野古移設には反対で県外・国外を主張したのだから、これはどちらが勝つかに関わりなく、県民は全員一致で辺野古移設は「甘受」しないという意思を示したことになる。この期に及んで一括交付金で籠絡しようとするなど愚の骨頂で、県民から軽蔑されるだけである。鳩山政権の置き土産である日米政府合意はもはや実行不可能であり、菅政権としては米国に対して、「全県民が辺野古移転に反対しており、強行すれば、県民だけでなく本土からの支援者も含め数万ものデモ隊が座り込みで抵抗するのを実力で排除しなければならず、流血の事態は避けられそうにない。それでもやれと言うのか」と開き直るしかあるまい。

●TPPとFTA

 米国主導のTPP多国間交渉は、年明け早々から本格化し、11月には合意達成が予定されている。日本は国内農業団体の強い反対があって決断を先送りし、6月にTPPへの対処方針と農業改革の方策とを抱き合わせで打ち出すこととしているが、いずれにせよ参加の方向に踏み切っていくことになろう。これまでも、ASEANが積極推進してきたFTAネットワークの形成に農業を理由に渋々一番後ろから付いていくという態度をとってきて、それで農業の衰退が止まったのかと言えばそんなことはなく、さらにこれからTPPが押し寄せて来ても来なくても、今のままでは農業の衰退は続くだろうから、論理的に言ってTPPと農業の衰退は関係がない。TPP不参加で最先端の輸出産業が打撃を被れば虻蜂取らずになってしまう訳だから、農業に相当の出血があることを覚悟して参加し、いよいよ待ったなしのどん底から本気の農業再生を始めるしかあるまい。

●地デジ化

 7月にテレビの地上波が完全デジタル化し、その目的に用いられる東京スカイツリーも12月に完工する。が、本当のことを言うと地デジ化は戦略的には無意味であり、従ってスカイツリーも出来た途端に無用の長物となって、単なる新しい観光名所として立ち続けることになりかねない。地デジ化を超えた放送・通信の融合による本格的なデジタル化の波が11年を通じて起きてくるのではないか。

●司法見直し

 5月に裁判員制度が施行されて丸2年となり、法に盛られている「3年後見直し」まで後1年となるので、議論が盛んになるだろう。併せて、村木事件での検察当局による証拠捏造冤罪事件の結末と絡んで地検特捜部の存廃問題が問われ、また小沢強制起訴裁判との関連で検察審査会制度のあり方も問題になるので、11年は司法大改革が始動する年となるだろう。▲

2010年12月21日

森達也×二木啓孝:捏造されたオウム真理教事件の歴史を問い直す

【有料会員限定動画】
■森達也×二木啓孝:捏造されたオウム真理教事件の歴史を問い直す(3月31日まで配信)
http://www.nicovideo.jp/watch/1292934895
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あなたに知ってほしい。
立ち止まって振り返ってほしい。
ここまでの足跡を確認してほしい。
目を凝らせばきっと見えてくるはずだ。
そして思い出してほしい。考えてほしい。
あの事件はなぜ、どのように起きたのか。
彼と事件によって、この社会はどのように変わったのか。現在はどのように変わりつつあるのか。
彼とはいったい、何ものであったのか。
何を思い、何を願い、何をしようとしていたのか・・・。(本文より抜粋)


A3(森達也・著)
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 地下鉄サリン事件から15年、日本中を震撼させたオウム真理教による一連の事件とは何だったのか──

 ドキュメンタリー映画『A』『A2』でオウム真理教の内側に深く入り込み、信者と日本社会の本質に迫ってきた森達也さんが、11月にその続編となる『A3』(集英社インターナショナル)を刊行した。

 17日には、事件当時に記者として活躍した二木啓孝さんとトークイベントを開き、集まった約70人の聴衆を前にオウム真理教の本当の姿や麻原彰晃裁判の問題点、そしてメディア報道のあり方まで語った。

 二木さんはオウム真理教の一連の事件について、「麻原彰晃がすべてを指示していた」とするこれまでの一面的な報道を批判。森さんは「これほどあからさまな歴史の捏造がなされてしまって、その結果日本の社会が変わってしまった。それを変えたい」と、この本を執筆した思いを語った。

 なお、トークイベントの模様は「《THE JOURNAL》@ニコニコ支局」内で配信中。下記URLから視聴できる(有料会員限定)。

■森達也×二木啓孝:捏造されたオウム真理教事件の歴史を問い直す(3月31日まで配信)
http://www.nicovideo.jp/watch/1292934895

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2010年12月20日

青西靖夫:気候変動 最後までカンクンの合意文書に抵抗したボリビア──その主張を読み解く

 メキシコのカンクンで開催されていた国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP16)は、結論を先送りする「カンクン合意」をもって12月11日に閉幕しました。しかしこの合意に対してボリビアは最後まで反対する一方、ALBA参加国であるベネズエラ、キューバ、エクアドルもボリビアの支持にはつかず、最終的にボリビア政府が唯一反対する中で、合意文書が全会一致という原則を放棄して、採択されるものとなりました。日本においては、ごく一部のメディアが「ボリビアが最後まで合意案に反対した」と伝えるのみにとどまり、ボリビア政府の主張の内容は全く報道されていません。

 ボリビアは なぜ反対していたのか、何を要求していたのか、そういう声が全く伝えられないままに、「経済界の安堵の声」だけが伝えられているのが、日本の報道かと思います。ボリビアの主張にっては[1]を参照してください。

 国内のこの状況では、「ボリビアの主張もまっとうじゃないか」、「ボリビアの主張にも一理あるじゃないか」という世論は生まれることはできず、ひいては政策に反映させることもできません。このようなお互いの「声が届かない」ところで行われている国際会議に対して、真っ向から取り組んだのがボリビア政府だったと思います。ボリビア多民族国は、12月11日に声明文を発表して、次のように述べています。[2]

「ボリビアは、カンクンに未来のための希望をもたらすしっかりとした提案を携えてきました。この提案は2010年4月にコチャバンバで開催された歴史的な世界民衆会議に参加した3万5 千人の合意で生み出されたものです。この提案は気候変動に対する正当な解決策を探すものであり、またその根本的な原因に取り組んだものなのです。コペンハーゲン以来、この提案は締約国による交渉文書に取り入れられてきました。しかしカンクンの文書においてこれらの声は、体系的に排除されたのです。民衆を代表してきている私たちは、その信念を、私たちの信念を放棄することはできません。気候的な正義を獲得するまで、私たちは世界で影響を受けているコミュニティの人々とともに戦い続けます。」

「ボリビアはこの交渉に、誠実に、気候のための有効な合意を得るという希望をもって参加していました。民衆の生命に関わるのでなければ、多くの点で譲歩もするつもりでした。しかし、残念なことに世界中の豊かな国々が求めていたのは、民衆の生命に関わる点での譲歩だったのです。いくつもの国が私たちを孤立させようとしました。しかし私たちは、人類と母なる大地の未来を守るために、真摯で有効な取り組みを求める世界の人々と社会運動を代表してここに来ているのであり、私たちを導く支援を感じているのです。歴史がカンクンで起きたことを裁くこととなるでしょう。」

 私たち自身が、世界の各地で生きている人々の声を聞き、考え、判断をし、それが私たちの代表として派遣されているはずの政府代表団にも届き、議論が行われる。そういうプロセスをすべて欠いたままに、気候変動に関する議論が行われているのではないでしょうか。現在の先進国での生活を享受している私たちは、これだけのややこしい、大変な取り組みを引き受ける責任を負っているのです。

 今回のボリビア政府の抵抗は、私たちにも無関係ではない、大きな問いかけなのです。

 また、最終的にボリビア政府が唯一反対する中で、合意文書が全会一致という原則を放棄して、採択されるものとなりました。こうした形での締約国会議の議事進行が、今後どのような問題を引き起こすことになるかは注視していく必要があります。

【関連記事】
[1]ボリビア政府の言及するコチャバンバ会議の合意文書などはカテゴリー「気候変動から」
http://cade.cocolog-nifty.com/ao/cat22466627/index.html

[2]カンクン合意に関するボリビア政府の声明
■Bolivia Decries Adoption of Copenhagen Accord II Without Consensus
http://pwccc.wordpress.com/2010/12/11/bolivia-decries-adoption-of-copenhagen-accord-ii-without-consensus/

■Bolivia denuncia la adopción del Acuerdo de Copenhage II sin consenso
http://cmpcc.org/2010/12/11/bolivia-condena-la-adopcion-del-acuerdo-de-copenhage-ii/

(この記事は「日刊ベリタ」から許可を得て転載しました)

2010年12月17日

シリーズ小沢一郎論(9) ── 岡田幹事長を憐れむ小沢一郎の目線

日本一新の会 達増拓也
(岩手県知事)

 政倫審出席を求める岡田幹事長に対し、小沢一郎氏はそれが不当である旨文書で回答した。直接面談せず文書で回答する意図について、小沢氏周辺からいろいろ聞いた話によると、直接会うと情にほだされて言うべきことを言わないでしまうかもしれない、と小沢氏が考えたようである。小沢氏は「岡田もかわいそうだな、こんなことをさせられて」と言い、岡田氏を気の毒がっていたとのこと。

 一新会が民主党議員に配った文書の岡田批判の厳しさに比べると、小沢氏から岡田幹事長への回答文書は穏健なトーンに貫かれている。優しさを感じるくらいである。なお、一新会の文書はそれはそれでとても立派なので、念のため。

 小沢氏が見せるこの余裕に驚かされるが、文字通りの、「指導者」の目線である。小沢氏は「小沢一郎政治塾」で後進を指導し、若手議員に対しても師のように接するが、小沢氏が政治家たちや国民を見る目線は指導する者の目線である。相手に変革と成長を期待する目線である。

 小沢氏は他の政治家から攻撃されたり裏切られたりしても、ムキになって怒らないし、憎んだりしない。「無知のなせる業だな」と言って淡々としていたり、「本当にしょうがないな」と言って苦笑いしたりしている。未熟な政治家に対して感情的に反発している暇を惜しみ、そういう政治家はそういう政治家として、今、どういう役を負わせるのがよいか、どう動いてもらうのがよいかを考え、手を打っていく。好きだ嫌いだよりも、相手の意志と能力に注目して、働きかけていく(あるいは放っておく)。

 小沢氏は個人の自由意志を尊重する信念を持つ。だから、相手が自分の思い通りに動かないことを恨まない。相手の意志を前提にし、変えたいと思えば働きかけるし、変えられないと思えば、「去るものは追わず」である。偏執がない。そして、他人が自分をどう思っているかということで悩まない。

 この割り切りと淡々さがニヒルっぽく見えるかもしれない。しかし、政権交代に必要な多数を形成するために、多くの政治家たちを説得し、国民に訴えかけ、いろいろな団体にも働きかけてきた、その作業量の多さと一貫性は、圧倒的に群を抜いている。変革への強靭な意志がなせる業だ。そのホットさは誰にも負けない。

★   ★   ★

◎日本一新の会事務局からのお願い

「日本一新運動」の原点として連載している論説は、「メルマガ・日本一新」の転載であり、日本一新の会が、週一で発行しています。配信を希望される方は http://www.nipponissin.com/regist/mail.cgi から、仮登録してください。折り返し案内メールが届きます。

 相変わらず不着メールがあります。メールボックスの管理や、アドレスのタイプミスもあるようですから、各自で対応をお願いいたします。

2010年12月16日

TPPを切っ掛けとした、食と農林漁業再生推進本部の設立

篠原孝氏(農水副大臣、民主党衆院議員)

■突然でてきたTPP

 10月1日の臨時国会冒頭の菅総理の所信表明において、TPP(環太平洋包括連携協定等)への交渉、参加を検討し、アジア太平洋自由貿易圏(FTAPP)を目指すということが突然表明された。

 これを切っ掛けに、党内は騒然となり政府の調査会で白熱した議論が行われた。政府内では関係副大臣会合に任され、私はその副大臣会合に10回参加し、事後調整に追われることになった。

 その結果、11月9日にやっと包括的経済連携の基本方針が決まり、交渉には参加せず当面情報収集を中心とした協議を行い、TPPに参加するかどうかは別途判断することとなった。それと同時にその間に自由化にも耐えうる日本の農林漁業の体制を構築する為に、異例のことだが官邸に「食と農林漁業再生推進本部」を設け、6月中旬までに基本方針を定め、10月に行動計画をうたって、それに伴う予算措置を講じることになった。

■小国間のTPP

 私は、10月1日以降完全にTPPに掛かりきりになった。

 TPPは大畠経済産業大臣が、9月17日組閣し、その後の大臣レクで始めて知ったと正直に述べたが、それほど唐突なことだった、もちろん一般の国会議員は知る由もない。もちろん、関係者の間では、TPPの存在はつとに知られていたが、国際的にもほとんど関心を呼ばなかった。なぜかというと、2006年にシンガポール、ブルネイ、NZ、チリといった小国が、非常に自由度の高い経済協定を結んだだけのことだからだ。いずれの国も人口は数百万、自国で必要な物を作ったりすることは完全には出来ず、必要なものは諸外国から輸入しなければならない。そういった延長線上で、自由貿易が生きていく上に一番都合のいいことであり、4カ国が結託して自由貿易協定を結んでいた。

■アメリカのTPP参加表明

 それが一変して大きく取り上げられるようになるのは、2009年の11月14日、オバマ大統領がサントリーホールでTPPの参加も検討していくと宣言してからである。これには政治的背景もあり、小沢一郎氏(当時民主党幹事長)が中国に国会議議員140数人をつれて行ったりしているところに、鳩山総理が東アジア共同体構想をぶち上げ、日本は中国にいかにも接近しているというムードが漂い始めたのに対し、オバマ大統領がけん制したものと思われる。その後、2010年になってから、アメリカだけではなく、オーストラリア、ベトナム、ペルー、フィリピン、そして最後はマレーシアの5カ国が新たに名乗りをあげ、3月から2ヶ月に1回ずつ会合を開いていた。

■FTAを推進した韓国

 一方、韓国は2007年にアメリカとのFTA自由貿易協定を結び、2010年10月にはEUとのFTAも署名し終わっていた。その結果、2011年7月からはEUへの輸出は関税がゼロになる。それに対して、日本の自動車には10%、液晶ディスプレーの入った家電、テレビなどは14%の関税がかけられる。これにビックリ仰天したのが日本の財界である。そうでなくとも韓国の追い上げは厳しく、現代自動車、サムスン、LGといった家電会社の追い上げが激しく、困っているところに関税で差をつけられてはたまらんということで、何をしているのかと外務省、経産省をつっついたのは明らかである。そういった声におされて、突然所信表明にTPPが出てくることになっていた。

 私は、前のブログにあるとおり、鹿野農水大臣から突然韓国出張を命じられて行ってきたが、韓国は全ての関税をゼロにするということをせずに、二国間で応用がきく、例外を認めさせる自由貿易協定を着々と進めていた。

■日本の思いつきのEPA/FTA

 TPPと他のEPA/FTAとの違いは、完全自由化を宣言し、10年以内に全ての関税をとっぱらうのがTPP。EPA/FTAは二国間で例外措置を設けつつ、なるべく自由貿易を推進していくというものである。

 日本も、あまり大国ではなく、結びやすい国、最初はメキシコ、そのあとスイス、シンガポール、チリといった国と結び、つい最近でいうとインド、ペルーなど、13カ国と結んでいる。ところが、全貿易額に占める割合はたった16%である。一方、韓国の場合は最大の貿易相手国中国やライバル日本が入ってないが、45カ国とFTAを結び、貿易額の36%に達し、かつ、米・EUといった大国が入っている。計画的に着々と手を打ってきた韓国と格好だけつけてきた日本の違いである。

■「先対策後開放」という周到な準備

 それに加えて韓国は、チリとのFTAを結んだのを切っ掛けに、国内農業のてこ入れを始め、10年間で9.1兆円の農業予算をFTAが発行する前に注ぎ込んでいる。だからこそ私が韓国に出張した時も、農業団体はそれほど騒いでいなかった。これを「先対策後開放」と呼んでいた。

 前原外務大臣に言わせると、日本はGDPが韓国の5倍なのだから、5倍の予算を出してもいいのだそうだ。それにあわせると、約48兆円を10年間に投入することになり、年間4.8兆円の予算となる。現在の農林水産省予算が2.5兆円であり、約倍の予算を10年間注ぎ込むことになる。農業生産額で言うと約3倍ぐらいなので、27兆~30兆になるが、それでさえ今の予算ではとても追いつかないことになる。

 こういった事から、韓国並みの政策を打とうということで、官邸に食と農林漁業再生推進本部が設立された。私はその下の幹事会の共同座長を務め、10月の行動計画成案に向けて大忙しの仕事をしなければいけなくなっている。

■スピード審議が必要な実現会議

 少人数で濃密に議論が出来るように、有識者の人数を絞って実現会議を設置した。もちろん茂木JA全中会長とどうしても必要な人たちは入っているが、他はユニークな人達がいる。例えば歌手の加藤登紀子さんは、有機農業の信奉者で、ご夫君(故藤本敏夫氏)と作り上げた千葉の鴨川自然王国の理事をしておられる。第一回の会合は11月30日に開催したが、今後3ヶ月に2回、あるいは月に1回のペースで進めていくことになる。

 TPPの事前の情報収集であるが、今のところ当然のことながら、参加を表明しなかった日本には冷たく、傍聴だけさせてくれといった虫が良すぎるお願いは聞き入れられてはいないようである。私は、折角の機会なので、官邸に設けられたこの本部を中心に、駆け足ではあるが、6ヶ月で農林水産行政の今まで足らなかった分を補うべく、大きな改革案をまとめたいと思っている。

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※この記事は12月15日付「しのはら孝blog」より転載しました。

2010年12月15日

高野孟流外交論─TPPを機に自由貿易と農業を考えよう

菅首相の「TPP」発言以降、自由貿易と農業をめぐって様々な意見が出ています。

今回は高野孟がTPPについて、アジアに寄りかかる米国の存在、いままでの日本農政の無策ぶりなど、自由貿易と農業をテーマに語ります。

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2010年12月14日

金平茂紀:海老蔵の酒場喧嘩がそんなに重大事かよ?

『報道再生 グーグルとメディア崩壊』 (角川oneテーマ21)
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ぼうかいへんし
茫界偏視 Vol.002  

 今、コネチカット州に取材に来ている。New Havenという町は、エール大学を中心に栄える静かな町だ。日本から物理的距離を置けばおくほど、さらに過剰な内向き競争から離れれば離れるほど、日本のメディア界で起きていることの「特殊性」が浮き上がって見えてきて、精神的にはクスリになる。話は変わるが、先日、本当に久しぶりに、数年ぶりくらいにソウル・フラワー・ユニオンのコンサートをみた。ゲスト出演する大熊ワタルさんから「見に来ませんか」とのお誘いを受けたので、仕事の生放送が終わってから1時間遅れで会場に入った。その会場は熱気に包まれていた。何とそこに伊丹英子がいた。彼女はイギリスにいたような気がしていたのだけれど。今は沖縄の宜野湾に住んでいるとかで、ステージの上でこんなことを言っていた。「沖縄の海は軍艦だらけよ」。米韓合同演習や、日米合同演習などの演習という名の緊迫したオペレーションが進行中で、沖縄の海にも変化が起きているのだ。それを受けて、ステージ上で変わらぬ元気印の中川敬が「沖縄は軍艦だらけ、日本は海老蔵だらけ。なんか操作されているよ」。中川敬が言う意味はわかるが、メディアは今や操作の主体なんかにはなっていない。むしろメディアも情報の受け手も<共犯的に>それを盲目的に求めているのだ。思い起こしてみよう。朝青龍、草なぎ君、のりピー、そして海老蔵。バッシングの構図が見事なほどに共通していないか。国技の頂点に立つ横綱が品格を欠いていないか。国民的アイドルの行為としていかがなものか。かつての清純派タレントの薬物汚染はいかがなものか。歌舞伎界のプリンスが何と言うことをしてくれたんだ。僕はそれぞれの出来事がニュースではないと言っているのではない。ただ必要以上にそれがメディアによって追及されすぎていないか、オーバーキルではないか、と思っているところがある。実際、海老蔵の酒場での喧嘩がそんなにニュースとしての公益性があるのか、と。消費財としての価値は大いにあるのだろう。それらは国民が抱えているフラストレーションのはけ口になっている所もある。あいつらは思いあがっている。ざまあみろ、と。でも、そんなことばかり繰り返していていいのだろうか。こういうことを言うことがメディアの世界では今や少数派の極致、いや暴論とさえ言われかねない。でも、限られた放送時間、限られた紙面のなかで、海老蔵取材に費やされる膨大なエネルギーによって、追いやられる貴重な取材の機会があるのだ。そのことに十分に自覚的であろう。

 おしまいに本の宣伝。河内孝さんとの共著で角川ONEテーマ新書で『報道再生』が12月10日に発売されました。メディアの崩壊情況の中で、あえて再生というタイトルを掲げました。ぜひともご一読を。

2010年12月13日

前田元検事がフロッピーディスクの最終更新日を捏造した本当の狙い

8日におこなわれた郷原信郎(名城大学教授・弁護士)氏による定例記者レクでは、大阪地検特捜部元検事の前田恒彦氏が、なぜフロッピーデータの最終更新日を「6月1日」から「6月8日」に改ざんしたのかについて言及がありました。これまで謎とされていた前田元検事の動機について、上村勉氏の弁護人と話をしたことで明らかになったこととは何か。郷原氏のコメントをテキスト化しました。

【構成・文責】《THE JOURNAL》編集部

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郷原信郎
(名城大学コンプライアンス研究センター長)

先日、大阪地検特捜部の事件の弁護を担当された弁護士さんたちのヒアリングを行いました。そのなかで特に私の印象に残ったのが、郵便不正事件で上村勉氏の事件を担当した弁護士さんの話でした。

私は、今回の前田元検事によるフロッピーディスクのデータ改ざんの動機について、基本的に「弁護活動の撹乱」が目的だろうと感じていました。(改ざんした証拠を)法廷に出して証拠として使えば、万が一にでも鑑定が行われれば改ざんがバレてしまう可能性があります。それよりも、フロッピーの最終更新日が「6月8日」というデータを上村氏側に提供することにより、上村氏の供述と一致しない客観的証拠があるということで弁護側を撹乱させ、弁護活動に支障が生じることを狙ったのではないか。報道されていることを材料に、早い段階から私はそのように考えていました。

上村氏の弁護人の話を実際に聞き、そのとおりだったと改めて確信しました。あのフロッピーディスクは弁護人側に相当大きな影響を与えたようです。なにより、上村氏との間の信頼関係を徹底的に損なうおそれがあった。しかし、弁護士の方は上村氏との接見での態度などを思い出して「絶対にあの時の上村氏の態度にウソはない」と思い、信頼関係は完全には壊れなかったということですが、本当に壊れてしまいかねない状況に陥れられたと話していました。

実は、(押収品の還付は)改ざんされたフロッピーディスクだけが還付されたわけではなく、上村氏の自宅から押収されたものがすべて仮還付ではなく本還付されたとのことです。

そのなかに最終更新日が「6月8日」になっているデータが入っているフロッピーがあるということがわかったのですが、弁護人はそれを見て「フロッピーデータが2枚ある」と思ったと話していました。6月1日が最終更新日のデータはすでに上村氏の取り調べで示されているわけですから、それが存在することは間違いない。であるならば、それとは別に6月8日のデータがあり、上村氏が何かを隠していて、本当のことを言ってないと疑っても無理はありません。そういう非常に大きな影響を弁護側に与えたという話を弁護人の方から聞いて、やはり、そこのあたりが狙いだったのかなと思いました。その意味では非常に巧妙なやり方で、公判を有利に進め、村木さんをなんとか有罪にするための手口だったのではと思います。

ということは、前田元検事の証拠改ざん事件の本質は何かというと、これは私はずっと前から言い続けていますが、本質は証拠の改ざんや犯人隠避にあるのではなく、特別公務員職権濫用そのものだということに、あらためて確信を持ちました。

近く明らかになるという最高検の検証結果でこのことがどう扱われるのか。注目すべき点だと思います。

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2010年12月12日

シリーズ小沢一郎論(8) ── 形式主義のワナの背後に安易な権力維持の誘惑

日本一新の会 達増拓也(岩手県知事)

 民主党の岡田幹事長が、小沢一郎氏の国会招致を国会決議も視野に調整を進めるということで、菅首相もOKし仙谷官房長官も賛成している。

 「検察の暴走」の尻馬に乗って、国会も暴走、という展開である。秘書や元秘書の根拠薄弱な逮捕・起訴や、小沢氏本人の根拠の無い強制起訴が不当であるように、根拠の無い国会招致も不当である。

 もともと政権交代阻止(=小沢つぶし)、という流れの中での「検察の暴走」だったが、政権交代を果たした民主党政権の中枢がいまやその流れに乗っていくという異常事態である。

 野党の意向に沿えば通常国会が楽になるだろうという期待と、反小沢のマスコミ世論に乗っておけばいいだろうという、その場しのぎ的な損得計算でやっているのなら愚かなことである。また、悪意があって、つまり、小沢つぶしという権力闘争を目的としてやっているのなら、邪悪なことである。

 民主党政権中枢とすれば、「世論を尊重しながら国会を乗り切る」という建前があるのだろう。その建前の下では、小沢国会招致は必要である、という事になるわけだ。しかし、それはあまりに形式主義的な論理展開であり、形式主義のワナである。民主主義体制が尊重すべきは「民意」であり、「世論」ではない。民意は、基本的に選挙で示される。

 集中的な国民的議論と運動の末に、選挙結果が直前の世論調査の結果をひっくり返すことは多い。民意は世論とイコールではない。また、国会を乗り切るというのも、国民のための意志決定をするという中身がなければならない。

 今の日本の本当の民意は何かを真剣に考えれば、まずは格差社会化や地方切捨てを防ぐことであり、そのためにセーフティネットを充実させながら、経済・雇用を回復させることだろう。同時に、筋の通った外交・防衛政策を展開することである。そういう中身の問題で真剣になり、よい政策を実行できるのであれば野党に譲るところは譲る、という姿勢でないと、実のある国会運営はできない。そして、政策の中身で世論の支持を得られるように、国民に働きかけなければならない。政治にとって世論は従属すべきものではなく、動かす対象である。

 今の民主党政権中枢が、なぜ簡単に形式主義のワナにはまるのか。それは、権力闘争というもう一つの甘いワナにもはまっているからではないか。「検察の暴走」も、証拠がそろいさえすれば(でっちあげであっても)手続き的には起訴できる、巨悪を眠らせないためには積極的に起訴すべきだ、という形式主義のワナにはまったパターンだったが、同時に、小沢氏を排除できれば旧体制を維持して既得権益を守ることができる、という権力的な甘いワナにもはまっていたのであった。

 権力闘争といっても、体制を変革しようとする側は、形式主義では世の中を変えることはできず、中身で勝負しなければならないから、ワナにはまりにくい。形式主義は現状維持になじむ。体制側が、不当に権力を維持したい、楽して権力を維持したいという誘惑に駆られる時、形式主義のワナにはまりやすいのではないか。

 権力者でいるということは、その分大きな責任を引き受けるということであり、より多くの苦労を背負うということである。権力者はそれができ、それに誇りを持つ者でなければならない。権力者は、楽をして権力を維持しようと思ってはいけない。楽をしたいなら野に下ればいいのである。政治や社会の悲劇は、権力者が権力者でいながら楽をしようとすることから始まるのではないか、ということを改めて考えさせられる。回答を求めたい。

★   ★   ★

◎日本一新の会事務局からのお願い

本論説は、「メルマガ・日本一新」の転載であり、日本一新の会が、週一で発行しています。配信を希望される方は http://www.nipponissin.com/regist/mail.cgi から、仮登録してください。折り返し案内メールが届きます。

 相変わらず不着メールがあります。メールボックスの管理や、アドレスのタイプミスもあるようですから、各自で対応をお願いいたします。

2010年12月 8日

《有料会員限定》田中良紹:政治の読み方

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→ http://www.nicovideo.jp/watch/1291804823 ←

 ジャーナリストの田中良紹さんが、長年の記者生活と歴史に関する豊富な知識から分析した「永田町のカラクリ」と「これからの世界と日本」について参加者と語り合う『居酒屋田中塾』。

 今月からは、塾の模様を収録・編集したダイジェスト版を、有料会員限定コンテンツとして「《THE JOURNAL》@ニコニコ支局」で音声配信することになりました。

 今回のテーマは「政治の読み方」です。

 日々激動する政治を眺めるとき、どのような座標軸を持って政治を"読む"べきか。田中良紹さんが政治そのものの本質論から政局の大胆分析まで、縦横無尽に語ります。

 現在、下記URLで公開中です。有料会員に登録されていない方は、この機会にぜひご登録下さい!

↓   ↓   ↓

■田中良紹:政治の読み方(2月28日まで配信)
→ http://www.nicovideo.jp/watch/1291804823 ←

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※なお、田中良紹さんと参加者が政治について語り合う『居酒屋田中塾』は、次回は12月22日に開催されます。詳細は下記URLをご覧ください。
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2010年12月 7日

高野孟:プライドなきメディアの「総理の奇行」報道

「ふざけるな!」

昨日発売の『週刊ポスト』を購入した高野孟が記事の中身をみて、思わずそう叫びかけたようです。

今回の高野語りは、片言隻句を掴まえて次から次へと「スキャンダル」に仕立て上げるメディアに対する批判と、そのメディアにまどわされずに批判精神を持とうではないかという《THE JOURNAL》読者へのメッセージです。

どうぞお楽しみ下さい!

*   *   *   *   *

高野孟(《THE JOURNAL》主宰)

菅政権発足から半年が経ちました。今日(12月6日)の夕方には菅首相自身の会見が開かれるということです。菅首相はあまり黙っているのはまずいだろう、しゃべるぞという覚悟で、逆に失言しなければいいなと思います。

どうして菅首相が黙りになってしまったのかというと、菅首相だけでなく閣僚、副大臣、政務官クラスも同様に、あまりにもこっぴどくメディアに叩かれ続けてだんだん口をきく気も起こらなくなってきたというのが本当のところではないでしょうか。

もちろん権力批判は結構です。天野祐吉さんが朝日新聞で、メディアの見出しを見ていると明日日本は終わりだという思いにさえ駆られる、権力批判は結構だけどただのヒステリーじゃないかと書いていました。それに近いものがあると思います。

一例を出しますと今日(12月6日)発売の『週刊ポスト』で「総理の奇行」という見出しがありました。とうとう菅首相も奇行を演じるようなことになったかと思って思わず380円も出して買いましたけど...

ふざけるな!と声を出しそうになりました。「奇行」と呼ぶ具体的な行動は信子夫人が目を覚ましたら菅首相が書斎でネット囲碁ゲームをやっていたということだけです。それだけで表紙に「総理の奇行」って書くか!?と。常軌を逸していますよ。菅首相が嫌いでもいいですし、批判はどんどんすべきですけど、どこの点から日本国の首相を批判するか、メディアとしてのプライド・矜持があってもいいのではないかと思います。

いつからこうなっちゃったのでしょうか...(続きは映像で)

【関連記事】
菅首相 ネットで対戦する囲碁ゲームに朝まで没頭することも(Newsポスト)
高野論説:倒れそうで倒れない?菅政権 ── 倉重篤郎の少数意見に賛成する(2010.12.6)
【菅首相会見詳報】「取り組みを率直に、国民に直接訴えたい」(産経新聞)

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鈴木宗男氏 収監直前インタビュー!「間違った権力とは断固闘う」


↑ 鈴木宗男氏の収監直前インタビュー動画。収監後に行われた浅野貴博新党大地代表代行のインタビューや支援者による検察庁の表札に塩水をかける抗議行動も収録


 新党大地の鈴木宗男代表(62)は6日午後、収監手続きに入るため東京高検に出頭した。

 新党大地のイメージカラーである緑色のネクタイを締めて東京高検前で報道陣のインタビューに応じた鈴木氏は、あらためて「間違った権力とは断固闘う」と宣言した。また、事件当時のリーク報道について問われた際は「マスコミは権力、検察に使われている」と痛烈に批判。記者クラブ問題については「(記者クラブ問題は)だんだん言い方向に向かっていっていると思う。これも私の事件を機に、(現在では)検察も記者会見をするようになったり、フリーの記者が参加できるようになったのは、私が一石を投じることができたと思う」と語った。

 鈴木氏の出頭後、鈴木氏の収監を見届けるために北海道からやってきた支援者が検察庁の表札に塩水をかける抗議行動を実行。報道陣や数十人の集まった支援者に向かって「汚れきった検察庁にお清めの水をまいた。これからも検察の不正を追及しよう」と呼びかけた。

 鈴木氏の服役期間は最長でも1年5ヶ月程度で、慣習では1年程度で釈放される見通し。刑期終了後は公職選挙法の規定により5年間は選挙に立候補できないが、鈴木氏は議員でなくとも政治活動を続ける意思を明らかにしている。

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小林恭子:ウィキリークス 米ニューヨーク・タイムズとのしこりで新たな「一片」

 米ニューヨーク・タイムズ(NYT)は11月末から公開されている米外交公電の元データを、告発サイト「ウィキリークス」から直接受け取っていないのではないかー?「公表前には受け取っていなかった」「直接は受け取っていなかった」−そんなコメント(前回のウィキリークスに関する記事を参照のこと)が、どうも気になった。だとしたら、リークを行ったとされる米兵に、どことなく厳しいようであることの説明がつくからだった。

 ロンドンの2日朝の時点までに、すでに日本語でも同様の点(NYTが直接受け取っていない)を指摘した報道がいくつか出ていた。

■ウィキリークス情報で"暗闘"する米メディア(産経新聞)
http://sankei.jp.msn.com/world/america/101202/amr1012021833012-n1.htm

「ニューヨーク・タイムズ紙側は、以前からウィキリークスの機密文書公開に際し協力関係にあった英紙ガーディアンから、公電を入手し掲載に踏み切った。」

 また米ワシントン・ポスト紙にも、11月29日で同様の主旨の記事が出ていた。

■WikiLeaks spurned New York Times, but Guardian leaked State Department cables(washingtonpost)
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/11/29/AR2010112905421.html

 なぜ、ウィキリークスは、NYTに直接データを渡さなかったのだろう?

 産経が聞いたところによれば、
「ワシントン・ポスト紙によると、ウィキリークスが今回、ニューヨーク・タイムズに情報を事前に提供しなかったのは、同紙が10月、ウィキリークスの創始者で編集長のジュリアン・アサンジ氏に批判的な記事を掲載したためとみられ、ウィキリークス側の"報復"との観測もある。」(小林注:この中で、「事前に提供しなかった」とあるが、その意味は「ウィキリークスが」であって、ガーディアンが公表時のはるか前にNYTに情報をあげていたことになる。)

 ワシントン・ポストの記事のほうには、NYTのビル・ケラー編集長の話が出ている。編集長は、なぜ今回(イラクやアフガニスタンに関わるリークのときは協力した)ウィキリークスが、NYTに情報を直接渡さなかったかを聞くと、「はっきりしない」と答えている。

 しかし、ケラー編集長が推測では、産経が書いたように、NYTが10月に出した、ウィキリークスの創始者ジュリアン・アサンジ氏のプロフィール記事がアサンジ氏にとって厳しい内容であったためでないか、と述べている。

 NYTはまた、8月、マニング兵(リークの本人とされる)に関しても、厳しい記事を出したという。マニング氏を「自称ドラッグ・クイーン」と関係を持っていたことや、10代の頃、同級生がマニング氏のことを「おタクで...同性愛者」として馬鹿にした、と書いたという。

 やっぱりなあ、と私は思った。ここでまた、ジグソー・パズルの新しい一片が見つかったような気がした。

 別に、ドラッグ・クイーンと関係を持ったこと、おタクで、かつ同性愛者であるとして馬鹿にされたことが嘘・フィクションだと言っているのではない。また、こうした言葉遣いそのものが「ひどすぎる」と思っているわけではない。また、アサンジ氏のプロフィール記事は良いことばかりを書けばいい、と思っているわけでもない。

 しかし、言葉や表現の選択で、書き手の思いはにじみ出てくるものだ。

 今回に限り、直接記事を渡さなかった理由が、NYT編集長やワシントン・ポストが言うように、「厳しい記事が出たから」なのかどうかは、分からない。

 ただ、「新たなジグソー・パズルの一片」が見つかったと思った、というのは、ウィキリークスとNYTとの間にしこりが「あるらしい」ことが推測できたためだ。前回、前々回と私が書いてきた、NYTのウィキリークスへの厳しい目・表現説が確認できた感じがしたのである。

 私が現在見たところでは、NYTには、ウィキリークスや関係者(アサンジ氏、マニング氏)に対する見方・表現の仕方に、「より体制寄り」の姿勢があって・あるいは出てきており(つまり、ウィキリークスや関係者を当局の視点から見る、つまり、違法な行為をした人たち、という意識で見る)感じがする。

 ワシントン・ポストと産経の記事によれば、ウォールストリート・ジャーナル、CNNに対し、ウィキリークスは一部の情報を事前提供する代わりに、報道解禁の期日を守ることを条件とした。もしこの条件が守られないと10万ドルの罰金を払うことを要求したとう。ウォール・ストリートジャーナルもCNNも、申し出を却下した。

 ワシントン・ポストはガーディアンにコンタクトを取り、事前に情報を共有させて欲しいといったが、拒否されたという。2つの記事を見る限りでは、紹介されたどの米メディアもウィキリークスの振る舞いに怒りあるいは割り切れないものを感じているようだ。

 2日昼、事の次第を確かめるため、ガーディアンの調査報道記者デービッド・リー記者に聞いてみた。が「匿名の人物から外交公電情報を得た」とサイト上でことの経緯を説明したとき、「極秘人物」とはガーディアンなのかどうか、その他、ワシントン・ポストの11月29日付記事の真偽は?

 リー記者によれば、「残念だが、ワシントン・ポストのこの記事に関しては、全くコメントできない」。

 「全くコメントできない」といわれたら、その記事の内容がほぼ当たっている可能性が高いと私は解釈した。不正確なものであったら否定しているはずである。(あるいはまた、多くの人にワシントン・ポストが書いた記事の内容を信じ込ませたい、あるいはほかに真実があるが、それを明るみに出したくないと思っている、という解釈もあるだろう。)

 ワシントンポストなどの報道で事情がばれていても、NYTは「ガーディアンからもらった」とはサイト上に書かず、ガーディアンは「5つの媒体が事前に(ウィキリークスから)情報を得た」と説明してきた。これまでとは違って、ウィキリークスから直接 NYTは情報を提供されなかったことを、ガーディアンの側からは公表したくないのだろう。

 リー記者を含めガーディアンは調査報道に非常に慣れているので、真実を明るみに出すにはさまざまな手を使う。他の事件(大衆紙の電話盗聴事件が最近の例)でもNYTとガーディアンは協力体制にあるし、ある意味ではNYTに恩を売って、さらに何かを暴こうとしているのかもしれない。調査報道はガーディアンの最大のブランド・バリューの1つなのである。

 ウィキリークスによる米国関連の秘密書類暴露で、米国メディアが過度に右傾的・愛国的報道に陥らないかどうかー?しばらくウォッチングを続けたいと思っている。

* * * * *

「英国メディア・ウォッチ」ブログの最近のコメントの中にnofrillsさんからの以下の情報があります。ご関心のある方はご覧ください。(米Yahoo NewsのThe Cutlineというコーナーが、ガーディアンのデイヴィッド・リー記者に取材)

http://bit.ly/gbMK9y

* * * * *

「ウィキリークス(WL)とニューヨークタイムズの関係が、何らかの意味でこじれている」に関する記事について

■New York Times Strikes Back at WikiLeaks Founder(the daily beast)
http://www.thedailybeast.com/beltway-beast/julian-assange-vs-the-new-york-times/

■More on the media's Pentagon-subservient WikiLeaks coverage(Glenn Greenwald)
http://www.salon.com/news/opinion/glenn_greenwald/2010/10/27/burns/index.html

...などなど、うんざりするほどたくさんのゴシップのような記事があると思います。

 あと、ガーディアンは編集長が直接読者の質問を受け付けています。質問の数が多く、一度に回答できる量ではないので、少しずつ回答して今3日目かな。URLが長いので短縮しましたが、下記です。

http://url.ie/8c4x

 NYTは、自力で入手することができなかったファイルをガーディアンから受け取って、その内容を事前に米国政府側に伝えていました。そのことだけでも、報道機関が保つべきスタンスを逸脱しているとして非難され、例えば消費者からはボイコットされても当然だと思います。

【関連記事】
■小林恭子:ウィキリークス ニューヨーク・タイムズへの疑いの眼──ジグソー・パズルの一片(NewsSpiral 2010.12.2)
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2010/12/post_706.html

(この記事は「日刊ベリタ」から許可を得て転載しました)

2010年12月 6日

金平茂紀:WikiLeaksをめぐる動きは現代版のペンタゴン文書事件だ。

ぼうかいへんし
茫界偏視 Vol.001

 みなさん、こんにちは。NYから「チェンジング・アメリカ」を発信していた金平です。今は東京を拠点に仕事をしています。9月に日本に戻ってからすぐさまアフガニスタンに出かけ、その後は日本にほぼ居続けているのですが、戻ってみたら、いやはや日本は何から何まですっかり壊れていました。報道を仕事とする者にとっては、このような時期こそ真価が問われるのですが、日本のマスメディア自身もさきほど言った「壊れている」ものの対象なので、今、求められているのは、解体と創造を同時にやれるしなやかでしたたかな想像力と体力なのでしょう。それで、このサイトでブログを再開します。タイトルは「茫界偏視」。これは大好きな小説家・藤枝静男の晩年の随筆集の題名です。今度の引っ越し作業で家の蔵書の整理をしていたら、この本の背表紙に遭遇して懐かしさがこみ上げてきました。この随筆集所収の、大原美術館に妻の遺骨を葬ろうとして藤枝が体験した実話をつづったエッセイがこころに沁みたことを、何故か急に思い出して、このタイトルを使おうと思ったのです。この作品の心象風景が、僕が今の日本や世界を取り巻く状況を考えたときになぜか重なってくるのです。さて、前置きはこのくらいにして(文体を変えるぞ)、

 WikiLeaks(以下WLと記す)である。この内部告発サイトについては、今年の4月にイラク・バグダッドでの米軍アパッチヘリからの民間人に対する無差別攻撃ビデオ映像が暴露された時から、僕はNYからその意義を評価する論評を発してきた。それから随分たって「チェンジング・アメリカ」でも今年7月27日に記事をアップしたが、今回の25万点にのぼる外交公電が暴露されるや、各国政府はパニックに陥っている。各メディアの論調も非常に微妙だ。WLの創設者ジュリアン・アサンジに対してはまるでテロリスト扱いしているメディアもある。笑ってしまうのは、アメリカ国務省が、職員に対してWLへのアクセスを禁じる通達を大真面目に出したことだ。自宅に戻ってからの個人のPCからのWLへのアクセスまでも禁じているとか。さらにさらに、僕が今年8月まで、客員研究員として在籍していたコロンビア大学のSIPA(国際関係・公共政策大学院)でも、大学当局から次のようなメールが在籍全学生に送られてきた。

The documents released during the past few months through Wikileaks are still considered classified documents. [The State Department] recommends that you DO NOT post links to these documents nor make comments on social media sites such as Facebook or through Twitter. Engaging in these activities would call into question your ability to deal with confidential information, which is part of most positions with the federal government. 

 要するに、学生に対してまでもWLにアクセスするな、ツイッターやフェイスブックでもコメントするな、そんなことをしたら国務省から睨まれますよ、と脅しているのだ。ボストン大学のロースクールでも同様の文書が全在校生に送付された。何という漫画的な光景か。ジョージ・オーウェルが生きていたら何と言っただろう。僕はこれまで国立公文書館所蔵の多くの外交公電を読んできたが、なかには何でこんなものが秘密扱いなんだと首を傾げたくなるようなものがたくさんある。権力者・権力機関というものは何から何まで秘密にしたがるものなのだ。例えば、1960年代にデビューまもない小説家の大江健三郎に米大使館員(おそらくインテリジェンス関係者だろう)が面談して当時の政治情勢などについて交わした会話が丁寧に記された外交公電を読んだことがある。そんなものがなぜ「取り扱い注意」なのか、今では理解に苦しむのだが、冷戦下のスパイごっこの世界は、まさに不条理劇を地でいくものとの印象をもったものだ。確実に言えることのひとつは、国民にウソをついている度合いが大きい政府ほど、秘密の暴露に脅える度合いが大きい、ということだ。1971年に米国防総省のベトナム戦争に関する機密文書を暴露したダニエル・エルズバーグ博士は、WLの活動を高く評価している。独立系のジャーナリスト、エイミー・グッドマンは、WLをペンタゴン文書事件の現代版だと言い切る。さて、日本のメディアは今後どのような報じ方をしていくのか。自分自身にも突きつけられた問題である。さまざまな評価を見極めるプロの目が必要になる。今後、東京の米国大使館発の公電5697点の内容が明らかになれば、日米関係の生々しい実相が明らかになる可能性がある。アメリカが鳩山政権をどう見ていてどうしたのか、菅政権をどう評価しているのか、普天間基地をめぐって何が行われていたのか、小沢一郎についてどう評価していたのか、またアメリカ大使館の「協力者」たちの顔触れがどのような人たちなのか等など。冷静に情報を見極めよう。すべてが始まる前に、国家安全保障とか、プライバシーとかを言いだしているあれらのジャーナリストたちの言動も僕らは注視しよう。


【編集部追記】
金平茂紀さんの新ブログ「茫界偏視」は、ブログページが完成するまでは NewsSpiral 欄で掲載します。ブログページ完成後、すべての記事とコメントを新ブログに移動します。

倒れそうで倒れない?菅政権 ── 倉重篤郎の少数意見に賛成する

takanoron.png 2カ月間の臨時国会が終わって、印象に残ったことはと言えば野党の揚げ足取りとマスコミの罵詈雑言ばかりというのがまことに空しい。もちろん、根本原因は菅直人政権のドタバタにあるのだが、それにしても、野党とマスコミが年中イライラしながら待ち構え、民主党が何をしようと何を言おうと、どこか枝葉末節・片言隻句を掴まえてそれを次から次へと「スキャンダル」に仕立て上げ、寄ってたかって棒で突き回すような言論を繰り返してきた、この有様は何なのか。国の行く末を論ずべき国会が、蓮舫大臣が議院の廊下で『フィガロ』の表紙写真を撮ったのが良いとか悪いとかいう話を何度も質疑で採り上げたり、仙谷長官の「暴力装置」発言をソレルもレーニンもウェーバーも読んだことのないであろう幼稚な記者や議員が「自衛隊員を侮辱した」などと筋違いも甚だしい大騒ぎに拡張して問責にかけたりしているのは異様な光景で、メディア評論家の天野祐吉の言葉遣いを借りれば、政権批判、権力批判を通り越した政治と言論の単なる「ヒステリー化」である。

 週刊誌や夕刊紙はもちろん大手の新聞・テレビもとっくに「倒閣」運動に踏み切っていて、もはや菅政権に「政権末期の」という形容詞が冠せられるのが当たり前になっているが、その中で「本当にそうか?」と問いかける落ち着いた少数意見もないわけではなく、その一例が先週の『週刊エコノミスト』(12月7日号)のコラム「東奔政走」に載ったベテラン政治記者=倉重篤郎(毎日新聞専門編集委員)の「難題山積、支持率急低下でも菅政権が続く5つの理由」で、私はその全体趣旨にほぼ賛成である。

●菅政権が続く5つの理由

 倉重は言う。「確かに、長続きはしない政権に見える。だが、本当にそうなのか。そのパワーバランスを冷徹に分析してみると、むしろ逆の姿が浮かび上がる。5つの視点からみてみよう」と書き出して、以下、5つの視点を展開する。ここでは、ごく圧縮的に紹介しつつ、私の意見を付け加えよう。

「第1に大事なのは、本人がギブアップしないこと、本人のやる気である」。鳩山まで4代の年代わり首相がそうだが、本人に政権維持意欲すなわち権力欲が失せたら絶対に政権は保たない。国政選挙の連続落選3回、民主党代表選に6回出馬して落選3回、「その戦歴凄まじきものがある。選挙ほど人を鍛え上げるものはない。......まさに人間社会の修羅場である。そこでもみくちゃにされ謀って謀ってついには日本のトップになった人は、そんなに簡単に辞めるわけがない」(倉重)。この権力欲という点では、私の知る限りでも、菅ほど強烈な者は民主党にはいないし、また「打たれ強い」という点でも菅と仙谷は同党トップクラスだろう。だから、鳩山や小沢のようなあっさりとした(ということは無責任な)辞め方はしないだろうと私も思っている。テレビの画面で見ていると、目がショボショボしていて大丈夫なのかと思われるが、「体調も極めて壮健だ。好きな酒をセーブしているようにも見えない」(倉重)とのことだ。

「第2に、与党内で権力闘争が起こる気配がないことだ」。小沢は「政治とカネ疑惑」で身動きがとれない。岡田克也幹事長はじめ「次」「次の次」を狙う人たちもすぐに手を上げる気配はない。「肝心なのは、与党内に菅氏を倒す勢力、人物が当分出て来ないことだ。これでは政局が起きようがない」(倉重)。

 小沢支持グループには、こうなったらますます小沢の出番だという待望論が高まってはいるが、申し訳ないけれども私はすでに本論説を通じて「小沢は終わった」と言い切ってしまっている。その理由は、

▼自ら身を挺して、検察=マスコミ連合軍による虚偽疑惑による包囲網を真正面から切り裂いて血路を開くことをしなかったこと、

▼せっかくの鳩山政権のNo.2で、しかも二重権力とか実質的な最高実力者と言われながら、同政権を支えきれず、わずか8カ月で政権を崩壊させ、自らも辞任せざるを得なくなったこと、

▼9月代表選で菅に勝てなかったこと、

▼負けて「一兵卒」になったのだから、例えば尖閣事件では中国パイプを生かして菅を助けるとか、官僚を使いこなすにはこうすればいいんだと見本を示すとかすればいいのに、何もしないで引き籠もっていること、

 などである。小沢が本当に待望されるような資質や見識や内外人脈があるなら、今この政権が生きるか死ぬかの革命初期の混沌状況で足掻いている時にこそ、そのすべてを投げ打って政権維持に貢献すべきだろう。そう考えると小沢は、倉重の言うように単に政治とカネの裁判問題を抱えているからというだけではなく、鳩山も菅も支え抜いてこの民主革命を成就させる意欲を失っていると断ぜざるを得ない。つまり、小沢には一刻も早く菅を引きずり下ろして自分が首相をやらなければという意欲も使命感もないのである。

●米国は菅を支持?

「第3に、最大の同盟国・米国の支持があることだ」。

 確かに、鳩山が「対等な日米同盟」「東アジア共同体」などを掲げたことに米国は戸惑い、その延長で普天間基地についても「最低でも県外」と言って右往左往したあげくに辺野古移設に立ち戻ってしまって、「一体何なんだ?」という目で見ていただろう。それに比べると「菅政権は素直」(倉重)なのは確かだが、だからと言って米国の言いなりでは過去の自民党政権と同じになってしまう。

 11月28日の沖縄県知事選で、現職の仲井真弘多が勝ったということには大した意味はなく、仲井真も「県外」を掲げ、対抗馬の伊波洋一=前宜野湾市長は明快に「国外=グアム移転」を主張したのであって、両方の得票を合わせれば沖縄県民が全員、県外ないし国外に出て行けという意思が示されたのであって、そうなると菅政権としては、こういう交渉をワシントンと行わざるを得ないのではないか。

▼沖縄県民は全員一致、海兵隊は沖縄から出て行けと言っている。

▼ベストな案は、県民の半分近くが伊波を支持したことが示すように、グアムへの全面移転である。米政府がそれは難しいというのであれば、日本政府は引き続き県外移転先を見つけるよう努力する。

▼それが難しいとなると、鳩山が残した普天間移設の日米合意に戻らざるを得ないが、沖縄県民のほとんどが反対し、地元の名護市長も市議会も反対している普天間に無理矢理建設しようとすれば、県民はもとより全国から基地反対・安保反対勢力が結集して「座り込み」阻止闘争を行い、それを排除しようとすると大規模な流血の惨事となる可能性が大きい。

▼日本政府としては、それらを物理的暴力装置によってすべて排除して、基地建設を強行することは可能である。しかし米政府は、そのようにして流血の惨事を通じて無理矢理作られた海兵隊基地が、居心地のいい、持続可能なものとなると思うのか......。

 私の意見では、鳩山であろうと菅であろうと、民主党政権が米国から「素直」と思われることはあってはならず、あくまで自立的な思考に立って言うべきことは言う対等な関係を作り上げていかなければならない。普天間に関しては、日米合意だからやらざるをえないが、やれば流血の惨事になって(というかそうなるように裏で仕組むのである)、それで仮に基地が出来ても持続可能にはならないということを(出来れば着工前に想像力に訴えて、それがダメなら実際に流血事態を引き起こして)米国に納得させなければならない。私は、ずっと前から、かつて学生運動・労働運動で戦って今悶々としている中高年世代は普天間阻止の座り込みに行って死ぬべきだと言って歩いている。

 そういうわけなので、倉重の言うように、米国が鳩山よりも菅が話がしやすいと思っているのは事実かもしれないが、菅がそれに安住しては困ってしまうのであって、したたかな対米外交を繰り広げてほしい。

●政策の大方向が正しい?

「第4に、霞が関官僚軍団が鳩山政権よりは好意的になっている」。んぅぅ〜ン、これも対米関係における反米か親米かという単純な振り分けと同じで、反官僚か親官僚かという二者択一のような話は全く意味がない。鳩山・小沢政権の時には、その2人の政治的未熟もあって、政府・与党がことさらに官僚体制を敵視するかの性急な制度再編を実行したこともあって、敵にしなくてもいい優秀な官僚をことさらに敵に回したりもして、それが余計に政権を短命に終わらせる一因ともなった。

 それに比べてこの内閣では、老獪な仙谷が野党時代から各省庁に培ってきた優良な官僚人脈を巧みに操っていて、そのために詰まらない鞘当てやハレーションは少なくなっている。「霞が関からしても菅政権とは共存が可能だ。自民党の政権復帰はまだ時間がかかるだろうし、役人たたきを売りにするみんなの党よりははるかにいい、という声だ」(倉重)。

「第5に、政策の方向性が正しい」。消費税引き上げによる財政・福祉制度の抜本改革、TPP・FTAへの参加による通商立国路線と日本農業の体質強化の両立といったことは、それぞれに困難ではあるけれども、それを敢えて言い出しているのがこの政権である。「時代のニーズに合った正しい旗を掲げている限り、歴史はそれを粗略には扱わない。多くの試練は与えるかもしれないが、それはむしろ自らを鍛え上げる天の配剤でもある」と。

 んぅぅ〜ン、確かに、消費税10%アップ方針を、単なる財政赤字穴埋めという後ろ向きの目標のためでなく、日本的な高度福祉・医療体制づくりのための税制・福祉抜本改革の一部に属する問題と位置づけて取り組もうとしているのは画期的なことであるし、また、強い農家を創るための所得保障制度という新しい原理を導入した上で、FTAやTPPに積極的に対応しようとしているのも、実際にはいろいろな障害が湧き起こってくるのは当然として、基本的な方向としては正しい。その意味では、菅政権は、誰がやっても行き詰まりかねない内外の難題を進んで抱え込んで、スッテンバッタンやっているわけで、それが巧くいかないことを嗤うのは簡単だが、それですまされるかどうか。

●自民党は立ち直るか

 倉重が触れていないが、これこそが実は致命的な、菅政権が倒れにくいもう1つの、ということは6番目の理由は、最大野党の自民党に政権奪回に打って出る気力も態勢もないということである。

 小林吉弥という政治評論家(というより政局批評家もしくは永田町業界事情通でなおかつボロクソ反民主党糾弾者、失礼ながら私は余り評価していないのだが)によると、「自民党の政権奪回への道は険しい」として、その7つの理由を挙げているのが参考になる(日本農業新聞11月28日付)。

 (1)功罪はあったものの党の活力の源泉だった派閥が形骸化、(2)世代間の対立、(3)安倍晋三的「保守」と加藤紘一的「リベラル」の対立があって再生を目指す理念の方向性が定まらない、(4)即戦力としての人材の不足でポスト谷垣の総裁候補もまったく姿が見えない、(5)財政難でカネがない、(6)公明党との選挙協力が極めて怪しくなりつつある、(7)民主党の言う「政治主導」「脱官僚」に対してどういう方向性で政権奪還を目指すのか明確でない。「これでは国民の目が自民党に向くわけがない」のである。

 この(7)は確かに重大で、結局のところ自民党は、民主党の「明治以来100年余の官僚主導体制を打破する革命的改革」(小沢)という明確な理念に向かって何を対置するのか全くノー・アイディアで、だからこそ何なる揚げ足取りに終始せざるを得ないのである。

 バタバタ、イライラ、カリカリ、オロオロ、ヘロヘロ、無様な日本人。▲

最後の週末

鈴木宗男氏(新党大地代表)

 昨夜、釧路からの最終便で上京。家に着いたのは23時になった。限られた時間しかないので雑誌の校正とか残された仕事をしたら夜中の3時近くになってしまった。

 9時から日程が入っていたので予定通りこなしながら午後からは事務所で書類整理や留守の間の打合せを事務所の人達とする。9月15日異議申し立て棄却、10月7日食道ガンと言われ26日手術。あっという間の80日だった。

 8年前逮捕される時は検察のリークによるメディアスクラムともいうべきバッシングで身動きが取れなかったが今回は同情や激励ばかりで、メディアの皆さんも冷静に受け止めて下さり、北海道内の後援会はもとより全国の主要な処にも挨拶に行く事ができよかった。

 与えられた宿命の中でしっかり頑張って結果を出したいと改めて決意する。北海道はもとより全国の後援会、仲間、同志の皆さんしばらく留守を致しますがお許し下さい。

 東京も北海道の事務所も従前通り機能しておりますので宜しくお願いします。一日も早くお目にかかれる事を楽しみにしながら行って参ります。

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※この記事は12月5日付「ムネオ日記」より転載しました。(タイトルは本誌編集部がつけました)

2010年12月 2日

小林恭子:ウィキリークス ニューヨーク・タイムズへの疑いの眼──ジグソー・パズルの一片

 告発サイト「ウィキリークス」の米外交公電の暴露(11月28日以降)を巡り、暴露の前に情報を渡されていたニューヨーク・タイムズ(米・NYT)、ガーディアン(英)、ルモンド(仏)、エルパイス(スペイン)、シュピーゲル(独)の5つの媒体による報道の中で、私が比較できたNYTとガーディアンの報道を見て、あれ?と思ったことを前回、書いた。

 やや情報を整理すると、外交公電のどれをどのように報道するかは、各媒体の編集部が決め、ウィキリークスとの約束は報道日の取り決めのみであったという(ガーディアン編集長記事29日付紙版、「Editor's note(編集長のノート)」)。

 これによると、ガーディアンを含めた5媒体は、外交文書のリークを報道することを事前に米政府に伝えていたため、どんなトピックがでるかのおおよそを米政府は予期できていた。米政府はまた、5媒体側に対し、特定の公電あるいはトピックに関して懸念を表明したという。

 報道直前までの細かな編集判断や米政府との行き来に関して、ガーディアンよりは明確に書いているのがNYTである。(前回紹介した「読者へのお知らせ」(NYT))

 ガーディアンの先の「編集長のノート」から読み取れるのは(繰り返しになるが)、米政府には「外交公電のリーク報道が出ること」が通知され、「米政府側は特定の項目に関して懸念を表明した」こと。ガーディアン側あるいは他の媒体が、米政府の特定の懸念を考慮に入れて、当初の編集判断を変えたのかどうかは、明確になっていない(その一方で、NYTは政府のアドバイスを受け入れて、変えたものがある、とはっきりと書いている)。

 ガーディアンは「名誉毀損で訴えられないように」、あるいは特定の項目の影響を考慮して、独自の判断で出さなかった、あるいはぼかした情報があったことを説明している。

 さて、「ニュース・スパイラル」さんに、日刊ベリタ掲載分から転載していただき、いくつかコメントをいただいた。(2010.12.1本誌掲載「ウィキリークスによる外交公電の暴露」)

 そのひとつは、

─WLは公表前にNYTには情報を流していません(投稿者:海水系日系地球人|2010年12月1日 10:36)

 ガーディアンを通じてNYTに情報が渡った...という話は私もどっかで(ガーディアンで?)読んだ記憶があるのだが、今、どの記事だったか見つからないので(!)、とりあえず、見つかってからまた考えようと思う。ただ、ガーディアンから渡ったにせよ、公表(28日)のだいぶ前に情報を得ていたということは、NYTやガーディアンの記事に書かれているのだがー?もし、ウィキリークス(WL)とニューヨークタイムズの関係が、何らかの意味でこじれている・こじれていたとすれば、これはこれで興味深い話である。

 もう1つのコメントは、情報リークの人物とされる、マニング兵の表記の英訳である。

─low-levelと云うのは「階級が低い」という意味で「無能」という意味ではない。 それにa security loophole云々は、彼が海外(敵?)の万全のセキュリティ・システムで防御されたコンピュータに侵入する技術を持っている情報分析の専門家だということです。 つまり現状に失望した若い有能なコンピュータ技術者だと云っているのでNYTが彼を「賤しめている」とは思えません。易しい英文なので英語の読解力の問題ではないでしょう。NYTの記事は必ずしも公平とは言い難いですが、小林さんの解説もNYTへの偏見をもって書かれているのでは? (投稿者:今井邦夫|2010年12月1日 15:03)

 「low-levelと云うのは『階級が低い』という意味」----ああ、そうか!と思った。そういう意味もあったな、と。軍隊の話である。

 ところが、たとえ「階級が低い」と訳・解釈したとしても、実のところ、私のNYTに関するマニング兵の紹介(この「読者へのお知らせ」の記事の中、という意味)が不当である印象は消えないのである。

「失望した(がっかりした)、階級が低い、セキュリティーの抜け穴に(不当に)侵入した」アナリストー。

a disenchanted, low-level Army intelligence analyst who exploited a security loophole

 一つ一つが、一定の(ネガティブな)価値判断をもって発せられている。個々の情報は事実といえば事実。中立とさえいえなくもない。しかし、問題は、「文脈に必然性がない」ことや、「当局側にたった視点」であること。これが気になるのです。この気になる感じ+胸がドキンとする感じは、もしこの兵士が自分の弟だったらどうか?と考えると、身近になるかもしれない。

 そこで、ガーディアンを見てみる。デービッド・リー記者の「いかに25万点の文書がリークされたか」という記事である。

■How 250,000 US embassy cables were leaked(Guardian 2010.11.28)
http://www.guardian.co.uk/world/2010/nov/28/how-us-embassy-cables-leaked

 ここでは、いかにマニング兵がたやすく外交情報を取得できたかが書かれている(7段落目から10段落目)。「例えばレディー・ガガと書かれたCD(書き込み可能)を手にし、音楽を消して、機密情報をこれに書き込んでいく」ーといったことが簡単にできたとするマニング兵のコメントが紹介されている。

 この情報自体はすでにほかで報道済みの話ではあるが、記者の立ち位置は「セキュリティーが甘い米政府の情報体制」への批判のまなざしである。

 マニング兵は、「情報は自由であるべきだ。公的空間に所属するべきだ」と述べ、「自由な情報の活動家たち」であるウィキリークスに情報を送ったという。

 同兵のコメントはこれまでにも何度も他の媒体が報道している。しかし、ここであえて入れたのは、リー記者はあるいはガーディアンは、マニング兵を情報公開の推進者として、つまりは一種のヒーローとして(勇気ある行為をした人物)、ポジティブに見ていることを示す。

 ...ということを読んで、私はNYTとガーディアンの立ち位置の違いを感じた。本当は、ここまで詳しく書くほどのことでもないのだろうが、あえて書いてみた。つまるところ、「ぴんときた」という話なのだが。

 また、前にも書いたが、この立ち位置の違い(と私が受け止めたもの)は、米国のメディアと英国のメディアの違いから来るかもしれない。つまり、米国メディアにとっては、米国の外交公電が及ぼすリスクを英国メディアよりは真剣に考えざるを得ない部分がある「かも」しれない。

 「NYTへの偏見をもって書かれているのでは?」という点だが、これはコメントを書かれた方だけではなく、私の前回のエントリーを読まれた方で、「ガーディアンに好意的過ぎないか?」と思われた方は結構一杯いらっしゃるかもしれない。

 私の結論は:確かに、今のところ、ウィキリークスとガーディアンの報道に関して、「ガーディアンはすごい!」と思っている。好意的過ぎるかもしれない。中立であろうとは思っていない。ただ、ウィキリークス及びウィキリークス的動き(告発サイト、流出)には問題もたくさんあると思う。公務員機密法はどうなるのか、情報の信憑性をどうやって確認するのか、そのほかにもあるだろう。 今は、「すごいなあ」と思うばかりだが、他の問題も考えるときだと思っている。「問題がある」と書くと、それ自体でネガティブな意味に取られそうだが(?)、そうではなく、「面白い課題がたくさん出てきたぞ」、という意味である。

 それと、NYTへの偏見だが、少なくとも「大いなる疑問」はある。大いなる疑いの眼(まなこ)がある。ただ、それは、いわばジグソー・パズルの一片である。あれ?と思ったら、これをメモり、自分の心に留めておく。そしてそのメモを自分なりに証拠をあげてブログなどに書いている。

 パズルの一片が「黒」であったとしても、全体が黒とは限らない。それでも、私が今持っている一片は「黒」なのである。テロの警告でいえば(!?)、黄色--注意、である。とりあえずはこの一片を宙に浮かせている状態である。

【関連記事】
■ウィキリークスによる外交公電の暴露──米ニューヨーク・タイムズは事前に政府に相談していた
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2010/12/post_705.html

(この記事は「日刊ベリタ」から許可を得て転載しました)

2010年12月 1日

小林恭子:ウィキリークスによる外交公電の暴露──米ニューヨーク・タイムズは事前に政府に相談していた

 28日から、内部告発サイト「ウィキリークス」が機密文書も含む米外交公電を公開している。サイトが入手したのは、米国の在外公館と国務省との間の公電約25万点。この一部を米ニューヨーク・タイムズなどが独自に編集して、同じ日にいっせいに報じた。

 その内容は続々と日本語でも報道されているので、ここでは省くが、どのようにして今回の一連の記事が出たのかという点に、まずは注目したい。

 まず、報道されるまでの経緯だが、ウィキリークスは情報公開前にいくつかの世界の大手メディアにコンタクトを取り、情報を渡して、公開日に関する取り決めをしている。これを各メディアが独自に分析し、編集して、あらかじめ決めた日に一斉に出した。生情報をどのように料理するかは、そのメディアの編集者が決める。そのメディアが本拠地とする国にもっとも身近な情報を中心に「料理」・編集するのは自然の流れであろう。これは今までのウィキリークスの大量データ公開時と同じパターンである。

 ガーディアンによれば、ウィキリークスと大手メディアとの間でこのように情報をシェアし、一定の日に同時に各メディアが報道を開始するーというパターンを作ったのは、同紙の調査報道記者ニック・デービス氏であるという。デービス氏がウィキリークスの創始者ジュリアン・アサンジ氏にコンタクトをとり、これを持ちかけた、と。

 今回、事前に情報を渡されていたのは、スペインのエルパイス、フランスのルモンド、ドイツのシュピーゲル、英国のガーディアン、米国のニューヨーク・タイムズ。

 ガーディアンでは20人ほどのチームを作って、情報の分析と編集にあたったという(BBCニュース)。

 昨晩、ツイッターを見ていたら、ガーディアンのメディアジャーナリスト、ダン・サバー氏が、「ニューヨークタイムズは、出版前に、米政府に対してどの公電を使うかを相談していた」とつぶやいた。私は非常に驚いた。どんな報道にしろ、コメントを取るため、あるいは事実確認のために、書いている記事の中に出てくる人や事実に関係のある人に、メディア側が連絡を取ることは良くあるだろう。通常の業務の一環である。

 しかし、リークされた政府情報を元にした記事を載せるとき、政府側と「相談」する必要があるのだろうか?これはおかしいのではないか?

 そう思って、実際にニューヨークタイムズのサイトに飛んでみた。以下がそのアドレスである。

■A Note to Readers: The Decision to Publish Diplomatic Documents(読者のお知らせ:外交文書を報道する決定について)
http://www.nytimes.com/2010/11/29/world/29editornote.html

 これによると、ウィキリークスからの情報に対し、ニューヨーク・タイムズは独自の判断で秘密を持っている人物や国家の安全保障を脅かすような項目を「編集」したという。実際には、いくつかの項目をあえて出さないようにした、ということであろう。どの項目を「編集」したかは他の新聞やウィキリークスに伝えたという。「他のメディアやウィキリークスも同様な編集作業をする」ことを期待している、とサイトには書かれている。

 私は、この段階での「編集」は各メディアの編集部の判断であるから、これはこれでよいと思う(ウィキリークスが各メディアの判断に従って、サイト上の項目を「編集」するかどうかは、ウィキリークスが決める)。ガーディアンも、特定の個人が危険な目に合うことを避けるため、あるいは名誉毀損罪で訴えられることを防ぐためなど、さまざまな理由から一定の項目をあえて出さない、消すなどの編集作業を行っている。

 その後、ニューヨーク・タイムズは、同紙が出版予定の外交公電をオバマ米政権側に送った。該当の公電が「国家の利益に損害を与えると政府側が判断する情報であれば、異議申し立てをしてほしい」と頼んだのである。政府側は「追加の編集作業」(つまりは、消して欲しいあるいは隠して欲しい項目の追加)を伝えてきた。ニューヨーク・タイムズは「すべてではないが、(追加の編集作業の)いくつかに同意した」。そして、米政権の「懸念」を、他の新聞とウィキリークス側に伝えたのである。

 私は、「すべてではないが、(追加の編集作業の)いくつかに同意した」点に大きな疑問を持った。これはつまり、米政府との共同作業、ということになりはしないだろうか?また、米政府の懸念事項を他の新聞に伝えているあたり、なんだか米国の使い走り的な役目を担っているようにも見えるー何を出して、何を出さないか、どのようにどれぐらいのスペースで出すかは、各紙の編集長が決めるはずなのだ。例えばだが、「xxxの項目に関しては、米政府が『かなりまずい』と言ってました。なので、私たちは出さないことにしました」・・という言い方をしたのかどうかは、もちろん分からない(憶測のみ!)だが、なんだかそんな感じに見える。

 ニューヨーク・タイムズは米政府に近すぎるのではないだろうか?愛国心が強いともいえるのかもしれないが。(私の記憶が間違っていなければ、「愛国心が強い」米新聞各紙は、イラク戦争開戦前夜、大量破壊兵器がイラクにはないことを見抜けなかった、あるいは政府の参戦理由を十分に分析し得なかったはずである。確か、後で謝罪したような記憶があるのだがー。)

 ...と思って(当初、私はニューヨーク・タイムズが「原稿」を事前に見せていたと勘違いしてつぶやいていたので、内容が少々ずれてはいたのだが)、「けしからん!」というようなことをツイッターでつぶやいていたら、「何を最優先するかの価値判断が違うのではないか?」ということをつぶやかれた方がいらした。

 なるほどなあと私は思った。確かに、イラクにもアフガニスタンにもたくさん兵を送る米国の外交文書の暴露の衝撃が、最も大きいのは米国。英国やフランスのように高みの見物ではない。リアルな危機があって、リアルな懸念もある。そこで米国の新聞ニューヨーク・タイムズは、政府の意見を事前に聞いて、アドバイスを受けたのだろうー想像だが。

 ところがまた別のつぶやきを出した方がいた。ちょっと紹介すると、

nofrills nofrills メモ魔です(Twitter)

ウィキリークスに関してNYTの行動がまるでスパイのようだったのは前回のイラク戦争ログのときから顕著(アフガン戦争ログでも変な挙動を示していた)。今回もNYTなど見ないで、ガーディアンを見ましょう。ウィキリークスに関しては、ガーディアンはガチ。

nofrills nofrills メモ魔です(Twitter)

英メディアは、取材源の秘匿と国家安全保障を天秤にかけて後者を選ぶということを原則的にしない。北アイルランドで英軍を襲撃したリパブリカン武装組織と直接インタビューしたジャーナリストに対し、当局が情報源開示を求め法廷に訴えたとき、法廷は情報源は秘匿すべきとの判断を示した。

 そうなのかーと改めて思い、「さて、ガーディアンは英あるいは米政府にお伺いを立てたのかな?」と疑問になった。お伺いは立ててはいないとは思うけれど、ひょっとしてと思い、ラスブリジャー編集長にツイッターで聞くと、「ない」という返事(念のためだが、私は個人的にラスブリジャー氏と親しいわけではない。タイミングがよければ、英メディア関係者は結構ツイッター上で返事をくれるのである。これは日本でもそうだろう)。

 やっぱりなあとひとまず思って、今朝起きてから、じっくりと上のニューヨーク・タイムスの記事を最後まで読んでみて、また驚いた。

 それは、この一連のリーク情報の告発者と推測され、今米軍に逮捕されている、若き兵士マニング氏の表記である。この人が告発者であることはほぼ確定しているというか、少なくとも「告発者そのものである」という前提で、今のところ、話が進んでいる。(何かの陰謀説で全くの別人という可能性もあるが。)

 ガーディアンとニューヨーク・タイムズのマニング氏の描写を見ると、その書き方の違いに唖然とする。日本の英作文の授業にでも使えそうなぐらい、同じ人物を全く違う角度から書いている。

 つまり、ガーディアンでは、マニング氏は公益のために情報をリークした、一種の英雄である。ところが、先のニューヨークタイムズの記事では、そのまま書き抜くと、
「a disenchanted, low-level Army intelligence analyst who exploited a security loophole.」になる(訳せば、「...セキュリティーの抜け穴を(不当に)活用した、幻滅を覚えた、低いレベルのインテリジェンスの分析家」である。

 日本語だとうまい具合にニュアンスが出ていないが、文章の前後を見ると、low-levelであることを指摘する必要性がない。セキュリティーの抜け穴をexploitした、というのも、まったくその通りではあるけれど(事実としては)、文章全体として、この人物をやや暗いイメージで描き、少々貶めることに成功している。これをまともに受け取れば、「そんな人物から受け取った情報を、天下のニューヨーク・タイムズが大々的に報じていいのか?」とも思えてしまうー。まあ、こちらの深読みの部分もあるかもしれないが、ガーディアンとニューヨーク・タイムズの人物像に大きな開きがあって、驚いてしまう。

 結局のところ、「ニューヨークタイムズ、大丈夫?」と聞いてしまいたくなるような雰囲気である。そんなに政府に近くて、大丈夫か?と。

 さて、ガーディアンの外交公電報道に関し、編集長、記者、元外交官、歴史学者、情報公開で本を書いたジャーナリスト(テレグラフが暴いた下院議員の灰色経費疑惑のもともとはこの人の仕事がきっかけ)などの短いインタビューが入った動画は、以下のアドレスから見れる。

 「外交情報の伝達の仕方を変えないといけなくなった(電子ではもれる)」という意見から、「何が秘密で何が秘密でないかを再度検証するべき。今回の情報もほとんどが秘密のレベルではないと思った」(ジャーナリスト)、「外交の秘密はこれからも必要で、続くとは思うが、国民にはもっと情報が出たほうが良い」(元外交官)など。

【関連記事】
■US embassy leaks: 'The data deluge is coming ...'(guardian)
http://www.guardian.co.uk/world/video/2010/nov/28/us-embassy-leaks-data

■ウィキリークスが新たな極秘文書を公開 −軍事情報はいかに取り扱われるべきか?
http://www.the-journal.jp/contents/newsspiral/2010/10/post_688.html

(この記事は「日刊ベリタ」から許可を得て転載しました)

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