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混迷の一途を辿る米アフガン戦略 ── 米軍撤退開始まであと1年というのに

takanoron.png 来年7月に予定されたアフガニスタン駐留米軍の撤退開始が1年後に迫っている中で、部隊増派による軍事的勝利とカルザイ大統領を軸とした政治的和解とを同時に達成しようとするオバマ米大統領の戦略は、虻蜂取らずのような恰好になってますます混迷の度を深めている。アフガン戦争は、すでにベトナム戦争を超えて米国史上で最も長い戦争となっており、この成否が今秋の米中間選挙のみならず2012年の"オバマ再選"に決定的な影響を及ぼすことになろう。

●現地司令官の解任

 オバマ戦略の破綻を象徴するのが、雑誌『ローリング・ストーン』に載ったインタビュー記事でバイデン副大統領はじめホワイトハウス高官たちを「腰抜け」などと罵倒したスタンリー・マクリスタル=アフガン駐留米軍司令官が6月23日、大統領に呼びつけられ即刻解任された事件である。

 この記事自体は、フリーランスの記者が1カ月にわたってマクリスタルに密着取材した間に拾った酒の席での放言などを、許可を得ることもなく面白おかしく書いたもので、取材ルール違反であった可能性が高いが、それにしても現地の最高指揮官が本音でそのように考えていることは疑いようのない事実で、それが表沙汰になった以上、解任は当然のことである。後任には、マクリスタルの上司に当たるデービッド・ペトレアス=中央軍司令官が兼務で当たることになった。

 この電光石火の大統領の決断で"事件"としては決着したものの、だからと言ってこれによってアフガンの困難が解決に向かうわけではない。英『エコノミスト』誌は最新号の社説で「オバマ大統領の決断はもっと深い事実を隠すことは出来ない。それは米及び同盟軍はアフガンで敗北しつつあるということだ。マクリスタルは対武装勢力作戦の達人であり、その更迭によって米作戦は失敗の瀬戸際に追いやられることになろう」と指摘した。『ニューズウィーク』7月7日号も「解任でも解決せず......米国は部隊を大量に撤収させざるを得なく」なるか、「極めて悲惨な戦争を非常に長期間続けることになる」かであって、「今後の見通しはあまりにも暗い」と述べた。

●「反乱鎮圧戦略」の無理

 オバマ政権のアフガン戦略は「反乱鎮圧(略称COIN)戦略」と呼ばれるもので、元はと言えばペトレアス将軍が策定した作戦プランに基づいている。ブッシュ政権時代にイラク駐在米軍司令官を務めたペトレアスは、当初ネオコン勢力が旧支配勢力であるスンニ派を敵視してシーア派にのみ頼ってイラクの国家再建を進めようとして一層の混乱を招いた間違いを是正して、(1)米軍増派によってスンニ派武装勢力やそれに混じる国際テロリスト集団と軍事的に対決しつつも、(2)スンニ派を切り崩して一部を政権構造に取り込み、(3)その間に漸次イラクの軍・警察を育成して治安維持の権限を移譲していくという方針を推進した。この方策は、少なくともワシントンでは「成功した」と信じられていて、そのため将軍は英雄扱いされ、ブッシュ政権末期にはロバート・ゲーツ国防長官によって中央軍司令官に任命されている。オバマはこのゲーツ長官とペトレアス司令官のラインを前政権からそのまま引き継いだので、イラクでの"成功体験"をアフガニスタンにも適用すべきだという同司令官の提言も採り入れた。

 元々オバマ政権は発足時から、(1)大規模な兵力増派でタリバンを一気に壊滅させるべきだとするペンタゴン・現地司令部と、(2)タリバンを相手にするのでなくパキスタンとの国境近くにいるアル・カイーダを特殊部隊による探索や無人機によるピンポイント爆撃で壊滅させることだけに作戦を限定すべきだとするバイデン副大統領との深刻な意見対立を抱えていた。そこでオバマは中を取る形で、ペトレアスのCOIN戦略をベースにして、(3)中程度の3万人増派で引き続きタリバン過激派やアル・カイーダとは軍事的に対決しつつ地方の拠点都市を確保し、何よりも民間人の安全と民生向上を重視して住民を味方に付けて彼らが自らテロやゲリラと戦うように仕向ける一方で、カルザイ政権にはタリバン穏健派との政治的和解と地方の治安確保を進めさせることによって、早期に米軍撤退を開始出来る環境を作り出すという方針を決めた。

 戦争一本槍ではなく、民衆を味方に引きつけることを重視するこの方針は、民主党リベラル派やヒラリー・クリントン国務長官のようなインテリには受けがよかったが、現実には、戦争をやりながら民生安定策を進めるとか、タリバンと戦いながらタリバンと妥協を図るとか、タリバン上層部を叩いて孤立させながら中下層部は買収や恐喝によって切り崩すとか、反米で一致しているタリバンとアル・カイーダを分裂させるとか、カルザイ政権の腐敗・汚職を非難しながら同政権が政治的イニシアティブを発揮するよう要求するとか、どれもが実行可能性が極めて疑わしい綱渡りのような矛盾に満ちた施策を同時並行的に進めることを前提としており、当初からペンタゴン内部や周辺の専門家の間で「泥沼化に道を拓くだけで、この先何十年も血みどろの戦いを続け巨額の資金を注ぎ込んだ挙げ句に、今のイラク程度の政権を作るのが関の山」という批判が出ていた。

●戦争とテロの弁証法

 ブッシュとその第1期政権を支配したネオコンは、米国の圧倒的軍事力を以てすればタリバン政権を叩き潰すなど簡単で、それを一掃した更地の上に米国風の民主主義を移植して国家を再建することなど造作もないという幼稚な幻想を抱いた。しかし、シルクロードの交差点とも言うべきこの国は、アレクサンダー大王以来、ペルシャ、ギリシャ、モンゴル、インド、英国、旧ソ連など様々な征服者や侵略者によって一時的・部分的に支配されることはあっても、それは頭の上を通り過ぎていくようなことでしかなくて、複雑に入り組みながら深く地面に根を張った部族支配の連合制が社会の統合を支えてきたという数千年の歴史がある。そのことは、人工国家たかだか数百年の歴史しか持たない米国人には到底理解するところではなく、軍事力さえあれば国家の破壊も再建も思うがままだと錯覚したところに、どうにもならない間違いの始まりがあった。

 さらに、一般論として、戦争ではテロはなくならないどころか、むしろテロの危険を増やす。テロリストは言わばNGOであり、目に見えず、固定的な居場所を持たないことが本質である。それに対処するに、どこぞの国のどこぞの政府がテロリストを保護していると断定してその国に対して古典的な国家間戦争を仕掛けても、テロリストは別の場所に移動すればいいのだし、その戦争は必ず罪のない一般市民を大量に殺すことになるから、それを恨みに思って反米闘争やテロ活動に参加しようという若者や子供を後から後から生み出すことになる。5月にニューヨークのタイムズスクエアで起きたパキスタン系米国人による爆弾テロ未遂事件に象徴されるように、米本土でのテロの危険は9・11以前よりも増大している。

 とは言え、今更覆水盆に戻らずで、結局、第2期のブッシュもその後継のオバマも、国家再建・選挙実施・経済復興・民生安定・治安維持など本来は戦争終了後に順を追って進めるべき課題に、戦争を進めながら取り組まなければならないという馬鹿馬鹿しいディレンマに苦しんで二進も三進もいかなくなっているのである。

●アフガンでの失敗の連続

 実際、アフガン戦略の失敗で現地事情はますます悪化している。

(1)CIAの失敗

 オバマの3万人増派が始まったばかりの09年12月30日、東部ホスト州にある米CIA直轄のチャップマン基地でアル・カイーダによる自爆テロが起き、同基地の女性指揮官をはじめ幹部7人とヨルダン王族の一員である同国情報機関GIDの幹部1人が死亡し、また基地を訪れていたCIAアフガン支局次長を含む6人が重傷を負った。

 犯人は、バラウィという名のクウェート生まれのパレスチナ系ヨルダン人医師で、イスラム過激派の主張に同情する活動家だったが、ヨルダン情報機関が彼を拘束して「家族の安全を保証しない」などと脅迫して転向させてスパイに仕立て上げ、パキスタン北部のアル・カイーダ基地に送り込んでいた。彼は09年春にアラブ義勇兵を装って潜伏に成功、同夏頃から極めて確度の高いアル・カイーダの内部情報をGID経由でCIAに送り届け、第一級のスパイとして高い評価を得ていた。が、もちろん転向は偽装で、彼は本物のアラブ義勇兵だったのである。

 バラウィは頃合いを見て、アル・カイーダNo.2のお尋ね者アイマン・ザワヒリの隠れ場所についてとっておきの情報があると誘い水を打ち、色めき立ったチャップマン基地の幹部が支局、本部、ホワイトハウスにまで連絡をとった上、この日バラウィを迎えることになった。基地警備責任者のアフガン軍人が運転する迎えの車に乗って二重三重の検問をチェックなしで通過したバラウィは、車を降りると、玄関前で列を作ってにこやかに"英雄"を出迎えたCIA幹部らの目の前で爆弾チョッキを炸裂させた。

 一度に7人ものCIA要員が殺されたのは数十年来なかったことで、それだけでも歴史に残る大失態だが、それ以上に、彼らのうち少なくとも5人はCIAでも数少ない対テロ、対アル・カイーダ情報活動の専門家で、それを一度に失ったことの打撃は計り知れなかった。彼らはこの基地で主としてパキスタンとの国境地帯の情報を収集し分析しては、ハイテク無人攻撃機プレデターを飛ばしてテロリストの居場所とされる部落にミサイルを降らせ、これまでに20人以上の重要幹部を爆殺したと自慢していた。しかし、米国にとっては"綺麗な"この戦争も、アフガンやパキスタンの民衆から見れば、誤爆や巻き添えで数千人の罪のない人びとを殺してきた汚い戦争で、確かに20人以上の幹部を抹殺したのかもしれないが、その何倍か何十倍かの若いテロ戦士を増やしているに等しい。

(2)マクリスタルの失敗 

 3万人増派開始を受けた第1波軍事作戦として今年2月に着手された、南部ヘルマンド州のタリバン拠点=マルジャに対する米・アフガン連合軍1万数千による総攻撃は、早々からロケット砲の誤爆で市民12人を殺害するという大失態を引き起こし、戦争と民間懐柔を同時に進めるなど到底無理であることが露わとなった。マクリスタル駐留米軍司令官(当時)はカルザイと現地住民に詫びを入れ「当分の間ロケット砲の使用を自粛する」ことを約束したが、こんなことでは作戦の成功はおぼつかなく、一旦はマルジャを占拠したものの、4月以降は再びタリバン軍のゲリラ的攻撃に晒されている。6月16日に米議会で開かれたアフガン戦略に関する公聴会では、掃討が進まず米兵の死者が過去最悪のペースに達していることへの議員たちの怒りが爆発し、「マルジャの掃討が成功したというのは本当か」と問い詰められたゲーツ国防長官は、「マルジャはタリバン支配からは解放された。予定より進捗は遅れているが、民生支援計画も始まっている」と苦しい弁解に終始した。

 こうした状況で、当初は引き続き着手されることになっていた南部カンダハル州カンダハルへの第2波大作戦は8月以降に延期された。マクリスタルが酒を飲んでホワイトハウスに悪態をつくしかなかったのも当然と言えた。

(3)カルザイの失敗

 3月にアフガンを訪問したオバマ大統領がカルザイ大統領に面と向かって「汚職・腐敗の根絶」を要求したのに対して、カルザイは「西側と国連は我々を傀儡政権にしようと言うのか」と反発、両者の関係は一時冷え切っていたが、このままではまずいということで双方歩み寄り、5月10日カルザイ訪米が実現した。12日発表された共同声明で米国は、カルザイが進めようとしている「アフガンの再統合と和解」の努力を支持し、特にカルザイが近々開催する予定の「平和協議ジルガ(長老大会議)」に歓迎の意を表した。

 そのジルガは、6月2日首都カブールに全土から部落長老や宗教指導者1600人が集まって開かれたものの、冒頭、カルザイが「タリバンとの対話方法を模索し、アフガン人の手で平和を築こうではないか」と演説をしているその最中に、会場近くにまで潜入したタリバン戦闘員が数発のロケット弾を撃ち込み、警備部隊と銃撃戦を演じるという皮肉な事態となった。もちろんそれは予想されなかったことではなく、5月に入ってからタリバンの米軍基地や州政府・警察などへのゲリラ攻撃が各地で続いていることから、このジルガも2度まで日程を変更し、当日は1万2000人の警備部隊を配置して万全を期したはずだった。政府高官が顔を揃え、多くの各国外交官も列席する中でのこの大失態に、カルザイは激怒し、直ちにハニフ・アトマル内務相とアムルラー・サーリフ国家治安局(NDS)長官のクビを飛ばした。

 ジルガは、タリバンと和解し彼らを政権構造の中に入れるというカルザイの路線を言葉の上では一応支持したが、この騒動自体がむしろ、タリバンと戦争しながら政治的に妥協するなど絵空事であることを示していた。

 辞任したサーリフはその後メディアにしばしば登場し、警備の失敗を認めながらも、「なぜ殺人者であるタリバンに頭を下げなければならないのか」と和解路線に公然と反対を唱え、さらにパキスタンの軍情報部(ISI)がタリバンを支援していると口を極めて非難している。サーリフは、北部同盟の中心勢力の1つだったタジク人系の故マスウード司令官の系統で、根っからのタリバン=パキスタン嫌いである。

 こうして、1年後の米軍撤退開始を確実にするためのCOIN戦略は、どの面から見てもすでに半ば破綻している。ペンタゴンや議会には、マクリスタルの後をペトレアスが襲ったことで、かえってCOIN戦略を見直すチャンスが遠のいたとの嘆きが聞かれる。年末までに事態に改善が見られない場合、オバマとしては、さらなる部隊の大増派で一気に軍事的に決着か(と言っても物理的・財政的に無理だろう)、バイデン案の軍事目標限定か、何らかの戦略大修正を迫られることになろう。▲

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ご理解・ご協力のほどよろしくお願いいたします。

<オバマを見習え>
できる事なら、鳩山さんにも、普天間問題で現行案を主張した閣僚及び駐米大使を切ってほしかった。それがあれば、今も総理の座には鳩山さんが座っていたろう。

【イラクでの"成功体験"をアフガニスタンにも適用すべきだ】というホワイトハウスの認識がアフガンの現実を無視した、誤りであるのでしょう。

【複雑に入り組みながら深く地面に根を張った部族支配の連合制が社会の統合を支えてきたという数千年の歴史がある。そのことは、人工国家たかだか数百年の歴史しか持たない米国人には到底理解するところではなく、軍事力さえあれば国家の破壊も再建も思うがままだと錯覚したところに、どうにもならない間違いの始まりがあった。】と。
このアメリカの認識がこの間違いのはじまりなっているのでしょう。アメリカはいまだに気づいていない。帝国は幻想であり、現に崩壊したにもかかわらず。

【米国にとっては"綺麗な"この戦争も、アフガンやパキスタンの民衆から見れば、誤爆や巻き添えで数千人の罪のない人びとを殺してきた汚い戦争で、確かに20人以上の幹部を抹殺したのかもしれないが、その何倍か何十倍かの若いテロ戦士を増やしているに等しい。】
この作戦を自慢する人たちは、救いようのないほどの狂った脳みその持ち主であると思えます。

【国家再建・選挙実施・経済復興・民生安定・治安維持など本来は戦争終了後に順を追って進めるべき課題に、戦争を進めながら取り組まなければならないという馬鹿馬鹿しいディレンマに苦しんで二進も三進もいかなくなっているのである。】
相手をぶん殴っといて、握手しようとしても、無理な話でしょう。
アメリカは誰と和解すればよいのかさえ、理解していないのではないかとさえ思えます。

【マクリスタルが酒を飲んでホワイトハウスに悪態をつくしかなかったのも当然と言えた。】
もう無茶苦茶なのでしょう。限界なのでしょう。この解任はアメリカのいまの愚かさを象徴しているように思えます。

【タリバンと戦争しながら政治的に妥協するなど絵空事であることを示していた。】
アメリカの言いなりになる。金で買収されることになることに激しく抵抗するのは当然であるでしょう。そう受け止める者も当然いるでしょう。

アメリカが自分たちの思惑に従った形で、カルザイ政権を強固なものにしようとしても無理なことでしょう。
かつて日本を支配したような形にはなるはずもない。

この戦争を終わらせるには、当事者が行おうとしても絶対に無理。中立的な第三者の仲介が不可欠であるでしょう。
アメリカはそれがわかっているのでしょうか。
もういい加減にしてもらいたいです。

期日を限っての戦争では勝てるはずがない。
タリバン対策は空爆でというのがアメリカの姿勢になるか。
それよりもパキスタンの核が拡散しないように最大限の努力を今から行う必要が。
イスラム過激派に核が渡ることの意味(新疆ウイグル地区の独立派にわたった場合)中国の協力を取り付ける必要がある。

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