小沢一郎発言「在日米軍は第7艦隊で十分」の見識・その2——米軍削減=自衛隊増強という固定観念
問題の2つ目は、政府・与党側からの反論も社共両党など左からの意見も、共通して、米軍の兵力を削減すればそれだけの分、自衛隊を増強して自主防衛力を増強しなければならないという頑なな固定観念に囚われていることである。
小沢は発言の中で、「私たちもきちんとした世界戦略を持ち、どういう役割を果たしていくか。少なくとも日本に関係する事柄は、もっと日本自身が役割を分担すべきだ。そうすれば米国の役割は減る」「自分たちのことは自分たちでやるという決意を持てば、米軍が出動部隊を日本に置いておく必要はない」と言い、そこを捉えて町村は「自前の防衛予算を3倍から5倍にしようとする暴論」と、また社民党の福島も「軍備増強にはとにかく反対」と、似たような反応を示した。
ところが民主党の鳩山由紀夫幹事長は小沢発言について、「日本の軍事力を増強するという発想に立ったものではないと理解している」と語り、在日米軍を減らしても日本の自主防衛力を増強しなくて済む道筋がありうることを示唆している。
●多元方程式
この議論は複雑で、いくつもの方程式を重ね合わせていかなければ解けない。
第1に、既に述べた脅威との関係である。脅威の性質と強度——つまりどの国が(と言っても実際には北朝鮮と中国だが)どのような様態で(核を含むミサイルによる全土破壊もしくは首都か主要米軍基地などに限定した攻撃、陸海空総動員による渡洋上陸侵攻・対日占領、特殊部隊潜入による原発破壊などゲリラ行動、等々)、どのような戦略環境条件の下で、日本の独立と安全を致命的に脅かすような侵略行動を仕掛けてくる少なくとも潜在的可能性が存在するのか——が確定されて、それに対処するに現在の在日米軍と自衛隊の兵力・装備・配置が適正であるという前提が成り立っているなら、米軍削減は直ちに自衛隊増強を以て穴埋めしなければならない。しかし脅威が確定されておらず、従って日米両軍の適正について議論する基準が存在しないのであれば、その増減の可能性について検討することすら出来ない。米軍削減が即、自衛隊増強に繋がるというのは、長く続いた防衛に関する思考停止状態が生んだ単なる固定観念である。
私見では、旧ソ連の対日上陸侵攻の脅威が消失した後では、日本が直接侵攻される危険は著しく低減しており、恐らく、現在の陸上中心の自衛隊の編成を抜本的に改めて、海空中心の超ハイテクの専守防衛部隊を建設することによって、日本防衛の態勢はほとんど自主的に賄えるのではないかと思われる。
第2に、米軍の遠隔投射能力との関係である。今述べたように「日本に関することはもっと日本が役割を分担する」(小沢)ようにしても、万全ではないので、いざという時の米軍来援の約束は、少なくとも当分の間、必要だが、かと言って例えば沖縄に海兵隊が常駐していることが必要ということにはならない。遠隔地に向かって戦闘部隊を急派・投入する米軍の能力は昔とは比較にならないほど高まっていて、グアムかハワイか米西海岸に常駐する海兵隊が飛来すればそれで済むのではないか。その時点では、沖縄の嘉手納基地や東京の横田基地は返還されて民用空港になっているが、いざという時には軍事利用に全面開放する協定も結んでおく。
96年に結成された旧民主党は、綱領的政策の柱の1つに「常時駐留なき安保」を掲げ、いつまでも米国の言いなりに基地を提供し多大な「思いやり予算」まで注ぎ込んでいるのを止めて、日米対等の立場で米軍基地の機能を1つ1つ吟味して、不要なものは返還させたり統廃合させたりして、特に沖縄の過大な基地負担を減らしていくと主張した。その考え方は、民主党結成過程で横路孝弘が提起し、鳩山や菅直人らが賛成して定式化されたもので、当時鳩山は『文芸春秋』誌上で民主党の立場について論じた中でそれを詳しく述べていた。98年の民主党再結成の際にその路線は消えてしまったものの、民主党にとって本来、小沢の考え方は唐突なものではない。
第3に、日本の対米コンプレックスとの関係である。日本の政権与党は未だかつて、そのように米軍基地と在日米軍の存在意義を1つ1つ採り上げて情報開示を迫り、要るものは要るし要らないものは要らないという是々非々の姿勢を示したことはなく、その意味で占領以来の対米コンプレックスに基づいて事実上主権を放棄するかの屈従的態度を取ってきた。それが米国を増長させてきたのである。
小沢は27日横浜で、自らの発言の反響の大きさに関連して、「できる限り自国の防衛に関係する役割を果たせば、米軍の負担は少なくなるという当たり前の話をしただけだ。米国の負担が軽くなれば、それだけ在日米軍も少なくて済む。具体的なことは、政権を取ってから米国に聞いてみないと分からない」と語った。歴代の自民党政権は「聞いてみる」こともしてこなかったのだから、それだけでも政権交代する意味があると言えるのではないか。
第4に、それでも残るのは、在日米軍の対外的機能との関係である。在日米軍は現在では、極東のみならず中東から西太平洋までの地球半分で縦横に作戦を展開するための拠点として日本を確保し続けることが主眼であり、日本防衛への協力は「ついで」というかむしろ口実に過ぎない。とすると、沖縄の海兵隊にせよ、横須賀を母港とする第7艦隊にせよ、横田や三沢の空軍にせよ、それが本当にそこに存在することが必要なのかどうか、グアムやハワイではなぜダメなのか、日本防衛の機能だけでなく対外的機能についても同様に1つ1つ吟味する必要がある。その結果、小沢の言うように「第7艦隊の母港機能は他を以て代え難い」ということで日米納得するのであれば、存続させることになる。
米国としては、在日基地と思いやり予算は“既得権益”であり、日本の無知・無力に付け込んで脅したりすかしたりしながらいつまででも維持したい。それに黙って従うのが「日米同盟重視」だと言うのは明らかに間違いで、きちんと対米交渉の俎に乗せなければならない。
その際、言うまでもなく日本が米軍の対外的機能を代替するという選択はあり得ない。小沢も27日の横浜発言の中で「日本が他国の有事に参加することはあり得ない」と明言している。あくまでも、在日米軍と基地の対外的機能を認めた上で、そのどれがどう必要なのかを問いただすことである。
こうして小沢発言は、いつもの彼の癖で、党内幹部や安保関係の部会などで議論して体系立って発表したものではなく、記者の質問に答える形で持論を述べただけのもので、それだけに誤解や曲解を生みやすいが、民主党が次期政権を担う可能性が高まっている中での1つの問題提起としてなかなか面白い。同盟とは単に言いなりになるということではないというごく当たり前のことが通用する時代を拓かなければならない。▲
コメント (8)
「思いやり予算」
米国のバブル時に、なんで辞められなかったのか、何かの時に恩着せがましくやる時はあったはず。ジャイアンは単純に喧嘩は出来ないけれど、弱みはある。煽てて木に登るかは別として、色んな事もできる。ジェセフナイさんやアーミテージ軍曹は、ありがたい分もあるが、彼らは言う事を聞いていればそれほど悪いようにしないよというだけ。
軽武装と言う事にはならないかと思うけれど、単に重武装でもない。人件費が高いのは悩ましいが、色々考える策はあると思う。片山さつきのように単純には切って良いかは判らない。しかし、医療の問題は、結構単純に切った為に今の様になっている。自衛隊も万が一の時しか使わないのだから意識がこれ以上下らないようにしてカットできる方法もあるかもしれない。アメリカが機動的な部隊をという事なのだから、日本でもよりいっそう機動的であるものがどこかにあれば万が一の時拠点をに向かえばよいのだから(全面戦争はありえないからであります)世界一効率的な防衛隊を作っておけばよい。そして、安全保障のリスクコントロールに外務省がもう少し力を発揮してもらえる様になればと思うのだが?防衛から何から何まで、役人さんの意識がこれ以上低下してしまうと、公的部門が足手纏いになってしまう。それにしても、これだけ政策ミスを山ほどしていても、政治家や役人は捕まらない。政治家はどこかで落ちれば良いのだろうけれど…。既得権益・自己保身をするのならその前にやっておく事がある。それをしないでそんな事をやればこれからは逆に組織崩壊になってしまうのでは?ただ、その事を冷静に追求するはずのマスコミがこの様では、悩ましい限りだ。
投稿者: おumaちゃん | 2009年3月 1日 12:45
自身の無知をさらけ出すような真似はしたくありませんが、そもそも「脅威」の前提となっている中国、北朝鮮が近い将来、ことを起こす可能性は皆無であり、それを想定した自衛隊のあり方そのものが、かなり胡散臭い。
このややこしい時期に、どこの指導者がさしたる利益も見込めないにもかかわらず、他国に手を出したりしますか?
投稿者: 近藤良夫 | 2009年3月 1日 17:07
この程度の発言でマスコミが「安保で党内がバラバラな民主党に波風が」立つなどと論評しているのが不思議ですね。党内最左派に位置する平岡氏も、最右派に位置する前原氏も(解釈は少し異なりますが)以下のように、基本的に小沢発言を容認するコメントをしているのですが。
マスコミが民主党の安保政策について無知なのか、それとも意図的に外交防衛に関して党内路線がまとまっていないというイメージを植え付けようとしているのか。
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/090227/stt0902272129008-n1.htm
平岡秀夫衆院議員「在日米軍がいなくなった後、東アジアの各国で役割分担を決めながら戦力の縮減を進める集団安全保障を目指すという意味ではないか」
前原誠司副代表「ベクトルとしては間違えていないが、時間軸が示されていない。北朝鮮がミサイルを打ち込んできたとき、今の日本には対抗する力がない。日米の信頼関係をどう築くかが大切だ」
投稿者: langcancer | 2009年3月 1日 20:33
昨年の8月に、日本経済新聞の夕刊「人間発見」に半藤一利氏のインタビュー記事が載っていました。その名も「日本よ、平和な国であれ」。
その中に「日本人は軍隊というものを知らなすぎます。自衛隊は軍隊じゃないですよ。統帥権がないから。独断専行が許されていない。戦うのにいちいちお伺いを立てて勝てますか。逆に、ある力を持ったときは内に向かう事もある。『軍隊からの安全』も考えないと。五・一五事件、二・二六事件の恐ろしさで、いかに日本の政治がひん曲がったことか」
自衛隊を「第二日本軍」に「改編」し、在日米軍を「縮小」する場合は、「憲法変更」が避けられないと思います。
ただ、安倍氏・中川昭一氏・前原氏・中曽根康弘氏・田母波氏・平沼氏等の言動を考えると、「こんな連中に変えられたくない」と言う思いが募ります。
やたらに「復古調」が強く、帝国陸軍の権力濫用を反省し、それに基づいて変える視点が無く、権力に対しての認識が甘過ぎるからです。「冷戦後」の脱却も不十分で、米軍を刺激したくないばかり
にへらへらしています。
これが自称「改革派」なのか、と
思うと幻滅するばかりです。
安倍氏の「我侭で決まった」、「国民投票法案」をもう一度練り直すべきだと思います。
私は半藤氏のおっしゃる様、「憲法九条を守るだけでなく、『育てよ』」と、憲法を変更するに当たって、「日本国憲法」を9条に限らず、議論を総合的に行う舞台を社会民主党・日本共産党を巻き込んで、作り直すべきだと思います。
護憲過ぎて、一種の「ウルトラ保守」(早坂茂三氏談)に成り、憲法についての議論すら、嫌がっている社会民主党や日本共産党をどう、説得するかが、課題ですが・・・。
現在でも、社会民主党は揉めていて、「何処まで大人に成ったか」「何処まで、1993年以降を総括しているか」不明な所が多いので・・・。
ぐずぐずしていたら、本当に「大連立」に成ります。こうなれば、
最悪です。社会民主党に残された時間は、もう有りません。
小沢氏の考えは、確かに無視すべきでは無いでしょう。
疑問点はかつて、永野茂門氏を法務大臣に送り込んだり、西村真悟氏を政務官に送り込んだ意図がさっぱり解らない事です・・・。
投稿者: 荻原 理 | 2009年3月 1日 21:35
「近藤さんとは見解が異なります」
確かに北朝鮮はロジスティックス面から事を起こすのは無理ですね、全く不可能でしょう。
しかしながら、中国については長年、軍事費は二桁の伸びで覇権拡大の意図は明確です。
台湾問題もあります。また、日本とは領土問題に加え長年の反日教育の積み重ねで軍人個々人の対日敵視もあからさまです。しかも、中国の軍人は指導者の指揮どおり動くとは限らない状況にあります。文民統制などありえません。
米国との摩擦においては核の先制使用まで軍人が発言するのですから。
中国は共産党独裁ですが、実態はバラバラ。中央による統制が効いていない状況で極めて不安定、危険な状態であると私は考えております。
甘く見ることは極めて危険だと思います。
投稿者: Mitsuru Mr. Nara | 2009年3月 1日 22:28
私はこうした「防衛論議」を聞く度に、故三島由紀夫氏の切腹に至る主張を思い出さざるを得ないのです。三島氏は死を賭した「檄文」の中でこう訴えています。
「自衛隊は敗戦後の国家の不名誉な十字架を負いつづけて来た。自衛隊は国軍たりえず、建軍の本義を与えられず、警察の物理的に巨大なものとしての地位しか与えられず、その忠誠の対象も明確にされなかった 。…諸官に与えられる任務は、悲しいかな、最終的には日本からは来ないのだ。…アメリカは真の日本の自主的軍隊が日本の国土を守ることを喜ばないのは自明である。あと二年の内に自主性を回復せねば…自衛隊は永遠にアメリカの傭兵として終るであらう 。」1970年のことです。
左翼思想とも通じるこの訴えが当時一顧だにもされず、半世紀たった今も、予言通りのアメリカ従属が続いている。三島氏の主張は端的で、日米安保体制からの脱却と自主防衛…そのための国連警察予備軍と国土防衛軍の創設を訴えています。 つまり平和主義の現憲法下での専守防衛論です。(これは小沢氏が考えている構想とかなり似通っていると私には思えるのです。)
三島氏は割腹の直前、東大全共闘との対話集会で、「諸君が天皇陛下万歳!と一言言ってくれれば、我々は共闘できる。」と述べています。全共闘にしてみれば、「三島さんが労働者万歳!と一言言ってくれれば共闘できる。」と言いたかったのかもしれませんが…。で、私が何を言いたいかというと。「国を思う、人を思う」という意味では左翼も右翼も思ってることは同じだということです。問題は、真正左翼も真正右翼も衰退し、道理を欠いた空洞の「中道」だけが生き残った、現状維持の閉塞状況です。いみじくも三島氏は最後の戯曲「わが友ヒットラー」の中でヒットラーにこういう意味のセリフを諧謔をこめて言わせています。「右を切り、左を切り、政治は中道を行かねばならない。」…と。
自公政権の中道路線の防衛論議や憲法改正論議を聞いていると、アメリカ隷属のプラグマティズム(実利主義)に過ぎない、真の自主独立とは程遠いものにしか思えません。
「脅威論」については、近藤様のご意見とほぼ同じ感覚を持っています。付け加えれば、「脅威」の大部分は外因的ものではなく、内因的なものだと思うのです。脅威を少しでも解消する方法は、現在一つしかありません。相互の安全保障条約を結ぶことです。(NATOに習って東アジアのEATOを造ったらいかがでしょう?
投稿者: hal2001 | 2009年3月 4日 06:32
Mitsuru Mr. Nara様。
軍事費の伸び=覇権主義の拡大の意図とは考えません。
また、中国の軍人が指導者の指揮どおり動かないのであれば、なおのこと覇権など夢の夢。
また、現況ではたとえ軍人であろうと、事を構える必要は皆無。それくらい中国の国力は右肩上がりです。そうした意味では確かに中国は脅威です。
投稿者: 近藤良夫 | 2009年3月 7日 21:12
敗戦と戦後の米軍依存で、日本人の思考がおかしくなってしまった。
新米保守政治家の思考停止は何より物語っていて、政治も経済もユダヤへの売国となり退廃に向かっていた。
米軍による軍事力やハイテク技術よりも、自主防衛戦略だの国家機関の構造の見直しの方が余程重要ではないか?(上記の三島さんの主張と同じである)依存構造からは主体性が生まれず、自信にもつながらない。
ただ、日本としては、戦前の様な軍事力を前面にした外交はできないだろう。敗北による負の側面をつかれ、中韓に負い目があるからだ。
ならば、軍事恫喝されない体制を構築することである。周辺国の戦略・謀略を察知し、それを妨害する体制を政治・軍事・外交で達成する必要がある。
既に、国内には、日本の発展を阻害するマスコミや宗教団体等がある。米軍基地等や外国人エージェントも多数メディアに登場している。こういった工作を妨害する情報機関の設置も急務だろう。
国家の防衛があって、国内の経済戦略も達成できる。また、軍事技術の民生へのフィードバック等の効果も得られる。それが、戦争経済になるアメリカのようになってはいけないが。
次に外交である。日本は中国の様な覇権国は目指さないほうがよく、覇権国の恫喝に対抗できるレベルで良い。覇権国は調子に乗りすぎ敵を作り自滅するからだ。
外交は、英連邦諸国、インド等と
同盟を結び、後方に基地を設ける
必要がある。韓国、ロシアはその時々で変化するから適当に付合えば良い。中国も野心を起こさないように、提言すべきだ。中国は、米国へのけん制にもなる。北朝鮮との関係も、妥協する必要がある。右翼の望む国家の崩壊を待つのはあまり現実的でなく、仮に
崩壊しても、あまりメリットもない。周辺国のいずれかが、強大化するだけだからだ。
アジアは、平和であれば、いずれ欧米を凌駕し、アジアからユダヤ支配を除去できるだろう。もし、
日本と中国が戦争となれば、お互いの国力をすり減らすだけでなく、また再び、ユダヤ勢力の支配が進むであろう。
真の独立は、安保条約を見直し、米軍基地を撤去することから始まる。従来は左翼からしか出ない発想が政府の政策になるだろう。
他力本願ではいつまでたっても自立できないのである。
投稿者: 30男 | 2009年9月15日 01:15