Calendar

2009年1月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31

Recent Entries

« オバマ新政権とアメリカ
メイン
ホリエモンが再び登場!! »

危機の海に漕ぎ出したオバマ政権――就任演説の読み方

takanoron.png 空前のお祭り騒ぎに送られて、オバマ新政権が出帆した。が、新大統領が漕ぎ出したのは荒れ狂う危機の海であり、一身に寄せられた過剰なまでの期待に応えて船を正しく導くことが出来るかどうかは、全く保証の限りではない。何しろオバマは、米国政治史上で言えば「黒人初の大統領」に違いないが、より大きな世界史的・文明論的次元では「アメリカ帝国が崩壊し始めて初の大統領」なのだから。

●危機の認識

《我々が危機のまっただ中にいることは、今はよく理解されている。我が国は、暴力と憎悪の広範囲にわたるネットワークに対する戦争の最中にある。我が経済は酷く衰弱していて、それは一部の人々の強欲と無責任の結果であるけれども、同時にまた、我々皆が困難な選択を行ってこの国の新しい時代を準備することに失敗した結果でもある。》(高野仮訳、以下同)

 米国が直面する危機の根源が、イラクとアフガニスタンでの戦争と強欲的な金融資本主義の破綻の2つであるという認識は、もちろん正しい。

 戦争についての言い回しはなかなか微妙で、「テロに対する戦争」というブッシュの常套文句を避けて「暴力と憎悪のネットワークに対する戦争」と言ったのは、一方では、ペンタゴン直結の有力シンクタンク=ランド・コーポレーションが昨年、「対テロ戦争という言葉はもう使わないほうがいい」「テロを解決できる戦場は存在しない。軍事力は通常、その狙いとは正反対の効果をもたらす」と勧告している(INSIDER No.453)のに半ば従いながら、他方では、オバマが(後述のように)イラクは別としてアフガニスタンは依然として「テロを解決できる戦場」だと考えているという中途半端の表れである。この点に関する私の評価はC。

 金融資本主義の破綻を「一部(金融界)の人々の強欲と無責任」だけでなく、それを許した「我々皆…の失敗(our collective..failure)」のせいでもあるとしているのは、彼一流のバランス感覚と言えようか。評価B。

 さらに続けて彼は、住宅喪失、雇用切り捨て、企業倒産、医療高額化、教育破綻、エネルギー過剰消費などの問題を列記し、次にように言う。

《これらは、データや統計によって量れる危機の指標である。もっと量りにくいけれども劣らず深刻なのは、全土に広がる自信の喪失、すなわち米国の衰退は避けられず、次の世代は将来に希望を持てなくなるに違いないという、つきまとって離れない不安である。今日、私は皆さんに申し上げる。我々が直面するこれらの課題は現実的なものである。それらは深刻であり、多岐にわたる。それらは短期間で簡単に解決されることはないだろう。しかしこのことは分かって欲しい、アメリカよ、それらは解決されるだろう。》

 オバマが、米国の衰退の不安とその深刻さについて就任演説で言及した初めての大統領であることは認めよう。その率直さこそ彼の身上である。評価A。しかし、それが「解決可能である」と主張するにはその論拠は極めて抽象的に過ぎる。

●解決は可能か?

 彼は言う。

《この日、我々がここに集まったのは、恐怖よりも希望を、対立や不和よりも目的の共有を、選らんだがゆえである。この日、我々がここに来たのは、あまりに長く我が国の政治を縛ってきた卑小な立腹や間違った約束、鸚鵡返しの非難や古くさいドグマに、終止符を打つことを宣言するためである。我々は依然若い国家だが、聖書の言葉に従えば、子供じみたことは止めるべき時が来た。全ての人々が平等であり自由であり、最大限の幸福を追求する機会を与えられているという、神が与え給えた約束を再確認すべき時が来た。》

 これは言うまでもなく、ブッシュへの辛辣な批判である。しかしブッシュ的な《対立や不和》《卑小な立腹や間違った約束》《非難やドグマ》といった《子供じみたこと》のすべてを、オバマ的な《目的の共有》《平等・自由・幸福への神の約束》といった抽象的な美辞麗句に置き換えただけでは何事も起こらないだろう。評価C。

 そこで彼は続けて語る。

《我が国の偉大さを再確認するについて理解すべきなのは、偉大さは決して与えられるものではなく、自ら獲得しなければならないものだということである。我々の旅に近道や妥協はなかった。仕事より娯楽を好み、富と名声の喜びだけを求めるような臆病者の道ではなかった。むしろ、リスクを恐れない者、実行する者、物を生産する者、その中には有名人になった人もいるけれども多くは黙々と労働に従事した者、そのような人々こそが長く険しい道を経て今日の我々の繁栄と自由を築いたのである。》

《この人々が飽くことなく闘い、犠牲を払い、手の皮が剥けるまで働いたからこそ、我々はよりましな生活を得ることが出来た。彼らは米国を、個人的な野心の総和よりも大きなもの、出自や貧富や党派の違いよりももっと偉大なものと見ていた。》

《これが、今日も我々が続けている旅である。我々は依然として、地球上で最も繁栄した、強力な国家である。我々の労働者たちは、この危機が始まった時と比べて生産性が下がっているわけではない。先週、先月、あるいは昨年と比べて、我々の精神の創造性が下がっているわけでも、我々の製品やサービスの需要が下がっているわけでもない。我々の能力は衰えていない。ただしかし、同じところに止まって、狭い利益を守り、不愉快な決断を先延ばしするような時代は確実に過ぎ去った。我々は自らを奮い立たせ、ほこりを叩き落として、米国を再生させる仕事を再び始めなければならない。それを今日から始めよう。》

 一言で言って、汗して働く資本主義への回帰宣言である。世界中の人々を詐欺まがいの手段で手玉にとって金で金を生み、一握りの経営者ばかりが数十億、数百億どころか数千億円もの年収を得て《富と名声》を恣にしたような《強欲と無責任》の金融資本主義は終わりにしなければならないということを、オバマはここで言いたかったのだろう。それはそのとおりだが、さて米国は本当に、黙々と手の皮が剥けるまで働いて《物を生産する》まっとうな資本主義に戻ることが出来るのか、決意や覚悟だけではどうにもならないその道筋は、この演説からは見えてこない。評価B。

 なぜなら、金融的強欲資本主義の暴走の根底にあるのは、単に一部経営者のふしだらというだけでなく、米国が世界中から金を借りまくって世界一の贅沢消費を楽しみ、それゆえにまた全世界から商品とサービスを買いまくってドルを垂れ流し、それをまた米国に向かって投資させるという“帝国循環”の構造であって、その下での政府と企業と国民の過剰消費体質を正面から見つめ直すことなしには米国の回帰も再生もありえない。サブプライム問題とは、まさにその過剰消費体質を汗して働く低所得者層にまで拡張して無理にでも住宅を買わせて、結果的にその生活を破滅に追い込むことだったわけで、そこまで深々と傷つけられた古き良き米国的価値観をどのようにして癒すのかの具体策なしには何も始まらない。

●政府と市場

 大不況を回避するための経済政策の中心は、ケインズ的な公共事業の思い切った増発である。

《経済状況は大胆かつ迅速な行動を求めている。我々は、単に新しい雇用を生み出すだけでなく、成長のための新しい基礎を築くために行動する。》

 道路や橋、送電網やデジタル回線の建設、科学の再建、技術の力による医療の質の向上とコストの引き下げ、自然エネルギーの利用、学校や大学の変革、等々。この中では特に自然エネルギーへの転換が(ここでその言葉は使われていないが)「グリーン・ニューディール政策」として具体化され、オバマ流ケインズ政策の主柱となるかもしれない。評価A。

《今日問うべきは、政府が大きすぎるか小さすぎるかということではなくて、政府が機能するかどうかだ。政府が各家庭を助けて、まともな賃金を得られる仕事や、支払い可能な医療・福祉、尊厳ある隠退生活を手に入れられるように出来るかどうかだ。答えがイエスなら前進しよう。答えがノーなら計画は終わりにしよう。我々公共のドルを管理する者は、賢明な支出をし、悪い習慣を改め、公明正大に仕事を進めるだろう。それによってのみ、我々は国民と政府の間の真の信頼を再建することが出来るからだ。》

《あるいは、市場が善の力なのか悪の力なのかというのも我々の問うべきことではない。富を生み出し自由を拡大する市場の力は比類なきものである。しかし、今回の危機が我々に思い起こさせたのは、注意深い監視の目なくしては市場は制御不能になるかもしれず、また富裕者だけを優遇するのでは一国の繁栄を持続させることは出来ないということだ。》

 この政府と市場についての原理的な考え方は、妥当というか、まあ常識論の範囲だろう。評価B。問題は、史上空前の財政赤字を抱える中で、現実にどれだけの公共事業支出を繰り出すことが出来るのか、またかつてクリントン政権が失敗した医療・保険改革に手を付けることが出来るのかだが、その具体策はこれからである。

●外交と国防

《国防に関しては、我々は、自国の安全と理想とのどちらかを選択するという誤りは犯さない。》

《建国の父たちが掲げた法の支配と人権の理想は今も世界を照らしており、我々がそれを捨てることはない。》

《米国は、平和と尊厳に満ちた未来を求めるすべての国民、あらゆる男性、女性、子供らの友人であり、もう一度主導的な役割を果たす用意がある。》

 神の命により米国式民主主義を全世界に布教するといったブッシュの宗教的な妄想が影を潜め、建国者たちの法の支配と人権の思想を《理想》に掲げているところは好感が持てる。評価A。

《先輩諸世代がファシズムや共産主義を打ち負かしたのは、ミサイルや戦車によってだけでなく、頼もしい同盟国と強固な信念によってであったことを思い返そう。先人たちは、力だけでは自分たちを守ることは出来ないこと、その力が我々の思うがままに振る舞うことを許しているわけではないことを理解していた。そうではなくて、先人たちは、力は分別ある使い方をすることを通じて増大するものであること、我々の安全は大義の正当さ、模範を示す力、謙虚さと自制心から生み出されるものであることを知っていた。》

《私たちはこの遺産の継承者である。もう一度この原理に導かれることによって、我々は、より一層のの努力、諸国とのより一層の協力と理解を必要とする新たな脅威に立ち向かうことが出来る。》

 もちろんこれは、ブッシュの軍事優先と単独行動主義に対する否定、ソフトパワー重視と多国間協調への転換の宣言である。当然のことである。評価A。しかし彼はすぐに続けて言う。

《我々は、責任あるやり方でイラクを同国の国民に委ね、アフガニスタンで苦労して手に入れた平和を固める作業を始めるだろう。》

 たったこれだけ? オバマが選挙中に公約したような「16カ月以内にイラクから米軍を撤退させる」ことがどうして可能なのか。タリバンが大復活し、ビンラーディンは行方知れず、パキスタンが反米化して「単なる不条理」(タイム誌)と化しているアフガニスタンの戦争を「テロとの戦いの主戦場」と位置づけて米軍兵力を倍増させるという方針を本当に実行するのか。それは《力だけでは守れない》という原理と矛盾しないのか。答えは何もなかった。評価C。

 オバマ丸の難破の危険は、まずイラクとアフガンの対応をめぐって訪れるのではないか。▲

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.the-journal.jp/mt/mt-tb.cgi/4865

コメント (1)

「バーナード・メードフ問題」
一ヶ月を越えたが、予想以上に情報が出てこない。オバマ政権発足で、この辺が動き出すのか?この問題が表になればなるほど、米国の金融資質について、世界中から更に問われることになる。取り扱い次第で就任式で言った言葉の真実が判る。
 メードフ以外にも、ブッシュ政権を取り巻く人達の逮捕も噂されるが、現実派のオバマなら無いのだと思う。オバマスタッフは、相当空気を読める体制であり、こちら側のメッセージももう少し意図的であって良い。
 現実派だから、アフガンに対する遣り方も変わってくるかも…。ロビーイング規制が本当にできるのなら。まあ、軍備なんかに金を掛けている場合じゃなのだから。

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

※[投稿]ボタンをクリックしてから投稿が完了するまで数十秒かかる場合がございますので、2度押しせずに画面が切り替わるまでお待ちください。

Profile

日々起こる出来事に専門家や有識者がコメントを発信!新しいWebニュースの提案です。

BookMarks




『知らなきゃヤバイ!民主党─新経済戦略の光と影』
2009年11月、日刊工業新聞社

→ブック・こもんず←




当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.