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2008年10月31日

金融市場における不確定性原理 ――ジョージ・ソロスの哲学

takanoron.png 米国式金融資本主義の破産という事態の中で、哲学的レベルで提起されているのは、アインシュタインの相対性原理やハイゼルベルクの不確定性原理が金融市場の問題解明に役立つのかどうかということである。

 Newsweek10月29日号特集「資本主義の未来」でローレンス・セッシグ=スタンフォード大学法科大学院教授はこう述べている。

「アメリカの金融機関が現在採用している金融モデルは、50年代に開発されたもので、『ユーザーが限定されている』ことが前提。当時はこの前提でも問題がなかったが、…アルゼンチンからニュージーランドまですべての市場参加者が同じデータを共有するフラットな世界では、このモデルはまったく役立たない。この状況は、ドイツの理論物理学者ウェルナー・ハイゼンブルクの不確定性原理の金融市場版だ。観測するという行為によって、観測対象である市場が変化する。世界中の金融機関が同時に、ほぼ瞬時に『調整』を行う結果、金融システムという『群れ』がいっせいに崖から飛び降りることになる」

 デカルト=ニュートン的世界観では、人間は神の如き客観性を以て対象を観測できるはずであったのだが、実際には、観測者が観測対象の中にいる参加者であり行動者であって、観測すると同時に行動するのだから、観測するそばから対象は変化して行って果てしもない。それでも参加者が限定されていれば、その観測と行動の影響はお互いに予測可能であったかもしれないが、インターネット時代の今はそんなことはありえない。全世界的な群集心理が市場を動かして暴走させてしまう。

 このことに早くから気付いていたのは、ヘッジファンドの先駆者=ジョージ・ソロスで、彼はそれを「再帰性の理論」と呼んでいる。「“再帰”とは “人間”と“周囲の出来事”の双方が、互いに影響を与えあうことで変化し続ける、相関的なイメージと捉えればよい。…人間は市場の動きについて理解(認知)した上で、投資などの働きかけ(操作)を行う。だが、働きかけが行われた結果、その市場は変化し、さっきまでその人間が理解していた“市場”とは別のものになっている。そのため人間は市場を完全に理解することが出来ない」(ジョージ・ソロス『ソロスは警告する』、講談社、08年刊、松藤民輔の解説)。

 と言うと理屈っぽいが、要は、資本主義が「人間は市場を完全に理解することが出来ない」ということを理解していなかったということである。人間は皆、市場で合理的に行動するというフリードマン的新自自由主義は完膚なきまでに破産した。▲

金平茂紀のカウントダウン米大統領選(10/31)

081031_3.png

■10月31日(金) そして、最後は「反ユダヤ=親パレスチナ→ネオ・ナチ」?

 投票日まで秒読み段階になった。こちらのメディアでも「地滑り的」(landslide)勝利という文字が頻繁にみられるようになった。けれどもまだ本当のところ、どうなるかはわからない。追い詰められれば、人間、ホンネが出てくるものだ。マケイン/ペイリン陣営の中傷攻撃も、これまでオバマに対して「社会主義者」「親テロリスト」のレッテル貼りを続けてきたが、ここに来て「反ユダヤ=親パレスチナ→ネオ・ナチ」という、かなり危険なレッテル貼りがみられるようになった。きっかけは、『ロサンゼルス・タイムズ』が「隠している」とされている2003年のある夕食会のビデオテープをめぐってのことだ。右派メディアやブロガーが『ロサンンゼルス・タイムズ』がそのテープを公表しないとして騒ぎだしたのだ。問題の夕食会は、コロンビア大学・中東研究所所長の歴史家、ラシッド・ハリディ教授を讃える夕食会で、その席でハリディ教授がイスラエルの政策を批判するスピーチをしたというのだ。マケイン/ペイリン陣営は、ハリディを「PLOの代弁者」であり「反イスラエル主義者」だと断罪し、挙句の果てには彼を「ネオ・ナチ」と譬えたりしている。右派メディアによれば、その夕食会にはオバマも出席していて、彼を讃えるスピーチをしたという。さらには、その夕食会には元ウェザー・アンダーグラウンドのビル・エイヤーも出席していた、などと内容がどんどんエスカレートしてきた。
 「反ユダヤ」のカードはアメリカ社会では影響力が大きい。さすがに31日づけの『ワシントン・ポスト』紙が、「愚かな風」と題して社説で、マケイン/ペイリン陣営のこの攻撃を「恥ずべき中傷(veil smear)」と批判していた。ラシッド・ハリディ教授はワシントンポスト紙の問いかけに対して「愚かな風は吹き過ぎるがままにしておくのが自分の流儀だ」と答えたそうだ。エドワード・サイードもコロンビア大学で教鞭をとっていたが、いくつもの中傷攻撃(中には学生からのものまであった)に敢然とたたかっていた。
 いくつかのブロガーたちがこうした「愚かな風」に対して、その愚かぶりをさらす作業を続けている。オバマの支持集会に「奴はイスラムだ」という看板を持ち込んでいた男が論駁されるシーンがUPされていて実に面白い。ブロガーの機能が実にさまざまな展開をみせているのが今回の選挙だ。(http://link.brightcove.com/services/player/bcpid1417423198?bctid=1890029878
 最新のギャロップの調査では、オバマ52%:マケイン41%となって11ポイントもの差が開いた。

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kanehira_spiral3.jpg【プロフィール】 金平茂紀(かねひら・しげのり)
1953年北海道旭川市生まれ。1977年に在京の民間放送局に入社、以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコ ープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、同局で筑紫哲也氏がアンカーマンをつとめるニュース番組のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。

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【バックナンバー】
■10/30 3360万人が昨夜のオバマ選挙Informercial をみていた
■10/29 「社会主義者の次は秘密共産党員?」
■10/28 プライムタイムに30分の選挙CMを買ったオバマ
■10/27 度し難い女性がいる。もちろん度し難い男も
■10/26 新聞社が社説でどの候補者を支持するかを表明すること
■10/25 笑いのめすチカラ・その2
■10/24 笑いのめすチカラ
■10/23 ペイリンの選挙用服装は15万ドル(=1500万円あまり)
■10/22 文化・芸術・芸能は圧倒的にオバマ支持
■10/21 「アカ」とか「邪教」というレッテル貼り
■10/20 オバマが優勢なのだけれど

人類史上最悪の詐欺と仏知識人が米金融界を批判

朝日新聞の世界の識者へのインタビュー・シリーズ「経済危機の行方」が30日付でフランスの歴史学者エマニュエル・トッドを登場させている。

「米国はもはや解決ではなく問題をもたらす――私は6年前の著書『帝国以後』でそう書いたが、今や誰の目にも明らかだ。米国の腐りきった金融業界は、世界中に何の価値もない証券を売りまくった。人類史上これに匹敵するひどい詐欺があっただろうか」
「皮肉なことに、資本主義がより優れたシステムだというのは、共産主義が存在している限りでの話だ。てんびんの反対側の重しだったソ連が崩壊し、市場原理を制御していたすべてが取り払われてしまったために、世界は極めてばかげた道を歩んだ。資本主義の悪い面ばかりが残った」

と手厳しい。米国嫌いの欧州知識人の代表格で、誰よりも早く米帝国の崩壊を予言していた人物だけに、傾聴に値する。

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高野孟氏(THE JOURNAL主幹)
「トッド『帝国以後』を再読しよう!」(10/31)

 トッドは専門は人口統計学だが、広く現代的問題にも発言していて、シラク前大統領の顧問も務めていた。彼の『帝国以後』は、もちろん「米帝国が終わった後」という意味で、03年に邦訳が藤原書店から出た。私は当時、大いに共鳴するところがあったので、INSIDERの同年9月6日号でその要旨を紹介し、また2年前に出した自著『滅びゆくアメリカ帝国』(にんげん出版)でも彼を引用して論じた。彼自身が言うように、まさに今日の事態を言い当てており、この危機の意味を考えるにはこの本を再読することをお勧めする。

 忙しい方のために、INSIDERでの要約をここに再録しておこう。

 本書は、イラク戦争開幕直後に書かれた《日本の読者へ》に続いて、主張の全体を要約した前書きに当たる《開幕》が置かれ、以下第1章から第8章で各論が語られている。ここでは、《日本の読者へ》と《開幕》を要約することにしよう。

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《日本の読者へ》

 つい最近まで国際秩序の要因であった米国は、ますます明瞭に秩序破壊の要因となりつつある。イラク戦争突入と世界平和の破棄はこの観点からすると決定的段階である。10年以上に及ぶ経済封鎖で疲弊した人口2300万の低開発国イラクに世界一の大国=米国が仕掛けた侵略戦争は「演劇的小規模軍事行動主義」のこの上ない具体例に他ならない。メディアを通じて華々しい戦闘が展開するだろうが、これによって根本的な現実、すなわち選ばれた敵のサイズが米国の国力を規定しているという現実が覆い隠されてはならない。

 弱者を攻撃するというのは、自分の強さを人に納得させる良い手とは言えない。戦略的に取るに足りない敵を攻撃することによって、米国は己が相変わらず世界にとって欠かすことの出来ない強国であると主張しているのだが、しかし世界はそのような米国を必要としない。軍国主義的で、せわしなく動き回り、定見も なく、不安に駆られ、己の国内の混乱を世界中に投影する、そんな米国は。

 ところが米国は世界なしではやっていけなくなっている。貿易赤字は、本書の刊行以来さらに増大し、外国から流入する資金フローへの依存もさらに深刻化している。米国がじたばたと足を掻き、ユーラシアの真ん中で象徴的戦争行動を演出しているのは、世界の資金の流れの中心としての地位を維持するためなのである。そうやって己の工業生産の弱体ぶり、飽くなき資金への欲求、略奪者的性格をわれわれに忘れさせようとしているのである。しかし戦争への歩みは、米国のリーダーシップを強化するどころか、逆にワシントンのあらゆる期待に反して、米国の国際的地位の急激な低落を生み出した。

 まず米国経済がこの戦争に耐えられるのかどうか。第1次湾岸戦争とは違って“同盟国”が財政負担をしないので、米国の赤字は国内と対外とを問わず急激に膨張しつつある。冒険主義は軍事のみならず金融にも見られるのであり、今後数ヶ月ないし数年中に米国に投資したヨーロッパとアジアの金融機関は大金を失う だろうと予言することができる。

 しかし米国の主たる挫折は、イデオロギー的かつ外交的なものである。ドイツが戦争に「ノー」と言ったのは、ヨーロッパの戦略的自律性への動きの始まりを宣言したに等しい。ドイツの戦争反対姿勢がなかったなら、フランスは何も出来なかったろう。このように回復された独仏カップルの有効性は、まさにヨーロッ パ人全体の感情を表現している。

 本書の第2の予言、すなわちヨーロッパとロシアの接近も、その正しさが立証された。この接近は米国の不気味な軍事的行動様式によって必要となった。ロシアはこの危機をきっかけとして、冷戦の遺産たる外交的孤立から脱却した。

 最も意外な離反は、トルコが米軍の領土通過を拒絶したことだった。この事例ほど米国の現実の弱体ぶりを具体的に例示したものはない。

 この外交危機の間、ワシントンは同盟国の離反に反撃し強制力や報復力を行使することは出来なかった。その理由は簡単で、米国はもはや財政的に言って世界規模の栄光の乞食にすぎず、対外政策のための経済的・財政的手段を持たないのである。経済制裁や金融フロー中断の脅しは、もちろん世界経済にとって破滅的には違いないが、それで先ず最初に打撃を受けるのは、あらゆる種類の供給について世界に依存している米国自身なのだ。アメリカ・システムが段階を追って崩壊していくのはそのためである。その事態に対して米国は、弱小国への好戦的行動を増大させる以外に対処するすべがない。「超大国米国」というのは、習慣だけに支えられた神話にすぎない。どこかの国がゲームの規則を守るのを止めて、米国に「ノー」を言おうものなら、直ちに……と思いきや、何と一同が驚いたことに、何も起こりはしないのである。

 日本はこの危機の間、あまり活動的ではなかったが、日本人の深層の感受性はおそらくヨーロッパ人のそれに極めて近いと思われる。日本と並ぶアメリカ・システムの戦略的支柱であるドイツは、米国の後見から独立しつつあるのに、日本はほとんど動かなかったが、その理由は日本の地政学的孤立によって大方説明がつく。米国との関係は日本人にとってかつてなく複雑なものとならざるを得ないが、もしかしたら、米国の戦費に日本が財政的協力をしないだけでも、アメリカ・システムの崩壊には十分な貢献となるかもしれない。

 イギリスは、イラク戦争にアングロ・サクソンという奇妙な民族色を添えたが、ブレア首相の政策はイギリスの国際的立場を手ひどく破壊した。イギリスについてヨーロッパ人の側からとやかく言う必要はなく、逆に米国に好きなようにイギリスを振り回させておけばいいのだ。イギリスは自ずと倦怠に囚われ、自らの ヨーロッパ人としてのアイデンティティに立ち至るだろう。

 ロシア、日本、ドイツ、そしてイギリスが外交的自由を取り戻した時に初めて、第2次大戦から生まれた冷戦の世界は決定的に終わりを告げ、イデオロギーと帝国の時代は終焉を迎えるだろう。複数の大国――ヨーロッパ、米国、ロシア、日本、中国――の間の均衡がシステムの規則となるだろう。これらの大国のうちどれ一つとして、自らをこの地上における“善”の独占的排他的な代表であると宣言することはなくなり、それによって平和はより確実に保証されるだろう。

《開幕》

 米国は現在、世界にとって問題となりつつある。それまでわれわれはとかく米国が問題の解答だと考えるのに慣れてきた。米国は半世紀もの間、政治的自由と経済的秩序の保証人であったのが、ここに来て不安定と紛争を(それが可能な場所では)必ず維持しようとし、国際的秩序崩壊の要因としての様相をますます強めるようになっている。そして副次的重要性しか持たないいくつかの国が、攻め滅ぼすべき「悪の枢軸」をなすのだと、全世界が認めることを強要している。

 サダム・フセインのイラクは、口数は多いが、軍事力としては取るに足らない。金正日の北朝鮮は、過去の遺物であり、外からの介入がなくともいずれ消滅すべき運命にある。イランは、戦略的には重要な国であるが、国内的にも対外的にも明らかに沈静化の過程に踏み入っている。

 さらには、コソヴォ戦争の間の中国大使館爆撃、ロシアへの挑発(チェチェン語放送のスポンサー、グルジアに軍事顧問団派遣、中央アジアに基地建設)など、熱にうかされたような軍事的盲動によって、ワシントンは「狂人戦略」という古典的な戦略モデル――仮想敵をおびえさせるために何をしでかすか分からない無責任な者と思わせる戦略を適用しているが、これは大陸規模の大国にはいかにも不適切な戦略である。

 アルカイダはサウジアラビアから出現した。ところが米国はアルカイダを世界的武装勢力のステータスにまで持ち上げることによって、地球規模の戦争状態を制度化しようとしている。

 まず、米国は勢力過剰であるという標準化されたイメージを始末しておかなくてはならない。

●没落の問題系への回帰

 ノーム・チョムスキーのような構造的反米派は、米国が本性からして悪質であるとするが、これは米国の全能の強さを前提としていて、現状を理解する助けにならない。解答は勢力の大きさでなく“弱さ”のほうにあるのであって、そうでなければ不規則で攻撃的な戦略軌道、“孤高の超大国”の酔っ払いのような足取 りを説明できない。

 エスタブリッシュメントの分析――ポール・ケネディ、サミュエル・ハンチントン、ズビグニュー・ブレジンスキー、ヘンリー・キッシンジャー、ロバート・ギルビンを読むと、共通する米国のイメージがうかがえる。米国は無敵不敗というにはほど遠く、世界の人口が増大し益々発展する中で、米国の相対的勢力が減少するという容赦なき現実を管理していかなければならない、ということである。特にポール・ケネディの『大国の興亡』は「相対的経済力の低下から外交・軍事的過大拡張が派生する、“帝国的過大拡張(imperial overstretch)”の危険に曝されたアメリカ・システム」という有益なイメージを示してくれる。最も慧眼を示したはブレジンスキーの『大いなるチェスボード』[邦訳名『世界はこう動く』=日本経済新聞社刊]で、世界の人口と経済はユーラシアに集中しており、共産主義の崩壊でユーラシアが再統一され、米国は忘れられて独り新世界に閉じこもるという彼のイメージは、米国の本当の脅威への直観を表している。

●米国の勝利から無用性へ

 フランシス・フクヤマ『歴史の終わり』は、自由民主主義国間には戦争は不可能であるというマイケル・ドイル(プリンストン大学国際関係研究所長)の法則を自分のモデルの中に組み込んでいる。

 歴史の巡り合わせによって、ドイツ・ナチズム、日本の軍国主義、ロシアや中国の共産主義から民主主義の原則が脅かされていると思われた時、それを護ることが米国の全世界的な任務となり、第2次大戦や冷戦はこの米国の職務を制度化したものである。しかし民主主義が至る所で勝利するなら、軍事大国としての米国は世界にとって無用の存在になるというのが、米国にとっての最終的パラドックスである。この米国の無用性がワシントンの基本的不安の1つであり、米国の外交政策を理解する鍵の1つなのである。

●自律性から経済的依存へ

 米国の孤立主義は、腐敗した旧世界からの決別という建国神話に始まる。19世紀には孤立は外交・軍事面だけで、経済面では欧州から資本と質の高い労働力が流入して世界最強となった(1945年に全世界の国民総生産の半分以上)。第1次大戦で少しだけ、そして第2次大戦で決定的に世界が米国を必要とし、外交・軍事面でもふさわしい地位を占めるに至った。冷戦を通じて米国の覇権が確立し、同時にまた米国の世界への依存関係が定着した(70年代初からの構造的貿易赤字)。共産主義の崩壊でそれが益々加速し、1990年の貿易赤字1000億ドルは2000年には4500億ドルとなった。米国は自分の生産だけでは生きていけなくなった。

 米国は、相対的な経済力に関してはずいぶんと落ち込んだとしても、世界経済全体からカネを取り立てる能力を大量に増加させることに成功した。つまり米国は客観的には略奪をこととする存在となったわけで、これを強さの印と取るべきか、弱さの印と解釈すべきか。確かなことは、米国は、今後は自分の生活水準に とって不可欠となった世界への覇権を維持するために、政治的、軍事的に闘わなければならなくなるということである。

 民主主義が増殖しつつあること、経済的に世界依存を深めていること、この2つの要因の組み合わせが、米国の奇怪な行動様式とそれによって全世界が陥っている精神的混乱を説明することが出来る。経済的には依存的で政治的には無用な超大国、これをどうやって管理したら良いのだろうか。

●米国民主主義の退化と戦争の可能性

 フランシス・フクヤマの最大の誤りは、自由主義的民主主義の全般化から歴史の終わりを演繹したことである。自由民主主義の政治形態は完璧でないとしても安定的であって、一度それが実現されてしまえばその歴史はそこで停止するというのが彼の前提である。しかし、もし民主主義が文化の1段階、つまり初等教育[の普及による大衆識字化]の段階の政治的上部構造にすぎないとするなら、先進国になってさらに教育が進展して中等・高等教育が発展していくことは、かえって民主主義の不安定化をもたらすことにならざるを得ない[このメカニズムについては著者の『経済幻想』を参照]。

 中等・高等教育は先進国の心的・イデオロギー的構造の中に再び不平等の観念を導入する。「高等教育を受けた者」は自分が本当に高等な人間だと思うようになり、彼らはやがて新たな階級を形成する。その階級は、単純化して言えば、人口の上では20%を占め、所有する富では50%を占める。そして次第に[誰もが同じ1票を持つ]普通選挙の拘束が耐えられなくなっていくのである。

 民主主義がユーラシアに定着し始めたまさにその時に、それはその誕生の地である米国やフランスで衰弱しつつあって、民主主義が不平等な支配システムに変貌しつつある。エリート主義とポピュリズムが対決するこうした政治システムは、何とも奇妙な“民主主義”であり、普通選挙は存続しているが、右と左のエリートが不平等の縮小につながるようないかなる経済政策の方向転換をも禁じることで合意している。メディア上では大仰な対決が繰り広げられるが、選挙結果は現状維持に行き着き、表面上の政治システムが崩壊することは阻止される。

 ブッシュは彼が勝ったとは断定できないような不透明な過程の末に米大統領に選ばれた。それからほどなくして、フランスはシラク大統領が得票率 80%で選ばれるという全く逆の事例を示した。フランスの事例は、上の方の20%が、差し当たり中間の60%をイデオロギー的に統御することによって、下の方の20%の願いを封じ込めた結果にほかならない。しかし米国もフランスも本質的には同じで、選挙プロセスはいかなる実際的重要性も持たず、棄権率は抗い難く上昇していく。

 イギリスでも同じ文化的階層分化が進行しており、従って米国と同様、イギリスとフランスという2つの古くからの自由主義国は、寡頭制による衰退の過程に足を踏み入れている。ただ米国は、習慣に従って、相変わらず自由と平等の言辞を巧みに操っていて、民主制がその誕生の地である米国で衰退していることに、 世界は気が付いていないだけである。

 この民主制が寡頭制を生むという逆転によって、ドイルの法則は米国に適用できなくなる。国民の統制の効かない指導集団が、より冒険的な軍事政策を採用し、民主主義国を攻撃するという戦略的仮定さえ排除できない。

●1つの説明モデル

 私が展開しようとしている1つの説明モデルは次のように要約出来る。すなわち、世界に民主主義が行き渡り、政治的には米国なしでやっていくすべを学びつつあるまさにその時、米国の方はその民主主義的性格を失おうとしており、己が経済的に世界なしではやっていけないことを発見しつつある、ということである。世界はしたがって、二重の逆転に直面している。先ず世界と米国の間の経済的依存関係の逆転、そして民主主義の推進力が今後はユーラシアではプラスに向かい、米国ではマイナス方向に向かうという逆転である。

 米国の経済力、軍事力、イデオロギー力は衰退の一途を辿っているのだから、それを以て広大な世界を支配することは不可能であり、ロシア、ヨーロッパ、日本という真の戦略的行為者を従わせることは到底不可能である。これらの行為者たちとは、米国は交渉しなければならず、大抵は要求に屈しなければならない。しかし不安の種である経済的依存には、何らかの解決を見つけなければならず、そのために、世界の中心に留まる“全能の力”であるかに演出しなくてはならない。そこで劇場的軍国主義が展開することになるわけだが、それは次の3つの本質的要素を含んでいる。

(1)問題を決して最終的に解決しないこと。これは地球規模の“唯一超大国”の際限ない軍事行動を正当化するためである。

(2)イラク、イラン、北朝鮮、キューバ等の小国に目標を定めること。政治的に世界の中心に留まる唯一の方法は、二流の行為者と“対決”し、米国の国力を誇示することである。それは、米国と共に世界の統制を分担するよう求められている主要大国、つまりヨーロッパ、日本、そして中期的にはロシア、長期的には中国が、自覚に至るのを妨げる、とまでは無理としても、せめて遅らせるために他ならない。

(3)決して終わるはずがない軍備拡張競争の中で米国を“ダントツ”にするはずの新兵器を開発すること。

 このような戦略を持つとするなら、確かに米国は世界の平和に対する予期せざる新たな障害となる。しかしこの戦略は脅威となるような規模のものではない。仮想敵国のリストとその国力が、米国の国力の程度を客観的に規定している。つまり米国はせいぜい、イラク、イラン、北朝鮮、もしくはキューバに立ち向かう力があるにすぎないのだ。取り乱して、米国帝国の出現を告発する理由などこれっぱかりもない。実際はそれは、ソヴィエト帝国に10年遅れて、解体の一途を辿っているのだから。

 世界の力関係についてこのようなイメージを抱くなら、米国の凋落というものをすべての国にとって最善のやり方で管理するためのいくつかの戦略的提案が必要となる。▲

解散先送りで麻生内閣の漂流が始まる――進むも地獄、引くも地獄の苦悩

takanoron.png 麻生太郎首相が11月30日投開票と目されていた解散・総選挙を来年1月以降に先延ばしする決断をしたのは、偏に、選挙で大敗を喫して民主党に政権を奪われ、在任僅か2カ月余にして首相官邸を明け渡さなければならなくなる事態を恐怖したからである。かといって、26日の自公党首会談で公明党の太田昭宏代表が麻生に直言したように、「先送りしても勝てる戦略がない」。たとえわずかな可能性であっても、その戦略があってそれに賭けるというのなら話が分からなくはないが、何もないのでは決断どころか単なる不決断にすぎない。

●民主党単独過半数の見通し

 決定的だったのは、自民党が24~26日に行った9月下旬以来4回目の選挙区情勢調査で、自公両党の獲得予想議席が過去3回の調査に比べて一段と落ち込んで205議席程度、それに対して民主党は240議席以上で単独過半数を確保するという結果が出たことである。日本経済新聞30日付の報道によると、300小選挙区のうち自公両党が優勢な選挙区は120弱にとどまる一方、民主党は170弱で、比例代表を合わせた予想議席は自民党が約180、公明党が25前後で、民主党は240超と与党を大きく上回る。この結果は「首相をはじめごく一部の幹部に報告され」、「解散先送りの判断を後押ししたとみられる」と同紙は書いている。

 9月下旬の第1回調査では、与党は現有より約100議席減の230超の見通しだったのだから、麻生自身が一度は決意しかかったように、臨時国会冒頭で解散に踏み切っていれば、まだ血路を切り開く余地があった。が、内閣発足直後の支持率が思ったほど上がらなかったことに加えて、中山成彬=国土交通相のアホ発言による辞任騒動に気勢をそがれて、ためらってしまった。そこで次には、補正予算で景気対策を打ち出せば拍手喝采を浴びるだろうと「補正成立後」に焦点を定めたが、その途端に株価の記録的な大暴落が襲いかかって、またもタイミングを失した。そうなるともう11月30日投開票は無理で、追加経済対策の発表とそれに基づく第2次補正の景気対策と来年度予算案の策定を着々と進めて人気回復のきっかけを掴もうという姿勢に転じたのだったが、そもそも目先のバラマキ的な景気対策で人気を集められるという発想そのものが間違っていることに麻生は気付いていない。

●景気対策が焦点ではないだろう

 第1に、今起きているのは、根本的には、金融危機、すなわち実体経済の何十倍にも金融経済を膨張させることで米国への資金環流を掻き立てようとしてきた、巨大な「振り込め詐欺」のような米国流金融資本主義の破産であって、その金融経済の波に乗っておいしい思いをしてきたごく一部の人たちは直接的な打撃を受けるだろうが、そうでない大多数の人々にとっては、金融機関が慌てふためいて貸し渋りに走った結果として倒れなくてもいい企業が倒れるとか、対米輸出に頼っていた企業が売り先を失って立ち行かなくなるとかいったことを通じて間接的な影響を受けることがあるかもしれないという程度のことであって、政府から4人家族で6万4000円だかの「給付金」を受け取らなくては暮らせない
ほど逼迫している訳ではない。

 30日の麻生の追加経済対策発表でその給付金についてテレビの街頭インタビューで感想を求められた若い女性が、「えっ、お金くれるんですか。うれしーっ。だけどそれで政府の財政は大丈夫なんですか?」と、むしろ政府のほうを心配しているのが実状なのだ。

 ここで日本の総理として麻生が国民に向かって語るべきことがあるとすれば、例えばそれは……、

(1)way of lifeの問題――日本人は、金が金を呼ぶようなカジノ資本主義の道は採らず、コツコツと額に汗して本物の価値を生み出すために真面目に働くモノづくり資本主義で生きていく。それを兎と亀に喩えるなら、最後は亀が勝つという確信を持とう。
(2)ユーラシアへの視線――米国頼りでは21世紀を生き抜けない。中国、インド、ロシアそれにEUのユーラシア4極構造を骨格としたユーラシアに大繁栄の時代が訪れるだろう。日本のモノづくり資本主義の未来をそこと結びつけて行こう。
(3)技術と教育への投資――そのためには、日本のモノ作りの技術を高め、またそこへと人材を注ぎ込むような教育を充実させるような長期的な投資に力を注ごうではないか。

 といったことではないのだろうか。少なくとも人々は、漠然とではあるけれども、米帝国の崩壊の後にどんな世の中が来るのだろうか、そこでは相当程度に生き方・暮らしぶりに大きな変化が訪れるのではないだろうか、という予感を抱いていて、目先に消費できる現金をほしがっているわけではない。

 第2に、人々の不安と消費手控えの根源は、今使うべき金がないことではなくて、将来の年金・医療費負担の行方が見えないことにある。「社会保障は将来不安をなくすものなのに、逆に不安の種を蒔いている」(御手洗冨士夫=経団連会長)ことが問題で、その状況では、6万4000円とかのバラマキをしても、それがそのまま消費に回って景気を押し上げるかどうかは分からない――と言うか、むしろ貯蓄に回ってしまう可能性のほうが大きい。

 麻生が30日の会見で、将来の消費税値上げを明言したのは、バラマキ批判をかわす狙いからのことだが、これもただ「上げる」では不安材料になるだけで、法人税・所得税など直接税と消費税との直間比率を先進国型に組み替えることを含めた税体系全般の見直し、またそれと福祉・医療・教育負担のあり方とを包括した国民負担像を示さなければならない。展望も骨組みもなしに、思いつきの策を並べることをバラマキと言うのである。

●求心力を失って漂流へ

 こうして、「政局より景気」と言って打ち出した景気対策そのものが正しく方向付けられていないので、大した効果は上がらず、従って内閣支持率も回復しない。むしろ年末から来年にかけては、米金融危機は底が見えず、株価と為替もヒステリックに乱高下する中で、倒産・失業が増え、さらに3月末に向けてはCDS市場破綻などの影響で思いもよらぬ大企業の倒産が出る可能性もあり、いくら待ってもいいことは何もない。

 しかも、解散をしないことで与党内での麻生の求心力は失墜し、野党が一気に攻勢に転じて再び「ねじれ国会」の運営が困難さを増す中で、とうてい結束して突破していく態勢にはならない。実際、細田博之幹事長を筆頭に自民党の大勢は「もう勝手にしろ」という気分に陥っていて、先延ばしを喜んでいるのは自分が落選しそうな派閥ボス級のベテラン議員だけである。早期解散をあれほど強く求めていた公明党との亀裂は深く、選挙協力にも支障を来すことになろう。

 結局は、支持率がさらに下がり、国会の運営はうまく行かず、与党内はバラバラになるなど、今よりもっと悪い条件で追い込まれて解散・総選挙をやらざるを得なくなる公算が大きい。時期としては、

(1)クリスマス解散――第2次補正予算案を今国会に出す場合は、同案を成立させ、来年度予算案の編成を終えた12月下旬に解散、1月13日公示、25日投開票。ただし第2次補正成立に野党がすんなり協力するはずはないので、麻生としては補正成立なしで改選することは避けたい。逆に参院で補正審議が止まり、破れかぶれで解散に打って出るケースもないとは言えない。
(2)通常国会冒頭解散――1月下旬に招集される通常国会の冒頭に解散するというのは1つのタイミングだが、予算と関連法案の成立は大幅に遅れる。
(3)予算成立後解散――09年度予算を3月末までに成立させた直後、4月14日公示、26日投開票。ただ予算関連法案に衆院再議決が必要になると5月解散にズレ込んでいく。
(4)7月都議選とのダブル選挙――公明党は認めず、選挙協力はなしになる。
(5)任期満了選挙――そこまでとうてい麻生はもたない?

 といろいろあり得るが、先になるほど麻生が主導的に解散を打つ力は弱まっていくだろう。1月を超えると、与党内から麻生下ろしの動きが始まるのではないか。▲

金平茂紀のカウントダウン米大統領選(10/30)

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1)ケネディ・ニクソンのテレビ討論を新型テレビで! という広告
2)不人気のマケイン等身大写真
3)人気のオバマ写真
(筆者撮影)


■10月30日(木)3360万人が昨夜のオバマ選挙Informercial をみていた

なんだかんだ言っても、オバマの勢いは止まっていないようだ。昨夜のオバマの30分選挙CM番組は、ニールセンの調査では3360万人もの視聴者がみていた計算になるという。もっとも7局ものチャンネルが放送していたのだから、視聴者数が多いのは当然だといえば当然だ。しかし、ワールド・シリーズ最終戦の視聴者数を70%以上も上回っていたというのは、かなりのことがらではないだろうか。ニールセンの推計では、視聴者の71%は白人、17%が黒人、15%がヒスパニックだったという。3大ネットワークのなかでは、ABCが放送を見送って、通常の番組『Pushing Daisies』を放送したが、これも先週より21%も視聴者数が増えたという。オバマ陣営がこの時間帯を巨額の資金で買い取ったという事実がどこかに消し飛んだしまった感がある。
 さて、折から、ニューヨーク市立博物館で、歴代大統領選挙キャンペーンの展覧会があったので、ちょっとのぞいてみたが、これが思いのほか面白いのだった。ニクソンとケネディが争った時代の選挙キャンペーンで使われたポスターやバッジ、その他の細かな小道具などが所狭しと展示されている。オバマとマケインの等身大の写真も置かれていたが、見学客に人気のあるのは圧倒的にオバマの方だった。気の毒になるほどマケインの写真には寄って行く子供たちが少ない。http://www.mcny.org/exhibitions/current/campaigning-for-president-new-york-and-the-american-election.html
きょう現在の、ギャロップの調査ではオバマ50%対マケイン45%と5ポイントの差である。
 ちょっと古い話になってしまったけれど、プレイム・ゲート事件に絡み、法廷での証言を拒否して収監されたことのある元NYタイムズの記者ジュディス・ミラーが、FOXニュースに雇われるという記事が、1週間ほど前のワシントンポストにあった。8年に及ぶブッシュ時代のさまざまな傷が収まるべき所に収まっていくような気がする。

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kanehira_spiral3.jpg【プロフィール】 金平茂紀(かねひら・しげのり)
1953年北海道旭川市生まれ。1977年に在京の民間放送局に入社、以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコ ープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、同局で筑紫哲也氏がアンカーマンをつとめるニュース番組のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。

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【バックナンバー】
■10/29 「社会主義者の次は秘密共産党員?」
■10/28 プライムタイムに30分の選挙CMを買ったオバマ
■10/27 度し難い女性がいる。もちろん度し難い男も
■10/26 新聞社が社説でどの候補者を支持するかを表明すること
■10/25 笑いのめすチカラ・その2
■10/24 笑いのめすチカラ
■10/23 ペイリンの選挙用服装は15万ドル(=1500万円あまり)
■10/22 文化・芸術・芸能は圧倒的にオバマ支持
■10/21 「アカ」とか「邪教」というレッテル貼り
■10/20 オバマが優勢なのだけれど

2008年10月30日

またもや出た WBC監督人選で読売の“社内人事”

混迷を極めていたWBCの監督人選が、現読売ジャイアンツ監督の原辰徳氏に決定した。

当初は北京オリンピックに引き続き星野仙一氏が指揮を執るものと思われていたが、イチローなどの有名選手がいっせいに猛反発。最終的には、セ・リーグを制覇した原氏に落ち着いた。

だが、ちょっと待ってほしい。監督人選ばかりが話題になっているなか、中日の川上憲伸投手はメジャー行きがほぼ決定。ますます日本のプロ野球の空洞化は進むばかりだ。いったいプロ野球はこれからどうなるのか・・・

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玉木正之氏(スポーツジャーナリスト)
「結局は社内人事」(10/30)


結局は監督の人選も読売の社内人事で終わったということですね。
今大会は、読売が(WBC日本ラウンドの)主催権を取った。つまり、読売が主催する大会なので、監督も読売の人事異動。それ以外の何者でもありません。

●WBCとはそもそも何か?
今回の騒動の間に「そもそもWBCとはどういう大会なのか」について語られたことは、ほとんどありませんでした。

WBCは「ワールド・ベースボール・クラシック」という名前からわかるように、メジャーリーグのオールスター戦である「ミッドサマー・クラシック」、ワールドシリーズをさす「フォール・クラシック」と並ぶ大会です。MLBはそれにWBCをプラスし、野球の三大大会にしようとしています。

なぜ、MLBはそういうことを考えたのか。それは、世界の野球界のマーケットを自らの手中におさめたいからです。そこで、前回大会ではアメリカを優勝させたいがために、組み合わせもアメリカに有利にしました。結果として日本が優勝してしまったのですが。

野球の世界選手権を開催するという話は古くからあり、日本でもアマチュア球界を中心に検討されていました。実は、過去には「スーパー・ワールドカップ」という名称でMLBや日本のNPBにも参加を呼びかけ、開催がほぼ決定していました。ところが、この大会は9.11で開催できなくなってしまったのです。そういった経緯で世界選手権が立ち消えになっていたところへ、MLBが突然「WBCをやる」と言ってきました。

しかし、日本は当初、「3月の大会に出場することはできない」として参加を拒否していました。すると、MLBは「不参加の発表を一ヶ月待ってくれ」と言い、その間に日本で根回しを始めました。根回しする相手は、もちろん“あの人”です。それで、日本の出場が決定しました。WBCとはそういう大会なのです。

●日本のプロ野球に未来はあるのか
こういったことが続くようであれば、日本のプロ野球はいずれMLBの一部になるでしょう。つまり、極端な話では、日本を1リーグ6球団制にし、ファーイースト(極東)リーグになるということとです。

WBC第1回大会で日本は優勝し、その結果、大会で活躍した松坂投手などの選手達はメジャーリーガーになった。優秀な選手はこれからもアメリカに渡り、日本のプロ野球は現在以上にMLBの下部組織になっていく。このような状況なのに、いったいどこの誰が日本の野球を思って行動しているのか。その“代表”となる人が日本にはいないのです。

金平茂紀のカウントダウン米大統領選(10/29)

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↑29日のテレビ欄に「オバマの政治メッセージ」とある

■10月29日(水) 「社会主義者の次は秘密共産党員?」

 投票日まであと6日。激戦州のひとつ、ノースキャロライナ州での遊説で聞かれたオバマの演説からは、余裕のような空気さえ漂っているように感じられた。マケイン/ペイリン陣営から浴びせられているオバマへの「社会主義者」攻撃に対して、彼はこんなことを言ってのけた。「今週末には、彼(=マケイン)は私のことを秘密共産党員だとか言って非難しだすんじゃないか。幼稚園でオモチャを共有してたとか、ピーナッツ・バターやジャム・サンドイッチを分け合っていたとか文句をつけてね」。聴衆の笑いを誘っていたけれど、こういうマケイン側の中傷のやり口は、明らかに今では時代遅れじゃないのか。あらゆる事前の調査がオバマ優勢を伝えるなかで、増長は禁物と警告を発している人も少数だけれどもいる。
 こんな中で、期日前投票や有権者登録名簿で奇妙な動きが出ているというリポートが目についた(Ammy Goodman のDemocracy Nowをたまたまみていた)。アメリカの選挙では電子投票システムがかなり導入されているので、何があってもおかしくない。2000年のフロリダ州の例だってある。今年の場合、オハイオ州の20万人の新規登録者について、共和党側が、政府のデータベースと合致していないとして投票権を停止するように要求した。州の裁判所はこの要求を退けたが、ホワイトハウスは司法省に調査を求めているという。コロラド州のデンバーでは、期日前投票の投票用紙11000枚が発送されないというトラブルが起きているという。何があってもおかしくないのだ。こういう組織的な工作が不可能ではないという実例が、アメリカではあったのだから。
 さて、問題の今日午後8時からの30分間におよぶオバマのテレビ選挙CM。 informercial、つまり情報(information)と宣伝(commercial)の合体、というイメージだけれど、そういう新造語が使われている。オバマが番組全体のキャスター=ナレーターになっていて、いかにもホワイトハウスを彷彿させる部屋から語りかけている番組の作りを見ていて、こりゃあ途轍もないことが起きているのだな、という思いを再認識させられた。オバマ陣営にとって、今夜の選挙CMは決してマイナスにはなっていないと思う。もともと見たくない人は見ないのだし。

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kanehira_spiral3.jpg【プロフィール】 金平茂紀(かねひら・しげのり)
1953年北海道旭川市生まれ。1977年に在京の民間放送局に入社、以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコ ープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、同局で筑紫哲也氏がアンカーマンをつとめるニュース番組のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。

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【バックナンバー】
■10/28 プライムタイムに30分の選挙CMを買ったオバマ
■10/27 度し難い女性がいる。もちろん度し難い男も
■10/26 新聞社が社説でどの候補者を支持するかを表明すること
■10/25 笑いのめすチカラ・その2
■10/24 笑いのめすチカラ
■10/23 ペイリンの選挙用服装は15万ドル(=1500万円あまり)
■10/22 文化・芸術・芸能は圧倒的にオバマ支持
■10/21 「アカ」とか「邪教」というレッテル貼り
■10/20 オバマが優勢なのだけれど

2008年10月28日

金平茂紀のカウントダウン米大統領選(10/28)

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バラク・オバマHPより


■10月28日(火) プライムタイムに30分の選挙CMを買ったオバマ

 Too much is as bad as too little. 過ぎたるは及ばざるがごとし。大統領選挙の最終局面で、あらゆる調査で優勢に立っているオバマ陣営は、あした(29日)のテレビのプライムタイム(午後8時)から何と30分間の選挙キャンペーンCMを流すという。商業放送なんだから、テレビ局が売ると決めれば、それで何の問題もないとされるのが、ここアメリカという国だ。日本の「常識」にがんじがらめになっている僕は、こういう事態を目の当たりにすると、冒頭に記したような心配を抱いてしまうのだ。やり過ぎるとかえってマイナスだよって。CBSとNBCはこのオバマ陣営の提案にすぐに乗っかったが、ABCはずっと態度を保留していた。それがFOXやMSNBCといった他局の動向を横目に見ながら、27日になって、オバマ陣営に「やっぱり放送しようかな」と再交渉の意思を示したという。でも、遅すぎるよ。ワシントンポストは皮肉をこめてこの出来事を報じている(ABC Jumpes Too Late On Obama’s ‘Buy’)。夜のプライムタイムに30分も自分たちの選挙CMを流す時間を買うなんて、さすがにチカラが正義なり、というこの国のありようをよく示している、と僕は思ってしまう。ちなみに、購入額は1局あたり、およそ100万ドル(9800万円)だという。ネットなどを通じて、国民がオバマ陣営に寄付した資金がこういうふうにテレビ局に還流する。それで何が悪いの?と問われれば、うまく説明ができない。当日は大リーグのワールドシリーズの試合があるが、試合の開始時間を15分遅らせることで、試合を中継するFOXも「買い」に踏み切ったようだ。オバマ陣営がテレビCMに費やした額は、とんでもない金額に達しているという。マケイン陣営を大きく引き離している。問題は、このCMをアメリカ国民がどのように見るのか、受け止めるのかということである。
 ここで全く論議されていないことは、日本の「常識」で言われる、放送の「公正・中立」といった原則との関連である。何が「公正」か。商業放送の時間帯は誰でもお金さえあれば購入できる。ただ、日本ではどうだろう。たとえば、特定の宗教団体がお金にものを言わせてCM時間帯を大量に買ったらどうなのか。たとえば、「問題企業」がお金にものを言わせてCM時間を買ったらどうなのか。「中立」の概念は、さらに混み入っている。大金持ちと貧しい候補が同等に扱われるなんてことはあり得ない、この国では。日本でよく言われる「イコール・タイムの原則」なんて、選挙CMに限って言えば、机上の空論である。唖然とするしかない。もっともこういう議論自体が一部の人から言わせれば「社会主義」的だと言われかねない。
 ギャロップの最新調査では、56%対43%でオバマが優勢。期日前投票で投票を済ませた人のなかでも、オバマが優勢という結果が出ている。

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kanehira_spiral3.jpg【プロフィール】 金平茂紀(かねひら・しげのり)
1953年北海道旭川市生まれ。1977年に在京の民間放送局に入社、以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコ ープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、同局で筑紫哲也氏がアンカーマンをつとめるニュース番組のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。

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■10/27 度し難い女性がいる。もちろん度し難い男も
■10/26 新聞社が社説でどの候補者を支持するかを表明すること
■10/25 笑いのめすチカラ・その2
■10/24 笑いのめすチカラ
■10/23 ペイリンの選挙用服装は15万ドル(=1500万円あまり)
■10/22 文化・芸術・芸能は圧倒的にオバマ支持
■10/21 「アカ」とか「邪教」というレッテル貼り
■10/20 オバマが優勢なのだけれど

解散は来年以降に延期

与党内では、解散総選挙は年明け以降に持ち越されるとの見方が強まっている。

麻生首相は、選挙延期の理由について「金融危機の対応」をその第一理由にあげているが、最近の各メディアによる世論調査では麻生内閣の支持率は下げ続けており、解散したくても環境が整ってくれないというのがホンネのところ。

ただ、解散を延期しても状況が好転する兆しはなく、むしろ悪くなる可能性の方が高い。まさに、「進むも地獄、引くも地獄」の状態に麻生内閣は陥っている。

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【関連記事】
■田中良紹:続・「私が決めます」(10/27)
■田中良紹:「私が決めます」(10/24)

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田原総一朗氏(ジャーナリスト)
「マスコミは選挙が延びると金がかかる」(10/28)

テレビも新聞も毎日のように「解散、解散」と騒いでいるが、他に言うことがないのかな。

マスコミが解散の機運を盛り上げているのは、すでに選挙のための機器などの準備をしてしまったから。これが、選挙が延びてしまうと意味がなくなるから、また金がかかってしょうがない。だから解散の話が気になる。ただ、こんなのは自分勝手な都合に過ぎない。

世界中が金融パニックで、来年はもっと景気が悪くなるというときに解散なんてできない。総選挙は来年以降に延期されるだろう。

2008年10月27日

金平茂紀のカウントダウン米大統領選(10/27)

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↑オバマ支持ステッカーをよく見ます(筆者撮影)


■10月27日(月) 度し難い女性がいる。もちろん度し難い男も

いよいよ最終局面に入った。今朝のNYタイムズの予測では、現時点での予想獲得選挙人の数は、オバマ286人:マケイン163人:五分五分の州89人という数字を掲載している。CNNは、オバマ277:マケイン174:五分五分の州87人という数字。いずれの数字もオバマは、当選に必要な選挙人270人をすでに超えている。これがどのようにこの8日間で変わるのか。遊説先での演説にも相当な熱が感じられる。
CNNを見ていたら、フロリダの放送局WFTVのバーバラ・ウエストなる女性キャスターが、副大統領候補のバイデンに対して真顔で、カール・マルクスの一文を引用しながら「オバマの社会主義的な原則についてどう思うか?」と聞いていた。するとバイデンが彼女の質問を一笑に付して「冗談言ってんの?(Are you joking?)」と切り返していた。女性キャスターはムッとしていたが、こういう頭の構造の、度し難い女性がいるものだ。WFTVという放送局はそういう放送局らしい。
また、テレビのトークショウ番組の司会者をつとめるエリザベス・ハッセルベックという女性がいる。このところ、1500万円余りの衣装代を使っているとメディアで叩かれているサラ・ペイリンを擁護して、マケイン/ペイリンの支持集会で、「そんなことを言う人は、悪意のある女性差別主義者よ!」と言ってのけていた。ここでも度し難い女性をひとりみたような気がした。マルクス主義者だとか女性差別主義者だとか、レッテル貼りが彼女たちのやり口である。
 まあ、度し難い男も同じようにいっぱいいるわけだから、別にどうということもないのだが、度し難い彼女らの堂々とした態度にいかにもアメリカを感じてしまう。ちなみに、ペイリン陣営のスタッフの9月の俸給で一番の高額者は、ペイリン専用のスタイリストが22800ドル/月、ヘアカットが10000ドル/月とのこと。
 イラク・シリアの国境を越えてアメリカ軍が、シリア領土内で軍事行動を起こした。これが大規模な軍事行動だったら、一気にアメリカの空気が変わってしまうほどのインパクトがある、と思うとおそろしくなる。

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kanehira_spiral3.jpg【プロフィール】 金平茂紀(かねひら・しげのり)
1953年北海道旭川市生まれ。1977年に在京の民間放送局に入社、以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコ ープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、同局で筑紫哲也氏がアンカーマンをつとめるニュース番組のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。

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■10/26 新聞社が社説でどの候補者を支持するかを表明すること
■10/25 笑いのめすチカラ・その2
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■10/20 オバマが優勢なのだけれど

2008年10月26日

金平茂紀のカウントダウン米大統領選(10/26)

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↑バンパーに貼られたオバマ支持ステッカー(筆者撮影)


■10月26日(日) 新聞社が社説でどの候補者を支持するかを表明すること

日本の新聞社の「常識」が海外で全く通用しないことは普通にあることだ。というのは、日本の主要メディアが(新聞・テレビ・雑誌も含めて)かなり特異な環境に置かれていることもあるし、それとは逆に、海外のメディア環境にかなり奇妙なところがあることも事実だからだ。アメリカの大統領選挙で新聞各社が社説で支持候補を堂々と書き立てることに、日本の新聞読者はちょっと奇異な感じを抱くかもしれない。それって、報道機関としての「客観・公正・中立」の原則と相容れないんじゃないの? どっちかの立場に立っちゃったら、読者からみると、記事の中立性や正確さが信用できなくなっちゃうんじゃないの? 僕自身もかつてはそんなふうに思っていた時期もあった。今は違う。それは、記事の「公正・中立」という基準と社説が求められている機能が異なると思うからだ。さらにもっと原理的なことを言えば、「公正・中立」という基準はアプリオリに(所与のものとして)存在しているのではないということだ。「客観」基準については、「主観―客観」図式を根源的に疑っているからである。ここではこのことに立ち入らない。いつか別のところで記す。
アメリカの新聞各紙は社説で投票日前に、社説でどの候補を支持するかを堂々と表明する。この大統領選挙の場合、NYタイムズ、ワシントンポスト、LAタイムズ、シカゴトリビューン、ボストン・グローブ、サンフランシスコ・クロニクルなど有力紙は雪崩をうつようにオバマ支持を表明している。マケイン支持を表明している新聞は、ニューヨークポスト(マードック系のタブロイド紙)とか、ボストン・ヘラルド(イラク従軍記者が米軍とともにイラク兵と戦ったことを得意げに記事にしていたクリッテンデン記者のいるあの新聞だ!)くらいで数では3倍以上の差がついている(リストはここ)。面白いのは、ここにきてサラ・ペイリンの地元アラスカ州の最大新聞『アンカレッジ・デイリー・ニューズ』紙が、オバマ支持を表明したことだ。同紙は社説で、「ペイリン(アラスカ州知事)の登場は我々のこころを魅了したが、国家は着実な手腕を求めている」。「ペイリン知事の副大統領候補指名で、大統領選の風景はくっきりと変化を遂げた。けれども、すべての判断を変えさせるまでには至っていない。結局のところ、この選挙は、サラ・ペイリンに対する選挙なのではない。冷静に見れば、彼女の伴走者=マケイン上院議員は、国家危急の時の大統領としては誤った選択である」。「もっとも重要なことがらは、オバマ上院議員が賢明な選択であるということだ」。
こういう書き方を仮に、日本の朝日新聞や読売新聞などが社説で展開したらどのようなことになるのだろうか。ただ、日本の場合、議院内閣制で、国会の首班指名で首相が決まる仕組みなので、やりにくい面があるだろうが、言論・報道機関として、誰がいまの国政を率いていくリーダーとしてふさわしいのか、その理由はなぜなのか、ということを展開できる「言論の自由」が、日本にあるのかないのか。そのあたりは考えられて然るべきだと思うのだ。
投票日まであと9日。全体状況に変化が生じる兆しは見えない。

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1953年北海道旭川市生まれ。1977年に在京の民間放送局に入社、以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコ ープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、同局で筑紫哲也氏がアンカーマンをつとめるニュース番組のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。

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■10/25 笑いのめすチカラ・その2
■10/24 笑いのめすチカラ
■10/23 ペイリンの選挙用服装は15万ドル(=1500万円あまり)
■10/22 文化・芸術・芸能は圧倒的にオバマ支持
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2008年10月25日

金平茂紀のカウントダウン米大統領選(10/25)

■10月25日(土)  笑いのめすチカラ・その2

 マサチューセッツ州にあるノーマン・ロックウェル美術館(ストックブリッジ)で開催されているスティーブ・ブロドナーの政治風刺漫画展をみた。あまりにも強烈な政治風刺漫画の毒気にかなり当てられてしまった。これこそがきのうも書いた「笑いのめすチカラ」のひとつなのだろうけれど、デフォルメの度合いがちょっとばかりきつ過ぎるようにも感じた。だから、あんまり笑えないのだ。同美術館で展示されている作品はこのウェブでみることができる。http://www.nrm.org/page283
また、彼のホームページをチェックするとその作品のごく一部に触れることができる。相当な毒でしょ。http://www.stevebrodner.com/
アメリカの政治風刺漫画は大統領選挙の年には元気になる。今年も先週木曜日にワシントンのナショナル・プレスクラブで毎年恒例の風刺漫画のオークションが開かれた。僕は残念ながら行けなかったが、これがなかなかの作品がそろっていたという。オバマやペイリンが描かれた漫画がたくさんあったそうだ。風刺漫画といえば、雑誌『NewYorker』の表紙に描かれたオバマ&ミシェル夫人のイラストが問題になったことがあった。風刺としてはあまり趣味のよくない表紙だった。日本でも、かつて宮武外骨が主宰していた『滑稽新聞』では、当時の水準としてはかなりの所まで風刺の実験を敢行していたが、戦後も赤瀬川原平の傑作『櫻画報』がある。今の日本では残念ながら、かつての笑いのめすパワーがすっかりナリを潜めて、風刺が成り立ちにくくなっているのではないだろうか。社会に柔軟性というか余裕、遊び心がなくなってきているのだろう。
さて、投票日まであと10日を切った。今回の大統領選挙では期日前投票(日本で不在者投票と言われているもの)の割合が過去最高を記録しそうで、全体の30%近くに達する勢いだ。ギャロップの調査(10月24日づけ)では、すでに投票を済ませた登録者は11%、また近く投票をする予定だと答えた登録者が19%に及んでいるという。また、11月4日の投票日当日に投票をすると答えた登録者は69%。すでに投票を済ませた人の答えでは、オバマとマケインがほぼ拮抗しているという。ちなみにブッシュ大統領はすでに投票を済ませ、マケイン候補に投票したという。ホントかな。ボストン市内では、やたらと車のバンパーなどに「オバマ/バイデン」のステッカーが貼られているのが目につく。

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1953年北海道旭川市生まれ。1977年に在京の民間放送局に入社、以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコ ープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、同局で筑紫哲也氏がアンカーマンをつとめるニュース番組のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。

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■10/23 ペイリンの選挙用服装は15万ドル(=1500万円あまり)
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■10/21 「アカ」とか「邪教」というレッテル貼り
■10/20 オバマが優勢なのだけれど

2008年10月24日

金平茂紀のカウントダウン米大統領選(10/24)

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■10月24日(金)  笑いのめすチカラ

数少ない、尊敬できる先輩のひとり、斉藤道雄さんの著書のタイトルは『悩む力』(みすず書房)だった。アメリカのTVメディアで今起きていることのひとつは、このタイトルをもじって言えば『笑いのめすチカラ』だ。ストレートなニュースがちっとも想像力を喚起しない、真実を伝える気迫を失っている。それに比べて、時事ネタで笑いをとるトークショー、風刺ニュース、パロディ・ニュースが思いっきり力を発揮している。『サタデー・ナイト・ライブ』(SNL)の政治パロディの人気沸騰ぶりは、現実の政治のウソ臭さにウンザリしている国民に大受けだし、政治家を鋭い皮肉で風刺するジョン・スチュアートやビル・マーのショーは本物のニュースよりも真実を伝えているとさえ思われている。今年のエミー賞でも、ジョン・スチュアートの『The Daily Show With JonStewart』が作品賞(バラエティ部門)を受賞した。昨夜、放送されたSNLの木曜版では、冒頭に超不人気のブッシュ大統領(のそっくりさん)が登場し、嫌がるマケイン(そっくりさん)やペイリン(おなじみティナ・フェイ!)に無理やり支持表明をするというパロディを流していて、こんなのが日本でもできれば本当に面白いのになあ、と思ってしまった。そういうビデオクリップが、ウェブ上の特定サイトにすぐにアップされて、かなりの人がそれをみている。もう何でもありの世界に近い。近い将来、ネット空間の重要な機能のひとつに、映像資料のアーカイブスが加わることはどうも止められない勢いなのではないのではないだろうか。
http://www.huffingtonpost.com/2008/10/23/will-ferrell-back-as-bush_n_137399.html

さて、大統領選挙報道でかなりの人気を集めているのが、リベラル系の『Huffington Post』(インターネット新聞:NEWS BLOGS VIDEOコミュニティ)だ。これが本当に面白い。情報も早いし、かなり正確だ。ニュースセンスが良くて、かなり腕利きのジャーナリストが作っていることがわかる。きょうの話題をさらっていたのが、ペンシルベニア州ブルームフィールドで起きたとされる「事件」の顛末である。マケイン陣営の20歳の女性運動員が、ATMから現金を引き出そうとしていたところ、黒人の大男に襲われて金を奪われケガをしたとして警察に届け出た話が、まったくの作り話であったことが発覚したのだ。最初の話では、彼女の車に、マケイン・ペイリン支持のステッカーが貼られていたのに男が腹を立てて犯行に及んだとされていた。これがまったくのでっち上げだったというのだから、追いつめられるとここまでやるのか、という類の話である。しかもこの女性は顔に殴られた跡までしっかりと残っていた。FOXニュースや極右系のトークラジオは、このネタを繰り返し放送していたけれど、どう落とし前をつけるのだろうか。投票日までのあと11日のあいだに、この種の企てがいくつ起こることか。「彼ら」はあきらかに焦っている。

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kanehira_spiral3.jpg【プロフィール】 金平茂紀(かねひら・しげのり)
1953年北海道旭川市生まれ。1977年に在京の民間放送局に入社、以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコ ープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、同局で筑紫哲也氏がアンカーマンをつとめるニュース番組のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。

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【バックナンバー】
■10/23 ペイリンの選挙用服装は15万ドル(=1500万円あまり)
■10/22 文化・芸術・芸能は圧倒的にオバマ支持
■10/21 「アカ」とか「邪教」というレッテル貼り
■10/20 オバマが優勢なのだけれど

2008年10月23日

金平茂紀のカウントダウン米大統領選(10/23)

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サラ・ペイリンの七変化(New York Daily News)


■10月23日(木) ペイリンの選挙用服装は15万ドル(=1500万円あまり)

アメリカの大統領選は総力戦である。政策内容を競うだけではなく、時にはイメージ戦略の優劣が勝敗に決定的な影響を及ぼすことがある。依然としてオバマ優勢という状況に変わりはないと思うが、今日になって、ペイリンの選挙キャンペーン用服装の費用が15万ドル(=1500万円あまり)にも達していることをメディアが報じ始めた。勤労者の味方だという主張をしていたのに、こんな高額な服装はちがうんじゃないの、と毒づくような調子が多い。『NYタイムズ』も一面から詳報している。ペイリンがこのほぼ1カ月余りのあいだに費やした服装の費用は、ニーマンマーカスに7万5千ドルあまり、サックス・フィフス・アヴェニューに4万9千ドルあまりだったという。気候風土の違う50州を遊説するのにさまざまな服装が選挙用装飾品(campaign accessories)として必要だというが、「Joe the Plumber(配管工のジョー)はManolo Brahniks(著名な高級靴デザイナー)の靴なんか履かないよ」と皮肉たっぷりのコメントを掲載していた。金融危機で苦しんでいる有権者の神経を逆なでするようなストーリーである。大衆紙の『New York Daily』でさえ、ペイリンの七変化ファッションを大きな写真で紹介しながら、共和党大会の際にペイリンが身につけていたジャケットはヴァレンティノ製で2500ドル(25万円あまり)だったと報じていた。まあ、派手さが売り物のペイリンのことだから、地味な安い服よりはアピールしたのだろう。有権者もそのことを十分に意識していて、派手さを楽しんでさえいるような向きも感じられる。大体、共和党の支持者のなかにも、セレブが高価な服装を身につけてアピールして何が悪い?という人々がいることは確かである。問題は、こういう情報がメディアの俎上に登場してくるタイミングや扱われ方である。ちょっと前には、ペイリンの国内出張の航空機使用の公費に、彼女の子供たちの分まで含まれていたとの情報が出ていた。明らかに彼女の「資質」に対して拒否反応が起き始めているのだ。
きょう発表されたCBS/NYタイムズの調査では、オバマ52%対マケイン39%という大差がついている。日報ベースで連続支持率調査を行っているギャロップの最新調査では、オバマとマケインの支持率は、50%対43%。今回初めて投票に行く有権者は13%で、そのうちの65%がオバマに投票すると答えているそうだ。新しい風は明らかにオバマに有利に吹いている。この風向きが容易に変わるとは、現時点では考えにくいのだが……
23日の夜になって、とうとうNYタイムズが社説でオバマ支持を公式に表明した。

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kanehira_spiral3.jpg【プロフィール】 金平茂紀(かねひら・しげのり)
1953年北海道旭川市生まれ。1977年に在京の民間放送局に入社、以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコ ープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、同局で筑紫哲也氏がアンカーマンをつとめるニュース番組のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。

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【バックナンバー】
■10/22 文化・芸術・芸能は圧倒的にオバマ支持
■10/21 「アカ」とか「邪教」というレッテル貼り
■10/20 オバマが優勢なのだけれど

石原慎太郎 絶体絶命

経営難に陥っている新銀行東京が、金融庁の検査結果によって、今年4月に東京都が追加出資した400億円のうち、約100億円が2009年3月にも棄損する見通しとなった。22日の日経新聞が報じた。

石原都知事は追加出資を棄損させないことを明言しているが、この件については「詳細は聞いていません」という。

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【関連記事】
■新銀行東京、都の追加出資棄損へ 引き当て不足100億円(日経新聞)

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須田慎一郎氏(ジャーナリスト)
「捜査のメスが間違いなく入る」(10/23)

今回の報道には若干の驚きがありました。損失処理をするとき、法的処理を受けた企業については損失を必ず計上しなければなりませんが、現時点で経営破たんしていない融資先については、金融庁の裁量がある程度効くからです。今回の検査では、そのサジ加減で自己資本が棄損されるほどの結果にはならないと思っていたからです。

なぜ、今回の検査は厳しい結果になったのか
おそらく、捜査当局の動きを横目に見ながら調査を実施しなければならなかったからでしょう。

これまでにも銀行を舞台とした刑事事件はありました。実は、監督当局と捜査当局には仕切りがあって、監督当局の調査が終わった後に捜査当局が動くことが不文律となっています。つまり、金融庁の頭越しに警視庁や東京地検特捜部が銀行にメスを入れることない。

ですが、報道されていることだけをみても、新銀行東京による一連のずさん融資は"直球ど真ん中"の特別背任事案で捜査の対象です。このケースで捜査当局が動かないことはありえない。

となると、捜査段階になったとき、検査で手心を加えていたことが判明すると金融庁が困ります。そこは是々非々で判断し、金融庁は厳格な検査をせざるをえなかった。その結果、400億円の追加出資部分が棄損されていたことが判明したのでしょう。

特別背任とは?
特別背任には、3つの構成要件によって成り立ちます。一つめは「損害額の確定」。新銀行東京はこの用件についてはすでに該当しています。二つめは「融資をするための身分」。トップも含めて、融資をするための権限があったのかどうか。これも十分に該当しています。

以上の二つは客観的事実ですが、三つめは融資にあたって「将来の損失が予見できたか」で、これは心情的な部分が大きい。「予見」は融資をする人間の心の中の問題なので、裁判の争点にもなりやすいものです。

(損失の予見を証明するための)補強材料として、口利きによって「現金を自分のポケットに入れた」「キックバックを要求した」ということも問題となります。口利きというのは、本来は融資ができない人に無理に融資をさせるということです。政治的な働きがけで融資したということは、「損失が予見できていた」ということの補強材料になります。

となると、これだけ口利きの実態について報道が出ていると、そこを突破口にして刑事責任を問える可能性は十分にあります。なおかつ、従来から税金で救済した金融機関については、(経営陣に)応分の責任を取らせることが前提条件です。

すると、金融庁も刑事責任の追及には協力せざるをえない。捜査のメスが「入るか入らないのかわからない」ではなく、間違いなく入るからです。

2008年10月22日

金平茂紀のカウントダウン米大統領選(10/22)

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■10月22日(水)  文化・芸術・芸能は圧倒的にオバマ支持

 オハイオ州グリーンの遊説集会にペイリンとともに姿を現したマケイン候補の演説をCNNライブで聞いていると、この人物の戦争観が如実に伝わってくる。アメリカに栄光をもたらす唯一無二の方法こそがどうやら「戦争」ということらしい。なかでも、ハ゛イテ゛ンの言葉を引き合いに出して、アメリカの大統領が外交で「試練(テスト)を受ける」なんて、ハ゛イテ゛ンは言っているが、冗談じゃない、偉大な国の大統領が何でテストされなきゃならなんだ、と、ほとんど苛立ちを隠していない。スピーチの最後でマケインは「Fight! Never Give up」を繰り返していた。この「強さ」という価値への揺るぎない信仰こそがマケイン=共和党の神髄なのだ。イラク戦争を勝利と言い切る。民主党支持のS君に感想を聞いたら「勝手に滅びろ!だね」と冷たい。
さて、この種の集会の締めくくりでは、大体は景気づけでロックやポップスが会場に流れるのだが、ミュージシャンや音楽家、芸能人・映画俳優らのなかには、オバマ支持かマケイン支持かをはっきり表明している人たちが多い。日本だとなかなか考えにくいことだが、アメリカではふつうのことだ。日米の違いでどっちがマシかは即断しにくい。ただ、オバマVSマケインでいえば、文化・芸術・芸能では圧倒的にオバマ支持者が多い。オバマ支持者のセレブ・リストから名前を拾ってみると、映画俳優では、ブラッド・ピットやウィル・スミス、ジョージ・クルーニーとか、ベン・アフレック、ロバート・デ・ニーロ、レオナルド・ディカプリオ、ジョディ・フォスター、リチャード・ギア、 ショーン・ペン、スーザン・シャランドン、スパイク・リーら数の上でもセレブ度でもマケインを圧している。長年、共和党を支持してきたデニス・ホッパーも今回はオバマ支持を明言した。『W』でブッシュ役を演じたジョシュ・ブローリンもオバマ支持だ。ミュージシャンに至っては、ボス、こと、
ブルース・スプリングスティーンをはじめ、このあいだNYでオバマ支持のコンサートをボスとともに開いたビリー・ジョエルや、スティビーワンダー、バート・バカラック、ボブ・ディラン、シャキーラなど大物が目白押し。テレビ司会者のオプラ・ウィンフリーもオバマ支持をはっきり打ち出している。それで番組を降りるとか全然ない。さきにも記したように、文化風土が日本とは違うのだ。マケイン支持のセレブ・リストはオバマに比べると寒々としているが、クリント・イーストウッドが目立つ程度。なぜかアーノルド・シュワルツェネガーとかブリットニー・スフィアの名前がない。芸能・文化の世界はもともと民主党が強いと言われているが、この選挙戦でもその傾向がよりはっきりしているようだ。
  今日も、NY株式市場は、500ドル以上下がり、また9千ドルの大台を割った。有権者の不安心理が広がり、雇用、生活水準、社会保障といった身近な問題が、これからの選挙戦の行方を大きく左右するだろう。その時に、「Joe the Plumber=平均的な勤労者象」をどこに定め、彼らにどのような未来像を提示できるか。このことが最終的に有権者の判断基準になるのかもしれない。

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kanehira_spiral3.jpg【プロフィール】 金平茂紀(かねひら・しげのり)
1953年北海道旭川市生まれ。1977年に在京の民間放送局に入社、以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコ ープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、同局で筑紫哲也氏がアンカーマンをつとめるニュース番組のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。

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【バックナンバー】
■10/21 「アカ」とか「邪教」というレッテル貼り
■10/20 オバマが優勢なのだけれど

ジリジリと後ずさりながら解散に追い込まれる?麻生内閣

発足直後には多少ともハネ上がった麻生内閣の支持率だが、1カ月近く経って早くも目に見えて下降し始めた。国会で補正予算やインド洋自衛隊派遣法などの実績を積みつつ、野党第一党の民主党に一撃を食らわせた上で解散を窺うことで負けを少しでも小さくしようという麻生太郎首相の計算は狂いが生じ、その一方、公明党はもちろん自民党も現場は選挙に向けて走り出していてすでに歯止めをかけるのは難しい。股裂き状態の中で、結局は言われているように11月 30日投開票に雪崩れ込んでいく公算が大きい。

各社の調査では、9月下旬の麻生内閣発足後と10月中旬の国会山場を乗り切った段階とを比べて、内閣支持率がアップしているところも不支持率がダウンしているところも皆無で、失望の広がりは覆うべくもない。特に毎日の数字は厳しく、支持率は45%から36%へ10ポイント近く下落し、不支持率は 26%から41%へ15ポイントも跳ね上がった。政党支持率でも、自民党が僅かながらアップしたのは読売だけで他はいずれもダウンし、民主党は共同がややダウン、朝日が同じ、他の3つはアップしている。

解散を先延ばしすれば一発逆転の機会が巡ってくるかもしれないという期待と、逆にズルズルと支持率を失って、解散も打つことが出来ないまま「麻生じゃダメだ」という麻生下ろしの空気が広がるかもしれない不安との間で、麻生の気持ちは揺れ動いている。

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2008年10月21日

金平茂紀のカウントダウン米大統領選(10/21)

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▼10月21日(火) 「アカ」とか「邪教」というレッテル貼り

どうみても、オバマの優勢が動かないとなると、投票日まで、この後はlandslide victory(地滑り的勝利)か、それともdramatic upset victory(劇的な逆転勝利)のどちらかということになる。インディアナやフロリダで開かれたオバマの支持者集会には記録的な数の人々が押し寄せていた。劣勢に立たされた候補者マケインの側は、焦ってなりふり構わずの戦術をとる傾向がますます顕著になる。だから、ネガティブ・キャンペーン(中傷攻撃)に走る。
CNNやWebサイトで今日、話題になっているのは、ヴァージニア州のウッドブリッジという町で行われていたマケイン支持者の集会での1シーンだ。一部の熱狂的なマケイン支持者が、ステッカーを配りながら「オバマは社会主義者で、イスラム過激派ともつながりがある」とガナっていた。その語り口があまりにも露骨で、取材記者がその男性に食い下がって説明を求めていたところ、穏健派とおぼしきオバマ集会責任者らがやって来た。彼らは「お前らは憲法を理解していないのか。イスラムもキリスト教も信教の自由があるんだ」とか非難し始めて、結局は社会主義者とか言っていた連中がすごすごと退散していった一部始終が撮られている。
http://www.huffingtonpost.com/2008/10/20/muslim-mccain-fans-confro_n_136203.html
 つくづく、どこの社会でも同じだと思う。社会主義者? 昔の日本だったら「アカ」という言葉がこれにあたるのだろう。オバマの一体どこが社会主義者なのか。今、もっとも「社会主義的」なのは、金融危機に際して、末期ブッシュ政権がとった破綻金融機関の買い取り=国有化、公的資金注入を柱とした金融安定化法であるというのに。サラ・ペイリンも、CNNの単独インタビューに答えて、オバマが社会主義的だという主張を繰り返しているのだ。
イスラムというレッテル貼りにしても、オバマはキリスト教徒であって、イスラム教徒というのは根も葉もない話だ。マケイン陣営は、こういう狭隘な戦術をとることによって、決して数の少なくないイスラム教徒を敵に回したことになるのだ。「アカ」と「邪教」というレッテル貼りは、21世紀のアメリカにおいて、まだ威力を保っていると思われている。もっとも日本でも、こういうダーティーな戦術がまだ有効らしいが。
 しばしば足を向けているコロンビア大学のキャンパスでみつけたスティッカーがこれである。いわく「カール・マルクスは正しかった」と。アメリカにおいては、おそらく1%にも満たない少数派の人間たちが、この国にもまだ生き残っているらしい。

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kanehira_spiral3.jpg【プロフィール】 金平茂紀(かねひら・しげのり)
1953年北海道旭川市生まれ。1977年に在京の民間放送局に入社、以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコ ープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、同局で筑紫哲也氏がアンカーマンをつとめるニュース番組のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。

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【バックナンバー】
■10/20 オバマが優勢なのだけれど

三浦和義の『死』が遺したもの

「ロス疑惑」で知られる三浦和義氏の突然の訃報は、因縁の場所、ロサンゼルスからもたらされた。「疑惑の銃弾」と呼ばれた日本犯罪史に残る逮捕劇は主役の死によって幕を下ろされた。「稀代のトリックスター」、「生まれながらの悪」と囁かれた三浦和義氏が、死して遺したものとは。

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【関連記事】
■「三浦元社長は他殺だった」弁護側病理学者が独自調査(10/17・朝日新聞)

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高須基仁氏(モッツ出版・代表取締役)
「三浦の死には4つの意味がある」(10/21)

私は確信を持って自殺だと思っている。三浦は、『俺の人生はロスにはじまり、ロスに終わる』と俺に言った。その心は、ロスの保険金で始まってロスの保険金で終わるという最後の伝言だったと思う。

いくら保険金を掛けていたのか、誰が掛けたかは知らないよ。けど、誰が貰うかは大体、想像がつくよね。今回の自殺か他殺かの騒動は、保険金を巡っての駆け引きだよ。そもそも、自殺だろうが他殺だろうが、これはロス市警の完全な不手際だよね。留置場で死んだ場合の過去の判例を見ると、だいたい1億円の訴訟が起こって、約5000万円で結審している。弁護人を務めたマーク・ゲラゴス弁護士と原告の三浦夫人が折半して2500万円くらいを想定しているんだろう。つまり、一般論として、弁護士が『他殺だ』と言っている背景には、保険金給付額に対する駆け引きがある。弁護士からすれば、言葉は悪いが『死んでくれてラッキー』だと思っているでしょう。これで最低でも数千万円は取れると考えている。

三浦との長年の付き合いから考えても、死の直前の三浦の胸中を察することは難しい。けれど、もう一度闘う体力と気力はあったと思うよ。でも、もう疲れたんだよね。やっぱり還暦を過ぎるとね、俺と一緒に40歳から約20年間、闘ってきた。それをもう一度繰り返す体力と気力はあったとしても、やっぱり疲れたよ。俺も。

今回の三浦の死によって謎は残ったままになった。だけど三浦の死には4つの意味がある。ひとつは、日本犯罪史というものがあるなら、三浦は間違いなく歴史に名を残した。二つめは、一事不再理の原則は自殺だろうが他殺だろうが結果的に守られた。三つめは、共謀罪という悪法が日本で論議されることはなくなった。最後に、死して保険金と損害賠償金を残した。

一番最初の一美さん殴打事件では殺人に問われ、銃撃事件では保険金を受け取ったがいくらか返還した。だから最後に、保険金が回り回って、こういう形になったのかなと。保険金にはじまり、保険金に終わった。

とにもかくにも、『I am tired』だよ。俺はそう思ってる。

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二木啓孝氏(ジャーナリスト)
「ロスに移送されたとき、すでに覚悟していた」(10/21)

三浦氏の死因は他殺ではなく自殺でしょう。そもそも、(死因について)疑義をはさむことはアメリカではよくある話です。

情報がまだ少ないのですが、発表の延長上で言えば、首にうっ血があったということも低い状態で首を吊ったことが原因だと思います。

つまり、天井からぶら下がって足が床につかない場合、首がギュッと1回で絞りますが、120cmの低いところから首を吊ったそうですから、そうなると首が絞まるところが不均等になります。ただ、腹部に殴打の後があったということについては、今のところその理由は不明です。

●三浦氏の人物像

三浦氏は自分のいい材料を集めて理屈を作る人で、「演技性人格障害」とも言われていました。私は「三浦氏に交換殺人を持ちかけられた」という2人の人物に話を聞いたことがあります。

交換殺人について三浦氏本人に問うと、彼は「あれはゲームだ」と言う。また、無罪判決が出た後も「無罪判決だけど、無実ではない」と本人に言ったこともあります。ですが、彼はそれを聞いて怒ったりすることはありませんでした。お酒は飲めないのですが、かわりにジンジャーエールを朝まで1ダース飲んだりと、いろんな意味で興味深い人物でした。

●自殺を選んだ理由

アメリカは陪審員制ですから、誰かに「日本で事件をこのようにして逃れてきた」と裁判で語られたら、有罪になる可能性は高い。共謀罪は最低で懲役25年、最高で終身刑です。三浦氏は61歳だったので、「86歳まで牢獄で過ごすくらいなら・・」と考え、自らの死を選んだのではないでしょうか。

思い起こすと、サイパンで拘留されていたときはまだ人権問題や逮捕の不当性を訴えていたのですが、それが突然ロスに行くと言い出した。その時に私は「おかしいな」と思ったのですが、今になって考えると、その段階ですでに自分で自分のことを決着つけようと考えていたのかもしれません。

2008年10月20日

金平茂紀のカウントダウン米大統領選(10/20)

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▼10月20日(月) オバマが優勢なのだけれど

「こもんず」からの読者の皆様。お久しぶりです。「業務外日誌」はいったん閉じましたが、まだまだいろいろ言いたいことが山積しているのです。そう簡単には黙りませんので(笑)。

  *       *         *

今日から米大統領選挙の日報を連続して記していきたい。と言うのは、これはかなり根源的な変化がこのアメリカで起きるかもしれないという予感があるからだ。そのことを見越しているから、この2週間あまりの空気は、メディア上の些事まで含めて、記しておく価値があると思うのだ。
日報ベースで連続調査をしているGallupの調査では、オバマとマケインの差は、52%対41%と11ポイントまで広がった。この週末は、例の共和党副大統領候補サラ・ペイリンが、NBCの夜の人気番組「サタデー・ナイト・ライブ」に出演していた。この番組では、女優のティナ・フェイが彼女の物真似(しかも皮肉たっぷりに)をしていたのが大いに受けて、一種の名物コーナーになっていたのだ。そこに本物が登場したとあって、何とその夜の視聴者数は過去最高を記録し、1400万人もの視聴者数を獲得したそうだ。僕もその夜の番組の後半をみていたが、彼女は政治家というよりもエンターテイナーとしての才能の方が豊かだと確信して、なかば呆れた。彼女のパフォーマンスがどの程度、マケイン陣営にプラスに働いたのかはわからないが、番組が終わってからも、インターネットで彼女の出演ぶりを検索した人たちの数が幾何級数的に増えていたのだという。
また、きのう日曜日の朝には、コリン・パウエル元国務長官がオバマ支持を表明した。NBCの朝の「ミート・ザ・プレス」に出演してトム・ブロコウのインタビューに答え、オバマ支持を表明したのである。彼はブッシュ政権の国務長官を務めた人物である。同じ黒人というファクターを割り引いてみても、彼が共和党のマケインではなく、民主党のオバマを支持したインパクトは相当に大きいと言わねばならない。パウエルは「我々は、転換期にふさわしい人物(transformational figure)を求めている。世代交代(generational change)を促す大統領が必要なのであって、だからオバマを支持する」と明言したのだ。
メディア・イベントとしては、これら2つはとても面白い出来事なのだが、肝心のNY市場の動きは、月曜日ごとの暴落というサイクルが今日のところは起きていない。バーナンキFRB議長やポールソン財務長官の前向きの発言によって株価はあがって、心理学のゲームのような形で、株式市場が形成されているのである。
まだまだ、この2週間のあいだに何が起こるかわからない。しかし、オバマの優勢は現時点ではゆるぎない現実である。オハイオ州の「Joe the Plumber」(配管工のジョー=アメリカ人の典型的な労働者像)や、「ブラッドレイ効果」といわれる人種ファクターのありようを見据えながら、この2週間を見ていかねばならない。
先週の金曜日からは、人間ブッシュを描いたとされるオリバー・ストーン監督の『W』が公開されたばかりだが、集客数は4位と客の入りはあまりよくないようだ。国民のブッシュ離れが映画においても顕著だ。つまり、ブッシュ政権に国民はうんざりしているのだ。このことは民主党にとっては追い風であり、マケインにとっては、いくら「一匹狼」とは言っても不利に働くのだろう。僕もこの『W』はみてみたが、チェイニーに操られるおバカさんのブッシュ、その実像は父親に対するコンプレックスに突き動かされた哀れなものだ、との描き方には、ちょっと不満が残る。オリバー・ストーンはどうしちゃったんだろう?

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kanehira_spiral3.jpg【プロフィール】 金平茂紀(かねひら・しげのり)
1953年北海道旭川市生まれ。1977年に在京の民間放送局に入社、以降、一貫して報道局で、報道記者、ディレクター、プロデューサーをつとめる。「ニュースコ ープ」副編集長歴任後、1991年から1994年まで在モスクワ特派員。ソ連の崩壊を取材。帰国後、同局で筑紫哲也氏がアンカーマンをつとめるニュース番組のデスクを8年間つとめる。2002年5月より在ワシントン特派員となり2005年6月帰国。報道局長を歴任後、2008年7月よりニューヨークへ。

米国式金融資本主義の大崩壊――その先に何があるのか?

takanoron.png サブプライム問題に端を発した米国式金融資本主義の大崩壊は止まるところを知らない有様で、米政府の金融安定化法(10月3日)、その不備を「国際協調」で補おうとするG7の「断固たる対応」声明(10日)、その限界を大手銀行への「一括資本注入」でしようとした米政府決定(14日)といった堤防が次々に決壊して、世界金融動乱はますます深刻化している。


 米国式金融資本主義が破産したのは疑いないとして、金融は、資本主義は、そして米国はこの先どうなるのかという議論が高まるのは当然である。

●社会主義には戻らないにしても

 野村ホールディングスの渡部賢一社長は、17日付毎日新聞の「米国型資本主義は終わったか?」と題したインタビューで、「投資銀行のビジネスモデルや米国型資本主義は終幕したと言われています」という問いに、こう答えている。

「マスコミが言っているだけだ。この4、5年、世界中で過剰流動性(金余り状態)が進行したことで、行き過ぎが生じた。異常なレバレッジ(元手が少ないのに巨額借り入れで過剰な投資をすること)はなくな
ると思うが投資銀行業務そのものはなくならない。ヘッジファンドも一定部分以上はあだ花だったが、適正なヘッジファンドは残る。正常に戻る過程が始まるのであり、マルクス、レーニンの計画経済になることはない」

 そりゃあ、いくら何でもマルクス、レーニンには戻るはずもないが、この人がまるで分かっていないのは、マルクスはもちろんレーニンも、単純な意味での計画経済など唱えたことはなく、旧ソ連型の計画経済とは、ロシア革命直後の内乱状態の下での非常事態がそのまま第1次大戦(ナチス・ドイツの対ソ侵攻)に対する戦時の危機管理体制に引き継がれていく中で、スターリンによって「これこそが社会主義だ」というように定式化されてしまった「戦時統制体制の不当な一般化」と呼ぶべき代物であって、ここで渡部が選ぶべき言葉があったとすれば「スターリン型の計画経済」である。しかし、計画経済はスターリンの専売特許ではなく、1930年の世界大恐慌に直面したルーズベルト米大統領が採用したケインズ型の政府による市場への介入もまた計画経済の一種であって、その意味でスターリンとケインズには同時代性があった。渡部は「スターリンの計画経済にもケインズの計画経済にもならない」と言いたかったのかどうか。もしそうなら、ルーズベルト由来のケインズ型の流れを断ち切って新自由主義モデルを導入したレーガン政権以来の米国の生き方が破綻した今、スターリン型があり得ないのは当たり前とし
て、ケインズ型もないのかどうか。現にブッシュ政権がやっていることは、広い意味のケインズ型への逆流と言えないこともない。そう考えると、渡部の言い方は二重三重に不正確である。

 要は、政府の失敗と市場の失敗の競い合いという古くて新しい問題であって、今は市場が失敗した上に政府も失敗しつつあるという深刻な事態で、そこから抜け出すについて、政府と市場とどちらの失敗が少ない方に賭けるかという問題なのではないか。

 これに関連して、面白いのは、米誌ニューズウィーク10月8日号で中国の温家宝首相がインタビューで「中国の急激な経済成長の成功のカギは何か」の問いに答えて、次のように言っていることである。

「78年に導入した改革開放路線だ。われわれには重要な考えがあった。それは社会主義が市場経済を実践できるというものだ。マクロコントロールと規制の下、資源の分配で市場の基本的役割を十分に発揮させる。アダム・スミスは『国富論』で市場原理について書いているが、彼は社会の平等と正義についても書いている。そこでは、富を分配する政府の調整能力の重要性が強調されている。富の多くが一部に集中すれば、国家の調和と安定性が脅かされる」

 中国の首相からアダム・スミスについて講義を受けるというのも驚きである。確かにスミスは、1776年に書いた主著『国富論』では理論の基礎に「利己心」を据えたが、その17年前に書いたもう1つの主著『道徳感情論』では「利他心」とそれに基づく「同感の論理」を重視し、こう述べた。

「人間がどんなに利己的なものと想定されうるものにしても、自由で平等な利己的個人の平和的共存が権力の介入なしに可能なのは、同感の論理の存在ゆえである。利己心も同感の論理に支えられなければならない」

 利他心を失った利己心の暴走が権力の介入を招いたというのが今日の米国だろう。伊東光晴=京都大学名誉教授は、そのことに触れつつ、「21世紀は、利己心と利他心のバランスを欠いた覇権国アメリカの、崩壊の世紀になるかもしれません。……これに対して21世紀の少なくとも前半は、中国経済の成長発展の世紀となるでしょう。中国は……豊かな未知の資源に恵まれ、アメリカの数倍の可能性を秘めた市場を持っています」と指摘している(エコノミスト08年4月15日号)。

 私はINSIDERNo.429(08年2月14日)で「中国型の『社会主義市場経済』、すなわち一部は社会主義的に制御された市場経済というのは、これまでは『共産党一党独裁の下で市場経済を発展させることなど出来るはずがない』という幼稚な偏見に晒されていたけれども、もしかしたら米欧型の金融資本主義を超える、コントロールされた資本主義の別のモデルになるのではないか」と述べておいたが、北京指導部がまさにそのような問題意識に基づいて中国経済の運営を図ってきたのだとすれば、伊東の言うように、21世紀は中国の世紀となるのかもしれない。

●行き過ぎの是正で済むのかどうか

 さて、投資銀行業務そのものはなくならない、と渡部が言うのはその通りだろう。が、投資銀行業務はなくならないとしても、「ビジネスモデルとしての投資銀行」はすでに消滅した。米投資銀行(証券会社)第5位だったベア・スターンズは破綻して米商業銀行第2位のJPモルガン・チェースに買収され(3月)、第4位だったリーマン・ブラザーズも破綻して米国部門は英バークレイズ銀行に、欧州・中東・アジア各部門は野村ホールディングスに、分割・買収され(9月)、第3位だったメリル・リンチは米商業銀行第2位のバンク・オブ・アメリカに買収され(同)、生き残った第1位のゴールドマン・サックスと第2位のモル
ガン・スタンレーは銀行持ち株会社に移行し(同)、こうして投資銀行というものそのものがなくなってしまった。

 ということは、1933年グラス・スティーガル法(銀行法)に基づく商業銀行と証券の分離の75年間に及ぶ歴史が終わったということである。グラス・スティーガル法は、証券取引のような価格変動リスクが大きい業務を銀行が手がけていると、預金者保護の責務が果たせなくなる危険が大きいということで、銀行業務と証券業務の兼営を禁止し、また銀行が証券会社を系列下に置いたり、両者の役員を兼務することをも禁止したもので、日本の証券取引法65条の銀証分離もこれをモデルとしている。これは、銀行に節度を保たせるという点では大いに効果があったが、逆に証券側は節度を失って、その本来の業務から次第に乖離して、もっと大きいリスクを賭けて一か八かの巨莫利益を求める「投資銀行」へと発展を遂げることになった。

 証券会社らしい業務とは、(1)投資家からの委託を受けて証券を売買して手数料を受け取るブローカー業務、(2)自己資金でポジションを組んで公共債などを売買するディーリング、(3)企業が株式や債券を発行する際にそれを支援し、一旦引き受けた上で投資家への販売を行うアンダーライティング業務などである。

 それに対して投資銀行が扱うのは、(4)企業の合併・買収の仲介と助言で手数料を得るM&Aはまだしも、(5)これから買収しようとする相手先の資産やキャッシュフローを勝手に担保に入れて買収資金を調達し、買収が成功した暁にはその企業の資産を売却したり、キャッシュフローを流用したりして返済をしていくという、企業強奪に等しいLBO(レバレッジド・バイアウト)、(6)株式や債券では気が済まずに、不動産、通貨、原油、商品などありとあらゆる投機市場でのプリンシパル(自らが投資主体となった)ビジネス、さらには(7)金融技術を駆使して複数のリスクを組み合わせて新しい金融商品を組成して、それを小口に分けて売り飛ばす「証券化」、(8)その証券化の怪しい部分をカバーするための装置としてのヘッジファンドやモノラインや格付け会社の育成・提携・貸出や、あるいは本体では扱えないリスキーな投資を簿外で行うためのSIV(仕組み投資会社)の設立などによる裏での荒稼ぎ――などで、これらを通じて投資銀行は、ハイ・レバレッジ、ということはそれだけハイ・リスク&ハイ・リターンの金が金を生む資本主義のカジノ化を主導することになった。

 この投資銀行全盛を見て商業銀行側が嫉妬したのは当然で、99年のグラム・リーチ・ブライリー法(金融制度改革法)によって銀行の証券業務はじめ投資銀行業務への進出が認められることになった。この境界溶融によって金融バブルは米欧のすべての金融機関を巻き込んでさらなる膨張を遂げ、今日の危機を招いたのである。

 倉都康行=RPテック代表取締役はこう指摘する(エコノミスト08年9月30日号)。「商業銀行は特にバブルが発生しなくても、融資という利ざやのストックで生計を立てる余裕がある。一方で投資銀行は、バブルを作り続けないと人件費やシステム費用など巨額に膨れあがったコストを賄えない。現代の投資銀行は、何らかのバブルが発生していないと経営が揺らぐという、危険な土壌にそびえ立つ摩天楼なのだ。投資銀行の役割や性格を考えれば、彼らが簡単に衰退するはずもないと考える人は少なくないだろう。ただし、世の中に永久機関が存在しないように、バブルを作り出しながら生き延びる戦略は、永続しないビジネスモデルである」

 確かに、商業銀行は余裕があるので投資銀行を買収したのだし、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーは銀行持ち株会社に移行することで余裕を作り出そうとしたのだろう。そのようにして投資銀行業務は銀行の一部門として生き残るに違いないが、倉都の言う「バブル的経営」は、今後予想される厳しい法的規制という面からも、投資家に見向きもされなくなるという面からも、国民の怨嗟に満ちた監視の目から逃れられないという面からも、存続不可能で、だとすると次には一体何を目指すのか。そこが明確でないまま単に銀行の中に身を潜めても、逆に銀行そのものを内部から浸食して一層深刻な金融危機を準備するだけに終わることにもなりかねない。なぜなら、商業銀行はすでに99年以降、投資銀行の道を追いかけていて、今年前半の統計を見ると、株式・債券の引き受けやABS(資産担保証券)の引き受けでは投資銀行を上回り、また新規公開株式発行やM&A助言の業務でもそれと同等の地位を占めていて、新たに投資銀行を抱え込まずとも、とうの昔に投資銀行化しているからである。

 御立尚資=ボストン・コンサルティング日本代表は日本経済新聞10月17日付「経済教室」欄で「投資銀行は“原点回帰”へ」と論じ、こう言っている。「[投資銀行は]商業銀行の3~4倍のレバレッジ(てこ)
をかけ、実体経済と距離を置き、自らリスクを取るビジネスに傾斜していった。……投資銀行業務を取り込んだ商業銀行、すなわちユニバーサルバンクは、行き過ぎたレバレッジを調整する中で、当面、より実体経済に近い業務に注力することになろう。一種の揺り戻し、原点回帰だ」と。

●市場が解決できない価値

 しかし、事は「レバレッジの調整」程度で済む話なのか。投資銀行の実体経済からの乖離というのは現象論で、その裏に潜むのは、実体論次元では、71年にニクソン政権が断行したドルと金の交換停止による金の裏付けのないドルの大量印刷とそれ故の80年代以降の過剰流動性を背景に、為替が貿易とは無関係に投機資金によって左右されることになってしまった金融の実生活に対する反作用であり、より本質論次元で言えば、つまりは財と貨幣の乖離である。

 思想面で言えば、この過剰流動性の暴走による不安定化を肯定し合理化さえして扇動したのは、ミルトン・フリードマンらシカゴ学派の「新自由主義」イデオロギーである。佐伯啓思=京都大学大学院教授は「米国的資本主義が破綻する理由」という一稿でこう述べている(エコノミスト08年9月9日号)。

「“新自由主義”もしくは、今日の米国経済学の誤りは、市場経済をあたかも抽象的に組み立てられた普遍的体型とみなしてしまう点にある。市場競争原理は普遍的なものだから、どこにいても通用する、とみなされている。あらゆるものを商品化し、市場化することで、効率性は向上するとみなしている。この考え方の決定的な誤りは、“市場経済”を“社会”から切り離してしまう点にある。“社会”とは、そこで人々が交わり、生活を行い、一定の価値観を涵養する場所であり、さまざまな活動の土台を与えるものである。1人の人間が一人前の経済人になるのは、それなりの教育、文化(真津メディアや情報なども含めて)、家族、組織、そして医療や福祉などによる“支え”が必要なのである。“社会”はそれを提供する。……[しかし]過剰な市場競争は“社会”を破壊しかねない。そして、その結果として、逆に市場経済そのものがきわめて不安定化するわけである」

 してみると、投資銀行(業務を抱え込んだ商業銀行)が実体経済寄りにシフトするなどと言っても、金融が実体経済を傷つけてしまうようなこれまでの構造を変革する論理と筋道を見付けられない限りは絵空事に過ぎず、しかも、その論理と筋道を見付けるための出発点は、市場原理で解決可能な部門と、佐伯の言う“社会”すなわち市場原理が通用しない部門とを峻別するところに置かれなければならないだろう。古くは経済人類学の創始者とされるカール・ポランニーが『経済と文明』(ちくま学芸文庫)などで提起したように、非市場社会では「経済が社会に埋め込まれている」のであって、それを市場社会の論理で扱うことは出来ない。大きな三角形のてっぺんに、貨幣をも商品にする金融市場があり、その下に貨幣以外のすべてを商品とする私的企業社会があり、その下に政府・公的部門があって様々のインフラを提供しており、そこまでがGDPとして貨幣的にカウントできる世界である。しかし、その下によ
り広大な、必ずしも貨幣にだけ置き換える訳にはいかない人々の生活コミュニティがあり、さらにその下には自然の資源というものがある。

 金融経済は企業経済を前提にしなければ成り立たないのはもちろんのこと、さらにその下の公共部門や地域の実生活や自然の資源の恩恵を被ることなしには存続することすら出来ず、だからこそ金融機関や企業も社会の一員として、公共を支えコミュニティに貢献し自然を保護しなければならない。ところが新自由主義は、それらを無視し、あるいは平気で傷つけながら、すべては市場を通じて解決できると思い込む傲慢に陥った。この馬鹿げた事態が爆発しなければならなかったのは必然で、しからばいかなる価値を定立するのかが今問われていることである。▲

2008年10月18日

アメリカ大統領選 共和党の敗退は必至

アメリカ大統領選は共和党のマケイン、民主党のオバマによるTV討論会の日程を全て終了した。討論会終了後の世論調査は、3回の討論会のいずれもオバマ氏が勝利。特に、3回目の討論会終了後にCBSテレビが実施した「勝者はどちらか」との緊急世論調査では、オバマ勝利と答えた人は53%、マケイン勝利との回答は22%と、オバマの圧勝だった。

長い長い大統領選挙もこれから終盤戦に入るが、アメリカの新聞社は続々とオバマ氏支持の姿勢を表明し、次期大統領にオバマ氏が選出される可能性は高い。
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【関連記事】
■若林秀樹:最後の討論会、オバマ優位動かず(10/17)

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高野孟氏(THE JOURNAL主幹)
「ペイリンを選んだことで自滅した」(10/19)

ワシントン・ポストに続いてロサンゼルス・タイムズもオバマ支持を表明した。LAタイムズが社説で態度を鮮明にしたのはニクソン出馬の時以来3分の1世紀ぶりのことだそうで、この延長上には、現在の支持率の差を踏み越えて雪崩的なオバマ勝利が起きそうな気配さえ感じられる。両紙とも、オバマ支持の理由の有力な1つに、共和党マケインがペイリンを副大統領候補に選んだことを挙げていて、マケインがかなり高齢で健康に問題がない訳ではなく、いざという時に彼女が米国の全権を掌握することになることを思えば、それは当然の判断である。マケインは彼女を選んだことで自分を、そして大統領職を戯画化してしまい、自滅した。
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渡部恒雄氏(戦略国際問題研究所非常勤研究員)
「次期大統領はオバマにほぼ決定」(10/18)

(次期大統領は)オバマにほぼ決定したのではないでしょうか。最後の討論会でも「マケインもいいな」と思わせるところはほとんどありませんでした。1回目の討論会は両者互角の印象でしたが、2回目、3回目はオバマが優勢でした。

オバマは大統領になったら自分は何をしたいかについてクリアに話しています。一方のマケインは、質問に直接関係ないことを必要以上に多く語った印象があります。しかも、内容が「何がしたいか」ではなく「オバマの政策はこんなに悪い政策だ…」というネガティブなことが中心で、肝心の「自分が何をしたいか」ということを十分に言えていない。

例えば、マケインは減税政策におけるオバマ候補との違いに重点を置きました。「オバマは庶民へも増税する」というのがマケインの主張です。アメリカでは今まで「ブッシュ減税」により、すべての所得層に平たく減税措置をしてきています。しかし、オバマは1つの家庭で年収が25万ドル(約2500万円)以上の人には減税を継続しないが、25万ドル以下の人たちには減税を継続すると主張しています。結果的に25万ドル以上の世帯には増税になりますが、それ以下の人たちには増税ではありません。

一方のマケインは、「すべての所得層での減税継続」を主張していて、逆に民主党からは金持ち優遇と財政赤字をさらに悪化させるとの批判がされています。そこでマケインは、「配管工のジョー」という実在の人物を例に出しました。ジョーは、オハイオ州に選挙運動に来たオバマに対し、「自分の勤めている一年の収益が25万ドル以上の配管会社を買収しようと考えているが、あなたの政策では増税になるのではないか」と質問した人物です。それをマケインが取り上げ、オバマの政策では「ジョーみたいに真面目に働いている人間が増税となってしまう」と語り、「私の政策ならジョーには減税になる」と批判しました。問題は、この議論ではオバマ候補の政策の欠点はわかりますが、マケインの政策の具体的な内容は、有権者には伝わりません。

しかもこの議論には落ちがあります。その後、「配管工のジョー」にメディアが押し寄せ、「その配管会社の実際の規模の収入ではオバマの増税対象には届かない」ということが指摘され、さらには「ジョーは無免許の配管工で、所得税も滞納している」と報道され、最後にはマケインがジョーに謝罪するという顛末となりました。

そもそも、「年収25万ドル以上の会社を買収できるぐらいの収入だったら、庶民レベルとはいえないのではないか」という疑問が討論会直後に指摘されていました。さらに、オバマが討論会で主張したのは、米国経済全体が厳しいときに、富裕層も今より少しぐらい税金をとられることはある程度覚悟しているだろうということです。彼は「僕の友達にウォーレン・バフェット(アメリカの著名な投資家)がいるが、彼は納得してくれるだろう」と語りました。

このオバマの発言は特定の支持層だけの利害にとらわれずに、米国全体を視野にいれた「大統領らしい」発言と受け取られたのではないでしょうか。全体の議論を通じて、オバマの方がゆったりと落ち着いて話し、「大統領らしい」雰囲気をかもし出しているのに比べ、細かいところばかりを問題にしているマケインは余裕がない小粒候補の印象を有権者に与えたと思います。

マケイン候補は、オバマが1960-70年代に反政府過激派組織のメンバーだったイリノイ大のエアーズ教授との関係を明らかにすべきだと、討論で持ち出しました。しかし、エアーズが過激派で活動していたとき、オバマは8才。その後、エアーズは教育学の大学教授になり、10年前に地域コミュニティーのための教育改革の委員会に、オバマとともに参加しました。しかしオバマは、その活動は、共和党のレーガン政権の大使を務めた人物により資金提供され、他のメンバーには共和党員もいると反論しました。マケインはそれに対し、「エアーズとは結局委員会で一緒だったのだね。事実は事実、記録は記録だ」という頑迷な返答をしました。

問題は、このような「いいがかり」に近い話題をわざわざ持ち出さなければならないマケインは、相当に追い詰められているということです。対照的に、オバマはマケインがネガティブな話題を持ち出した場合、最低限の反論はしますが、泥仕合にならないように答えを長引かせず、自分の政策はどのようなものかを、ポジティブにクリアに語るわけです。

今回は討論会のテーマが内政・経済に限定されていたので、得意な外交問題に触れることができなかったことも、マケインがネガティブな話題に走った理由かもしれません。特に経済は、マケインは自他ともに認める苦手分野ですので、金融危機が選挙の最大争点になったこと自体が、マケインの勝機を奪ったといえるかもしれません。

2008年10月17日

山口組傘下の後藤組組長「絶縁」報道は誤報!内部抗争は起こらない

17日朝刊で産経新聞や毎日新聞が報じた、「指定暴力団山口組が2次団体の後藤組の後藤忠正組長(66)を絶縁処分した」との報道が誤報であることが分かった。

暴力団事情に詳しい宮崎学氏によると、「絶縁処分ではなく除籍引退。産経や毎日の報道は誤報」とのことだ。

また、産経新聞は記事内で山口組内部での抗争の可能性についても言及しているが、「抗争にはなりません。毎日、産経新聞が報じた絶縁というのが誤報であって、後藤忠正組長の正式な扱いは”除籍引退”ですから、絶縁ではなく引退という表現が正しい。よって各新聞が報じているように、今後、抗争に発展することはありません」と、宮崎氏は分析している。

後藤組長は山口組の会合を欠席して、今年9月に芸能人数名と静岡県内でゴルフコンペに参加していたことが山口組から問題視されたという。週刊新潮(10月9日号)によれば、ゴルフコンペには俳優の小林旭や中条きよしらが参加していたという。

2008年10月16日

株価が乱高下する決定的な理由

15日のアメリカ市場が過去2番目の下落幅を記録したことを受け、16日の東京株式市場でも日経平均株価は急反落し、前日比1089円2銭安の8458円45銭となった。

破綻した証券会社の買収、アメリカの金融安定化法の成立、公的資金の注入など、世界各国は異例のスピードで対策を打っているが、いまだに金融市場が安定する様子は見えていない。
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【関連記事】
■世界で相次ぐ銀行国有化でマルクス主義が甦った!?(高野孟)
■世界が崩れる!NYダウ9000ドル割れ 日経も一時8115円に(田原総一朗)
■日経平均一時1万円割れ NYダウ4年ぶり1万円割れ(高野孟、三菱UFJ証券社員)
■金融安定化法案否決!金融危機はさらに混迷(若林秀樹)
■三菱・野村は米金融危機で“漁夫の利”を得るのか?(須田慎一郎、高野孟、財部誠一、田原総一朗)

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田原総一朗氏(ジャーナリスト)
「公的資金の財源が決まらないかぎり、株価は安定しない」(10/16)

株が乱高下するのは当然だ。

10月10日に金融恐慌を避けるためのG7が開かれた。その前に、アメリカは銀行が保有する不良債権を買い取るための処理機構をつくることにした。ところが、アメリカ国民は税金の投入に大反対しているため、肝心の処理資金の財源がいまだに決まってない。金融市場が安定しない理由はここにある。

税金を投入できないとなると、アメリカは国債を発行するしかない。だが、国内だけでの調達は難しいので、アメリカ以外の国がアメリカ国債を買うしかない。
実は、国債の買取先として、アメリカは日本に期待している。サブプライムローンの損失は200兆とも300兆とも言われていて、アメリカもヨーロッパも大きな損失を出しているが、日本の損失は約1兆円でほとんど無傷だからだ。

そのため、中川昭一財務・金融大臣がアメリカに行ったとき、世界は大歓迎した。アメリカもヨーロッパも日本に期待している。しかし、裏を返せばこれは「日本から金をむしりとってやろう」と考えているにすぎない。

中川大臣はワシントンで大歓迎されながらも、相手の魂胆が見えているから表情が暗かった。中川大臣は民族主義者だから、本心ではアメリカの損失をかぶるのは嫌に違いないが、今の世界の状況からすると日本は10兆円ぐらいは受けざるをえないかもしれない。25兆円を捻出する資金源が決まらない限り、株価の安定がないからだ。

2008年10月15日

拉致問題はこれからどうなるのか

麻生太郎首相は14日の衆議院予算委員会で、アメリカが北朝鮮へのテロ支援国家を解除したことについて「われわれは不満だ」と述べ、アメリカ政府に不快感を示した。

また、今後予定されているエネルギー支援には参加しないことを明言し、あくまで拉致問題の解決がない限り日朝交渉は進展させない考えを明言した。

6カ国協議で露骨な“日本外し”をされたことでいらだちを隠せない麻生首相だが、いつまで強硬な姿勢を貫けるのか。拉致被害者の家族も高齢化していることもあり一刻も早い問題解決が望まれるが、そこまでの道筋は現時点でまったく見えていない。
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【関連記事】
■田中良紹:拉致はなぜ起きたか(10/15)
■辺真一:アメリカ敗北 北朝鮮テロ指定解除!(10/12)
■若林秀樹:テロ支援国家指定解除、オバマ賛成、マケイン反対(10/13)

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辺真一氏(コリアレポート編集長)
「あとはひたすら待つのみ」(10/14)

いま、日本は非常に辛い立場にある。アメリカがテロ支援国家から北朝鮮を外したことは、「拉致はテロではない」と言っているようなもの。日本の「拉致はテロ」という主張は崩れ去ってしまい、面目は丸つぶれだ。

では、今後も日本は北朝鮮に強硬な立場を貫くことができるのか。

北朝鮮には50万トン近くの重油支援が残っているが、そのうち20万トンが日本の分担となっている。日本からすれば「重油支援をしない」という戦略もありうるが、実はこの戦略では北朝鮮は困らない。多くの人が誤解しているが、北朝鮮からすればどの国が財布の紐を弱めようがどうでもいいこと。日本が出さないのなら、韓国、中国、ロシア、アメリカのいずれかが負担すればいい。

中国とロシアは日本に負担させたいと考えているが、何も自国に余裕がないわけではない。アメリカと日本に責任を負わせたいだけだ。となると、日本が支援を拒否すると困るのはアメリカということになる。重油支援を行わないと日米関係はギクシャクするだろうが、北朝鮮にとってそれはどうでもいいことだ。

もちろん、重油20万トンの負担を日本できないのであれば、最終手段として6カ国協議から脱退するという方法もある。だが、現実的には不可能だろう。
6カ国協議から脱退した国が、国連安保理の常任理事国になることはできない。アジアでリーダーシップを発揮できず、国際社会の役割も担わない国が、ましてや北朝鮮という隣国の問題で何の影響力も持てない国がドイツと同じように新しく国連常任理事国にはなれないからだ。

結局はカネ(北朝鮮への重油)を出すのか出さないのかということになる。出さないのであれば、アメリカや韓国やその他の国に何を言われようが、後は我慢するだけ。

残った選択肢は北朝鮮が拉致問題で誠意を示すまで「ひたすら待つ」。それしかない。

2008年10月14日

選挙管理内閣の悲哀 麻生首相が解散できない衝撃的な数字

麻生首相が解散の引き伸ばしに苦心している。

本人は金融危機やテロ特措法の対応を優先課題として「政局より政策」と言うが、永田町関係者でそれを信じる人間はいない。麻生首相の本心は、政局の主導権を握るために「どのタイミングで解散すれば選挙で勝てるか」でしかなく、解散権を効果的に使う政局的関心でしかない。

その一方で、選挙の当落をシミュレーションした自民党内部の調査が波紋を呼んでいる。調査結果の数字は数パターン出ているようだが、いずれも与野党の過半数割れの可能性を示す数字になっていて、それが麻生首相が解散に踏み切れない理由となっているようだ。
永田町奥の院で何が起きているのか。確実にいえるのは、「自民党の惨敗をどう避けるか」ということで策略が練られているということだ。
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二木啓孝氏(ジャーナリスト)
「選挙は2度ある」(10/14)

6日付の毎日新聞によると、自民党の内部調査の数字では、自民優勢が106~107、当落線上が50、残りの130が厳しいという。比例が57~65なので、当落線上の候補者が全部通ったとしても約220議席。これが最高の議席数とすると、公明党の現有議席31を加えれば、250議席で過半数を取れる可能性がある。(241議席が衆議院の過半数)

そのほかに私が聞いた数字では、小選挙区で自民党で当選できるのは110、落選が158。ボーダーが32。ボーダーの候補者がすべて当選したとして142。比例で50を乗せると192。公明党の30を足しても過半数には届かない。これでは今の段階で選挙はできないので、選挙が延期された。

選挙は投票箱を開けてみないとわからないが、現時点での私の予測では、自民が215±10、民主215±10。
自民が盛り返し、公明党の30を乗せてたとして過半数の241になんとか届く。しかし、国会で3分の2の議席はなくなるのため、衆院再議決は不可能になり、いよいよ国会は“本格ねじれ”になる。

本格ねじれに入った段階から、自民は民主の参議院に手を突っ込み、民主は自民の衆議院に手を突っ込む。そういう構図に入って、ドタバタドタバタしながら来年にもう1回解散総選挙をする可能性もある。選挙は2度あるのだ。

世界で相次ぐ銀行国有化でマルクス主義が甦った!?

世界中で銀行の国有化が急ピッチで進められている。

アイスランドで全銀行が国有化されたことに続き、イギリスでは大手3行に総額約6兆4000億円の資本を注入、実質国有化した。ドイツのメルケル首相も、状況が悪化すれば国内の銀行を国有化することを示唆している。

一方、金融危機の震源地であるアメリカでは、ウォールストリートジャーナル紙によると金融安定化法で活用できる資金のうち約25兆円を公的資金として資本注入するという。アメリカを中心とした金融資本主義は、自らが築き上げたシステムの暴走を止めることができず、皮肉にも資本主義の敵と考えられていた社会主義的な手法によって金融システムを安定化せざるをえなくなった。

一方、世界各国が同時に公的資金の注入を表明したことにより、金融危機が遠のいたとして株価が急反発。NYダウは史上最大の上げ幅となる前週末比936ドル42セント高の9387ドル61セントで終了した。日経平均株価も先週末より上げ幅が1000円を超え、9000円台で取引が行われている。

ただ、今回の金融危機にはCDSに代表される隠れた不良債権がいまだ莫大に眠っているとされ、公的資金の注入のみで危機が完全に回避できるかどうかは不透明だ。
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【関連記事】
■世界が崩れる!NYダウ9000ドル割れ 日経も一時8115円に(田原総一朗)
■日経平均一時1万円割れ NYダウ4年ぶり1万円割れ(高野孟、三菱UFJ証券社員)
■金融安定化法案否決!金融危機はさらに混迷(若林秀樹)
■三菱・野村は米金融危機で“漁夫の利”を得るのか?(須田慎一郎、高野孟、財部誠一、田原総一朗)

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高野孟氏(THE JOURNAL主幹)
「結局は、破綻→公的資金注入→国有化とならざるをえない」(10/14)

10日に主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が打ち出した声明文は、主要な金融機関の破綻回避と市場の機能回復のために「あらゆる手段を活用する」という抽象的な決意だけのべた、英文わずか22行の素っ気ないもので、「決意は当たり前。いつどこへいくら米国が公的資金を投入すれば危機が止まるのかの具体策を聞きたい」という全世界の関心事に応えるにはほど遠いものでしかなかった。

ポールソン米財務長官としては、「あらゆる手段」の中には公的資金による金融機関への資本注入も含まれれていて、それは金融安定化法の枠内で可能なのだと強弁したいところなのだろうが、仮にそう明言すれば、米議会では「いや、同法案の審議ではそんな話は出ていない」「そこへ踏み込むなら新法が必要だ」という大合唱が盛り上がるだろう。11月改選選挙が近づくにつれ、特に共和党議員はますます視野狭窄に陥っていく。だからこそG7声明は「あらゆる手段を活用する」という文言に止まらざるを得なかった。 この米金融安定化法になぜ実効性がないかと言えば、公的資金による破綻金融機関への資本注入を何としても避けようとしているからである。そうなってしまうのは、本質的には、THE JOURNALへの9月18付の水野和夫コメントが指摘するように、新自由主義のイデオロギーに取り憑かれているブッシュが、金融機関に資本注入したり国有化したりして「お前は共産主義者か!」と非難されることを何よりも畏れていて、そんな非難を浴びるくらいならそのイデオロギーと心中した方がマシだと思い込んでいるためである。これはもう、ほとんど自暴自棄に近い。ポールソン長官もつい先日まで、「安易な(金融機関の)救済はしないという原則を尊重すべきだ」と言っていた。

金融機関を破滅させず、従って公的な資本注入を避けるという前提に立てば、必然的に、破綻寸前の金融機関をも生かしておいて、ということは経営者の法的・倫理的責任を問うこともしないで、その不良資産だけを買い取るということに公的資金の役割を限定せざるを得ない。問題はどういう価格で買い取るかだが、「簿価」で買い取れば金融機関は救われるが、それでは莫大な金額になって75兆円程度で済むはずがなく、納税者の納得を得られないし、何事も時価でという市場原理イデオロギーや国際会計基準の原則にも合致しない。では「時価」でと言っても、金融機関が抱える不良債権は売るに売れない状態になっているから不良債権なのであって時価が形成されていない。時価でと言うことは、タダ同然で投げ売りさせて不良資産を吐き出させるということと同義で、そうなれば経営破綻が確定し、経営者責任も民事・刑事責任を含めて明確化され、公的資金による資本注入による事実上の国有化で再建を図ることにならざるをえない。社会主義、万歳!

そこで同法案の苦肉の策のスキームは、逆入札と言って、より安い価格で(つまり簿価でもなく時価でもないその中間の折り合いのつくところで)売ると申し出た金融機関から順に買い取るということになっている。買い取りにも競争的な市場原理を働かせているのだというせめてポーズだけは維持しようという狙いだが、政府が「より安い価格」で買い取ろうとするのに対して、経営者は「より高い価格」で買い取って貰おうとするせめぎ合いの中で、結局はその申し出価格が「より安い」かどうかの判定は当局の裁量ということになるのだろうから、折り合いがつくのは難しく、時間もかかり、その間にも金融機関の経営がますます悪化していくことも十分に予想される。現に、同法案の成立から10日間を過ぎて、切羽詰まっているはずの金融機関のどこも逆入札に応じていない。

また仮に折り合いがついて買い取りが成立したところで、その分の損失が確定して経営の破綻ぶりが表面化し、しかも経営者は報酬制限を受けるのだから、体力が残っている金融機関はある程度まで不良債券を整理するために買い取りを願い出るかもしれないが、体力のないところはそれすらも出来ないということになるのではないか。だからこそ「いつどこへいくら」という具体策が焦点になるが、米政府・連銀はそれを打ち出すことが出来ない。

となると、結局は、破綻→公的資金注入→国有化とならざるをえないのだが、それはブッシュ政権の新自由主義イデオロギーへのこだわりと米議会のポピュリズム的抵抗とによって阻止されるだろう。ブッシュ以上に新自由主義の恩恵を貪ってきた金融界が、いくら苦しくても簡単に国有化に応じるとは考えられない。進むことも引くことも出来ない有様で、イラクとアフガニスタンの戦争がそうであるのと同様、ブッシュのような馬鹿を大統領にしてしまった米国民の自業自得が深まっていく。 

2008年10月12日

アメリカ敗北 北朝鮮テロ指定解除!

ワシントンのアメリカ国務省は11日(日本時間12日)、北朝鮮のテロ支援国家指定を解除したと発表した。北朝鮮が中断していた各施設の無能力化を再度実施するとの表明を受け、その「見返り」として決定された。

アメリカ政府は「さまざまな制裁が残っており、指定解除による影響はほとんどない」(朝日新聞)と、テロ指定解除は象徴的な意味合いであることを強調しているが、アメリカと北朝鮮の核交渉が新たな段階に入ったことは間違いない。

ブッシュ政権時代はまもなく幕が引けるが、大統領選挙後の新政権が、次の段階として実際に経済支援を行うかどうかにも注目される。

なお、アメリカは北朝鮮を1988年にテロ支援国家に指定した。今回の決定により、残るテロ支援国家はキューバ、シリア、スーダン、イランの4カ国となった。
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【関連記事】
■若林秀樹:テロ支援国家指定解除、オバマ賛成、マケイン反対(10/13)

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辺真一氏(コリアレポート編集長)
「北朝鮮にとって核無能力化は暫定的な措置」(10/12)

今回の米朝交渉はブッシュ大統領と金正日総書記の最後のせめぎあいだったが、(テロ支援国家指定解除を勝ち取ったことで)北朝鮮、すなわち金正日の外交勝利となった。

いまだかつて、武力を背景にした強硬策の外交で核兵器を廃棄した国はない。中国、インド、パキスタン、イスラエルの核保有は、国際社会は止めることができなかった。

放棄できたのはウクライナと南アフリカとリビア。ウクライナの場合はロシア、アメリカ、フランスなどが安全保障体制と経済協力を約束して核兵器を手放した。リビアもテロ支援国の解除、国交正常化、安全保障を確約させてから核を手放した。北朝鮮も同じて、国際政治では見返りがなければ核を手放すことはないのだ。

一般的には、アメリカのテロ支援指定解除は暫定的で、もし北朝鮮が検証に応じなければアメリカは再度テロ支援国指定を復活させるという。しかし、それは一方的な見方にすぎない。

アメリカにとって暫定的な措置であるならば、北朝鮮にとっても今回の核無能力化の約束は暫定的な措置である。アメリカが約束を守らなければ、北朝鮮もそれに対応して検証にも無能力化にも応じない。

具体的には、北朝鮮は今後、国連の制裁決議を外すように中国に依頼するだろう。また、国際機関から融資を受けるためにIMF(国際通貨基金)や世界銀行などに加盟すると思われる。だが、アメリカはテロ支援国家指定を除外したために、この提案に反対できない。もし反対すれば、北朝鮮は「敵視政策をやめていない」として、検証や無能力化を放棄するからだ。

これが北朝鮮とアメリカが言うところの「行動対行動、約束対約束」である。「暫定的な措置」とはアメリカの一方的な権限ではなく、北朝鮮も同じ権限を持っているということなのだ。

2008年10月11日

自作自演自爆? 麻生首相が文藝春秋で解散宣言

10日発売の月刊文藝春秋11月号に、麻生首相が解散総選挙を宣言する主旨の原稿が掲載されてしまったことに話題が集まっている。

この手記に対して民主党の輿石東参院議員会長には「首相が『私の天命は小沢民主党との選挙に勝利することだ。逃げない』というのなら、なぜ解散を逃げまくるのか」と皮肉を言われる始末。

麻生首相は9月22日~23日にこの原稿を書いたと述べたが、その狙いとウラ事情はどのようなものがあったのだろうか?

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【関連記事】
「冒頭解散」首相が一時決断 月刊誌に手記 民主「解散から逃げるな」 (産経新聞)

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二木啓孝氏(フリージャーナリスト)
「月刊文藝春秋の手記でわかった麻生首相の“心変わり”」(10/11)

 今朝の新聞各紙には、今日発売の月刊誌「文藝春秋11月号」に麻生首相が寄せた手記「強い日本を! 私の国家再建計画」のなかで、麻生首相が冒頭解散を考えていたという記事が出ている。

 これによると手記で麻生首相は「私は決断した。国会冒頭、堂々と私とわが自民党の政策を小沢代表にぶつけ、その賛否をただしたうえで国民に信を問おうと思う」と明言している。

 このことを昨日の夜、記者会見で質問された麻生首相は、国民の信を問うというのは解散の意味であることを認めつつも「いつ解散するとは一切書いていない」などというふうに言って逃げていた。

 実は月刊誌の締切と発売というのは、なかなか悩ましいものがあって、文藝春秋の締切、校了は、大体、毎月27日がデッドライン、それが翌月10日に発売されることになっている。昨日の記者会見では、麻生首相は9月22日か23日にこの手記を書いたと言っている。

 麻生首相は、この文藝春秋が発売された10月10日前後に解散を考えていたということになる。だから、タイミングよく解散と同時に、自分の意見が月刊誌に発表されるという思惑だったのだろう。 

 しかし、アメリカ発の世界同時株安、金融不安に加えて、自らの内閣支持率の低さにより、この作戦は大幅に変更を余儀なくされた。とても解散ができる状態ではないので、先延ばしのために、今、次々とカードを切っている状態だ。自民党のなかには、年明けに解散がズレ込むという意見も出ているが、そうすると、月刊文藝春に書いた決意は、まるでウソになってしまうではないか。

 原稿を書いてから、店頭に並ぶまで10日あまりある月刊誌のタイムラグを計算に入れなかった失敗により、麻生首相の“心変わり”がよくわかる。

2008年10月10日

世界が崩れる!NYダウ9000ドル割れ 日経も一時8115円に

金融危機が加速度的に増してきた。9日のNYダウが前日比678ドル91セント安の8579ドル19セントの約5年5ヶ月ぶりの安値で終えると、本日開いた東京株式市場では開始後約30分で900円以上下げ、一時8100円台に突入した。

本日からアメリカ・ワシントンでG7(先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議)で開かれるが、どのような対策で金融危機に歯止めをかけるのか。会議の行方が注目される。

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【関連記事】
■日経平均一時1万円割れ NYダウ4年ぶり1万円割れ(高野孟、三菱UFJ証券社員)
■金融安定化法案否決!金融危機はさらに混迷(若林秀樹)
■三菱・野村は米金融危機で“漁夫の利”を得るのか?(須田慎一郎、高野孟、財部誠一、田原総一朗)

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田原総一朗氏(ジャーナリスト)
「日本の国会は何をやっているのか!」(10/10)

日銀・財務省・金融局のメンバーは、世界の金融危機に新しい歯止めをどうつければよいかについて日夜対策を練っている。

今日からワシントンでG7が行われるが、日本からは中川昭一財務・金融大臣が出席する。この会議の行方によっては、日本が金融システム安定化のために一定の負担をしいられる可能性もある。

なぜなら、現在の世界で一番金融機関が健全なのは日本。アメリカもEUもサブプライムローンを担保にした証券をたくさん保有しており、それが負債となっている。日本は金融機関が腰抜けだから、リスクが高そうな商品は買わなかった。そのため、損害額は小さくすんだ。

損害が少かったことはよいことだが、おそらく、今回のG7会議でアメリカから協調介入の要請がある。「協調介入」といえば聞こえはいいが、これは日本に「金を出せ!」ということ。アメリカは、米・欧・英・日の4極による協調介入を目指し、できればここに中国やカナダも入れたいと考えている。

アメリカはこの協調介入を200兆円規模でやりたいと考えているだろう。もちろん、一挙に200兆は不可能なので、今年から来年の春にかけて100兆。つまり、これを4カ国で分担すると日本は10~20兆円の負担をする可能性がある。

ここで問題なのは、日本の国会である。世界が金融危機に陥っていて、莫大な資金を供出しないといけないにもかかわらず、国会ではこういった問題にまったくふれず、景気対策や年金問題など、世界の金融危機と関係のない議題ばかり論じている。コップの中の嵐ばかり。いったい何をやっているのか。

2008年10月 8日

日本人3氏がノーベル賞受賞 次の受賞は村上春樹氏か

スウェーデン王立科学アカデミーは7日、08年のノーベル物理学賞を小林誠氏(64)、益川敏英氏(68)、南部陽一郎氏(87)の3氏に贈ることを発表した。

小林氏と益川氏は「PC対称性の破れ」、南部氏は「自発的対象性の破れ」という、現代の素粒子理論の基本となった仕組みの解明に寄与した。

基礎科学の一つである理論物理学は、研究の成果が現実社会への応用が難しく、経済的な対価も低いことから学生の志願者が減少している。そのような状況下でノーベル物理学賞を日本人3氏が独占したことは、未来の生活に不安を持つ若手研究者にも朗報となった。

また、小林誠氏は8日午前の会見で、ノーベル賞が確実視されていた同じ素粒子物理学者の戸塚洋二氏が7月に死去したことに触れ、「戸塚先生と3年間ご一緒した。彼の仕事は非常に大きな成果で(死去は)大変残念に思っている。彼の築いたベースの上に立って、後輩たちがこれからいい仕事をしてくれると思う」(毎日新聞)と述べた。

なお、9日にはノーベル文学賞の発表される。有力候補者として『ノルウェイの森』の作者である村上春樹氏の名前があがっており、02年に続く2分野同時受賞の可能性もある。
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【関連記事】
■日本の科学者の中で、「いつノーベル賞を取ってもおかしくない」という人(はてな)
■益川さん「大してうれしくない」照れ(京都新聞)
■歴代15人、京ゆかり9人(京都新聞)
■弟子は見た!!ノーベル賞理論確立の瞬間(産経新聞)

2008年10月 7日

日経平均一時1万円割れ NYダウ4年ぶり1万円割れ

世界経済が正念場を迎えている。7日の東京市場は前日のNY株式市場の急落を受け、2003年12月11日以来、実に4年10ヶ月ぶりに一時1万円を割り込んだ。

また、NYび株価急落にあわせるように原油先物市場も下落。先週末比6.07ドル安の1バレル87.81ドルで取引を終了した。

3日にアメリカで金融安定化法が成立したにもかかわらず、それでも市場が評価しないのはなぜか。7日付日経新聞ではその理由について以下のように解説している。

▼米政府は損が膨らまないよう安い価格で売る金融機関から順に買い取る仕組みにした。裏返せば金融機関はある程度の損を覚悟で売る必要がある。健全な金融機関なら多少の損を覚悟で売れるが、米欧の金融機関の体力は衰えている。

▼それ(筆者注:米金融安定化法)を使う金融機関の経営者の報酬カットなどの条件も付いた。報酬をカットされてまでこの仕組みを使おうとするトップは少ない、との見方も根強い。

▼「今回の金融危機は金融機関への公的資金による資本注入まではいかないと収まらない」との声が多いようだ。

また、元大蔵省の財務官で“ミスター円”こと榊原英資氏は、7日付朝日新聞で、
「今起こっていることは戦後最大の金融危機だ。しかもまだ2合目ぐらい。各国中央銀行による大量のドル資金供給策で流動性を提供し、なんとか全面的な崩壊を免れている。これから日本を含め世界的な規模で金融収縮、つまり貸し渋りが起こる。実体経済に波及して、先進国の同時不況へと展開するだろう」と述べている。

混迷する世界の金融情勢はどこまで続くのか。事態を収拾する手段はまだ見つかっていない。
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【関連記事】
■金融安定化法案否決!金融危機はさらに混迷
■三菱、野村は米金融危機で“漁夫の利”を得るのか?

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高野孟氏(THE JOURNAL主幹)
「アメリカ民主主義の光と陰」(10/8)

最大75兆円(7000億ドル)の公的資金を投じてサブプライム関連を中心とする金融破綻を救済しようとするブッシュ政権乾坤一擲の金融安定化法案が、難産の末ようやく10月3日、下院で修正・再可決されたものの、その実効性にはますます疑問符が突きつけられていて、週明け6日のニューヨーク株式の1万ドル割れの大暴落は同法案への市場の拒絶を示すものである。

 下院が一旦同法案を否決したこと自体は、アメリカ民主主義の偉大さの現れである。下院議員は11月の大統領選と同時に全員改選を控えており(上院は3分の1のみ改選)、選挙民の「ウォール街の大金持ちをなぜ我々の税金で救わなければならないのか」という素朴且つまっとうな批判に応えざるを得なかった。

 選挙民の中心をなすのは、まさにサブプライム・ローンの破綻とその影響に苦しんでいる人々をはじめとして、1980年代以来の自由市場主義の専横の中で一向にその恩恵を被らなかったばかりか、むしろそれによって酷い目に遭ってきた圧倒的多数の人々である。

 サブプライム・ローンは、普通ではローンの対象とはならない(実体的には黒人やヒスパニックがほとんどを占める)低所得者にも住宅ローンを提供してマイホームの夢を実現させようという、一面では福祉的な意味合いさえ持つ金融商品ではあるけれども、実際には、「NINJAローン」(No Income, No Job & Assets=無収入・無職・無資産の人たちでも融資対象となるローン)を典型として、で住宅を買わせて高金利をむしり取るほとんど詐欺的な強奪手段でもあった。

 サブプライム・ローンは、敷居を低くして引っ張りやすくするために、当初2年間は無金利もしくは超低金利で、3年目からいきなり高金利が襲いかかる仕掛けになっていて、元本に金利と手数料を上乗せすると年収の半分以上を返済に回さなければならない人も出てくる。ところが、住宅価格が上昇を続けている間は、3年目に転売して差益を得たり、ローンを借り換えて再び2年間の金利猶予期間を獲得したり、あるいはホーム・エクイティ・ローン(住宅担保の消費ローン)を組んで車を買ったり旅行費や医療費に充てたりすることも可能で、サブプライムにおける福祉と強奪の矛盾は顕在化することがなかった。

 そのようにして、住宅そのものの需要増に加えて、住宅担保金融による消費の旺盛が米国の景気拡大を支えてきたのだが、その前提となった住宅価格の上昇がいつまでも続く訳がなく、やがて飽和から下落に向かったのは理の必然で、サブプライム債務者の15~20%はたちまち支払い不能に陥ってテント生活者に転落したり、クレジット・ローンを借りて住宅ローンの返済に充てるというローン地獄に陥ったりした。まだそこまでの苦境に至っていない人々も、一時の夢破れていつホームレスになるかもしれぬ不安に苛まれていて、そういう時に、破綻したリーマン・ブラザーズのトップの昨年の年収35億円、まだ破綻していないゴールドマン・サックスのトップが75億円という正気の沙汰でない話を聞いて、「何でそんな奴らを救うのだ」と怒るのは当然だし、自分の選挙大事の議員がその声に耳を傾けざるを得なかったのもまた当然だろう。

 しかし反面、米連邦議会と議員は最大の帝国アメリカの行く末とその世界的影響について責任を担っているのであって、選挙民の素朴な感情に落選怖さで即物的に反応してあわてて反対票を投じるというのでは余りにはしたない。責任ある代替案を形成するか、そうでなければ、金融市場の破綻を放置すれば巡り巡って皆さんの生活の一層の苦難をもたらすのだということを理性の言葉で語って困難を承知で選挙民を説得し抜くしかない。が、議員たちが採ったのはそのどちらでもなく、同法案に債務者・預金者・納税者の保護を感じさせるような微修正を施し、さらに金融安定化とは直接関係ない人気取り的な減税案を盛り込むといった迂回策でしかなかった。結果的に、同法案はさらに実効性を疑われるようなものとなった訳で、これはアメリカ民主主義の愚劣さの現れである。この1週間でアメリカ民主主義は偉大さと愚劣さの両極間を激しく揺れ動き、アメリカ民主主義がブッシュが自慢して言うほどの世界に対する輸出品ではないことを改めて知らしめたと言える。
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三菱UFJ証券社員から編集部に届いたメール
「今回の法案は完全な穴抜け」(10/8)

モルガン・スタンレーとの合併話ですが、今のところ確定した情報もありませんし、自分の会社は今までに何度も合併を繰り返してきたという経緯があるせいか、あまり大きな話題とはなっておりません。自分自身がどうなるのかということですが、当事者意識がないというのが実感です。モルガン・スタンレーと合併したとしても、その際に自分自身がプロであればよいわけで、そこに過度な心配をするくらいなら、会計の本でも読んで勉強したほうがずっと効果があるのではないかと思っております。

●投資銀行と金融危機

投資銀行という言葉に明確な定義はないですが、投資銀行を大きくわけると、

(1)今回のサブプライムを引き起こしたマーケット部門(市場を媒介とし、投資信託や証券化商品のような金融商品を組成する部門)

(2)M&A等を行う投資銀行部門

の2つが存在し、両者の性格、ビジネススタイルは別会社といってもいいほどに異なります。

今回の金融危機と金融危機を引き起こしたサブプライム問題の元凶ですが、マーケット部門が引き起こしたと考えられます。東西冷戦構造の崩壊で、ロケット等の軍事産業に従事をしていた理系の人間の多くが金融に入り、統計学などの数学を駆使し、証券化商品等を組成し、格付け機関を上手く利用し、「安全」だと言い切って販売した。それが莫大な収益を生み出した。このような背景で投資銀行のマーケット部門は拡大・成長したのだと思います。

そして、その商品を販売する側は仕組みが複雑すぎて、何をベースとして価格決定をしてるのかわからない。でも、配当の割合は他の金融商品よりも良く、かつ「安心」らしいし、売れるからいいか、そして売れたとはもう知らないという無責任の連鎖が今日の事態を引き起こした事の本質なのかなと思います。

そして、90年代からの世界的な金余りがこの問題に拍車をかけていて、日本では預金を運用できない金融機関(特に地方銀行)が投資銀行の組成する投資信託等にその預金を投資し、資金が非常に潤沢になった。そして、投資銀行以外にも証券化商品を組成したり、資本にモノを言わせて安い企業を買い漁るヘッジファンドが乱立し、一部の富裕投資家はヘッジファンドに大量の資金を投資していく。

今回の金融安定化法案が成立後にも、株価が下落した最大の原因はヘッジファンドは法案の適用除外になっているためで、そうした意味で今回の法案は完全な穴抜けがあります。結局、基本的な構造は1980年代の日本のバブルと同じなものなんだろうなという印象です。

●今後の行方

ですが、投資銀行ビジネスはなくなることはないと思います。投資銀行という言葉は消えても、先ほどのマーケット部門等がなくなっても、経済のグローバル化が進めば進むほど、国際間での産業再編は起こり続けるでしょうし、それに伴って国際間を跨ぐM&Aの数は増大していく可能性が高いと思います。その際に、そうしたM&Aビジネスに特化できるか否かが、日系金融機関が本当に国際舞台で戦うことができるのか否かを分ける分岐点となるのではないでしょうか。そして、その大前提として、世界で戦う実力をつける会社をこの国が今後も生み出していけるのかということも非常に重要であるとも思いますが。

その分岐点を一言で言うなら、ダイバーシティ=多様性を持てるかどうかという点が非常に大事になってくると思います。国籍やバックグランドが多様な人材に対して、同じことを強制しない、相手の差異をきちんと認めるということが非常に重要で、野村證券が文化も人材も異なるリーマン・ブラザーズと融合できるのか、リーマンの従業員に野村の文化を押し付けずに、リーマンの社員が野村にどこまで残り、両者が共存できるか否かが、ひとつの分岐点となると考えます。

自意識過剰かもしれませんが、顧客企業に対して投資銀行がサービスを提供することは、日本企業が世界というグローバルなマーケットで戦っていくためには、必要不可欠なことであると思いますし、資本市場というアメリカが作った日本には不利なゲームの下で、顧客企業のメリットを最大化していくことが国益(この言葉の定義は難しいですが)になるのではないかと思っています。

木村剛さんではないですが、金融業界が今後もガタガタになるくらいの方が面白いという位の気概を持って、しばらくはがんばろうと思います。

あと最近、考えるのは「資本主義」という社会システムは、バブルを生み出すことを目的とし、バブルがはじけた後のことをある程度、予想できるにも関わらず、そこに突っ込み大怪我をさせてしまう社会システムではないかということで、この社会制度に懐疑的な念を抱くことがたまにあります。ゆくゆくは、大学に戻り、この社会システムのあり方等について研究してみたいかなという淡い考えも抱いています。

2008年10月 3日

垂れ流し報道が横行 誤報の責任はどこに?

既定路線として進んでいた「10月21日公示、11月2日投開票」という次期衆院選の日程が、9日投開票以降にずれこむことが濃厚となった。新聞各紙は選挙日程についてこれまでこぞって一面で取り上げてきたが、これですべての報道は誤報であったことがほぼ確定した。

誤報の原因は明らかだ。政界でただ一人解散権を持っている麻生首相が、いまだに一言も解散の日程を明らかにしていないからだ。

解散の日程についてメディアがさかんに流し始めた段階からそれらの報道に疑問を呈していたジャーナリストの上杉隆氏は、ダイヤモンドオンラインのコラムで「麻生陣営を取材していれば、これら(解散延期)は、当然に行き着く結論」と語っている。

また、3日付の新聞各紙は、世界的な金融危機が原因で解散が先のばしされたと言い訳のように解説しているが、田中良紹氏は「真っ赤な嘘である。本当は今すぐ選挙をやると惨敗の可能性があるからだ」(10月2日「国会探検」)と断言する。

大手マスコミ記者はいったい何をしているのか。ちゃんと取材せんかい。
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【関連記事リンク】
解散日程を勝手に捏造したマスコミの困惑(上杉隆氏 ダイヤモンドオンライン)
田中良紹:政治家の資質
岸井成格:麻生政権「進むも地獄、退くも地獄」の日程調整

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有田芳生氏(新党日本副代表)
「誤報は検証せよ!」

当初、総選挙は10月26日と報道されていたが、いつの間にか11月2日になり、それがいまや9日か16日になると報道している。
誤報の背景には自民党の選挙対策委員長である古賀誠氏と公明党の間で日程がつまっていて、解散権を唯一持っている麻生首相の判断ではなく、むしろ自民党与党が解散権を握っているかのような事態が続いていることにある。だか、ここまで外れると競馬の予想ではないか。しかも当たらない。

ここで問題なのは、新聞がこれらの記事を匿名で報道していることだ。本来であればどこに責任の所在があるのか、なぜ間違ったのか、どういう情報源を信じて誤報になったのかを各メディアが検証すべきだが、検証なしに「次は年末じゃないか」「いや、来年だ」というとんでもない話をしている。

そういう自己検証ができないテレビ・新聞は、総裁選の報道も含め、自民党と公明党のマスコミ利用の機関になり下がっている。今こそいさぎよく検証報道をすべきなのに、そういった声は社内からも出てこないのだろうか。「朝日ジャーナル」の伊藤正孝編集長が古くから指摘していたように、これでは各紙の政治部記者主導で行われている「垂れ流し報道」と言われても仕方がない。

自民党にしても民主党にしても、各候補者は11月2日の日程に合わせて事務所や車を借りたり、人集めをしている。すでにキャンセルも出ているという話もあり、その意味では誤報による経済的な実害も出はじめている。私も今回東京11区から立候補するが、関係者にとって選挙の日程が延期されることは肉体的にも精神的にもつらい。いいかげんにしろと言いたい。

2008年10月 2日

渡辺元行革担当相が麻生内閣を「真性反動」と非難

「官僚とは、わたしとわたしの内閣にとって、敵ではありません」

麻生首相が所信表明演説で述べたこの発言が波紋を呼んでいる。安倍、福田内閣と続いてきた公務員制度改革について、麻生内閣はその流れを引き継がないと宣言したに等しいからだ。

公務員制度改革は国民的関心も高く、次の総選挙では消えた年金問題や後期高齢者医療制度と並ぶ争点と考えられていた。麻生首相は景気対策の緊急性を訴えるが、福田内閣の数少ない成果である公務員制度改革を逆戻りさせてよいのか。野党のみならず与党内からも疑問の声が上がりはじめている。
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【関連記事リンク】
■第170回国会における麻生内閣総理大臣所信表明演説
■霞が関が高笑い「小泉改革」は元の木阿弥(FACTA)

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田原総一朗氏(ジャーナリスト)
「渡辺元行革担当相がカンカンに怒っている」

これは小泉内閣から始まった構造改革をやらないということ。先日、渡辺喜美元行革担当大臣と会いました。渡辺さんは福田内閣で公務員改革をやった人で、国会でようやく公務員改革をやることになった。

だが、麻生さんが所信表明で「官僚は敵ではない」と言ったことは、国会ですでに決まっている公務員改革を「やりません」と宣言したことに等しい。

これを聞いた渡辺さんはカンカンに怒っていた。(麻生内閣を)「真性反動」とまで言っていた。

麻生内閣は小泉さんの構造改革路線を止め、景気対策をやることにした。かといってその対策もうまく出せていない。ここが麻生内閣の問題点だ。

2008年10月 1日

金融安定化法案否決!金融危機はさらに混迷

【速報】10/2 10:30
■米上院、金融安定化法案修正案を可決(日経新聞)

米上院は1日夜(日本時間2日午前)の本会議で、金融安定化法案の修正案を可決した。下院では3日に採決予定だが、下院法案が可決できるかどうかはいまだ不透明。
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成立が間近だと思われていたアメリカの金融安定化法案が29日に否決されたことを受け、NY株式市場は777ドル安となり史上最大の下げ幅を記録した。日経平均も一時期580円下落し、2005年6月以来の水準に落ち込んだ。

法案には与党である共和党を中心に造反が相次ぎ、賛成205、反対228で否決された。(民主党は賛成140、反対95。共和党は賛成65、反対133)

法案否決の背景には、11月の大統領選挙と同時に実施される下院選挙が議員の心理に影響を与えた。いわば、今回の世界同時株安はアメリカの国内政治の都合に世界が振り回された格好となった。

米連邦準備制度理事会(FRB)は同日、日欧などの各国・地域の中央銀行はドル資金の大幅拡充することを発表。資金の供給枠を2900億ドルから6120億ドルに倍増させ、期間も3ヶ月延長して09年4月末までとするし、日本銀行も600億ドルから1200億ドルに拡大することを明らかにしたが、金融不安の解消には至らなかった。

今回の法案否決を受け、国際社会がアメリカ議会に向ける目がいっそう厳しくなることは間違いない。
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若林秀樹氏(戦略国際問題研究所 客員研究員)
「時間はない。議員は大局的な判断を」 10/1

もともと党議拘束が無く、大統領制では政権党という意識も薄いアメリカではあるが、ブッシュ政権と両党幹部が合意した「金融安定化法案」が共和党議員の予想以上の造反であっけなく下院で否決され、世界経済を震撼させている。

その理由は何といっても、共和党が伝統的に政府の介入を嫌う政党であり、大統領選挙と同時に行われる自分たちの下院議員選挙を意識しての投票行動であった。任期少ないレイムダックのブッシュ大統領の意向に沿うより、自分が選挙で勝つための判断がより重要なのであろうか。

もちろん議員もこの緊急事態における法案の必要性を感じていたであろう。しかし有権者からみれば、何でマネーゲームをもてあそんだ高給取りのウォールストリート街の連中を血税で救う必要があるのかという感情的で批判的な意見が多いのも事実だ。議員もとりあえず法案は通るであろうと思いつつ、有権者の声を踏まえて批判票を投じてみたら、結局他の議員も同じような投票行動で否決されてしまったというのが実態ではなかろうか。

有権者の声は大事だが、本当に国民のことを考えたら金融安定化法案の成立が第一であり、そのことを有権者に説得すべきである。ましてや今回の金融危機はアメリカが巻いた種であり、その影響はアメリカ国内だけではなく、全世界に及ぶものである。時間はない。早急にこの重要な法案を再調整して成立させるべきである。

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2009年11月、日刊工業新聞社

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